「どうだ。こいつの調子は?」
「おい、テメェ。とっととカーナビらしく、道案内しやがれ」
「重さが足りません。あと数キロ増やしてください」
「あんだと!? ご主人様に逆らうんじゃねぇよ!」
江戸にある機械屋、からくり堂にて銀時は自身のスクーターに乗り、備え付けられたカーナビに話しかけていた。カーナビ内部にある青髪の少女から、生意気な一言ガ返って来て思わず逆上している。
源外が適宜カーナビを調整する中で、銀時はだらだらと彼に文句をぶつけていたのだ。
「おい、爺さん。どうにかしてくれよ。こちとら、やりたくもない料理配達を任せられて、困っているんだよ。なんか試作品のカーナビとか無いか?」
「そうは言っても無いもんはねぇよ。だがこのカーナビも悪くないと思うぞ。なんせ高性能な電脳天使付きだからな」
万事屋の依頼でどうしてもカーナビを頼るしかなく、銀時は源外に他のカーナビが無いか交渉を続けている。
そう。銀時の持つカーナビには、かつて彼が誤って購入したブルーレイディスクの内部にいた電脳生命体、ブルー霊子が潜んでいるのだ。白いワンピースに千切れかけた片翼、右目は包帯で覆われた青い髪の少女で、さながら不気味な天使の風貌をしている。
「また私の出番があるなんて嬉しいよ。こんなもがれた翼でも、役に立つことがあるんだね……」
「ネガティブなのがたまに傷みたいだけどな」
「前と全然変わらねぇじゃねぇか」
おまけに一つ一つの発言が負の感情に満ちており、銀時も気を遣う始末である。現状依頼されている料理配達の仕事では、道案内付きのカーナビが必要の為、銀時はどうしてもこのブルー霊子を頼るしか術は無いのだ。沸々と怒りを募らせながらも、めげずに彼女へ交渉していく。
「おい、お前。いい加減にしろよ。一体どうしたら、機嫌戻るんだよ」
埒が明かず、ストレートにブルー霊子の機嫌を伺う銀時。するとブルー霊子は、画面越しにある提案を交わす。
「そうだね……アナタが最近知り会った妖精が一緒に乗ってくれたら、考えても良いよ」
「妖精? キリトやアスナのことか」
「そう。その中でも私と声が似ている子がいない?」
「声が似てる? ま、まさか……」
ブルー霊子はある人物の同乗を提案。彼女が密かに気になっている子さえ乗ってくれれば、素直に言うことを聞くと自負していた。銀時は真っ先にある女子が頭に思い浮かんだのだが……偶然にも噂の本人がたまたま近くを通りすがっている。
「銀さん。何しているの?」
「あっ、シノンか……」
そう。声をかけてきた正体は、キリトの仲間であるシノンだった。彼女は本を手に抱えており、図書館へと向かう道中でたまたま銀時らと遭遇したのである。
偶然の遭遇に銀時はやや浮かない表情をしてしまう。
「何よその反応。私と会っちゃ不味いことでもあるの?」
「いや、不味いというか……思わぬ未知との遭遇があるというか」
「どういうことよ?」
銀時は面倒くさいことになることを察して、シノンとブルー霊子の遭遇を意地でも避けようとした。シノンは銀時の不自然な態度が気になって彼を探ろうとするも……シノンの気配に気づいたブルー霊子が彼女に向かって話しかけていく。
「初めまして。シノンって言うんだ、君」
「ん?」
ふと聞こえた女子の声にシノンが気付くと、彼女は銀時の近くにあったスクーターのカーナビに映し出されたブルー霊子を発見した。
「誰? このカーナビの中に入っている子?」
「電脳天使ブルー霊子。俺が間違って買ったブルーレイにいた都市侵略型ウイルスだよ」
「えっ? なんでそんな危険なものが、銀さんのカーナビに付いているのよ?」
「まぁ、紆余曲折あってだな」
ブルー霊子の概要を聞くと、その意外な素性に驚嘆してしまうシノン。所謂コンピューターウイルスが、知り合いのカーナビに付いていたこと自体にも衝撃を受けてしまう。
一方でブルー霊子は、待望のシノンに出会ってもなお、その後ろ向きな姿勢はまったくと言って変わっていない。
「初めまして、ブルー霊子って言います。色んなハードディスクにこすられ続けたアバズレ電脳天使だよ……」
