剣魂    作:トライアル

143 / 159
予め言っておきますが、このお話は延長戦に持ち込みます。完結にはまだ少しかかりそうなもので……。

あと、前回の予告で神楽が参加していなかった理由が分かるかも。


第百二十七訓 人を欺いてこそ真の仮装

 大盛況のまま続く、かぶき町のハロウィンイベント。仮装した人々が出歩く中で、本部で待機していたフレイヤの元にある客人が舞い込んでくる。

「姫様。ご挨拶に伺いました」

「ユージーン将軍。アナタも来られていたのですね」

「えぇ。地球には野暮用でしたが」

 彼女に声をかけてきたのは、ユージーン将軍。ALO星に存在するサラマンダー領の領主である。フレイヤの公務とはまったく関係なく、地球には私情で訪れており、挨拶がてらフレイヤのいる本部に彼は訪れていた。

「トシ。あの人って確かALO星の……」

「サラマンダーの領主だな。まさか地球に来ていたとは」

「なんたる偶然ですね」

 様子を伺っていた近藤、土方、シウネーの三人も、思わぬ客人に驚きを隠しきれていない。誰もが地球で再会するとは思ってもいなかったのである。

 とちょうどその時。土方らの元に、真選組の十番隊隊長である原田が血相をかいて、こちらに駆け込んで来ていた。

「副長!!」

「どうした、原田? そんなに焦って」

「大変なんですよ! 姫様がまた勝手に城を抜け出して……」

「って、またかよ……」

 原田の伝言を聞くと、土方は苦い顔を浮かべたまま、頭を抱えてしまう。そよの脱走は何度も経験があり、その度に真選組も総力を挙げて捜索するのだが……今回はハロウィンイベントの警備を任されているので、無暗に動けないのである。故に面倒くささを感じており、土方は苦い表情を崩さないまま、今後の対策についてそそくさと練り始めていた。

「姫様は確か将軍様の妹さんでしたよね?」

「あぁ。自由奔放で時折逃げ出すこともあるんだが、よりにもよって今日とは……」

「こんな人混みじゃなぁ……」

 近藤や原田の不安を感じさせる呟きに、シウネーも思わず同感している。そよの脱走はもちろん一大事なのだが、職務を放棄して探しに行くことも出来ず、近藤や土方らはつい手詰まり感を覚えていたのだ。

 彼らの神妙な様子に気付き、フレイヤとユージーンも近藤らに声をかけてくる。

「どうかされたのですか?」

「いや、実は将軍の妹が密かに抜け出してな……」

「それは一大事だな。俺が代わりに探そうか?」

「えっ、良いのか?」

 事情を察したユージーンは、なんと自らそよの捜索を志願してきた。彼の思わぬ気遣いに、原田ら真選組の面々はつい目を丸くしてしまう。

「ですが、アナタにそのような役目を任せるわけには」

 シウネーも心配の声をかけるも、ユージーンは冷静な姿勢のまま返答してきた。

「心配するな。今日の俺はプライベートで来ている。いわば一般人と同じようなものだ。護衛もいらないし、人探しくらいサクッと終わらせてやるよ」

 彼は自信満々にそよを連れ戻すと宣言。将軍としてではなく、一般人としての立場を存分に行使しようと考えていたのだ。

 頼もしい彼の気遣いに共感して、土方や近藤は文字通りユージーンを素直に頼ろうと決めている。

「分かった。じゃ、頼むぞ」

「俺も付いていきましょうか?」

「いいや、いい。一人で十分だ!」

 原田は自ら護衛を志願するも、ユージーンは気遣いを受け入れた上で断っていた。そのまま勢いよく場を跡にして、そよを探しに彼は会場内を駆け抜けていく。

 そよの捜索をユージーン一人に任せたものの、やはり土方らの不安はまったく拭い切れていない。

「と任せたは良いが、やはり不安だな」

「やはり俺が付いていった方が」

「そっちじゃなく、姫様が変なトラブルに巻き込まれてないか不安なんだよ。俺は……」

 特にそよの現状を考えるだけでも土方は胃をキリキリさせており、何かあった時には松平からの制裁も最悪考えなくてはいけないのである。

 その一方で、

「そういえば、ユージーン将軍と真選組の原田さん。声が似通ってませんでしたか?」

「声? そういわれるとそんな気が……」

フレイヤはユージーンと原田の声質にどこか共通点を感じていた。シウネーもフレイヤの呟きに共感している。

(どちらも同じ声の方が担当されているいわば中の人ネタであるが……)

