「フフーン。今日はどこに行きましょうか、ピナ?」
「ナー!」
多くの人々が行き交うかぶき町を、ステップを踏みながら散歩するのはシリカとピナ。彼女は今日仕事や手伝いの入っていないオフの日であり、特に行き先も決めないまま自由に歩いている。ふらっと立ち寄り、無計画のまま休みを過ごす。そんな自由な一日を、今から謳歌しようといていたのだ。
「どうします? 最近開店したペットの入れるカフェに行きます? それともドラゴンランって言うアトラクションスポットに行きます?」
彼女は思いつくままにピナに行きたい場所を提案。どれもこの世界でしか体験できないもので内心ワクワクしている。
そうシリカがピナにおでかけ先を一任しようとした……その時であった。
「急がないと……あっ!」
「えっ……キャ!?」
「ナ!?」
突然裏路地から出てきた長身の男性と彼女は衝突してしまう。互いにしりもちをついて、思わず怯んでしまっていた。
「痛……って、一体何が……さ、坂本さん!?」
シリカは衝突した相手を確認するも、その正体は何と知り合いの坂本辰馬である。彼女と仲良くなった陸奥の上司であり、星間貿易会社の快援隊の艦長も務める商人だ。シリカとは誕生日会以来の再会である。
「ん? その声は確か、陸奥の友人の……リカちゃんか! いやぁ~懐かしいのう」
「あの、坂本さん? 一文字足りないんですけど……アタシ、シリカなんですけど!」
一方の坂本もシリカのことを思い出したものの、惜しいことに一文字欠けていた。名前を間違われてしまい、シリカは思わず不満をぶつけている。
「ナップ!」
ピナも同じように坂本へ抗議していた。シリカ側が怒りをぶつけるその一方で、坂本は一人あることを思い出す。
「あっ、いかんぜよ。ワシは今逃げていたんじゃき」
「えっ? 逃げていた? 一体何があったんですか?」
彼は近くにあった白い小箱を拾い上げて、それを懐に再度しまっている。何か訳があると思い、シリカは坂本へ詳しい事情を聴いてみることにした。しかし、
「いたぞ、あそこだ!」
「ひっとらえろ!」
裏路地からさらに黒いスーツの男性が三人出現。坂本目掛けて捕まえようとしている。
「不味いぜよ! リカちゃん、ここは一緒に逃げるきに!」
「えっ!? ちょっと! 一体何があったんですか!!」
「ナー!!」
「待てー!!」
咄嗟に坂本は逃げ出し、つられてシリカ、ピナも彼の跡を追いかけてしまう。もはや優雅な休日どころではなく、坂本というトラブルメーカーに早くも振り回され始めていた。果たして彼がスーツ姿の男性から追いかけまわされている理由はなんなのだろうか……?
