剣魂    作:トライアル

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予め言っておきますが、投稿者はワンピース未視聴です。


第百十七訓 見舞いには果物以外に現金を用意しておけ!

 数日前から続く万事屋の風邪騒動。銀時、キリト、アスナ、ユイの四人が患い、数日かけて徐々に回復していった。ユイを除いて。

「三十八度か。今日も無理そうですね」

「はい……ゆっくりお休みします」

 体温計で熱を測ると、まだまだユイの熱は下がっていなかった。ユイは寝間着姿のまま、寝室で布団を被り、苦しそうに寝込んでいる。

 本日の万事屋は、皆ユイの看病に勤しんでいた。中々熱の下がらないユイの様子を見守りながら、神楽達は彼女の体調を心配している。

「銀ちゃんもキリもアッスーも治ったのに、ユイだけ続いているネ」

「このまま長引きそうなら、お医者さんに行った方が良いかもしれないわね」

「早く元気になってほしいんだけどな……」

 アスナやキリトもユイの体調が良くなることを切に願っていた。共に深刻さを感じ、すぐにでも医者を頼りたいと思い始めている。

 一方で銀時は、ユイに自身の好物であるいちご牛乳を飲ませようとしていた。

「おい。いちご牛乳でも飲むか? 少しは気が楽になるぞ」

「では、お願いします……」

 銀時の気遣いに感謝しつつ、ユイはコップに注がれた冷たいいちご牛乳を口にする。

「どうだ?」

「気分は楽になりました。ですが、もっとドロッとしたものを飲みたいです……」

「ドロッと?」

 味の感想と同時に彼女は、まったく別の飲み物を求めていた。彼女の言うドロッとしたものを聞き、皆手探りでその正体を当てようと考えている。

「ドロッとした飲み物だと、スムージーとか?」

「それアル! ユイはスムージーを欲しているのに違いないネ!」

 アスナは直感からスムージーと推測。彼女を元気づける為にも、栄養価の高いスムージーが必須と思い始めていた。

 アスナの考えに新八らも共感していく。

「でも、スムージーを作る機械ってうちにありましたっけ?」

「ミキサー系は確か無かったよな」

 だがしかし、肝心の道具が万事屋には無かった。それを聞いたキリトは、先走って銀時にとある提案を交わす。

「銀さん。地下都市アキバまで行って、新品のものを買ってくるか」

「おいおい、張り切り過ぎだろ。大体こういうのはありあわせの道具で十分なんだよ。アスナだったら出来るんじゃないのか」

「もう勝手なこと言わないでよ。スムージーって、専門の機械じゃないと作るの難しいんだからね」

 ユイの為に機械の調達を思いつくも、めんどくさがり屋の銀時は真っ向から否定。そのまま彼はアスナへ丸投げしたが、彼女の技術力をもってしても、やはり難しい様子だった。

 スムージーをきっかけに、皆が好き勝手に提案をする一方で、定春は心配した表情でユイの様子を伺っている。

「ワフ?」

「定春……。私は大丈夫ですから」

 一段と元気のない彼女を見て、より一層ユイの体調を気遣っていた。彼もユイの元気が早く戻るようにと、心の底から祈っている。

 と今後の看病について、早くも難航しかけていた時であった。

「銀時様。キリト様」

「た、たまさん?」

 彼らの会話にたまが割って入ってくる。突然の来客により、皆驚きの表情を浮かべていた。

 一方でたまは神妙な表情で、銀時らへ話しかけていく。

「申し訳ありません。少しお話を聞いてしまいました。もしスムージーを作るご予定であれば、私に協力をさせてもらいませんか」

「えっ? たまさんが作るのか?」

「そうです。私の体内に調理する装置が備わっておりますので、材料さえ用意できればすぐ作れますよ」

 たまは銀時らの話を聞いた上で、スムージー作りの協力を持ちかけている。自身の調理機能を活かして、とびっきり美味しいスムージーをユイに飲ませたいと考えていていた。

 それを聞いたキリトやアスナは、たまに備わっていた調理機能に驚きを示している。

「たまさんにそんな秘密があったなんて」

「と言っても口から出てくるからな。人によってはグロテスクそのものだぞ」

「そ、そうなんだ……」

 事情を知っている銀時側からすれば、調理する光景がかなり常軌を逸している為、何とも言えない気持ちを感じていた。嗚咽するように口から吐く為、もしかするとユイには悪い意味で刺激が強すぎるのかもしれない。新八や神楽も頷いており、キリトやアスナもそのただならぬ事情を察していく。(因みにSAOキャラで、たまの調理方法を間近で見たのは、リズベットとエギルの二人のみだ)