 いずれにしてもそよが早く見つかることを、五人は一貫して祈っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一方で、肝心のそよ本人はと言うと、

「トリックオアトリート!!」

「お菓子をくれなきゃいたずらしちゃうぞです!!」

ユイ、晴太、いずみ、いずみ兄、定春の四人と一匹で、ハロウィンを大いに満喫している。なお、そよの正体を知っているのはユイと晴太、定春のみであり、いずみといずみ兄にはユイの友達のペルソナちゃん(偽名)として紹介していた。

 そんな彼らが現在訪れている屋台は、月詠が店番を勤める屋台である。

「晴太にユイか。その子も友達か?」

「そうそう! ペルソナちゃんって言って、ユイちゃんの友達なんだ!」

「そうなんです! ハロウィンで偶然ばったり会って、一緒に回っているんですよ!」

「ワン!」

 不思議そうな表情でペルソナことそよの顔を見る月詠。見れば見るほど将軍の妹君であるそよと瓜二つな見た目に、どこか違和感を覚え始めていた。そんな月詠に晴太は焦りながら、ユイや定春はまったりとした態度で誤魔化している。

 なお、いずみといずみの兄も、晴太の血相を描いた雰囲気に少し疑問を浮かべていた。

「晴太君、汗が凄いけど大丈夫かな?」

「月詠さんとは知り会いらしいから、緊張しているわけじゃないと思うが……」

 見て取れる晴太の緊迫感のある態度に、ただただ二人は心配している。

 一方で月詠は、ユイや晴太の話を聞いて、素直に言うことを信じていた。

「分かったぞ。じゃ、ペルソナにもお菓子を渡さないとな」

「ありがとうございます! 月……お姉さん!」

 感謝を伝えようとした矢先、思わず本名を口走ってしまい、慌てて誤魔化すそよ。月詠とはある一件で顔見知りになったので、彼女も怪しまれないように別人として振舞っている。

 そんな月詠からは、チョコの詰め合わせを渡されていた。

「ありがとう、ツッキー!」

「美味しく頂きますね!」

「あぁ。ハロウィンを引き続き楽しむのじゃ」

「はいです!」

 チョコを貰った一行は揃って礼を伝えて、月詠のいる屋台を去っていく。山場を潜り抜けたことで、晴太は一段と安堵の表情を浮かべていた。

「ふぅー、終わった」

「晴太君、汗凄いけど大丈夫そう?」

「何かあったか?」

「いやいや! なんでもないから!!」

 心配の声をかけてきたいずみといずみの兄に、反射的に返答する晴太。緊張した態度が無意識に体から出ていたことに気付き、さらに彼は動揺してしまう。

 その一方でユイとそよは、呑気にもハロウィンの雰囲気を盛大に楽しんでいた。

「ハロウィンって、とっても楽しいイベントですね!」

「そうですよね! 私もハロウィンは初めてで、こんなに楽しいとは思っていなかったんですよ」

「ユイさんも初めてでしたか。でしたら、お互い悔いの残らないようにお菓子を集めちゃいましょう!」

「はいです! そよ……ペルソナさん!」

 共に初体験のハロウィンを満喫しており、にこやかな表情を浮かべている。定春も二人を後押しするように、大きく頷いていた。

 なお、ハロウィンを巡りつつ、本来の目的である茂茂に忘れ物を届ける役目も彼女達は忘れていない。いずみ達に気付かれないように、細心の注意を払いながら、人探しもユイらは平行して行っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして銀時、キリトらはと言うと、屁泥絽の恐ろしさに思わず尿を漏らしてしまった茂茂の後処理をするべく、会場内にあった公園の厠に駆け込んでいた。茂茂はキリトと共に多目的用の広い厠に入っており、濡れた足元や服をタオルで拭いてもらっている。

