月詠の暴走から数分が経ち、ようやく騒ぎは収まった。
「ググ……オオ……」
彼女は疲れ切り奥の部屋で寝込んでいた。一方、銀時は月詠から被害を受けて、顔にひっかかれた跡がついている。よっぽど、痛めつけられたようだ。
「銀ちゃんー大丈夫アルか?」
「大丈夫なわけないだろ! 顔の傷を見て見やがれ!」
やはり気が立っており彼は怒っている。とここで、日輪が声をかけて代わりに慰めてくれた。
「まぁまぁ、銀さん。月詠を止められなくてごめんね。お詫びに昼食とケーキをおごるから許してくれない?」
お詫びとしての食事のおごり。しかも銀時の好物である甘い物にありつけると知った彼の心は、
「はい! ケーキの為なら許します! オカン様!」
百八十度変わり痛みなんて簡単に忘れてしまった。これには、新八のツッコミも止まらない。
「変わるの早ぇよ! 思いっきりタダ飯にたかるだけだろうぁ!」
「ていうか、銀さんの好物ってケーキなのね……」
「意外に甘党なんだな」
銀時の手のひら返し、並びに彼の甘党振りにキリト達は驚く。示談も成立したところで日輪は、再びキリトらへ話しかけてきた。
「さて、キリト君にアスナちゃんにユイちゃんね。改めて私は日輪。文字通りオカンとして働いているからよろしくね! みんな!」
「はい! よろしくです! 日輪さん!」
元気で明るい彼女の姿を見て、自然と安心感が生まれる。その姿はまさに母親そのものであった。すると、アスナに一つ疑問が浮かんだ。
「あの、日輪さんってお母さんなの?」
「ええ、そうよ! もうそろそろ戻ってくるんだけどね、晴太は」
「晴太?」
やはり予想通り日輪には子供がいる。とちょうどいいタイミングで、噂の息子が家に帰ってきた。
「ただいまー! あっ、銀さん達だ!」
店に入ってきたのは茶髪で緑色の和服を着た元気そうな男子。彼がどうやら晴太のようだ。
「おかえり、今日は万事屋のみんなが来ているのよ」
「そうなの? って、この人達は一体誰?」
来て早々晴太も、キリト達の存在に気付き驚きを見せる。
「あっ、晴太。この人達はね新しい万事屋の一員なのよ」
「えっ? ええええ!?」
日輪からの一言を聞きさらに衝撃を受けてしまう晴太。というのも、
「こんな美男美女の人達が万事屋に入るの!? 嘘でしょ!?」
「おい! それどういう意味だ、ゴラァ!?」
「あたいらが違うってことアルか!?」
万事屋には正直似合わない人達ばかりだったからだ。その言葉を聞き、銀時と神楽は思わず彼を一喝。そんな二人を新八がなだめる。
「まぁまぁ! でも、晴太君。この人達は本当に万事屋の新メンバーなんだよ」
「そうなの!?」
「紹介するよ。黒髪の人がキリトさん。青髪の子がアスナさん。白服の子がユイちゃんだよ」
新八の紹介とともに、三人はそれぞれ晴太へ挨拶を交わす。
「晴太君だったよな、よろしくな!」
「これから仲良くね!」
「よ、よろしくです! えっと、キリトさん! アスナさん!」
「おい、鼻の下のびてるぞ」
キリトやアスナの挨拶に顔を赤くする晴太に、思わず銀時がツッコミを入れた。特にアスナへ対しては、思春期の影響もあってか恥ずかし気味である。そしてユイも続く。
「よろしくお願いしますね! 晴太さん!」
「えっ……」
彼女を見た瞬間晴太の心に衝撃が走る。いままでにない脈の上がり様と心の変化。顔は真っ赤になっており、彼はユイに見とれてしまっていた。
「よ、よ、よろしく!」
「どうかしましたか?」
「いいえ! なんでもないよ!」
「なら、よかったです!」
「ポッ!」
純粋無垢なユイの姿を見て、とうとう耐え切れなくなってしまう。そして、晴太は体温が上昇したまま床へと倒れ込んでしまった。
「だ、大丈夫ですか!? 晴太さん!?」
「しっかりしなさい!!」
急いで駆け寄るユイや日輪は晴太を起こす一方で、万事屋は苦い顔で彼の気持ちを察している。
「こ、これって……」
「なんかとんでもないことになりそうアルな」
