剣魂    作:トライアル

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皆さん、気を付けましょう。


第百四十一訓 交通安全を怠ると痛い目に遭う

 秋が深まりつつある十月のある日のこと。江戸内にある大きなショッピングモールの広場には、特設ステージが建てられていた。ここでは今日特別な催し物が開かれているとのことで、噂を聞きつけた子供達が集まり始めている。

 なおその催し物に参加するゲストは、運営が用意した控室で自分達の出番を待っていた。

「にしても、総悟。本当に俺達で良いのか? 仮にもガキ向けのイベントだろ?」

「いや、ガキだからこそ、俺達のイメージアップには必要だと思いましてね。この交通安全教室はぴったりなんじゃないですかい?」

「イメージアップっていうか……ほぼ沖田隊長のせいじゃ」

「なにか言ったか、ザキ」

「いえ、なんでも!」

 余計な一言を発した山崎に、沖田は睨みつけるような怖い顔で彼を脅している。

 そう。現在控室には近藤、土方、沖田、山崎の真選組の面々がおり、四人は揃ってこの後に開催される交通安全教室と言う名の子供向けのショーに参加予定だったのだ。

「まぁまぁ、そう小難しいことを考えずにやり遂げようじゃないか。子供達の新たなヒーローとも共演出来るんだからな!」

「宇宙刑事ジャバンインフィニティだったか? ポスターを見ると、見るからにこっちがメインのようだが」

 案外乗り気な近藤に対して、土方は実直にも今回のショーの概要について確認している。真選組と今回共演するのは、新たなヒーローとしてテレビで活躍するジャバン達。ポスターには赤色のインフィニティ、銀色のブシドー、金色のルミナスが描かれており、真選組はこれからこの三人と一緒に子供達へ向けた交通安全の啓発活動を行うのである。

「にしても真選組が宇宙刑事共とコラボとはな……」

「何言ってんですかい、土方さん。最近はプリキュ〇が工藤〇一と共演する時代でっせ。これくらい子供達にとっては当たり前のことなんでさぁ」

「それとこれとは話が違うだろ」

 時事的な例えを出す沖田に、土方は冷めたツッコミを繰り出す。彼は依然として微妙な表情のまま、あまり調子が上がっていないのだ。そもそも子供向けのショー自体、自分にとっては初めてで、どう振る舞って良いのか戸惑っている。

 一方の沖田はまったく気にしていない様子だったが……。

「抱き合わせでもなんでも、イメージアップに繋がれば良いんでさぁ。適当にクイズをこなして、最後は乱入した悪役をやっつける。超簡単なお仕事だと思いやすけどね」

「いや、総悟。子供向けだからって手を抜くのはご法度だぞ。子供ってのは細かいところを見ているから、このヒーロー達と同じく堂々としていなくてはならない。トシに山崎も分かったか?」

「はい、局長!」

「分かっているよ。まぁ、打ち合わせも済んだし、後は台本通りにいきゃ良いだけだろ?」

 ショーの開始時刻が近づくにつれて、四人は徐々に覚悟を決めていく。スタッフ側と話した事前の打ち合わせ通りであれば、交通安全に関する簡単なクイズを繰り返し行い、最終的にはショーへ乱入した悪党をこらしめて無事に終了となる。例え子供相手だろうと全身全霊で挑む大切さを、各々が意識し始めていた。

 と控室で出番が来るまで待ち続けていたが……一行に会場スタッフからの呼び出しがかかってこない。

「何か騒がしくないか?」

「トラブルですかねぇ」

 それどころから激しい物音や足音が壁越しにも聞こえてきて、スタッフ側のトラブルを勘繰ってしまう始末である。それでもショーの開始時間まで待ち続けていると……ようやくスタッフからの呼び出しがかかってきた。