 なお、銀時、新八、アスナ、神楽、ユウキの五人は、厠の入り口前で茂茂達が出るのを待っていた。

「おい、神楽。急いで将軍用のパンツとズボンを買ってこい。この際だ。トランクスにしとけよ」

「了解ネ! 任せるヨロシ!」

 銀時は神楽に茂茂用の下着のお使いを頼んでいる。お金を受け取った彼女は、一目散に近くの服屋へと駆けていった。

「これで新しく下着を買ったら、ハロウィン巡りの再開かな?」

 ユウキが問うと、銀時がすかさず返答する。

「そうだな。とりあえずお前ら、この厠に誰一人として通すなよ」

「って、鍵がかかっているなら大丈夫じゃないの?」

「それよりも神楽ちゃんが、まともな下着を買ってくるか……」

「流石に大丈夫だろ」

 とりあえずは神楽が下着を買ってくるまで、一行は厠の入り口周りに待機することになった。新八だけは、神楽が変なものを買ってこないか若干不安に感じていたが……。幾ら個室に籠っているとはいえ、何が起きるか分からないので、一行は厳戒態勢で辺りを警戒していく。

 その一方で茂茂は、後処理の手助けをしているキリトと、ささやかな会話を交わしていた。なおお漏らしによりズボンやパンツが濡れている為、現在の茂茂は下半身のみ何も履いていない状態である。

「将軍様。ハロウィンの方は楽しいか?」

「あぁ。実に楽しいぞ。何が起きるか分からないハプニング性もあって、とても刺激に満ち溢れているな」

 茂茂の満足げな表情を見ると、キリトもつられて思わず微笑んでいた。将軍直々の指名で最初こそ困惑していた彼だが、茂茂の物腰柔らかい姿勢を知るにつれて、次第に一知り合いとしての距離感を詰めている。

 なお茂茂の方も、キリトを一人の親友として対等に接していた。

「それよりもキリト君。君の服を汚してしまい、大変申し訳ない」

「別に良いですよ。将軍様の気持ちは十分に分かりますから」

「ふっ、優しいな君は。君と親友になれて、余はとても嬉しいぞ」

「それは俺も同じかな」

 キリトから借りた服を汚してしまったことに、茂茂は深々と彼に謝っている。状況的に仕方ないと感じたキリト本人は、すんなりと茂茂の謝罪を受け入れていた。寛大な心で許してくれたキリトに、茂茂は増々彼の優しさに心を打たれている。

 と個室内で会話を交わす二人だったが、いつまでも同じ場所に留まるわけにはいかないので、キリトは外の様子を見に行くことにしていた。

「ちょっと外の様子を見てくるよ。このままじゃ流石に不味いだろうし」

「そうだな。宜しく頼む」

 一刻も早く茂茂用の衣類が必要と思い、キリトは現在の銀時らの状況を聞いてみる。個室内に設置された「開ける」のボタンを押して、外へ出ようとした時であった。

「アレ?」

「どうした?」

「ボタンを押しても開かなくて……」

 キリトがいくらボタンを押しても、まったく扉は開こうとしない。異常に感じた彼は、思わず扉を大きく叩いていく。

〈カンカン!〉

「ん? なんか音しない?」

「厠から聞こえるわよ」

「おい、キリト。何かあったか?」

 音に気付いたユウキやアスナらは、揃って厠のドア前へと駆けよる。耳を澄ましながら、キリトに現在の状況を聞き出していた。

「ボタンを押してもドアが開かないんだ!」

「何!?」

 想定外の異変を伝えられると、銀時も咄嗟に厠の「開ける」ボタンを連続して押す。だがしかし、依然として扉は開かないままであった。

「おい、こっちも開かないぞ」

「って、まさかの故障ですか!?」

「えっ! このタイミングで!?」

 突然の自動ドアの故障に大きく動揺してしまう四人。キリトと茂茂が監禁状態となってしまい、新八やアスナらは大いに焦り始めていた。

「仕方ない。神楽! ドアをこじ開けろ……って」

「まだ帰ってきていないわよ」

「マジかよ……なんでこうもタイミングが合わないんだよ」

 最終手段として神楽の馬鹿力に頼ろうとするも、タイミングが悪く現在の彼女はお使いに出向いている。神楽の帰りを待つしか方法が現状無く、銀時らはやきもきとした気持ちに苛まれていた。

