剣魂    作:トライアル

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次の長篇まであと一か月(予定)


第百二十二訓 嫌な気配を感じたら即通報しろ!

山崎退観察レポート

 

今日も特に進展なし

 

「はぁ……いつになったら現れるのやら」

 あんぱんと牛乳を片手に、あるアパートの一室から見張りを続けるのは真選組の山崎退。日々犯罪者や攘夷志士を追跡、情報収集する彼だが、その役目は隠れて獲物が出るのを待つなんとも地味な仕事である。

 今回の山崎の仕事は攘夷志士として逃亡する兄弟の弟の行方を追って、目撃情報のあったある城下町へとやって来ていた。彼は東側のアパートを借りて、数週間前から張り込み。最初こそ意気込んでいた彼だったが……変わらない状況に嫌気が指し、密かに士気が下がりつつある。

 なお監察の決まりとしてあんぱんと牛乳しか飲み食いしてはいけないので、前回同様ゲシュタルト崩壊寸前にまで心が荒み切っていた。

「早く来てくれ……新川兄弟の片割れ」

 表情もやつれてきており、もはや彼の体力は限界に近しかったのである。

 そんな山崎の手を煩わせる逃亡犯の正体は、とある兄弟の攘夷志士らしい。

「過激攘夷浪士新川昌一の弟、新川恭二。彼も兄と同じく攘夷の道に堕ちたわけだけど、殺された兄と比べて今もなお逃げているなんて。とんだ鼠野郎だよ」

 そう言って山崎が手にした写真には、一人の若い男性が写っていた。彼こそが今回真選組が追っているホシの新川恭二。写真を見たところ、明るい茶髪で大人しそうな表情を浮かべているが、その本性は猟奇的。兄にそそのかされて攘夷志士となり、これまでに何人もの人間が彼らによって斬られ犠牲となっている。

 真選組は彼の兄である新川昌一と対峙し、昌一は一歩及ばず真選組に斬られて無惨にも散っていった。一方の弟の恭二はギリギリのところで逃げ出して、現在もなお行方をくらませている。

「もう頼れる兄もいないのに、どこへ隠れているのやら。早く出てきて捕まれば良いのに」

 山崎は考えれば考える程、恭二が逃げ続けている意味が分からなくなっていった。たった一人のまま逃げるのは困難を極めるが、彼自身にも何か理由や状況が変わったのだろうか。ありとあらゆる可能性を頭の中に浮かべるも、面倒くさくなって山崎は考えることを諦めてしまう。

 とにかく今は、恭二の行方を突き止めて、このあんぱんと牛乳地獄から解放されるのが先決であった。

「辛いけど頑張るか。それにそろそろあの時間だし」

 心が折れかけている山崎であったが、そんな彼にはほんの一瞬だけささやかな楽しみがある。それは……

「おはよう、たまさん」

「おはようございます、シノン様。今日は買い物ですか?」

「そうよ。日輪さんにある調味料を頼まれてね」

この一本道を通り過ぎるたまを見かけることであった。

「た、たまさん!」

 本人に聞こえない程度で、歓喜の声を上げる山崎。彼の目線の先には、シノンと楽しそうに話すたまの姿があり、山崎は彼女の笑顔を見守るのがここ数日の楽しみになっていた。

「あぁ、たまさん。いつに増して可愛いよ! この捜査が終わったら、また会いに行こうかな……!」

 部屋にたった一人の為か、自身の願望を独り言として呟いている。山崎にとってたまは意中の相手であり、そんな彼女の優しさや立ち振る舞いを見るだけでも、心が大いに惹かれているのだ。

 念のために言っておくと、彼は最初からたまを見張る為にこのアパートを選んだのではない。たまたま自分の見張る通り道が、よくたまが行き来する場所として発見した所謂偶然の産物なのである。

「俺は断じてストーカーじゃない! 俺は断じてストーカーじゃない!」

 自分でも気にしているのか、念じて自分の邪な気持ちを振り払おうとしていた。

「早く新川恭二出てきてくれ! 俺は一刻もたまさんと会いたいんだ!!」

 もはや自分の我慢が限界に近づいており、早くたまに会いたい気持ちでいっぱいになっている。恭二を発見すれば、この閉鎖空間からも脱出できるので、なんとしても彼を捕まえようと躍起になっていた。

