剣魂    作:トライアル

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 お気づきの方はいるかもしれませんが、この刀唱時代篇のタイトルは、令和ライダーのタイトルを模しております。さらに前置きも極力本家に寄せております。


第百三十一訓 復讐の剣士、カラクリ技師と交わりて。

「相変わらず変わらねぇな……この町は!」

 万事屋、そしてキリトの窮地を救ったのは、かつての強敵である泥水次郎長。彼はユナを保護した平子と合流するべく、かぶき町までわざわざ出向いていた。到着早々にキリトやカリバーとの戦いを目撃し、戦場へと乱入。そして今に至る。

「くっ、またこの男か……」

 次郎長を見るや否や、エイジことカリバーは気が引けていた。数時間前にも彼と相対し、ダークライダーに変身しているにも関わらず、ほぼ防戦一方の戦いを強いられていたからである。生身の人間でありながら、相当な実力者と彼は判断していた。

「ええい、やれ!」

 カリバーは冷静を装いつつも、攻撃対象を次郎長のみに定める。銀時、アスナ、桂の足止めをしていたこぶたへ指示し、次郎長の足止めを試みようとしたが……

「悪いな、あんちゃん。その技は既に見切っているぞ!」

彼はまったく動じていない。それどころか的確にこぶたの動きを予測し、勢いよく彼らへ向けて刀で斬りかかっていく。

 不意打ちとも言える次郎長の一太刀を受けて、こぶた達は吹き飛ばされてそのまま消滅。さらにキリトを縛っていた鎖も、ついでに破壊していた。

「す、凄い……」

「あの人が平子さんのお父さんなの……」

 助けられたキリト、アスナらは次郎長の剣術に対し、素直に驚いている。銀時からわずかに聞いていた次郎長の実力を、間近で確認していた。なお、桂、クライン、エリザベスも同じように驚いている。

 一方で銀時は、次郎長に向けて再会早々に軽口を飛ばしていた。

「ったく、やっぱり来たのか。随分と早いご帰還だこと」

「ふっ。俺とて来たくて来たわけじゃねぇよ……ただ先に向かった娘が心配だったからだ。それに……里帰りくらい好きにさせろ」

 次郎長もまた、銀時へ向けて小言で返している。かつて死闘を繰り広げ、はたまた共闘しあった二人だからこそ、その間には奇妙な縁が生まれていた。互いの一言に、二人はそっと笑っている。

 一方で平子は数時間ぶりに父親と会えて、大いにテンションが上がっていた。

「じろちょん! 久しぶり! 無事に戻ってくるって信じていたよ!」

「心配かけたな、平子よ。ほら、飴ちゃん上げるからな」

「わーい!」

「って、本当に親バカになっているよ!?」

「キッリ―やアッスー並みに甘い対応アル」

 噂には聞いていた子煩悩さに、新八は反射的にツッコミを入れる。平子と再会すると同時に、次郎長は彼女へぺろぺろキャンディーを渡していた。その娘への溺愛さに、彼の内情を知る銀時、新八、神楽の三人は大いに驚愕している。なお、キリトやアスナらも、先ほどまで漂っていた次郎長の渋さとは正反対な態度に思わず驚かされていた。

「ふぅ……一安心です」

「ですね。次郎長様がいれば、恐らく大丈夫でしょう」

 ユイとユナも次郎長の参戦に思わず安堵している。

 こうして場の雰囲気は形勢逆転。カリバーの前には、銀時、キリト、新八、アスナ、神楽、桂、クライン、エリザベス、平子、次郎長の十人の戦士が立ちはだかっていた。因みにユナは、ユイと定春のいる場所まで戻っている。

「さて、あんちゃんよ。まだやる気か?」

「もう諦めろ、エイジ! これ以上、ユナさんを悲しませるな!」

 次郎長とキリトは、揃ってカリバーに戦闘の中断を提案。ユナの件も踏まえて、これ以上の争いは無意味だと彼に説いていた。

 一方でカリバーは、どんなに言われようともまったく聞く耳を持っていない。

「ならば……」

 彼は闇黒剣月闇(あんこくけんくらやみ)を握りしめて、自身の計画を邪魔する十人に再度立ち向かおうとした。

ちょうどその時である。

「その辺にしときなよ、エイジ」

 突然エイジにある少女が話しかけてきた。声の聞こえた方角に皆が振り向くと、ちょうど左側の電柱の上にその少女は佇んでいる。

「ねぇ、キリト君。あの子って……」

「まさか……!?」

 少女の姿を見た途端に、キリトとアスナ、そしてユイの三人は大いに動揺していた。なぜならば……自分達をこの世界へ送り込んだ元凶と再会したからである。

「おい、てめぇら。その反応って……」

「アレがアッスー達の出会ったアンカーって子アルか!?」

 銀時、神楽からの問いに、二人は大いに頷く。数時間前に聞いた山崎からの情報提供と照らし合わせて、彼らが探し求めていたアンカーと見て間違いなかった。

 その風貌は最初に出会った時とは違い、ローブを一切被っていない。童顔で幼い顔つき、神楽とほぼ同じ背丈と小柄な体型、黒く長い髪はサイドテールにまとめていた。服装はキリトやアスナと同じALOのファンタジー風の衣装を着ており、楽譜を模したワンピースと音符をイメージしたショートブーツ、さらに音符の髪飾りやピアスととんがり耳が特徴である。