「もしかして結構訳アリな子?」
「もしかしなくてもそうだよ。ずっとこの調子で先に進まなくて困ってんだよ」
あまりのネガティブさにシノンも思わず気が引けてしまった。銀時が浮かない顔をしていた理由も、今更ながら察している。
すると様子を伺っていた源外が、シノンに今日起きた経緯を軽く説明していた。
「まぁ、銀の字の今日の仕事でカーナビを使うことになったが、久々に起動して少し鬱屈としているんだ。だが嬢ちゃんのことが気になっていて、一緒に乗ってくれるなら機嫌を直すと言っていたぞ」
「えっ……そうなの?」
「うん。だって私と君は声が似ているから。前から話してみたかったんだよね」
シノンはブルー霊子が自身に興味を持っていることを知り、またしても驚いている。所謂声や雰囲気が似ているとのことだが……ブルー霊子に言われると、少しばかりその言い分も彼女は理解していた。
「確かに声は似ていると思うけど……」
「だって実際同じ声じゃねぇか」
「ん? どういうこと?」
「いや、なんでも」
銀時の野暮なツッコミをいまいち理解できないシノン。メタネタを彼女は一切理解していなかった。
いずれにしても、ブルー霊子のご機嫌を取るにはシノンが必要不可欠と銀時は段々察していく。
「なぁ、そういうわけだから協力してくれねぇか。後で甘いもん、おごるからさ」
「……しょうがないわね。良いわ。銀さんだけじゃ心配だし、協力してあげるわよ」
「ったく、一言余計だよ」
状況を把握したシノンは、銀時からの提案を快く了承した。銀時とブルー霊子だけじゃ仕事がまともに出来ないと察し、二人の世話を焼くことにしたのである。
そんな二人のやり取りを目の当たりにして、ブルー霊子は勝手にナレーションを付け加えていた。
「フフ。これが二人の運命の糸を狂わせることになるとは、まだ誰も知らなかったのである」
「って、誤解されるような茶々入れないでよ!」
「おい! 他作品同士で変なカップリング作るなよ! 後で両方のファンからボコボコにされるだろ!」
まるで恋愛物語を思わせるような導入に、二人は慌ててツッコミを入れる。共にそのような気は一切なく、誤解を招きかねない表現には断固として否定していた。
「大丈夫か?」
源外も三人のやり取りを見て、少しばかり不安を覚えてしまう。こうして銀時のスクーターにシノンも同乗し、ブルー霊子の案内の元で、今日一日の料理配達の仕事が始まったのである。
「それにしても良かったな、猫耳を収めるヘルメットがあって」
「源外さんの倉庫でたまたま見つかったのよね。まぁ、前みたく無理やり押し込むよりかは全然良いけど」
スクーターを操作し、最初の届け先へと向かう銀時とシノン。ブルー霊子の案内の元、江戸の道路を順調に快走していく。シノンが着用しているヘルメットも、源外の倉庫にあった猫耳が収まる特殊なヘルメットを着用しており、前のような窮屈さは一切感じ取れない。
そう二人が他愛のない会話を交わしていると、ブルー霊子も割り込んで来ていた。
「前って、シノンは銀さんのスクーターに乗ったことがあるの?」
「えぇ、二回ぐらいかしら。吉原まで送り届けてくれたのよね」
「あん時はぬいぐるみ絡みの時か? 数か月前のことなのに、随分と懐かしく感じるな」
そう。シノンが銀時のスクーターに乗るのはこれが三回目であり、二カ月前にも二回ほど同乗しているのである。偶然とはいえ回数が多いと思い、ブルー霊子はまたしても茶々を入れてきた。
「合計三回か。やっぱり二人って付きあ……」
「それ以上言ってみなさい……弓矢でモニターごと破壊するわよ?」
しつこく恋愛につなげようとするブルー霊子に嫌気が指し、シノンは不機嫌そうな顔で彼女を脅している。その覇気に怯み、ブルー霊子は「うぅ」と言ってそのまま黙り込んでしまった。
「まったく。なんでこうもすぐ恋愛に持っていくのかしら?」
「まぁ、こいつの趣味がドラマ鑑賞だからな。ドラマチックな展開とか好きなんだろ」
「なるほどね」
銀時はブルー霊子がよくドラマの話題を挙げていたことを思い出し、それをシノンにも教えている。少しだけ彼女の趣向が分かっていたようだ。