 そんな山崎にとって、最近別件である悩みが生まれている。それは、

「何!? まただ!」

向かい側にある西側のアパートから感じる視線であった。暗がりでよく見えないが、時折その視線は一本道に向けられており、彼はてっきりたまを狙う変態じゃないかと勝手に予測している。

「おのれぇぇ! たまさんを狙う邪悪なストーカーめ!! 恭二を捕まえるついでに、アイツも逮捕したい!! 覚えていろ!!」

 見かける度に大きな怒りを募らせており、恭二同様に大きな憎しみをぶつけていた。もしたまがそのアパートの住人に襲われようものなら……彼は掟を破ってでも助け出そうと考えている。

 恭二の件と西側アパートの住人の件。二つの懸念を抱えたまま、山崎は今日も監察を続けているのだ。だが彼はまだ気づいていない。西側アパートにいる住人の正体の事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ! いつまで逃げれば良いんだよ!」

 場面は変わり、西側のアパートの一室には、ある男が追手から逃れる為に隠れていた。

 ボロボロの着物を羽織って息を潜めるのは……山崎の追っている新川恭二本人である。彼は数日前からこのアパートの空き部屋に侵入し、密かなアジトとして暮らしていた。

 攘夷志士として暗躍した彼も、兄を失ったことで目的を見失い、今はただ罪から逃れる為に逃亡を続けている。

「僕にはあの噂を確かめる必要があるんだ。その為にまだ捕まるわけには……!」

 本人にとっても状況はあまり宜しくなく、大きな焦りが生じていた。だがしかし、恭二には気になっているある噂があり、それを確かめるためにどうしても地球を離れなくてはいけないのである。気の遠くなるような目的地にため息を吐きながらも、絶対逃げ切ると心に誓っていた。

「まだ僕はやれるんだ! 絶対に諦めないぞ」

 往生際が悪くも、最後まで足掻くと決心する。そんな彼にも、荒んだ日常を忘れさせるささやかな楽しみがあった。

「そんなシノン様には、レモンティーがぴったりだと思いますよ」

「酸味ね……分かったわ。今日早速試してみるわ」

 それは窓から見える一本道を通り過ぎるたま……ではなく、シノンを見かけることである。

「あぁ~。あの子、シノンさんって言うんだ。前々から思っていたけど、とっても可愛い子だよな~」

 恭二はシノンを見かけた瞬間に心を撃ち抜かれており、彼女のクールな佇まいと時折見せる笑顔に惹かれていたのだ。あわよくば実際に会ってお話したいと思っている。

(なお、シノン自身も過去に新川恭二と言う同姓同名の知り合いから、一方的な好意をぶつけられて襲われそうになった過去がある。別の世界でも似たような人物から同じく一方的な好意を向けられるのは、ある種の因果なのかもしれない。肝心の本人は一切気付いていないのだが……)

「シノンさん! シノンさん! シノンさん!」

 会いたくても手が届かない悲痛さに、恭二は打ちひしがれていた。さながら彼は頭の中でロミオとジュリエットのような悲哀を連想させたが……知らない人からすれば、ただの犯罪者予備軍である。

 そんな恭二には、最近ある悩みがあった。

「何、またか!?」

 それは向かい側の東アパートから見える視線である。これは山崎の視線であるが、偶然にも窓辺から暗がりしか見えないので、恭二は山崎がいることを一切知らない。故に彼はシノンを狙うストーカーだと、勝手に妄想を滾らせていた。

「いい加減にしろ! シノンさんを狙うストーカーめ! この僕が絶対お前を天誅してやるからな!!」

 仕舞いには携えた刀を引き抜き、いつでも襲撃しようと心に決めている。いつ隙が出来ても良いようにと、彼は虎視眈々と東側のアパートを凝視していく。

 噂の件と東側アパートの住人の件。主に二つの懸念点を抱えたまま、恭二は今日も逃亡を続けるのであった。

 