「おい、どうするんだよ! この状況!」

〈カンカン!〉

「ちょっと、銀さん! 扉を無暗に叩いても、開かないわよ。多分」

 まるでやつあたりをするが如く、外側から扉を叩き続ける銀時。無鉄砲な行動に、アスナは思わず苦言を呈してしまう。

「でも、将軍様やキリトが無事だったら大丈夫じゃない?」

「そうですよ! 神楽ちゃんが戻ってきたら、最悪怪力でどうにかなるも……」

 そんな彼に対し、揃って落ち着かせようとするユウキと新八。不安を覚える銀時らへ説得しようとした……ちょうどその時だった。

〈ゴロン!!〉

「ん? 何の音?」

 厠の裏側で違和感のある大きな音が聞こえてくる。不審に思った一行は、揃って音の聞こえた裏側へと移動した。

「ぎ、銀さん! 大変ですよ!!」

「どうした……って、はぁぁぁ!?」

 と辿り着いた瞬間に、四人は大きく驚嘆してしまう。その理由は……

「か、壁が壊れてる!?」

裏側の一部の壁が壊されていたからだ。所謂経年劣化により一部のレンガが落ちやすくなっており、さっきの自動ドアを叩いた衝撃で綻んでいたと思われるが……あまりにもタイミングが悪かった。壊された壁の一部を除くと、隊士服姿のキリトと下半身を丸出しにしている茂茂の姿が見える。無論壁自体も一部しか穴は空いておらず、よく近づかないと見えない仕様になっているのだが……自動ドアが塞がれている現在の状況では、あまりにも分が悪くまさに窮地の状況なのだ。

「ちょっと!? まさか将軍のアレが見えてるの……!?」

「不味い状況だって! これ!」

 気持ちの問題で穴を頑なに覗かないアスナやユウキだったが、何が起きているかは想像がつく。その上で早急な対策が必要と彼女達は考えていたのだ。

 一方で銀時と新八は穴を覗きつつ、厠に監禁されているキリトへ向けて焦りながら話しかけてくる。

「おい、キリト! この状況どうするんだ!」

「どうするって……レンガを積み直すことは出来ないのか?」

「いやダメです! 地面に落ちた衝撃で粉々になっています」

 応急処置でレンガを元あった場所に戻そうとするも、レンガは地面に落ちた衝撃で壊されていた。他に穴を塞ぐ代わりの物が無いか近くを見回るものの、まったくと言って見つからない。

 皆があたふたとする一方で、茂茂だけは冷静に現在の状況を分析していた。

「なるほど……これが江戸の市民を楽しませるミラーハウスというやつか」

「全然違うけど!!」

「おい、将軍! 密かにこの状況を楽しんでないか!!」

 頓珍漢な一言に、思わず銀時と新八は彼にツッコミを入れる。前提から間違っており、そもそも危機的な状況を彼はあまり分かっていなかった。

 自動ドアが開かず八方塞がりのキリトと茂茂。空いた穴の対処を必死に考える銀時、新八、アスナ、ユウキの四人。頼みの綱の神楽はタイミングが悪く不在の状況の中で、一行は空いた穴を塞ぐ方法を必死に考えていく。

「てか、本当にどうするの! この状況を僕ら以外の誰かに見られたら……」

「致命的な恥さらしよ……」

「おい、新八。誤魔化し通さないと、切腹じゃすまないぞ!」

「分かってますよ、そんなこと!! とりあえず穴は縦一列に二つあるわけですし、そこを塞ぐなり時間を稼いで、神楽ちゃんが戻ってくるまで隠し通しましょう!」

 四人は早急に対策を練り、それを互いに深く浸透させていた。穴を覗かれた場合、下半身丸見えの茂茂が目に映る為、何としてもバレないように遂行しなくてはならない。落ちたレンガの代わりになるものを探しつつ、通行人へ穴を見られないように防ぐ。時間稼ぎを行っているうちに、神楽が戻ってくれば、後は彼女の力技でなんとかなると考えていた。

