前回のあらすじ
かぶき町に出来た謎の穴に落ちた真選組の近藤、土方、沖田は、まったく別の世界に転移してしまう。近藤、土方はその世界で、ゲームが好きな女子中学生の兎沢深澄と警察官として活躍する伊東鴨太郎に遭遇。一方で沖田は、自身の姉によく似た女性沖田ミツバと出会っていた。果たして彼らは無事に元の世界へと戻ることが出来るのだろうか……。
「何? 真選組の近藤勲に土方十四郎……深澄君。冗談はほどほどにしろと」
「だから本当のことなんだって! この二人は別の世界から来て、今帰れなくて困っているの! 伊東巡査だったら、私の話信じてくれるでしょ?」
「そんなSFチックな話だったら別だ。第一あんな人相の悪い男達が、別の世界の新撰組なわけがあるか。コスプレイヤーとかじゃないのか?」
深澄の話を聞いた伊東は、近藤と土方が別の世界の住人及び真選組の件をまったく信じていなかった。常に彼らへ疑いをかけており、単なる不審者として片付けている。
そんな伊東の疑い深い性格に対し、深澄はやきもきとした気持ちになり、土方は大いに怒りを覚えていた。なお近藤の反応は二人に比べて落ち着いている。
「あの野郎……覚えておけよ」
「おい、トシ。そう怒るな。伊東先生も悪気があって言っているわけじゃないはずだからな」
「だからアイツは、この世界の伊東だろ。そもそも近藤さん、いつまで先生呼びしているんだよ」
「あっ。つい癖でな」
つい元の世界の伊東と同じ先生呼びをしてしまう近藤。それくらい彼は、自分の知る伊東と姿を重ね合わせていたのだ。それは土方も同じ想いである。
「それにしても、まさかこの世界で出会えるとは思いもしなかったな」
「まぁな。生意気なのは変わらずと言ったところか」
元の世界で辿った彼の末路を考えると、二人は伊東が生きているだけでも十分だと感じていた。
一方で深澄はかっかとした表情となり、伊東に再度説得を試みている。
「だったら伊東巡査! 何か最近不思議な事件とか起きていないの? 近藤さん達みたいに、別の世界の住人が来たとか?」
「そんな同じようなことが起こるわ……」
何か非現実的な事件が無いか彼に聞いてみると、伊東の表情は途端に変わっていた。そう。彼にはあることが引っかかっていたのだ。
「ん?」
「えっ? まさか心当たりがあるの?」
「いや、そんなはずは……」
「おい、どうしたんだ。何か知っているなら言ってみろよ」
「一体何があったんだ?」
含みを持たせた言い方が気になり、深澄に続き土方や近藤も伊東の話に注目を向ける。すると彼は、ここ最近で起きたある一件を三人へ話すことにした。
「……不確定な情報ではあるが、まぁ深澄君になら話しても良いか。実はつい最近、死亡したはずの男性が、時折姿を見せていると通報があったんだ」
「えっ!? どういうことなんだ?」
「僕にもさっぱりだ。通報者の見間違いと信じたいところだが……同じような情報が数十件も来ている。どうも訳アリだと僕は思っているんだがね」
伊東が打ち明かした事件の概要に、三人は驚嘆とした表情を浮かべている。どうやら死亡が確認された一人の男性が、複数回程一般人に目撃されているとのこと。伊東は単なる見間違いではないと勘を働かせていた。
一方で近藤と土方は、この事件もサイコギルドが関係していると勘繰っている。
「おい、これもサイコギルドの仕業か?」
「これだけでは判断が付きづらい気もするが」
二人は小声でこっそりと意見を共有。疑い深くも一可能性として考えていた。
なお深澄は、きな臭い事件にどこかテンションを高めている。
「つまりゾンビが現実にも出て来たってこと? なんか興味深いかも!」
「おい、深澄君。この件に首だけは突っ込まないでくれよ。君のご両親や学校にも心配がかかるからな」
「分かっているから、巡査!」
俄然やる気を高める彼女に、伊東はそっと落ち着かせた。万が一事件を追って彼女の身に危険が生じないよう、入念に注意を加えている。深澄もしっかりと伊東に返事をした。
すると深澄はあることを伊東に伝えている。
「そろそろ友人が来る時間かも」
「友人?」
「そう! さっき招集をかけたからね。あっ。伊東巡査、この二人見張っていて! 私、その人のこと迎えに行くから!」
「お、おい! 深澄君!」
