夕焼けが沈み辺りは、暗闇に染まり始める。かぶき町の夜はネオンの光に包まれ、いわゆる夜のお店が営業を始める時間だ。その夜道を走ってゆく一台のスクーターと一匹の巨大犬、そして空を飛ぶ二人の妖精。そう、万事屋と新たに加入した別世界の住人キリト達である。風を浴びながら、住処である万事屋に戻ろうとしている途中なのだ。
「あ~疲れた。帰ったら、いちご牛乳摂取しねぇと調子戻んねぇなぁ」
「ちょっとしっかりしてくださいよ、銀さん! まだ、コラボして一話しか経っていないのにだらしなすぎですよ!」
運転中にも関わらず銀時と新八のやり取りは、漫才のように交わされる。あくびをしながらもスクーターを動かしているため、とても安全運転とは思えない。
「銀さーん! ちゃんと動かさないと、今日の昼みたいなことになるよー!」
「うるせぇ! わかっているから、てめぇは口出しするんじゃねーよ!」
キリトにも注意されようやく運転はバランスを取り戻す。彼の不注意が今日の衝突事故を起こしたのだが、そのおかげでキリトは万事屋と出会えた。この件を彼は、怪我の功名のように思っている。
(まったく、銀さんってば……でも、事故のおかげで出会えたってことは、ある意味奇跡だよな……)
そう心の中で彼は呟いたのだ。一方で、神楽もアスナ達へ話しかけてくる。
「それで、みんなは他に聞きたいことはないアルか?」
「そうね。万事屋って週に何回くらい働くの?」
「不定期アルよ。仕事が入り次第進めていく形ネ!」
「えっ!? 決まってないんですか!?」
万事屋の仕事事情に驚きを隠しきれないユイ。神楽の言う通り万事屋の家計は全然安定していない。かろうじて生活は保っているのだが、いつも神楽と定春の食費代にかかりおかげで毎月金欠なのだ。
「それ、大丈夫なのか?」
「そんな心配しなくていいネ。人数も増えたからきっと仕事も増えてくるアルよ! あっ、でも家賃が溜まっているからそれも払わないといけないアルな」
しかも、神楽は万事屋の賃貸事情まで明かしてしまった。これで、万事屋はとてもお金に困っている組織であることが発覚してしまう。
「えっ? 銀さんって家賃払っていないの?」
「そうネ! 毎回大家のババァにこっぴどく叱られボッコボッコにされているアルよ!」
「おい、神楽! これ以上言うんじゃねぇよ! 万事屋の信頼が下がっちまうだろうがぁ!」
「銀さん。もう手遅れだと思います」
いくらフォローを入れようと、もう事実を変えることはできない。万事屋の経済状況を知り、キリトらは申し訳ない気分に陥ってしまう。
「何か、ごめん銀さん……」
「私達、なるべく迷惑かけないようにするね……」
「お金に困っても借金なんかしたらダメですからね!!」
「おぃぃぃ!! やめてくれ!! 変な気の遣い方しないでくれぇぇ!! 普通でいいから!! 俺が悪いことしたみたいになってんじゃねぇかぁ!!」
場の空気に耐えられなくなり銀時がついツッコミを入れる。そして、煽るように新八や神楽、定春までも細い目で呆れた表情をしていた。
「って、なんでてめぇらまで同じ表情でこっち見てくるんだよ!! おかしいのは俺か!? 俺だけなのか!?」
銀魂らしいグダグダな空気が漂いながら、一行は万事屋へと進んでいく。
数分後、ある建物へと到着した。一階にはスナックがあり、二階の看板には大きく「万事屋銀ちゃん」と書かれた看板が設置されている。ここが、これからキリト達の住む万事屋なのだ。
「着いたぞ。ここが万事屋だ」
「もう、着いたんですか!」
「へぇ~ここが万事屋なんだな」
外観は、茶色をベースとしており和風なイメージを持ち合わせている。ある程度説明すると銀時ら四人はスクーターや定春を止めて降り、キリトやアスナも羽を閉じて地上へ降り立つ。
「ここが今日から住む場所なのね!」
「そうアル! さぁさぁ、早く上がって色々説明するアルよー!」
人一倍張り切る神楽。そんな一行が階段を使い万事屋へ上がろうとした時だった。
「ん? おや、銀時様方ではありませんか?」
「あっ、たまさん! こんばんわ! お仕事ご苦労様です!」