 と文句を呟いたものの、たまの協力は万事屋にとって心強かった。後は食材を選んで、どんなスムージーを作るか方向性を決めるのみである。

「じゃ、後はスムージーに入れる食材のみですね」

「任せるアル! 酢昆布を大量に入れれば、ユイも元気になるネ!」

「いやいや、小豆といちご牛乳で決まりだろ。究極の甘味で熱をフッ飛ばせばいいんだよ」

「って、何を好き勝手言っているんですか!! そんなもの入れたスムージー飲んだら、余計体調が悪化するわ!」

 神楽や銀時は自身の好物を適当に入れる算段を思いついている。当然真面目さを感じ取れない為、新八は二人へ強めにツッコミを入れていた。

「ちょっと、銀さんに神楽ちゃん! もうちょっと真面目に考えてよね!」

「そうだぞ。今のユイの体調的に、何がぴったりなのか考えなきゃなきゃだし」

 アスナやキリトから見ても反応はすこぶる悪く、あまりの体たらくぶりに苦言を呈している。

 万事屋内でもスムージーの食材について意見が対立する中で、たまはふとあることに気付いていた。

「あっ。その点についても問題なさそうですよ。どうやらユイ様を心配して、見舞いの品を持ってきた友人が来ているみたいですので」

「友人?」

 彼女は玄関先にいるユイの友達の気配を感じ取っている。玄関先の戸が開くと、勢いよく二人の子供達が寝室に駆け込んできた。

「ユイちゃん、大丈夫!?」

「見舞いに来たよー!」

 その正体は、ユイとも付き合いの深い晴太といずみである。

「おっ。晴太にいずみアル!」

「揃って見舞いに来てくれたの?」

「うん。ユイちゃんの風邪が続いているって聞いていたから。様子を見に来たんだ」

 どうやら二人も、ユイの風邪が長引いていることを心配し、元気づけようと万事屋へ来たらしい。

 するといずみは、ユイに現在の状況を確認している。

「ねぇ、ユイちゃん。今は気分悪くないの?」

「お、お二方……私は少し辛いです」

「そうだよね。でも、安心して! ユイちゃんの為に、お見舞いの果物たくさん用意したんだから!」

「果物?」

 顔色の悪いユイを心配しつつも、いずみは手に持っていたかごから、大量の果物を取り出していた。

「ほら!」

「こ、こんなに!?」

「うん。母ちゃんが折角だから多めに持ってけって言われてね。これくらいあれば、一週間は大丈夫でしょ!」

 そう。晴太といずみは、日輪の協力を得て、お見舞い用の果物を多数用意したようである。果物自体も種類に被りは無く、オレンジにバナナにブドウ。メロンにリンゴなど、多様に取り揃えていた。

「ありがとうな。晴太にいずみちゃん。これだけあれば、ユイも元気になること間違いないよ」

「そうですね。スムージーの材料にもぴったりだと思われます」

 二人のさり気ない優しさには、キリトやたまらも素直に感謝している。これだけの果物があれば、そのまま食べても、スムージーの材料にしても余裕がありそうだ。ユイも晴太達に掠れた声で「ありがとうございます」と感謝を伝えている。

 と果物の種類を確認する傍らで、新八はある奇妙な果物を発見していた。

「アレ……なにこの果物」

 それは摩訶不思議な模様のついた紫色の丸い果物である。奇抜な見た目に反して、どこか見たことあるような違和感に、新八はうっすらと嫌な予感を察していた。そして、恐る恐る晴太にこの果物の正体について聞いていく。

「あの晴太君。この果物は?」

「あぁ。これ。なんか別の星で採れた果物みたいなんだよね。確か名前は、デビルフルーツだったはず!」

「って、ちょっと待てぇぇぇ!! 完全にアレじゃないか! 某漫画に出てくる危険な果物じゃないですか!!」

 にこやかに返答した晴太とは対照的に、新八は慌ててツッコミを入れていた。

その通り。この果物は某海賊が登場する漫画に出てきた悪魔の実なるアイテムと、まったくもって酷似していたのである。普段の状況ならともかく、病人がいるこの現状では、明らかにこの果物だけが浮きまくっていた。肝心の晴太は特に気にしていないが……。