ユイの気付かないところで始まる晴太の気持ちの揺れ。こうして、吉原での挨拶は波乱のまま完了し、晴太を安静にするのに部屋へと運ぶのであった。
ひのやで昼食を食べ終えた一行は、かぶき町へと戻り始めていた。時刻はすでに十五時半。先ほどの騒動もあってか予定よりもかなり遅れており、夕方も近くになっている。
「挨拶もこれくらいか。一通り知り合いには会ったところだろ」
「それにしても個性的な人達ばかりだったね」
銀時やアスナに続き、神楽も声を上げた。
「そうアルな。キリの世界にはいない人達ばかりだったアルよな?」
「確かに……あんな個性的な人達、俺達のいた世界にもそうそういないよ」
今まで会った銀時の知り合いをキリトらが振り返ってみると、マヨラー、ドS、ストーカー、キャバ嬢、男性恐怖症、ドM、酒乱と個性の強い方々ばかりで、しかもその半分が自分達の知っている偉人と似ていたため深く印象に残っている。しかし、まだ彼らには会っていない人物がいた。それは、かぶき町公園を通り過ぎる時に見つける。
「ん? あの方は誰でしょうか?」
ユイが見つけたのは、段ボールの上に座る中年男性だった。赤茶色の服を着て手元には煙草をふかしている。サングラスが特徴的なその男性は万事屋の知り合いであったが、
「気にするな。ただのグラサンをかけたおっさんだよ」
「ユイー。見ちゃダメアルよ。教育上悪いから」
「ちょっと待って!! なんで、俺は紹介してくれないんだよ!!」
意図的に無視をして、当の本人に直接ツッコミを入れられてしまった。
「わかっているよ、長谷川さん。ちゃんと紹介してやるからな」
「って、やっぱり知り合いだったのかよ!?」
態度を変えた銀時らは、長谷川もちゃんと忘れずに説明する。
「紹介しますね。この方は長谷川泰三さん」
「別名マダオって言われている絶滅危惧種のおっさんネ!」
「言われてねぇよ! 絶滅の危機じゃないからな!」
「ホームレスが、なんて矛盾したこと言ってんだよ」
万事屋にいじられる男性の名は長谷川泰三。元々は入国管理局という仕事についていたが、ある一件でクビになり現在のホームレス生活に至る。ホームレスとは縁のゆかりもなかったキリト達は、この世界で初めてその存在に触れた。
「ホームレスの人?」
「ホームレスとはどういう意味ですか?」
特にユイにとってホームレスは初めて触れる存在で、かなり興味を持っている。万事屋に代わって、アスナが説明してくれた。
「家のない人のことよ。だから段ボールで暮らしているのね」
「かわいそうです……私達で保護してあげましょうよ!」
長谷川を見たキリト達は銀時らと違い同情の気持ちが生まれている。そんな汚れがなく純粋な思いの三人を見て、長谷川は心を打たれた。
「おまえら……誰かは知らねぇがなんていい奴らなんだ……!」
思わず涙を流す彼に対して、万事屋の反応は至って真逆である。
「はぁ? 何言ってんだ? 甘やかしたらこいつの為になんねぇぞ」
「そうアル。このおっさんを対処するには、私達みたいに資格を持っていないと近づくことすらできないネ」
「いつからそんなのできたんだよ!! てめぇら、嘘ぬかしているんじゃねぇよ!」
感動する長谷川の気持ちを踏みにじる万事屋達。非常にも見えるがこれが長谷川とのコミュニケーションの取り方である。
「銀さん達と長谷川さんって本当に仲間なのか?」
「わかりにくいけど、これが長谷川さんとのコミュニケーションの取り方なんですよ」
「そうなのね……」
新八も苦い表情で、キリト達に説明した。複雑な思いで騒ぎが収まるのを今は待っている。
それから長谷川も事情を聞きキリト達の現在の状況を知る。
「そうか。キリト君にアスナ君にユイちゃんか。別世界から来て今は万事屋の一員に所属、おもしれぇじゃねぇか……」
先程とは違い、男らしくダンディな雰囲気で彼らへメッセージを伝えた。
「こいつらはこの町でもおもしれぇ人間達だよ。いつもバカをやっているがその分正直さ。いい奴らと出会っちまったな!」