「お待たせしました! スタンバイお願いします!」

「はーい! 局長、呼ばれましたよ!」

 スタッフから山崎に伝手が入り、近藤らも気付いて控室を跡にする。狭い通路を通り抜けて、ショーの舞台である特設ステージへと四人は向かう。

「どうやら気のせいみたいでしたねぇ」

「まぁ、そうだろうな。こんな緩いイベントで、そう簡単にトラブルなんて……」

 道中では大したトラブルは無いと確信していた土方らであったが……ステージに上がると、そこには想定外の光景が広がっていた。

「みなさーん! こんにちはー!」

「「「こんにちはー!」」」

「もう一回、大きな声で! こんにちはー!」

「「「こんにちはー!!」」」

 ステージにはちょうど司会役の若い男女が、子供達の熱気を盛り上げていたのだが……その正体はなんと万事屋の新八とアスナだったのである。

「えっ!?」

「はい!?」

「あらら」

 当然土方ら真選組にとっては、まったく想定していなかった事態だ。そもそもリハーサルの現場にいた本来の司会役がいないことも信じがたいことなのだが……なお新八とアスナの服装は、本来の司会役が着用していたものと同じくオーバーオールにスニーカー、白いシャツや特注のキャップを着こなしている。

「皆さん! 交通安全教室にようこそー! 今回皆さんと一緒に交通安全を学ぶアスナお姉さんと!」

「新八お兄さんです! 今回は楽しく交通安全を学んでいきましょう!」

 二人は子供達に自己紹介を済まして、深々とお辞儀。子供達が司会役の二人に注目を集める一方で……土方達は我慢ならずにどさくさと新八やアスナに話しかけてきた。

「おい、ちょっと待て! なんでお前らがここにいるんだよ!?」

「新八君にアスナさん!? どうして!?」

 ツッコミがてら詰め寄る土方と近藤。共に困惑めいた表情を浮かべるが、新八らは動じず臨機応変に振る舞っている。

「って、こらこら。真選組の皆さん。出てくるのが早いですよ」

「そうですよ。まだ紹介していませんし、ちゃんと呼ばれてから出てこないと、赤信号で渡るのと同じですよ!」

「やかましいわ!! 何もうまくねぇんだよ!」

 交通安全に沿った注意を加えるものの、あまりの強引さに土方は思わずツッコミを入れていた。完璧に司会としての役を二人は熱演しており、その入れ込み具合に土方ら四人は困惑してしまう。

 すると沖田が小声で新八に理由を聞いていた。

「おい、眼鏡。これはどういうことなんでい」

「いや、僕らも急ピッチで呼ばれたというか……本来の司会役やスーツアクターの方が揃って食中毒を発症したみたいで、僕らが応援で呼ばれたんですよ」

「食中毒って……」

「さっき騒がしかったのはそれが原因?」

 新八から聞いた概要に、近藤や山崎は唖然としてしまう。どうやら本来の演者が食中毒故にステージへ出られなくなったらしく、その代打として万事屋一行が呼ばれたとのこと。

 つまりはこれから本格的に始まるショーを、真選組は見知ったかの連中と一緒に行わなくてはいけないのである。

「おいおい。なんでこんな時に限って、お前らとなんだよ」

「そんながっかりした顔しないでくださいよ、土方さん!」

「そうよ! 私達がしっかり臨機応変に対応するから、来てくれた子供達を精一杯楽しませないと」

 小声でため息を吐く土方に対して、新八とアスナは真っ向から彼の意見を否定していた。代打とはいえ、仕事は仕事として割り切り、二人揃ってこのショーに全力を注ぐ所存である。

 一方で沖田はあることが気になっていた。

「というか、じゃジャバンに入っているのは旦那方ですかい?」

「いや、それがですね……」

 姿がまったく見当たらない残りの万事屋メンバーの行方である。銀時、キリト、神楽、ユイの四人がまだ見えず、別の役として待機していると沖田は予想。無論その正体は大方目途が付いているのだが……新八に確認を取ろうとしたちょうどその時だった。