 しかし……二人はまだ気づいていない。このアパートの周辺にも、同じような考えを持っている奴らがいることに。

「フフ。銀さんがこの道を通り過ぎるのは計算済みよ! いつでもさっちゃんが、誘ってやるんだから!」

 北側のアパートにいるのは、猿飛あやめ。彼女はそのアパートの一室を借りて、一本道を通り過ぎる銀時をずっと待っていた。そして無理やり部屋へと連れ込み、最終的には二人の愛の巣にしようと企んでいる。アパートの中には婚姻届けに家具と、抜かりなく準備が施されていた。

「今回の私は本気よ!!」

 

「最近物騒と聞きますからな。この私がしっかりと若を導かなくては」

 南側のアパートにいるのは、東城歩。彼はこちらのアパートの一室を借りて、日々一本道を行き来する九兵衛の様子を見張っている。本当は別の目的でこの部屋を借りていたのだが……今ではすっかり九兵衛を監視する部屋として機能していた。

「邪魔者はこの私が即座に粛清しますので……!」

 

「たまさん! たまさん! たまさん!」

「シノンさん! シノンさん! シノンさん!」

「銀さん! 銀さん! 銀さん!」

「若! 若! 若!」

 

 東西南北、ありとあらゆるタイプのストーカーがアパートに閉じ込められている状態。四人は互いの状況を知らないまま、各々の気になる相手を存分に監視していた。

 この異様とも言える状況は、誰一人として知らないまま進んでいたのだが……たった一人だけ大きな違和感を抱えている者がいる。

「ん……?」

 それは同じく妙を追いかけ続けるストーカーの代表格、近藤勲。彼は今回妙を追いかけてはおらず、ただ用事を終えて屯所に戻ろうとしていたのだが……この一本道に差し掛かった途端に大きな違和感を覚えてしまった。ストーカーとしての勘、そしてアパートから漏れる異様な視線。どれをとっても異様な光景だと確信し、彼の足取りは思うままに進んでいないのである。