「おい、急に態度変えて頼れる大人風にしてんじゃねぇよ」
「わかってるよ! かっこよく決めただけじゃん! なんでこんな冷たい目で見られてるんだよ!!」
長谷川の男らしさも銀時の皮肉で不発に終わる。しかし、キリト達は彼を感じの良くおもしろい大人であると感じていた。
「まぁまぁ。長谷川さん。これから会うこともあるからよろしくな」
「おう! ――にしてもお前達が別の世界から来ていたとはな。あーあ。もし行けるならいい就職先を教えてくれよー!」
すると、長谷川は今一番自分が欲しい願望を言い放つ。無職のため仕事が欲しいのである。
「就職先ね……」
「エギルさんなら長谷川さんを雇ってくれるかもしれませんね!」
「エギー? また仲間アルか?」
神楽の疑問に、キリトが答えた。
「力の強い男で、現実ではバーを営んでいる人だよ」
「長谷川さんがウェイターデビューか」
そこで、キリト達が挙げたのはエギルであった。立派な個人店を持つバーの店主で、彼の善意なら長谷川さんを雇ってくれると考えている。しかし、万事屋からしてみれば彼がバーで働いている姿は想像できず、むしろしたくなかった。そんな中、長谷川はあることを伝える。
「あっ、そういえばこの近くに桂さんとエリザベスさんがいたからついでに挨拶してきたらどうだ?」
「げっ! あいつらまでいるのかよ……」
どうやら、この近くに銀時の同期である桂がいるらしい。会ったら会ったで、めんどくさい人間なので、銀時は今まで避けてきたが言われた以上は紹介するほかはない。
「桂さんって誰だ?」
「銀ちゃんの同期で幼馴染アルよ」
「えっ!? じゃなんで紹介してくれなかったの!?」
「まぁ、桂さんとエリザベスさんは少し特殊な人間なので……」
と新八がアスナらへ伝えた時だった。
「ハッ! ハッ! ハッ! そんなことはないぞ! 銀時ィ!」
突如活気の良い男性の声が響く。長谷川の元を離れて声の聞こえた公園へ向かってみるとそこには、
「やっぱりおまえかぁ! ヅラァ!」
「ヅラじゃない!! 桂だぁ!!」
お馴染みのセリフと共に二人の男? が立っていた。一人は長い黒髪に青い和服を着て、腰には刀を装備している。そしてもう一人は、白い謎の生物であった。というか人なのかも怪しく、黄色い大きな唇と吸い込まれそうな目が特徴である。そう、この二人が桂小太郎とエリザベスなのだ。
「えっ? あの方が桂さんなんですか?」
「そしてアレがエリザベス? ゆるキャラなのか?」
キリトの問いに、エリザベスはプラカードを掲げて答える。
〔ゆるキャラではない! エリザベスだ!〕
「って、なんでプラカードで会話しているのよ!?」
エリザベスの会話方法にツッコミを入れるアスナ。だが、それ以上に桂達へのインパクトが強かった。見た目はかっこいいのに癖の強い桂と、もはやどう表現したらいいのかわからない白い生物エリザベス。二人の印象は今までの人間よりもはるかに濃い。一方、桂は腕組みをして早速話しかけてくる。
「ふっ、銀時。噂で聞いたぞ。こいつらが新万事屋メンバー、リア充星人だな!?」
「合っているけど違ぇよ! そもそも、ツッコミが追い付かねぇよ!!」
「何違うのか!? どこがだ!? 貴様らがリア充になったのか!?」
「リア充から離れろよ!」
人の話を聞かず独自の解釈をする桂。そんな彼を銀時が説得する。そして、時間はかかったが正しい情報を伝えることができた。
「そうか。君達はゲームのアバターのままこの世界へ来てしまい帰れるまで万事屋に所属することになったか……」
「まぁ、そういうことだな」
事情を理解した桂は突如考え始めると、自分なりに思いついた励ましのメッセージをキリト達へ伝える。
「わかった。なら俺からも言わせてもらおう。キリト君、アスナ君、ユイ君。俺の名は桂小太郎。そして彼が俺の相棒、エリザベスだ。俺達はこの世界では攘夷志士として活動している。そこでだ、万事屋だけでなくこの俺と共に攘夷活動をしてみないか?」
