そして……ハロウィンイベントは当日を迎えた。会場となったかぶき町の繁華街には、多くの出店が立ち並び、子供達はお菓子を貰う為にコスプレの準備をし、大人達は日ごろの鬱憤を晴らすべく奇抜なコスプレの準備を進めていた。
イベントの本格的な開始まで、おおよそ後一時間。イベント本部の特設テントでは、キリト、新八、アスナ、ユウキの四人が待機しており、銀時と神楽はとある要人の着替えを手伝っていた。
そう。今回この六人は、将軍こと茂茂直々の依頼で、彼の警護に付くことになったのだ。
「それでは、皆さん! 頑張ってくださいね!」
「うん。行ってらっしゃい、ユイちゃん!」
「迷子にならないようにな」
「はいです! 行きましょう、定春!」
「ワン!」
一方でユイは、友人達とハロウィンイベントを楽しむために、待ち合わせ場所へと向かう。彼女は魔女風の格好をして、大いに仮装を楽しんでいた。キリトやアスナも、ユイと彼女に同行する定春をにこやかな笑顔で見送っている。
その後に彼らは、現在着用している服について話を交わしていた。
「ふぅ~。それにしても落ち着かないわね、この服装」
「なんたって真選組の制服だもんな」
「そう? 二人共、とっても似合っていると思うけど」
「だと良いんだけど……」
微妙な反応を示すキリトやアスナに対し、ユウキは率直な意見を発する。今回キリトらは護衛の任務に当たり、特例として真選組の隊士服を着用していた。近藤、土方、沖田が主に着用している幹部クラスの隊士服を、この場にいる六人が着用している。普段見かける知り合いと同じ服を着ているだけでも、キリトやアスナにとっては違和感しかないのだ。
そんな二人をユウキが宥めていく中……新八は頭を抱えたままずっと座り込んでいる。
「将軍の護衛か……」
「大丈夫か、新八?」
「あぁ、大丈夫です。以前にも同じようなことがあったので、余計にプレッシャーを感じていて」
「以前? 万事屋って将軍の護衛もやっていたの?」
「護衛と言うか、巻き込まれたというか」
キリトらは新八の言ったことが気になり、詳しくその「以前」のことについて聞いていた。新八は彼らに茂茂との思い出について語り、キャバクラ、髪結処、スキー場など、茂茂と出会ったことで起きたトラブルを、余すことなく三人に明かしていく。(なお、キャバクラと髪結処は変装していた為、茂茂側は未だに気付いていない模様である)
「――ハハ。凄い偶然だね」
「エンカウント率が高くないか……?」
「会う度に騒動が一悶着起きているのね……」
ユウキ、キリト、アスナは苦い表情を浮かべつつ、新八らの苦労を大いに察していた。彼が頭を抱えるのも納得の巻き込まれ方と、あまりにも多い茂茂との遭遇率に、皆何とも言えない気持ちを感じている。
「むしろ今まで無事だったのが奇跡だったんですよ。だからこそ、今回も同じことが起きないか不安で」
「大丈夫だと思うよ。さっきみたいなこと、頻繁に起きないでしょ。多分……」
不安に押しつぶされそうになる新八を、ユウキがそっとフォローしていく。彼女の励ましで、新八も徐々に落ち着きを取り戻しつつあった。
「そうよ。それに今回は、キリト君を気に入っての指名なんだから、そう厳しくないと思うわよ」
「守ることには慣れているし、六人もいれば大丈夫だと思うけどな」
「なら良いですけど」
アスナやキリトも新八にフォローをかけている。彼らは過去の経験から、護衛に関してはかなりの自信があった。数多の修羅場を潜り抜けている二人の言葉を信じて、新八もそっと気持ちを切り替えている。
と四人が話していた時に、ようやく茂茂側の準備が終わっていた。
「おーい、将軍の仮装が終わったぞー」
「今そっちに行くアルよー」
「やっとかー」
「仮装ってどんな格好を……」
皆が試着室の方に目を向けると、そこには隊士服姿の銀時と神楽。そして……とっておきの仮装をした茂茂が姿を現していた。
「ほい、お待たせっと」
「可愛い熊ちゃんの登場アルよー」
「って、ちょっと待てぇぇぇぇ!!」
のだが……異彩を放つ仮装に、新八は反射的に激しいツッコミを加えている。何故かというと……茂茂は首を縄で締められたマスコット系のクマの着ぐるみを着用していたからだった。
