ハロウィンイベントに向けて、ALO星から地球にやって来たユウキらスリーピングナイツ。到着早々に万事屋と合流し、ささやかな休暇を楽しんだ。しかし将軍こと茂茂の命により万事屋もイベントの警備にあたることになり、大きな不安を抱え込んだまま当日を迎えてしまう。茂茂はキリトの服を着用し、銀時らと共にお忍びでイベントへ。一方同じ頃、ユイは以前に会った将軍の妹君であるそよと合流しており……。
「見てください! この人混みを! 地球とALO星の交流を目的に始まった今回のハロウィンイベント。装飾にはALO星の紋章があしらわれ、屋台によっては江戸とALO星の銘菓が子供達に向けて、配られるとのことです!」
花野アナはまたもテレビスタッフと共に中継に参加し、ハロウィンイベントの盛況ぶりをテレビ越しの視聴者に余すことなく伝えている。彼女も驚くほどに場は熱気に包まれており、早速屋台では仮装をした子供達が店主にお菓子を求めてきていた。
数多くの人や天人が行き交う今回のお祭り。そのうちの北東エリアでは、銀時、キリト、新八、アスナ、神楽、ユウキの六人が、キリトの服に着替えた茂茂と共に町を見回っていた。(なお、六人も仮装と称して真選組の隊士服を着用している)
「うむ。先ほどよりは十分心地いいな」
「見ているだけで違和感が凄いな……」
「ぶっちゃけ似合ってないアルよ」
「神楽ちゃん。ストレートに言い過ぎだって」
お望みの服が着られて、満足げな茂茂。だが一方で仲間内での反応は微妙で、キリトは何とも言えない表情を浮かべ、神楽はお世辞無しで思ったことを呟いていた。あまりにも直接的な一言に、ユウキも思わずツッコミを入れている。
「でも、ぶらっクマだのペイントアートよりはマシでしょ」
「おいおい。まだ根に持っているかよ」
「当たり前でしょ。例え将軍様が許しても、私が許しませんからね」
一方のアスナは、最初に施したコスプレよりはマシと納得していた。そもそもスタートラインが酷かった為、相対的に問題無いと思っている。銀時への怒りもまだ収まっておらず、彼はたじたじのままアスナと話していた。
そんな一悶着がありつつも、いよいよ始まった茂茂のお忍びハロウィン体験。親友と称しているキリトらと巡れて、彼は大いに嬉しさを感じていた。生真面目にも表情には一切出ていないが……。
「それにしてもありがとう、キリト君。余のお願いを聞いてくれて」
「まぁ、将軍様の頼みだしな。俺からも誘ってくれてありがとう」
「ありがとうか……これが親友と言うものなのだな」
彼はキリトから感謝の言葉を返されると、満足した気持ちを感じ取る。キリトとの距離感を親友と思い、彼の優しさに焦がれていたのだ。
一方でキリトは、初めて感じ取った茂茂の物腰柔らかい姿勢に、内心でつい感心していた。
(これがこの世界の将軍……地位が高い故に、色々と苦労しているのか?)