〔今なら、無料で夏季特訓へご招待!!〕
「その通りだ、エリザベス! この俺の導きがすぐにでも侍になれる! どうだ? ぜひこの俺と共に攘夷活動をして幕府を転覆――」
「ならねぇよ!!」
「グオォ!」
まだ桂が言い終わっていないのに、銀時の不意打ちを受けて、話を途切れてしまう。長い上に勧誘だったので、強制的に止めさせられた。
「何をする! 銀時ィ! 折角の勧誘を!」
「勧誘じゃねぇんだよ! こいつらは攘夷志士になる気はねぇんだよ!」
「わからないぞ! もしかすると、立派な侍に――」
〔ゲーマーの可能性は無限大だ!〕
「断じてねぇよ! てめぇの思想を叩き込ませるんじゃねぇ!」
銀時と桂による言い争い。もちろん、これも銀魂の世界では日常茶飯事だ。そんな二人を、仲間達は寒そうな目で見ている。
「本当に、桂さんって侍なのか?」
キリトの疑問に、新八や神楽が返す。
「まぁ、銀さんと一緒に攘夷戦争を生き残ったくらいですから侍って言い方は間違っていないと思うけど……」
「そのせいで幕府の目に止まって今は指名手配のテロリストに成り下がったアルけどナ」
「テロリスト!? 桂さんって警察から逃げているの!?」
「それなのに堂々としてますけど?」
「あの人の場合あれで十分なんですよ」
驚いた表情を浮かべるアスナやユイに、新八はため息交じりの言葉で返す。桂がお尋ね者であることがわかり、さらに衝撃を受けている。そんな桂の威勢の良さは、キリト達のある仲間を彷彿とさせた。
「なんだか、桂さんはクラインさんと似ていますね……」
「クラー? ヅラと似ているってことはそいつもバカってことあるか?」
「バカとは意味が違うけど、クラインも桂さんと同じく侍道を大切にしているんだよ」
「えっ!? じゃ、もし桂さんと会ったら……」
「とんでもないことになりそうね……」
思いだしたのは侍を志す男クラインである。彼の性格から桂と会えば気が合うことは目に見えており、想像もつかないことが起こると思っていたのだ。そして、桂との小競り合いも終わり、これにて挨拶回りは終了を迎える。
「よし。ではまたな、みんな! ハッ! ハッ! ハッ!」
〔アイルビーバックだ!〕
「もう二度と来るんじゃねぇぞ!! ヅラー!」
「ヅラじゃない桂だぁ!」
「おめぇの耳はどうなってんだよ!!」
お馴染みのセリフとともに桂達はこの場を去っていた。そして、みんなも万事屋に戻ることにする。
「よし、じゃ帰るか」
「そうだな」
空模様が夕日になり、一行は今日の思い出を語り合いながら万事屋へと戻ってゆく。大変だったが、銀時達の知り合いは個性的で面白い人達ばかりだと感じていた。歩いていき、ネオンに包まれた街を通り過ぎていくと、見かけたばかりの看板が見えていき数分も経たずに万事屋へ到着した。
「はぁーやっと着いたー」
「本当、一日お疲れでしたね」
「挨拶回りも案外楽じゃないわね……」
「まぁ、私は楽しかったアルけどな」
新八やアスナらが今日の挨拶回りについて話している時。リーダーである二人は、
「「ふわぁぁ」」
揃って大あくびをした。いつの間にか行動が重なり始めている。
「アレ? 銀ちゃんとキリが同じタイミングであくびしたアル?」
「へぇー二人ってやっぱり気が合うのかな?」
神楽やアスナが、からかい交じりに聞いてきた。
「俺が銀さんと?」
「俺がこのリア充とか?」
二人はそっと互いの顔を見ると、耐え切れなくなって笑いだし、それにつられて仲間達も笑いだす。まさにその姿は幸せそのものであった。二日間とはいえ、六人の距離はより短くなっている。そんな中、スナックお登勢からは、たまがやってきた。
「おや、みなさん。もう帰っておられたのですか?」
「たまさん! はい、帰ってきましたよ!」
「そうですか。なら、こちらへ来てください。晩御飯の準備ができていますよ」
「晩御飯? そんなもん頼んでねぇぞ」
「いえ。これはちょっとしたサプライズですから」