 その手には大きい槍を手にしており、持ち手には笛の機能を設けていた。特徴のある武器と喋り方から、キリトらはアンカーと断定している。

「何。あの子がサイコギルドだと……?」

「おいおい、マジかよ」

 思わぬ乱入者に、警戒を強める桂やクライン。エイジ以外の面々がアンカーにも敵意を向ける中で、彼女は黒く透き通った羽を上げて飛び上がり、空き地まで着地していた。

「久しぶり。キリト、アスナ、ユイ。そして他のみんなは初めましてかな?」

 アンカーは不敵な笑みを浮かべながら、キリトらへ話しかけていく。まるで彼らの反応を楽しむかのように、含みのある表現でこちらに近づいていた。

 すると次郎長は、強気にもアンカーに一言返している。

「おっと、俺は初めましてじゃないんだがな。数時間前にも戦っただろ? お前さんの呼び出したおもちゃと」

「って、この人……私をおちょくって!」

 彼の余計な一言に、アンカーは返す言葉が無かった。彼女は次郎長を足止めしようと怪人を召喚したのだが、結果は彼の圧勝で幕を下ろしている。態勢を整える前に次郎長の逃亡を許してしまい、なんとか追いついて現在に至っていた。こればっかりは公にできず、アンカーにとっても罰が悪かったのである。

 一方でエイジは、一応サイコギルドの仲間であるアンカーの乱入に戸惑いを示していた。

「アンカー……どうしてここに?」

「決まっているじゃん。さっさとユナを連れ戻したいからだよ。シャドームーンから追加で言われてね。致し方なくだよ」

 アンカーはぶっきらぼうな態度でエイジに返答。彼女自身もエイジと同じく、ユナを連れ戻す目的で動いていた。

 当然それを聞いた銀時らはより一層、アンカーにも警戒を強めている。

「ったく、テメェもエイジの仲間ってことかよ」

「ユナさんは絶対に渡しませんよ!」

「兄貴達の言う通りです!」

 銀時、新八、平子も深刻な表情のまま、彼女への敵意を剥き出しにしていた。一方でキリト、アスナの二人は、アンカーへどうしても聞きたいことをぶつけている。

「なぁ……教えてくれ。君はなんで俺達をこの世界に送ったんだ?」

「そうよ! そもそもサイコギルドの目的って何なの!?」

 自分達を別の世界へ送った理由、並びにサイコギルドの真の目的に付いて彼らは知りたがっていたのだ。

 しかし……アンカーからの返事はまったく返ってこない。

「はぁ……今はそれどころじゃないのに。仕方ない。アレを使うか」

 ため息を吐きながら、彼女は槍の持ち手部分に口を近づけて、まるでフルートのように音楽を奏で始めていた。

「この音は……?」

「気味が悪いアル……」

[混沌としている!]

 その音程は不安定かつ恐怖を引き立たせるような音で、その不協和音さに神楽やエリザベスらはただならぬ不快さを感じ取っている。怪しげな音楽に皆警戒心を露わにする中で、次郎長はこの音を聞きあることを察していく。

「あの時と同じ音……」

 そう。数時間前に聞いた怪人を召喚する音色とまったく瓜二つだったのだ。とすれば、この後に訪れる展開も自然と先読みできる。

「お前ら、気を付けろ!」

 そう仲間達に警戒を呼び掛けたちょうどその時、

「イー!!」

「ウウゥゥ!!」

突然発生した紫色の霧から数多の怪人達が出現していた。

「何!?」

「こいつらは……」

 急な怪人達の登場により、驚きの声を上げるクラインと桂。彼らのみならず、場にいた全員が急変した状況に戸惑いを見せている。

「ねぇ、この怪人達って……」

「夢の世界で出会ったショッカーアルか!」

「いや、ショッカーだけじゃない」

「アイツらはマッドネバーの時にいた怪人!」

「ったく、どうなってんだ! この状況!」

 アスナ、神楽が見覚えのある怪人達に気付くも、それはキリト、新八、銀時にとっても同じ状況であった。

 彼らを取り囲む戦闘員達は、黒い全身と骨の模様の入ったショッカー戦闘員。黒ゴーグルとベレー帽を着用したGOD工作員。アリの特性を持ったアントロード(フォルミカ・ぺデス)。忍者のような構えと風貌を持つダスタード。金色の鎧を覆われたロボット、カッシーンの計五種類の戦闘員が出現していた。それぞれナイフや槍などを所持しており、武器を構えながら銀時やキリトらの様子を伺っている。

 これらの怪人の一部は、千佐の夢の中又はALO星で戦った戦闘員と同一の個体もおり、銀時らにとっては見たことのある敵により一層の警戒心を強めていた。

 するとアンカーは笑いながら、自身の能力について説明している。

「ハハハ! あ~あ、面白い。こいつらは記憶から呼び起こした私の伏兵だよ」

「記憶……?」

「サイコギルドの手に入れた所謂……お宝かな。私はそれを使って、別の世界で蔓延る怪人達を自由に作り出すことが出来るんだよ。このシャドームーンが改造してくれた武器、フルートランサーでね!」

「フルートランサー……?」

 アンカーとの会話から、キリトは彼女の言い放った武器に違和感を覚えていた。聞き覚えがあり、頭の中でそっとその違和感の正体を考え始めている。

「私達が手に入れた昭和と平成の記憶。そして最後の令和の記憶さえ揃えば……サイコギルドは最強の兵士達を手に入れることになるからね!」

「令和の記憶って、まさか……!」

「ユナさんに入っている記憶のこと……!?」

 アンカーは続けて、サイコギルドの一目的についても明かしていた。彼らが秘密裏に手にいれた記憶を悪用し、複製して自分達の手駒にしようと企てている。そしてその鍵を握るのは……令和の記憶を保管しているユナであった。エイジやアンカーがユナを追う行動理由が判明し、新八やアスナらは再度その真実に驚きを示している。

「さぁ、このまま連れ戻すよ! みんな!」

「イィィィィ!」

「はぁ!!」

 アンカーは好機と捉え、場にいた数十人の戦闘員軍団に向けて指示。ユナを強制的に連れ去ること、銀時やキリトらの妨害をすることで作戦内容を一致させていた。

 そして……ショッカー戦闘員を始めとした戦闘員軍団は、銀時やキリトらへ多勢に襲い掛かってくる。

「みんな! 剣を構えろ!」

「絶対ユナを守るぞ!」

 突撃する怪人達に怯むことなく、キリト、銀時の二人は仲間達へ向けて指示。絶対にユナを守りきると誓っている。

 武器を構えた十人の戦士達は、真っ向から戦闘員の大群に立ち向かっていた。

[これでもくらえ!]