 一方で銀時は、悪魔の実と聞くと途端にテンションが上がっている。

「マジでか! ……おい、新八。これ食っても良いか?」

「ダメに決まってるだろ! 食ったらどうなるか、アンタが一番分かっているでしょうが!」

 隙あらば頂こうとしたが、新八は即座に否定していた。メタ的な意味を含めて、何も触れないことが最善だと思っている。

 銀時と新八が言い争う一方、悪魔の実と聞いてもあまりピンとこないキリトとアスナは、名前だけでただならぬ危険性を感じ取っていた。

「デビルフルーツって、いかにも危険な名前だな」

「ドリアンみたいに、匂いがきついとかならどうにかなるけど……」

「いやいや、二人共。そんなんじゃないアル。ある意味であれは危険な果実アルよ」

 神楽も薄っすらと本家側の事情を知っているので、キリトやアスナの予想が的外れだと事を吐き捨てている。どちらにしても、デビルフルーツだけはユイに近づけさせないと考えを一致させていた。

「なんだか、銀さん達の方が騒がしいですね」

「なんかデビルフルーツってもので揉めているみたい」

「デビルフルーツ?」

 ユイも騒ぎを聞きつけたものの、まったくもって話が耳に入ってこなかったので、初めて聞く単語に戸惑っている。どんな話をしているか、銀時らに話しかけようとした……その時であった。

「晴太君!!」

「うわぁ!?」

 突如万事屋に、また勢いよく知り合いが駆けつける。思わず晴太とぶつかった彼女の正体はというと、

「えっ、スグ!?」

「リッフー!」

リーファであった。彼女もユイを心配して、万事屋を訪れたのだが……急いで駆け込んだせいで晴太と衝突し、彼をそのまま押し倒してしまった。しかも意図せず抱き合うようにぶつかったので、それを見たいずみは顔を真っ赤にして、彼女へ勢いよく文句をぶつけている。

「って、リーファさん! また晴太君と過度なスキンシップをするんですか!!」

「いやいや、違うから! 本当に全然気づかないまま、ぶつかったんだって!」

 リーファが必死に弁解するも、いずみの怒りは中々収まらなかった。板挟みにされている晴太も、「まぁまぁ」と二人を落ち着かせている。

「何をやってんだ。アイツは」

「板挟みにされている晴太が可哀そうに見えてきたネ」

 その光景を見て、銀時や神楽は思うままに呟いていた。ドジを踏んだリーファが全ての要因ではあるが、いつの間にかあらゆる女子に囲まれている晴太の苦労さを感じ取っている。新八、キリト、アスナの三人も共感するように頷いていた。

 するとたまは、場が落ち着きそうな時にリーファへと話しかけている。

「それはそうと、リーファ様。なぜそんなに急いでいたのですか」

「えっと、あっ。そうだ! 晴太君達が持って行った果物を、回収しに来たんだった!」

「回収?」

「一つだけ余計なものが混ざっていたらしくて」

 彼女が万事屋を訪れた訳は、晴太達の持って行った果物を回収する為だった。無論それは先ほど話題に上がっていたデビルフルーツである。

「これのこと。別の人に渡す予定だったらしくてね。他の果物はユイちゃんのものだから、気にしないでね!」

「そうだったのか」

「良かった~。ユイちゃんのじゃ、無かったんですね」

 無関係だと分かり、安堵の表情を浮かべるキリトや新八。特に後者はメタ的な視点から見てもかなり心配していたので、その不安材料が無くなっただけでも十分であった。

 一方で銀時は、デビルフルーツを頂けないことに不満を感じている。

「マジかよ。俺のゴムゴム人間化計画は終わっちゃったのかよ!?」

「そんな計画、最初からねぇよ」

「思いあがるなよ、天パ」

 一人で勝手にがっかりする銀時に、新八と神楽は辛辣なツッコミを返していた。彼の夢は一瞬のうちに、儚く散ったのである……。

 そんな中で、リーファはキリト、アスナ、たま達に現在の状況について聞いていた。

「ところで、ユイちゃんの体調って今どうなの?」

「まだ中々熱が下がらないんだよな」

「スムージーを作って、飲ませようと思っているんだけど」

「まだ本格的には進んでおりませんね」

 ユイの体調がまだ回復傾向に無いこと。スムージー作りが難航していることを彼女は把握していた。できれば自分にも、ユイの為に出来ることが無いか考え始めている。

「じゃ……」

 と言いかけたその時であった。

「ん?」

「どうしたの、リーファちゃん」

「待って……そこ!」

 リーファは微かに感じた人の気配を感じ取り、後ろの壁を思いっきり叩くと……

「ぶはぁ!?」

「えっ!?」

「さ、さっちゃんさん!?」

そこからあやめが倒れこむように姿を見せてきた。

 もはや部屋に飛ぶ虫の如く、あやめのストーカー行為は当たり前になっており、キリト、アスナ、ユイの三人も呆れてため息を吐くレベルまで下がっている。なおリーファでさえも、キリトらと同じ気持ちであった。