数分前に連絡をとったオカルト好きの友人との待ち合わせ時間が迫り、深澄は伊東に近藤らの見張りを急遽お願いしていた。彼の返事を聞かぬまま無理やり押し付けて、彼女は一旦公園を跡にしていた。行き当たりばったりな深澄の奔放さに振り回されながらも、伊東は一応彼女の言う通りに近藤らを見張ることにする。
「どうやらこの世界の先生は、深澄君と仲が良さそうだな」
「まぁ、市民を守るお巡りさんってところか。様にはなっていると思うがな」
近藤らは深澄と伊東の関係性を垣間見て、どこか一安心していた。何よりも伊東が一市民と良好な関係を築けている事にも安堵している。
そう二人で様子を見ていた時、伊東はふと土方達の方に目を向けていた。
「ところで……君達は本当に別の世界から来たのか?」
「何だよ今更」
「改めて確認をしたいんだ。本当に嘘は付いていないんだな?」
「あぁ、本当のことだよ」
「深澄君にも先生にも、何一つ間違いは言っていないからな!」
彼らに再度別世界から来たことを確認。近藤、土方共に即答して彼に返事をする。その二人の自信のある返事を聞いて、伊東はフッと少しだけ微笑んでいた。
「なら信じてみようか」
「随分と素直じゃねぇか。急にどうしたんだよ?」
「そりゃ深澄君の言葉を信じたからな。あの時と同じく」
「あの時?」
彼は頑なに認めていなかった土方らの主張を、あっさりと受け入れている。それも深澄のことを信じての決断らしい。
すると伊東は二人に、初めて深澄と出会ったことを話していた。
「僕がこの町に配属されて数週間が経った頃。彼女はゲームセンターで、不良達と揉めていたんだ。遊びに来ていた近所の子供達を泣かせたことが許せなくて、たった一人で複数の不良達と言い合っていた。その場は僕が介入して事なきを得たが、そこからよく彼女と関わるようになったんだ」
「なるほど。それがアイツとの出会いってわけだ」
「うむ。それからよく彼女は身の回りや学校での出来事を話してくれるようになったが、どうも心配なことばかりでな」
「心配とは……まさか家庭のこと?」
「概ねその通りだ。どうも僕の親と同じく、子供を抑圧して自身の理想を押し付けているようにも見えるんだ……本人は謙遜して軽く振る舞っているが、その実態は想像以上のプレッシャーと毎日戦っているようにも見えなくないんだ」
伊東は深刻そうな表情で、深澄との出会いや彼女から日々感じていることを土方や近藤に話していた。最初に出会った時から時折見せるしぼんだ表情を見ると、伊東は自身の子供の時のことを思い出すという。深澄も親から過度な期待を寄せられて、苦しめられていると。だからこそ彼女がプレッシャーに押しつぶされてないように、今もなおこうして交流を続けており、深澄の様子を見ているのである。お節介とも言えるが、変な気を起こされるよりはマシと伊東は高を括っていたのだ。
「僕は彼女に、僕のような想いを味わってほしくないんだ……」
自身の想いを声にして、最後にため息を吐いている。彼の思いやりを目の当たりにして、土方や近藤も同情。と同時に二人は威勢よく彼の背中を押していた。
「うむ、立派だ! それでこそ俺達の先……いや、俺達のような警察官に相応しい男だと思うぞ!」
「警察? でも君達は新撰組……」
「まぁ、俺達のいた世界の真選組は、武装警察だから同じようなもんだよ。肩入れし過ぎるのも良くは無いが、市民のことを心配するのは当然のことだからな。アンタが心配する気持ちもよく分かるよ」
自身も同じ警察官の括りと踏まえた上で、伊東の行動を褒めている。その純粋な気持ちをこれからも大事にするようにと二人は願っていたのだ。
そんな近藤らのアドバイスを聞き、伊東はある違和感を覚え始めている。
「ありがとう……だが少し気になることがある。さっきから僕のことを先生と言いかけるのは、一体どういう意味があるのだ?」
「そ、それは……」
そう。彼は近藤が時折言いかける先生という呼び方が気になっていた。これは二人の元の世界にいた伊東鴨太郎の呼び方であるが、当然この世界の伊東はその事情をまったく知らない。何よりも彼が道を踏み外して一時は敵対したこともある為、近藤は安易にその事情を話せないと察していた。
近藤が口をすぼめる一方で、土方は何食わぬ顔ではっきりと伊東に返答している。
「そりゃ俺達のいた世界に、アンタと同姓同名。はては同じような外見をした伊東がいたからだよ」
「な、何!? それは本当か?」