「ねぇ、ブルー霊子さん。ドラマ鑑賞って、どういうのが好きなの?」
場の雰囲気を変える為にも、シノンはブルー霊子へ気になった質問を投げかける。すると彼女は、スラスラと返答していた。
「そうだね……私が体験したことも無い展開が良いかな。燃えるような恋愛、純愛、眩しい青春、ドロドロの愛憎劇、お昼時にやっているサスペンス、生々しいドキュメント……」
「途中からジャンルが変わっているんだけど……」
「おい、そんなに挙げなくて良いよ。そういう時は一つに絞れよ、一つに」
思いつく限りのジャンルを挙げようとするも、永遠と終わりそうになく、銀時が区切っている。その為ブルー霊子は、最後にあるジャンルを挙げていた。
「じゃ、サイバーSF系で良いよ」
「サイバーSF系ね……例えばどんなの?」
「ゲームの世界に閉じ込められる系とかかな。あんな仮想世界、私の手にかかれば一話で終わらせられるはずだもの……」
「ねぇ、それって……」
「SAOじゃねぇかよ。つーか、お前がシノンのいた世界にいったら、マジで洒落にならないからな。絶対やるんじゃねぇぞ!」
サイバーSF系もといSAOのことを指していると二人は思い、揃ってブルー霊子にツッコミを入れている。都市を壊滅させるほどのコンピューターウイルスがもしSAOやALOのサーバーに現れるとしたら……考えるだけでも碌なことが起きないと二人は察してしまう、気さくに話しているが一応は兵器であることを改めて自覚していた。
その後も順調に配達を続けていき、銀時らは次なる目的地へと向かっている。
「えっと次は……真選組の屯所みたいね」
「げっ、あそこかよ。チンピラ警察に会いたくもねぇのによ」
次のお届け先は真選組屯所であり、銀時のテンションは大きく下がっていた。ただでさえ顔を合わせたくない奴らが多く、気持ちがつい萎えてしまう。
「この先渋滞が続いています。迂回してください」
さらにブルー霊子からは渋滞情報が伝えられている。シノンも遠目から、立ち往生している車やバイクの姿を発見していた。
「結構長く続いているわね……」
「こりゃ迂回は必須だな。おい、ブルー霊子。近道をお願い出来るか?」
「フフフ。任せてよ。とっておきを検索するから」
渋滞へと巻き込まれる前に、銀時はブルー霊子に近道の経路案内を指示。彼女は快く了承して、そのまま彼らを誘導していく。
「まず左折」
「おう」
「そして小道を右折」
「はいはい」
「そしたらアクセルを全開にして」
「分かった。で次は?」
「そこまで行けば……後は着地だけ」
「へ?」
ブルー霊子の言う通りに運転するも……その先に待っていたのは行き止まり。もとい崖であった。
〈ガシャアン!!〉
ガードレールを突き破って、銀時のスクーターは勢いよく宙に舞ってしまう。
「おぃぃぃぃぃ!! 何やってんだ!! 誰が人生の近道まで誘導しろって言ったよ!!」
「えっ? 違うの?」
「当たり前だろ! どうするんだよ、この後!!」
誤解か確信犯かは不明だが、ブルー霊子により突如として危機に陥る銀時とシノン。彼が大きくツッコミを入れるも、今はどうやって地上まで降りるかで躍起になってしまう。大いに焦る銀時に対し、シノンは冷静にある対処を行おうとしていた。
「ねぇ、銀さん! ハンドルをずっと握っていて!」
「はぁ? 何か突破口でも見つかったのかよ?」
「そうね。こうするのよ!」
するとシノンは弓を構えて、腰に装備したホルダーから一本の弓矢を取り出す。それを弓に装填して地面へ向けて飛ばすと……真選組屯所前の道路に、真っ白な大きいクッションが設置されていた。
「こ、これは……」
「吉原で作った新しい弓矢よ! さぁ、あのクッションで無事に着陸しましょう」
シノンの新しい弓矢の効果で、無事に首の皮が一枚繋がった銀時ら。そのまま垂直に落下するも、無事にクッションの元に降り立ち、一行は事なきを得たのである。
「ふぅ~。助かったわね」
「さながらアクション映画のようだったね」