突如、一階にあるスナックから女性が出てきて話しかけてくる。振袖風の服を身にまとい、耳には特徴的なヘッドホンを付けた緑髪の女性だったが、どこか機械的に話す姿にキリトらは違和感を持ち始めていた。
「えっと、この人は銀さん達の知り合いか?」
「そうだぜ。たまって言うカラクリ家政婦だ。下のお登勢んところで働いてんだよ」
女性の名前はたまと分かったが、一つ気になったのはカラクリ家政婦という言葉である。
「カラクリ家政婦? って、何なの?」
「えっと、それはだな――」
「それについては私が説明します」
話を聞きつけ本人であるたまが、直接キリトらへ説明してくれた。
「カラクリ家政婦というのは、文字通りカラクリで出来た家政婦のことです。わかりやすく言うと、人工知能を搭載したお手伝いロボット。ドラえも〇と同じものだと思ってください」
「ちょっと、たまさん!? いきなりボケをかまさないでくださいよ!?」
聞いたことのある某猫型ロボットも出たが、わかったのは彼女が人間ではなく機械の体を持った人工知能だということだった。
「つまり、たまさんは人型ロボット――アンドロイドってやつか?」
「その通りです」
「そうなんですか! 少し、親近感が沸きます……」
キリト達はたまの事情をようやく理解する。特にユイは、たまと同じく人工知能を持っているので彼女への興味が一層持ち始めていた。続いてたまも、万事屋にいた見慣れない少年少女の存在について聞いてくる。
「ところで、銀時様。こちらの方々は一体誰なのでしょうか?」
「こいつらか? この女っぽい顔している男が、キリト。ヤンデレっぽい顔しているのが、アスナ。天然っぽい顔しているのが、ユイだよ」
「女っぽいって……」
「雑な紹介にも程があるわよ! そもそも、私ヤンデレじゃないからね!」
銀時の紹介は、ユーモアであったが聞く身からしてみればバカにしているようにしか見えない。それを聞きたまは、即座に自分の中のデータへと刻んだ。
「了解しました。ハーレム系主人公のキリト様。鬼嫁のアスナ様。幼女のユイ様。の三人ですね。データへ入れときました」
「まったく違うんですけど!? 小バカにしている以外の何物でもねぇよ!」
三人の外見も覚えデータにコピーしたが、たまも一ボケをかまして新八にツッコミを入れられてしまう。とそんな時、キリト達のある特徴的な部分へたまは気付く。
「ところで、キリト様達は耳がとんがっていますが、別の星から来られた天人なのですか?」
「ん? これか?」
それは、普通の人間とは違い鋭くとんがった耳だった。この銀魂の世界では、そのほとんどが別の星から来た天人扱いされるので、アスナも神楽には最初宇宙人と思われ勘違いされていた。興味深く聞くたまへ、新八が割って入る。
「あっ! それは、ちょっと訳がありまして……」
「訳とは?」
複雑な内情のため銀時や新八が数分かけて、たまへと説明した。
「そうですか。別の世界から来られたのですね」
「そうなんだよ。で、俺達が帰れるまで面倒を見ることになったというわけだ」
銀時らの説明を聞きたまは、感じ取っている。キリト達が、不安な感情に打ちひしがれていることを。別の世界で信じられる人ができたとはいえ、それでもまだ慣れてない様子は雰囲気から理解した。そんな三人へ向けて、たまは自分なりのアドバイスを加える。
「大丈夫です。彼らを信じてあげてください。普段は、バカなことをして「何をやってんだ?」と疑問を浮かべることもありますが、彼らはいい人達です。決して、皆さんを見捨てずに依頼を果たしてくれますよ」
「あの、たまさん? 今、マジトーンじゃありませんでした?」
一部ドスの効いた声で答えたたまだが、言い終えるとその表情はさっきとは違い微笑んでいた。彼らを信じてほしい。たまの言葉に、三人の心は励まされる。
「たまさん……わかったよ。励ましてくれてありがとうな」
「いえ。当然のことをしたまでです」
「さすが、たまアルな」
場の空気が、優しさで包まれて和やかなムードが流れていた。たまに対して信頼が生まれ始めていたその時、もう一人スナックから女性が現れる。
「お取込み中申し訳ないんだが、銀時ィ。いつになったら家賃を払ってくれるんだい?」
「ゲッ!? ババァ!!」