「ったく、って数が多すぎるぜ!」

「裁いても裁いてもキリが無いぞ!」

 だがしかし、あまりにも数の多い戦闘員達により、彼らは自分の身を守ることで手一杯になってしまう。エリザベス、クライン、桂らも、中々ユナやユイの元まで行けなかった。

 そしてとうとう……その魔の手はユナやユイのいる場所まで伸びそうとしている。

「ワフ……!」

「定春……ユナさん!」

 威嚇して対抗しようとする定春と、ユナや定春に心配の眼差しを向けるユイ。彼女達を巻き込ませるわけにもいかず、ユナはある決意を固めている。

「くっ……無理を承知でここはやるしか!」

 またも令和の記憶を使用して、戦闘員軍団と戦う決断であった。正直体力の消耗に限界を感じてはいるが、最後の最後まで歯向かうと強く心に鼓舞している。

〈ビートアックス!〉

 するとユナの手には、ギター型の斧が出現していた。ピンクと青のビビットな色が特徴的なこの武器の名はビートアックス。デザイアグランプリと呼ばれる大会出場者が手にすることの出来るアイテムで、音楽を利用した炎、電撃、氷の属性攻撃が使用可能となる。

「行きます!!」

〈パンクブリザード!〉

 ユナは決意を新たにビートアックスで演奏。オリジナルとはまた異なった激しい曲調を奏でて、ビートアックスの斧部分を地面にぶつけていく。

「はあぁ!」

〈タクティカルブリザード!〉

「イー……!」

 するとどうだろうか。襲い掛かろうとしたショッカー戦闘員やダスタード達が、意図も簡単に氷漬けにされてしまった。

「これでフィナーレです!」

〈ロックファイヤー!〉

 さらにユナは曲調を変えて、今度は炎の属性を斧にまとわせていく。そして、

〈タクティカルファイヤー!〉

「はぁぁぁ!!」

「イー!!」

「うぅぅ!!」

燃え上がった炎の斧を氷漬けされた戦闘員達にぶつけている。氷と炎の連続攻撃に耐えきることが出来ずに、周りの戦闘員達は成す術も無く爆散してしまった。

「す、凄い……」

「この力でどうにか、アナタ方を守り切って見せますから!」

 ビートアックスを主要武器として巧みに使い、ユナはユイと定春を守ろうと必死に戦闘員達と戦っていく。

 その様子を見ていたアンカーは、中々ユナを捕まえられないことに痺れを切らしていた。

「流石令和の記憶を所持しているだけある……仕方ない。エイジ、プランBで行くよ」

「B? まて、その話は聞いていないぞ。どういうことだ?」

「正攻法じゃ無理だから、ちょいと頭を捻るってこと。ちょうど成功したみたいだし」

「ちょっと待て! どこに行く!?」

 アンカーの言い放った作戦に、いまいちエイジは理解が追い付いていない。焦りを感じているようにも見え、心配した彼はアンカーの跡を追いかけてその場を去ってしまっていた。

 

 

 

 

 そして銀時らの方はと言うと、数十分かけてやっと戦闘員の大群を全て撃破していた。

「ふぅ……やっと終わった」

「って、ユナさんの方は?」

「大丈夫です! みんな無事ですよ!」

 ユナの安否もユイが伝えており、一行はひとまず安堵している。銀時やキリトらも大したけがはなく、誰一人として欠けることなくこの戦場を生き残っていた。

「おっと……」

「ユナさん!?」

 その途端にユナは目を閉じて倒れこんでしまう。ユイが心配して話しかけるも、ユナからは寝言のような一言のみ返って来ている。

「スリープモードに移行します」

 そう。数時間前と同じく力を使い果たした故の強制充電であった。先ほどの戦いで多くの令和の記憶を具現化した為、その影響が彼女に少なからず影響しているのかもしれない。

「って、充電かよ」

「でも、何事も無くて良かったですよ」

 銀時や新八がそう思ったことを呟くと、アスナはユイにも一応怪我の有無を確認する。

「ユイちゃんも大丈夫だった?」

「もちろんです! ユナさんが守ってくれましたから」

 彼女の屈託のない笑顔と返答を目にすると、アスナも思わず笑顔で返していた。同時にユイを守ってくれたユナに対しても、静かに「ありがとう」と呟いている。

「そういえば、エイジとアンカーの姿が見当たらないな」

[デカい口を叩いた割には、呆気なかったな]

 すると、エリザベスや桂は付近にアンカーやエイジがいないことに気付いていた。前者はともかく、後者は簡単に勝負事を引き下がらないと思っていた為、想定外の事態に少しばかり皆困惑している。

「もしかして、尻尾を巻いて逃げちゃったんじゃ」

「いや、平子。そう易々と諦めるのような奴らではなかろう。きっと何か別の狙いが……」

 平子の思い付きの呟きを、次郎長は即刻否定。全員を足止めした上で本命のユナを連れさらわないことについては、何か裏があると彼は考えていた。

 皆がエイジらの行方について考え始めていたその時である。

「大変です!!」

「たま!? どうした、アルか?」

 なんとからくり堂にいたたまが、血相をかいて銀時らの元に駆けて来ていた。何か訳があると思い、彼女に詳しく聞いてみると……思いもよらないことをたまの口から聞くこととなる。