将軍故の苦労を察し、茂茂の庶民や親友に憧れる思いについて理解を示していた。(そもそもキリトと茂茂が本格的に話すのも今回が初めてであり、元は入れ替わり騒動の時に茂茂はキリトの体に入った銀時と出会っているのだが……話が長くなる為、今回は割愛させて頂く)
その温かい雰囲気のまま、ハロウィン会場を巡る七人だったが……ここで茂茂はある疑問を新八らへぶつけている。
「ところで皆の者。お菓子は一体どこでもらえるんだ?」
「お菓子?」
「そうだ。余もあの子達のように、お菓子を貰いたいのだ」
茂茂が指を指した方向には、「トリックオアトリート!」と言い、屋台のおじさんからお菓子を貰う子供達の姿が見えていた。どうやら茂茂は、ハロウィンの醍醐味であるお菓子の譲渡に興味を持っており、子供達同様の体験をしたいと考えている。
なお、当然ながら茂茂は成人男性。子供では無いのでお菓子の譲渡は対象外なのだが……。
「あの……将軍様」
「将ちゃんで良い」
「じゃ、将ちゃん。お菓子を貰えるのは子供達の年代だけで、大人は貰えないんですよ」
「分かってはいる。だが屋台によっては、大人も貰えるところがあるのではないか?」
新八が冷静になって茂茂を説得するも、彼は依然として譲らない。どうしてもお菓子が欲しい模様であった。
「ちょっと、どうするんですか。銀さん。多分どこのお店に行っても、門前払いされるだけですよ」
「それはそうだが、仮にも征夷大将軍だ。何ぃ、そっくりさんと称して騙せば、面白がって誰かくれるだろ?」
「どこに期待しているんですか!!」
思わず銀時に相談するも、彼からは適当な返事が返ってきている。そもそもが茂茂のそっくりさんとして町を出歩いている為、誰かが面白がってそのお礼にお菓子を貰えることを銀時は微かに期待していたのだ。要するにただの人任せであり、確証も無い作戦に新八は大いにツッコミを入れている。
「お菓子が貰えるお店ね……」
「アッスー達の知り合いで、誰か協力してくれる人っていないのかな?」
「事情を話せば、協力してくれる人はいそうだけど……」
ユウキはキリトやアスナのかぶき町の伝手を頼ろうとするも、二人からしても誰がイベントに参加しているかはいまいち分かっていない。出来る限りなら近くで知り合いを見つければ良いのだが……すると、神楽はある知り合いを発見していた。
「あっ、見つけたアルよ!」
「えっ、誰だ?」
「婆さん達ネ!」
神楽が見つけたのは、屋台でりんご飴等を売っていたお登勢、キャサリン、たま、エギルのスナックお登勢組である。手堅い知り合いと出会いキリトやアスナは安堵の表情を浮かべていたが、対照的に銀時と新八は苦い表情を浮かべていた。勘の鋭いお登勢やたまには、茂茂の正体がバレないか大いに不安を感じているのである。
「へぇー。将軍様のそっくりさんとキリトが知り合いになって、今日江戸に上京し、ハロウィンを巡っているってことかい」
「そういうことなんだ。それでお登勢さん。将ちゃんはハロウィンを人生で経験したことが無いから、お菓子を貰って良いか?」
キリトは手短に、お登勢らへ茂茂の件について説明していた。なお、本人とは言わず、あくまでも顔が似ているそっくりさんとして紹介している。キリトの説明を聞き、お登勢はそっと考え込んでいた。
「どうする。お登勢さん?」
エギルが聞くと、お登勢は静かに返答する。
「良いんじゃないかい。銀時の知り合いなら問答無用で追っ払うが、キリトなら話は別さね。野郎と違って、まともな人脈なのは目で見りゃ分かるよ」
「おい、それどういう意味だよ」
彼女はキリトの言うことを素直に信じ込んでいた。銀時と比べるとマトモなのは目に見えており、嘘では無いと信じている。とばっちりを受けた銀時は、やや不満げな表情を浮かべていた。
だがこれで、茂茂の望んでいたお菓子が手に入ることになり、本人は安堵した表情を浮かべている。
「やったアルナ、将ちゃん!」
「お菓子貰えるみたいだよ!」
