剣魂    作:トライアル

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定春やピナの鳴き声の表現に毎度苦労しがち


第百二十訓 ペットはいつの間にか一芸を覚えている

「まだかよ、神楽」

「散歩へ行ったきり、戻ってこないわね」

 万事屋の玄関前で神楽の帰りを待つ銀時、キリト、新八、アスナ、ユイの五人。神楽は定春と散歩に行ったっきり、万事屋へ戻ってきていない。

 この日の万事屋は動物園の飼育員のヘルプとして呼ばれており、そろそろ家を出ないと約束の時間に間に合わないのだが……皆神楽を待つ中で焦りが生じている。

「どうします? もうそろそろ、依頼主さんのところに行かないと」

「俺が探しに行ってくるか?」

「いや、もう少し待つぞ。アイツがいないと、動物の世話とか出来ねぇし、なんとしても連れて行かないと」

 新八やキリトは捜索を提案するも、銀時は粘り強く神楽を待つと決めていた。今回の依頼には神楽が必要不可欠と思い、同行した方が手っ取り早いと考えている。

 そう神楽の帰りを待ち続けていると、ようやく彼女は万事屋へと戻って来た。

「ただいまヨー」

「あっ、戻ってきましたよ!」

 ユイがいち早く気付き、銀時も神楽へと話しかけていく。

「おい、神楽。おせぇぞ。定春の散歩に何時間かけてんだ?」

「ごめんね、銀ちゃん。ちょっと色々あってネ」

「色々? って!?」

 同時に定春の姿も確認しようとしたが、そこにいたのは……

「えっ、ピナ……?」

なんとシリカの使い魔のピナである。

「そうアル! シッリーと一時的に交換したネ。宜しくアル、ピナ!」

「ナー!」

 ピナは神楽の腕に捕まり、銀時達へ元気よく挨拶を交わす。だがしかし、神楽を除く全員が、状況をさっぱり分かっていなかった。

「アレ? どうしたアルか?」

「だって、あまりに唐突だったから……」

「そもそもなんで、定春とピナを交換したんですか!?」

 ユイが驚き気味に聞いてみると、神楽は交換した理由について話し始める。

「うーん。喧嘩が理由らしいネ」

「喧嘩?」

 どうやらピナとシリカの喧嘩が原因と言うのだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を同じくして、かぶき町の公園では妙がリズベットから、シリカとピナの喧嘩について話を聞いている。

「なるほどね。限定品のアイスをつまみ食いされて、喧嘩しちゃったってことね」

「そうそう。それで散歩中の神楽と定春に出会って、今日一日交換することになったのよね」

 交換理由について話すと、リズベットは疲れを感じて大きくため息を吐いていた。そんな彼女を、妙は背中をさすりながら宥めていく。

 シリカとピナの喧嘩は、シリカが冷蔵庫で大切に保存していたアイスを、ピナが勝手に食べたことが全ての原因のようだ。激しい口論の後、ピナが公園まで逃げ出し、偶然にも神楽と定春に遭遇。そしてシリカ側の提案で、今日一日お互いのペットを交換することになったのだ。

「定春~! こっちですよ!」

「ワン!」

 現在その公園では、シリカと定春が無邪気に追いかけっこをしている。朝の怒りを紛らわせるように、彼女は定春を可愛がっていった。思わず笑顔を振りまいているが、その本心はピナへの文句をふつふつと募らせている。

「定春は可愛いですね。それに比べてピナってば、アタシに断りもせず限定品のアイスを食べちゃうなんて。酷いですよね!」

「ワフ?」

「そう! 共感してくれますよね?」

 彼女は未だにつまみ食いを許しておらず、定春にも同意を求めていた。彼の純粋無垢な表情に癒されているが……食い意地なら定春自身にも心当たりがあるので、彼は何とも言えない表情を浮かべている。