たまが促したのは晩御飯への誘いだった。どうやら、万事屋には内緒でこのサプライズを進めていたらしい。
「ええ!? たまさん!? いつの間に作ってくれたんですか!?」
驚く新八とは違い、たまは冷静に返す。
「いいえ。私はあくまで提案しただけです。実行してくれたのはお登勢様ですよ」
「その通りだよ」
するとたまに続いて出てきたのは、口元で煙草をふかしていたお登勢であった。
「バ、ババァ!? てめぇが用意したのか!?」
「その通りだよ。これは私からの洗礼ってことだ。今日は疲れているみたいだし、私が代わりに用意したんだ。さっさとあがりな、妖精ゲーマー共」
そう言うとお登勢は静かに微笑む。彼女はやっぱり人情深い人であった。そんな、彼女の小粋な優しさに触れて、キリトらがお店へ上がろうとした時である。
「よっしゃぁぁ!! ありがとうな!! ババァ!!」
「ヒャッホイー!! ただ飯にたかるアル!!」
一目散に店に入ったのは食い意地の張った銀時と神楽だった。
「ちょっと銀さん!? 先に入ったらダメじゃないですか!!」
「こら、てめぇら!! アンタらよりも先にこいつらに譲れ!!」
さっきまでの疲れを忘れ切った銀時達の愉快な雰囲気。新八やお登勢にも止められない勢いである。そんな万事屋と一日過ごした三人は、店に入る前にこんな会話をしていた。
「なぁ、アスナ。ユイ。俺達はやっぱり、万事屋の三人と出会えて正解だったと思うよ。何だかわからないけど、一緒にいて安心するんだ。根拠の無い自信が自然と湧いてきて……きっと戻れる。あの人達となら……」
「奇遇ね。私も同じことを考えていたわよ。銀さんも新八君も神楽ちゃん、定春君だって血が違うのに、みんな本物の家族みたいだもの」
「いいですよね。互いに素直になれるのって」
まだ二日しか経っていないが、万事屋という存在が面白くも温かいことがわかったのだ。三人にとって最高の理解者であると。より信頼を彼らは深めていった。
「おい、何やってんだ! てめぇら! さっさと来ねぇとたいらげるぞ!!」
「おめぇらの席はねぇんだよ!」
「おーい! 危なっかしいこと言うんじゃねぇぞ!」
そんな三人の勢いに押されてキリト達もスナックお登勢へと入ってゆく。
「ちょっと、銀さん! 俺達の分まで食べないでくれよ!」
「わかってるよ! ちゃんと残してんだろ!」
「ほらほら! 食えアルー!」
「あんたら調子乗りすぎだろ!!」
「まったく。みんなすぐ調子に乗るんだから……」
「みなさん! 落ち着いて食事してくださいよ!!」
こうして賑やかで騒々しい夕食会が幕を開けたのだった。密かに紡がれる信頼がより深いものになると信じて――
「いたか? キリト達?」
「うんうん、全然」
「もう探して二時間になるわよ……」
「一体、どこにいるのよー!!」
一方、こちらはSAOの世界。仮想世界ALOにて仲間である、シリカ、リズベット、リーファ、シノン、クライン、エギルの六人は集合場所である広場へと合流。行方不明になったキリトら三人を探していたが手掛かりすら見つかっていない状況だ。
「まったく、なんでこうも見つからねぇんだよ! おかしいだろうが!」
捜索に行き詰まり、嘆いてしまうクライン。一方、シリカはある仮説を立てる。
「でも連絡も取れないってことは、この世界にはいなくて現実世界に戻っているってことでしょうか?」
「ナー?」
ピナも同意した意見であったが、いとも簡単に論破されてしまう。
「いいや、それはないわ。さっき、現実世界に戻ってお兄ちゃんの部屋を確認してきたんだけど――そこにはいなかったの」
「いなかった? どっかに出かけたということか?」
「お母さんに聞いても出て行った形跡はないから、外には絶対出ていないって」
リーファによれば先ほど現実世界に戻り、兄であるキリトの部屋を確認してみたが、そこに彼はいなかった。外にも出ていないらしくより不安な気持ちが募ってゆく。
「それってまずい状況なんじゃないの?」
「どうする? このままこの世界で探し続ける?」