「おい! なんだよその恰好!? 初っ端から衝撃的すぎて、どこからツッコミを入れれば良いんだよ!!」
「何言ってんだよ。これはぶらっクマ。かぶき町に実在した幻のマスコットキャラだろ」
「ハロウィンで言うゾンビやミイラ男みたいなもんアルよ」
「嘘つけ! こんなおどろおどろしい熊、ハロウィンに解き放ったらダメだろ!」
銀時や神楽はさも当たり前のように話しているが、新八のツッコミが収まる気配は依然として無い。
そう。このクマの着ぐるみは、以前にかぶき町のマスコットキャラを考えていた時に出ていたぶらっクマ。某クマのキャラクターを模しており、世に出ないまま闇に葬られていたのだが……銀時らがかぶき町の倉庫からたまたま発見し、茂茂に被せたようだ。
この衝撃的なビジュアルには、キリトやアスナらも流石にドン引きしている。
「これ、子供泣くんじゃないのか……?」
「ちょっと悪趣味じゃない?」
「悪ふざけが過ぎるってば!」
三人からの反応は不評で埋め尽くされていた。
「ほら! キリトさんもユッキーさんもドン引きしているじゃないですか! つーか、肝心の将軍様はこれで良いんですか?」
新八は茂茂にも、ぶらっクマの仮装の感想を求めている。てっきり彼も嫌々着ているのかと思いきや、
「あぁ。余は問題ない。なぜなら将軍家は代々、着ぐるみと言う類に弱いからな」
「だそうだ」
「うるせぇよ! じゃもっと、ファンシー系に変えろよ!!」
茂茂からは特に不満は無かった。むしろ着ぐるみが着られて、大変喜んでいる様子である。茂茂に便乗してどや顔を決める銀時に、新八は的確なツッコミをぶつけていく。
いずれにしても、このまま祭りに向かうのは難しいと新八らは考えていた。芳しくない雰囲気を察して、銀時は即座に第二段階へと移っている。
「ったく、いちいちうるせぇな。仕方ない。第二希望の仮装にするか?」
「えっ? 第二希望?」
「流石に不味いと思って、保険を用意しているアルよ。この着ぐるみの間に、将ちゃんが着こんでいるネ」
銀時らは予備として、茂茂に別の仮装を施していた様子だ。それを聞き、新八やアスナらは安堵の表情を浮かべている。
「なんだ。最初から言ってくださいよ」
「てか、断然そっちの方が良いわよ」
「コスプレしている方が、視界も見えやすいからね」
「多分ぶらっクマよりは良いと思うぞ」
ユウキやキリトも賛同し、第二の仮装に期待を寄せていた。
「よし、じゃ見せるぞ。これが将軍のキャストオフだ!」
皆の期待が高まっているうちに、銀時と神楽は手早く茂茂の着ていたぶらっクマの着ぐるみを脱がしている。
そこから露わになった茂茂の第二の仮装は……
「さっきと何も変わってねぇじゃねぇかぁぁぁぁ!!」
全身を茶色いペンキで塗られたパンツ一丁の姿であった。無論首にはさっきと同じ縄が付けられており、まるでぶらっクマを現しているようにも見える。もはや仮装とはズレているような気もするが、銀時らの用意していた第二の仮装はぶらっクマのペイントアートだったのだ。
「何これ!? なんでパンツ一丁のまま、体中ぶらっクマのペイントアートになっているわけ!?」
「仕方ないだろ。万が一本家から苦情が入るかもしれないから、その保険の為に用意したんだよ」
「保険って、そっちの意味合いだったの!?」
銀時は万が一の苦情を考えての保険を用意していたようだが、どう捉えても着ぐるみ状態より悪化している。塗られている体の部分を除くと、ほぼ変質者には見えないからだ。
当然新八のみならず、キリトやユウキも茂茂のペイントアートには苦言を呈している。
「さ、さっきよりも悪化している気が……」
「てか、将軍様は本当にこれで良いの?」
仮にも一国の長の為、ユウキは茂茂がペイントアートについて、無理をしていないか心配していたが、
「心配は無用だ。将軍家は代々、ペイントアートと言う類に弱い。余は気に入っているぞ」
本人はやはりご満悦な様子だ。真面目な表情で会話を交わしている為、到底無理をしているようには見えず、むしろおおらかとも言える茂茂の対応に、キリトとユウキは思わず声を失ってしまう。
