銀魂の世界へ来てしまったキリト、アスナ、ユイの三人は銀時ら万事屋に入ることになり挨拶回りをすることになった。新八の実家、恒道館へと向かう最中に真選組の土方十四郎と沖田総悟に出会い、その個性の強さに翻弄されてしまう。そして再出発しようとした時。彼らの目の前に、ゴリラと揶揄する男性が空から落ちてきたのだった。
「「ゴリラァァ!!」」
「って近藤さんだろうが!!」
万事屋のツッコミが大きく決まる。すると、すぐに男性は起き上がってきた。茶髪で大柄な体格をしており、真選組特有の黒い隊士服を羽織っている。その正体は――
「その通りだ!! この俺は真選組局長、近藤勲だ!」
真選組の局長である近藤勲であった。さっきまで歩道にめり込んでいたくせに、とても元気である。
「近藤勲? 近藤勇じゃなくて?」
「この人も真選組なんですか?」
またも出会った真選組からの人間に、警戒心を高めるキリト達。名前は違ったが、雰囲気から土方と沖田に続き嫌な予感しかなかった。そして、すぐに確信へと変わる。
「真選組つーかストーカーだけど」
「えっ?」
銀時からの言葉に思わず耳を疑ってしまう。ここにきて犯罪の可能性のある人間と、ばったり出会ってしまったからだ。
「ス、ストーカー!? この人、警察官よね!?」
「そうアル! しかも局長で、この江戸を守る治安部隊の幹部アルよ!」
「嘘だろ? 本末転倒じゃないか……」
信じがたい事実に頭を抱えてしまうキリト達。処理が追い付かない中、近藤は相も変わらず弁解してくる。
「ちょっと待ってくれ! 俺はストーカーじゃないぞ!」
「えっ? そうなんですか?」
「そうだ! 俺は愛を求めお妙さんを追いかけるゴリラだ! さっきだってお妙さんに追いかけたら、吹き飛ばされてここまで来たということだ!」
「結局、ストーカーじゃないですか!!」
しかし、弁解をしても結局ストーカーであることに代わりは無かった。思わずユイも新八ばりのツッコミをしてしまう。整理すると近藤は真選組の局長だが、自他共に認めるストーカーだということだ。すると彼も、ようやくキリト達の存在に気付く。
「ところで、万事屋! この天人達は一体誰なんだ?」
「また説明するのかよ。まぁ、こいつらは新しい万事屋のメンバーだよ」
「何!? 新メンバーだと!?」
土方、沖田と比べてかなりオーバーアクションを見せる。
「そうですよ。キリトさんとアスナさんとユイちゃんの三人です」
「こいつらはいわゆる、リア充のカップルアルよ!」
「何、そうなのか!? なら――」
彼らの境遇まで知った近藤は、急に顔色を変えた。すると、勢いのままキリトへと近づき彼の手を掴む。
「えっ?」
「頼む、キリト君! 教えてくれ! 俺はどうやったらお妙さんを落とせるのかを……!」
まさかの恋愛相談。突然の展開にキリトどころか万事屋すら対応に困る。だが近藤は、涙ながらに自分の思いについて語りだした。
「お、お妙さん?」
「そうだ! 彼女は、それはそれは美しい方なんだ! 強くて優しく、そして新八君のお姉さんで気も回るし――」
「ちょっと待って!? 新八君のお姉さん!?」
「お妙さんは、新八さんのお姉さんだったんですか!?」
「間違いではありませんけど……」
再び出てきた急展開に、驚きを隠せないアスナとユイ。近藤のストーカー相手が新八の姉だとは予想のしようもなかった。もちろんキリトも同じく衝撃を受けている。
「アンタ、新八の姉をストーカーしているのか!?」
「そうだよ! それがどうしたんだよ!」
一斉悪びれることのなく開き直る近藤に、キリトは対応に困っていたが、結局正論で返すことにした。
「あの……さすがにイヤがっている女性と結ばれることなんて考えない方がいいんじゃないのか?」
「何!? だがな、お妙さんはいやがっていないぞ! お妙さんはな……」
そう、近藤が続きを言おうとした時である。
「フフ……そうよ。ゴリラが来れば制裁を加えればいいだけなんだから……」