「源外様が連れ去られました!」

「何!?」

「はぁ!?」

「えっ!?」

 急転直下な出来事に、大きく困惑する一同。どうやら銀時らが戦闘員と対峙しているうちに、からくり堂にも戦闘員達が襲来。彼らの隙を見て源外を連れ去った流れであろう。

 この衝撃的な展開には、皆驚きを隠しきれていなかった。

「謎の集団に襲われて、気づいたらこんな書置きが……」

 するとたまは、からくり堂に置かれた一通の手紙を新八に渡す。彼は手紙に書かれていた文言通りに、手紙の内容を一分一分読み充てていた。

「アナタ達の仲間は連れ去った。取り戻したければ空川町の岩舟山まで来い。ユナを引き渡せば、無事に保釈してやる。サイコギルドより」

 簡略的かつシンプルな内容。要するに人質を交えた取引である。

「ったく、やられた!!」

「源外さんを連れ去って、人質にしたってことか……」

「なんて奴らなの!!」

 よりにもよって戦いとは無関係の源外を連れ去れたことに、悔しさを覚える銀時、キリト、アスナら。サイコギルドの手段を選ばない卑劣さを目の当たりにして、度し難い怒りを彼らは感じていた。

「こんな強硬手段に出るとは……」

「じろちょん。とりあえず今はどうする?」

「助けに行く前に作戦準備が必要だな。お前ら、少し話せるか?」

「あぁ、分かっている」

 次郎長からの提案で、ひとまずは作戦を立てることで皆が同意。ユナが目覚めるまで源外をどうやって救出するか、全員で対策を練るようである。現在いる空き地に留まったまま、そのまま彼らは話し合いを始めていた。

「俺のせいかもな……」

「クライン殿?」

 その最中、桂はクラインの小言を耳にする。エイジの言っていたユナの死の真実がよっぽど心を痛めていると思い、彼はクラインの心境を素直に心配していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場面は変わって、こちらは空川町のある岩舟山地区。木々に覆われた森林地帯と、山肌の開けた採石場を有する自然に囲まれた場所だ。

 人気も無い山奥に、アンカーとエイジはかぶき町から瞬間移動している。そこで二人は口論を繰り広げていた。

「おい、どういうことだ! なぜユナではなく、この爺さんを連れてきた!」

「だってしょうがないじゃん。あの子、令和の記憶を宿しているから、そう簡単に近づけないんだって。だから一番人質に相応しい人を連れて来たんだよ」

「だとしても、この爺さんは無関係だろ!」

 エイジはアンカーが源外を勝手に連れ去ったことに激高。彼女を問い詰めるも本人は何一つとして悪びれていない。

 アンカーが怪人を召喚して時間を稼いでいるうちに、一部の戦闘員達は源外のいるからくり堂を襲撃し、彼のみを拉致。岩舟山まで瞬間移動して、彼を縄で括りつけて逃げられないようにしている。

 エイジにとっては戦いとは無関係の人間を巻き込むのは得策では無かった為、アンカーのやり方を真っ向から否定していたが……アンカー自身は悪びれることなく、エイジに反論していた。

「てか、元はと言えば、アンタが連れ戻すのに時間がかかりすぎなのが原因なんだって。しかも万事屋にも気づかれる始末だし」

「それは……」

「言っておくけど、これもサイコギルドの命令だからね。一度でも破ったら、ユナを人間に戻す約束も無しだからね」

 核心を突くような一言に、何も言い返せないエイジ。さらには約束の破棄まで彼女はちらつかせており、何一つ文句が出ないように仕向けていた。ユナを人間に戻す約束で成り立っている協力関係の為、エイジは素直にアンカーの言うことに従うしかない。

「分かった。ただし、この爺さんに粗暴な真似はするなよ」

「はいはい。あっ、そうだ。これアンタにも渡しておくよ」

 するとアンカーは何かを思い出したかのように、エイジへ向けて一枚のカードを渡している。カードに描かれていたのはドラゴンのようなモンスターと10と言う数字であった。

「これは?」

「レプリドラゴナロスのケミーカード。ユナも仲間にしていたケミーって生物のカードだよ。このカードを使えば、アンタが持っているルシファー、カリバー、デモンズの力を一つにすることが出来るって。シャドームーンからのプレゼントだよ」

「なんで急にこれを」

「絶対勝てって言う、暗黙のメッセージかもね。最も勝てそうなら、使う必要無いと思うけど」

 その正体はレプリドラゴナロスのカード。ユナも使役したケミーのレプリカカードで、所謂偽物のケミーカードである。見た目の通り邪悪かつ強力な力を宿しており、アンカー曰く現在エイジが所持している三体のライダーの力を一つにまとめることが出来るらしい。