 ちょうどその時、近藤は銀時とばったり遭遇していた。

「……おい、万事屋! ちょっと良いか?」

「なんだよ、ゴリラ。また妙のこと、ストーカーしているのか?」

「今日は違うから! 別件だ! 別件!」

 銀時はてっきり近藤がまたストーカーをしていると決めつけている。近藤は即座に否定し、自分の感じていた違和感を銀時へ伝えていた。

「最近この辺りで、なんか視線を多く感じないか?」

「視線? お前がストーカーされているってことか?」

「えっ、そうなの!?」

「お前が言い出したことだろうが」

 銀時は特に視線の事は気にしておらず、近藤の考えにあまり共感していない。近藤は一人で不安を抱え込む中で、さらなる人物が二人の会話に割り込んできていた。

「奇遇だな、近藤。僕も同じようなことを考えていたんだ」

「なんだ九兵衛か」

 神妙な表情で話しかけてきたのは柳生九兵衛。彼女も近藤と同じように、付近の異様な視線に違和感を覚えている。

「お、お前もか?」

「あぁ、東西南北。ありとあらゆる邪悪な気配を感じ取ったぞ」

「はぁ? そんなにあるの? もはや怪異じゃねぇのか?」

 九兵衛は鋭くも全方位に邪悪な気配を感じ取っていた。彼女の直感はほぼほぼ当たっているのだが……。

 とそこに、会話しながら歩いていたたまとシノンも合流する。

「どうしたの、みんな?」

「銀時様。如何されましたか?」

 彼女達は早速銀時に状況を聞きに来ていた。

「お前ら聞いてくれよ。こいつらが視線を感じるって言ってきてよ」

「視線?」

「シノン君やたまさんには分からないのか?」

「この一本道になんか感じるだろ?」

 銀時に続き、九兵衛と近藤も補足を加える。彼らの感じる視線を頼りに、たまは全方向である気配を感じ取っていた。

「たまさん?」

「なるほど。そういうことですか」

 たまはある仮説を立てると、早速シノンに視線の正体について小声で伝える。

「シノン様。耳を」

「えっ? ……なるほどね」

 話を聞いたシノンは、納得したような表情を浮かべていた。そして彼女は銀時に声をかけて、北側の方角に走り出していく。

「銀さん! 北側に行くわよ!」

「えっ、俺か? おい、待てよ!」

 訳も分からないまま銀時は、シノンの言う通りに同じく北側へ向かって走り出していた。

 さらにたまは、近藤や九兵衛にも指示を加えていく。

「私は西側へ行きます。九兵衛様達は南側に向かってください」

「分かった!」

「お、おう!」

 近藤も流れるままに、九兵衛の跡を追いかけていく。

 一方のたまは、一人で西側の方角へと走り出していた。

「た、たまさん!? 急にどうしたんだ……!?」

 山崎もたまの咄嗟の行動に困惑してしまう。彼女が向かった先は、西側の方角。ちょうど視線の指していたアパートがあり、山崎はてっきりたまが視線の正体に気付き、自ら懲らしめようと直接乗り込みに行ったと考え始めていた。

「不味い……! こうなったら!」

 たまの身に危険が迫ると焦り始め、山崎は掟や使命を放り投げて、たまの跡を追いかけることにする。彼女を守る為にも、必死になって彼は走っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で各アパートにいるストーカー達にも、次々と異変が起き始めている。

「って、どこにいったの銀さん! 私が目を離したばっかりに」

 あやめはいつの間にか銀時を見失い、大いに困惑していた。窓辺から覗いても、先ほどまでいた彼の姿が一切見当たらない。執念深く窓から探していた時に、部屋のチャイムが急に鳴っていた。

〈ピンポーン!〉

「ま、まさか銀さん!?」

 あやめは直感から、チャイムの相手が銀時と確信。彼を部屋に迎い入れるべく、一目散に玄関へと駆けていく。

「自分からやって来てくれるなんて流石ね! さぁ、再会のキスを……!」

 とキスをする準備をしたまま、玄関の戸を勢いよく開けた時であった。

「はぁ!」

「ぶふぉぉぉぉ!!」

 目の前にいた銀時……ではなく、弓を構えたシノンである。彼女は弓矢を射ると、先端から太い網が展開され、あやめを丸ごと捕まえていた。身動きの取れなくなった彼女は、悲鳴を上げたまま地面に転倒してしまう。

 この状況を見て、銀時とシノンは視線の正体があやめと確信していた。

「お前だったのかよ」

「そうみたいね。まったく、あやめさんってば。もうストーカーするのは止めたらどう?」

 銀時、シノン共にあやめのストーカーぶりに呆れてしまう。特にシノンはあやめと出会った当初から何一つ変わっていないので、蔑んだ眼でため息を吐いている。

 一方で網を掴まったあやめは、取り乱しながら二人に文句をぶつけていた。

「急に何をするのよ、シノンちゃん!」

「それはこっちのセリフよ! あそこまであからさまな視線があったら、逆に不自然でしょ!」

「アレは私なりの銀さんの見守り方なのよ! そもそもね……! アンタはなんで銀さんとの共演確率が多いのよ! フレンドラリー然り、遊園地篇然り、そんなに銀さんと一緒にいるのが好きなの!?」

「おい、話題変えるなよ。つーか文句なら投稿者に言えよ。ただのまぐれだろ」

 逆切れともとれるあやめは、僻みや羨ましさを前面に出して、銀時とやたら一緒にいるシノンにまで言いがかりをつけている。勝手に銀時への好意があると妄想し、余計に二人を呆れさせている。

 その一言を聞き、シノンの怒りは早くもピークに達していた。

「はぁ? そんなの微塵も思っていないけど。大体銀さんなんて、ロクデナシ男誰が好きになるのよ! キリトの足元にも及ばない男なんて、まっぴらごめんよ!」

「てか、お前は赤裸々に言うなよ! 流石の銀さんもそこまで言われたら、心が折れるぞ!」

 珍しくも感情的に怒り、銀時を指さして彼への好意を否定。シノンにとっても銀時は、普段の行いから自身よりも下に見ている様子である。彼女の裏表のない本音に、銀時自身は思わぬ流れ弾を食らい、若干ショックを受けてしまう。

