「ふぅ~着いた」
「ここが鉱石の取れる山林みたいだね」
リズベットと鉄子は目的地に辿り着き、スッと一息付いていた。そこはかぶき町から離れた山奥であり、その移動距離はバスを介してでも数時間はかかっていたのである。そんな苦労を掛けてまで、二人が求めていたものは、この山で採取できる特殊な鉱石だった。
「噂通りなら、この山の奥に幻の鉱石メテオジュエルがあるらしいけど……」
「確か、最近落ちた隕石に付着したものなんでしょ。鉄子さん?」
「うん。地球どころか他の星々でも中々見ない代物だよ。メテオジュエルがあれば、数日かかる工程も一日分に短縮できるから、見つけたら大変助かるんだけどね」
二人は手に入れた情報を今一度整理している。二人が今回探すメテオジュエルはかなり貴重な鉱石であり、鍛冶の工程もグッと減らせる鍛冶屋にとって大助かりな代物だったのだ。あくまでも噂ではあるが、リズベットは鉄子の手助けになりたいと思い、彼女に念押ししてメテオジュエルの探索を嘆願し、現在へと至っている。
「任せてよ、鉄子さん! アタシも隈なく探すから、メテオジュエルを絶対に見つけましょうね!」
「ありがとう、リズ。でも遭難だけは気を付けてよ。最近は野生動物も多く出ると聞くし」
「そこも問題無し! アタシのメイス裁きで、鹿でも熊でも追い払うからさ!」
自信良くやる気を満ち溢れさせるリズベットに、鉄子も大変頼もしく感じていた。だが一方で遭難もとい離れ離れになる可能性もある為、リズベットには強く注意を促している。本人も迷子だけは十分に意識していた。
こうしてメテオジュエルを求めて、二人の鍛冶屋が山奥の深淵へと入り込んだのだが……数十分後に早くも事態は急変してしまう。
「アレ? 鉄子さん……」
そう。気付くとリズベットは鉄子と離れ離れになっていた。付近を見渡しても、彼女の姿は一切見当たらない。迷子だけは避けようと意識していたはずが……不運にも独りぼっちとなり、彼女は段々と顔が青ざめてしまう。
「う、嘘でしょ? 鉄子さん! いるよね!?」
慌てて来た道を戻ってみるも、鉄子の姿は一切見当たらない。鉄子を探し回っているうちに、リズベットは段々と自分の現在いる方角が分からなくなっていたのだ。
「そ、そんな……まさか遭難!?」
もはや鉱石探しどころではなく、早く鉄子と合流したい一心がリズベットをより焦らせてしまう。何よりもこんな山奥にずっといれば、野生動物と遭遇し襲われても可笑しくはない。お互いの無事を確認し合う為にも、鉄子との合流が第一と思い始めていた……ちょうどその時である。
〈ガサガサ!〉
「えっ!?」
後ろにあった草の茂みから、物音が聞こえていた。振り向くとその茂みは左右に動いており、何かがいることは確実である。
「だ、誰!? 鉄子さん!? それとも……」
リズベットはビビりながらも、こっそりと茂みから遠ざかった。熊のような野生動物と出会っても良いように、いつでも逃げれる準備を整えている。
緊張感を覚えながらしばらく警戒していると、茂みから物音の正体がふと出現していた。
「アレ? リズ君じゃないか。こんなところで、何をしているんだ?」
「げっ!? 近藤勲……!?」
「なんで呼び捨て!?」
そう。物音の正体は野生動物ではなく、知り合いの近藤勲である。近藤側は思わぬ人物との遭遇に驚嘆としていたが、対照的にリズベットはがっかりとした表情を浮かべていた。結果論とはいえ、アレだけ震えていた自分が何だか馬鹿らしく感じていたのである。
「て、てか! なんでアンタ、こんな山奥にいるのよ!?」
ひとまずリズベットは、近藤へ山奥に来た理由について聞いていた。すると近藤は、自信満々な表情で返答する。