 急なプレゼントにエイジは困惑していたが、アンカーはポジティブな解釈でエイジに対し伝えていた。最も彼にとってはただのプレッシャーでしか感じていない様子だが……。

「それじゃ、私はシャドームーンに報告しておくから。その爺さんの見張り宜しくね。くれぐれも逃がさないように」

 アンカーはエイジにカードを渡すと、彼に源外の見張り役を任した上で、自分はシャドームーンの元へと戻っている。彼が余計なことをしないよう、念入りに注意を加えていた。

 するとエイジは、源外にぶっきらぼうな態度のまま話しかけていく。

「爺さん。悪いと思うが、少しの間辛抱してくれ」

「俺には優しくするんだな」

「当たり前だ。今回の件とはまったく無関係だろアンタ」

「そうかい」

 エイジのキリトらとは確実に異なる接し方を目にして、源外にはある確信が生まれていた。それを確かめるために、源外はエイジに会話を試みている。

「ちょうど良い。エイジ、俺はお前と少し話がしたかったんだ」

「話?」

「少し気になっていたことでな。お前さんとユナがどういう関係だったのか」

 彼は失礼を承知で、エイジの過去に何が起きたのか知りたがっていた。唐突な提案にエイジは思わず言葉が詰まってしまう。

「何ぃ、デリケートな話題だから、話したくないなら別に良いぞ」

「分かった。時間潰しにちょうど良いからな。アンタにも話すよ」

 少なくとも源外からの悪意はまったく感じられなかったので、素直に彼の話に応じることにした。

 そこでエイジは、源外に自分の過去のこと、未来で起きることだったこと、そして現在の状況を打ち明かす。

「そうかい。本来の未来ならユナの父親が、娘をAIとして疑似的に生き返らせるために、多くの人間を犠牲にしようとしたってことか」

「僕もあの人と協力関係にあったが、未来で裏切られることを知って、悩んだ末にサイコギルド側に付いたんだ。全ては僕自身の手で、ユナを本物の人間に戻す為に……!」

 エイジの苦悩を身に染みて共感する源外。彼の複雑そうな表情が、多くの苦渋の選択で成り立っていることを感じ取っていた。

 その上で源外は、エイジから聞いた徹大の話を基に、かつての知り合いを思い出している。

「そいつは林流山って奴に似ているな」

「流山? アンタの知り合いか?」

「知り合いって言うか悪友よ。そいつも娘を失い、運命に狂わされたんだよ。娘をカラクリとして生き返らせて、邪魔な人間を全て排除しようとした。まぁ、どっかの馬鹿共のおかげで、その野望は打ち砕かれたがな」

「馬鹿共……今のキリト達がいる万事屋のことか?」

「あたぼーよ。そいつらとたまのおかげだな。お前さん自身も見かけただろう。緑髪のメイドっぽい子を。アイツがたまだ。まぁ、あの子も元々は流山の娘である芙蓉が元になっているけどな」

「えっ……じゃ」

「今のユナと似ているかもな」

 源外の話した流山との一連の因縁、並びにたまの素性が分かると、エイジは素直に驚いていた。別の世界とはいえ、徹大とほぼ同じような計画を立てている研究者がいるとは思いもしなかったのである。

 と同時に源外は、自分なりに徹大のことを評価していた。

「だから、その重村徹大って男は、俺から言わせりゃカラクリ技師としては一流だよ。ただそれで娘や無関係の人間を悲しませているようじゃ、一流どころか映す価値無しに転落だろうがな。流山と同じよ。お前さんも大変な目に遭おうとしていたんだな」

 彼にとってカラクリは人の幸せの為に役立つと考えており、それを誰かの犠牲の上で成り立たせる徹大のやり方には嫌悪感を露わにしていた。

 源外の人情味のある態度。並びに一研究者として考え方に、エイジは段々と彼に興味を持ち始めている。その上で彼に気になっていたことを聞いていた。

「僕からも一つ良いか?」

「なんだ」

「アンタには子供はいるのか?」

 その質問を聞くと、源外は少しだけ黙り込んでしまう。しばらくすると、深刻そうな表情でエイジに返答する。

「いたよ。ただ戦争で死んじまったよ」

「……攘夷戦争ってやつか」

「おう。国の為に自分の命を懸けた戦った結果が、打ち首にされて晒し首。だから俺にも分かるんだ。お前さんと徹大と同じ、大切な者を失った苦しみがよ……」

 源外から伝えられたのは、あまりにもむごい現実であった。彼も徹大と同様に大切な子供を失っていた側で、何よりも戦争と言う出来事がその悲惨さをより引き立たせている。苦しみと言う言葉の重みを、彼は重々に理解していた。

「悪いな。嫌なことを思い出させてしまって」

「気にするな。おかげで俺も、アンタの人となりが分かったからよ」

「ん? どういうことだ」

 反射的に謝罪をするも、源外はまったく気にしていない。むしろ一連の話が出来て一安心した表情を浮かべている。

 そのまま源外はエイジに向けて、自分の思ったことを綴っていた。

「エイジよ。お前さん、そんなに悪い奴じゃないだろ。強大な力を手に入れて、恨みのある徹大にも、命を奪ったり傷つけたりはしなかった。それが何よりの証拠だ」

 そう。彼はエイジをただの悪人だとは決めつけていない。自分の境遇と同じく、運命に狂わされた被害者だと理解していた。エイジとの会話によって、源外は彼に対して抱いていた印象を核心付けている。

「お前さんは自分の弱さを極端に恐れている。だからサイコギルドの考えに乗り、ダークライダーに変身する力を手に入れた。その力を使いこなしているかもしれないが、それはお前さん自身の強さではない。その力はいずれ抑えきれなくなり、誰かを傷つける。その時にどうするかが、お前さんの真価を発揮させるかもな。これも全てジジイの戯言だ。信じるも信じないも好きにしろ。ただ一つ、俺も含めてアンタを心配している奴がいることだけは忘れるなよ」

 その上で源外は、エイジを純粋な目で心配していた。マイナスな感情に囚われ、サイコギルドの都合の良い道具になっていないか。本当にこのままで良いのか不安を覚えている。自身にも鬼兵隊の言いなりになり、道を踏み外してしまった経験があるので、余計にエイジの顛末が気がかりなのであった。それでも強要はせずに、後はエイジ自身の判断に彼は委ねている。

 源外と会話を交わし、エイジは内心で思っていたことを呟いていた。

(平賀源外……この人も僕や教授と同じ、大切な人を失った側だったのか。力の制御……大丈夫だ。僕はしっかり使いこなしている。暴走することなんて断じて無い……!)