「だそうだ。まぁ、着ぐるみを着るか、ペイントアートのまま祭りに行くかのどっちか……」
と銀時が勝手に二択のまま、話を進めていた時である。
「はぁぁぁ!!」
「ぶふぉぉぉ!!」
アスナが彼に不意打ちをするように、思いっきり銀時の腹部を殴って来た。膝から崩れ落ちる彼の胸倉を掴み、アスナは怖い顔のまま銀時へ怒りをぶつけていく。
「どっちも却下よ」
「アスナ……!?」
「こんなの不謹慎か不審者の二択じゃないの……こんなのユイちゃんや子供達が見たら、教育に悪いでしょ? だから……このままやるならそれなりの責任を取ってもらうわよ!」
そう。アスナはさっきから、ぶらっクマのまま話を進めようとする銀時にただならぬ怒りを覚えていた。幾ら茂茂本人が問題ないと思っていても、どちらもユイが見れば……同じくドン引きすることは想像に難くない。ユイのみならず他の子供達への悪影響を考えて、銀時へ考え直すように問い詰めていたのだ。ただの実力行使にも見えなくは無いのだが……。
「お、落ち着け!! そもそもなんで俺だけだよ! 神楽だって共犯者……」
と銀時は神楽にも責任を負わせようとしていたが、
「アッスー。私はダメだって言ったけど、銀ちゃんが無理やりやれって……」
「へー」
「おい、てんめぇ! 土壇場で裏切るんじゃねぇよ!! お前の方がノリノリで、将軍にペイントしていただろ!」
神楽はあっという間にアスナ側へ付いていた。泣き顔を浮かべたままアスナへ泣きついていたが、その本心は銀時への責任の擦り付けである。当然アスナは神楽の言うことをまんま信じ込み、銀時への怒りを余計に滾らせていく。
そして、
「問答無用よ! 恥を知りなさい!!」
「え……ぎゃぁっぁあ!!」
帯刀していたレイピアを抜き、銀時へ容赦なく攻撃を浴びせている。銀時はかわす間もなく、アスナの制裁を受けることになった。
(ざまぁみろアル)
その様子を見て、神楽は心の中でほくそ笑んでいる。銀時が痛い目を見て、良い様だと思っていた。
と銀時がアスナから制裁を受けているうちに、新八、キリト、ユウキの三人は、茂茂の別の仮装について話を交わしている。
「とりあえず、どっちも無しで!」
「そうですよ! 将軍様。他にやってみたい恰好とか無いんですか?」
着ぐるみやペイントアートではない、まったく別の仮装の希望を彼に求めると……茂茂はある方向に指を指していた。
「他か……なら」
「えっ、俺の服?」
そう。その方向には、キリトが常に着用している黒い服がハンガーにかけられている。スプリガン用の服として着用している上着やズボンに、茂茂は気になっていたのだ。
「実はキリト君のファンシーな服装も、余は気になっていたんだ。良ければその服を着させてもらえぬか?」
「……しょ、将軍様が俺の服を?」
そして茂茂は凛とした表情のまま、キリトへ服の着用を嘆願している。当然の対応にキリト自身は困惑したが、茂茂のまっすぐな対応を目の当たりにすると、どうも断りづらかった。色々と考えた結果、ぶらっクマよりは流石にマシと思い、茂茂の依頼を了承する。
こうして茂茂はペイントアートで体に付いた塗料を洗い流した後に、キリトの上着やズボンを着用。満足げな表情を浮かべて、一同はいよいよハロウィンイベントの本会場へと歩みを進めていく。周囲に茂茂と悟られないまま、彼の護衛にキリトらは勤しむのだ……。
万事屋と茂茂が仮装の準備を進める一方で、ユウキ以外のスリーピングナイツの面々は、真選組と一緒に指定されたエリアの警備、又は護衛に早速当たっていた。
「改めて宜しくお願いしますね」
「おう、まぁ普段通りで良いからな」
「分からないことがあれば、何でも言ってくれよな!」
シウネーは今回行動を共にする近藤と土方に挨拶を交わしている。今回彼女達は、お祭りの本部会場にて、フレイア王女の護衛を任されていた。近藤らの後ろでは、フレイアが幕府関係者や町内会の面々と楽しく談笑している。
「にしても、本当にこんなテントで良いのか? ビルの一室貸切って、下から見下ろすことだって出来たんだぞ」
「いえいえ。姫様は民を第一に考えておりますから、直で交流した方が性に合っているのですよ」