「それはだな……お妙さんに頼まれたんだよ! 松茸を取ってきてと」
「松茸……?」
「どうやらこの山の奥にあるらしくてな。もし取ってこれなかったら、眼球にデコピンされるから、お妙さんをご機嫌にしようと彼女のおねだりを受けた次第だ!」
「それおねだりじゃないでしょ! 確実に脅迫じゃないの!?」
さも当たり前のことのように話す近藤に対し、リズベットは唖然とした表情でツッコミを入れていた。山には妙の為に松茸を採りにやって来たが、理不尽にも罰ゲームが付いて来ている。その狂気的な内容には、リズベットも大いに心を引かせていた。
「フッ、どんな形であれ、お妙さんが俺を頼ってくれるならばそれで良いのさ。何ィ、松茸の一本や二本、普通に探してれば見つかるだろ」
「その自信はどっから湧いてくるのよ……」
あまりにも理不尽な目に遭っているはずが、どこか前向きで大きな自信を付けている近藤。そんな彼の姿を見て、リズベットは控えめにもツッコミを入れている。それでも妙に一途な点だけは、どこか安心感を覚えていたのだが。
「そういうリズ君は、この山には何用で来たんだ?」
「アタシは鉱石を探しに。でも鉄子さんとはぐれちゃって、今探していて……」
一方のリズベットは、近藤に自分の一件について説明していた。鉱石を探しに来たことと、鉄子とはぐれてしまったことを事細かに伝えている。
「あの刀鍛冶屋の姉ちゃんだな。俺も見かけてはいないな……。どこか合流地点とか決めていなかったのか?」
「合流地点? あっ! 山を下った場所にあるインフォメーションセンターだった気が!」
「よしっ。ならそこを目指してみるか」
近藤とのやり取りでリズベットは、鉄子と万が一はぐれてしまった場合の合流地点を思い起こしていく。下山した先にある休憩所兼観光案内所を指定しており、はぐれてしまった鉄子ももしかするとそこにいるのかもしれない。
そう思ったリズベットは、そのインフォメーションセンターまで向かうことに。すると近藤も彼女の後へ続くようについて来ていた。
「って、近藤さんも一緒に来るの?」
「当たり前だ。前にも言っただろ。俺達真選組は市民の味方だと。リズ君だけじゃ心細いだろうから、しっかりと警護しないとな!」
と威勢よく言い放ったものの、リズベットの反応はいまいちである。
「アンタといる方が余計に心配なんだけど」
「えっ? どういうこと?」
「自分の胸に手を当てて考えてみなさいって。思い当たる節が色々出てくるでしょ」
あえて理由は伝えずに、突き放すような形で受け流したリズベット。これまでの出来事を始め、近藤といると碌なことが起きない一種のトラブルメーカーだと彼女は察していたのである。当の本人は胸に手を当てようとも、まったく自覚していなかったのだが。
そんなことは気にせずに近藤も同行し、二人はインフォメーションセンターへ向けて森林の深淵を駆け回っていく。
「えっと、こっち?」
「こっちじゃなかったか?」
「てか、近藤さん。携帯電話持っていたら、地図アプリとかで探せるんじゃないの?」
「いや実は圏外で繋がらなくてな。だから手あたり次第でしか探せないんだよ」
「なんでこういう時に限って……」
状況がまったく進展しない中で、リズベットは近藤に携帯電話の使用を提案するが、そちらも既に実証済みであった。結果は圏外であり、頼みの綱もこんな山奥では無力化される始末である。つまりはカラクリに頼らず、自力でどうにかしなくてはいけないのだ。
そう二人が手探りで山奥を歩き回っていた時である。
〈ガサガサ!〉
「って、近藤さん! あっちの茂みが揺れてる!」
「何!? 何者だ!? 鹿か? 熊か?」