話かけて来たのは銀時達の大家さん、お登勢だった。妙齢の女性で、黒くくすんだ着物とつねに持っている煙草が、キリトらへ強烈な印象を持たせる。見た目から威圧感があり、とても怖く感じ取っていた。
「えっと、あのおばあさんは一体誰なんだ?」
「お登勢様です。銀時様の大家さんで、いつも家賃を滞納する彼らに対して怒鳴り散らすのが恒例となっています」
「何だか怖いですね……」
「心配ありません。アレは銀時様にのみ行うコミュニケーションです。他の方々には優しく接してくれますよ」
ユイらはお登勢の威圧さに恐れを抱いていたが、それはあくまで銀時のみの話である。と、たまは言ったのだが、
「おめぇわよぉ! いくらツケを溜めれば気が済むんだ! ゴラァァァ!!」
お登勢の怒りは容赦が無かった。顔芸とも捉えることのできる鬼の形相が銀時へ対して襲い掛かり恐怖を与える。しかも店から、もう一人の従業員が加勢に入った。
「ソノ通リダヨ! イイ加減二シネェトテメェノタマヲ抜クゾ! コラァ!」
現れたのは、緑の和服を着た中年女性。片言でしかも頭には猫耳が生えていた。
「おい、てめぇら!! 二対一は卑怯だろうがぁ!!」
「うるせぇ! てめぇがいつまでも払わないのが悪いんだろうがぁ!」
「イザトナレバ実力行使シテヤル二ュ!」
不利な状況でも銀時はひるまず、一進一退の攻防が続く。その様子にキリトらはというと、
「まるでボス戦だな……」
「迫力なら大型モンスターにも負けないわね……」
呑気に分析するのであった。
「あの、感心しないでもらえますか? うちの大将の不祥事なので……」
新八は小声でツッコミを入れるしかない。一方で、キリトらが気になったのは中年女性の存在だ。
「ところで、あの女性は一体誰なんですか?」
ユイの質問に神楽が答える。
「あっ、アイツはキャサリンアル! どっかの星の天人で猫耳の生えたおばさんアルよ!」
「誰ガオバサンダ、コラァ!!」
キャサリンと言う女性で神楽と同じく別の星から来た天人だった。神楽以上の片言で、日本語がまだ慣れていない。失礼なことを言った神楽はキャサリンから一喝されてしまうが、アスナがフォローに周る。
「神楽ちゃん。こういう時は、場をわきまえなきゃダメよ。例え相手がおばさんでもお姉さんと言わないと。ねぇ、おば……お姉さん」
「丸聞コエダヨ!! ソモソモオバサンッテ言イカケタダロウガ!!」
しかしアスナもボケに参加してしまい、一層ツッコまれたのであった。そんなキャサリンの外見にある猫耳を見て、ユイは元の世界にいた仲間をふと思い出す。
「そうなんですか! それなら、私達の仲間と同じですね!」
「仲間? 誰ですか?」
「シリカさんとシノンさんです! 二人共アバターが、ケットシーっていう妖精で、猫耳と尻尾を生やしているんですよ! あっ、でもママと同じくらいの年齢なのでキャサリンさん程の年齢ではありませんから!」
「ダカラ丸聞コエダッテ言ッテンダロウガ!!」
またもキャサリンからツッコミを入れられる。一方で、シリカやシノンといったアスナの仲間達を紹介され、神楽は強い興味を持ち始めていた。
「おお、そうアルか! 他にどんな仲間がいるアルか?」
「他は女子ならリズやリーファちゃんとか? 男子ならクラインやエギルくらいかしら?」
「やっぱりアッスーみたいに強いアルよな!! みんなと戦って無双してみたいアル!!」
「ハハ、神楽ちゃん。もし戦う機会があっても少しは手加減してね……」
どうやらアスナと同じく勝負したいみたいで、テンションも大きく上がっている。それを聞いた彼女は、苦笑いで返す。戦闘力が伊達じゃないので、本気をだせば圧勝されると思ったからだ。そんな話をしているうちに、銀時はお登勢らとの言い争いを収めた。今回はキリト達がいたので、またの機会と持ち越しになる。
「ったく、ロクなもんじゃないよ。あんたらもこんなバカ侍にむかついたら、遠慮なく殴っていいんだよ」
「は、はい……」
「それと、何かあったら相談しにきな。大変だとは思うけど力になれることならなんでもやるからさ」
「えっ!? それって?」
「なぁに。ただのババァの戯言さ。受け取るのも受け取らないのも好きにしな」