突如ドスの効いた女性の声が聞こえてきた。と同時に、近藤は言葉を失いその場へ倒れ込んでしまう。
「こ、近藤さん!?」
一体何が起こったのか分からなかったが、その後ろからゆっくりとある女性が姿を現す。その正体は――
「まったくここにいたのね。しぶといゴリラは……」
近藤のストーカー相手、志村妙であった。どうやら彼女が制裁を加えたらしい。笑顔で拳を握り、その表情はいかにも怒りで満ちている。
「あ、姉上!!」
「えっ!? この人が新八君のお姉さん!?」
「まったく似てないです!」
「ちょっと、ユイちゃん!? 正直に言わないでくれる!?」
初めて見た妙の容姿に惹かれてしまうアスナとユイ。予想よりも美しく見とれていたのだ。茶髪の髪を短いポニーテールにして、花柄をあしらったピンク色の和服を着こなしている。背も高くまさに、おしとやかな和服美人の印象をキリト達に与えさせていた。そんな妙は、顔を柔らかくしてこちらへ話しかけてくる。
「さてと、銀さん。この人達が昨日雇った リア充達ね」
「えっ? こいつらのこと知っているのか?」
「昨日少し新ちゃんと話したから、大体のことは知っているわよ」
銀時へ返答する妙。どうやら彼女は昨日のうちに、新八からキリト達について説明を聞いていたようだ。そして、目線をキリト達へ向ける。
「それで、キリト君にアスナちゃんにユイちゃん……で合っているわよね?」
「はい! 間違いないですよ!」
ユイの元気のいい返答を聞くと、妙はじろじろと三人を見つめてきた。
「へぇ。万事屋にはいない優男にお色気美少女と幼女ね。随分バランスがいいわね……」
「姉上、一旦落ち着いてください」
気を乱れさせて不気味な笑顔になってゆく妙。貧乳へのコンプレックスから、特にアスナの大きめの胸を見て嫉妬を燃やしていた。それは置いといて、彼女は落ち着かせると挨拶だけはちゃんとしてこの場を締める。
「まぁ、どうせ長いこと滞在すると新ちゃんから聞いているから、これからお世話になることはあるわよね。三人共これからよろしくね!」
「は、はい! こちらこそ!」
「よろしくお願いします!」
「よろしくです!」
互いに礼儀正しくして、ようやくちゃんとした挨拶をした。真選組とは違いメリハリがつき、まともな人間だと思った時である。
「お妙さ~ん! やっぱりあなたでしたかー!」
気絶から目覚めたはずの近藤がお妙目掛けて突進し始めた。その瞬間に妙の目が再び怖くなり、
〈ドス!〉
近藤の右腕をすかさず力一杯抑え彼の動きを防ぐ。そして、
「てめぇに用はねぇんだよ!! ゴラァ!!」
「ウワァァァ!!」
プロレスのような回転技で、近藤の息の根を一時だけ止めてしまったのだ。あまりの迫力に押され、反射的にアスナはユイの目を隠してしまう。近藤にとどめを刺した妙は、一行の方へ振り返ると笑顔で返してくる。
「それじゃ、よろしくね」
「は……はい」
こうして妙も個性の強い人間であることが、キリト達の記憶に刻まれたのであった。
妙との挨拶を終えた一行は、予定を変更し次の目的地である柳生家へ向かう。住宅街を進み先ほどの出来事を振り返っていた。
「はぁ……銀さんの周りの人って個性的すぎないか?」
「アレが普通だよ。まだまだいるからばてるんじゃねぇぞ」
「私達の体力は持つのかしら?」
真選組と妙に会っただけで疲労が一日分感じるキリト達。この先に出会う人間達にも不安しか感じられなかった。一方で、キリトはこの世界の真選組を見てある不安を感じる。
「でも、スグは新撰組についても詳しかったからこの世界の真選組を見たらおそらく倒れ込むだろうな……」
「スグ? って、誰アルか?」
「スグはキリト君の義妹で、ゲームではリーファって言うのよ」
「妹……へぇーてめぇ兄貴だったんだ。見た目によらないな」