「ト、トシ!」
なんと近藤があれだけためらっていたことを、土方はスラスラと伊東に伝えていたのだ。おどけて困惑する近藤に対し、土方は堂々とした態度で伊東に自分達の知る伊東鴨太郎について伝えている。
「アンタと違い階級は幹部級。頭は良く、その上剣術も完璧。非の打ち所がない優秀な奴と言ったところか」
「そうか……別の世界にも僕に似たような人が。君達とは深い仲なのか?」
「チラッと会っただけだよ。今は違う場所にいて、しばらくは顔を見てねぇよ。多分もっと上を目指しているのかもな」
「なるほどな……」
ある程度配慮された土方の説明に、伊東は疑いをかけず素直に彼の話を信じていた。別の世界に似たような自分がいたことに対し衝撃を受けて、上手く呑み込めずにいる。それでも真選組としてのキャリアを着実に積んでいる事には、どこか納得した表情を浮かべていた。
一方で近藤は慌てて土方の口を止めて、伊東に気付かれないようにこっそりと話しかけていく。
「お、おい! トシ! 良いのか? こっちの世界の先生に、俺達の世界の先生のことを話して」
「良いんだよ。これで。どっちにしてもバレるのも時間の問題だったからな。それにアイツなら道なんか踏み外さねぇよ。誰かを思いやることを失わない限りは、このまま上に上がれると俺は思っているからな」
「ト、トシ……」
土方は包み隠さずに、言えることだけは話すべきと考えていた。数分話しただけではあるが、彼は伊東が自分達の知る伊東と同じ末路を辿るとは到底考えておらず、その純粋な気持ちを大事にすれば違った未来に向かえると確信している。だからこそ、最低限のことだけは教えても良いと思ったのだ。近藤も土方に諭されて納得している。
そう別世界の伊東について会話が交わされていた時、ようやく友人を迎えに行っていた深澄が公園に戻って来ていた。
「お待たせ~連れて来たよ!」
「深澄君。実に遅かったじゃないか」
「ごめん、ごめん。彼が道に迷ったらしくてさ。紹介するね」
すると彼女は、急遽呼び出した友人を近藤、土方、伊東に紹介している。
「えっ?」
「お、お前は……!」
だが近藤と土方は、その友人を見た瞬間に衝撃を受けていた。その友人の風貌が、とある人物と似ていたからである。赤い鉢巻を頭に巻き、上半身はジーンズ色のベスト、さらに黒いズボンとスニーカーを着用。何よりも顔つきが土方にも似ているのだが……そう。二人はかつて土方に宿ったもう一人の自分……トッシーと似た男性と鉢合わせしてしまったのだ。
「こちら私のゲーム友達、霧ヶ峰十五郎君よ!」
「どうも、霧ヶ峰十五郎です。ニックネームはトッシーと呼ばれています。どうぞ宜しくお願いします」
霧ヶ峰十五郎ことトッシーは謙虚に自己紹介を交わす。丁寧にお辞儀をして頭を挙げると、そこには微妙な表情を浮かべる土方の姿が目に入っていた。
「お前かいぃぃぃ!!」
「えっ!? 僕の顔に何か付いているでござるか!?」
「そういう問題じゃねぇよ! なんでお前までこの世界にいるんだよ! なんでこの格好がまかり通っているんだよ!!」
「一体何を言っているんだ、君は!?」
土方はトッシーと目が合うや否や、すぐに自身の本音をぶつけている。彼にとっても脳が混乱しており、どうトッシーと接して良いのか分からないのだ。それはトッシーにとっても同じことではあるのだが……。
混乱状態となっている二人を見て、深澄はようやくあることに気付いている。
「あっ! トッシーと土方さん、顔をそっくりじゃん! そっかあの時に覚えた違和感って、これだったんだ~」
「って、深澄君! そんな呑気なことを言ってる場合ではないんじゃ」
「早く止めた方が良いと僕は思うぞ」
「それもそっか。ちょっと二人共! 一旦落ち着きなさいって!」
土方及びトッシーの二人の顔が似ていることに、ようやく気付いた様子であった。しかし当の本人達の混乱は未だ続いており、深澄は近藤や伊東と共に二人を一旦落ち着かせることにする。
それからトッシーは深澄の説明で、土方と近藤が別の世界から来た人間と理解していた。
「いやーそれにしても本当に異世界の住人でござったとは! まるでアニメの世界から飛び出したみたいで、ワクワクしてきましたね!」
「うるせぇ。こっちはお前のせいで調子が狂ってんだよ……」