 そんな事情をまったく知らないシリカは、思うままに定春のモフモフした毛並みに抱き着いていた。よっぽどその感触を楽しんでいる。

「って、シリカ―! 定春をあんまり疲れさせないでよ!」

「分かってますからー!」

 リズベットが思わず注意を呼び掛けるも、シリカからは適当な返事が返ってきた。今日一日この調子が続くことに、彼女はつい不安を覚えてしまう。

「ったく、大丈夫なの……」

「心配ないわよ。シリカちゃんのことだし、数時間後にはピナちゃんのことも心配するに違いないわよ」

「だと良いけど」

 対照的に妙はまったく気にしていない。時間が経てば定春よりもピナに興味が戻ると予想している。妙とリズベット、どちらもシリカとピナが仲直りしてくれることを切に願っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っていうことネ!」

「なるほど。シリカさんと合意の元で、一日だけ交換したのですね」

 一方で万事屋側も、神楽から交換した事情を聴いている。喧嘩の経緯や、一時的な交換について説明していた。

 その上で万事屋も、シリカとピナの関係を心配している。

「喧嘩って、本当に大丈夫なの?」

「問題ねぇだろ。夕方にでもなりゃ、飽きて返しに来るよ」

「本当にそうかな……」

 銀時だけは適当に返事するも、他のメンバーはそう思っていない。シリカとピナの喧嘩が早く収まることを、彼らもまた願っているのだ。

「ということは、今日はピナと一緒に万事屋のお仕事をするのですか?」

「ナー!」

 ユイの問いにピナが元気よく答えている。ピナ自身も万事屋の仕事には、大いにやる気を示していた。

「神楽ちゃん。シリカさんに返すんですから、くれぐれもピナに変なこととか覚えさせないでよね」

「分かっているアル、新八。心配するなヨ」

 一方で新八は神楽に、ピナの世話について気を付けるようにと注意を加えている。神楽は軽く返事をし、ピナも彼女に合わせて大きく頷いていた。

 こうして万事屋は多少の不安を抱えたまま、今回の依頼先である動物園へと歩みを進めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 万事屋が訪れたのは、江戸にある大きな動物園。今日の彼らの仕事は、動物園の飼育員のヘルプである。到着後に六人は専用の作業着に着替えて、動物園の職員から仕事の内容について説明を受けている。

「とりわけ、ここにいる動物共の世話をすれば良いんだろ」

「そうですね。ただ、一部の動物は素直に言うことを聞いてくれないので、お世話に手を焼くんですよ」

 銀時は動物園の従業員に、今日の作業内容について確認していた。動物の世話や餌やりは一筋縄ではいかず、何かと手がかかるものが多いらしい。

 従業員は特にある一匹の動物を名指しして、万事屋へ厳重に注意を促していた。

「特にあのギンガトカゲのシュシュは、誰とも仲良くしないので、こっちも手を焼いていて」

「シュシュ?」

「あの子です」

 彼が指を指した方角には、一匹のトカゲがいる。森を再現したようなエリアで、そのトカゲは静かに楽器のようなものを叩き続けていた。

 こちらが問題児と言われている、宇宙トカゲのシュシュ。従業員曰く普通のトカゲと見た目は大差が無いようだが、音に敏感な習性があり、他の動物達とはおろか同じトカゲ類の動物とも関わろうとしない。所謂コミュニケーションに難があって、従業員側も大変苦労しているというのだ。