話にあげたのはキリトの義妹、リーファについてだ。勉強ができて歴史にも詳しかったので、真選組の存在を知ればショックを受けると思っていたらしい。そんな、会話をしているうちに偶然ある店を通りすがる。鉄臭くて硬いものを叩く音が聞こえるその店は、「刀鍛冶」と書かれた店だった。そこから青髪で作業服に似た服を着た女性が出てくる。
「おーい! 銀さんー! みんなー!」
「あっ! あいつは鉄子!」
すぐに神楽が気付き、一行は彼女へと近づく。
「鉄子? あの人も銀さん達の知り合いなの?」
アスナの問いに新八が答える。
「あの方は村田鉄子さんって言って、刀鍛冶を営む女性ですよ」
「鍛冶屋!? この世界にもあったんですね……」
鍛冶屋の存在を聞き、驚きを隠せないユイ。一方、声をかけてきた女性の名は村田鉄子。万事屋とも面識のある鍛冶職人だ。折角なので彼女にもキリト達を紹介する。
「この人達は今日のお客さんかい?」
「いいや、私達の新メンバーアルよ!」
「新メンバー!? いつの間に?」
やはり、鉄子も驚きを見せた。
「左からキリトさんとアスナさんとユイちゃんっていうんですよ」
「よろしく」
「よろしくね!」
「よろしくです!」
新八が手早く紹介して、彼女は早くも名前を覚える。
「そうか……わかったよ。どういった事情で入ったのかはわからないけど私に手伝えることがあったらなんでも言ってよ。それじゃ、仕事があるから今日はここで。また会った時に詳しく言ってね!」
そして、鉄子は仕事があって早くも鍛冶屋へと戻っていく。忙しくてあまり時間はなかったが、好意的に接して感じの良い女性であることがわかった。
「鉄子さん、優しい方でしたね」
「それに、この世界に鍛冶屋があったのも驚きだったわね」
「鍛冶屋? てめぇらの世界にはないのか?」
「RPG系の仮想世界にはあるけど、現実には存在してないよ」
鉄子に対する印象と同時に、鍛冶屋の存在にも驚いたキリト達。さらに、アスナは鍛冶屋繋がりである仲間を挙げた。
「それに鍛冶屋ならリズとも相性がよさそうね」
「リズ? またアッスーの仲間アルか?」
「そう! 武器を鍛えるのが得意な女の子なのよ!」
アスナが紹介したリズベットは仮想世界で鍛冶屋を営む女子で、もし鉄子と彼女が会ったら相性が良いと考えていた。
「おめぇらの仲間も随分個性的だな」
「いや、銀さんの仲間達の方がよっぽど個性的よ……」
それでもこの世界にいる人間の個性とはだいぶ違うので、銀時への返答に困ってしまうアスナ。会話を弾ませながら、一行は次の目的地である柳生家へと向かう。
「よし着いたぞ。ここが柳生家だ」
一行が次にたどり着いたのは大きな門だった。長い階段を上がり、六人は門の前に立つ。ここは柳生家の次期党首、柳生九兵衛が住む屋敷である。
「次に会う人は一体誰ですか?」
「柳生九兵衛さんっていう剣の達人の人だよ」
ユイの問いに新八が答えると、今度はアスナが神楽へ聞いてきた。
「九兵衛? 十兵衛じゃなくて?」
「そうアル! また違ったアルか?」
「俺らが聞いたことあるのは十兵衛の方だな。ということはまた男の人か?」
「いいや、違ぇよ」
またも偉人に似た人間の名が上がり、キリトは九兵衛を男と予測する。すると、ようやく門が開き柳生九兵衛が姿を現した。
「みんなか。僕に何の用だ?」
現れたのは、眼帯を付け黒い髪をポニーテールに結んだ男性――いや、女性だった。
「えっと、この人が?」
「柳生九兵衛。九ちゃんアルよ!」
「お、女の人だったの!?」
そう、柳生九兵衛は実在した柳生十兵衛と違い女性だったのである。服装は青い野良服と白い陣羽織が特徴的で、足元は下駄をはいていた。一見男のような容姿をしているが、目の大きさや小柄な体格から女性だとわかる。これにはキリト達も衝撃を受けてしまう。一方で、九兵衛も早速キリト達の存在に気付いた。
「ん? 見慣れない者がいるな。一体誰だ?」
「こいつらか? 新しい万事屋のメンバーだよ」
「何、増やしたのか!? 新しく!?」