最後にお登勢は、キリト達へ励ましの言葉で返した。彼女もこっそり話を聞いておりキリト達の正体を理解している。なんだかんだで頼りになる人であるとわかり、お登勢に対する印象が大きく変わった。
「マァ、コンナロクデナシガイヤニナッタラコッチヘクルンダヨ。私ノカワリニ働イテモラウ二ュ!」
「それ以前にてめぇが働け!!」
「では、私達はこれで失礼します」
キャサリンへの印象は変わらなかったが。そして、一通りの挨拶を済ませると三人はスナックへと戻っていき、周りは嵐が去ったように静まり返ったのだ。
「銀さん達の知り合いって個性的な人ばかりだな……」
「それ、どういう意味だよ。まぁ、そんな奴等ならこれからもっと出てくるよ」
キリトは、改めてこの世界の住人の個性に驚いていたが、それはまだほんの一部に過ぎない。一段落着いたところで、ようやく万事屋へ足を踏み入れるのである。
「ここが万事屋の内部だよ」
「へぇ~ここが」
「思っていたより広いわね」
「おい、少しバカにしてねぇか?」
鍵を開けて中へ入ると、その内部は想像以上の広さかつ清潔な印象を与えていた。三人が加わっても生活するには十分であり、雰囲気も落ち着いている。なおかつ、家電や生活品も揃っていた。ALOにあったログハウスほどではないが、それでもキリト達は万事屋の部屋に納得している。
「トイレやお風呂は、右側の部屋で左はキッチン。ここがリビングで、左側の和室が寝室ですよ」
「なんか、モデルルームの紹介みたいアルな」
新八が軽く部屋の説明をしていると、ここでユイから素朴な疑問が浮かぶ。
「あの、すいません……」
「ん? どうしたアルか、ユイ?」
「ふと思ったんですけど、寝床ってどうします?」
「「「「「あっ!」」」」」
その場にいた全員が、重要な事実に気付く。寝床をまだ決めていなかったのだ。普段は、和室で寝ている銀時達だが、長期滞在する以上はキリト達の寝床もちゃんと決めなくてはいけない。一同は悩みに悩んでいる。
「う~ん。どうしょうか……新八は外せば何とかなるか」
「いや、そんな気を遣わなくてもいいんだが」
「いえ、大丈夫ですよ。僕はここに住んでいませんし実家通いですから」
「えっ!? そうなの、新八君?」
「はい、そうですよ」
話し合いをしているうちに、新八が万事屋に住まず実家通いであることがわかった。彼は、実家である恒道館で姉と二人暮らしなので基本万事屋には住んでいない。今日も案内をしたらそのまま帰る予定のようだ。
「それじゃ、ここに住むのは銀さんと神楽と俺達だけってことか?」
「そういうことになるな。一応、こいつらは非正規雇用みたいなもんだから部屋は少し余ってんだよ」
「そうなんだ……」
家族のように思われた万事屋の意外な一面である。それはさておき、銀時は手っ取り早くキリトらへ要望を聞く。
「じゃ、てめぇらはどうする? 寝るにしてもこの和室しかねぇぞ」
「うん。なら、やっぱり三人一緒に寝た方がいいわよね?」
「三人か。まぁギリギリ大丈夫だろ。俺は屏風で囲めばいいし、お前らの要望通りここにするか」
彼らの要望を受けいれ、和室を寝室場所として提供することにした。仮想世界と同じくこの世界でも一緒に眠れることになり、キリトらのテンションが大きく上がる。
「ありがとうな、銀さん」
「これで、三人一緒に仲良く寝れるもんね!」
「よかったですね!! パパ!! ママ!!」
喜びを分かち合い笑顔をこぼす三人。幸せそうな場面であるが、突如そこに冷たい視線が刺さる。振り返るとそこには、鬼の形相でキリト達をにらみつける銀時らの姿があった。そして、思いっきり聞こえる声で恨み節をこぼす。
「おい、新八ィ。神楽ァ。よく目に焼き付けておけ。あれがラノベ界のリア充だぞ……」
「本当羨ましいですよ……あのままチリとなってしまえばいいのに……」
「あたいら万事屋がそばにいる以上は、イチャイチャもムラムラもできないことを忘れるなよぉ!! 未成年どもぉ!!」
もはや顔芸ともとれる三人の姿に、キリト達は黙り込んでしまう。ちなみにずっと静かにしていた定春でさえ、銀時らと同じく唸り声を上げてじっと睨みつけるのだ。
「あの、何か威圧感を感じるんだけど……銀さん達のまわりに紫色の邪気が見えるのは気のせいだよな?」