「待たせたな、みんな!」

「ん? この声は……」

 聞こえてきたのは爽やかそうな男性の声。近藤らがその声に気付くと、ステージには子供達が待ちかねたあのヒーロー達が駆けつけてきた。

「フッ!」

「ハァ!」

「よっと!」

 それぞれ別の場所から登場し、アクロバティックな動きでステージへと乱入。赤色、銀色、金色の光沢をまとった三人のジャバンがステージに集結していた。

「宇宙刑事、ジャバンインフィニティ!」

「ジャバンブシドー……!」

「ジャバンルミナス!」

 三人のジャバンは揃って決めポーズをして、自身を大々的にアピール。本命のヒーロー達の登場により、場の熱気は一気に高まっていた。

「ジャバン!」

「かっこいい!」

「すげー!」

 子供達からも黄色い声援が飛び交っている。もはやジャバンがメインで、真選組は蚊帳の外のような扱いを受けていた。

「ト、トシ? 俺達完全に場違いな気が……」

「気にするな、近藤さん。別に最初から張り合う気はねぇよ。結果なら最初から目に見えていただろ」

 つい不安を覚えて微妙な表情を浮かべてしまう近藤。そんな彼とは対照的に、土方は冷静にも現実的に見ている。そもそも子供達にとってはジャバンが本命と、彼は最初から痛感していたのだ。

「はーい、今回の交通安全教室に真選組とジャバン達が駆けつけてくれました!」

「みんな! 盛大な拍手で七人を迎えてあげて!」

 新八やアスナは司会役として大いに振る舞い、場の熱気をより高めていく。真選組やジャバンを軽く紹介し、円滑に進行を進めていた。

 その最中で、ジャバン達は真選組の横に並び立つ。言葉は発さずに、自分達の出番が来るまで待機している。そんな三人の仕草や立ち振る舞いから、沖田や土方らはあることを確信していた。

「土方さん。まさかですが」

「あぁ。あのジャバンには野郎共が入っているに違いない」

 そう。ジャバンのスーツアクターを銀時、キリト、神楽の三人が演じていると勝手に予見していた。ジャバン側も男性二人に女性一人と男女比も一致しており、背丈もギリギリ三人と同じくらいの身長差があると察している。(なお声は事前に収録した声優の音源を流用している為、声での判断は黙っている限りは不可能と見てよいだろう)

「どうしたんですか、副長?」

「総悟も何かあったか?」

「いいや、なんでも」

「こっちも同じでさぁ」

 なお、山崎や近藤はジャバンの正体をまったく気にしていない。故にジャバン達には無警戒ではあるが、土方や沖田の方は銀時らが中に入っていることを加味しながら、ジャバンらに警戒していた。余計な茶々やちょっかいが入らないか、密かに不安を覚えてしまう。

「おい、総悟。アイツらならやると思うか」

「十中八九。特にチャイナですかね」

「俺は野郎だ。マトモなのはキリトぐらいか?」

「えぇ。黒剣さんでしたら心配することは無いかと」

 邪魔が入ると確信した上で、銀時や神楽を要注意人物と判断。一方でキリトは対照的に無害だと察している。二人は緊張感を持って、これから始まるショーに挑んでいた。

「それでは全員集まったことですし、早速交通安全教室を開始します!」

「僕らがクイズを出題するので、正しいと思った番号を選んでくださいね」

「はーい!」

「はーい」

「うぃっす」

「おー」

 真選組の面々に返事を促すアスナや新八。元気よく返事をする近藤や一定のテンションで返事をする土方と沖田。そして返事が出遅れてしまった山崎と十人十色な反応が返ってくる。なお、ジャバン達は頷きやポーズで新八らに返答していた。