「そうネ! キリとアッスーとユイは訳があって、万事屋に入ることになった別世界の人間アルよ!」
「ちょっと、神楽ちゃん!? キリトさんとアスナさんくらい、正しい名前で言わないとダメだって!」
神楽の独特な紹介に、新八からツッコミが入れられる。そんな万事屋の説明に、人一倍驚いた表情を見せる九兵衛。新メンバーの存在が気になり、キリト達をじろじろと見てきた。
「新メンバー……なるほど。女子を三人も入れるとは随分思い切ったことをしたな」
「あの俺、男ですけど……」
九兵衛特有のクールボケが発動して、男であるキリトもボーイッシュな女子キャラクターと見間違えてしまう。しかし見たところ、三人共しっかりして真面目そうだったので、彼女は一安心している。
「そうだったのか。キリト君にアスナ君にユイ君か……合っているよな?」
「はい! 大丈夫ですよ!」
「うん。まぁ、いずれにしても新メンバーとして万事屋に入るとなれば、僕らとも長い付き合いになるだろう。今後ともよろしく頼む」
メンバーを確認して、ふと笑った九兵衛は手を差し出た。お近づきの印として、握手を求めてくる。まずは同性のアスナとユイの二人と握手を交わす。
「よろしくね、九兵衛さん」
「よろしくです!」
それが終わると次に、キリトも挨拶しようと近づく。
「こちらこそよろしくな」
と彼女の体に手が触れた時だった。
「ウワァァァ!! 僕に触るなぁぁぁ!!」
「ん!? あぁぁぁぁ!?」
急に九兵衛は奇声を上げて反射的にキリトを投げ飛ばし、地面へと叩き落としてしまったのだ。
「痛ァ……背中をぶつけただけか……」
幸いにも大きな怪我はしていないが、場は彼女の急変ぶりに騒然となっている。
「な、何があったの!?」
「す……すまない、僕は男の人に触れられると、反射的に投げ飛ばしてしまう癖があるんだ……」
「そうだったんですか!?」
恥ずかしがりながら九兵衛は訳を話す。彼女は男の人に対しての耐性が弱く、少しでも触れるとご覧の通り攻撃してしまう体質なのだ。これには、アスナらもまた驚いてしまう。
「そういうことだ。例え俺らのように付き合いが長い奴にも構わずやるからな。なぁ、九兵衛君」
そう言った矢先、銀時も不意に彼女の体に触れてしまった。
「ウァァァァ!!」
「ブホォォ!!」
キリトとは比べ物にならない勢いで彼は、柳生家の敷地内まで飛ばされてしまい、歩いていた男性と衝突してしまう。
「って、銀さん!? 何、自爆してるんですか!?」
「思いっきり体を張ったアル! 出川〇郎並の根性ネ!」
「そこはいいから、早く助けないと!」
銀時の無事を確認するために、一行は屋敷内へと入っていく。すると、そこには銀時だけでなく糸目をした和服の男性もいた。どうやら、彼がぶつかった相手らしい。
「痛ぁ……って大丈夫か、アンタ?」
「いえ、大丈夫です。柳生四天王が一人東城歩の頑固さをなめては――って銀時殿でしたか!?」
その正体は東城歩だった。彼は柳生九兵衛の付き人で、柳生四天王と呼ばれる強者の一人でもある。幸いにも知り合いだったため、新八や神楽は安堵の表情を浮かべていた。
「東城さんー! 良かったー! 知っている人で」
「何がいいんですか! 若ならまだしも銀時殿にぶつけられるとは聞いてませんぞ!」
「いいじゃん。こういう経験も必要アルよ」
「どこが必要だというんですか!」
ぶつかったことに不満をぶつける東城。場が落ち着き和やかになっていく中、キリトとアスナだけは真逆の反応を示している。
「キリト君! この声って……」
「クラディール……!」
そう。その理由は東城の声が関係していた。彼の声はかつてキリト達の命を奪おうとしていた相手、クラディールと瓜二つの声をしている。関連性が無いにしても、嫌悪感を抱いているのは確かだ。二人はつい東城へ冷たい目線を向けてしまう。
「ん? どうした、てめぇら?」
「いや、実は――」
不審に思った銀時は彼に声をかけ、事細かに訳を聞いていた。