「でも、本当に見つかるのか?」
仲間達は必死に考える。仮想世界にも現実世界にもいないとするならば、探すあてなんてない。ただ時が過ぎるだけだったが――
「ん?」
シノンはある変化に気付いた。
「どうしたんですか? シノンさん?」
「時間、止まっていない?」
「えっ? 嘘だろ!?」
彼女の言う通り周りを見てみれば、仲間以外のゲームプレイヤーは全く動いていない。時計を見ても、全く進んでいなかった。
「なにこれ……? 運営のトラブル?」
「いいや、何か違う気がします……!」
不吉な場面を目の前にして警戒心を高め、武器を構える六人。誰一人として声を出せない状況の中で、ある足音が聞こえてくる。カツンといった機械のような音だった。しかもこちらへ迫ってくる。
「何、この音……?」
「近づいてくる……?」
音の聞こえた方向へ六人は体を振り返る。そこにいたのは一人の人間――いや人間とは言い難い存在であった。全身は銀色で覆われ、緑色の目やベルトからは不気味な光が放っている。手には赤い剣を持ち、禍々しさを際立てていた。HPゲージもなく、おそらくこの仮想世界にいる存在ではないことはあきらかである。モンスターや騎士とは違うその存在は、まさに怪人だ。そして、六人の目の前でようやく止まる。
「フッ……貴様らだな? 残りの実験体は?」
発したその声は渋い男性の声であった。
「はぁ? 何言ってんの、アンタ? 実験体ってどういうことよ!」
この事態にひるまずに強気に聞くリズベット。ただならぬ恐怖にさいなまれても、彼女は必死に抵抗する。
「まだわからなくてよい。貴様らもあのゲーマー達と同じく実験に付き合ってもらおうか。我が組織の野望の為にな……」
「あのゲーマー達? ――もしかしてキリトさんやアスナさん達のことですか!?」
「その通りだ」
怪人の発した言葉に衝撃を受ける六人。もしこの怪人の言うことが真実ならば、探してもキリト達が見つからない理由にもつながる。
「実験って、あいつらをどこに連れて行ったんだ!!」
「少なくともこの世界ではない別の世界だな」
「別の世界!? そこにキリト達がいるっていうの!?」
怪人との会話で新たなる真実が知らされ、クラインやシノンも心がかき乱されてゆく。
「なら、お兄ちゃん達をこの世界へ戻してよ!!」
「ふっ……無駄だな。だが安心しろ。今すぐ貴様達もその世界へと送ってやろう。サイコギルドの作り出した、このブラックホールでな!!」
すると、怪人は赤い剣を構えて戦闘態勢に入る。剣からは黒いオーラが刀身を覆い、六人の警戒心を煽る。
「あれってブラックホール!?」
「もし吸い込まれたら私達も別の世界に行っちゃうってこと!?」
「そうだ……貴様らも飛ばされてしまえ!!」
そして、怪人は剣から放った衝撃波とともに黒いオーラを放った。
「あぶねぇ!! みんな、避けろ!!」
エギルの掛け声につられて一行は懸命に避ける。だが、怪人は攻撃を続けた。
「チッ……こざかしい。早く行けばいいものを!」
仲間達はみな防御に徹して、今は攻撃の隙を伺うしかない。全員の心がその作戦で一致していたが――
「ふっ……って何!? アレは……」
クラインがあることに気付いた。避け続けた衝撃波の残像が地面に集まっていることを。怪人の狙いは黒いオーラを浴びせて別の世界に飛ばすのではなく、そのエネルギーを集めて隙を突き実行することだったのだ。そして、そこには今シリカとリズベットがいる。
「まずい!! あぶねぇ!!」
危機を知ったクラインは彼女達に近づき、肩を突き押してその場から離れさせた。
「痛ぁ! って、いきなり何す――」
リズベットが文句を言おうとした時、
「ぎゃぁぁぁ!!」
床にあった残像が黒く輝きだし小さいブラックホールをクラインの足元に出現させた。彼はその力に抗うも抵抗できず、ポツンと音を立ててそのままブラックホールの中へと吸い込まれてしまう。
「クラインさん!!」
「ナー!?」
「嘘……本当に吸い込まれたの……?」