 こうしてショーが本格的に始まる。

「それではまずは、信号機のマナーから! 新八お兄さんは、赤信号の時にはどうする?」

「もちろん止まります!」

「その通り! じゃ、青信号なら?」

「進みます!」

「なるほど! じゃ、青信号が点滅している時は?」

「進……アレ? 止まるんだっけ?」

「もう~、しっかりしてよ! じゃ、ここで問題です! 青信号が点滅している時、みんなならどうする?」

 子供にも分かりやすい大きなリアクションを交えながら、問題を出題するアスナと新八。相変わらずの熱演ぶりとその大袈裟な立ち振る舞いを見て、土方は言葉を失ってしまう。

「なんだこの異常な共感性羞恥は……」

「見知ったかがやっているだけで、違和感が大有りですねぇ」

 事前の打ち合わせでは感じたことの無いモヤモヤさを感じてしまう。

 そんな土方らの反応とは異なり、子供達は元気いっぱいに手を挙げて、アスナからの質問に答えようとしている。

「はいはい!」

「俺が答えるんだ!」

「私よ!」

 ほぼ全ての子供達が手を挙げている中で、アスナは一人の少女に回答権を渡していた。

「じゃ……そこの白いワンピースを着た女の子! 答えてくれる?」

「はいです!」

「はぁ? 万事屋のガキんちょじゃねぇかよ」

 その少女の正体は、まごうこと無き万事屋の一員であるユイ。ちゃっかりと参加者に紛れており、恐らくは新八やアスナのフォロー役として配置されていると思われる。所謂サクラのような役目を彼女は果たしていた。

「正解は止まること! 青信号が点滅した時点で、無理やり渡ってはいけないのです!」

「正解!」

「おめでとう!」

 模範的な回答で正解を当てたユイ。司会役の新八やアスナも正解を祝って、子供達や真選組、ジャバンらに拍手を促していた。

「完全に仕込みですよね」

「言うな、総悟。運営側にも色々あるんだろ」

 盛大な拍手の音に紛れて、沖田は本音をつい漏らしている。それでもショーが円滑に進むなら問題無いと土方は思っていた。

「因みに歩行者じゃなく、車には黄色の信号もあります。真選組の皆さんは、その意味をもちろん分かっていますよね?」

「あぁ、もちろんだ。黄色信号は原則停止の合図。しかし停止線を通り過ぎるなど、安全に止まれない時に限っては進んでも良いってことだな!」

「さっすが、真選組の皆さん! 交通ルールならおてのものですね!」

 信号機の補足として、近藤にも質問を繰り出していく新八とアスナ。ここまでは台本通りの流れだったが……ここで思わぬ展開が起きてしまう。

「あの……」

「ん? どうしたのかな?」

「もし信号機の判断を間違った場合って、どうなってしまうのですか?」

 なんと先ほどクイズに答えたユイが、ふと思った疑問をアスナや新八に聞いてきたのだ。何気ない質問だったが、二人は親切丁寧に応対していく。

「これは気になる質問が出てきました! 是非、ジャバンと真選組の皆さんにも協力してもらいたいですね!」

「えっ、どういうこと?」

「つまりは実践です! 先ほどクイズに答えた近藤さん、そしてルミナスさんにも協力をお願いします!」

「了解です~!」

 実践と称して、交通安全を守れなかった場合のシミュレーションを二人は咄嗟に提案していた。クイズに答えた近藤と彼の近くにいたルミナスを指名すると、二人はスタッフに誘導されるまま、紙で出来た被り物を装着される。近藤が歩行者、ルミナスが車をデフォルメした被り物であった。

「えっと……これはどういうこと?」

「今から近藤さんは歩行者になって、点滅した青信号をギリギリで渡る歩行者を演じてもらいます!」

「そして車に扮したルミナスさんが急に左折して衝突。実際に事故の発生メカニズムを再現して、子供達に事故の恐ろしさを分かってもらおうと思います!」

「はぁ!? 聞いてないぞ、それ!?」

 薄々と感じていた嫌な予感が的中し、近藤の表情は段々と青ざめてしまう。事故を起こした場合のシミュレーションで、近藤が被害者の役として勝手に割り振られてしまった。

「えぇ、何このアドリブ……」

 突然始まった寸劇に、間近で見ていた山崎は気を引かせてしまう。

だがある予測を立てている土方と沖田は、まったく別の観点から困惑していた。

「おい、総悟。これって……」

「不味いですね、こりゃ」

 そう。ルミナスの中の人を神楽と察している為、近藤へのダメージは計り知れないと確信していたのだ。この寸劇自体を止めようにも、子供達の夢を壊しかねない為、彼らは安易な行動が出来ずにいたのである。