「ハハハ、気のせいに決まってんだろ?」
「そうだよなー! ハッハッハッ――」
冗談を言って笑いあう二組。しかし、銀時の目が本気だったことに、こっそりと恐怖を覚えるキリトであった。リア充と非リア充の二組が同棲した初日は波乱の連続である。と落ち着いたところで話題を変えて、アスナは神楽の寝床について聞いていた。
「ところで、神楽ちゃんはいつもどこで寝ているの? みんなと一緒に和室で寝ているの?」
「いいや。あそこアル」
「あそこ?」
そう言って神楽が指をさしたのは、押し入れだった。
「えっ? 押し入れなの?」
「そうアルよ。こんな、馬鹿共と一緒に寝るくらいなら押し入れで寝た方がまだマシネ。あっ、そうだ! 今度アッスーやユイと一緒に寝る時はここを使うアル!」
神楽は自分のひらめきに納得して満面の笑みをするが、それとは裏腹にアスナの表情はだいぶ困っている。そして、彼女の肩を掴む。
「神楽ちゃん。せめて、一緒に寝る時は和室にしましょうか……」
「えっ? わかったアル」
さすがに押し入れで三人分寝るのは無理があり、なんとか神楽を説得するのであった。
(やっぱり、神楽ちゃんって個性的な女の子ね……)
自分のいた世界には滅多にいない個性的な女の子に驚かされ、心の中でそっと呟く。
それから、万事屋としての説明は大方終了した。
「はぁー、とりあえず言うべきことは全て言ったな。まぁ、ホームステイみたいなもんだし軽い気持ちで過ごしていけよ。さて、それじゃ飯にすっか」
安心したところで、一同はまず夕食の準備へと入っていく。
「確かにもう十九時だしな」
「そういえば、料理って万事屋は誰が作っているんだ?」
キリトの問いに新八が答える。
「基本当番制ですよ。ローテーションで決めていくんです」
「それじゃ、みんな料理は得意なの?」
今度はアスナが銀時らへ問いかけた。
「まぁ、一人暮らしが長かったから俺は大抵のモンは作れるぜ」
「僕は、あの姉上がいますから最低限の料理は作れますよ」
「姉上? ということは、新八さんは弟ということですか?」
「そうアルよ。まぁ、このことは明日じっくり話すネ。ちなみに私は卵かけご飯が得意料理アル!!」
「神楽ちゃん、それ料理なの?」
会話の中で新八に姉がいることや神楽の好物が卵かけご飯だとわかり、万事屋への理解を深める。さらに一応全員料理はできるらしく、万事屋が当番制で料理を作っていることもわかった。すると、今度は銀時がキリト達へ問いかける。
「でよう、テメェらの方はどうなんだ?」
「フフーン! よくぞ、言ってくれたわね! 料理は私にとって得意分野よ!」
すると、待っていましたと言わんばかりにアスナは自信満々に答えてきた。アスナの料理技術はレベルが高く、仲間達からも多くの高評価を頂いている。これには、神楽が大きく反応した。
「おおー、そうアルかー! なら、私アッスーに作ってほしい料理がアルネ!」
「任せてちょうだい! で、どんな料理なの?」
「卵かけご飯アル!!」
「えっ!?」
神楽のリクエストに言葉を詰まらせるアスナ。彼女が上げたのは、好物の卵かけご飯だった。簡単な料理を言われてしまい返答に困ってしまう。
「も、もっと本格的な料理でいいのよ……」
「ん――ならタンドリーチキンパイ包み焼きを作ってほしいアル!」
「急に難しくなったわね!? メジャーとマイナーの差が激しすぎるわよ、神楽ちゃん!?」
結局、難しい料理を提案されて、ついツッコミをしてしまったアスナである。一方で、料理をできるのは彼女だけではなかった。
「それで、キリトさんやユイちゃんは?」
「俺もだいたいのものは作れるから不得意ってわけじゃないよ。ユイは練習中だもんな」
「はい! その通りです!」
「そうか。じゃ二人の分を加えてまた新しく作り直すか」
キリトも料理できることが分かったので、銀時は改めて料理の当番表を組みなおすという。そして、一段とお腹が空いている今日の担当は、
「それで、今日は――」
「あっ、私アル!!」
「神楽ちゃん!? ということは」
「みんな、待っていてネ!! 今、とびっきりおいしい卵かけご飯を作ってくるアル~!!」