時を同じくして、まったく別の地点でも思わぬ遭遇が起きていた。
「今月もあと一件仕事が入れば、だいぶ助かるんだけど……」
一人悩み事を抱えながら、ゆっくりとかぶき町を歩いているのはアスナである。実質的に万事屋の家計簿を握っている彼女は、その数値を黒字にすべくあらゆる策を講じようとしていた。お得意さんに頼み込み、仕事を手配してもらうか。公式サイト内での依頼受付を強化するか。色んな手段が思い浮かんでいる。
「どれも試し甲斐があ……ん?」
すると彼女は、目の前に知り合いらしき人物を発見していた。編み笠に青い野良着。以前実施した誕生日会に来たあの女性とアスナは認識していた。
「陸奥さん!」
「ん? おまんは確か……アスナか」
「久しぶりの再会ですね」
「あぁ。確か誕生日会以来か」
そう。アスナが再会した女性は陸奥である。快援隊の副艦長であり、頭脳だけではなく戦闘能力も高い頼れる女性だ。久しぶりの再会に喜ぶアスナに対し、陸奥は前回同様に無表情を貫いている。
「また地球に来ていたんですね」
「まぁ商い目的じゃが。こいつを一刻も早く、お客に渡さなくてはいけなくてな」
「これ?」
陸奥はアスナに自身の持っていた白い小箱を見せていた。この小箱は先ほどの坂本が持っていたものと同類であり、恐らくは坂本も同じ目的を持っていると思われる。
すると、
「見つけたぞアイツだ!」
「捕まえろ!」
陸奥の元にも同じく黒いスーツを着た複数の男性達が迫っていた。
「不味い……おい、アスナ! 逃げるぞ!」
「えっ!? 陸奥さん!?」
陸奥は咄嗟にアスナの手を掴んで、彼女を連れたまま逃げだしていく。突然の出来事に、アスナ本人は何一つついていくことが出来なかった。
こうして陸奥とアスナも、坂本やシリカと同じく黒いスーツの男性達から逃げ回る羽目になってしまう。
坂本は上手く裏道へと逃げ込み、スーツ姿の男性達から逃げ切ることに成功した様子である。
「ふぅ~。どうにか撒くことが出来たきにな」
「つ、疲れた……」
「ナー……」
一安心と同時にシリカはどっと疲れを感じてしまう。ただ単に巻き込まれた彼女にとっては、一体全体何が起きているのかさっぱり分かっていなかった。
「って、坂本さん! あの黒づくめの男達は一体誰なんですか!?」
思わず坂本に詳しい事情を聴くも、肝心の坂本もあまりその正体をよく分かっていない。
「さぁな。実はワシにも皆目見当が付かないぜよ。だが、この宝石を届けようとした時に襲撃を受けたから、多分これが原因じゃろ」
「宝石?」
そう言うと坂本は、シリカにその宝石を見せている。懐に隠していた小箱の中に入っており、その煌びやかな輝きは洗練された高級さを醸し出していた。
「き、綺麗……」
「アハハハ! そりゃワシが選んだからのう。こいつを持って、いざ取引相手の元へ! と思っていた矢先に、あの黒スーツの男達に襲われて、陸奥とも離れ離れになったぜよ。もう一つの宝石は陸奥が持っているというのに、これでは先が思いやられるぜよ」
どうやらこの宝石をお客さんに届けることが、今回の快援隊の仕事とのこと。途中で邪魔が入り、計画を崩されたことを坂本は大いに悔やんでいた。一連の話を断片的に聞いたシリカは、再度坂本にスーツ姿の男達について聞いている。
「あの、坂本さん? 本当にあの男達に心当たりは無いんですか?」
「うーん。さして思い当たる節は……あっ!」
「何か思い出したんですか!?」
「あぁ。奴はきっと……アンドロイドぜよ!」
「えっ? アンドロイド……?」
何かを閃いた様子の坂本に期待を寄せたシリカだったが、その想定外の返答には思わず膝から崩れ去ってしまった。
「きっとあの男達は、クロノス社が開発した鬼ごっこ特化型アンドロイドぜよ。だからあんなにも早かったのか。なるほど、なるほど」