「ちょ、ちょっと待て新八君にアスナさん!? こんなの台本に無かったはず……」

「はい! 子供達が知りたがっているので、即興で考えてみました!」

「いや、即興っていうか仕込み……」

「それではルミナスさん、張り切ってどうぞ!」

「はぁぁぁ!!」

 近藤の意思など関係なく、ほぼ強硬的にシミュレーションを始めるルミナスら。近藤の心の準備が出来ぬまま、

「はぁ!」

「ぐはぁっぁあ!!」

寸劇は一瞬で終了していた。ルミナスに弾き飛ばされた近藤は、上空へ大きく飛び上がって、そのまま地面へ垂直に落下する。

〈ガッジャン!!〉

 大きな音を立てながら、特設ステージの床を突き破り、近藤本人はその衝撃で気絶してしまう。明らかに被害の度が過ぎたシミュレーションであった。

「きょ、局長!?」

 想定外の事態を目の当たりにして、戸惑いながら心配する山崎。一方の土方と沖田は……この一件でショーの意図を完全に掴んでいた。

「土方さぁん。もしかしなくても……」

「あぁ、そうだろうよ。これは……」

「「交通安全教室を利用したただの鬱憤晴らしだ……!」」

 深刻そうな表情で薄っすらとあった疑惑を確信へと移り変えていく。そう。万事屋側はショーのクイズを利用して、真選組に日ごろの恨みつらみを晴らすつもりと二人は考えていた。ルミナスの人を吹き飛ばす馬鹿力も、神楽が中に入っているとするなら自然に納得がいく。つまり真選組は自身の生死に関わる岐路へと、いつの間にか立たされていたのである。

「このように交通安全の意識を少しでも怠ると、大変な目に遭います」

「体も心も傷ついちゃいますし、絶対に真似はしないように!」

「ルミナスともお約束ですよ~!」

「「「はーい!!」」」

 一方で近藤が未だにステージへ突き刺さってもなお、救出せずに進行を進める新八、アスナ、ルミナスの三人。交通安全の恐ろしさを、実演での出来事と織り交ぜて訴えかけていく。

 この調子のまま次のクイズへ向かおうとしたところ、土方と沖田は小声でこっそりと作戦を練り始めていた。

「土方さん。次は確か標識クイズですが、どうしやすか?」

「まぁ、待て。確かブシドーからの出題だったはずだ。あの立ち姿……恐らくキリトと見て間違いないだろう」

「俺も同じでさぁ。旦那ほど警戒する必要はないかと」

 残りのジャバン達の中の人を予想し、銀色のジャバンことブシドーをキリトと断定。銀時ほどの卑屈さは無いと確信し、二人は警戒を大いに薄めていた。むしろ赤色のジャバンであるインフィニティを銀時と見て、彼への警戒を強めている。

 そんな最中、気絶した近藤をスタッフが回収したところで、次のクイズが始まった。

「さぁ、続いては標識のクイズです!」

「ここではありとあらゆる標識の意味を、真選組の皆さんに答えてもらいます! 出題者はブシドーさん、宜しくお願いします!」

「御意。任された」

 新八、アスナが分かりやすく説明し、出題役をブシドーへと任せている。するとブシドーは、後ろに置いていたスケッチブックを手にして、真選組の面々に見せてきた。

「真選組。この意味を皆は知っているな」

「あぁ。落石注意だ」

「追い越し禁止でさぁ」

「えっと、飛び出し注意?」

 スケッチブックに描かれた標識を答えた上で、その意味をアスナ、新八、ブシドーが子供達に分かりやすく補足している。数分前の惨劇とは異なり、平和な時間が続く中で……事態は途端に急変した。