深澄同様に大きな興味を示すトッシーに、土方は塩対応で軽くあしらっている。まるで別の世界にいる自分と話しているようで、あまり調子が上がっていないようだ。
一方で近藤は、深澄にトッシーとの関係性について聞いている。
「深澄君。彼とは一体どういう繋がりなんだ?」
「ただ近くのゲームセンターでよく話す仲間だよ。ゲーマーとしてはまだまだ新参者だけど、漫画やアニメに関することには凄く詳しいんだよね! 今はアニメ声優を目指しているみたいだし」
「なんでそこまで似通ってんだよ」
トッシーの趣味や将来の夢まで明かしていたが、ものの見事に土方達の知るトッシーの特徴と一致していた。伊東の時と言い、あまりの偶然さにどこか恐ろしさすら覚えてしまう。
そんなトッシーを公園へと呼び、いよいよ本題に話は移っていく。
「それはそうと深澄君。彼を呼んで一体何を聞くつもりだったんだ?」
伊東が聞くと深澄は連鎖するようにトッシーへと聞いていた。
「それは近藤さん達を元の世界に戻す方法だよ。何か知っているんでしょ?」
「もちろんでござる! まずはこちらを見てください」
「なんだこれ? チップ?」
トッシーは自身の持っていた携帯電話を操作し、深澄らにある画像を見せている。それは虹色に輝く丸いチップのような物体で、真ん中には矢印のマークが刻まれていた。
するとトッシーは、そのチップについて解説していく。
「こいつは転移と呼ばれるアイテムで、普通はあるゲーム内で入手出来て、別のステージや隠し部屋に移動することが出来る必須アイテムでござる。しかしごく稀にこの写真のような虹色のチップを入手出来て、それを使ったプレイヤーはまったく違う世界に飛ばされてしまった……という都市伝説が出来る程、有名になったものでござる」
「こんなチップにそのような力が含まれているのか……?」
「でも、実際に虹色のチップを入手できた人はいないみたいなの。誰かが広めた噂話なのか、本当に起きたことなのかは……不明みたいだけどね」
「確証も無いものが尾びれ背びれ付いたようなもんか」
トッシーが紹介したチップは、所謂都市伝説のような怪しげなアイテムであった。ゲーム内にて移動するアイテムが、別の世界へ飛ばされるような話に、深澄らは冗談半分程度にその話を受け止めている。なおトッシーだけは、この話を本気で信じ込んでいた。
「つまり、これを入手すれば! 土方氏も近藤氏も無事に元の世界へと戻ることが出来るということでござる! それが一番の方法だと思うでござるよ!」
「おい、ちょっと待て。まさか本気でそれを探すつもりなのか……?」
「それがどうかしたでござるか? みんなで協力プレイすればきっと見つか――」
「んなわけないだろ!! 一体どれだけの時間がかかると思ってんだ!!」
ゲームでそのアイテムを入手しようと考えていたが、当然ながら土方はその案は却下している。第一に確証も無いアイテムに貴重な時間を使うわけにはいかず、現実的にも難しいと彼は考えていた。無論深澄や近藤らも同じ想いである。
「深澄君。これを本気で探すのは少し無理があると思うぞ……」
「そっか。じゃ、トッシー。別の方法ってある?」
「任せるでござる! 次は……」
とトッシーが次なる方法を言おうとした時だ。
「た、大変だ!!」
突然公園に一人の男が舞い込んでくる。七十代ほどの老人であり、彼は切羽詰まった表情で誰かに助けを求めていたのだ。
「ん? 誰だ?」
「深澄君の知り合いか?」
「いいや、全然」
「僕も知らないでござるよ」
深澄やトッシーの知り合いでもなく、二人は慌てふためく老人を見てつい心配をしてしまう。一方で伊東はすぐに老人へ駆け寄り、彼を落ち着かせながら何があったのか詳しく聞くことにした。
「お爺さん。どうかされたんですか?」
「ま、孫が……孫がゲーム機の中に吸い込まれてしまって!!」
「ゲーム機の中に!?」
「本当のことでござるか!?」
その返答を聞き、深澄、トッシー、伊東は騒然としてしまう。現実ではありえない出来事に老人の孫が巻き込まれた様子であった。困惑する三人に対し、土方と近藤は冷静にもある推測を立てている。
「おいおい、近藤さん。まさか……」
「今度こそサイコギルドの仕業か?」
そう。行方を追っているサイコギルドの仕掛けたことだと、勘でありながら二人は察していた。この件に関われば、自分達をこの世界へ送った原因にも近づけると僅かな希望を感じていく。