「またあやめさんなの? 今日はストーカーしている時間なんて無いから、とっとと帰ってもらえる?」

 苦く嫌そうな表情で、あやめを万事屋内から追い出そうとしている。無論彼女のみならず、場にいた全員があやめに構っている暇など無いのだが……。

 しかし、あやめにはある別件の用事があったのだ。

「ちょっと待って、リーファちゃん! 私だって空気くらい読んでいるわよ。今日は別件でここに来たんだから」

「別件?」

彼女にしては珍しい真面目な雰囲気を感じ取ると、あやめは懐から小さい巾着を取り出していた。そのままあやめは、その中身を一行に披露している。

「忍びの世界には、古来より己の体調を整える万能薬を常に持ち歩いているのよ。その応用で作り出したのが、この塩よ」

「塩って、これが忍者の万能薬なの?」

「その通り。特殊な方法で作られた塩で、私は窮地を何度も逃れてきたのよ。ユイちゃんの熱にもきっと効くと思うわよ」

 なんとあやめは、携帯している特殊な塩をお見舞いの品として万事屋に手渡してきたのだ。彼女も晴太達と同じくユイの体調を心配しており、自分に出来ることを伝えに来たのかもしれない。

 いずれにしても、あやめの粋な計らいはむしろ皆にとっては想定外であった。余りにも綺麗すぎるので、神楽や銀時は何か裏があるのではないかと、用心深く警戒している。

「さっちゃんにしては、なんかまともすぎるアル」

「そうだよな。なんか裏とかあるんじゃ」

「いつもの私ならね。でも、今回は緊急事態だから特別よ。ユイちゃんの体調の方が大切だものね」

 それでもやましいことは一切無いと、冷静に返答していた。あやめの堂々とした立ち振る舞いから、今回はただ真面目にお見舞いへ来たと皆心の中で察していく。

「本当にただお見舞いに来ただけってことかな」

「多分そうじゃないかしら。少し信じられないけど」

「あやめさんにも、あんな律義な一面があったのか……」

 普段からストーカーだの銀時への襲撃だのを間近で見ているアスナやキリトにとっては、あやめの律義さはむしろ新鮮味を感じている。それくらい普段の行いが宜しくないと思っているのだ。

「あやめさんの塩ですか」

「って言っても、おいらからしてみれば初耳だけど」

「あのくのいちさん。ちゃんとしているところ、初めて見たかも」

 ユイや晴太、いずみらも概ねキリト達と同じ気持ちである。

 皆があやめの差し入れてくれた塩に興味を向ける中で、銀時はその塩の出所について少しばかり気になっていた。

「つーか、この塩ってどうやって作ったんだ。まさかタコとかカエルとか、黒魔女もびっくりのダシとか使っていねぇよな」

「そんなわけないでしょ。これは私独自のブレンドだから、そう易々と教えられないわよ」

 てっきり癖のある生き物を使って作り出したと予見したが……たまは一足先にその塩を舐めて、早くもその成分を検出している。

「検出出来ました」

「えっ? たまさん?」

「こちらの塩。銀時様の汗と九九%一致しております」

 ……その衝撃的な一言に、一瞬場は静まり返ってしまう。たまの言う通り、この塩はあやめが密かに手に入れた銀時の汗から作られていたのだ。要するに銀時の体液が、あやめ特製の塩として練りこまれているのである。

 この事実を聞き、あやめを除くほぼ全員が絶句して気を引かせていた。

「はぁ?」

「えっ……」

「お、お前……まさか」

 銀時自身も、予想の斜め上を行く展開には思わず恐怖を感じてしまう。そもそも自分の知らない間に汗を持っていかれて、勝手に塩として作られていた事実自体、恐怖以外の何物でも無いのだが。

「えっと、お邪魔しました!!」

 一方であやめも分が悪くなった為か、こっそりと万事屋を抜け出そうと即座に走り出したが……

「「あやめさん」」

「へ?」

彼女の両肩をキリトとアスナが揃って取り押さえていた。あまりの力の入りように、恐る恐る後ろを振り向くと……そこには怖い表情で睨みつける二人の姿が目に見えている。

「ちょっとこっちに来てもらえるかしら……?」

「お話があるんだが……」

「ふ、二人共。どうしたの、急に怖い顔をして。どこに連れて行こうとしているの!?」

 二人は表情を崩さないまま、あやめを玄関先まで連行。しっかりと戸を閉めた後に……

「「はぁぁぁぁぁ!!」」

「ぶふぉぉぉ!」

あやめへ制裁の一撃をぶつけている。外で何が起きているかは不明だが、恐らく想像以上の仕打ちを受けているのかもしれない。結局はあやめの自業自得で、この騒動は幕引きとなっていた。