二人の目の前にあった草の茂みが、またしても不自然に動いていたのだ。異変を察し、近藤は鞘に納めた刀の持ち手、リズベットはメイスの持ち手に手を添えていく。二人揃って熊のような野生動物が出てくることを危惧していたが……茂みから現れたのは、
「熊じゃない、桂だ!」
「鹿じゃない、クラインだ!」
現在指名手配中の男達である。
「か、桂にクライン……!?」
「バカがまた増えた……」
予想を遥かに下回る展開に、リズベットはつい頭を抱えてしまう。近藤よりも面倒な相手と遭遇したことに、想像以上の疲労感を痛感していたのである。一方の近藤、桂、クラインの三人は、純粋にも宿敵との遭遇に驚嘆としていた。
「な、リズ君と真選組の近藤!?」
「おいおい、どういう組み合わせだよ! まさか……デートか!?」
「アンタら……メイスで腹を貫通されたいの!? そんなわけないでしょ!!」
思い付きで発したクラインの一言に、リズベットはメイスを差し向けて即座に反論。一番言われたくない地雷のような一言に、明確な怒りを向けていた。
すると近藤は、桂達に一応現在の状況を確認している。
「てか、お前達はなぜこんな山奥に……」
「ふっ。俺達はこの山奥にあるとされるものを探しに来たのだ」
「あるものって、まさかメテオジュエルのこと?」
「いいや! スーパーモンチー大冒険だ!」
「はい?」
「えっ?」
リズベットと同じものを探していると思いきや、まったく別の物を二人は探していた。
「たけしから借りて無くしていたあのゲームが、この山奥にあると聞いたものでな」
「それで俺達二人で探しに来たんだぜ! 俺もそのゲームが気になるしな」
どうやら風の噂で、山奥にあるとされるカセットゲームを二人は回収しに来たとのこと。桂にとっては借りパクしたまま無くしたゲームを見つけることに躍起となっている。
そんな二人の行動理由に対し、リズベットは増々言葉に詰まってしまう。
「聞いたアタシが馬鹿でした……山奥じゃなくて、ブック〇フに探しに行きなさいよ」
頭を抱えながら正論を言い放つ始末であった。なお近藤も同じくらい唖然とした表情を浮かべている。
「しかし探すうちに遭難して、気づいたらお前達と出会ったわけだ」
「うむ。近藤よ。お互い敵の立場ではあるが、ここは一時休戦としないか。お前達も同じく遭難しているのだろ?」
そんな桂達も同じく遭難の身として自覚をしており、近藤らに一時的な協力を持ちかけていた。もちろん自分達が敵対するもの者同士と理解しての提案である。
「どうすんの、近藤さん。このバカ二人を連れて行くの?」
リズベットは桂達を相手にする面倒さが勝り、彼らの提案を快く思っていなかった。一応は近藤の意見も聞いてみると……リズベットとは全く真逆の反応が返ってくる。
「そうだな。桂だけなら見捨てられるが、クラインがいるなら話は別だ」
「えっ? なんでそんなクラインに肩入れするのよ?」
「アイツは敵であれ、俺と同じ匂いを感じる。悲恋を多く経験しているに違いない。そんな男を放っておけるわけないだろ!」
「……そんな理由で?」
近藤は桂よりクラインに同情しており、自分と同じ悩み多き男として勝手に解釈していた。悲恋という点では実は一致しているのだが……とにかくは敵ながらクラインを放っておくことは出来ず、桂達の要件を彼は受け入れようとしている。
「分かった! 要件を呑もうじゃないか。遭難を脱するまでは一時休戦だ」
「うむ。リズ君共々、ここを脱しようじゃないか」
と思わぬ形で一種のチームが形成されたが……リズベットにとっては単なる災難でしか無かったのだ。
(なにこの状況……!? なんでアタシはこのバカトリオと一緒に遭難しているの!? 鉱石を探しに来ただけなのに……!)