 源外への同情。並びに年長者としてのアドバイスを素直に受け止めている。ただしそれでも力を手放す選択肢はなく、意地でも使いこなすと彼は意固地になっていた。

 だがしかし、彼はまだ気付いていない。アンカーから渡されたレプリドラゴナロスのカードが怪しく発光していることに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 場面は再び切り替わり、こちらはからくり堂近くの空き地。充電状態で目を閉じているユナの様子を伺いつつ、銀時、キリト、新八、アスナ、神楽、ユイ、定春、エリザベス、平子、次郎長、たまの十人と一匹は、サイコギルドに連れ去られた源外の救出作戦を立てていく。

「サイコギルドの指定した空川町は、かぶき町からおおよそ一時間です」

「また列車であの町に行くアルか?」

「いや、ユナさんの持つ力があれば、瞬時にその場所まで瞬間移動できますよ!」

「そうか、平子。思ったより早く着いたのは、それが関係したのか」

 まずは決闘場所に指定された空川町までの移動手段。通常であれば、列車等を利用して移動するのが先決だが、平子はユナの持っていたブックゲートワンダーライドブックの使用を提案。ユナが目覚め次第、彼女へ頼もうとしている。

 なおこの一言で次郎長は、平子が思ったより早くかぶき町へ着いていた理由を理解していた。

「では、到着後はそのまま岩舟山まで行きますか」

「そうだな。ただし、アイツらのことだ。きっと道中でさっきみたく、怪人を召喚して邪魔する可能性だってあるな」

「だとしたら、どこかで手分けする可能性がありますね」

「まぁ、誰が先に行くかはその時次第だな」

 銀時は先ほどと同じく、アンカーが道中で邪魔すると予測。その場合手分けが必要だと、新八らに提案している。

 するとキリトは、銀時にある提案を交わしていた。

「なぁ、銀さん。一つお願いがあるんだ」

「お願い? まさかアンカーのことか?」

「そうね。さっきは聞けなかったけど、もしまた見かけたらあの子と話したいの」

「俺達をこの世界へ送った理由をどうしても聞き出したいんだ。その時は、そっちを優先しても良いのか?」

 アスナもキリトの意見に同調し、彼らはアンカーとの一件について決着を付けたい様子である。自分達をこの世界へ送った理由をどうしても知りたく、いざとなればアンカーの追跡を優先したいと嘆願していた。

 なお、銀時はちゃんと彼らの意向を組んでいる。

「言わなくても分かっているよ。じゃないと、お前らのモヤモヤが収まりそうにないからな。アンカーはお前達に任せる」

「あぁ、ありがとう。銀さん」

 彼から無事に了承を頂き、キリトらは銀時に感謝を伝えていた。

 さらにアスナは、たまにもあることを頼んでいる。

「それとたまさん。ユイちゃんのこと、お願いしても良いかしら。万が一のことを考えて、さっきみたく戦いには巻き込みたくないの……」

「了解しました。私に任してください」

「空川町の町中で、ママ達のことを待ちますから!」

 それはユイの保護であった。源外と同様に人質にされる危険性があるので、彼女はたまにユイの見守りを頼んでいる。こちらも銀時同様、すんなりと了承していた。

 着々と作戦が立てられていく中で、次郎長は新しい万事屋の姿を高く評価している。

「……良い仲間じゃねぇか」

「次郎長さん?」

「しばらく見ないうちに、万事屋も若手が入っていて一安心だな。ひと呼んで、万事屋の若頭ってところか」

「万事屋の若頭……」

 彼はキリトを万事屋の若頭と呼称。所謂銀時の後継者として見ており、まだ気は早いが彼らのさらなる成長に大きな期待を寄せていた。

「ふっ。こいつらはお前の後継者なんだろ?」

「後継者? そんなもん、決めてすらねぇよ」

「俺が言うのもなんだが、今のうちに作った方が良い。人生はベンジョンソン並みに早く終わっちまうからな」

「そんなベンジョン……つーか、てんめぇ! 俺のセリフ取りやがって! さり気なく先読みするんじゃねぇよ!」

 なお銀時はまったくキリト達のことを後継者にするつもりは無いが、勝手に話を進めて納得する次郎長にツッコミを入れている。セリフまで被ってしまい、余計に彼の怒りを買っていた。

 そんな一悶着を起こす二人であるが、キリトらは自然と二人の仲の良さを悟っている。

「銀さんと次郎長さんって、仲良いのか?」

「いや、仲は良くないアル」

「兄貴もじろちょんも、似た者同士ぶつかっているだけだと思いますよ~」

「あと、キリトさん。銀さんの前では言わない方が良いですよ。余計に怒りますから」

 キリトは銀時と次郎長の関係を親子のように感じていたが、一連の事情を知る神楽、平子、新八は即刻それを否定。むしろバチバチやりあったライバルのような仲だと、改めて彼に教えていた。

 そんな最中、ユイはさっきまでいたクラインと桂がいないことに気付き始める。

「アレ? そういえば、エリザベスさん。クラインさんと桂さんはどこに?」

[二人なら少し込み入った話をしている。今はそっとしといてやれ]

 エリザベスに聞くと、彼はプラカードで返答。気を遣った内容に、一行は数分前にエイジから伝えられたあることを思い起こしていた。

 なお次郎長は、二人の名前を言われてもあまりピンときていない。

「クライン? 赤い髪の男か?」

「そうだな。でも、エリザベスの言う通りだ。今はそっとしといてやれよ」

 銀時も複雑な表情となり、仲間達に放置を呼び掛けている。ユナの死に仲間が間接的に関わっていたことは、本人としてもだいぶショックが大きいと考えていた。

「あの件、クラは知っていたアルか?」

「確か守り切れなかった人がいるって言うのは、古くからのギルドメンバーから聞いていたけど、まさかそれがユナさんなのは、本人も知らなかったんじゃないかしら……」

「俺も噂程度でしか聞いていなかったな……」

 アスナもこの件については小耳に挟んだのみで、詳しい事情は分かっていない。それはキリト、ユイも同様である。

 いずれにしてもクラインは、桂のみに任せると一行は決めていた。

 

 

 

 

 

「桂さん。これが俺の知っていることだ」

「なるほど。自分の身を守るので精一杯で、守り切れなかった人がいると。仲間からそう報告されたんだな」

「あぁ、でも詳しくは聞けなかったんだ……アイツらの悔しくて憔悴した顔を見ていると、これ以上言葉が出なくて」

 一方でこちらは、空き地より離れた場所にある裏路地。クラインは迷いを抱えたまま桂にこっそりと途中離脱を頼み、誰にも聞かれぬようにここまで移動していた。

 そこで桂は知った。クラインの所属する風林火山の面々で、守り切れなかった仲間がいることを。ただその正体がユナだったことは、クライン自身は把握していない。彼なりに気を遣い、詳しく聞かなかったからである。