「ナ……」

 ピナもシュシュを見た瞬間に、彼の複雑な表情を読み解こうとしている。

「ん? ピナはアイツが気になるアルか?」

「ナ……」

「分かったネ。銀ちゃん。ここは私とピナに任しても良いアルか?」

「おっ、良いぞ」

 ピナの想いをくみ取った神楽は、自らが率先してシュシュと関わることを決めていた。早速銀時に了承を頂いている。

「わ、私も良いですか?」

「うん、良いよユイ」

 神楽に続いて、ユイもシュシュのお世話に名乗り出ていた。

「じゃ、ここからは手分けしてお世話に当たりましょうか」

「そうね。神楽ちゃんにユイちゃん。ここは任せたわよ」

「おうネ!」

「はいです!」

 こうして万事屋はシュシュの件を、神楽、ユイ、ピナへ一任すると決める。銀時、キリト、新八、アスナの四人は、従業員と共に別の動物がいるエリアへと移動していった。

「やってみるネ、ピナ」

「いざという時は、私達がサポートしますから!」

「ナ!」

 早速神楽とユイがピナを後押しして、シュシュの元まで近づけさせる。ピナは勇気を持って、シュシュに話しかけていった。

「ナ~?」

「シュー?」

 用心深く近づくピナに対し、シュシュもまた警戒心を露わにして、威嚇の姿勢を取る。一瞬ピナも怯えてしまったが、諦めずに彼へと話しかけていく。

「ナ?(何をしているの?)」

「シュ(音を奏でている)」

「ナ?(音?)」

「シュ(これみたく、俺も注目されたいんだよ)」

 そう言ってシュシュは、ピナに一枚の写真を手渡す。それはギターを持った寺門通の   写真で、彼女の楽しそうに歌う瞬間を写したものだった。

 この写真を見て、ピナは察する。シュシュは寺門通のようなキラキラした存在になりたいのだと。

「ナー(歌や音楽が好きなんだ)」

「シュ(まぁ。まだまだだけど)」

 不愛想に接するシュシュだが、音楽に対する情熱は本物だとピナはすぐに理解した。そんな彼の助けになりたいと、ピナは次第にある気持ちを固めていく。

「ナ!(良い考えがあるかもしれない!)」

「シュ?(なにそれ?)」

「ナ!(とりあえず待ってて!)」

 そう。彼はシュシュにぴったりの楽器を探そうと決めたのだ。その為にも、神楽やユイに事情を伝えて、協力しようと試みている。ジェスチャーで完璧に伝えてみせると、ピナは意気込んでいた。

「ナナナ!」

「どうしたネ、ピナ?」

「ナ~ナ!」

「えっと、これは?」

 ピナは寺門通のように、マイクを持つ素振りやエアギターを奏でる身振りで、神楽とユイに楽器が必要と伝えている。激しく動きながら必死に伝えようとするピナの姿に、神楽やユイも段々とその意思を理解し始めていく。

「もしかして、シュシュと仲良くなる為に、必要なものじゃないでしょうか?」

「そういうことアルか。なら……分かったネ!」

 ピナのジェスチャーをようやく理解した神楽は、一目散にその場から駆け出した。神楽には意思伝達が出来たみたいで、ピナは一安心している。

「ナ~」

 と思わず一息ついた時であった。

「見つかったネ。これアルか?」

「……ナ!?」

 神楽が持ってきたものに、ピナは思わず唖然としてしまう。彼女が持ってきたのは……分厚そうなマントと顔に塗る奇抜なメイク道具。さながらデスメタル系のバンドを彷彿とさせるものばかりである。

 想定外の代物を渡されて、ピナの表情は大きく困惑していた。

「神楽さん。これはなんですか?」

「近くにあった衣装一式ネ。きっとピナはシュシュと一緒に、デスメタルを奏でたいと思っているに違いないアルよ!」

 自信満々に神楽はデスメタル系の道具が必要と推理していたが、まったくの見当違いである。

「ナナナ!!」

 ピナも首を振って、大きく否定していた。

「なんだか違うみたいですよ」

「マジアルか。じゃ、こっちネ?」

 ピナの反応を察して、神楽は次なる道具を彼に見せていく。続いて露わになったのは、

「ナ……?」

木魚と数珠である。デスメタルから一変。住職が身に着けているような道具の数々に、ピナは一層困惑を深めてしまった。

「これはなんですか、神楽さん?」

「お坊さんの必須セットネ。きっとあの動きは、悪霊退散の真似をしたいと思っているんじゃないアルか?」

「ナナナ!!」

 求めているものから増々遠ざかり、ピナは大きく焦りの念を浮かべてしまう。指を右側に寄せて、音楽系の予想に引き戻そうと試みていた。これ以上すれ違いが続けば、いずれ取り返しがつかないところまで拗れるのではないかと不安を感じてしまう。