「何を他人事みたいに言ってんだ! 危うく死にかけるところだったんだぞ」
「結果的には無事だったから良いじゃん」
「そういう問題じゃねぇんだよ!」
作戦が上手くいきホッと落ち着く銀時とシノンに対し、原因を作ったブルー霊子は何一つ反省の色は無かった。もはやトラブルメーカーの域を超えており、銀時は怒りを交えながらツッコミ。シノンは苦い表情を浮かべてため息を吐いている。
そんなやり取りをしているうちに、屯所の門から一人の隊士が顔を出していた。
「おや。配達員って、旦那方のことでしたか」
「って、沖田さん?」
「あっ。青猫耳もいるんですかい」
その正体は沖田であり、配達のことも知っていることから、恐らくは彼が注文したものと思われる。知り合いと言うこともあり、銀時は沖田に軽口を叩いていた。
「なんだお前の注文かよ。だったらとっとと料理を持って、代金置いていってくれよ」
「言われなくともそうしやすよ。でもその前に……」
すると沖田は銀時のスクーターに設置された専用の荷台から、無断で料理を取りだすと、懐からカプセルを取り出し、その中に入っていた液体を料理にまんべんなくかけていた。
「ちょっと沖田君、何をやってんだ?」
「何ィ、ただのお節介でさぁ」
包み隠さず堂々とお節介だと押し切る沖田。なお彼が液体をかけている料理は、マヨネーズで覆われていた丼であり、銀時とシノンは薄っすらと沖田の企みを察し始めていく。
そんな沖田に続き、土方も屯所から出て来ていた。
「総悟。もう料理は届いたのか……って、なんでお前らがいるんだよ!」
「またこのやり取りかよ。もういいよ、読者には十分に伝わっているし」
「なんだその投げやりなツッコミは!」
土方は銀時を見た瞬間に怪訝な表情を浮かべるも、反応自体は沖田と一緒の為、銀時自身はそっけなく返答している。
早くも二人が一触即発な雰囲気に変わり始める中、沖田は土方に例の料理を手渡しした。
「そうでっせ。ほら、土方さん。犬の餌でさぁ」
「犬の餌じゃねぇよ、特製土方スペシャルって言ってんだろうが」
料理を受け取ると、土方はそそくさと屯所に戻っていく。それから数秒も経たないうちに、
「ぎゃぁぁっぁあ!!」
土方の悲痛な叫びが屯所中に鳴り響いてしまう。
「ざまぁみやがれ」
「お、沖田君。何をしたんだ……」
「だからお節介ですよ。ほんじゃ、代金はここに置いておきやすから」
原因を作った沖田は何一つ悪びれず、悪い顔のまま自身の注文したロコモコ丼を受け取り、そのまま屯所へと戻っていく。
液体の正体は教えてくれなかったが、いずれにしても土方が悲惨な目に遭っていることは、銀時、シノン両名共に把握していた。
「次行きましょうか……」
「そうだな……」
一連の出来事を見なかったことにして、二人は次なる目的地へと向かうことにする。
さらに配達の仕事を続けていき、残る件数もあと僅かとなっていた。銀時らは現在、スーツを着た男性から手渡された、お菓子が詰まっているとされる二種類の小包と、キッチンカーの店員より預かった、洋菓子の入った箱を専用の荷台に積んでいる。
「小包なら梱包されているから、料理を運ぶより楽じゃない?」
「そうだな。後三件くらいだし、何事も無く仕事を終わらせそうで一安心だよ」
ようやく仕事にもゴールが見え始めたところで、銀時やシノンは気持ちを楽にしていた。このまま順調にいけば、夕方前には終わらせることが出来ると予想している。
「次の目的地は大江戸道222号線の真ん中です」
「えっ? 道路の真ん中?」
「そうデータに入っているよ」
そしてブルー霊子が次なる目的地を伝えるも、それは今までのような家や建物ではなく、道路のど真ん中だった。不自然な指定場所に、シノンは思わず首を傾げてしまう。
「それって一体誰に手渡しするの?」
「さぁな。道路の真ん中なら、警備員とか交通誘導員とかじゃねぇのか?」
銀時が思い付きで予想するも、実は彼自身もあまり確証が無い。疑問を浮かべながらもひたすらに目的地まで運転していると……ブルー霊子はある気配を二人に教えていた。
「目的地が後ろから接近しています」