突然の出来事に受け入れられない仲間達。彼のいた場所にはもう何も残っていない。これで怪人の作り出した黒いオーラが、ブラックホールであることが証明された。それを知ると、自然と恐怖で足が動かなくなってしまう。
「フン、無様だな。だが、安心しろ。殺してはいない、別の世界へ送っただけだ。さぁ、次は貴様らの番だ!!」
冷静になれない仲間達は洞察力が薄くなり、自分の足元にブラックホールの残像が近づいていることに気付いていない。そして、
「「きゃぁぁぁぁ!!」」
「「うわぁぁぁぁ!!」」
シリカ、リズベット、ピナも足元にできたブラックホールに吸い込まれてしまい、続けてリーファ、シノンも犠牲となり四人共にこの世界より消失してしまった。
「みんなー!!」
場に残ったのはエギルたった一人である。そんな彼にもブラックホールの魔の手が迫り、怪人は赤い剣を差し向けた。
「さて、残りは貴様だ。最後に言い残すことはあるか?」
「くっ……一つ聞こうか。アンタは何者だ? 何が目的なんだ?」
「ふっ、教えてやろう。我はサイコギルドに属する一人だ。ブラックホールを使い、いずれ強大な力を手に入れるだろう……その為にもこの世界から消えてもらおうか」
こうしてエギルもブラックホールへと吸い込まれてしまう。六人も同じく現実の肉体と同化して、銀魂の世界へと飛ばされてしまった。
「さて、全て整ったということか……後はアンカーと共にブラックホールを使い戦力を集めるだけか――」
不穏な呟きを放ち怪人はその場から去ってゆく。と同時に仮想世界の時間は動き出し、元の賑わいを取り戻した。広場から消えた六人のプレイヤーなど知らずに――
一方、こちらは銀魂の世界。夕食会を終えた六人と一匹は、万事屋に戻り明日の予定を確認していた。
「いいか? 明日はてめぇら、ついに仕事だぞ」
「仕事……ついにやるのね」
「ちなみに内容は何ですか?」
「午前に引越しの手伝い。午後にベビーシッターをやることになっているアル!!」
「二つやるのか!?」
「万事屋でも珍しいんですよね。二つの仕事が同時に入るって」
テーブルを囲み話していたのは仕事の内容である。万事屋では多種多様に仕事が入るが、今回のように一日に二つの仕事が入るのは異例であった。内容を聞かされたユイは、やる気と不安に満ちている。
「引越しとベビーシッター……うまくできるのでしょうか?」
「大丈夫だよ。荷物をまとめるのとアンパン〇ンでもあげときゃ大丈夫なんだよ」
「元も子もないこと言うんじゃねぇよ!!」
銀時のアドバイスはかなり適当に見えたが、
「なるほど……荷物をいかに早くまとめるのとアンパ〇マンをいかに早く与えるのかが攻略のカギなのですね。わかりました!」
「ユイちゃん!? 真面目にボケないでくれる!?」
ユイは無垢にも全て受け止めてしまっていた。天然な性格にも程があり、新八からは再びツッコミを入れられてしまう。
「まったく、銀さんの言うことはいつも適当なんだから」
いつも通りの銀時に呆れるアスナ。そこへ神楽もキリトらへ話しかけてくる。
「もし、困ったことや聞きたいことがあれば、むしろ私達に聞いた方がわかるアルよ!!」
「そっちの方がありがたいかもな」
仕事の話や銀時への冗談を交わしつつ時間は過ぎてゆく。そんな時であった。定春が急に起き上がると、唸って声を上げ始める。
「ウ~……」
「どうしたネ? 定春?」
ずっと天井を向きにらみつけているその様子に、みんな違和感を覚えていた。
「何か上にあるんじゃないのか?」
とキリトが予測した時だった。
「ギャャャャ!!」
外から薄っすらと聞こえてきたのは男性の悲鳴。ほんの数秒だったが、その声ははっきりと聞こえてきた。
「今の声って……」
「悲鳴?」
「外で何かあったのでしょうか?」
不穏に響いた悲鳴に動揺するキリト達。どこか聞き覚えのある声だった気がするが、当の万事屋達は何も気にしていないようである。
「どうせまた攘夷浪士がポリ公に捕まったとかだろ?」