「料理配達の時だって、アンタ達ドッキングしていたでしょ!」

「あの時はブルー霊子さんの手助けの為に乗ってだけよ! ていうか、誤解を招くような言い方止めてもらえるかしら?」

「お前ら落ち着け! そもそもまだ作品化していないネタを話すな! その話、延期になったから、読者には何一つ伝わってねぇぞ! 聞いているのか!?」

 その後もあやめの言いがかりとシノンの反論が続き、場は一向に進まない状態が続いてしまう。銀時はそんな二人を宥めつつ、否が応でも仲介役に徹するのであった。

 まだまだ女子二人の口論は続きそうである……。

 

 その一方で南側のアパートにいる東城の元にも、思わぬ来客が訪れていた。

〈ピンポーン!〉

「はーい。まさか頼んでおいたアダルトグッズの配達が!?」

 東城のいる部屋にチャイムが鳴り、彼はてっきり注文したアダルト系の商品が届くと思っている。ワクワクした表情で、扉を開けた……その時であった。

「死ねぇぇ、変態!」

「ぎゃぁっぁあ!!」

「ぶふぉぉぉ!!」

 東城に思いもよらない不意打ちが飛んでくる。目の前には近藤を剣のように抱えた九兵衛がおり、彼女は投げ槍のように東城へ近藤をぶつけていく。

防ぎようもないと突撃攻撃を受けた東城はそのまま吹き飛ばされて、壁に衝突。前から倒れこむように気絶してしまった。

 一方で近藤は頭をぶつけただけで、特に大きなけがは無かったが、何の前触れも無く自身を武器代わりにした九兵衛に文句とツッコミをぶつけている。

「ちょ、九兵衛君!? なんで俺を武器代わりにした!?」

「近くにいたからだ」

「そんな理不尽な理由ある!?」

「すまない。東城を懲らしめるには、もはや意図的に骨折させるしかないと思ってな。だから……まぁ、君を利用させてもらっただけだ」

「それ今考えた理由だよな!? 完全に何の意味も無く、俺を利用したってことにならないか!? 聞いてる!?」

 東城への手痛い仕打ちを考えたいた九兵衛だったが、考えれば考える程近藤を武器にした理由は思い当たらない。声も段々と小さくなっており、近藤には早速その本心を見抜かれてしまっていた。

「わ、若……」

 そして東城は、依然として起き上がる気配すらない。九兵衛の狙い通りに、どこかを骨折したのかもしれない。彼が本調子に戻るには、まだまだ時間がかかりそうである。

 

 あやめ、東城の二人が手痛い制裁を受ける中で、ちょうど同じ時間帯に西側アパートに身を潜めていた恭二も自身に迫る気配に気づいていた。

「ん? なんだこの胸騒ぎは……」

 ずっと窓を見張っていた恭二は、突然姿を消したシノンらに疑問を抱いている。と同時に嫌な胸騒ぎを覚えており、そんな気を紛らわす為に、ひと呼吸を置いた時であった。

「すいません。家賃の取り立てに参りました。いらっしゃいますか?」

 玄関先より女性の声が聞こえてくる。ドアをノックし、家賃の回収を目的のようだが……恭二はこの空き部屋に無断で潜伏している為、この要求はおかしいとすぐに察していた。

「家賃……? まさかここがバレたのか!?」

 先ほどまで抱えていた胸騒ぎの正体が、自身の追手だとこの時の彼は確信。すぐに逃げようと窓へ飛び込もうとした時である。

「はぁぁ!」

「何!?」

 ドアが木っ端微塵に破壊され、たまはモップを持って部屋に無理やりと入って来た。

 そう。たまは視線の正体を見つけると、彼に自ら注意を加えるべく、この西側のアパートへと訪れたのである。自慢の怪力を発揮してドアを破壊した後、彼女はモップを恭二に差し向けていた。