「では、山崎よ。これは分かるか?」

「えっ、何これ……」

 山崎を名指しした上でブシドーが見せてきた標識は、背景が黄色で人が真正面に走る影絵が張り付けられたものである。無論山崎どころか土方や沖田も見たことの無い標識で、三人揃って言葉が詰まってしまった。

「おい、明らかに地球じゃない標識だろ」

「どこかの星のもんですかね?」

 二人は所謂引っ掛け問題と察している。なお山崎は未だに答えが浮かび上がってこない。

「えっと、全然分からない! なにこれ!?」

「残念だ。正解は……ジャッキー飛び出し注意だ」

「いや、どういう状況!? それジャッキーの影絵だったの!?」

 あまりにも想定外な答えに、山崎は激しくツッコミを交わしてしまう。その答えはジャッキーの飛び出し注意であり、どこかの星で実際にあるものらしい。ブシドーはさも当たり前のように淡々と解説しているが……山崎らにとっては理解しがたい標識であった。

「てか、こんな答えを子供達が知っているわけが」

「そんなことは無い。みんなはもちろん分かったよな」

「はいはーい!」

「もちろん!」

「ズンボラ星の標識ですよね!」

「って、なんでみんなは分かっているんだよ!? いつの間に一般化されたの!?」

 ブシドーの呼びかけにしっかりと答えるユイら子供達。どうやら子供達の認知度の方が高いらしい。山崎にとっては信じられない光景ではあったが。

「残念。山崎さん、不正解です」

「では、ブシドーさんから喝を入れてもらいましょう!」

「えっ、喝!? 聞いてないって!」

 クイズに答えられなかった山崎に対して、新八とアスナは突然罰ゲームのような提案を交わす。無論山崎本人には知られていない、またしてもアドリブで事が進んでいた。

「安心しろ、ザキ。中にいるのは黒剣さんだ」

「そうだ。近藤さんのようになるわけねぇよ」

 無理やりブシドーから喝を入れられることになった山崎に、沖田と土方はボソッと小言を呟く。中に入っているのがキリトならば、きっと銀時のように手加減してくれると思っていたのだが……

「歯を食いしばれ」

「えっ? ぐはぁっぁぁあ!!」

「えっ」

「ん?」

その展開はまたも予想外の結末を迎えていた。なんとブシドーは手にした二本の片手剣ではなく、ジャッキーのようなキレのある蹴りで山崎をステージ外に突き飛ばしたのである。剣士のキャラからは想像もしない喝の入れ方に、沖田も土方も困惑を強めていた。

「おい、どうなってんだ。中にいるのはキリトじゃなかったのか……!?」

「もしかして、ブシドーが旦那でインフィニティが黒剣さんだったか」

「いや……山崎がキリトに恨みを買っていたんじゃないのか?」

 突然蹴りかかってきたブシドーにも違和感を覚えるが、何より良心的な性格のキリトとは思えない容赦なき一撃が二人にとっては衝撃的である。あらゆる仮説を思いつくも……どれもピンとはこない。いずれにしても山崎も気絶してステージから退場となり、残る真選組のメンバーは土方と沖田のみとなっていた。

「さぁ、クイズもいよいよラスト!」

「最後はインフィニティさんからド派手なクイズを出してもらいます!」

「おう、任せろ!」

 待ちに待った出番に張り切るインフィニティ。対し土方と沖田は、ひたすらに疑心暗鬼を強めている。今もなお、中の人が銀時かキリトか見分けがついていなかったからだ。

「インフィニティは野郎かキリトのどっちだ……」

「どっちにしても穏便なクイズが良いですけどねぇ」

 さらにはクイズの内容も打ち合わせ時点でシークレットとして扱われ、どんなクイズなのかは二人にも分からない。インフィニティの中の人がキリトと仮定した上で、難易度の優しいクイズを祈ったが……

「最後のクイズはこれだ! ドローンに捕まった時の起死回生クイズだ!」

「……はぁ!?」

「あぁ……」

そんな希望は意図も簡単に崩れ去ってしまう。インフィニティは複数のドローンを手にし、それを土方や沖田に括りつけて、所謂脱出ゲームのようなクイズを提案していた。もはや交通安全とは何も関係がないクイズが始まろうとしている。

(おぃぃぃぃ! なんだそのクイズ!? どこが交通安全教室に相応しいクイズだよ!)