「あぁ、では」
神楽やユウキも祝福し、早速お菓子を貰おうとした時であった。
「チョット待テ!」
「ん?」
「ハロウィント言エバ、アノ一言ガ必要ダロウガ! ソウジャナイト、オ菓子ハ渡サナイニュ!」
「そうだな。将ちゃんさんよ、恥ずかしいかもしれないが、ここはいっちょ言ってくれないか。例の言葉を」
キャサリンとエギルから、例の言葉について求められている。ハロウィンではお決まりのセリフが、お菓子を貰うには必要なようだ。
「あぁ、分かった」
茂茂も二人の意図をくみ取り、思いついた言葉をそのまま言い放つ。
「お菓子をくれなきゃ……ば、暴露しちゃうぞ」
「しょ、将軍!? 思いっきり言葉が違うけど!!」
「つーか、何を暴露するんだよ! そもそもタイトルの伏線回収をここですんなよ! 投稿者でさえ、意識していないんだからさ!」
いたずら……ではなく暴露と言い放った茂茂に、ツッコミを入れる銀時と新八。緊張故の誤りのようにも感じられるが、あまりにも間違え方が独特である。
しかしお登勢らは、間違いがあっても大目に見てくれていた。
「まぁ、良いんじゃないかい。たま、例のものを用意しな」
「了解しました」
お登勢は早速たまに指示をして、銀時らへ渡すお菓子を準備する。ちょうどその時、
「あの……すいません。本部ってどこですか?」
「本部ならあっちの道だよ。僕が対応するから、みんなは将ちゃんの方をお願い!」
「分かったアル」
道に迷った女性がユウキに声をかけて、行き先を尋ねて来ていた。ユウキは快く対応し、一旦その場から離れている。
ユウキがその場を跡にしたちょうどその時、たまは銀時らへ箱に入った七つの飴玉を渡してきた。
「ほれ。私らのお菓子はこれだよ」
「おっ、綺麗に七つ分もあるじゃねぇか」
「ユッキーの分は残しておいて、みんなで頂くネ!」
「そうね。将ちゃんもどうぞ」
「あぁ」
全員分があり、一行はユウキの分を残した上で飴玉を舐め始めている。皆その味を楽しむ中で、ようやくユウキが場に戻って来ていた。
「ただいまー……えっ!? ちょっと待って! これ食べちゃったの!?」
「どうしたんですか、ユッキーさん」
「これ……一つだけ外れのあるお菓子だよ!」
「えっ?」
ユウキは飴玉を見るや否や、大いに動揺している。そうこれは、彼女の言った通りALO星のお菓子で、しかもくじ引き要素もある運任せのお菓子だったのだ。
「そう。こいつはアルヴ飴。ALO星の名物お菓子で、一つだけおどろおどろしいまずさが混じっているバラエティ性の高いお菓子なんだよ」
「たまさんが祭りに乗じて作ってくれてな」
「その通りです。折角ALO星が絡むということでしたので、ユッキー様の故郷の味を再現致しました」
お登勢やエギル、たまもアルヴ飴の解説を銀時らへ話している。その当たり外れのあるお菓子に、皆が一瞬肝を冷やしていたが、現状異変が起きている者は誰一人としていなかった。
「みんなはなんともないの?」
「まぁ。普通に美味しいし」
「ってことは、残りの飴が外れ枠じゃないんですか?」
皆が飴玉の味を確かめるも、不味さや苦さは感じ取っていない。すると新八は、残った飴が外れ枠だと予想していた。
「そんな……僕が道案内に行ったばっかりに」
「まぁまぁ。落ち込まないでよ、ユッキー」
「運だからしょうがないと思うぜ。なぁ、将ちゃん」
運の悪さを痛感し、がっかりするユウキをフォローするアスナ。銀時もつられて、茂茂に同意を求めていた……その時であった。
「ま、不味い……」
((将軍かよぉぉぉ!!))
茂茂は露骨に青ざめた表情を前面に出している。そう。外れの飴玉を引いたのは、紛れもない茂茂だったのだ。銀時、新八の両名は、内心でお決まりのセリフを叫んでいる。
(おい、何やってんだよ。あのバカ殿! なんで七分の一を平気で当てるわけ!)
「う、美味い……か?」
(おい、涙目で話すなよ! ジャイアンシチュー食わされてるスネ夫みたいな反応だよ!)