「えっ? それって……」
「注文相手か? 一体誰だよ」
どうやら受取人が銀時らに接近しているとのこと。銀時らはチラッと付近を見て、こちらに近づいてくる人物がいないか確認している。すると……一人の女性の声が徐々に聞こえて来ていた。
「坂田さん!! お久しぶりです!!」
「ん? 何か聞き覚えのある声が……」
「こっちですよ、こっちよ!」
声の聞こえた方角まで振り返ると、そこには一人の女性がバイクを走らせながら、銀時らの元まで近づいていたのだ。
「ってお前は……魔破のり子!!」
そう。その正体は魔破のり子。快速星出身の天人で、配達の仕事をあちこちの星で行っている銀時の知り合いだった。相変わらずの黄色いジャージを着用し、ヘルメットに収まりきらないピンクの長い髪を風になびかせながら、自慢のバイクで道路を走行している。
当然シノンにとっては初めて会う天人であった。
「魔破さん? この人も銀さんの知り合いなの?」
「そうです! 快速星から来た飛脚で、別名風の妖精なんですよ!!」
「ってことは、シルフと似たようなもの?」
「おい、真に受けるなよ。ただの癖の強い飛脚だ、こいつは」
妖精と自己紹介され、思わずシノンはALOの風の種族であるシルフを連想している。銀時にとっては妖精なんて生易しいものではなく、ブルー霊子以上にトラブルを引き起こす厄介者だと認識していた。故に久しぶりの再会にも関わらず、微妙な反応を示している。
「ここでまさかの愛人が再会? どんどん泥沼化してきたね」
「おい、妄想の続きを語るんじゃねぇよ」
一方のブルー霊子は相変わらずに、一人で勝手に妄想を広げていた。ボケ役の二人に囲まれて、銀時のツッコミも段々と疲弊してしまう。
するとシノンは、魔破に一応注文した品物を確認している。
「ねぇ、魔破さん。アナタが注文したのって、お菓子の詰め合わせのこと?」
「はいはーい、もちろんです! 坂田さん、早速渡してもらいますかー!?」
「分かっているよ。じゃ、近くの路肩に停車して……」
「ダメですよ! 私は常に風を感じていないと死んじゃうんですから、止まらずに渡してくださいー!」
「そんな設定まで原作通りに守るなよ! いちいち面倒くさい指定しやがって!」
そのまま停車して手渡そうとしたものの、魔破の要望により運転したままの手渡しを要求されてしまう。さも当たり前のように至難の技を求められてしまい、銀時は苛々を募らせながら、激しくツッコミを入れていた。
「おい、シノン。しっかり掴まってろよ。先回りして、荷物を下ろすからな」
「分かったわ」
仕方なく彼は魔破の要求通り進めることに。速度を上げて魔破との距離を離れさせ、一定の離れた位置からお菓子を彼女へ渡すことにしていた。数秒走らせて、銀時のスクーターは一旦路肩に停車している。
「ほんじゃこいつを投げて、とっとと次の目的地に……」
と銀時が荷台からお菓子の入った小包を手にした……その時であった。
「ん?」
「どうしたの、銀さん?」
「おい、中から時計の針の音が聞こえてこないか?」
「時計の針?」
彼は薄っすらと小包の中身に違和感を覚えて、耳にその荷物を近づけている。そこから聞こえてきたのは時計の針の音であり、彼は段々と嫌な予感を察し始めていく。
「なんかタイマーのような音が聞こえる気もするけど」
「おいおい、まさかそんなことが三度も起きるはずが……」
シノンも銀時の意見に同調するも、まだ少しばかり半信半疑であった。一方の銀時は過去に起きた嫌な出来事を、頭の中に思い浮かばせている。大使館に誤って爆発物を届けたこと。魔破のり子の荷物に爆弾が紛れていたこと。似たような件が二つもあり、今回も同じことが起きると恐れを抱いていたが……その疑惑は数秒も経たずに確信へと移り変わる。
「あっ、荷物が!」
突然彼らに突風が襲い掛かり、シノンは思わず手にしていた小包を手放してしまう。そのまま小包は宙へと舞い上がっている。
〈ピピ、ドーン!〉