(俺達ゃ、芸人じゃないんですけどね)

 当然土方や沖田は内心で反発し、インフィニティへ文句をぶつけていた。もう銀時かキリトの区別はどうでもよく、意地でもこのクイズ自体から逃げ出したい気持ちでいっぱいになっていた。

「真選組の諸君なら、こんな状況でも脱してくれるだろ?」

 とまるで挑発気味に土方や沖田に問いかけたインフィニティ。悪気の無い一言ではあったのだが……

「ふざけんな! 誰がそんなことやるんだよ!」

深読みした土方は激高し、インフィニティらジャバン達に向けて鋭い目つきで睨みつけてきた。

「ちょっと土方さん!」

「逆切れしないでくださいよ!」

「うるせぇ! 大体俺は分かっているんだよ! テメェの正体は……」

 新八やアスナが落ち着かせようとするも、依然として土方の気はまったく収まらない。仕舞いにはインフィニティの中の人を言い当てようとヤケになっている。

 楽しいショーのはずが、段々と緊迫した空気が張り詰めかけていた……その時であった。

「アレ、土方さん」

「なんだどうした!?」

「あっち」

「はぁ? 何が……」

 沖田があるものを見つけて、土方に指さしと共に伝えている。沖田が指を指した方角にはなんと……

「ハハハ! 仲間割れか? 宇宙刑事に真選組よ!」

「えっ?」

敵役に仮装した銀時、キリト、神楽がステージに姿を現していたのだ。

「ア、 アナタ達は……!」

「そう! 巷を騒がす盗賊団、その一人カグーラと!」

「この俺、キリーと!」

「ギラギーラが相手になってやる! いけ、我が先兵達よ!」

 三人はそれぞれの役名を名乗った後、事前に準備した戦闘員達をジャバンや真選組に差し向けている。クイズは一旦中断となり、ショーの目玉であるアクションパートが急遽始まろうとしていた。

「こ、これは! エモルギア犯罪チームがショーの邪魔をしに!」

「会場のみんな! ジャバン達と真選組を応援してあげて!」

 新八やアスナも熱を込めて、子供達に声援を呼び掛けている。するとユイが率先して、大きな声を挙げていた。

「頑張ってください!」

「そうだ、頑張れ!」

「負けるな!」

 ユイにつられて他の子供達も、ジャバンや真選組らに声援を送る。事前の打ち合わせ通りに、土方、沖田、ジャバン達は戦闘員や盗賊団を相手取っていく。その戦いの最中で土方は銀時、沖田はキリトに、今回の件をこっそりと聞きに行っていた。

「おい! どうしてテメェがここに! インフィニティに入っていたんじゃねぇのか!?」

「はぁ? 違ぇよ。食中毒になったのは、司会役と敵役だけだ。ジャバン達のスーツアクターは元々無事なんだよ」

「へぇー。そうなんですかい」

「あぁ。でも誰が入っているのかは俺達も知らないままだ」

 殺陣の中で交わされた新たな真実。どうやら代役が必要になったのは、司会役と悪役のみらしく、肝心のジャバン達は元より当初通りだったとのこと。それでも銀時らはその正体をまったく知らない様子であるが。

「土方さん。早とちりが過ぎましたね」

「野郎じゃないだけでマシ……じゃ、あいつらの正体は?」

 しかし土方や沖田には、一つだけ引っかかることがあった。例えアドリブを交えていたとはいえ、罰ゲームには明確な悪意があったことに。密かに真選組へ恨みを抱く者の仕業と察していたが……その予感は突然、確信へと移り変わっていた。