茂茂は無理して美味しいと暗示をかけるも、完全に体が拒絶していた。涙目を浮かべて、ただ苦痛に耐えながら飴玉を舐めるしか無かったのである。
「だ、大丈夫か。将ちゃん?」
「顔色悪いけど、まさか……」
「平気だ……近くに厠はあるか?」
「全然大丈夫じゃねぇよ! 完全にアウトだよ!」
心配したキリトやアスナも茂茂に声をかけてきた。なお、外れと悟られたくないやせ我慢なのか、茂茂自身は平然を装うとしている。表情に出ているせいか、まったく誤魔化しきれていないのだが……。
「じゃ、僕ら将ちゃんを厠へ連れて行くから!」
「ありがとうアル! 婆さん!」
分が悪くなった一行は、会話を無理やり断ち切って、そのままお登勢らの出店を跡にしていた。彼らも同じく、茂茂の体調を心配はしていたのだが……。
「行ってしまわれましたね」
「アノ男モ運ガ無イデスヨ」
「それにしては、将軍様とそっくりだったよな」
「まさか本物じゃ……って、アイツらに限ってそんなことは無いか」
お登勢だけは勘が鋭く、将ちゃんを本物の将軍と予想していた。本人に確かめないまま、気のせいと察して、彼女は内心で留めている。キャサリン、たま、エギルも同じ気持ちであった。
「そ、そよさん!?」
「ユイさんですか!?」
一方でこちらは、ユイと定春、晴太の集合場所。他にも待ち合わせの約束をしたいずみと彼女の兄を待つ中で、彼女達は偶然にもそよと鉢合わせしたのである。
「えっ? ユイちゃんの友達なの?」
「はい! 江戸城に住んでいる将軍の妹さんですよ!」
「……本物!?」
ユイが軽く説明すると、晴太は驚嘆とした表情を浮かべていた。将軍の妹と判明するや否や、動揺して体をつい震えさせている。(なお、ユイと定春はまったく緊張していない)
「そうですよ。初めましてです」
「は、初めまして……」
そよは晴太と目線を合わせて、律義にも挨拶を交わしていた。新鮮な雰囲気に、晴太も動揺しつつも丁寧に挨拶を返している。
するとユイは、そよへハロウィンへ来た目的について聞いていた。
「ところでどうしてこのお祭りに来られたのですか?」
「えっと実は、兄上様が忘れ物をして、それを届けにこっそり城を抜け出したんですよ」
「あっ、なるほどです!」
「内緒ですけどね」
「もう喋っているけど……」
どうやらそよは、兄こと茂茂の忘れ物を届ける為に、わざわざ城下まで赴いたらしい。なお内緒と称しており、またも無断で城から抜け出したと思われる。口に手を当てて、ユイに秘密を約束するも、晴太にも聞かれている為、ほぼ無意味であった。
なお、そよにはもう一つだけ別の目的がある。
「でも本音を言うと、私もハロウィンを体験してみたかったんですよね……」
「だから魔女の格好をしているのですね」
「ユイさんとおそろいですね!」
茂茂同様に、仮装してハロウィンを楽しみたい気持ちだった。身分関係なく、親しい人とハロウィンを巡って、お菓子を貰いたいと彼女は考えている。その為、そよもユイや晴太と同じく仮装を施しており、衣装は微妙に違うが、ユイと同じ魔女風の仮装をしていた。
その願いは偶然にもユイと遭遇したことで、実現に近づいている。そよの確かな気持ちに共感すると、ユイは晴太にある提案を交わしていた。
「あの、晴太さん……! そよさんの件、一緒に付き合ってもらえませんか?」
そう。そよと一緒にハロウィンを巡り、茂茂を探して忘れ物を届けるとユイは心に決めている。そよの手助けがしたいと晴太に伝えると、彼もユイの提案に同調していた。
「わ、分かったよ! けどこれは、いずみちゃん達には内緒にしておいた方が良いよね」
「ん? なんでですか?」
「だって将軍様の妹なら、本物と分かった途端に、オイラと同じで動揺するかもしれないからさ! ここは別人と割り切った方が良いって!」
その上で晴太は、そよの正体をいずみらへ隠そうとしている。そよ自体が内緒でハロウィンに来ているので、騒ぎにならないようにと彼は先を見据えて提案していた。ユイにはいまいち伝わらず、再度説得しようとしたちょうどその時である。
「お待たせ、晴太君! ユイちゃん!」
「待ったか?」
「き、来た!!」
なんとタイミングが悪く、いずみと兄も集合場所に合流していた。共に動物の耳が付いたパーカーを着用し、着ぐるみチックな衣装でハロウィンに臨んでいる。合流後に早速二人は、晴太らへ話しかけていた。
「どうしたの?」
「いや、なんでも……」
「てか、その子は誰だ?」
「この子は……」
早速そよの存在に気付き、晴太へ詳しく聞いている。彼は横に目線を逸らしながら、どう良い訳をするか練っていた時であった。
「わ、私の友達なんですよ!」
「ワフフ!!」
「あっ、ユイちゃんと定春君の友達なんだ!」
ユイと定春が率先して、自身の友達と宣言。つられてそよも偽名を使って、自信満々に別人として振舞っていく。
「そうです! 気軽にペルソナって呼んでくださいね!」
(全然気楽じゃないよ! ていうか、どっからその言葉出てきたの!?)