生憎にも卵かけご飯を得意料理とする神楽だった。張り切る彼女とは異なり、一同の空気は微妙になっている。さらに、アスナの心の中にはある決意が生まれていた。
(神楽ちゃんに卵かけご飯以外にもレシピを教えないと……)
料理好きとしてのプライドが黙っていなかったのである。
「まぁ、順調ってところだな」
銀時の言う通り、彼らがこの生活に慣れるのも時間の問題であった。
こうして時間は過ぎていく。神楽の作った卵かけご飯で夕食を済ました後、順番を決めて風呂へ入り一日の疲れをとる。新八は実家である恒道館へと帰り、万事屋には五人だけとなった。銀時や神楽の持つ寝間着のスペアをキリト達が着て、ゆっくり五人が過ごしていると、気付けば自然と眠気が出てくる。
「もう二十二時アルか。早いけど私は、先に眠るネ。おやすみアル」
「おやすみ、神楽ちゃん」
まずは、神楽が就寝につき押し入れへと入った。それに続きみんなも疲れが溜まっていたので、早い時間だが眠りにつくことにする。
「じゃ、俺も眠いから先に寝るわ。明日は、挨拶回りするからてめぇらも早めに寝とけよ」
「うん。おやすみ、銀さん」
銀時も布団へ入ると、そのまま寝てしまう。
「それじゃ、私達も」
「そうだな。寝るか」
部屋の明かりを消して、キリトら三人も和室で眠ることにする。布団へ入ると、少し今日一日の出来事を話していた三人。しかし時間が経つにつれて次第に口数も減っていき、いつの間にかアスナとユイは眠りについていた。
「寝ちゃったのか?」
現在、起きているのはキリトだけである。彼も眠いのだが、ふと思っていたことがあった。元の世界にいる仲間達が今どうしているのかと。不安が募り気になって中々寝付けない。
「大丈夫かな……みんな」
あまり口に出さない弱音を吐いていた時だった。
「どうした? なんか抱えているのか?」
「うわぁ! 銀さん? 起きていたのか?」
急に銀時が屏風越しに話しかけてくる。彼はまだ起きており、キリトもつい驚いてしまう。
「シー。静かにしろ。気付かれたらことだからな」
小声で話して、ここからはふすま越しに二人の会話が短く交わされる。
「で、どうしたんだ? まぁ、別の世界へ来て初めての夜にどうしたもこうしたもねぇがな。正直に話してみろ。おめぇの家族も今は寝ているみたいだしな」
「……わかったよ。実は――」
キリトは銀時へ元の世界にいる仲間について話し、不安をかけているのではないかと悩みを打ち明けたのであった。
「そうか。約束している時にこの世界に来ちまったってことか?」
「そうなんだよ。アスナやユイは気を遣って大丈夫って言ってくれたけど、俺はそうは思わなくて」
「告白を待つ男子中学生か? コノヤロー。考えたってどうにかなることじゃねぇし、今はそんなに考えることでもねぇだろ」
「そうだけど……」
「それより、明日のことを考えろよ。気持ちは十分楽になるぜ。俺だってそうやって気楽に生きてんだ。なんでも気にしすぎると、見えるモンも見えなくなっちまうぜ……」
「銀さん……」
銀時の優しくも重みのある言葉がキリトの心に刺さる。普段はだらしなく見えるのに、いざという時は頼りになるその姿は、好印象を与えていた。
「ありがとうな。励ましてくれて」
「別にどうってことはねぇよ。それと、一つ言い忘れてたわ」
「ん? なんだ?」
すると銀時は少しの間黙り込む。そして、キリトへかけた言葉は、
「〇ッ〇スする時は、あんまり声を上げるなよ」
「えっ?」
まさかの下ネタであった。
「それじゃ、おやすみー」
「って銀さん!? 最後の最後で下ネタを言わないでくれよ!? ちょっと聞いてる!?」
キリトのツッコミに返すことなく、銀時はそのまま眠ってしまう。
「グァァァ! ゴォォォ!」
「寝るの早!? ――まぁ、いっか」
マイペースな銀時に呆れつつも、キリトは一旦気持ちを落ち着かせる。布団へ入り直し、再び眠りにつくことにした。
「おやすみ。アスナ、ユイ。神楽、定春、新八。そして、銀さん」
ゆっくりと目を閉じて、この世界で初めての夜をキリトらは過ごしたのである。
まだこの話では、サブキャラクターは出てきません。次回の話で一気に出てきます。お楽しみに!