ただでさえ相手するだけで疲れる相手が三人にも増えて、鉄子と合流する前に平常心を保てるか不安を覚えてしまう。数分前と違い心細いことは無くなったのだが。
こうしてリズベットは鉄子との合流地点であるインフォメーションセンターへ向けて、近藤、桂、クラインの三人と歩みを進めることに。
四人で山を下り始めてから早数分。一行に状況が進展しない中で、ふと桂がリズベットに話しかけてきた。
「安心しろ、リズ君。俺達三人がいればもう大丈夫だ。まさに……イケメンパラダイスと言うべきではなかろうか!」
「どこがイケメンよ! 変人パラダイスの間違いでしょ!」
「ふっ、存分に頼っても良いのだぞ。折角なら「危ない太陽に吠えろ」も歌唱しようではないか!」
「会話を成立させないなさいって! てか、曲名も色々と間違っているし!」
恐らく不安を感じているリズベットへ安心できるような冗談を発したものの、本人にとっては逆効果である。そもそもリズベット自体、不安より三人と一緒にいることのストレスが一番大きいのだが。マイペースな桂に振り回される中、クラインや近藤も続く。
「おいおい、リズ。俺を変人扱いしても良いが、桂さんを変人扱いするのは許さないぞ」
「桂はともかく、俺やクラインさんは変人では無いと思うが」
「いや、アタシから見たら二人も同じ具合の変人具合なんだけど……」
各々が変人であることに反論したが、リズベットにとっては三人共、ほぼ同列に見ている。ストーカーやらテロリストと揶揄される時点で、とても常識的とは思えなかったからだ。
そう会話を交わしていると、ふと近藤はクラインにあることを聞いている。
「なぁ、クライン。今更俺が言うのもあれだが、君はなんで攘夷の道なんかに行ったんだ? 君は元の世界で普通に暮らしていたと聞いている。そんな君がなぜ、こんな危ない橋を今もなお渡り続けているんだ?」
彼は単純にクラインが攘夷志士になった理由について聞きたがっていた。クラインが真選組に指名手配されて以降、彼の情報を知る度、何故桂と一緒にいるのかは理解できずにいた。別の世界から来たならば、違う道があったと今更ながら考えていたのだが……。
「近藤さん、それは理屈じゃ測れないものなんだ」
「というと?」
「俺はぁ、この世界に来た時、初めて手を差し伸べてくれたのが桂さんだった! それも夢にまで見た本物の侍に俺は出会ったんだ……だから、助けてくれた桂さんに尽くすことが、この世界で俺がやるべきだとその時に悟ったんだ!」
「はい!?」
「まーた始まったよ」
クラインはスラスラと自身の想いを吐露していた。桂もとい侍への憧れや彼への恩を語った上で、自分の進むべき方向が攘夷志士だと確信した様子である。この想定外の返答に近藤は困惑し、対照的にリズベットはあきれ果てていた。
「そうだ! 近藤よ……幾ら諭されようとも、クラインの意思は変わらぬぞ!」
「そうだぜ! これが俺なりの武士道ってもんだ!」
二人は共に高笑いをして、硬い絆を近藤らへ見せつけている。もはや攘夷志士から寝返ることは無いくらい、桂に心酔していることがよく分かった。
「リ、リズ君? クラインって元の世界でもあんな感じだったのか?」
「まぁ、侍が好きだったことは事実だよ。風林火山ってギルドのリーダーでもあったし」
「それじゃ、もう捕まえるしか手段が無いのか……」
「捕まえたいならどうぞ。どうせクラインの自業自得だから」
「って、あまりにも塩対応過ぎないか!?」
クラインにやや情を持ち始める近藤であったが、リズベットはバッサリと彼を切り捨てている。もはや彼女にとっては、クラインがどうなろうと本人の責任としか見ていなかったのだ。近藤はそのあっさりとした対応にも驚嘆としていたが。
そう話しながら道を進むうちに、リズベットはあるものを発見する。
「ん? アレって……」
「どうしたのだ、リズ君よ」
桂らも急に立ち止まった彼女に気付き、急いで近づいていく。リズベットが指し示す方角には、木の幹に出来た大きな穴があり、そこには探し求めていたあの鉱石が埋もれていた。
「間違いない! メテオジュエルよ!」
「メテオジュエル!?」
「リズ君が探していた鉱石のことか?」
「そう! やっと見つけた!」
ずっと探索していたメテオジュエルの在処をようやく見つけ出したのである。なんで木の穴に埋もれているのかは分からずじまいだが、彼女はその穴目掛けて駆け寄っていく。