「って、勝手に一人で納得しないでくだだいよ! どこかで見たことのある設定ですよ!」
妄想を自由に膨らませる坂本に、ツッコミを入れるシリカ。設定がまんま某鬼ごっこ系ゲーム番組とほぼ一緒である。
そんな坂本の強烈なボケに付き合いつつも、シリカは坂本ら快援隊の仕事を手助けしたい意欲が湧いていた。
「とりあえずまずは、陸奥さんと合流しなくちゃですよね」
「そこからじゃな……って、リカちゃん? 手伝ってくれるのかのう?」
「シリカです! だって乗り掛かった舟ですし、坂本さんだけじゃあまりにも心配なんですもの。何よりも届け物はしっかりと届けたいじゃないですか」
彼女は荷物を届けることへの責任感を感じ、それを全うしようと心に決めている。無論ピナも大きく頷き、シリカの気持ちに同情していた。
そんなシリカ達の強い意志を察して、坂本もフッと笑っている。
「それはワシだって、同じぜよ! 例えどんなに黒づくめの男達が来ようと、必ずこの宝石を届け切る。ワシらでやり切るぜよ!」
「はいです!」
こうしてシリカと坂本は固く握手を交わす。どんなに邪魔が入ろうと、宝石を守り切り客先へ届けることを誓っていた。
「よし、なら早速移動するか」
「そうですね。でも、また見つかった時には……」
「心配は無用ぜよ。こういう時に使えるとっておきのアイテムをワシは用意しているぜよ」
「とっておきのアイテム?」
すると坂本は、早速隠密行動に必要なあるアイテムを取り出していた。これを使って、邪魔者の目を搔い潜るらしい。
その一方で、陸奥もアスナに一連の出来事について打ち明かしていた。
「……ということがあったんじゃ」
「って、中々に理不尽じゃない? 届け物を届けようとしたら、変な男達に襲われたってことでしょ?」
「まぁ、商人をやっていればそういうこともたまにはある。じゃが一番今手痛いのは、坂本とはぐれたことじゃ。アイツがもう一つの宝石を持っているからな。アイツとの合流が最優先事項になるきに。何としてでも今日中には客に届けなくては」
陸奥は襲撃自体をあまり重要視しておらず、むしろ今日中の配達を間に合わせることに躍起となっている。その為にもまずは坂本との合流が必須と悟り、早くも行動に移そうとしていた。
そんな使命感に突き動かされる陸奥の姿を見て、アスナもシリカと同じくお節介な気持ちが湧いている。
「ねぇ、陸奥さん。その仕事、私にも手伝えないかしら?」
「アスナにもか?」
「えぇ。二人いればできることだって増えるし、またあの男達に見つかっても追っ払うことだって出来ると思うのよ。それに万事屋として、知り合いとして、陸奥さんのことを見過ごすことも出来ないし。だから私も、陸奥さんのお仕事、手伝っても良いかしら?」
一人よりも二人で行動することのメリットを語った上で、純粋な気持ちで陸奥を手伝いたいと本人へ伝えていた。それを聞いた陸奥本人は、少し考えてからアスナへ返答している。
「分かった。まぁ、おまんと組んだ方が今は最善か。少々危険は伴うが、それでも良いか?」
「えぇ。危険なことは慣れっこだもの。どんな手が来ようとも、返り討ちにするつもりよ」
「フッ。ならば助かるな」
強気でやる気のあるアスナに頼り甲斐を覚え、陸奥も彼女の協力を快く受け入れていた。彼女達も同じくはぐれた仲間との合流を目途に、行動する予定である。
「よし。そうと決まったらまずは変装じゃき」
「変装? 追手対策の?」
「そうじゃな。ワシにぴったりの考えがある。アスナも協力頼むぞ」
すると陸奥はまた黒スーツの男達に見つかっても良いように、とある変装を提案していた。アスナにもぴったり似合う変装と豪語していたが、その正体や如何に……。