独特な偽名に内心でツッコミを入れる晴太。中二病のようなセンスには、思わず驚きを隠しきれずにいる。
「ん? どこかで見たことあるような……」
「いやいや、気のせいだって! ねぇ、ユイちゃん!」
「は、はい!」
いずみの兄は勘が鋭く、そよの正体を察し始めていたが……まだ確証が無い為、内心で留めておくことにしていた。
なお、いずみの方はまったくそよの正体について気付いていない。
「分かった! じゃ、折角だし五人でハロウィンを巡ろうよ!」
「まぁ、俺も一人増えようと別に良いけど」
二人はそよの加入については、快く受け入れていた。
「どうやら誤魔化せたみたいですね」
「なんかスパイものみたいでワクワクしますね!」
「ワン!」
「こっちはひやひやなんだけど……」
話がうまく進み、一安心するユイとそよと定春。だが一方で晴太は、いつ正体がバレるか分からないチキンレースに、内心で不安を募らせていた。
「では、みんなで行きましょう!」
「お菓子をたくさん貰おうね!!」
ひとまずは本来の予定通り、ハロウィンを楽しもうとするユイ達。果たしてそよの本来の目的通り、茂茂を見つけて、忘れ物を渡すことは出来るのだろうか。
「うぅ、中々衝撃的な味であった……」
「本当に大丈夫。将ちゃん?」
「心配ない。余は本当のハロウィンを楽しんでいるのだ。これくらい左座も無い」
「いや、アレはただ運が悪かっただけじゃ」
一方でこちらは、一足先にハロウィンを巡っている銀時、茂茂ら一行。先ほど外れ枠の飴を口にしてしまい、一時腹を下した茂茂であったが、厠を経由してようやく調子を取り戻していた。
今は屋台が密集している商店沿いを、彼らは進んでいる。
「次はどこに行くネ、キッリー、アッスー?」
「また知り合いのところに行って、お菓子を貰ってみるか?」
「誰かいないかしら……」
キリトやアスナは引き続き、知り合いのいる屋台を捜索していたが、そう簡単には見つからない。入念に屋台を確認していた時、ちょうど目の前に見たことのある白い生物を彼らは発見していた。
「アレ? あの人達って……」
「トリックオアトリート!」
「お菓子をくれなきゃいたずらしちやうぞ!」
[右に同じく!!]
そう。そこにいたのは、桂の相棒であるエリザベスの格好をした者が三人。うち一人は本人かと思われるが、残る二人は声質からあるコンビを銀時らは頭に浮かべていた。
「あの、銀さん。明らかに祭りとは程遠い人達が来ているんですけど」
「ヅラクラか。面倒な奴らまで来てんのか……」
「ヅラクラじゃなくて、ヅラザべスとクラザべスアルよ」
「どっちでもいいわ!!」
そう。銀時や神楽の言う通り、残る二人の正体は桂とクラインである。分かりやすく桂の仮装したエリザベスには長い黒髪のカツラ。クラインの変装したエリザベスには赤い髪のカツラとバンダナが付けられており、知り合いには一目で分かる仕様となっている。銀時や神楽は相変わらずの二人の行動に呆れかえっていたが、それはユウキやキリト、アスナも同じ想いなのだ。
「えっ? 桂さん達なの……」
「多分な。てか、三人共お菓子を貰える年代でもないのに……」
「何をやっているのよ、あの人達……」
特にキリトとアスナは、桂に影響され続けているクラインの行く末を、思わず不安視してしまう。指名手配中にも関わらずまったく行動を自重しない彼の行動が、にわかに信じられなかったのだ。
そんな桂達が訪れていた屋台には、偶然にも銀時の知り合いがいる。
「つーか、屋台の店主って九兵衛じゃねぇ?」
「うわぁ。堅物同士の話とか巻き込まれたくないんだけど!」