「これも違うみたいですよ」

「じゃ、この最後の奴で決まりじゃないアルか」

 と住職系の道具を片付けて、神楽はピナへ最後に用意したものを見せている。

「……ナ」

「どうアルか? サンシャイン○崎の小道具セットアルよ」

 ピナの悪い予感が的中し、もはや彼はかける言葉すら失ってしまった。神楽が用意した最後のものは、某芸人のなりきりセットで、先ほどの激しい動きから彼の真似事をしたいと予想していたが……当然のことながら、本筋から大きく外れてしまっている。

 何よりも神楽に何一つ、意思疎通が出来ていないことが、ピナにとって大きながっかりポイントであった。今この一瞬だけは、本来のご主人様であるシリカに頼りたいと心の底から大きく感じている。

 と彼が神楽とのコミュニケーションに、悩んでいた時であった。

「シュ」

「ナ?」

 シュシュが神楽達の前にも現れて、彼女らに先ほどピナに見せた寺門通の写真を見せつけている。この写真を見てようやく、神楽とユイはピナが伝えたかった意図を読み解き始めていた。

「お通さんの写真ですか?」

「あっ、もしかして楽器が欲しかったアルか」

「シュ!」

 神楽の呟きに、ピナ、シュシュの両名が大きく頷く。

「なるほどネ、よし! ユイ、早速探しに行くアルよ」

「そうですね! 少し待っていてくださいね!」

 やっと必要なものを把握したところで、神楽とユイはその場を離れて、二匹にぴったりの楽器道具を動物園内で探すことにした。場にはピナとシュシュのみとなり、二匹はホッとした表情で、お互いの苦労を労っている。

「ナ~(助かったよ、ありがとう)」

「シュ(いや、困っていたから。アンタのご主人様も大変だな)」

「ナ(いいや、あの人は僕のご主人様じゃないよ)」

「シュ?(え?)」

「ナ……(今日の朝に喧嘩しちゃって、一時的にあの子のペットと交換しているだよね)」

 その会話の過程で、シュシュはピナと本来のご主人様が喧嘩している事実を知った。彼の寂しげな表情から、本当は元通りの関係に戻りたいんじゃないかと思い始めている。

「シュ……(そうか。じゃ、仲直りしないとな)」

「ナ……(うん。勝手にアイスを食べちゃったし、ちゃんとお詫びをしないと)」

「シュ、シュ。シュ!(アイス、おい。良い考えがあるぞ!)

「ナ?(考え?)」

 シュシュはピナとの会話からある作戦を思いつき、彼へ事細かにその内容を説明。ピナ自身も乗り気になって、シュシュの立てた作戦に大きな意欲を示している。

 こうして神楽とユイが楽器を探し回っている間に、着々と仲直りへの準備が進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてかぶき町の公園でも、密かに事態は動いている。

「それ!」

「ワン!」

 変わらずに定春と遊び続けているシリカ。互いにじゃれ合う中で、シリカは定春にあることを聞いていた。

「そういえば、定春も万事屋の仕事を手伝ったりするんですか?」

「ワン!」

「へぇ~。仕事って、どんなのですか?」

 そう聞き返すと、定春は体を使ってピナ同様にジェスチャーを繰り出す。釣竿を持つ素振りや、探し物を手伝う素振り。はたまた招き猫のように、集客を手伝う様子をシリカへ伝えてきた。

「ワン!」

「釣りに探偵に接客とかでしょうか。結構多いんですね」

 とシリカ自身も新しい情報に、興味を持ち始めていた時である。彼女の脳裏に、ある光景が浮かんでいた。

「えっ……ちょっと待ってください。まさか、今ピナが万事屋にいるってことは、定春と同じことをしているの!?」

「ワフ」

 シリカの直感に定春は大きく頷く。現在神楽の元にいるピナが、万事屋の仕事を手伝っていると知ると、思わず彼を心配していたのだ。

 シリカの落ち着きが無い素振りを見て、妙とリズベットも彼女へ話しかけていく。

「あらあら。喧嘩はしていても、やっぱり心配しちゃうのね」

「時間も経ったし、そろそろ返したらどう?」

「……いいや! 元々はピナが悪いんですから、働いて反省するまでは会いにいきませんよ!」

 仲直りにはちょうど良い頃合いと和解を勧めたものの、シリカは意固地になって断固拒否していた。口ではまだ許していないようにも見えるが、その本心は万事屋の仕事をピナが上手くやっているか心配している。