一方でこちらは、坂本とシリカ、ピナのチーム。彼らは坂本の用意した隠密行動用のアイテムを使って、こっそりと移動している。それは……透明になれるマントであった。
「……本当に誰からも見えていないですよね?」
「大丈夫じゃき。後はこのままお客さんの元まで向かうんじゃ。きっとそこに陸奥はおる!」
透明なマントを彼らは既に羽織っており、誰にも見られていないか確認している。坂本の言う通り、誰にも気づかれぬまま二人と一匹は突き進んでいた。
「それにしても、透明になれるマントを坂本さんが持っていたなんで」
「アハハハ! ドラえも〇から貰った正真正銘本物のとう〇いマントぜよ!」
「えっ!? そうなんですか!?」
「嘘ぜよ」
「嘘かい!」
坂本の出まかせをシリカは一瞬でも信じそうになる。そんな坂本の冗談はさておき、この透明マントは快援隊が手に入れたものの中でも選りすぐりの優秀さを誇るとのこと。
「まぁこのマントは、透明になれる故に優秀だからのう。それでいてお値段一枚につき、五百円! いや~破格だったぜよ」
「えっ!? そんな安いんですか?」
「アハハハ! ワシの交渉にかかれば、ワンコインで買えるぜよ」
さらに坂本は透明マントを購入した時の金額まで明かし、自らの交渉術を自画自賛している。高性能にしては親切な価格に、シリカは途端に不安を覚えてしまう。そんな彼女の不安は早々に当たることとなる……。
透明化したまま移動すること早数分。なんと急に透明化の効果が消えて、坂本、シリカ、ピナの姿が、浮き彫りになったのである。本人達は一切気付いていないが……。
「ん? 辰馬とシリカ?」
さらにタイミングが悪く、二人の存在をたまたま見かけた銀時が見つけている。珍しい組み合わせが気になり、彼は辰馬らへ容赦なく話しかけていく。
「おい、辰馬。こんなところで何やってんだよ?」
「おぉ、金時か! まさかここで会えるとはのう」
「金時じゃねぇって言ってんだろ」
辰馬はまったく気にせずに、銀時から聞かれたことへ素直に応じていた。シリカと同様にこちらも名前を間違えている。
なおシリカは、透明化を見抜いている銀時の態度へ大きな違和感を覚えていた。
「ぎ、銀時さん! なんでアタシ達の姿が見えるんですか!?」
「なんでって、普通にいるからだろ。そんなに驚くことか?」
「だって今のアタシ達は、透明マントで……」
「透明マント? だとしてもバレバレじゃねぇーか」
話がいまいちかみ合わず、シリカは既に透明マントの効果が切れていると察している。
「あれれ。これはどういう……」
「もしかして坂本さん。このマント、すぐに効果が切れるんじゃないですか?」
「何!? つまり不良品ということか!?」
「恐らくそういう意味じゃないかと……」
坂本もマント自体が不良品であることをようやく察していた。想定外のことが起きて二人が戸惑っていると……またしても黒いスーツの男達が近づく。
「おい、見つけたぞ!」
「早く来い! 捕まえるぞ!」
発見次第、すぐに自身の仲間達を呼ぼうとする男達。シリカらも追手の動向にようやく気付き始めている。
「って、また見つかっちゃいましたよ!?」
「あと一歩というところで……すまぬ、金時。一旦引くぜよ!」
「お、おい!?」
騒ぎが大きくなる前に、二人と一匹は急いでその場を退くことにした。なお銀時にとっては、何が起きているかまったく分かっていない。
「さっきの奴ら何? 逃走中でもやってんのかよ」
若干坂本とシリカの行方が気になっているが、特に自分から動くことは無かった。後から聞けば良いと、勝手に自分で納得している。
その一方で、陸奥とアスナはまったく別のアプローチで、追手に気付かれないまま客にいる場所まで向かっていた。
「ねぇ、陸奥さん。折角変装するなら、セーラー服とか学生服の方が良かったんじゃない?」