 すると彼は、ぶつけようもない嘆きを近くの壁に向かってぶつけていた。

「ちくしょー!! 俺の方がレディを泣かせているんじゃねぇか! 守り切れなかったんだからよ……」

 例え仲間の失態と言えど、その重い事実をクラインはそのまま受け止めていた。

 守り切れなかったことで、エイジから恨みを向けられていること。はてはキリトの窮地や源外の拉致までもが、あの時の一件と繋がり、二人や仲間達を危険に晒したとただ悲痛に自責している。

 その悔しく涙を浮かべている表情を間近で見て、桂は一呼吸置いてからクラインへ話しかけていた。

「クライン殿は優しいな。仲間の決断といえ、共に悔やむことが出来るのは。流石はリーダーとして器がある男だ」

「か、桂さん……」

 彼はクラインの背中を優しくさすり、思っていたことをそのまま声に発している。その上でクラインの持つリーダー性と責任感を高く評価していたのだ。

 さらに桂は、自身のある出来事をクラインに打ち明かす。

「俺にもあるさ。守り切れなかったことの一つや二つ。だがどんなに悔やんでも、戦争は待ってくれない。だから彼らの分まで戦うしか無かった」

「桂さんが前に言っていた攘夷戦争のことか?」

「そうだな。そこで俺は国の為、そして松陽先生の為に戦った」

「松陽先生……確か桂さんの」

「先生でもあり、大切な人だな」

 桂が語ったのは、攘夷戦争のこと。かつて自身も参加し、大切な人を取り戻すために彼は命を懸けて戦った。クラインにも適宜話していたが、詳しい事情までは話していない。

 そして桂は、今までクラインに黙っていたあることを話し始める。

「そこで俺は、クライン殿の仲間と同じ選択肢を突き付けられることになったんだ」

「えっ……ってことは、誰かを犠牲しなくちゃいけない選択を迫られたのか?」

「あぁ、それは……先生か俺だ」

「はい……!?」

 予想もしていなかった展開に、クラインは思わず絶句してしまった。過酷な戦いと予想していた攘夷戦争だが、まさか自分か恩師のどちらかを天秤にかけられているとは想像もしていないのである。

「俺は敵に捕縛され、先生も囚われていた。そして敵は俺の同志にどちらか斬るようにと、選択を迫られたんだ。その結果は……言わなくとも分かるな」

 桂の残酷な過去を知り、クラインは言葉を失ってしまう。目の前で自分の恩師が斬られたとしたら……想像するだけでもそのショックは計り知れない。むしろこのような過去の経験があれど、精神を強く保っていられる桂の姿に彼は大きく感銘を受けていた。

「攘夷戦争とSAO、確かに似ているところはあるかもしれないな。共に失うものも多かっただろう。だがその分、得たものも多いはずだ。それはクライン殿とて同じではないのか」

「得たもの……」

 桂はフッと優しく微笑みながら、クラインへ本当に伝えたかったことをぶつけている。失うこと、そして悲しいことも多くあった仮想世界内のデスゲームと天人との戦争。しかしそれを経験したからこそ、自分の強さ又は信念が確立したと桂はクラインに伝えていたのだ。

 その上で桂は、再度クラインの背中を押している。

「過去を悔やむのも大事なことだ。だがそれ以上に、未来をどう生きるかがもっと大切だと俺は思っている。最もクライン殿は、既にそれを見つけていると俺は思っているぞ」

「か、桂さん……」

「自分に自信を持て。お前が心に誓った信念は、そう容易く折れるものではなかろう!」

 クラインに伝えたいことを全て言い切った桂は、何も言わずにその場を跡にした。後は自分で立ち直り、戻って来てくれる。一から言わなくとも大丈夫と、桂はクラインのことを信じ切っていた。

 その読み通りに、クラインの中ではある覚悟が決まっている。

(信念……そうだ。俺は! 自分の守りたいもんを守るために、侍を目指していたんだ! 桂さんと出会って、その憧れはもっと近くなった……今の俺ならきっと大切な者を守り切れる!!)

 自分が目指す侍道を、彼は改めて心の中に掲げていた。SAO、ALO、はては現在の攘夷志士としてもその想いは変わっていない。昔の自分とはまったく異なることを、強く鼓舞している。その上で過去に囚われているエイジに自身の想いを伝えて、囚われている源外も助け出すと決めていた。

「よしっ、やるぞ!」

 失意を捨てて、情熱を取り戻すことに成功したクライン。そんな彼の元に、一人の男が話しかけてくる。

「ふっ。どうやら迷いは吹っ切れたようだな」

「ん? アナタは……次郎長さん!」

「確かクラインとか言ったか」

 そう。その正体は泥水次郎長。彼は密かに桂とクラインの会話を聞いており、その上でクラインに対して大きな興味を寄せていたのだ。

「随分とお前さんも修羅をくぐっているな。それに先ほどの剣裁きとその声。まるで俺の戦友とそっくりだな」

「戦友? 次郎長さんの仲間か?」

「まぁ、そういうことにしておこう。アイツもお前さんと同じように、責任感が強く、大切なモンを絶対に守ろうとしていた。立派な侍だよ……」

 次郎長はクラインの戦い方から、かつての戦友を思い起こしていた。

 その名は寺田辰五郎。かつてかぶき町にて次郎長と相対していた戦友でありライバル。異なる立場に所属しながらも、男としての友情を築いた大切な仲間でもあった。残念ながら攘夷戦争の最中に、彼は命を落としている。