「おい、キリト! お前は意地でも将軍を守れよ! もちろん将軍のあそこもな!」

「わ、分かった! 将軍。ひとまずは奥側に」

「あぁ」

 銀時はキリトにも作戦を共有させており、彼は早速茂茂を死角になるような場所へと誘導させている。

 その隙に銀時らも動き出す。

「よし、じゃまずレンガの代わりになるものを……」

 早速立てた作戦通りに動こうとした時であった。

「お前ら何やってんだ?」

「うわぁぁぁ!!」

「長谷川さん!?」

 何の前触れも無く、長谷川が銀時に声をかけてくる。彼との不意の遭遇に皆が驚くと、急いで四人は、穴の周りを覆うように横一列に整列した。

「ど、どうしたんだ急に?」

「な、なんでもねぇよ!」

「そうですよ、長谷川さん!! 僕ら真選組の格好をしていて、その真似をしているだけですから!」

「何も怪しいことなんてないからね!!」

 銀時、新八、ユウキらの不可解な行動に疑問を浮かべる長谷川。辛うじて穴の存在には気付いていないが、やり過ごすのももはや時間の問題である。

 因みに長谷川は仮装をまったくしておらず、いつも通りの茶服のままでいた。

「そうか。お前らの仮装って、だいぶ変わってんな」

「まぁ、前々から決めていたからな! てか、長谷川さんはどうしてここに?」

「いや、普通に厠を利用しようとしたら、空いていなくて出てきたところなんだよ」

「えっ!?」

 銀時が長谷川に問い返すと、彼は純粋に 厠を使いたいだけである。空きが無いと聞き入れると、銀時ら四人は思わず心をドキッとさせていた。

「ま、まさか長谷川さん。多目的の方に用事が……?」

「いや、普通の個室だよ。何度叩いても反応が無いし、まったく困ったもんだよ」

 長谷川は最初から個室の厠を選んでおり、心配されていた多目的への用事は無縁と知り、安堵する一同。だが一方でタイミングが悪く個室の厠が埋まっていることに、銀時と新八は大いに怒りを感じていた。

(なんちゅうタイミングで、使ってんだよ!)

(こっちの苦労もわかれよ……!)

 内心で彼らは、素性も知らない個室の厠利用者に一方的な恨みを募らせている。ひとまずは長谷川をこの場から追い払おうとしたちょうどその時、

〈ドォォルルル!〉

突然汚らしい音が公園内に響き渡っていく。

「何、今の音!?」

「これってもしかして……」

「おいおい、汚らしいぞ! なんちゅう音出しているんだよ!」

 アスナ、ユウキ、長谷川はすかさず音の正体を察し、不快感を露わにする。もしかしなくてもこの音は排泄音であり、厠から出ていることから、恐らくは個室利用者の出した音と予測が付く。

「おい、なんだよ! この音!」

「公共のエチケットはちゃんと守ってくださいよ!!」

「ったく、どこの誰だよ! こんな汚い音出す奴は!」

 銀時や新八も大声で文句を言い放っていく。個室利用者をさっさと追い払いたい一心で、彼らは嫌味を呟いていたのだが……ふと穴の方に耳を澄ましてみると、

「余の音がそんなに汚かったとは……」

「将軍? 大丈夫か?」

((将軍かよぉぉぉ!!))

排泄音の正体が茂茂と発覚していた。彼は音の文句を言われたことをだいぶ気にしており、すすり泣くような大きなショックを受けている。そんな彼をキリトが咄嗟に宥めるも、やはり時間がかかりそうではあった。

(おい、ふざけんなよ! こんな状況で普通に用を済ますとか、どんだけ命知らずなんだよ!! もう意味が分からねぇよ!)

(つーか、音大きすぎなんだよ! 断末魔と思われても仕方ない大きさだったよ!?)

 銀時と新八は内心で思わず本音をぶちまけている。排泄音の正体が茂茂とはまったく思っておらず、そのギャップに二人共ドン引きしていた。同時にキリトを含めて、二人に迷惑をかけて申し訳なく思っている。(なお、ユウキとアスナは長谷川の説得をしていた為に、排泄音の正体が茂茂と気付いていない)

「とりあえず、右に曲がればコンビニがあるから、そこの厠を使うと良いよ!」

「こっちで待つより、効率が良いと思うわよ」

「分かったぜ、ありがとうな!」

 ユウキとアスナは長谷川に近くの厠がある場所を教えていた。それを聞いた彼は、すんなりとその場を跡にしている。穴のことはバレないまま、ようやく一難が去っていた。

「ふぅ~。疲れたー」

「まさか個室が埋まっているなんて」

 緊張感が解け、どっとと疲れを感じるユウキとアスナ。同じく銀時と新八も同じくらい疲れ切っている。

「はた迷惑な話だよ。こっちがどんだけ苦労したと思ってんだ!」

「まぁまぁ。一難去ったことですし、今度こそ代わりになるものを探しに……」

 と気を取り直して、今度こそ作戦通りに進もうとした時であった。

「アスナさん!!」

「やっと見つけた~!!」

「げっ!? 今度はこいつらか……!」

 またしても彼らは知り合いと遭遇してしまう。シリカ、リズベット、リーファ、シノン、ピナの女子達と使い魔のチームであり、彼女達は沖田にそそのかされて必死でキリトらを探していたのだ。なお、シリカは妙の着物、リズベットは九兵衛の野良着、リーファはあやめの忍者服、シノンは月詠の着物を着用しており、ささやかながらハロウィンの仮装を大いに楽しんでいる様子。