「何? かつて命を奪われそうになった相手に、東城と声が似てるって?」
「本当アルか? アッスー?」
「ええ、あの声は間違いないわ……」
理由を知った万事屋は、ただの思い違いだと説得するが、それでも二人の不安が消えることはない。一方、九兵衛だけはそれを聞き反応が異なっている。
「そうか、そういうことなら」
すると、急に彼女は腰に携えていた刀を抜き東城へ躊躇いなく向け始めた。
「ここで償ってもらおうか……」
「若!? 急に何するんですか!!」
唐突な展開に驚いてしまう東城。そんな彼に対して、九兵衛は黙々と理由を語りだす。
「お前は前世でキリト君とアスナ君の命を奪おうとしていたみたいだな……前世の記憶が目覚める前にここで葬ってやる!」
「落ち着いてください、若! 私が彼らの命を奪うわけないじゃないですか!」
どうやら彼女は東城へ復讐する大義名分ができたことで、この行為に出たようだ。とんだ風評被害だが、九兵衛は本気である。
「本当か? お前はクラディールとかいう男と何の無関係なのだな?」
「本当ですって! そんなことするくらいなら、私は若に全身全霊をかけてゴスロリを着させるために命をかけま――」
「どっちにしろ悪質だぁぁぁ!」
逆鱗に触れた九兵衛は、いつの間にか用意した大砲を持ち出し東城へ向けて砲撃。
〈ドカーン!!〉
死なない程度に彼を痛めつけた。
「ぶ、ぶほ……」
爆発の中から東城は倒れ込みそのまま気絶する。理不尽にも思えるがこれが銀魂の日常なのだ。
「よかったな、てめぇら。どうやらあいつは、クラディールとは何の関係もなさそうだぞ」
「そうだな……」
「そうね……」
苦笑いで銀時へ返すキリトとアスナであったがその心の中は、
((少し心配……))
やっぱり不安しか残っていない。こうして、柳生家での挨拶も波乱を起こしたまま終わる。
九兵衛らとの挨拶を終えた一行は、次の目的地へ向かっている。
「それにしても九兵衛さんもお強い方でしたね」
「なんせあのお妙と幼馴染だからな。十分強いだろ?」
「た、確かにそうだな……」
銀時の言葉に言い返せないキリト。妙と友人なだけで、すぐに納得してしまったようだ。その最中で、九兵衛の印象について六人は話し合っている。
「でも、折角女の子に生まれたんだから女子らしい服とか着ないのかな?」
アスナが不思議そうに聞くと、神楽が返答してきた。
「九ちゃんは、たまにだけど女子らしい振袖を着こなすこともアルあるよ」
「そうなんですか! 一度見てみたいです……」
九兵衛の隠れた女子らしさを知り、より一層の興味を持つユイ。一方でキリトやアスナは、九兵衛と自分達の仲間の一人を照らし合わせている。
「迅速の剣の使い手か……もしシリカと戦わせたらいい勝負になりそうだな」
「シリカ? またキリトさん達のお仲間ですか?」
「そうよ! 小柄だけど、とっても素早くて強い私達の仲間なのよ!」
二人が話題に挙げたのはシリカであった。彼女も早さを武器に戦っていて、九兵衛の肩書きを見て思いだしたらしい。そんな話をしているうちに銀時は、突如ただならぬ気配を感じてスクーターを降りる。
「どうしたんですか? 銀さん?」
新八に聞かれても銀時は黙ったままだった。そして、近くにあった石を手に取ると電柱へと投げつける。すると電柱から、
「ぎぁぁぁぁ!!」
女のような叫び声が響いてきて勢いよく人が落ちてきた。
「って、一体何が起こったのよ!?」
「この展開はまさか……」
再びイヤな予感を察するキリト達。それは見た目を見なくても理解している。
「何やってんだぁ! このメス豚ァ! やっぱり、てめぇか!」
銀時が怒号をかけた相手は、赤い眼鏡をかけた薄い紫髪の女性だった。忍者のような服やスパッツを身にまとい、足元は黒ブーツを履いている。そんな彼女は万事屋とも、縁の深い人間だった。
「あーあ。やっぱり、さっちゃんアルな」
「さっちゃん? あの方もみなさんのお仲間なんですか?」