 次郎長はクラインに辰五郎の面影を重ねており、直感から彼に進んで協力を持ちかけていた。

「だからこそ、お前さんみたいな奴を放っておけなくてな。エイジとやらと決着を付けたいのなら、俺も手を貸してやろうか?」

「えっ!? 良いのか……?」

「俺もアイツのことが気になっていてな。アイツの戦いには迷いが生じている。壊れる前に叩いておかないと、本当に取り返しのつかない事態になりかねん……」

 次郎長は数時間前にエイジと戦った際、僅かに感じ取った迷いについて気にかけている。その迷いがさらなる不幸につながると悟り、それを防ぐためにエイジと再度戦うことを決めていたのだ。

 クラインにとっても目的が同じことについては、どこか運命的に感じ取っている。

「どうだ? 悪い話ではなかろう。お前さんも、エイジには何か伝えたいんだろ?」

 次郎長は再度クラインに返答を促すも……彼も既に内心では答えを決めていた。

「次郎長さん……頼む! 手を貸してくれ! 俺の仲間の失態は、俺自身で決着を付けたいんだ!」

「分かったぜ。共に刀で語り合おうじゃねぇか。侍の生き様ってやつを!」

「はい!!」

 次郎長と共に戦う決意である。エイジと戦うにも彼の保有するダークライダーの力に対抗するには、一人でも多くの仲間が必要だと彼は考えていた。次郎長の剣裁きを先ほど見ているクラインだからこそ、彼の協力姿勢に心から頼ろうとしている。

 二人は同盟を結ぶと同時に固い握手を交わした。全てはエイジと真っ向から勝負する為である。共に晴れ晴れとした表情で、戦い抜くことを決意していた。

「どうやら今回のことは、次郎長とクライン殿に任せた方が良いな」

 一方でその様子を密かに覗いていた桂は、奮起するクラインに安心感を覚えている。エイジの一件は次郎長とクラインの二人に任せるべきと、彼は内心で気を遣っていた。

 こうして銀時やキリトらの知らない間に、クラインは立ち直り、今回限りの協力体制を築いている。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? ここは……」

「やっと目を覚ましましたか、ユナ様」

 それから数分が経ち、ユナは充電状態から再び目を覚ます。起き上がるとたまに声をかけられており、付近を見渡すと源外を除く全員がその場に集結していた。

「これは……何かあったのですね」

「そうだな。源外さんがサイコギルドに連れ去られたんだ……助けに行くには、空川町の岩舟山まで向かうしかなくて」

「なるほどです。分かりました。皆さんも既に覚悟しているのであれば、私もサポート致します。こちらのブックゲートワンダーライドブックで、空川町まで向かいましょう」

 キリトの説明で、ユナはおおよそ何があったのか把握。自分がやるべきことを早速把握し、移動に必要なブックゲートワンダーライドブックを彼女は取り出していた。

 その最中、仲間達は思い思いのことを呟いている。

「おい、良いのか。クライン、本当に大丈夫なのかよ?」

「心配するな、銀時! 俺が保証するぞ!」

「何をだよ」

 クラインの状況を心配する銀時。桂から太鼓判を押されるも、あまり信用していない。

「いよいよ決戦の時ですか……」

「皆さん、本当に気を付けてくださいね!」

「大丈夫ネ、ユイ。心配ないアルよー」

[俺達に任せろ!]

「ワン!」

 一方でユイは、近くにいた新八、神楽、エリザべス、定春に励ましの言葉をかけている。絶対無事に戻ってくると、彼らと約束していた。

「キリト様、アスナ様、平子様もお気をつけて」

「うん。分かっているわ!」

「源外さんは絶対に俺達で助けるからな」

「兄貴達もいるなら、絶対大丈夫ですよ!」

 それはたまも同じである。アスナ、キリト、平子にも一言かけて、源外を連れて戻ってくると約束した。

「いよいよだな」

「あぁ、行くぜ。次郎長さん!」

「ふっ、背中は預けたぞ。クライン」

 そして一段と気合が入っている次郎長とクライン。エイジとの決着を付けるべく、二人は特に躍起となっている。

 皆がそれぞれ違う想いを背負う中で、ユナも準備が全て整え終わった様子だ。

「では、行きましょうか」

 こうして、源外を助けるべく、一行はサイコギルドとの決戦の地、空川町岩舟山へと足を踏み入れるのであった……!




 一足早いですが、物語も佳境に入ってきました。この刀唱時代篇は全十話構成を予定しておりますので、そろそろ決着が付くかと思います。
 そして意外にもアンカーとキリト、アスナが再会するのは、実に一訓以来。やっと重要人物と相対しました。本格的に話すのは次回以降になりそうですが。
 今回は男同士の対話を主軸に置いていて、まずはエイジと源外。よくよく考えると徹大と源外って科学者同士という共通点があったので、予想外のシナジーが生まれると思い彼らの会話を長めに描きました。芙蓉編の内容も入れており、源外は徹大の技術力を認めつつも、その計画については真っ向から否定していましたね。この邂逅がエイジにとってどんな影響を与えるのか……

 そしてもう一つは次郎長とクライン。ユナの死の原因をきっかけに心に迷いが生じる彼に、長く付き添ってきた桂と彼を気に掛けていた次郎長が背中を押します。実は次郎長のかつての戦友である寺田辰五郎とクラインは同じ平田広明さんが演じている為、この二人の組み合わせになりました。劇中で次郎長がクラインの声を聴いて似ているというのは上記の意味合いがあります。文字通り自分の刀で今の自分の強さと思いをぶつけると誓い、クラインが振り切れたのは良かったと思います。

 さぁ、舞台はいよいよかぶき町から決戦場所の空川町へ変わります! 因みに岩舟山は、某特撮ヒーロー番組で何度もロケ地に使われている岩船山がモデルとなっております……。








次回予告

神楽「わぁ、まるでどこでもドア見たいアル!」

戦いの舞台は、空川町岩舟山へ!

桂「行け、クライン殿! お前自身の刀でぶつけてこい!」

侍達の約束!

アンカー「分かった、話すよ。もうどうせ計画は止まらないし……」

そして明かされるアンカーの正体……

刀唱時代篇五 真実! 発覚! アンカーは嘆く!!
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