「おい、爺さん。孫とはぐれた場所はどこだ?」
「あっちのゲームセンターで……」
「よしっ、なら向かうか!」
こうして老人の案内の元、近藤、土方、深澄、伊東、トッシーの五人は、事件の起きたゲームセンターへと移動。あらゆる人物が巻き込まれながらも、事態は思わぬ方向へと向かっている……。
「そう……偶然なものね。アナタのお姉さんに私が似ているなんてね」
「そうでさぁ。自分でも信じられないくらいで……」
一方でこちらは、とある建物内の和室内にて、穏やかに会話を交わす沖田とミツバ。沖田は正直にも別の世界で生きているミツバに、自分の知るミツバについて打ち明かしていたのだ。自分にとってミツバこと姉上が大事な存在であったのか。そんな姉上と死別したことについても……。彼は自身を助けてくれたミツバに、大きく感謝をしていた。
沖田の正直な本音を聞き、ミツバは何一つ彼を疑わずに全ての話を信じていた。彼女はそっと優しく微笑みながら、再度沖田に話しかけていく。
「総悟君って言ったかしら。よっぽどアナタ、お姉さんのことが好きだったのね」
「そりゃ大切に俺を育ててくれた姉上ですから。もう会えないのが、残念ですが……」
姉のことを思い出し、どこか寂し気な表情を浮かべてしまう沖田。そんな彼にミツバは、自身の身に起きたことを交えながら、自分なりに彼の心に寄り添っていく。
「分かるわよ、その気持ち。私もつい最近、大切な人とお別れしたばかりだもの」
「えっ? そうなんですかい?」
「えぇ。ここの店の元オーナーで、私にとっての先生だった人よ。子供の頃からボードゲームとかビデオゲームを一緒に遊んでくれた御婆様で、あの人からは色んなことを教わったものだわ。つい最近亡くなっちゃったけど、御婆様の遊び心を引き継ぎたい想いで、このお店のオーナーになったのよ。だから……お別れは決して悲しいことばかりじゃない。また新しい自分に踏み出すきっかけになると私は思うわ」
そう。ミツバもまた沖田と同じく大切な人と死別している。幼い頃からずっと一緒だったゲームや遊びの先生から、ミツバは色んなことを教わっていたのだ。そんな先生が営んでいたゲームを楽しめるカフェを彼女は引き継ぎ、色んな子供達と遊びを交えながら交流を深めているという。
別の世界で健気に頑張るミツバの姿を見て、沖田も自然と安心感を覚えていた。
「素敵な夢だと思いやすよ……姉う、いやミツバさん」
「フフ。ありがとうね。御婆様のように色んな人達に、ゲームを通じて楽しんでもらうのが私の夢なのよ。折角御婆様からのデータも全部引き継いだわけですし……」
自身の夢まで大っぴらに語るミツバ。途方もない目標ではあるのだが、沖田は彼女なら達成できると内心で確信していた。
(例え別人でも、姉上が楽しく過ごしているなら、それで十分なんでさぁ)
沖田は内心で別の世界のミツバの幸せを切に願っている。
そう互いに想いを交わす一方で、ミツバは親切にも沖田が元の世界へ戻れる方法についてもさり気なく考えていたのだ。
「それにしてもどうしましょうか。元の世界に戻りたいのよね?」
「そうですねぇ。何か方法とか無いですかい?」
「ゲームだとあるけど、現実だとちょっと……」
やはり現実的な観点からは、何も思いついていない。それでも何か手立てを考えるミツバに、沖田は彼女のお節介な一面を垣間見ていた。
すると彼女はある一件を頭に思い浮かばせている。
「そういえば、アナタと同じタイプの人を見かけたかもしれないわね」
「えっ? どういうことですかい、ミツバさん」
沖田が詳しく聞き返すと、ミツバは神妙な表情でその不穏な一件について話していた。
「実はつい最近、誰かにナイフで刺されて亡くなった男の人がいたんだけど、その人のことを店の前で見かけたのよ」
「えっ? 亡くなったのにですかい?」
「えぇ。カフェに遊びに来ていた子供達を見ていて、少し不気味だったのよね。みんなには不審者に気を付けるようにって、厳重に注意をしておいたんだけどね」
それはドッペルゲンガーを思わせるような不穏な一件である。いまだ犯人が見つかっていない殺傷事件の被害者が、何故か生きており店の前までやって来たというのだ。ミツバが気付くとすぐに逃げたようで、彼女はその男が未だに気がかりとのこと。
(その男、まさかサイコギルドの一味か?)