(だ、大丈夫かな……)

 彼女自身もそわそわし始めていた――その時であった。

「ワフ?」

 定春はある音を聞き取り、静かに耳を澄ませている。その音楽を聞き取った瞬間に、定春はあることを確信させていた。

「ワン!」

「どうしたんですか、定春……って、えっ!? 急にどうしたんですかぁぁ!!」

 彼は有無を言わさずに、シリカを口にくわえると、音の聞こえた方角まで急に走り出していく。定春の思いもしなかった行動に、シリカは大いに困惑していた。必死に停止を呼びかけるも、そのまま引きずられていく。

「シ、シリカ!?」

「何かあったのかしら」

「早く追いかけないと!」

 そんなシリカの跡を、リズベットと妙も追いかける。彼女達の進む方角には、現在万事屋とピナが働いている動物園があるのだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方でその動物園では、とある場所に人だかりが出ていた。

「ナ~! ナ~! ナナナ!!」

「シュシュ!!」

 多くの来場客が目を向ける先には、小さなドラムを叩くピナと小さなギターを奏でるシュシュの姿がある。

 そう。二匹はこの短時間の間に、神楽やユイが持ってきてくれた楽器で使い方を覚え、来場客を楽しませるまでに練習を重ねていたのだ。お通が歌っている曲を基に、激しく音楽を奏でており、そんな二匹の楽しむ姿も相まって、来場客の心を鷲掴みにしている。さながら人気バンドのライブのように、場は熱気に包まれていた。

「やっほい! 最高アルよ、ピナ!」

「シュシュもかっこいいですよ!」

 神楽とユイもお手製のサイリウムを持って、ピナ達を応援している。もはやお世話そっちのけで、二匹のライブを大いに楽しんでいた。

 そんな騒ぎを聞きつけて、銀時ら四人も神楽達の元まで戻ってきている。

「か、神楽ちゃん!? 一体何が起きているの!?」

「あっ、みんな! ライブを見に来たアルか?」

「じゃねぇだろ! この数分の間に何があったんだよ!」

 予想外の展開に、思わず強めのツッコミを入れる銀時と新八。ピナとシュシュのバンドや呑気に応援する神楽とユイの姿だけでも、彼らにとってはツッコミどころしか無いのだ。

「要するに、ピナとシュシュがバンドを組んだってことですよ!」

「いや……何がどうしたらそうなるんだ?」

「そもそもピナって、ドラム叩けたの!?」

 ユイが簡潔にまとめたものの、やはりキリトやアスナからしても疑問は解消されない。何よりも音楽への片鱗を見せていたシュシュはともかく、ピナが上手く楽器を扱えていることに、二人は衝撃を隠しきれないのであった。