「そりゃ怒るだろ」

「何やっているの、あやめさん……」

 銀時、リーファ共々、場にいた全員があやめの所業に呆れかえっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思わぬハプニングも起きたが、見舞いに来てくれた友人達の協力により、いよいよスムージー作りが本格的に始まろうとしていた。

 万事屋内には銀時、キリト、新八、アスナ、神楽、たま、晴太、いずみ、リーファ、定春の九人と一匹がおり、皆ユイを看病する為に集結している。(なお、あやめは先ほどの一件により、強制退出となっていた)

「気を取り直して、これで材料は一通りそろったわね」

「果物がこんなにあるなら、ミックスジュースっぽいスムージーで良いんじゃないのか」

 アスナや銀時が集められた果物を眺めながら、どんなスムージーを作れるか早くも構成を練り始めていく。

 一方で晴太といずみは、ユイに詳しくどんなスムージーを飲みたいか聞いていた。

「ところでユイちゃんは、どんなスムージーを飲みたいの?」

「何か写真とかある?」

「私は……これを飲んでみたいです」

 と彼女は二人に、近くに置いてあった雑誌の写真を見せている。それはレモンを主軸にした酸味のあるスムージーであった。

「アクビティスムージー?」

「レモンが必要みたいだけど、私達持ってきてないよね?」

 ユイは酸っぱいスムージーを希望していたが、残念ながら晴太といずみの持ってきた果物に酸味の強いものは無い。

 それを聞いたキリトらは、早速レモンを調達しようと動き出している。

「じゃ俺、すぐレモンを買ってくるよ」

「待ってキリト君! 私も行くわ!」

「おいおい、待てよ。お前ら先走り過ぎだろ。酸っぱいものなら、ウチの冷蔵庫にあるんじゃないのか?」

 焦るアスナらを銀時が落ち着かせていた。ユイの体調が不安なのは分かるが、少し前のめりに動いていることが彼にとっては気がかりである。銀時のみならず、新八やたまらも落ち着くようにと諭していく。

「そうですよ。急に行っても、ユイちゃんが心配するかもだし」

「同じく。それにレモンくらいなら、お登勢様の冷蔵庫にあるかもしれません。探してきますか?」

 とたまが二人に提案した時である。

「その必要はないぜ、お前達!」

「えっ、長谷川さん?」

「マダオアルか」

 またしても万事屋に来客が訪れていた。今度は長谷川泰三ことマダオが駆けつけている。

「長谷川さん、何の用だよ」

「いや、風の噂でユイちゃんの具合が悪いって聞いてな。見舞いの品を持って来たんだが、まさかタイミング良く欲しているものだったとはな」

 彼も同じくユイの体調不良を心配し、晴太達と同じく見舞いの品を持って来たらしい。しかも今万事屋が欲しているものと聞き、一行の脳内にはレモンやグレープフルーツといった酸っぱい果物を思い浮かばせている。

「ってことは、レモンを持ってきたってこと?」

「ナイスタイミングだって! 長谷川さん!」

 長谷川の粋な計らいに感謝するリーファと晴太。これでようやく、ユイが欲している酸っぱいスムージーが作れる……と思っていた矢先、

「ハハハ、照れるな。ほら、しっかり使えよ。梅肉エキス!」

「いや、果物ですら無いじゃねぇか!!」

想定外の品を長谷川は一行に見せていた。彼が持ってきたのは、果物ではなく所謂調味料として使われている代物である。要するにスムージーには一番不向きのものを、長谷川は意図せずに持ってきていたのだ。