「いちいち着替えるのも時間がかかるきに。それにワシとおまんが学生服を着たら、某ラブコメ漫画を彷彿とさせるからNGじゃき」
「某ラブコメ漫画?」
「リトやらララが出てくる漫画ぜよ。まぁ、分からないままそのままで良いきに」
陸奥は所謂中の人ネタを発したが、アスナには何一つ伝わっていない。そのまま話を受け流している。そんな二人は現在、エリザベスとほぼ同じ格好で変装していた。エリザベスっぽい布切れを被り、陸奥は編み笠、アスナは青いウイッグを頭部に付けている。一応は変装という体だが、傍から見れば奇妙な集団にしか見えず、むしろ目立ってしまっていた。
「なんか妙に目立っていない?」
「気にするな。あの追手に見つからなければ御の字じゃき。このまま客の元まで向かうぞ」
「だと良いんだけど……」
やけに変装を貫き通す自信を持つ陸奥に対し、アスナは未だ不安が拭いきれていない。そもそもこのエリザベスの格好自体動きづらく、いざ逃げようものなら脱いだ方がマシだと彼女は考えていた。
それでも今は陸奥の言う通りに従っていたが……そうも言ってられない事態が起きてしまう。
「ん? おまんは……」
「か、桂さん!?」
陸奥とアスナは変装中に、ある知り合いとばったり鉢合わせしていた。それはエリザベスの飼い主である桂小太郎。彼はエリザベスに似た二体の生物を目の当たりにして、大きな衝撃を受けていた。
「な、何!? エリザベスが一匹、二匹……? ヒィ!」
そしてそのショックから、突然その場に倒れこんでしまう。
「か、桂さん!? 急にどうしたの!?」
「心配するな。こいつにとってはよくあることぜよ」
心配して声をかけるアスナに対し、陸奥は冷静に対処している。桂も坂本と同じ癖の強い人間として括っている為、適当にあしらってもなんら問題無いと彼女は考えていた。
「でも本当に大丈夫なの? 一応気絶はしているみたいだし……」
「無用ぜよ。奴にはエリザベスという最強のサポーターがおるから、そのうちに奴を助けに来るじゃろ」
その上で陸奥は桂の危機には必ずエリザベスも駆けつけるので、このまま放っておいても問題無いとアスナに説明している。心配の尽きないアスナに対し、陸奥は終始あっさりとした態度で桂に対処していた。
すると……噂のエリザベスが、遠方から急接近してくる。
「ほら。そうこうしているうちにもう来たぞ」
「えっ、もう!? 流石エリザベスさん……」
とエリザベスの忠誠心に感心していたちょうどその時であった。
[似たキャラは俺以外いらないんだよ!!]
なんとエリザベスは似た格好をする陸奥とアスナに激高。そのまま手にしたプラカードを握りしめて、アスナと陸奥の被り物を木っ端微塵に破壊してしまった。
「えっ!? エリザベスさん!?」
「破れてしまったか」
突飛なエリザベスの行動に困惑するアスナ。一方で陸奥は、自身の変装が破壊されてもなお冷静に反応していた。なおエリザベスは偽物を粉砕出来て、大変満足している。
[大成功!]
「じゃなくて、エリザベスさん! 私達変装している途中だったんだよ!」
[変装? どういう意味だ?]
「話が長くなるんじゃが、実は……」
ひとまずはエリザベスにも訳を話そうとしたその時であった。
「いたぞ、あいつらだ!」
「捕まえろ!」
なんと運悪くスーツ姿の男達に、アスナらもまた見つかってしまう。
「不味いな、追手に見つかったようじゃ」
「このタイミングで!? どうする陸奥さん? 退ける?」
「いいや。一旦逃げた方が良い。こっちじゃ!」
実力で追っ払おうとしたアスナであったが、陸奥の考えでこの場は一時撤退となる。二人は変装に使用した布を完全に取り外し、その場からすぐに逃げて行った。
[ん? もしかして訳アリだったのか?]