「皆さまが迷惑していたので、注意をしに来ました。ずっと眺めていては、ただのストーカーですよ」

 無表情のまま、淡々と恭二に注意するたま。一方で恭二はたまに自身の正体を見破られたと勝手に思い込み、なり潜めていた態度を急変させていた。

「う、うるさい! 僕のささやかな楽しみを奪って! カラクリ風情が人間様に逆らうな!」

 と恭二は刀を引き抜いて、たまへ無理やり襲い掛かろうとした……その時である。

「はぁぁ!」

「な、何!?」

 恭二の差し向けた刀に対抗するように、もう一本の刀がぶつかり、彼の攻撃を未然に防いでいた。たまに引き続き部屋に入って来たのは、

「山崎さん?」

「大丈夫、たまさん!」

彼女を追いかけていた山崎退である。彼は刀を引き抜いて、寸前のところでたまの窮地を救っていた。

「次から次へと!!」

 敵が増えたことで、より苛々を募らせる恭二。一方で山崎は刀を巧みに使って、恭二を跳ね返して彼との距離を離れさせていた。

「まさかこの部屋の主がアンタだったとは……ここで決着を付けさせるよ」

「何のことだ! 芋侍の分際で!」

 状況が読めないまま、無我夢中で山崎に襲い掛かる恭二。無論彼は山崎の正体が、真選組だと分からないまま、山崎へ斬りかかろうとしている。たまを守りながら恭二と対峙する中で、山崎はとっておきの秘策を恭二へぶつけようとしていた。

「いい加減に大人しくしろ!! たまさんのストーカーめ!!」

 と思いの丈をぶつけながら投げつけたのは、袋から開封したばかりのあんぱんである。

「な……うっ!?」

 思わぬ攻撃に怯む中で、恭二はそのあんぱんを顔にぶつけられ、ごく一部のあんこを口にしてしまう。

「貴様何を……って、腹が!!」

 その途端に恭二の腹に異変が起きて、彼は両手を抱えたまま悶えてしまった。大きな痛みがお腹を襲い、まるで腹を下したかのように弱り始めている。

「そりゃそうですよ。だってさっきのあんぱん、消費期限半年前ですから。ここで使うなんて自分でも思わなかったですけどね」

 山崎の言った通り、先ほどのあんぱんはとっくに腐りきっているものであった。恭二を弱体化させる為に使用し、自分でもここまで効力があるとは思っていなかったので、若干気が引けている。

 いずれにしても、恭二が腹痛で野垂れ回っているうちに、山崎は彼の刀を回収。丸腰状態となり打つ手の無くなった恭二は、

「うっ!」

腹痛に耐え切れずそのまま失神してしまう。気絶の状態を確認すると、山崎は彼に手錠をかけて、二度と逃げられないように、彼の体を縄できつく縛っている。

 山崎とたま。二人の思わぬ活躍によって、恭二は瞬く間にその逃亡人生に終止符を打たれることになった。

「さてと、怪我は無かったですか。たまさん」

「えぇ、大丈夫ですよ。山崎さんの方は?」

「俺も全然。いやぁ~、腐ったあんぱんがあって良かったですよ」

 恭二の確保が一段落して、互いの様子を確認する二人。共に怪我は無く、一安心した表情を浮かべている。その上でたまは、やっと恭二の正体が攘夷志士だと理解していた。

「なるほど。この方は攘夷志士だったのですね」

「えっ? たまさんは知らないでこのアパートに入ったんですか!?」

「えぇ。ただ山崎さんが近くにいたことは知っていましたよ。」

「えっと、バレていたってことですか?」

「はい。ただ任務中なのは分かっていましたから、黙っていただけですよ」

 その上でたまは、山崎の監察についても把握し、それを本人の前で明かしている。彼女も山崎の役目や処遇については以前会った時に理解しているので、山崎の立場も考えて黙っていたのであった。

 それらを含めて、山崎の仕事が完遂したことを、たまは素直に労っている。

「少しお邪魔虫もいましたが、助けになれたようなら何よりです。これであんぱんと牛乳から、解放されますね」

「そ、そうですね! いやぁ~今日の夜から何を食べようか、悩んじゃいますからね。ハハ」

 山崎はたまに自身の疚しさが見抜かれないように、不自然にも笑い声を上げていた。

 任務のついでにたまも監視していたことが本人にバレれば……ただでは済まないと山崎も自覚しているのである。

(危ない! たまさんに自分の居場所がバレていたなんて……でも、俺のことを心配してくれて、少し嬉しかったな。恭二の確保にも手伝ってくれたし、本当感謝してもしきれないよ。たまさんには)