だが……そこにはあるトラップが待ち構えていた。
「うぅ……」
「えっ?」
突然木の穴の前に、黒い物体が立ちはだかっている。その正体は……彼女が最も恐れていた獰猛な生物であった。
「く、熊!?」
「何!?」
「えっ!?」
そう。自身の体格より倍近くある黒い熊が、リズベットの前に立ちはだかる。目の前にある木の穴は恐らくその熊の倉庫的役割を果たしており、侵入したリズベットへ向けて猛烈な敵意をむき出していたのだ。
「ぐらぁぁぁ!」
大きく威嚇をして、片手を地面でこすりつける熊。もはやいつ襲ってきても可笑しくないくらい、片目を血走らせている。
「くっ……凶暴そう。ねぇ、近藤さんに桂さん……」
流石に一人じゃ分が悪いと察し、リズベットは近藤や桂、クラインに加勢を要請したのだが……三人は揃って地面に転がり込み、死んだふりをしていた。
「はぁ!? アンタ達、何をやっているのよ!?」
「リ、リズ君……早く倒れろー」
「こういう時は死んだふりが一番いいからー」
「お前も仮死状態にならないか?」
「それもう瀕死でしょ!? 何を弱気になっているのよ!」
近藤、クライン、桂はそれぞれ小声で、リズベットにも死んだふりを指示している。なお桂だけは完璧に死体役としてなり切っており、もはや戦わずにこのままやり遂げようとしていた。あまりにも無謀である。
「ダラァ!」
「って、うわぁ!?」
そんなボケとツッコミを応酬しているうちに、熊は勢いよくリズベットへ向かって突進。彼女は即座に背中の透明な羽を広げて、飛行状態を展開。間一髪で熊からの突進を回避している。
「って、アンタ達! 危ないから早く逃げなさいって!」
「心配するな。死体だから通り過ぎる……」
桂らにも退避を呼び掛けたが、依然として死体役を続けていた。このままやり過ごそうとした……その時である。
「ビラァァ!」
熊は突然仁王立ちになり、死体に扮している桂達へ向けて……額にある結晶から禍々しいビームを解き放ったのだ。
「えっ?」
あまりにも想定外な展開に、唖然としてしまうリズベット。思わず死体役の三人の行方を追っていると、
「「「あぁぁぁぁぁ!!」」」
三人は爆炎の中から叫び声を上げて勢いよく逃げていた。
「グラァ!」
逃げ惑う三人に狙いを定めて、熊もその跡を追いかけていく。もはやただの野生の熊ではないと察したリズベットは、近藤達の元まで飛行して、現在の状況を聞き出すことにした。
「ど、どういうこと!? さっきの熊、なんかビーム出して無かった!?」
「出してたよ! 桂さんに近藤さん、あの熊の正体知っているか!?」
クラインが焦りながら桂や近藤に聞き直すと、二人は思い当たることを口にしていく。
「多分アイツは、ビムノワグマだ!」
「はぁ!? ツキノワグマじゃなくて?」
「そうだ! アイツは海どころか宇宙すら渡り歩くほど進化した熊だ! まさか地球にいたとは……!」
「って、もうそれ熊じゃないじゃん! ただの化け物じゃん!!」
そう。二人は熊の正体をビムノワグマと断定。宇宙を渡る特殊な熊であり、その能力は常識を遥かに超えている。あまりにも高いスペックを持つビムノワグマを知り、リズベットは反射的にツッコミを入れていた。
「って、どうするの!? こっちに向かって来ているけど!!」
「死んだふりもアイツには効かないぞ!」
どちらにしても全員が窮地であることに変わりはなく、リズベットやクラインは早急な対策を考え始めてみる。ひたすらにビムノワグマから逃げ続ける中で、近藤と桂は同時にある妙案を思いついていた。
「ならば仕方ない! 誰かが犠牲になるしか……ということで近藤、後は頼んだぞ」
「はぁ!? 犠牲になるなら、桂貴様だろ!?」
「バカを言うな! 俺はこの国を正す為に、生き残らなくてはならないのだ!」
「それを言うなら、俺だって愛しのお妙さんが待っているんだ! 絶対に生き残ってやるからな!!」
「って、何を下らない足の引っ張り合いしているのよ! アンタら!!」
互いに生贄を用意しようとしたが中々話がかみ合わずに、足の引っ張り合いをする二人。もはやただの醜い言い争いでしかなく、リズベットからもツッコミを入れられてしまう。
「グラァァ!!」
一方のビムノワグマは、興奮状態が解けないまま、さらに額からビームを乱射。あらゆる方角から禍々しいビームが、リズベット側に向かってくる。