状況を断片的にしか見ていないエリザベスは、自身が余計なことをしたと少しだけ不安を覚えてしまう。ひとまずはアスナと陸奥が無事に逃げ切るようにと祈っていた。その後に彼は気絶した桂の世話に当たっている。
隠密行動やら変装やらが失敗に終わり、坂本や陸奥らは小細工無しで客先へ向かうことを決意。追手から上手く回避しながら、着実に宝石を注文した客先へと近づいていた。そして一足早く坂本、シリカ、ピナのチームが、とある一軒家の前に到着している。
「よしっ。リカちゃん、ここぜよ」
「だからシリカですってば! でもようやく、お客さんの元までたどり着いたんですね!」
色々と苦難はあったが、無事に客先へと辿り着き安堵するシリカ。辰馬も同じように感慨深く感じていたが、ひとまずは依頼された品物を客先へしっかり手渡すことにする。
「ならばさっそく、こいつを手渡すか」
「そうですね。坂本さん、宜しくお願いします!」
「ナー!」
「おう。任せるぜよ!」
最後の最後まで気を抜かず、坂本は気を引き締めて一軒家の戸を叩いていた。ここまで来れば、黒いスーツの追手も来ないと彼は高を括っている。
一方で遅れて陸奥とアスナも目的地に到着していた。
「なんだ。もう奴は着いていたのか」
「えっ? シリカちゃんもいるわよ」
「何? まさか同じく行動を共にしていたのか……」
二人はここで坂本とシリカが行動を共にしていることに気付き、両者ともに驚きの声を挙げている。状況を見定めながら、順次合流しようと決めていた……その時であった。
「動くな!」
「何!?」
「えっ!?」
なんと一軒家から出てきたのは、屈強な体格を持つ黒いスーツの男性。彼は老夫婦らしき男女に拳銃を差し向けており、堂々と坂本らを脅している。なお、その老夫婦こそが坂本の依頼相手である愛川夫妻だったのだ。
「愛川さん……おまんら掴まっておったのか?」
「そうだ。事前に我らが捕まえておいた。お前らのことだから、きっとここまで来ると思ってな」
黙り込む愛川夫妻に代わって、スーツ姿の男性が事情を明かしている。どうやら坂本らの依頼相手も既に把握しており、彼らの持つ宝石を強奪すべく強硬的な手段に出た様子だった。
「って、その人達は関係ないはずですよ! 坂本さんのお客さんなんですし、離してあげてくださいよ!」
「うるさい!! いいからお前達の持つ宝石を渡せ! さもないと……総出でリンチにしてやるぜ?」
卑劣なやり方で脅すスーツ姿の男性に怒りを覚え、人質の解放を要求するシリカ。だがしかし、どんなに指摘しようとも男性は一行に引き下がらない。さらには男性の他の仲間達も、徐々に集まり始めている。皆スーツを着ており、恐らくは今日一日中追いかけまわした追手と見て間違いないだろう。
「囲まれてる……」
「ナー……」
「流石に不味いか……」
四方八方に敵を配置されてしまい、窮地に陥ってしまう坂本ら。そんな二人と一匹の苦痛な態度を見てられず、アスナは加勢しようと動く。
「シリカちゃん達が危ない!」
「まぁ、待て。ここは一旦様子を見るきに」
「でもこのままじゃ、あの夫婦だって危ないし……」
「落ち着くんじゃ。今は坂本のペースに合わせるべきぜよ」
シリカらが心配でたまらないアスナを落ち着かせつつ、陸奥は坂本の狙いを密かに探っていた。人質を取られている割にはやけに落ち着いており、陸奥は坂本には別の考えがあると静かに悟っている。
一方の坂本は、スーツ姿の男性にある探りを入れていた。
「おい、リーダーっぽい奴! 一つ聞いても良いか?」
「……なんだ?」
「おまんいつワシらが宝石を入手したことを知った? この宝石の入手経路は、快援隊でもごく一部のもんしか知っていない。本来はバレることの無いルートのはずじゃが」