 四人の困惑とは裏腹に、ピナとシュシュの演奏は途切れなく続けている。

「おいおい、どうするんだ。ほぼゲリラライブになっているだろ」

「もうこの熱気は止められないネ。この後にスカウトが来て、二匹のサクセスストーリーが来週から始まるアルよ」

「適当なこと言わないでよ、神楽ちゃん。てか、作品そのものが変わっちゃうから」

 神楽は勝手に今後の展開について予想するも、新八からすかさず訂正が入ってしまう。ピナやシュシュによって、作品の方向性が変わることを、彼は恐れているのである。

 そんな二匹の演奏は、ようやく終わりを迎えていた。

「ナナナ!」

「シュシュ!!」

「凄かったよ」

「ありがとうね!」

 楽器を上にかざして、観客へ深くお辞儀をするピナとシュシュ。彼らの演奏に心を打たれえた観客の中には、対価としてお金を渡すものまで現れていた。

「シュ!」

「ナ!」

 そのお金の枚数を数えていた時、シュシュとピナはあることを確信。ピナは一部のお金を持っていき、そのまま勢いよく建物の方まで飛んで行った。

「ピ、ピナ!?」

「おい、どこ行くアルか!?」

 急に飛び出したピナに戸惑いつつ、神楽達は彼の跡を追いかけていく。

 その一方で、

「ワン!」

「や、やっと収まった……」

定春に咥えられていたシリカもやっと彼から解放されていた。辿り着いた先は、現在ピナや万事屋の面々がいる動物園である。

「えっと……ここは動物園? って、ピナ!?」

 シリカは現在の場所を確認すると、ちょうど建物内を移動するピナを発見。驚く彼女とは正反対に、定春は自身の勘が当たったことに納得していた。

 定春はピナ達の演奏にすかさず気付いており、音の聞こえた方角まで駆けて行ったのである。薄っすらと聞こえた音から、きっとシリカとの仲直りのきっかけなのではないかと彼は考えていたのだ。

「ワフ!」

「って、もしかして行けってことですか?」

「ワン!」

 遠慮せずにと、シリカの背中を強く押す定春。言葉を交わさずとも、ピナがシリカとの仲直りの為に動いていることと、彼はシリカの目を見て静かに訴えていた。

「わ、分かりました!」

 定春の思いを感じ取り、シリカも動物園へ入り込む。彼女に続いて、リズベットや妙、そして定春も入っていった。

 シリカがピナの跡を追いかける中で、彼女が目撃したのは……

「えっ?」

ピナが動物園のお土産コーナーでアイスを購入する瞬間である。しかもシリカが大事にとっておいたアイスと同じ種類であった。

 そう。ピナはシリカと仲直りをする為に、シュシュとバンドを組み、手に入れたお金で、シリカの大事にしていたアイスを買い直すと決めていたのだ。

「ナー!」

「はい、どうぞ」

 売店の店員にお金を渡し、アイスの入った袋を口で咥えるピナ。そのままシュシュの元まで戻ろうとした時に、彼の目の前にはちょうどシリカが立っていた。

「ナ……ナ!」

 最初こそ困惑したピナだったが、今が仲直りをするチャンスと見て、彼はシリカに袋を渡した。シリカ自身もその袋にアイスが入っていて、ピナ自身の意図を感じ取っていく。

「アイス? ってことは……」

「ナ!」

「……そういうことですね。お詫びってことですよね!」

「ナー!」

 お互いの目をしっかりと見て、本音をぶつけ合うシリカとピナ。お互い意固地になっていたことを気にしており、その上で仲直りのきっかけが出来たことを好機として捉えていた。

 そして……

「分かりました。アタシこそごめんなさい! 身勝手に交換なんかして!」

「ナナ!!」

シリカはピナの謝りを聞き入れると、自らも謝罪をしていた。感情のままに一時的だが、定春と交換したことを彼女は時間が経過するごとに気にしていたのである。罪悪感に苛まれる彼女に対して、ピナはきっかけを作ったのは自分と、鳴き声で彼女を落ち着かせるように宥めていく。

 アイスをきっかけに喧嘩をした彼女達は、そのアイスによって仲を取り戻せることが出来たのである。

 そんなわだかまりを解消したシリカとピナの元に、仲間達も次々と駆け付けてくる。

「ピナ! って。シッリー!?」

「いつの間に来ていたんですか!?」

 神楽とユイがいち早くピナに追いつくと、彼女達はシリカの存在に気付く。ピナと話している様子から、きっと仲直りをしたと遠目から理解していた。

 神楽達に続いて、銀時やアスナらも駆けつけてくる。

「おいおい、次は一体何が起こっているんだよ」

「多分仲直りじゃないかしら?」

「仲直り!? 急すぎませんか!?」

「そもそも、いつの間にシリカがいたんだ……?」

 急展開に困惑する新八やキリト。事態を飲み込むには、まだまだ時間がかかりそうだ。

 その数分後には、定春、妙、リズベット、さらにはシュシュも駆けつけて、事態を段々と理解していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん。ご迷惑をおかけしました!」