だが、その瞬間に小包は大きな爆発を引き起こしていた。空中で爆散し、その残骸があちこちに散らばってしまう。突然起きた爆発に歩行者や車を運転していた人々が驚嘆とする中、銀時とシノンは苦い表情であることを確信していた。
「ぎ、銀さん……アレって爆弾よね?」
「あぁ、間違いねぇ……お菓子はただのカモフラージュってことかよ」
そう。案の定、爆発物が荷物に仕込まれていたのである。小包の中身は時限爆弾であり、下手をすれば自分達や魔破が巻き込まれた可能性もあったのだ。銀時の嫌な予感が見事に的中してしまう。
間一髪のところで危機を回避した銀時とシノンであるが、まだ小包は後一つ残っている。
「おい、これもまさか!?」
銀時が即座に小包へ耳を当てると、案の定時計の針の音が聞こえてきた。しかも、
「どうやらその爆弾、あと五分で爆発するみたい」
ブルー霊子は小包の中身を分析して、残りの猶予時間まで言い当てている。彼女の読み通りであれば、もはや事態は一刻を争う事態とも言えなくない。
「おぃぃぃぃ! どうするんだ、この状況! なんでまたテロリストの片棒、担がれているんだよ!!」
「知らないわよ! てか、落ち着きなさいって!」
当然銀時は困惑を抑えきれずに発狂。どうすることも出来ずに、近くにいたシノンへ感情をぶちまけている。シノンも同じく動揺はしていたが、一旦深呼吸をして気持ちを落ち着かせていた。
「どうすんだ! 後五分でどこに移動すりゃいいんだよ!」
もはや配達の仕事どころではなく、爆弾を如何に対処するかで二人は必死に対策を練り始めている。一旦は先ほどのような市街地での爆破は避けたいところであるが……。
必死に対策を考え始める中、銀時の頭上に先ほど爆発した小包の残骸が落ちている。
「って、なんだ? マーク……?」
それは届け先の住所の書かれた注文書であった。残念ながら依頼主の住所は書かれていなかったが、代わりに動物の爪のようなマークが薄っすらと注文書の裏に描かれている。銀時はシノンにもその注文書を見せていた。
「ねぇ、これって犯人の手がかりじゃない?」
「なんかの組織的な犯行ってことか……おい、ブルー霊子。こいつのマーク、分かるか?」
真犯人を見つけるきっかけになると確信し、二人はブルー霊子にマークの正体について検索を依頼。すると、ものの数秒でマークの正体を見つけている。
「お安い御用だよ。これは過激攘夷浪士、ワイルドクロ―のマークだね。潜伏先を転々としていて逃亡に長けているけど、現在はこの廃墟の一角にいるみたい。マークもしっかりとあるし」
「随分と仕事が早いわね……」
「だって私の本業、都市侵略型ウイルスだもの」
「そうだったわね……」
都市侵略型ウイルスの片鱗を見せるかのような情報収集能力の高さに、唖然としてしまうシノン。そんなブルー霊子の本領発揮により、爆弾を送ったとされる組織並びに現在のアジトまで特定された。
時限爆弾の残り時間まで後四分。犯人の住所が分かったところで、銀時はある妙案が思いついている。
「よし、なら行くか」
「銀さん。もしかして……」
「送り返すんだよ。不良品は客に届けられられねぇからな」
そう。彼は小包を依頼主に送り返そうとしていた。爆弾が爆発する前にアジトへと向かい、爆弾自体を犯人達に擦り付けようと考えている。要するにただの仕返しなのだが……シノンもブルー霊子も彼の意見に賛同していた。
「そうね。やられっぱなしじゃ納得いかないものね」
「付近には廃墟以外無いから、存分に爆発させても良いと思うよ」
「よしっ、なら決まりだ。ブルー霊子! 案内頼むぜ」
「了解―」
共に犯人の思い通りになることが納得できないとのこと。仕返しすることで想いを一致させた銀時らは、スクーターに乗り込んでブルー霊子の指定したアジトの住所まで向かう。スピードを大きく上げていき、制限時間を迎える前に間に合わせようとしていた。
「坂田さん!! 早速お菓子を……って、いない!? どこ行ったの!」
一方で何の事情も知らない魔破は、銀時達を必死に探すも未だ見当たらない。自分が爆弾魔に狙われたことも知らないまま、ただひたすらに江戸中を走り続けていた……。