そう言うとシウネーは、フレイアを温かく見守っていた。彼女の持つ慈愛や立ち振る舞いをよく理解しているからこそ、場所や身分など関係ないと思っている。
二人のただならぬ信頼関係に、近藤は大いに心を打たれていた。
「ハハ! そういえば昨日の会談も、将軍様と妙に話が合っていたよな」
「なんでそういうところだけ似ているんだよ」
思わず茂茂とも照らし合わせており、フレイアとの共通点を彼は探っている。土方も共感はしたものの、巻き込まれる側の苦労も理解している為、何とも言えない気持ちに苛まれていた。
一方で彼は、現在の茂茂の行方についても気にしている。
「つーか、近藤さんよ。本当にアイツらに護衛を任して良いのか? 不安しか無いが」
「流石に大丈夫だろう。なんたってキリト君にアスナ君、それにスリーピングナイツのリーダー、ユウキ君だっているんだからな」
「だといいが。野郎が一緒だとどうも胸騒ぎがするが……」
土方は銀時らが付いているだけで、変なトラブルを引き起こさないか非常に不安を感じていた。しかし近藤は、キリトやアスナ、ユウキに信頼を置いており、流石に三人も付いていれば大丈夫と高をくくっている。そんな近藤の反応も、土方は少しばかり気にしていた。
そう茂茂の件を頭の片隅に起きつつ、近藤はシウネーに昨日の休暇について聞いている。
「そういえば、シウネーさんは昨日の休暇は楽しめたか?」
「はいです! 初めての江戸はとても楽しめましたし、未知の料理も体験できましたから」
「未知の料理?」
詳しく聞き直すと、彼女の口から思ってもいない一言が飛び出てきた。
「お妙さんの作った卵焼きです! まさか地球にあのような珍味があったとは、驚きましたよ」
「珍味……まさかアンタ、食ったのか!?」
「はい。美味しく頂きました!」
シウネーのにこやなな笑顔とは対照的に、近藤と土方は共に絶句していた。彼らは妙の作るダークマターを知っており、あの料理の破壊力を嫌と言うほど見ている。故にシウネーの反応がにわかに信じられず、つい唖然としてしまったのだ。
「ト、トシ!? どういうことだ!? 本当にお妙さんの料理のことを言っているのか?」
「そう聞こえたが……というか、あの女の胃袋どうなっているんだ! 今まであの料理食って、無事で済んだ奴一人もいなかっただろ!」
「う、羨ましい……耐性があるなんて!」
「おーい、どこに憧れているんだよ」
共にシウネーの底知れない味覚に恐ろしさを感じている。なお近藤は妙の料理の耐性があることから、彼女の味覚にむしろ憧れを覚えていた。どちらにしても今日一番の衝撃を二人は感じ取っている。
その一方でシウネーはというと、二人の話は気にせずに一人の女の子へ話しかけていた。
「おや、どうかしましたか?」
「えっと、地図を落としちゃって……どこか分からなくて」
「あら。では、予備の分をお渡しますね」
どうやら地図を落とした様子で、迷子になり彷徨っていたようである。そんな彼女にシウネーは、予備の地図を渡していた。
「あ、ありがとうございます! お姉さん!」
「いえいえ。ちゃんと場所は分かりますか?」
「うん! 大丈夫だから! ありがとうね!!」
地図を貰った女の子は、シウネーに元気よく感謝を伝えると、その場を素早く去っていた。その女の子は兎っぽい全身白色のパーカーを羽織り、恐らくはハロウィンの参加者かと思われる。彼女の元気さが戻り、シウネーも思わず安堵していた。
「あの恰好はお祭りの参加者か?」
「そうみたいですね。きっとたくさんお菓子を貰ってきますよ!」
シウネーは密かに、パーカーを着た女の子へ向けてエールを送っていた。近藤、土方も少しだけシウネーの想いに共感しつつ、三人はフレイアの護衛により一層気を引き締める。
因みにその女の子の正体はいずみ。晴太やユイの友達で、今回彼女は自身の兄を含めた四人と一緒に、ハロウィンイベントを楽しむ予定であった。
「まぁ、警備業務なんで、気楽に行きましょうや」
「おう! 宜しくな、沖田さん!」
「アタシ達でしっかり見回らないとね!」
一方で北東エリアを見回っていたのは、沖田、ジュン、ノリの三名。彼らはハロウィンイベントのトラブルや不審者が現れていないか、付近を入念にパトロールしていた。