 内心でたまを覗いていたことは黙っておくとして、山崎は恭二の確保に手伝ってくれたたまにも密かに感謝を伝えていた。彼女がいたからこそ、発見や確保もスムーズにいったと思っている。いつかはその恩を返せるようにと、山崎は内心で強く誓ったのであった。

 こうして恭二を確保した山崎は、早速土方や沖田に報告しようと電話をかけようとする。

「じゃ、この後は俺ら真選組で後始末しておきますね」

「お待ちください、山崎さん。もしよろしければ、アナタにプレゼントしても良いですか?」

「プレゼント?」

 場を離れようとしたその時。たまに呼び止められて、彼女から不意にプレゼントの提案を勧められていた。突然のことに山崎は戸惑っていると、たまは淡々とその理由を伝えている。

「あんぱんと牛乳ばかりでは、栄養も不足して、体がなまってしまいますからね。山崎さんが好きそうな食べ物を作りますので、是非これを食べて栄養を付けませんか?」

「えっ、良いんですか!?」

「はい、少し待ってください」

 ただ単に山崎の健康状態を心配しての気遣いだった。想定外の出来事に山崎は困惑しつつも、たまの手料理がまた食べられると聞いて、内心で舞い上がっている。

(やった! 今度こそ美味しいたまさんの料理を食べられる! でも俺の好きそうな食べ物って……何を思いついているんだ?)

 一つ引っかかっているのは、たまの言った山崎の好きそうな食べ物と言う文言だが……山崎はこの際、あんぱん以外ならなんでも良いと考えを放棄していた。

 とワクワクと期待を募らせる山崎だったが……出来上がった料理を見た瞬間に、その期待は一気に不安へと移り変わってしまう。

「おへぇ! はい……もんじゃです」

「えっ?」

 いつも通り体内で作り、嗚咽音と共に作られていたのは……もんじゃ焼きであった。

 このもんじゃ焼き。以前にたまと山崎が、万事屋や真選組を巻き込んでお見合いをした時にも出てきており、その時は紆余曲折あって食べられなかったのだが……今回この機会にまた作られたのだ。

 当然たまは善意の元で作っているが、山崎からすればまたも訪れた危機に大きな不安を感じ取っている。なぜならこのもんじゃ焼き、ほぼ嘔吐物にしか見えないので、見た目からして食欲がそそられないのだ。以前口にしなかったのも、この見た目が原因である。

「も、もんじゃ?」

「はい。以前食べ損ねていたようなので。好きですよね?」

「……そ、そう! いやぁ、美味しく頂くよ。たまさん!」

 たまの穢れの知らない表情を見ると、山崎自身も断りづらかった。何より前回とは異なり、自分の苦労を労う為に作ってくれたもので、食べるという選択肢以外存在しないのである。

(だ、大丈夫だよね!? 今回は食べても問題無いよね!? 本当に良いんだよね!?)

 以前のような不安はあるものの、ためらっていても仕方ないと思い、山崎は勢いよくたまの作ったもんじゃを口にしたのであった。

「……だはぁぁぁ!!」

 やはり嘔吐物の印象を払拭することは出来ず、一口食べた瞬間にまたしても吐き出してしまう。

 しかもその大半を、たまの顔にかけてしまっていた。

「あっ、たまさん……えっと、これは! ぎぁぁぁっぁぁ!!」

 たまは無言のまま、山崎をモップで滅多打ち。彼に強烈な一撃を与えて、そのまま気絶させていた。

 

 こうして大小の違いはあれど、東西南北にいたストーカー共は、皆揃って自滅したのである……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな山崎の活躍によって、攘夷志士の新川恭二は無事逮捕。その日の内に取調室にて、土方と沖田は恭二に事情聴取を行っていた。

「ざまぁねぇな。兄貴がやられた時点で、お前に逃げ切るなんて道は無かったんだよ」

「何とか言ったらどうですかい、負け犬」

 土方と沖田は恭二に強く当たっており、とっとと彼自身の犯行を自白させようとしている。二人は彼の兄である昌一が倒されたことで、恭二にもう勝ち目なんて無いと最初から分かりきっていたのだ。