「って、危ない!」
すかさず彼女は左腕に装備した盾を構えて、ビームから近藤らを守ろうとした。
「はぁ! うっ!?」
「リズ君!?」
だが一瞬の隙を突かれてしまい、一本のビームがリズベットの左腕をかすってしまう。怯んでしまった彼女に、ビムノワグマは勢いよく突進していく。
「早く逃げないと……」
危機を察して回避しようとするも、先ほどかすったビームのせいか、体が思うように動かない。もはや絶体絶命の窮地だが……そんな彼女にあの三人が加勢してきた。
「させるか!!」
「こ、近藤さん!?」
リズベットの前に近藤が立ち、彼は真っ向からビムノワグマを力づくで受け止める。大きな衝撃を自ら受け止めて、文字通りに身を挺してリズベットを守っていたのだ。
「行けぇぇ! 桂ぁ! クライン!」
「おう、任せろ!」
その間に近藤は、桂とクラインに攻撃を指示。二人は刀を構えて、左右からビムノワグマに立ち向かっていく。
「桂さん! 額を狙えば良いんだな!」
「あぁ! 奴のビームを一気に防ぐぞ!」
そう。桂はビムノワグマの弱点も知っており、額にある僅かな結晶を狙えば、散々自分達を苦しめたビームは出なくなると見込んでいた。近藤に指図されるのは若干尺ではあるが、リズベットを助ける為にも二人は刀に全力を注いでいく。
「「はぁぁぁ!!」」
「グラァ!?」
桂、クラインはみねうちが如く、ビムノワグマにある額の結晶を粉々に砕いていた。結晶が無くなったことで、ビムノワグマは唸り声を挙げながら苦しんでいる。近藤ら三人の作戦が成功した瞬間であった。
「一瞬で弱体化させた……」
「さぁ、今のうちに逃げるぞ! お前達も!」
すんなりと上手くいった三人のコンビネーションを間近に見て、素直に驚くリズベット。一方の近藤はビムノワグマが怯んでいる間に、皆へ撤退を呼び掛けている。ビームさえ無ければ後は逃げるだと思っていたが……
「ダラァァ!!」
ビムノワグマはすぐに調子を取り戻していた。例えビームが使えなくとも、攻撃を仕掛けてきた桂達を仕留めようとまた狙いを定めていく。
「くっ。もう立ち上がったか!」
「だったら本格的に戦うしか……!」
しぶといビムノワグマに辟易としながらも、またも刀を構える桂とクライン。長期戦になることを危惧し、二人は苦い表情を浮かべている。引き続き絶体絶命の状況が続くと皆が思い始めていたその時であった。
「はぁぁぁ!」
「グラァ!?」
ビムノワグマの後頭部に、何か突然大きな衝撃が襲い掛かってきた。その衝撃を受けたビムノワグマは、前からゆっくりと倒れてしまう。
一瞬にして獰猛な威圧感は消失していた。「へ?」
「何が起きたんだ……?」
突然の展開に把握しきれない四人だったが、辺りを見渡すと彼らはある人物を発見している。
「ふぅー。間に合って良かったよ」
「って、鉄子さん!?」
そう。リズベットとはぐれてしまった鉄子が、この場に合流していたのだ。彼女の手には鍛冶で使うハンマーが装備されており、恐らくはこのハンマーの打撃でビムノワグマを気絶させたと思われる。
「もしかしてさっきの攻撃って……」
「そう! 私が仕掛けたものだよ。ただ気絶させただけだから安心して」
意外な助け船が判明し、四人は揃ってようやく心を落ち着かせていた。ビムノワグマの脅威が去っただけでも、彼らにとっては十分なのである。
こうして鉄子と合流出来たリズベットは、近藤らと共にそのままインフォメーションセンターへと向かうのであった。
「それにしても災難だったね。あのビムノワグマと鉢合わせするなんて」
「本当にそう! でもアタシはそれよりも、あの三馬鹿と一緒にいたことが一番のストレスだったけどね……!」
「ハハ。それは違いないね」
インフォメーションセンター付近のベンチで、係員が煎れてくれた珈琲を飲みながら先ほどの一件を振り返る鉄子とリズベット。特に後者は近藤らとの遭遇が何よりも不幸なことと断定していた。鉄子もこっそりと共感している。なお鉄子側ははぐれた時から、インフォメーションセンターへと即座に向かい、その途中でリズベットらを見かけて、駆けつけた様子であった。
一方で二人が探していた肝心のメテオジュエルはと言うと、
「でも、メテオジュエルも手に入って一安心ね」
「そうだね。まさかリズと合流する前に見つけられるなんてね」