一方でこちらは江戸の一角にある一軒の廃墟。人が住みつかなくなり、誰も近づかない寂れた施設のような建物には、現在過激攘夷浪士のグループが密かに占拠していた。
「作戦は上手くいったか?」
「えぇ。あいつら、爆弾に気付かないまま持っていきましたからね。良い様ですよ」
建物内には五、六名ほどの攘夷志士がおり、そこには銀時らが出会ったスーツ姿の男性もいる。彼も同じくこのグループの仲間なのである。
「さて。ここもそろそろ気付かれるところだろう。我がワイルドクロ―の拠点をそろそろ変えるべきか?」
「いや、ここは隠れるにはうってつけだ。誰もまだ気づかねぇよ」
彼らは呑気にも、自分達の次なる拠点先について話し合っていた。この後に起こる出来事を一切知らないまま……。
「ん?」
「どうした?」
「爆弾がこっちに向かっているような」
「気のせいじゃないのか?」
するとスーツ姿の男性は、爆弾に付けていた発信機の行方を目で追っていた。薄っすらと目的地から外れていることを察するも、何かの気のせいと勝手に思い込んでいる。
そして話を再開させようとした……ちょうどその時であった。
「た、大変だ!」
「今度はどうした?」
「爆弾を渡した奴らがこっちに向かっている!」
「なんだと!?」
一人の浪士が慌ててアジトに迫る危機を伝えている。やはり発信機の通り、爆弾はアジトへと迫っていた様子だ。
浪士達は揃って外に顔を出すと、そこで目にしたのは……
「クーリングオフだ!!」
「覚悟しなさい!!」
スクーターで爆走しアジトへと向かう銀時とシノンの姿である。銀時の手にはちょうど爆弾の入った小包を手にしており、浪士達の姿を彼らも発見すると、
「今だ、いけぇぇぇ!」
銀時が浪士達の頭上目掛けて爆弾付きの小包を投下。制限時間までまだわずかに時間があったが、
「はぁぁぁ!!」
シノンが即座に弓矢を引いて追撃し、強制的に爆弾を爆発させていた。
〈ドガーン!!〉
「うわぁぁぁ!」
自分達の頭上で爆発し、咄嗟に怯んでしまう浪士達。彼らの動きが鈍っているところで、
「さらにおまけよ!」
シノンはさらに別の弓矢を発射している。今度は先端が網になっている弓矢であり、発射と同時に網が展開。浪士達をまるで魚のように捕獲し、動きを封じていく。
「な、なんだこれ!」
「一体何が起きているんだ!!」
次々と起こる怒涛の展開に、何一つ理解が追い付かない浪士達。思いっきり困惑しているその隙に、
「おらよっと! これで終わりだ!」
「はぁ!?」
「ぐへぇ!?」
銀時が浪士一人一人に木刀で打撃して強制的に気絶させていく。二人の息の合った連携攻撃によって、ワイルドクロ―の攘夷浪士達は何も手が出せないまま完封されてしまう。銀時らの執念にまんまと圧倒されていたのだ。
「よしっ、お疲れっと」
「なんだか呆気ない犯人たちだったわね」
「良いんだよ、それくらい俺達が強過ぎたってことだろ」
「まぁ、それもそうね」
想像以上に作戦が上手くいき、思わず自画自賛する銀時とシノン。互いの健闘を称えて、クスッと笑っている。そんな仲睦まじい二人の姿を見て、ブルー霊子も満足げに笑っていた。
「ドラマのように熱い二人だったね」
今日一日彼らと一緒に行動が出来て、大変嬉しく思っている。気になっていたシノンとも話せて、ブルー霊子にとっても最高の一日になったようだ。
そう作戦が成功して達成感に溢れている三人だったが……まだ一つだけやり残していることが彼らにはある。
「アレ? そういえば洋菓子の方は届けなくて良いの?」
「あっ、そうだった。すっかり忘れていたな」
爆弾騒動で後回しにしていた残りの配達の件であった。キッチンカーの店員より洋菓子の箱を預かっており、これを配達すれば今日の仕事が完了となる。なお激しく運転した為に、一応中身の様子を確認しようとした……ちょうどその時であった。
「目的地が後ろから接近しています?」
「えっ? まさかまた魔破のり子じゃねぇだろうな?」
タイミング良くも、注文した相手が銀時らに近づいているとのこと。てっきり銀時はまたしても魔破かと予想していたが……その正体は意外な人物である。