 恭二を問い詰めていく二人だったが……肝心の本人は突然態度を豹変させている。

「違う……」

「なんだ?」

「違うんだ! 兄は生きている! 僕はこの耳で知ったんだ! 兄が別の星で、暗殺者として活躍しているのを!」

 血走った目で恭二が訴えたのは、昌一の死の否定だった。彼の荒唐無稽な主張に、土方と沖田は共に困惑してしまう。

「おいおい、とうとう頭が可笑しくなったのか?」

「おっかしいな。こいつの兄の昌一は、俺ら一番隊が斬ったはずなんですがねぇ」

「フッ。何かの間違いですよ」

 依然として怯むことなく、兄の生存を信じ続ける恭二。その狂気的な姿勢から、沖田と土方は手詰まりを覚えて、一度取調室を退出していた。

「おい、総悟。どうする? あれじゃ演技なのか、マジなのか判別出来ねぇぞ」

「しゃあねぇな。なら俺の本気を出すしかないですねぇ。アイツを絶対服従の奴隷に仕立て上げりゃ、とっとと罪も認めるんじゃないですかい」

「警察のやることじゃないだろ」

 共に取り調べが長期化することを懸念する二人。最終手段として沖田は恭二への調教を提案するも、土方は即座に否定していた。

 恭二への今後の対応を考える中で……沖田はふとある仮説を思いついている。

「いや、もしかするとアイツの言い分も間違ってないかもですねぇ」

「はぁ? それどういうことだよ? まさかゾンビになって生き返ったとか言うんじゃねぇよな?」

「違いますよ。俺が言いたいのは、別世界の昌一の可能性でさぁ」

「別世界……まさか!?」

「そう。もし黒剣さん達の世界にも、新川昌一と同じ人間がいて、そいつがこの世界にやってきたとしたら。まぁそうでもしないと、アイツの供述の辻褄が合わないと思いやしてね」

 そう。沖田は恭二の聞いた噂話の正体が、この世界の昌一ではなく、別世界の昌一であると考えていた。キリトやアスナのいた世界にも同じような人物がいれば……恭二の供述にも合点がいく。

「別世界の新川昌一……あり得ることなのか?」

「さぁ。でもサイコギルドっていう不確かな奴らがいる以上、その可能性もあるってことだけは否定しない方が良いんじゃないですかい」

「だとしたら、かなり面倒な状況だな」

 沖田の仮説に最初こそ否定的だった土方だが、徐々にその考えも否定できなくなっている。何より普段から関わる機会の多いキリトやアスナ達も、元々はこの世界の住人ではない。別世界に似たような人間がいても可笑しくないと思い始めている。

 いずれにしても二人は、恭二の取り調べが長く続くことに気を引き締めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして……別の次元にある刑務所では、その世界に存在するはずのない何かが一人の男に向かって、話しかけていた。

「お前の望みを言え。どんな望みも叶えてやる。お前が払う代償はたった一つ……」

 その正体は如何に……




 今回はストーカー共が集結するお話でした笑 東西南北のマンションに、タイプの違うストーカーがいるのは怖すぎる。まぁ、全員粛清されましたが笑
 因みにシノンは銀魂世界の新川兄弟については知らないままです。全くの別人なので、明かさなくても良い気がしますけど。

 それと二つほど伏線が出てきました。
 一つはブルー霊子の回。これは元々予定していていた日常回ですが、諸々の事情で延期となってしまいました。なので刀唱時代篇に区切りが付けば、製作出来そうです。
 そしてもう一つが、ラストの一言。銀魂世界の恭二が語った昌一の姿とは。この展開がもしかすると、次々回の長篇である架創決戦篇のヒントに繋がるのかもしれませんよ。









次回予告

アスナ「いよいよユッキー達が地球へ! 早く出迎えに行かないと!」

銀時「落ち着けよ。出迎えってたって、姫様の護衛で手一杯だろ」

神楽「それが、真選組共が代わりにやるから、六人全員オフの時間を過ごせるアルよ」

銀時「はぁ!?」

キリト「い、意外な展開だな……」

ユイ「でもこれで、皆さんと江戸の観光が出来ますね!」

アスナ「次回! ファンの熱気は時に異様な雰囲気をもたらす」

新八「本章の日常回篇もあと少しですよ!」
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