 銀時らにとっては何としても今は知り合いに出会いたくない為、シリカ達の喜びとは相反して、鬱陶しく感じ始めている。

「アレ? お兄ちゃんに神楽ちゃんがいない?」

「てか、やっぱりユッキーと一緒だったのね」

「あぁ、そうそう! 前々から約束していて。ハハ」

 リーファやシノンは早速、キリトや神楽が近くにいないことに気付き始めていた。ユウキにも軽く挨拶し、ささやかながら彼女との再会を喜んでいる。

「まさか地球に来ていたなんてね」

「ん? なんで皆さん、真選組の隊士服を着ているんですか?」

「それはかくかくしかじかで」

 一方でリズベットやシリカは、新八達の着用している仮装に目を向けていた。皆が真選組の隊士服を着ていることに新鮮味を感じている。新八がすかさず説明しようとした時であった。

「ナー!!」

「あっ、おいこら!」

 ピナが銀時らのいる後ろ側を向けて指を指す。ピナの行動が気になり、シリカらが指した方角に目を向けると、

「あー! 穴が空いていますよ!」

「えっ、本当!?」

皆厠に空いた小さな穴を発見してしまう。銀時らの苦労が虚しく、水の泡となった瞬間であった。

「ここ厠よね?」

「まさか、穴の向こうにお兄ちゃんがいるとか?」

 リーファはふと思ったことを呟くも、それは概ね当たっている。正しくはそこに茂茂もいるのだが……下半身を丸出しにしている為、万が一見つかれば彼が社会的に終わることは目に見えていた。

一行にとって最大の窮地が訪れている。

(ま、不味いですよ銀さん! どうしましょう!!)

(とにかく、この女共を離れさせろ! アスナでもユッキーでも良いから、なんとかしてくれ!!)

(おい! まんま他人にぶん投げるような顔をするなよ!!)

 顔を合わせ、心の中で本音をぶつける銀時と新八。互いの言葉は聞こえていないはずだが、新八は銀時の表情から彼の気持ちをすぐに察していた。当然アスナやユウキも困惑しており、どうにかシリカ達を落ち着かせようと必死になっている。

「落ち着いてみんな!」

「そうそう! 特に問題とかないから!」

 と説得を続けていた時であった。

「みんな。俺は特に問題ないから安心して」

「えっ!?」

「はぁ!?」

「キリト君!?」

 厠の穴からキリトがシリカらに向けて、話しかけてくる。唐突な彼の行動に銀時やアスナらは動揺し、シリカ達四人は思わず衝撃を受けていた。

「キリトさん……?」

「キリト? そこにいるの」

「あぁ。壁が壊れたから、銀さん達にお願いして守ってもらっていたんだ。一応厠内だから、そんなに覗かないでもらえるか?」

 キリトは落ち着いた姿勢で、女子達をすんなりと落ち着かせている。彼の無事が確認出来て、シリカらは皆安堵の表情を浮かべていた。

 一方で銀時らはキリトの目立つような行動がいまいち理解できず、そっと穴を覗くと、上の穴からキリトが普段着ている上着。下の穴から黒いズボンが見えていた。この事から銀時らはあることを察していく。

(そうか! 下にキリトがいて、上に将軍がいるのか。よく考えたじゃねぇか!)