「さぁな。企業秘密だ。俺達独自のルートで入手したことだけは言っておこう」
「そうかい……ならば話は早い!」
どうやら確証をつける答えを得られたようで、坂本は途端に拳銃を抜いている。そしてそれを、スーツ姿の男性に差し向けていた。
「えっ、坂本さん!?」
「シリカちゃんよ、とくと見るぜよ。ワシが出した答えってやつを!」
「だからアタシはシリカ……って、合ってた?」
いつもなら微妙に間違う名前も今回ばかりは正しく言えている。坂本の目つきも真剣そのものに移り変わり、シリカは彼の本気さを間近で感じ取っていた。
坂本の言うことを素直に信じ、彼の動向を見計らっていると……彼の手にした銃口は、いつの間にか老夫婦の方に向けられている。
「そこぜよ!」
そしてためらいもなく、坂本は銃の引き金を引いた。銃弾は老夫婦の男性側のポケットに、見事命中している。
「さ、坂本さん!? 急にどうしたんですか!? 愛川さんは……」
「シリカちゃん、よく見るぜよ!」
てっきり誤射したと思い、慌ててしまったシリカだったが……坂本の指を指した方角を見ると、そこには信じがたい光景が広がっていた。
〈ジャリン、ジャリン!〉
「あっ、しまった!」
「えっ!? 大量の宝石!?」
男性のポケットからは大量の宝石があふれ出し、ポロポロと地面に転がっている。想定外の事態に、老夫婦だけではなく人質として取っているはずのスーツ姿の男性でさえ、おどおどと困惑していた。
「こ、これは一体……」
「ナー?」
「つまりこういうことぜよ! スーツの男共と老夫婦はグル! 自らを被害者と偽り、汚れ仕事を全部スーツの男共に任せていたってことぜよ。最近頻発するリンチ事件は、おまんらの組織的犯行が大元ぜよ!」
坂本は名探偵ばりの決めつけで、犯人達に真相を突き付けている。そう。彼の言う通り、愛川夫婦とスーツの男性達は一つの犯罪組織として築き上げており、商人を騙し痛めつけては金銀財宝を奪い去り、互いに金銭を分け合っていたのだ。今回も同じような手口で坂本らを追い詰めて最終的には宝石を奪おうとしたが、彼の機転によりその計画がようやく暴かれたのである。
これにはシリカも驚嘆し、同じく盗み聞きしていたアスナも大きく驚いていた。
「あの老夫婦も犯罪者だったの……?」
「なるほどな。坂本は最初からそれを分かった上で動いたわけか」
「えっ? 陸奥さんそうなの?」
「じゃなきゃ、あそこまで慎重には動かんぜよ」
なお陸奥は坂本の慎重な行動の理由が分かり、納得した表情を浮かべている。
だが一方で、犯行を言い当てられた老夫婦側は勝手に逆上していた。
「ええい、何をしてる! 早く曲者をにねじ伏せろ!」
「全員で奴らを取り押さえろ!」
二人はスーツ姿の男性達に指示し、坂本やシリカらを取り押さえようとする。数の差で二人と一匹をねじ伏せようとしたが……
「「はぁぁぁ!」」
「ぐはぁぁ!」
ここで坂本側に思わぬ加勢が舞い込んできた。そう。ずっと様子を伺っていたアスナと陸奥が、このタイミングで駆けつけたのである。
「えっ、アスナさん!?」
「陸奥! 何処に行っとんたんか!?」
「話は後ぜよ! 今はこいつら全員片付けるきに!」
「私達が来たから、もう大丈夫よ!」
思わぬ加勢に困惑するシリカや坂本らに対し、陸奥やアスナは仲間に檄を飛ばしながら、早速敵対する男達に狙いを付けている。陸奥は拳、アスナはレイピアを握りしめて、戦意を大いに高めていた。
「アスナよ。思う存分やるきに!」
「えぇ! 敵だって分かったらなら、もう容赦しないわよ!」
互いに闘志を燃やしつつ、二人は真っ向からスーツ姿の男性達に立ち向かっていく。
「って、待ってください! アタシも戦いますから!」
「ワシも忘れないでほしいぜよ!」