「ナー!」

 動物園の入り口前で、深々と顔を下げるシリカとピナ。喧嘩に巻き込んだ万事屋の面々や妙、リズベット、シュシュに謝っている。

 申し訳なさそうにするシリカらだったが、対照的に万事屋側は仲直りがスムーズに済んで、皆一安心していた。

「良いのよ、全然。どっちも仲直りできたことだし」

「そうそう。アンタ達はどっちも回りくどいのよ」

 率直に思ったことを伝える妙とリズベット。共に似た者同士だと二人は揶揄していた。

「似た者同士惹かれあっているってことか?」

「そうだな。特にシリカとピナはな」

 リズベットに続いて、銀時やキリトも同じような感想を呟いている。

「まぁ、でも良かったアル。仲直りできて」

「そうですよ。やっぱりこのコンビが一番ですよ!」

「ワン!」

 神楽とユイは、シリカとピナの仲が戻ったことに対して、素直に嬉しく思っていた。定春も大きく頷き、ピナへウインクしている。

「シュシュもありがとうね。一緒に手伝ってくれて」

「ナー」

「シュシュ」

 と同時にシリカは、ピナと仲良くなったシュシュにも感謝をしていた。シュシュ自身も、ピナとご主人様が仲直りしたことを、嬉しく感じている。照れながらも鳴き声で、ピナを大きく祝福していた。

 こうしてシリカとピナの喧嘩は、半日も経たずに終わりを迎えたのである。

「さて、一段落しましたし、仕事に戻りますか」

「そうね。まだ後片付けも残っているし」

「よぉし、ちゃちゃっと終わらせるぞ」

 場が一段落したところで、万事屋は気持ちを切り替えて、仕事へと戻り始めていた。新八やアスナは掃除道具を持ち、中断していた動物の世話へと向かう。妙やシリカらは、ついでに動物園を探索しようと考えている。

 と和やかな雰囲気のまま、皆動物園へと向かおうとした時であった。

「ふざけるな、エリザベスよ!」

「ん?」

 ちょうど近くで、ある知り合いの言い争いが聞こえてくる。皆が振り向くとそこには、桂とエリザベスがおり、二人はレンタルビデオを巡って激しく口論していた。

「貴様! 俺に断りも無しで、レンタルビデオを返却しやがって!」

[だって、今日が返却日だったから]

「だとしても、まだ時間があったはずだ! ラストシーンを俺は見れていないのだぞ!」

 どうやら勝手にレンタルビデオを返却したことに桂は怒っていた。シリカらの時と同様、少々くだらないことで喧嘩をしている様子である。

「貴様など知らん! こうなったら……そうだ! リーダーにシリカ君。どちらかで良いから、俺のペットと一日だけ交換を……」

 すると桂はシリカや神楽を見つけて、今日の彼女達と同様に一時的な交換を持ちかけたが……

「嫌ネ」

「おことわりします」

「えっ?」

二人は即決で桂の提案を却下していた。ピナと定春も目を細めて、シリカ達に同調している。無論銀時やキリトらも同じ想いであり、彼らは桂達を気にすることなく、動物園へと戻っていった。

「待ってくれ、みんな……ブフォォォ!」

 そんな桂に激高し、エリザベスは桂の頭上目掛けてプラカードをぶつけていく。彼らの口喧嘩はまだまだ続きそうである……。




 今回は喧嘩からの仲直りまでの過程を描いたお話でした。喧嘩する回って結局仲直りするのが目に見えているのが、誰が適任か考えたところ、シリカとピナになりました笑 シリカと定春の方は案外相性が良いのかもしれません。
 そしてピナは動物園でバンドデビュー!? ドラムを激しく叩く姿はまさに剣魂でしか見られませんよね。(※多分)因みに補足ですが、ピナはアイスを買った後に、シュシュが秘密に使っている冷蔵庫にアイスを隠して、数時間後にシリカへ渡す予定でした。
 今回は飼い主も含めてのお話でしたが、いつかはペットのみの回も描いていきたいですね。
 あとオチが綺麗すぎたので、急遽ヅラとエリザベスで濁すことにしました。こっちは……時間がかかりそう。







次回予告

長谷川「江戸から離れたある小さな池のある駅。そこで俺は一人の男と再会した」

?「釣れますかな」

長谷川「アンタは……」

長谷川「次回。どんな場所にもマニアは集まる」








追記
ピクシブでは先週投稿した次回長篇のキャラクター紹介予告も合わせて公開します!