ユイが聞くと、銀時が怒号を交えて返す。
「仲間じゃねぇよ! こいつもストーカーなんだよ!」
「ス、ストーカー!? また!?」
「この世界って本当にストーカー規制法働いてんの!?」
ついに元も子もないことを言い放ってしまうアスナ。近藤に続き二人目のストーカーに遭遇して、驚くどころか呆れ果てていた。
「それであのストーカーさんは何て言うお方ですか?」
「あいつアルか? 猿飛あやめ、通称さっちゃんって言う元エリート忍者ネ!」
「猿飛で忍者って、どこかで聞いたことがあるわね……」
女性の名前は猿飛あやめ。お庭番と呼ばれるエリート忍者集団の一人だったが、現在はフリーで始末屋をやっている女性だ。あることをきっかけにストーカーにもなって、銀時を追いかけ続けている。そして当の本人は、道路に落下したにも関わらずすぐに起き上がり、早くも開き直り始めていた。
「ぷはぁぁ! やっと会えたわね! 銀さん!」
「やっとじゃねぇだろ! 何してんだぁ! てめぇはよ!」
銀時の怒りにもビビることなくあやめは話を続ける。この世界のストーカーは、メンタルが強すぎる。そう、キリト達は内心思っていた。
「待ってよ、銀さん! まずは私の話を聞いてよ!」
「一体何だよ!?」
「聞いたわよ! 万事屋がリア充を雇ったって!」
「リア充? こいつらのことか?」
どうやらあやめは万事屋に新メンバー――いやリア充を雇ったことにやきもちを焼いているらしい。一方、このハイテンションなあやめの姿にキリト達もだいぶ引いていた、
「随分ハイテンションな人だな……」
「どう割り込めばいいのかわからないわね……」
戸惑う彼らとは裏腹にあやめは、一方的に距離を縮めてくる。
「初めまして、リア充の妖精達! 私の名前は猿飛あやめ! これから銀さんのお嫁さんになる女よ! よろしくね!」
誇った表情を見せる彼女に、キリト達もどう対応したらいいのかわからない。
「は、はい……」
「よろしくね……」
「あの、さっちゃんさん――この人達は左からキリトさん、アスナさん、ユイちゃんといいます。ちゃんと覚えてくださいね」
引き気味に新八がいつも通り三人を紹介する。
「フーン! わかったわ! 他に何か聞きたいことはあるかしら?」
すると、あやめは調子に乗り自信良く質問を促してきた。正直出しづらいが、真っ先に挙げたのはユイであった。
「では、さっちゃんさん。なんで、銀時さんのストーカーをしているんですか?」
興味深く聞いたユイに対して、あやめは躊躇なく自分の気持ちをさらけ出す。
「いい質問ね! それはね運命なのよ! 銀さんは私のMに対応するS! 私の感情を刺激して早い話いくとこまでいって合体して子作――」
「生々しいこと言うんじゃねぇぇぇ!」
「ブホォォ!!」
勢いに乗ったあやめの答え――いや、爆弾発言を銀時が強制的に止めて背中へ蹴りを与える。どうにか規制音を出さずに済んだが場は混乱を極めた。
「ちょっと、さっちゃんさん! さすがに生々しすぎるよ! キリトさん達、引いちゃっているでしょうがー!」
「これくらい言わないとこの世界じゃやっていけないわよ!」
「確かにそうかもしれませんけど!」
新八のツッコミも全く動じないあやめ。むしろ、銀時へ蹴られた事に興奮を覚えていた。一方で、答えを聞いたユイは深追いを始める。
「合体? とは一体どういう意味ですか?」
「ユ、ユイちゃんにはまだ早いことよ!」
「そうそう! 時間が経てばわかってくるから!」
「おーい! ユイになんてことしたアルか!」
弁解に追われるキリトとアスナ。そして元凶たるあやめをこらしめる万事屋の三人。まさに、収集不可能でカオスな現場が展開されていた。
それから十分後。
「申し訳ありませんでした。はい、言え!」
「申し訳ありませんでしたー」
「今後は発言を慎みます。はい!」
「今後は発言を慎みますー」
銀時の言葉をあやめが繰り返して、一応キリト達へ謝罪した。しかし、棒読みでとても反省しているようには思えない。