 そう。所謂組体操のような姿勢で、今キリトと茂茂は踏ん張っているのだ。キリトの上着を着ている茂茂をキリトが持ち上げて、穴からはキリト単独として映るように仕掛けている。この趣向を凝らした二人の共同作業に、銀時らは皆脱帽していた。

「今どういう状況なの?」

「安心しろ。キリトと将軍が頑張っているんだよ。幸いにも女子達は、将軍の気配にまったく気付いていないからな」

 穴の先を見ることが出来ないアスナやユウキに向けて、銀時は小声で現状を伝えている。キリトの苦労がひしひしと伝わり、内心で思わず感心していた。

「とりあえず一安心?」

「だと思います。後はリーファさん達を遠ざければ」

 とチャンスが出来るうちに。シリカらを厠から遠ざけようとしたが……ここでシノンは、ある異変に気付いている。

「ねぇ、なんか血出ていない?」

「えっ?」

 そう。彼女が気付いたのは、ポタポタと垂れる血のしずく。絶え間なく一定の時間で降り続けており、女子達は一瞬にして不安感を募らせていく。

「まさかキリトが怪我を……?」

「そんな……大丈夫ですか、キリトさん!?」

 心配の声をかけるリズベットとシリカ。それは銀時らも同じであった。

「おい、キリト! 何があった!」

「状況を説明してください!」

 緊急を要すると思い、大声で声をかける銀時と新八。茂茂も関わっているので、何か身体に関わることがあれば早急に対応しなくてはいけないのだが……

「か、可愛い女子達だ……」

((鼻血かよぉぉぉぉ!!))

その理由はしょうもないものである。茂茂は穴の先からリーファらの姿を目撃し、その可愛らしい見た目やスタイルに見とれ、思わず尋常じゃない量の鼻血を垂らしていたのだ。

「しょ、将軍様……」

 鼻血を出し続ける茂茂には、キリトも思わず苦い表情を浮かべている。

 一方で銀時らは、引き続き茂茂に内心でツッコミを入れていた。

(おい、いい加減にしろよ! 将軍!! 俺達の苦労、どんだけ無駄にすれば気が済むんだよ!!)

(つーか、分かりやすいんだよ! どんだけむっつりなんだよ!!)

 もはやフォローする側にとっては、振り回されっぱなしの出来事ばかりが起きている。当然シリカらにも真実が言えない為、銀時らは咄嗟に出まかせをぶつけてきた。

「ど、どうやらハロウィンで貰ったチョコのせいらしい」

「チョコ?」

「あぁ、そうだ! ということで、アスナ!! 近くのドラッグストアで、絆創膏を買ってきてもらえるか!?」

「わ、私が!?」

 勢いのままにアスナを指名し、本人は困惑めいた表情を浮かべている。訳アリなのは表情から見て察せれるが、あまりの急展開ぶりに彼女の理解がまるで追いついていなかった。

 しかしこれは、銀時なりのある作戦でもある。

「いいえ、アスナさんにだけ良い顔はさせませんよ!!」

「そうそう! お兄ちゃんのピンチなら、全員で助けないと!」

「み、みんな?」

「そうと決まったら、アタシ達でドラッグストアに行くわよ!」

「そうね。近くに「松尾と清志」があったから、そこで調達するわよ!」

 アスナを名指しした途端に、揃って声を上げたのはシリカら女子達。アスナへの対抗心をメラメラと燃やし、彼女の代わりにキリトへ絆創膏を渡そうと躍起になっている。これこそが銀時の狙っていた作戦であり、彼女達に絆創膏への注意を向けさせる提で、厠から離れさせようとしていた。

「それじゃ、レッツゴー!!」

「「「おー!!」」」

 リズベットの掛け声と同時に、ドラッグストアに向かう女子達。なおピナだけは「ハー」とため息を吐いて、渋々女子達の異常なノリに付いていった。

 またしても一難が去り、ようやく銀時らは一息付いている。

「やっと終わったか」

「嵐のように過ぎ去りましたね」

「ねぇ、アッスー。あのまま放っておいて良いの?」

「大丈夫じゃない? 多分」

 ユウキだけはシリカらの勢いに圧倒されて、思わず彼女達を心配していたものの、アスナは特に問題視していなかった。いつも通りのことと高をくくっている。

 一件落着したと同時に、銀時はふとある疑問を浮かべていた。

「てか、なんでアイツら妙の格好していたんだ?」

「さぁ?」

「後、厠のドア開かないことアイツらに言っておいたっけ?」

「知りませんよ! 色んなことが起きすぎて、整理が追い付いていないんですよ! こっちは!!」

 シリカらの仮装やボタンの故障の件など、ふと振り返ると浮かんだ疑問を新八につい聞いてしまう。当然本人もよく分からないので、彼はただツッコミを入れるしか無かった。

 そんなことはさておき、新八はキリトらの現在の状況を確認する。

「キリトさん。そっちは大丈夫ですか?」

「なんとか。将軍にはトイレットペーパーで、鼻血を止めてあるし」

「あぁ、迷惑をかけてすまない。だが眼福であった」

「おーい。それはせめてすべてが終わった時に言うべきだろ」

 共に組体操を解除しており、鼻血の対処も終わっているとのこと。なお肝心の茂茂は、お気楽にもシリカら女子達の方に興味を向けていた。あまりのマイペースぶりに、銀時もツッコミに加わっている。