「そんな気にしなくていいアルよ」
「そうなのか?」
「まぁ、この町は物騒ですから悲鳴くらいでビビらない方がいいと思いますよ」
「それ、本当に大丈夫なの……?」
万事屋の慣れに言葉が出ないキリト達。その度胸と根拠はどこから出るのか不思議でしょうがない。そんな六人はまだ知る由もなかった。仲間達が次々とこの世界へ来ていることに――
かぶき町の夜に響いた一筋の悲鳴。その正体は今、裏路地のゴミ捨て場に落下している。
「痛ぁ……ここ、どこだ?」
周りを見て状況を確認する別世界の人間。そう、クラインだったのだ。ブラックホールを通じてこの世界へと飛ばされてしまい、現在は全く状況を理解していない。
「ここは一体?」
周りを見ればここが仮想世界でないことが明らかであった。周りは江戸時代の町並み。それでいて、高層ビルが並び巨大な塔がたたずむ異様な世界。ここが自分のいた世界ではないことの証明にもなっていた。
「本当に別の世界なのか? だとしたら……」
彼は、メニューを出そうと試みるがやっぱりできない。つまり、元の世界へ戻ることもできないのだ。
「そんな……これじゃ俺はどうやってみんなと合流すればいいんだ……」
非常な現実に苦しみ、ただうちひしがれることしかできない。そんな、クラインの元に足音が近づいてくる。
「な、なんだ!?」
振り返るとそこには、十手と提灯を持った数人の男性が彼を取り囲む様子だった。全員服装は、時代劇で見かけるような岡っ引きの姿である。
「ア、アンタ達は誰だ?」
「誰だ? それはこっちのセリフだ!」
「貴様……刀を持ちその出で立ちは攘夷浪士だな?」
「攘夷浪士? 侍ってことか……!?」
自分について聞かれていると思い、クラインは正直に答えることにした。
「その通りです! 俺は、侍道を志す男だ!」
「なるほど。では御用だな」
「えっ!?」
戸惑うクラインとは異なり男達は彼の両手をつかみ手錠をかけた。これにはクラインも、思わず抵抗する。
「な、何するんだよ!?」
「黙れ!! 攘夷浪士如きが我々に逆らうのではない!!」
「大人しく来てもらおうか……!」
「ちょっと!! 離せよ!! お前ら !!」
しかし、男達に取り押さえられて中々逃げ出すことができない。彼が力尽きるのも時間の問題だった。
(まずい……このままだと、捕まる! この世界じゃ侍は弾圧されているのか!? 俺の憧れは、この世界じゃ……)
続く不幸に勝てることができず、絶望しかけた彼に救いの手なんてない。そんな時だった。
「おい! アレはなんだ!?」
事態が大きく急変する。一人の男が大声をあげて見つけたのは球状の物体。それには、タイマーが仕組まれており全ての数字がゼロになったところで、
〈ドーン!!〉
大きな爆発を起こし周りを煙幕で覆ってしまった。
「な、なんだ……!?」
「爆破テロか!? とにかく身を守れ!!」
煙に動揺して混乱する男達を前に、クラインはと言うと
「こっちだ! 来い!」
「えっ!?」
ある男に連れられてその場から逃げることに成功する。そしてとある路地裏へと逃げ込み、追っ手からまくことができた。
「はぁ……どうやら逃げ切れたようだな」
「あ、ありがとよ! 助けてくれて!」
「気にするな、貴様の持つ自由を守っただけだ。弱きものを救うのも、立派な侍としての役目だからな」
「侍?」
その瞬間、クラインの心に電撃が走った。助けてくれた男は、とても頼もしく侍のような男だったからである。そう、彼を助けたのはこの世界の侍。桂小太郎だったのだ。
「アンタ、本当に侍なのか!?」
「侍じゃない!! 桂だぁ!!」
「えっ?」
こうして、二人の侍の運命が動きだす。同時に仲間達も次々とこの世界へとやってくるのである。
とうとうSAOレギュラーメンバーも銀魂の世界へ来てしまいました。ちなみに銀色の怪人は勘のいいひとならわかると思います。どう物語と絡むのか期待していてください。それでは、お盆開けにまたよろしくお願いします!!