「まぁ、さっちゃんさん。これからはキリトさん達もいるので今後は気をつけてくださいね」
「わかったわよ! 要するにユイちゃんがいない時は好き放題言っていいってことね!」
「とんでもない解釈してるんじゃねぇよ!」
あやめのしぶとさに、新八のツッコミも追い付かない。やっぱり彼女は、何一つ懲りてはいなかった。
「いずれにしてもよろしくね! 銀さんについて何かあったら真っ先に伝えて頂戴ね! では、よろしく!」
「よ、よろしく……」
そう言ってあやめはご機嫌よくその場を去っていく。またも個性の強い人間を見て、キリト達の疲れは溜まりに溜まる。
「……銀さん達も大変だね」
「苦労がわかったらそれでいいよ」
銀時達も同じ気持ち、そして同じ疲れを背負っていた。場の空気を変えつつ、一行は次の目的地である吉原へと進む。
「ここが吉原ですか?」
「そうアル! 昼時でも賑わっているアルな!」
時刻がお昼を過ぎる中、一行が着いたのは江戸に近い繁華街、吉原だった。遊閣が広がり江戸に比べて大人向けの施設や店が並び立っている。そんな町を見たキリトとアスナは不安しか感じていない。
「ねぇ銀さん? ここ本当に大丈夫なの?」
「俺達のような未成年が来ていい場所なのか?」
「大丈夫だよ。俺達が今行こうとしているのは普通の茶飲み屋だから」
「それならいいんだけど……」
半信半疑で銀時に連いていき吉原の奥まで向かう。すると、ある一軒の店にたどり着く。そこには「茶屋ひのや」と書かれていた。
「ここが目的地?」
「はい、ここですよ」
店の前にしばらく立ち止まっていると、奥から一人の女性が姿を現す。
「なんじゃ、主らか? 揃いもそろって。一体何の用じゃ?」
「あっ! やっと来たアル! 紹介するネ! この人が吉原の番人月詠ことツッキーアル!」
神楽が再びキリト達へ紹介する。女性の名前は月詠。見た感じ落ち着きのある大人の女性であった。暗めの金髪を髪飾りで結い、服は紅葉をあしらった藍色の着物を着こなしており、足元はヒールの付いたブーツを履いている。背も高くスタイルも抜群で、雰囲気から今まで会った人間とは一線を画す人に見えた。
「月詠さん?」
「大人っぽい女性の方です……」
その美しさにアスナやユイといった女子陣は見惚れている。一方で、月詠もキリト達の存在に気付き始めた。
「ん? 見慣れない者たちがいるな? こやつらは一体誰じゃ?」
「それを紹介するためにここへ来たんだよ」
「とりあえずみなさん座ってください」
新八に勧められ一行はひのやにあった椅子へ座り一息つく。その後はいつもと同じくキリト達の紹介やこの世界へ来た経緯、これからについて月詠へ大まかに説明した。
「なるほど。キリト、アスナ、ユイの主ら三人は別の世界からやってきて、こやつら万事屋と帰れるまでに世話をすることになったんじゃな?」
「まぁ、だいたいこんな感じだな」
「そうか……」
話を聞き終えると月詠は手にした煙管から煙を吹き改まる。しばらく考えると、三人へ向けて自分なりにアドバイスを交わした。
「まぁ、なんじゃ。この世界へやってきたからには、おそらく主らのいた世界とは大きく異なることも多いじゃろう。でも見た感じ大丈夫そうじゃ。そこの天パと違い、美しく澄んだ瞳をしているからな」
「今、さりげなく俺のことディスらなかったか!?」
銀時に飛び火したが、月詠は構わずに話を続ける。
「こやつらといればきっと大丈夫じゃ。何も心配なんてしなくてよい」
「月詠さん……ありがとうございます!」
優しい言葉に触れてユイは丁寧にお礼をした。彼女の優しさから今まで会ったこの世界の大人で、一番頼れる人間にキリト達は感じている。
「月詠さんってかっこいい大人だな」
「この世界にもまともな人間っていたんだね……」
むしろ今まで会った人間達の方が特殊だったと心の中で思う。そんな月詠の大人っぽさは、キリト達のある仲間と似ていた。