そう。屋台にいたのは、店番をしていた柳生九兵衛。桂と同じく堅物の印象があり、互いをライバル視している点から、銀時や新八は余計なことが起きると密かに恐れていた。
「貴様ら。どこかで会ったことは無いか?」
「良いや、初対面だよ!」
「そうそう! 俺達ハロウィンイベントと聞いて、近くの町から来たんだ」
[俺も]
九兵衛は早速桂達の正体に気付きかけるも、桂らは必死に否定している。往生際の悪い彼らの言い分を聞いて、九兵衛はゆさぶりをかける質問を彼らに投げかけていた。
「そうか……では、君達に聞こう。今、学校で流行っているゲーム機種は?」
「メガドライブ!」
「アミュスフィア!」
「「はぁ!?」」
桂とクラインが率先して答えるも、バラバラな返答に思わず大声を上げてしまう。そして互いに譲らない口喧嘩が勃発してしまった。
「なんだと、貴様ぁ! ここは歩調を併せろと言ったはずだ! メガドライブの凄さを忘れたのか!」
「でもよぉ、桂さん! 別の町から来た設定なら、相手の知らないことを言った方が良いだろ。アミュスフィアで十分だろ!」
「それはクライン殿の世界の常識だろ! ここは俺の世界の常識に従え!」
「いやいや! これだけは譲れねぇって!」
依然として考えがまとまらず、激しく口喧嘩を続ける二人。エリザベスもため息を吐いて、この状況をただ呆れるしか無かった。
あまりにもくだらない争いを続ける二人に、銀時や神楽、ユウキらもエリザベスと同様に呆れてしまう。
「何やってんだ、アイツら」
「終始グダグダアル」
「相変わらずだね、あの二人」
「ここは違う場所に行った方が良いな」
「そうね。行きましょう、将ちゃん……って、アレ?」
流石にもう見てられず、キリトやアスナは茂茂に移動を促そうとしたが……振り返るとそこに彼の姿は無かった。皆が付近を見渡していた時である。
「いいや。余の仲間達で流行っているのは、スイッ〇2だ」
なんと茂茂は、桂達の会話に何の前触れも無く乱入していた。予想外の行動を目の当たりにして、新八や銀時らは大いに困惑してしまう。
「しょ、将軍!? なんで知らない間に乱入しているの!?」
「つーか、正論的な答えを言うなよ! 言い争っているクラヅラが可哀そうじゃねぇか!」
「というか、どうするのよ! この状況……!」
「桂さん達にバレたらまずいよ!」
アスナやユウキも、現在の状況を深刻に感じていた。前回のお登勢の時と異なり、事情を何も話していない為、余計な混乱を生みかねないからである。
「ん? 誰だ、アンタ?」
「どこかで会ったことがあるような……」
[誰だ?]
現に桂やクライン、エリザベスは早速茂茂の正体に気付き始めていた。
「不味いアル! 流石のヅラクラでも気付き始めたみたいネ!」
「早くフォローを入れに行かないと!」
神楽や新八も焦って、茂茂を手助けしようと赴く。
と行動に移し始めた時である。
「余は征夷大将軍のそっくりさんであり、キリト君の親友である将ちゃんである! お菓子をくれなきゃ、暴露しちゃうぞ!」
「どんな自己紹介だよ!!」
「つーか、また所変わらずトリックオアトリートしているよ!!」
茂茂は自身をそっくりさん及びキリトの友達と称した上で自己紹介。曇りなき真っすぐな目線で、桂や九兵衛に向けてお菓子を要求している。合言葉はまだ間違っているが……
銀時や新八がまたも強くツッコミを入れる中で、肝心の桂達はと言うと、
「キリトの友達……?」
「そうか。だからキリト殿の格好をしているのだな。ハハハ、似合っているぞ将ちゃん!」
[右に同じく!]