緊張感を持ち任務に取り組む三人だが、ここで沖田がジュンらに昨日の休暇について聞いている。
「因みに昨日はどうでしたかい。江戸観光は?」
「おう! もちろん楽しかったよ! 見たいもんも見れたし!」
「会いたい人にも会えたしね!」
「そうかい。まぁ、満足しているならそれで良いんじゃないですかい」
ジュン、ノリ共に満足げに、嬉しそうな表情を浮かべて返答していた。対する沖田はそっけない態度で事を返している。
それもそのはず。フレイアの鶴の一声で急遽真選組側が昨日一日彼女の護衛に付いていたので、言うならば思わぬとばっちりを受けていたのだ。
(こっちは姫様の警護に振り回されたんですけどねぇ)
沖田自身も内心で皮肉交じりに恨み節を呟いている。それでも今回は、ただ内心で留めるのみだった。
と三人が北東エリアを回っているうちに、沖田はふとある見知ったかを発見する。
「ん? アレは?」
彼が見つけたのは、シリカ、リズベット、リーファ、シノン、ピナの四人と一匹。しかし彼女達も、ハロウィンを意識して普段とは違う恰好をしていた。
「ぶっつけ本番になりましたけど、この格好で行きましょう!」
「そうね。みんな雰囲気にかなり似せているし!」
一呼吸を置いて、気合を入れるシリカとリズベット。前者は妙がよく着ているピンク色の和服を羽織り、後者は九兵衛の着ている野良着と陣羽織、下駄を着用していた。一方でリーファは、あやめがよく着ている忍者服を。シノンは月詠の普段着である紅葉柄の和服を着こなしていた。
そう。彼女達のハロウィンでの仮装は、衣装チェンジ。仲の良い妙らから昔の着物やスペアの服を借りて、今日一日まったく印象の異なる衣装でハロウィンを巡る予定のようだ。
「ところでお兄ちゃん達来ているかな? 連絡しても繋がらないし……」
「かぶき町でのお祭りごとだから、何か手伝いに駆り出されているんじゃないの? もし来なかったら、万事屋へ直接乗り込みましょう」
なお、準備に時間を要した為、銀時やキリトらへの連絡が遅れてしまったらしい。万事屋の固定電話に繋がらず心配を口にするリーファに、シノンは柔軟な対応を提案していた。
いずれにしても、今回の彼女達の目的もキリトらと出会い、あわよくば一緒に祭りを巡ろうと模索している。
「ナー!」
「そうですね。じゃ、このまま……!」
ピナの掛け声とともに、いよいよ祭りに趣こうとした……ちょうどその時であった。
「おい、何してんだ。メスネコ共」
「うわぁ!? って、沖田さん!?」
タイミング良く沖田が、四人に向かって声をかけてくる。するとリーファだけが、彼を見た瞬間に苦い表情を浮かべていた。
「げっ、沖田さんだ」
「なんでい。そんな苦い顔して」
「そりゃするわよ。アンタには……!」
何食わぬ顔で話す沖田に対し、リーファはさらなる怒りを募らせている。過去にも沖田から酷い仕打ちを受けているリーファにとって、沖田は天敵意外の何物でもないのだ。
シリカらもリーファの心境を察する一方で、彼女達は沖田の横にいたジュンやノリの存在にも気づき始めている。
「って、こっちの世界のジュンとノリもいるの!?」
「アレ? 姫様の護衛には付いていないの?」
思わぬ遭遇に驚きの声を上げるリズベットとシノン。地球に来ていたことはニュース等で知っていたが、まさかこの場で会えるとは想定していなかった。
するとジュンらは、シリカらに警備の件について話している。
「それがイベントに当たって班を再編して、僕達はこのエリアの警備に振り分けられたんだよね」
「沖田さんと一緒に不審者がいないか見張っているんだよ」
「そうなんだ……可哀そうに」
「おい、まるっきり聞こえてるぞ」
班単位による分担しての警備と知り、リーファだけは増々ジュンとノリの心境を心配していた。沖田が一緒で迷惑をかけられていないか大変気にしている様子である。なお、その独り言は沖田本人にも聞かれていた。
そんな中で、沖田はふとあることを思いつき、シリカら女子達に向かってあることを話し始めている。
「あっ、そうだ。お前らに託があったんだった」
「託?」