 余りにも想定外な展開に、新八も強めにツッコミを入れてしまう。彼のみならず、銀時らも好き放題長谷川にツッコミを入れている。

「おい、テメェ! ユイになんてもんプレゼントしてんだよ! それ世界一酸っぱい食い物だろ!」

「いや~、ユイちゃんは大人びているから、こういう調味料も大丈夫かと思ってな」

「いや、無理だからね! 流石に拒絶するから!」

「スムージーに一番不必要なものだと思うぞ!」

 銀時に続いてキリト、アスナもツッコミに加わり、長谷川の所業を止めようと必死になっていた。流石のユイでも世界一酸っぱいものは受け付けないと一行は考えている。

「これだからマダオは」

「少しでも期待したかったのに……」

 神楽やリーファも、長谷川に呆れて何とも言えない気持ちを感じていた。

「梅肉エキス……飲みたくないです」

「やっぱり拒絶してる」

 肝心のユイもかすれ声で拒否している。ユイの悲痛な一言には、晴太やいずみも共感していた。

 結局は長谷川の差し入れは没となっている。

「じゃ、俺はお役御免か」

「当たり前だろ! テメェのちんけな贈り物で、ユイの体調が治るかってんだよ!」

 一行の猛反対により、梅肉エキスは長谷川が持ち帰ることとなった。無理やり納得しつつも、長谷川は不満げな表情を浮かべている。

 長谷川の乱入により話題は逸れてしまったが、ユイの望む酸っぱいスムージーを作るには、やはり酸味のある果物が必要不可欠だと皆思い始めていた。

「じゃ、やっぱりレモンを買ってきた方が良いんじゃないか」

「そうね。その間に、私がレモンと相性の良い果物を選んでおくわ」

 結局最初に言った通り、キリトが買いに行くことになり、そのまま話が進み始めようとした……そんな時である。またしても、万事屋に来客が訪れていた。

「その必要は無いわよ」

「へ?」

 声の聞こえた玄関先へ皆が振り向くと、そこには一人の女性が佇んでいる。

「レモンなら私が持ってきましたから」

「えっ?」

「アナタは……!?」

 その女性を見て、キリトとアスナの両者は大きく驚嘆した表情を浮かべていた。

 そう。彼女は以前にキリトが知り合いの案件で、お世話になった病院の看護師である安岐ナツキと瓜二つの容姿をしている。大人びた顔立ちと眼鏡が特徴的で、服装も当時と同じ看護師の格好をしていた。

 当然この銀魂の世界にはいるはずのいないナツキだが……何故かこの万事屋へ来訪している事実に、キリトとアスナの衝撃は未だ収まらずにいる。

「どうした、お前ら。まさか知り合いか?」

「あぁ、そうなんだが……俺達が元の世界でお世話になった看護師さんなんだが」

「なんでこの世界に来ているの!?」

 思わずナツキ本人に理由を聞くと、彼女は優しく返答していた。

「この世界? 私はあなた方とはお会いしていませんよ」

「えっ?」

「会っているのは、アナタですよ」

「はぁ? 俺?」

 とナツキが指を指したのは、銀時の方である。当然銀時も彼女の事は知るはずが無いので、何を言っているのかさっぱり分かっていなかった。ナツキはそれでも銀時の知り合いと強く主張を続けていく。

「覚えていませんか。私ですよ、私」

「だから誰?」

「私ですってば」

「だから誰だよ」

 自身の指を顔に指して、意地でも思い出させようとする。それでも察しない銀時に……ナツキはとうとう隠された真の姿を披露していた。

「あっしだよ~!!」

「ぎゃぁぁぁあ!!」

 ナツキの顔が急にびりびりと破け、そこからまったく別の顔が露わとなる。鬼のような形相をした黒髪ショートヘアーで、頭には日本の角が生えていた。同時に背丈も小柄となり、黒い着物を着用している。目は赤く光がまったく入っていない。背中には物騒にも大きな金棒を携えていた。

 そう。彼女の真の正体は……

「久しぶりでござんす、皆さん」

「げ、外道丸さん!?」

万事屋の知り合いの外道丸である。以前に万事屋が巻き込まれた陰陽師の一件で知り合った結野アナこと結野クリステルの式神で、その名の通りだまし討ちさえ平気で行う狡猾な性格の持ち主だ。