「ナー!」
一方で出遅れたシリカ、ピナ、坂本も、同じくスーツ姿の男性達を相手取っていく。アスナらと同じく容赦のない戦いを展開し、相手を完膚なきまでに叩き潰していた。
そして……数分も経たないうちに、スーツ姿の男性達はリーダー含めて全員戦意を失い、気絶してしまう。
「な、なんと!」
「ついでにおまんらもぜよ」
「ぐふぃ!」
あまりのワンサイドゲームに驚嘆する老夫婦に対しても、坂本と陸奥が手刀で無理やり気絶させる。
こうして商人を狙い続ける犯罪者組織は、快援隊の頼れる二人とその仲間達によって、ほぼ壊滅状態となっていた。
「アハハハ! ワシらにかかれば、ざっとこんなもんぜよ!」
「調子に乗るな、坂本。今回はただお前の読みが偶然当たっただけぜよ」
「アハハ! 手厳しくない陸奥?」
勝利を確信し、早くもその余韻に浸る坂本に、陸奥は現実を突きつけるような毒舌をぶつけている。調子づく坂本に、彼女は最初から苛つきを覚えていた様子だ。
一方でアスナは、シリカにようやく声をかけている。
「大丈夫だったシリカちゃん?」
「アスナさん! アタシは大丈夫ですよ。ピナに陸奥さん、坂本さんも一緒にいてくれましたから!」
「ナー!」
念のため怪我が無いかを彼女は確認していた。互いに無事であることを確認し、一安心している。そんな中でアスナは、坂本の機転の強さについて感心していた。
「それにしても侮れないわね、坂本さん。真犯人まで言い当てちゃうだもの」
「あんなに普段は呑気なのに、まさかあそこまで考えていたなんて」
シリカもアスナの意見に同調する。今日一日坂本と行動をして、呑気さや馬鹿さは痛い程伝わっていたのだが、頭の良さに関しては、正直想定外であった。だからこそ、シリカも坂本のことを素直に見直している。
「それはそうと坂本。最初からあの夫婦もグルだと気付いていたのか?」
「ふっ。まぁ半分合っているぜよ。なんせあの夫婦からワシはあの透明マントを購入したからのう。それも今日不良品と分かり、あの夫婦の疑いが確信に変わったぜよ!」
「結局騙されてから気付いたんか、われ! 気付くのがいちいち遅いんぜよ!!」
と思いきや、肝心の坂本は透明マントの件でやっと老夫婦に疑いの目を持ったとのこと。自信満々に宣言する坂本に対し、陸奥は感情的にツッコミを入れている。
一方で一連の話を聞いたアスナやシリカは、結局坂本が本当に頭が良いのか分からなくなっていた。
「……前言撤退するわ、シリカちゃん」
「そうですね……坂本さん。閃きは凄いと思いますけど、頭が良いかと言われると……」
「ナー……」
ピナもご主人様と同じく微妙な反応を示している。結局坂本の頭の良さは分からずじまいのはこの件は幕を下ろしていた。
今回は快援隊回! とある依頼を巡る彼らの一日をお届け致しました。シリカと陸奥の組み合わせは以前にありましたが、今回は坂本とペアを組んだシリカ。あまりのマイペースさに胃が痛くなってないと良いのですが……そして陸奥はアスナと一時ペアを組んでおりました。この二人の組み合わせ、中の人ネタ的にどこかで実現したいと思っていましたが、まさか早々に実現するとは思いませんでした。事件も無事に解決し、丸く収まったんじゃないでしょうか。坂本らの次回の出番は架創決戦篇かな?
次回予告
新八「大変ですよ銀さん! あのマダム夜神に、ライバルが登場したって!」
神楽「しかも高天原にダブルブッキングで予約して、狂死郎が困っているアルよ!」
銀時「こうしちゃいられねぇ! だったら久々にやるか、俺達も!」
キリト「えっ、ちょっと待って。まさか俺達も……?」
アスナ「私もホストになるってこと!?」
ユイ「次回! スーツを着こなせば誰だってホスト! ところでホストってなんですか?」