「さっき黒剣さんに会ってきたんでさぁ」
「黒剣……キリトさんのことですか!?」
キリトの話題が上がると、女子達四人は一気に沖田の方へ注目を集めていた。その変貌ぶりに、ジュンとノリは驚いた表情を浮かべ、ピナは沖田の真意を察して呆れた表情を浮かべている。
「えぇ。旦那方と一緒みたいで、ハロウィンを楽しんでいるそうですよ。仮装もしていやしたが、会った時のお楽しみにしたいそうで、まぁ自力で見つけてくだせぇ」
沖田はやや笑ったような表情を浮かべて、シリカ達にキリトら万事屋の情報を明かしていた。当然沖田は銀時やキリト達が茂茂の護衛に付いていることを知っているが、その真意を隠した上で、シリカ達にでまかせを伝えている。
そんな沖田の嘘を疑うことなく、女子達は沖田の情報を大変ありがたがっていた。
「こ、これは良い情報を聞けたわね……!」
「でも、沖田さんの情報だけど良いの?」
「そうだけど、どっちにしても探すことに変わりは無いから、半信半疑のままで受け取っておきましょう」
リーファだけは半信半疑で疑問を呈していたが、シノンにより諭されていた。沖田の情報が無くともキリト達を探すことに変わりは無いので、彼女は希望的観測で沖田のことを話半分で信じている。当然シリカやリズベットも同じ心意気だ。
「ちょっと、沖田さん。今のキリト達って、将軍の護衛に付いているんじゃ」
一方でジュンは、沖田に先ほどの嘘の件について聞いている。一公的機関の人間と言えど、流石に一般市民を騙すのは宜しくないと彼は思っていたが……すると沖田は、不敵な笑みを浮かべたままジュンの疑問に返答した。
「分かっておりやすよ。その上でアイツらに伝えたんでねぇ」
「何のために?」
「まぁ、強いていうなら……一緒にお祭りを巡れずに、がっかりした顔を見たかったからですかねぇ」
彼の表情は純粋な悪意に満ち溢れている。自身のドSぶりを余すことなく露わにしており、ただ女子達の悔しがる顔を見たい為に、嘘を正当化しようとしていた。
恐ろし気な計画を浮かべる沖田の思考に、ジュンとノリは改めてリーファが彼に警戒していた理由をようやく理解している。
「お、沖田さん……」
「あの子達が警戒していた理由が分かった気がする……」
「ナー……」
二人に続き、ピナまでもが絶句していた。恐らくはキリトの件で盛り上がっているシリカ達を止められず、沖田の思惑通りになると彼は察している。
「そうと決まれば、早速探しに行きましょう!」
「そうね! きっとアスナや銀さん達も同行しているでしょ!」
とシリカ、リズベット、リーファ、シノンの四人は、勢いよくその場を跡にしていた。仮装したキリトを探すべく、彼女達は躍起になっている。そんな女子達の跡を、ピナは気乗りしないまま追いかけていた、
「行ってらっしゃいー」
「ど、どうなっても知らないぞ……」
焚きつけた沖田本人は、呑気にも女子達に手を振っている。そんな沖田の淡々とした態度を、ジュンとノリは末恐ろしいと内心で震えていた。
そんな一件もありつつも、三人は引き続き北東エリアの警備に勤めていく。
「初めまして。テッチと申します」
一方でこちらは、ハロウィンイベントの南西エリア。ここではテッチとタルケンが警備を担当し、さらに真選組から二人も追加で警備に駆り出されていた。その内の一人が、
[宜しく]
「宜しくお願いします」
斉藤終である。彼は真選組の三番隊隊長を務める影の粛清人。オレンジ色のアフロと口元は覆面で覆っている。寡黙な性格で、コミュニケーションを取る時もスケッチブックに文字を書く筆談がメイン。
今回は真選組の人手が足りず、彼も警備に駆り出されることになったが……当然いつも通りの対応のまま接している。初対面とも言えるテッチは、疑問を特に持たずに彼と接していたが……同行していたタルケンは、奇抜なコミュニケーションに苦い表情を浮かべて困っていた。
「えっと、山崎さん。あの人は……」
「斉藤終さんって言って、普段はまったく別の業務に付いているけど……今日に限って人手が足りないから、急遽駆けつけたみたいで」