鉄子が既に手に入れていた。彼女はリズベットとはぐれたタイミングでメテオジュエルを見つけて、すぐ回収していたのである。希望通りの鉱石が見つかり、リズベットも鉄子も一段落していた。
因みに近藤や桂が山の中で探していたものはと言うと、
「見ろ、クラインよ! これがスーパーモンチー大冒険だ!」
「おぉ! これが伝説と名高いゲームか!」
「よしっ! 松茸ゲット! 早速お妙さんに報告だ!」
こちらもインフォメーションセンターへ向かう途中で手に入っている。桂はスーパーモンチー大冒険のカセット、近藤は大量の松茸を手に入れていたのだ。希望の物が手に入り、三人共大小少なかれ喜んでいる。
「そして三馬鹿も無事に探し物をゲットと」
「良いんじゃない、全員ハッピーエンドで」
浮かれ合う三人を目の当たりにして、リズベットと鉄子はまるで保護者のような感覚で彼らを見守っていた。紆余曲折はあったものの、それでも全員とも幸せならそれで良いと察している。
終わり良ければ総て良しと平和な雰囲気のまま山を下山しようとした……ちょうどその時であった。
「あの……」
「ん? どうしましたか?」
突然リズベットらに、先ほど珈琲を煎れた女性の係員が話しかけてくる。女性は気まずそうな表情で、あることを補足していた、
「いや実は、お連れ様が持っているあのキノコ、恐らく毒キノコだと思われるのですが」
「えっ? 松茸じゃないの?」
「よく誤解されるのですが、アレは松茸もどき。松茸に擬態した毒キノコなんですよ」
そう。彼女は近藤が手にした松茸を毒キノコと推察している。この山でよく見かけるキノコで、登山に来た客にも警戒を呼び掛けている大変危険なキノコみたいだ。
「えっ? じゃ、松茸じゃないってこと?」
「ただの糠喜びじゃないの……近藤さん。それ松茸じゃ……」
真実を知らずに一人で舞い上がっている近藤を不憫に思いつつも、リズベットは近藤に先ほどの件を伝えることにする。近藤へ向かって話しかけようとしたが……
「うぅ」
「えっ?」
「ちょっと!? 何やっているの、アンタら!? まさかこっそり食べたの!?」
時すでに遅かった。近藤、さらには桂やクラインまでもが、腹を抱えながらもがき苦しんでいる。あまりにも早いフラグ回収に、リズベットは大きく驚嘆しながら激しくツッコミを入れていた。
「いや、桂達が勝手に食べ始めたから……あとお妙さんへ渡す前に味見したくてな」
「こっそりつまみ食いするはずが、まさか食あたりとは……」
「アレ? 意識が遠のいて……」
「そりゃ毒だからよ! なんでアンタ達は最後まで綺麗に終わることが出来ないのよ!!」
事の発端は桂達のつまみ食いから始まった、ただの下らないきっかけである。なお桂達はただの食中毒と把握しており、毒キノコとはこれっぽちも思っていない。衝動的かつ食い意地の張った三人の自業自得な末路に、リズベットは取り乱しながらひたすらにツッコミを繰り出す。最後までこの三馬鹿に振り回されっぱなしなリズベットであった。
「とりあえず救急車呼びますか?」
「そうですね。今呼んできます」
一方の鉄子と係員は、苦い表情を浮かべながら淡々と事を進めている。ひとまずは救急車を呼び、三人まとめて病院に送る様子であった。
こうしてメテオジュエルもとい五人の探し物は、三馬鹿達による毒キノコの誤飲で幕を下ろしたのである。なお近藤、桂、クラインは数日かけて回復した……はずだ。
今回は何かと腐れ縁を結びつつある近藤とリズが中心のお話でした。彼女のメイン回である七話の「心の温度」と同じシチュのように見えますが……本家とは違いロマンチックの欠片もありませんね笑 書いていて思いましたけど、彼女の心労がとんでもなく大きそう……ですが無事に鉱石をゲット出来て良かったですね。なおその代わりとして、近藤達の体調は大丈夫なのでしょうか。まぁ、大丈夫でしょ。単発回だし。
次回予告
銀時「またこいつと出くわすことになるとはな」
シノン「銀さん、何やっているの?」
銀時「おっ、ちょうど良かった。お前に会わせたいカーナビの奴がいるんだよ」
シノン「カーナビ? AIアバターのこと?」
銀時「まぁ、大方合っているぞ」
銀時「と言うことで次回! たまには遠回りも必要だ」
シノン「それでそのアバターって誰なの?」
銀時「ブルー霊子だ」
シノン「ブルーレイ?」