 銀時、新八、神楽、定春は彼女とは旧知の仲なのだが……キリトやアスナらにとっては、外道丸と会うのは今回が初めてである。

「外道丸?」

「この人も万事屋の知り合いなの?」

「知り合いというか、結野アナの式神アルよ」

「し、式神!?」

 彼女の素性を知ると、またしてもキリトとアスナは大きく驚いてしまう。何よりも結野アナの式神と知り合いなのが、一番の衝撃的事実であった。

「ちょっと待って! 結野アナの式神が、なんで銀さん達と知り合いなの!?」

「まぁ、それは諸々の事情があるというか」

「話せば長くなるから、後でまとまった時間に話すアルよ」

 新八や神楽も一言では語れない一件と称している。二人の頭の中では、まだまだ知りたい謎が浮かんでいたままであった。

 因みに長谷川や晴太も外道丸とは初めて対面している。

「そ、そうだったのか!?」

「てか、長谷川さんも初耳だったの!?」

 彼もキリトやアスナと同じような驚き方をしていた。リーファからもツッコミを入れられている。

「結野アナの式神……」

「銀さん達の知り合いにそんな人もいたんだ……」

 ユイや晴太、いずみも思ったことをそのまま呟いていた。

 外道丸の登場によって、話題は彼女一色に染まりつつある。

「つーか、なんでお前が急に出てきてんだよ!? さっきの変装はなんだったんだよ」

 ひとまず銀時はツッコミがてら、彼女に変装の件も含めて、万事屋へ来た理由を聞く。すると外道丸は、淡々とした口調で返答した。

「アレはあっしと声の似ている別人の真似をしたかっただけでござんす。どうでしたか、お二方?」

「えっ、俺達の事も知っているのか?」

「直接会ったことはないですが、万事屋に新メンバーが入ったことは知っておりやす。時たまに見かけましたからね」

「いつの間に……」

 彼女曰く、変装はただの小ネタとして行ったことと、既にキリトやアスナについては知っていることを明かしていた。直接的な絡みは無いが、風の噂で聞き、彼らに気付かれないまま六人と一匹になった新体制の万事屋を確認したのかもしれない。

 その上で外道丸も、ユイの体調を心配して万事屋を訪れていたのだ。

「折角挨拶をと思いましたが、大事な娘があの状態じゃ、こちらの気が晴れやせんからね。そこで酸っぱいスムージーにぴったりのレモンを差し入れに来たでござんす」

 彼女もユイの体調が回復することを祈って、今のユイにぴったりのレモンを銀時へと手渡している。無表情を貫いているものの、ユイを心配する気持ちは銀時らと同じく強いものであった。

「お前……」

「これなら元気になるでござんす。さぁ、これで調理を」

「わ、分かったアル。たま、頼めるアルか?」

「了解しました」

 外道丸の確かな気持ちとレモンを受け取って、一行はいよいよスムージー作りに挑む。レモンと相性の良い果物を選びつつ、後はたまが体内で自動的に調理していた。

「お、ぇぇぇ!」

 たまの嗚咽音と共に、コップに黄色いスムージーが注がれていく。銀時の言っていたグロテスクな調理方法を、キリト、アスナ、リーファは身を持って知っていた。

「確かに独特な調理方法だな……」

「見ない方が良いかも」

「だから言っただろうが」

 スムージーを代わりに作ってくれるのは有難いが、人によってはただ嘔吐物を吐いているようにしか見えない。

 クセの強い調理方法であるが、いよいよ酸っぱいレモンのスムージーが完成していた。

「ど、どうぞ」

「ありがとう、たまさん!」

 たまの作ったスムージーを晴太が受け取り、いずみと一緒にユイへと飲ませていく。

「さぁ、スムージーだよ!」

「ゆっくり飲んで、ユイちゃん!」

「は、はい……」

 二人の手助けを受けつつ、ユイはゆっくりとスムージーを飲んでいった。すると、数分もしないうちに、

「アレ……体が楽になりました」

「本当!?」

「はい。さっきと比べたら全然違います!」

ユイの体調はみるみると元に戻っている。顔色も良くなり、熱も少しずつ下がっていたのだ。

 元気を取り戻しつつあるユイの姿を見て、場にいた全員が一安心していた。

「よ、良かった~」

「これなら大丈夫そうだね」

「一件落着って感じだな」

 いずみ、リーファ、長谷川と皆安堵の表情を浮かべて、思ったことを発している。定春も三人につられて、喜びの雄たけびを上げていた。

「ワン!」

「定春。私はもう大丈夫ですよ!」

 定春の笑顔が見られて、ユイも一安心している。

 これも全て、外道丸の持ってきてくれたレモンのおかげでもあった。

「ふぅ~、成功したでござんすか」

「ありがとうネ、外道丸!」

「アナタの持ってきたレモンのおかげね」

「いえいえ。あっしはただお節介を焼きに来ただけでござんすよ」

 神楽やアスナも外道丸へ感謝を伝えている。当の本人は表情を変えないまま、当たり前のように淡々と返答していた。それでも彼女にとっては、みんなの役に立てて少しばかり嬉しさを感じ取っている。

「外道丸って名前だけど、全然外道には感じない式神だな」

「まぁ時折その一面は見ますけど、ユイちゃんを助けたかったから、今日はただ普通にお節介を焼きにきたのかもしれませんね」

 キリトも外道丸の優しさを感じ取り、彼女へ密かに感謝していた。新八も外道丸側に何か裏があると勘繰ったものの、今回ばかりは特に深い意味は無いと感じている。

 もちろん銀時も、外道丸へ大いに感謝を伝えていた。

「まぁ、ユイを助けてくれたことは感謝するぜ。レモンも効果大有りだったし」

「そうでござんすよ。なんせ、あっしが魔界で奪った治癒効果のあるレモンでやすから」

「……へ? 今なんて言った?」

「だから、魔界で奪ったレモンでござんすよ。あっしがさっき化けた看護師の姿で、金棒を振り回し、特に効果のあるレモンを強奪したんで」

「はぁ!?」

 のはずが、話は途端に急展開を迎えている。

 なんと、外道丸が用意したレモンは普通のレモンではなく、魔界で見つけたものであった。しかも変装して強奪したと話しており、一行の雰囲気は一変。徐々にきな臭さを感じ取っていく。