「月詠さんってシノノンと似ているわね」
「シノノン? またアッスー達の仲間アルか?」
「はい! 月詠さんと同じくクールでかっこいい女の子なんですよ!」
上がったのは月詠と同じく大人っぽさのあるシノンである。彼女も月詠と同じくクールさや気遣いのある女子で、月詠との共通点も多かった。もし会うことがあれば気が合うと彼らは思っている。そんな話をしているうちに、奥からもう一人女性がやってきた。
「なんだい、あんた達が新しい人雇うなんてそんな理由があったのね」
「日輪! 主も聞いていたのか?」
「途中からね。私も聞いてよかったのかしら?」
「もちろんネ! こっちも挨拶回りをしていたからアルな!」
車椅子に乗りこちらへやってきたのは、赤い着物を着た女性、日輪だった。月詠の友人でありこの店を営む主人でもある。
「えっと、あの人は?」
「日輪だよ。この店をやっているオカン的ポジション奴だよ」
「もうー銀さんってば! そんなこと言われた覚えはないってば!」
顔に手を合わせ否定する日輪。しかし、声が高いことから満更でもないらしい。
「それはそうと月詠。少し手伝ってもらえる? 料理に使うものを取ってほしいのよ」
「ん? わかった。一体どこじゃ?」
そんな日輪は月詠を呼びつけ手伝いを要請してきた。快く受け入れ月詠は日輪と共に、キッチンへと向かう。
「車椅子なんて結構大変そうだな」
「それに月詠さんって優しくて毒のない人だから本当良い人よね!」
「毒のない人か……」
キリト達の言葉に引っかかる銀時。今まであった人に比べたら真面目な人だが、ある部分を知っている万事屋からしてみれば、彼女も十分個性の強い人物だ。そんな時である。
〈ガシャーン!!〉
キッチンの方からガラスを割る音が聞こえてきた。
「な、なんだ!?」
「まさか、この展開って……」
新八ら万事屋は嫌な予感を薄々と感じ始める。そして、数秒も経たないうちに月詠がこちらへとやってきた。
「つ、月詠さん?」
「どうしたの?」
声をかけたが返事がない。顔はうつむいて動きも挙動不審だ。不思議に思っているとついに月詠は口を開く。
「おい……なんでこうも人が多いんじゃぁぁぁ! ごらぁぁぁ!」
「ブホォォ!」
顔を上げた瞬間、月詠の顔は赤くなっていた。さらに、性格も破天荒になり一発のパンチが銀時の頬へ当たる。数分前の面影なんてないほど乱暴に変貌してしまったのだ。
「つ、月詠さん?」
「一体どうしちゃったの!?」
この様子にキリト達も驚きを隠せない。目の前にいる人間がほんの数秒で変わってしまったからだ。
「あーあー。やっぱりアルな」
「やっぱりって、どういうことですか!?」
「それは……月詠さんはお酒に弱くて、一滴でも飲んじゃうと乱れるタイプの人なんだよ」
「そうだったの!?」
「結局、月詠さんも個性的な人ってことか……」
新八らの説明通り月詠は酒に弱く酒乱と化す特徴的な人であった。先ほどの手伝いで、トラブルがあり誤ってアルコールを体に入れてしまったと考えられる。やっぱりこの人も個性の強い大人であった。一方で、酒に酔う月詠は銀時の首根っこをつかみ、部屋の奥へ連れて行こうとする。
「おい、銀時ィ! 私の酒に付き合え! てめぇしかいねぇんだからよ! こっちへ来いや!」
「ちょっと待て! てめぇの酒に付き合ったらこっちの身が持たねぇよ! おい、ちょっと! 聞いてんのか!」
銀時の意志とは無視して、月詠は酔ったまま奥の部屋へ連れていく。そして数分も経たずに、
「ギャャャー!!」
早くも彼の悲鳴が無情にも響くのであった。
「一体何が起こっているんだ?」
「みなさんのご想像にお任せします……」
少なくともひどい目に合っていることが目に見えている。五人は一斉手を貸さずただ時が過ぎるのを待つしかない。こうして、挨拶回りも終盤を迎えるのであった。
来週はお盆で投稿できないので挨拶回り後篇は金曜日に投稿します!