「アレ? 銀さんにシノノン?」
「こんなところで何をやっているアルか?」
「えっ、お前らなの?」
声をかけてきたのは、ちょうど買い物に出かけていたアスナと神楽だった。二人は爆弾の騒ぎを聞きつけて、ここまで駆けつけたとのこと。
「アスナに神楽? 二人がもしかしてお客さんなの?」
「お客さん? あぁ、ロールケーキのことね」
「えっ、ロールケーキ?」
「そうアルよ、銀ちゃんが台無しにしたあのイチゴのロールケーキアルよ」
シノンは一応アスナ達が注文した相手なのか念のため確認していた。どうやら二人は以前に食べ損ねたロールケーキを料理配達経由で注文していたようである。最後の最後で知り合いの依頼だったのだが……突然ブルー霊子は警告音を流しながら、銀時に注意を呼び掛けていた。
「警告、警告。今すぐその場から離れてください」
「おい、どうした急に?」
「フフ。銀さんに命の危険があるから、知らせているだけだよ」
「はぁ? どういう……」
単なる冷やかしだと思っていた銀時だったが……荷台をアスナ達が覗いた瞬間に、その言葉の意味を彼は身を持って知ることとなる。
「アレ?」
「えっ?」
「これって……」
注文のロールケーキを手渡す為に荷台の中を開けたシノンだったが……そこに広がっていたのは、原型の無くなったロールケーキの残骸。そう。先ほどの激しい運転により、ロールケーキは箱を飛び出して、縦横無尽に荷台の中を移動していた。要するに銀時はまたも、ロールケーキを違った形で台無しにしている。
「どうした? って、えっ!?」
シノンらの反応が気になり、銀時も荷台の中を見るも、その衝撃的な光景に唖然としてしまう。とすれば、この後に起きることも容易に想像が付いていた。
「お、俺! 真選組に通報してくるから、ここは一旦……」
無我夢中で場から逃げ出そうとするも、
「「はぁぁぁ!!」」
「ぶふぉぉぉ!!」
神楽とアスナが彼をみすみすと逃がすわけが無い。
「ねぇ、銀さん? これは一体どういうことかしら……?」
「ウー〇―でももっとマシに配達するアルよ。原型すら無いのはどういうことネ!!」
「お、落ち着けお前ら! そもそもここに来るまで、俺達がどれだけ苦労をして……」
「問答無用よ!」
「覚悟するアル!」
「あっ……ぎゃぁっぁあ!!」
二度もいちごのロールケーキを食べ損ねたアスナと神楽は激高し、銀時へ過剰な八つ当たりを始めている。彼は悲痛な声を挙げながら、ただ自分の失敗をひたすらに恨むことしか出来ずにいた。
「はぁ……なんでこうも綺麗に終われないのかしらね?」
「シノン、流石に喧嘩を止めに行ったらどう?」
「嫌よ。最初から素直に謝れば良かったもの。逃げ出すなんて、銀さんの自業自得じゃない」
「それもそっか」
シノンもブルー霊子もあえて銀時らの仲介することなく、ただアスナと神楽の気が収まるまでそっと様子を見守っている。
こうして今日一日の万事屋の仕事は終了。その後に攘夷浪士は揃って確保され、銀時はまたしてもロールケーキを売るキッチンカーをまた探す羽目となったのだ……。
数週間ぶりの剣魂は如何でしたでしょうか。事前予告より映っていたブルー霊子回を製作出来て、こちらも大満足です。
ブルー霊子は所謂コンピューターウイルスなので、彼女がもしSAOの世界に出現しようものなら……想像以上の被害になるかと思います。あまりにも強過ぎて出禁になりそう。
そして予告には写っていなかった魔破のり子も参戦! ちょい役でしたが、独自の存在感を出せていたと思います。ブルー霊子とシノンの仲も深まり、ある意味でハッピーエンドのまま終わったんじゃないでしょうか。(銀時以外)
次回予告
沖田「いやぁ~。今回は終兄さんの要望に応えて頂き、ありがとうございやす」
リーファ「その終兄さんって人が、お兄ちゃんに会いたがっているのよね」
キリト「同じ二刀流使いと聞いているけど、どんな人なんだ?」
沖田「次回のお楽しみでさぁ」
リーファ「次回。早起きは三文の徳と言うが、ゲーマーで早寝する奴なんていない!」