「でもこれでやっと、穴を塞ぐ物を探しに行けるね」

「その前に神楽ちゃんが来れば、一段落するんだけど……」

 中々作戦通りにはいかず、思わず頭を抱えてしまうアスナ。そんな彼女をユウキはそっと宥めていく。この苦労も神楽が来れば解放されると、二人は大いに痛感していた。

 そう四人で話していた矢先、厠の方から水が出る音が聞こえてくる。

「おい、この音」

「まさか……個室の利用者が出てくるんですか!?」

 銀時らはすかさず男子の個室の厠を利用していた人と確信。ちょうどこちらに向かう足音が聞こえ、銀時は早速その人物に八つ当たりをしていく。

「おい、てんめぇ! さっきは良くも邪魔してくれたな! どこのどいつだ!!」

 意気揚々と文句をぶつけた相手の正体は……

「おや、君達は……万事屋か! 覚えているか? ユージーン将軍だ」

((将軍かよぉぉぉぉ!!))

ユージーン将軍である。

(おい! てんめぇも将軍だけど、このタイミングで出てくるなよ!!)

(つーか、一国の長が厠にずっと籠っているとか、一体何があったんだよ!!)

 まさかの再会に内心でまたもツッコミを入れ続ける銀時と新八。将軍繋がりの登場には、流石に彼らも先読み出来なかった様子であった。

「しょ、将軍!?」

「アナタも地球に来ていたの!?」

 一方でユウキとアスナも、銀時ら同様に突然のユージーンとの再会に大きく驚きを示している。

 するとユージーンは、手短に返答してきた。

「まぁな。完全プライベートで来ていたが、ちと姫様に頼まれてな」

「何を?」

「姫様を探しに行ってくれとな」

 自身の目的もさり気なく明かすも、主語が欠けている為、何を伝えたいのかさっぱり分からない。銀時らも頭にはてなマークを浮かべる始末である。

「おい、重複しているぞ。どういうことだ?」

「おっと、失礼。実はな……」

 とさらに細かく説明しようとした時だ。

「ん? お前達、伏せろ!」

「えっ、何!?」

 ユージーンは何かに気付き、すかさず臨戦態勢に入っている。背中に装備した大剣を抜くと、飛び回る何かに狙いを定めていく。

 その正体はハチであり、鋭い針を持っていることから、ユージーンはすかさず追い払おうと考えていた。

「はぁぁぁ!!」

 一点集中と同時に、繰り出される炎の剣。火の粉を利用して、ハチを遠くに追い払おうとした時である。

〈ガシャーン!!〉

「あっ!?」

「おぃぃぃぃ!!」

 なんと不運にも、剣は厠の壁に当たってしまった。同時に次々とレンガが崩れ始め、瞬く間に壁が大破してしまう。ハチを追い払うことが出来たが、それ以上の惨状が今露わになろうとしていた……。

 果たして茂茂とキリトの運命は如何に……。




 今回のお話としては、多目的トイレに閉じ込められたキリトと将軍をどうにか隠そうとする銀時達という……ギャグ展開でしか見られないとんでもないハプニングが特徴的でしたね。奔走する銀時達が不憫でしたが、将軍はどこか楽しんでいるようにも見えますね笑
 最後にはユージーン将軍も登場。どうなることやら。

 それともう一つ報告です。今更ではあるのですが、名前の表記に誤りがあった為、下記のキャラクターの名称を随時差し替える予定です。

徳川茂々→徳川茂茂(差し替え済み)
フレイア→フレイヤ(差し替え中)

 特にフレイヤは気付かないまま進めていた為、申し訳ございません。あくまでも本作は原作とは別人設定ではありますが、原作に沿って差し替えさせて頂きます。

 それでは次回。ハロウィンイベント篇、真の完結篇にてお会いしましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。