思わず隣にいた山崎に補足を求めている。斉藤のコミュニケーションに不安を覚え、急遽山崎も本部の命令で南西エリアの警備に付くことになったが……正直彼もどう対応したら良いのか分からないのだ。
「ところであなたのお名前は?」
「Z……Z」
「なるほど、ゼットさんというのですね。随分かっこいいじゃないですか」
「Z……Z」
ようやく声を発した斉藤だが、これはただのいびきである。立ったまま寝ているが、妙にテッチとは話がかみ合っている。二人の気の合ったコミュニケーションに、山崎とタルケンは増々困惑していた。
「あれ、明らかに寝てますよね!?」
「というか、タルケンさんのお仲間さんも、なんで話が通じているの……?」
どちらとも今後の警備には不安しか感じていない。そんな二人の雰囲気とは対照的に、テッチは斉藤のクールな対応に親近感を覚え、警備への意欲をより大きく高めていた。
「Z……Z」
斉藤は未だに熟睡している。
各エリアでの本格的な警備が始まる中で、ユイと定春は友人との待ち合わせ場所に辿り着いていた。
「あっ、晴太さん!」
「ユイちゃん! こっち!!」
とあるビルの一角でユイは晴太を発見し、声をかけている。今回の彼はドラキュラ風の衣装を施しており、ユイと同じくハロウィンにやる気を燃やしていた。
「今日は宜しくお願いしますね!」
「こちらこそ! 因みにまだみんなは来ていないよ」
「いずみさん達ですね。了解しました!」
まだ同じく祭りを巡る予定のいずみと彼女の兄は付いておらず、二人はいずみ達が来るまでそっと待つことにしている。
「初めてのハロウィン、とってもワクワクしています!」
「おいらもこんな大々的なのは初めてだから、ユイちゃんと同じくらいワクワクしているよ」
「なるほどです! お菓子、たくさん貰えると良いですね!」
共に意気込みを語り、やる気に満ち溢れた表情を浮かべていた。ハロウィンに対して子供ながらに沸々と情熱を燃やす二人。残るいずみ達を待ち続けていた……ちょうどその時である。
「きゃ!?」
「ユイちゃん!?」
ユイが何者かと不意に衝突してしまった。そのまま彼女は地面に倒れてしまう。
「すいません! 大丈夫ですか!?」
「はい、なんとか……」
ぶつかった本人からは、心配の声をかけられる。謝りと共にその子は、ユイに手を差し伸べてきた。ユイは手を掴んで立ち上がると、ようやく彼女の正体を目にしている。
「そ、そよさん!?」
「ユイさんですか!?」
「えっ?」
なんと、ユイが出会ったのは、かつて一度顔を合わせたことのある徳川そよであった。将軍の妹との遭遇に、彼女は驚きを隠しきれていない。
茂茂に続いてそよまでもが、ハロウィンイベントにお忍びで乱入しようとしていた……。
ということで、とうとう始まりましたハロウィンパーティー。本当は夏祭り編として企画していましたが、再編等を重ねてハロウィンという形で落ち着きました。
将軍を護衛するにあたり、銀時やキリト達も真選組の隊士服にお着換え。今回しか見れないレアな格好だと思います!
あとは何気に、斉藤終が剣魂初登場。こちらも実は初登場に相応しいメイン回を用意していましたが、長篇の都合で延期となりました。そちらの方もお楽しみにしていてください。
小ネタで言うと、シウネーさんといずみちゃんがお話していましたが、こちらは両者とも嶋村侑さんが演じている為、共演致しました。こちらも剣魂でしか見られない共演ではないでしょうか。
他にも懐かしのぶらっクマ、妙達の衣装を着ているシリカ達など、今回は小ネタ満載でお届けしました。
まだまだ続くハロウィンイベント、次回もお楽しみください。
次回予告
新八「とうとう将軍様とハロウィンパーティー。嫌な予感しかしないんだけど!」
銀時「つーか、俺達の出番短くね?」
神楽「また文字数の問題アルか?」
新八「それもありますけど、投稿者曰くまだ構成が終わっていないというか……」
神楽「マジアルか!」
銀時「おい! ちゃんと十月内には終わらせろよ! 長引いたら長篇が今年中に……!」
新八「おい! そこら辺はまだデリケートなところだから!」
ユウキ「次回! お菓子をくれなきゃ、暴露しちゃうぞ!」
アスナ「嫌な予感しかしないんだけど……」
キリト「本当に無事に終われるのか……?」