「大丈夫か、桂さん」

「あぁ、平気だ」

「えっ?」

 乱闘の中で聞こえてきたインフィニティとブシドーの会話。声優を使った録音ではない、本当の声を二人はこっそりと耳にしていた。

「作戦は失敗したが、この場は台本通りに乗り切るぞ」

「そうだな。エリザベスさんも頼むぜ!」

 ブシドーからの掛け声に、ルミナスも大きく頷く。そう……ジャバンの正体はなんと桂一派であり、インフィニティに桂、ブシドーにクライン、ルミナスにエリザベスが入っていたのである。この事実を目の当たりにして、土方や沖田はようやく違和感の正体に気付いてた。

「そういうことかよ……」

「なんでい……」

「ん? どうした?」

「なんでもねぇよ!!」

 長らく抱いていた謎が解けて、吹っ切れた土方と沖田は勢いよく銀時、キリトに襲い掛かっていく。激しくキレのあるアクションを続け、子供達からも温かい声援が上がっている。こうして交通安全教室は、明確なトラブルも無く無事に終了していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様でしたー」

「お疲れ様でした!」

 交通安全教室が終了し、控室へと戻る土方、沖田、そして万事屋の面々。後者はやり切ったように満足げな表情を浮かべていたが、対照的に前者はどっと疲れが出たような表情になっていた。

「おい、今日はやけに静かじゃねぇか」

「色々あったんだよ、俺達も」

「てか。ジャバン達はどこにいったんでい?」

「もう帰ったらしいぞ。何? もしかしてサインとかもらいたかったとか? やけに可愛いところあるじゃねぇか」

「お前な……!」

 軽口を叩く銀時に、土方はムキになって反論。何気にジャバンこと桂達は既に場を去っており、行方すら掴めないことを二人は悔やんでいた。

「黒剣さん達は本当にジャバンの中の人を知らないんですかい」

「まぁ、ここに駆けつけた時にはもう着替えていたからな。アクションが本業の方じゃないのか?」

「きっとジャッキー並みに凄い身体能力の持ち主アルよ!」

「最後のアクションシーンもかっこよかったですからね!」

「……知らぬが仏って奴ですかい」

 沖田は再度キリトにジャバン達の正体について聞くも、やはり万事屋とも知らない様子である。神楽やユイは勝手にその正体について盛り上がっていたが……沖田は真実すら伝えるのが煩わしくなり、一人でため息を吐いていた。

 すると、途中退場していた近藤や山崎と控室にて合流する。

「おっ、トシに総悟! ショーは無事に終わったのか?」

「俺達気絶して、途中の記憶が無くて……結局どうなりましたか?」

「あぁ、大成功だよ。だが……」

「ホシを逃がしたってところですかねぇ」

「ホシ?」

「旦那達が扮していた怪盗のこと?」

「いや、そっちじゃねぇよ」

 結局は近藤も山崎も、ジャバン達が桂一派であることを知らないままショーを終えていたのだ。最後の最後まで桂達に振り回されたまま、今日一日を終えた土方と沖田である……。




 ということで、子供達に人気のヒーローは最新作のギャバンでした! なんとなく交通安全教室との組み合わせが良いと思い、真選組との共同イベントとしてこの回を製作しました。なお、名前はジャバンともじっているので一応本家とは一切関係ありません!
 不憫な目に遭う近藤と山崎、勝手に心理戦を行う沖田や土方などの見どころもありますが、今回の一番の見どころはジャバンの正体! 分かった方はおられましたか?





次回予告

リズベット「なんでまた山奥で遭難しちゃうのよ! 鉄子さん! どこにいるの!?」

近藤「アレ? その声はリズ君じゃないか。なんでここに?」

リズベット「げっ!? 近藤勲……!?」

近藤「次回! 四人寄っても知恵が生まれないことがある!」

リズベット「えっ? あと二人も来るの……?」
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