「てんめぇ……ウチの従業員に、何をしてやがる……!」
「てめぇの下らない術に、俺が、キリトが、アスナが、折れるかよ!」

万事屋の所長 坂田銀時!

「今の俺は攻略組じゃない……万事屋銀ちゃんの一員だ!」
「今の言葉。どこかで……」

万事屋の若頭 キリト!

「おぃぃぃぃ! ほとんどゴリラの装備しかねぇじゃねぇか!!」
「キリトさんもアスナさんもユイちゃんも……僕らにとって大切な仲間だ!」

万事屋のツッコミ担当 志村新八!

「それが……アナタの過去なの?」
「アナタみたいな卑怯者に、私達は屈しないわ!」

万事屋の裏リーダー アスナ!

「まるでどこでもドアみたいアル!」
「失せろアル! 過去の亡霊!」

万事屋のリーダー 神楽!

「あの戦士も、別世界の英雄なのですか?」
「さぁ、伝説の始まりです!」

万事屋の頭脳 ユイ!

「ワフ~!!」

万事屋の番犬 定春!

「銀時ぃ、こいつを慰めてやれ!」
「貴様は昔の俺と似ているな……ただ唯一違うのは」

攘夷党党首 桂小太郎!

「俺はぁ、この世界で真の侍道を学んだんだ!」
「行くぞ、次郎長さん!」

新米攘夷志士 クライン!

[助太刀するぞ!]
[誰が化け物だ]

桂のもう一人の相棒 エリザベス!

「エイジと言ったか。お前さん、最初から殺す気なんて無いだろ」
「俺にも分かるぜ。大切なもんを失った苦しみはな」

江戸一のカラクリ技師 平賀源外!

「ユナ様。詳しく聞かせてもらえますか?」
「皆様。お気をつけて」

カラクリ家政婦 たま!

「僕の命を懸けて、ユナを連れ戻す!」
「僕の剣は、そう容易く折れるものではない!」

ダークライダーに変身する男 エイジ!

「これは別世界に存在する仮面ライダーという戦士です」
「力を貸して。ゴルドダッシュ!」

令和の力を宿すヒューマギア ユナ!

「なんだ……その本は?」
「ユ、ユナ……!?」

オーグマー開発者 重村徹大!

「お前さんの面見りゃ、悪人なんて似合わねぇよ。どうだ、あっしと決闘するか?」
「こんな有象無象、ものの数分で片付けるさ」

元かぶき町四天王 泥水次郎長!

「話は全て聞いていますから、兄貴!」
「さぁ、こっちへ!」

次郎長の一人娘 泥水平子!

「知りたい? 私がなんでサイコギルドに入ったのか?」
「こんな世界、滅んじゃえば良いんだよ!!」

謎に包まれた少女 アンカー!

そして……

???「変身!」
〈リボルブオン!!〉

新たな刺客……!?

剣魂 刀唱時代篇 10or11月よりスタート!(予定)

 ということで、剣魂久しぶりの長篇は、秋ごろよりスタートします。エイジやユナを中心に、万事屋や攘夷党がサイコギルドの騒動に巻き込まれていきます。ようやくキリト達を銀魂の世界へ送った真の目的が分かるかもしれません……! 是非お楽しみください。
 因みに今後の投稿予定ですが、刀唱時代篇が終わった後に、シリカらサブヒロインがメインを飾る単発日常回を複数回お送り致します。本当は9、10月に投稿する予定でしたが……度重なる遅延で刀唱時代篇が今年中に終わらないことが発覚し、急遽別枠の移動となりました。
 なので、まとめると下記の通りになります。

現在やっている「秋晴の日常回篇」→「刀唱時代篇」→「秋晴の日常回篇 延長戦」→「架創決戦篇」→未定

では!


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