素直に茂茂の言うことを信じ切っていた。
「アレ? 意外と素直に信じた?」
「飲み込み早くない!?」
「流石あの二人と言うか……」
特に大きなトラブルが起こらず落ち着く新八。その一方であまりにも疑いにかからない桂達には、ユウキやキリトも少しばかり気を引かせていた。
いずれにしても、穏便に事が進みそうで一行は一安心している。
「そうか。キリト君の友達か。ならば彼らの分も持っていくと良い」
「あぁ、恩に着る」
九兵衛も茂茂を本物の将軍とは思わず、キリトの友人だと思っていた。その上で彼にお菓子の詰め合わせを渡すことにする。
「おっと」
「あっ、大丈夫か」
茂茂へ手渡そうとした途端、九兵衛は手を滑らせて、お菓子の入った袋を落としてしまった。すかさず茂茂が拾おうと手を伸ばすと、偶然にも二人は手を合わせてしまい……
「うぎっぁぁぁあ!! 僕に触るな!!」
「ん!?」
九兵衛の反射的な背負い投げが発動してしまった。男性に触れるのを極度に恐れる彼女にとって、先ほどの接触は耐え難いものである。茂茂は何が起きたのか分からないまま、遠くへと垂直に投げ飛ばされてしまう。
「しょ、将軍!?」
「おい、てんめぇ!! なんてことしやがるんだ!!」
九兵衛の突飛な行動に、影で隠れていた銀時らも思わず出てきてしまう。新八や銀時がツッコミを入れる中で、九兵衛や桂達は急に現れたキリト達につい驚きを示している。
「み、みんな?」
「どうしたのだ、何故真選組の格好をしているのだ?」
「うるせぇ! もう一から説明するのも面倒くせぇんだよ!」
桂は銀時に理由を聞くも、本人からは逆切れ気味の返答が返って来た。何度も説明している分、一から話すのがいい加減煩わしくなったのだろう。
一方でアスナ、ユウキ、神楽ら女子達は、桂達の方よりも茂茂の行方を気にしている。
「とにかく将ちゃんを追わないと!」
「そうだね、みんな! 早く!」
「これは貰っていくアル! ヅラクラはついてくるなよ!!」
神楽はちゃっかりと、九兵衛が渡す予定だったお菓子の袋を拾い上げていた。そのまま一行は多くを語らないまま、茂茂が飛ばされた場所まで走っていく。
一方で取り残された側の桂や九兵衛達はというと、何とも微妙な空気が流れ込んで来ていた。
「なんだったんだ、今の……」
「というか、桂にクライン。変装はもうしなくて良いのか?」
「あっ、桂さん! 早く元に戻さないと!」
「もう遅い……」
先ほどの一悶着で桂やクラインは、被っていた布を外しており、九兵衛にその正体を明かしてしまう。急いで被りなそうとするも、時すでに遅かった。桂達のささやかなハロウィンは、思いもよらない乱入者によって、呆気なく終わりを迎えている。
そして、九兵衛によって投げ飛ばされた茂茂の行方を追いかける銀時ら一行。会場の奥まで進んでいくと、ようやく茂茂の姿を捉えることが出来た。
「あっ、いたアルよ!」
「良かった~。特に問題は無……」
とそのまま茂茂の元に駆け寄ろうとした時である。
「いらっしゃいませ。何か御用ですか?」
近くの屋台の主人が、親切にも茂茂に声をかけてきたが……その正体に銀時ら六人は思わず戦慄してしまう。
「ちょ、ちょっと待って! あの人って……」
「屁泥絽さんか!?」
そう。茂茂が辿り着いた先にいたのは、花屋でお馴染みの屁泥絽である。そのおどろおどろしい顔と雰囲気と馬鹿力によって、銀時らを幾度も恐怖に叩き落としたことのある所謂万事屋の天敵だ。
キリトやアスナも一度見かけたことがある為、その恐ろしさを十分に理解している。なおユウキだけは、初めて見かける屁泥絽に大きく動揺していた。
「えっ!? あの人もかぶき町の住人なの!?」
「ま、まぁ……一応お花屋さんだし」
「悪い人ではないと思うよ。多分……」
「なんで二人共、微妙な顔しているの!」
二人はユウキに補足を加えるも、やはり納得のいかない様子である。何よりも目線を遠ざけるような立ち振る舞いに、彼女は疑問しか感じていなかった。