「あっ。行っておきやすが、人体には無害なのでお気になさらず」

「じゃねぇだろ!! それ以前に強奪ってなんだよ!? またテメェ、喧嘩吹っ掛けたのかよ!?」

「だって、あのレモン。ぼったくり価格だったから」

「だとしても、奪ったらダメだろ!!」

 危機感を一切感じていない外道丸に、銀時は大いにツッコミを入れていた。彼女曰く金額に納得がいかなかった様子だが、金棒で強奪は明らかにやり過ぎである。

 銀時らは魔界の住人からの報復を特に恐れていたのだが……その危機感は現実のものとなった。

「どこだ~!」

「あの眼鏡看護師!! いや、黒い式神!!」

 玄関先から聞こえてくるおどろおどろしい声の数々。外道丸を追って、万事屋まで近づいている魔界の住人で間違いないであろう。

「ぎ、銀さん……玄関から変な声がするんだが」

「まさか、さっき言っていた魔界の人達じゃないの!?」

 キリトやアスナが震えた声のまま外道丸へ聞くと、

「あっ、やべぇ。どうしよう」

彼女は他人事のように軽く発していた。

「って、何を他人事のように言っているんですか!!」

「早く逃げないと、とんでもないことになるアルよ!」

「どうするのよ!?」

 突然訪れた危機的状況に、新八、神楽、リーファ達は焦りを感じていく。戦闘態勢も整っておらず、未知なる敵達にすぐ対処するのも大変難しい状況であった。そう一行が慌てふためているうちに、

「見つけた~!」

「覚悟!!」

とうとう魔界の住人達が万事屋へと入り込み、襲い掛かろうとする。

「ギァァァ!!」

 もはや万事休すであり、一行はがむしゃらに魔界の住人達へ対抗しようとした……その時だった。

「銀さん! 作り直したわよ! 今度は私の汗で作った塩よ! さぁ。受け取って!!」

 何の事情も知らないあやめが、不意に万事屋の窓側から不法侵入している。彼女はまたしても汗で塩を作っており、懲りずにユイへプレゼントしようとしていた。勢いよく入り込もうとしたところ、

「あっ、きゃぁぁぁ!!」

足を滑らせて床へ転げ落ちてしまう。同時に持っていた塩の入った巾着も手放してしまい、それが全て魔界の住人に降りかかると……

「な、ぐわぁぁぁ!」

「解ける~!!」

「ぎぁぁぁ!!」

皆蒸発して姿を消してしまった。万事屋に乱入した魔界の住人は、瞬く間に消し去っている。あやめの持っていた特製の塩によって。

「じょ、浄化されたぁぁぁ!!」

「アレ? 何が起きたの!?」

「ふぅ~。危なかったでござんす」

 衝突を免れて安堵する新八ら一行と、何が起きたのかさっぱり分からないあやめ。最後の最後で追い出されたあやめが、まさかの貢献者になるとは思いもしていなかった。肝心の本人は何が起きたのか、さっぱり分かっていないが。

 

 こうしてユイの風邪騒動も、これにて一件落着。紆余曲折はあったものの、最終的には何事も無く終わっている。




 ユイちゃんのお見舞いに次々と知り合いが駆けつけましたね。構成中にはヅラも駆けつける予定でしたが……尺の都合でカットとなりました。
 そして中の人繋がりでナツキさん……ではなく、外道丸も駆けつけました。女医と聞いて連想された方は何人いるのでしょうか。金棒を持つナツキさん。怖すぎる。
 なんやかんやあってユイちゃんは元気になりましたね。一時は魔界の住人ともバトルするかと思いきや、さっちゃんが全てを持っていきました。なお、このオチが無かった場合は、銀時が魔界に連れ込まれる設定でした笑




次回予告

桂「フハハハ! 近頃は企業自らが職業体験を行うインターンシップとやらが流行っているらしいな。ということで、新八君とキリト君に早速体験してもらおうじゃないか。攘夷志士として」

新八「ちょっと!? いきなり何を言い出すんですか!?」

キリト「次回! 社会経験は何歳からでも始めていい!」





お知らせ

 個人的な都合で申し訳ないのですが、来週の新作投稿はお休みとなります。新作のお話がお目当ての方は、再来週までお待ちください。宜しくお願いします。
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