「と、とにかくどうするネ! 将ちゃんを助けに行くアルか!」
「いや、ここは様子を見るんだ! その隙に誰かが将軍を連れ戻す。新八、頼んだぞ」
「おい! なんで僕にその役目を押し付けるんですか!!」
一方で神楽や銀時は、今後の作戦を考え始めている。早急に茂茂を屁泥絽から引き話すことを考えているが、一番面倒な役割を新八に押し付ける始末であった。当然新八本人は拒否しており、話し合いは一層難航していた。
と銀時らで言い争っているうちに、茂茂は屁泥絽と冷静に会話を交わしている。
「お、お菓子をくれなきゃ暴露しちゃうぞ」
「暴露?」
聞いたこともない合言葉に、思わず睨みを利かす屁泥絽。茂茂は冷静に一歩も引かずに、屁泥絽に真っ向から徹していた。
「って、みんな! 将ちゃんが屁泥絽さんと交渉しているよ!」
「マジでか!?」
「やるアルナ! 将ちゃん!」
ユウキが茂茂の行動に気付き、仲間達へ急いで伝えている。皆茂茂の一歩も引かない度胸に触れて、思わず目を丸くしていた。
「まったく恐れずに立ち向かっている……」
「アレがこの世界の征夷大将軍の底力……」
特にアスナとキリトは、一段と凛々しい茂茂の姿を目の当たりにして、思わず彼を見直している。素直に将軍としての器を評価していた。
「間違っていますよ、正しくはいたずらです。ですが、洒落た言葉に免じてお菓子をお渡ししましょう」
「あぁ、かたじけない」
一方で屁泥絽は、茂茂の度胸に免じて、予め用意していたお菓子を渡している。茂茂も彼にお礼を言うと、そそくさと銀時らのいる方へと戻っていた。
「しょ、将軍様……」
「心配するな。似た状況なら何度か経験がある。余はアレくらいで動じないぞ」
彼は手に入れたお菓子を掲げて、自信満々にやり遂げた表情を浮かべている。今回ばかりは、皆将軍の行動をかっこよく感じていたのだが……銀時はふと茂茂のある異変に気付いていた。
「おい。将ちゃん」
「なんだ?」
「足から水が垂れているんだが、これってまさか……」
そう。彼の足元には、不自然にも水滴が溢れ出ている。しかも足跡のように後ろの地面も濡れており、一行は途端に嫌な予感を察し始めていた。
「汗だ。気にするな」
「でも、臭い匂いがするアル」
「汗だ。ところで……近くに厠はあるか?」
「おい!! 思いっきり動じているじゃねぇか!!」
強がる茂茂に新八は激しいツッコミを繰り出す。
この水滴の正体はいわば尿であり、茂茂は屁泥絽の恐ろしさに我慢が出来ず、無意識にもお漏らしをしてしまっていた。それでもなお淡々と事を進めているが、傍から見ればただの大惨事である。
「将軍様ってば……」
「体は正直だったみたいね……」
「気持ちは分かるけど……」
想定外の結末に、思わず苦い表情を浮かべるキリト、アスナ、ユウキの三人。だが彼の気持ちを考えれば……こうなっても仕方ないと内心で密かに納得していた。一行は茂茂を介抱しつつ、近くの厠まで連れていくことにする。
しかし彼らはまだ気づいていない。その直後に起きる一悶着に……。
今回はハロウィン巡りの模様をお届けしました。お決まりのセリフもあり、不幸に襲われた将ちゃんがただただ不憫で可哀そう……
そよ姫もユイちゃん達と合流し、ハロウィンを満喫! ですが楽しい時間をそうそう長くは続かない様子で……次回には真選組側にバレそう?
それと小ネタではあるのですが、そよが偽名で使ったペルソナは、ゲーム版のあるキャラから連想致しました。分かった方はいたでしょうか?
次回予告
銀時「長らく続いたハロウィン篇もいよいよラスト! かもしれない」
新八「かもしれないって何ですか?」
銀時「仕方ないだろ。投稿者がまだ文字数を把握してないんだし」
ユウキ「大変だよ! 将ちゃんに緊急事態が発生!」
キリト「この状況どうするんだ……?」
新八「それで緊急事態って何が起きたんですか?」
銀時「それは次回のお楽しみだ!」
新八「おい!! 絶対まだ詳しく考えていないだろ、投稿者!!」
アスナ「次回! 人を欺いてこそ真の仮装!」