ミツバの話を聞いた沖田は、すぐにサイコギルドの仕業と察していく。この別の世界で何かを目論んでいると内心で理解している。
やや暗い話題になりつつあり、ミツバは空気を入れ替える為、沖田にゲームの誘いを提案した。
「まぁ、ひとまず一息つきましょうか。総悟君はボードゲームとデジタル系のゲーム、どっちが好みなの?」
「いや、俺は別にいいでさぁ」
「遠慮しなくて良いのよ。トランプとかUNOとかお手軽に出来るゲームもあるんだから。折角なら一戦やってみない? 美味しいお茶も淹れてあげるから」
「じゃ、俺は……」
断ってもなお、まったく別のゲームを提案してくるミツバ。純粋無垢な無邪気さをちらつかせており、その本心はただ沖田と一緒に遊びたかっただけなのだ。沖田もミツバの勢いに押されて、そのまま彼女とトランプで遊ぼうとした……その時である。
「アレは近藤さんに土方さん?」
「どうかしたの?」
ふと見かけた窓から、勢いよく走り去る近藤と土方らの姿が見えたのだ。はぐれていた仲間の姿を見かけて、沖田は即座に立ち上がっていく。
「ごめん、ミツバさん! 俺、もう行かなくちゃいけなくて……!」
「フフ……どうやら事態が進展したみたいね。ほら、行ってきなさい! 元の世界に戻れると良いわね」
「えぇ、ありがとうございます。ミツバさん!」
ミツバも沖田の想いを察し、彼をにこやかな表情で送り出していく。彼女に背中を押されて、沖田は和室を跡にして退店し、土方と近藤らの跡を追いかけていく。
「いってらっしゃい。別の世界の弟君……」
ミツバは沖田とゲームが出来なかったことを残念に思いつつも、彼が元の世界へ戻れるように心から祈っていた。ただ一つやりきれない想いがあり、まだ沖田のことを何かしらの手で助けたいと思っている。
「私にも何か出来ることがあれば……アレ?」
そう思っていたミツバは、ふとあるものが目に入っていた。それは死別した先生が大事にしていた携帯用ゲーム機である。そのゲーム機が光っており、彼女は思わずそれを手にして起動していた。
「これは……!?」
果たしてそのゲーム機に写っていたものとは……。
「近藤さん、土方さん!」
「おっ、総悟!」
一方で沖田は、無事に土方と近藤に合流。彼らと一緒に並走していく。
「また真選組の仲間か?」
「おぉ! 近藤、土方と来たら、きっと次は別の世界の沖田総司でござるよ!」
途中で加わった沖田の正体に気付く、伊東とトッシー。後者は鋭くも沖田のモデルとなった人物を言い当てていた。
「えっ!? この人が沖田さん? 結構かっこよくない?」
「おい、見た目に惑わされるなよ。こいつはサディスティック星の王子だぞ」
「えっ? サディスティック?」
同じく深澄も初めて見た沖田の姿にテンションを上げていく。かっこよささえ感じていたが、土方はボソッと彼の本性を深澄に言いふらしている。
「てか、総悟! 一体全体、どこに行っていたんだ!?」
「悪ぃ。現地住民に助けられて、休んでいただけでさぁ。いや~美味しいお茶を飲みそびれて、なんてタイミングで走っているんですかい。アホ土方」
「おい、俺何一つ関係ないだろ!」
土方はさらに沖田に何が起きたのか聞いてみたが、とばっちりまで返って来ている。決してミツバのことは土方や近藤には伝えず、簡易的なことを彼は説明していた。その口の悪さに、近藤はどこか安心感を覚えている。
「ところで近藤さん達はどこに向かっているんですかい?」
「ゲームセンターだ! どうやらこのお爺さんの孫が、ゲーム機の中に連れ込まれたらしくてな」
「ゲーム機に? そんな摩訶不思議なことが?」
「起きてんだよ。きっとサイコギルドが絡んでいるに違いねぇ。おい、急ぐぞ!」
沖田も近藤らが向かっている場所が分かり、同じくゲームセンターまで向かうことにする。さらわれた少女に謎の殺傷事件、そして異世界へ転移するという都市伝説。多くの謎や事件が渦巻く中で、果たして真選組の三人は元の世界へ戻れることが出来るのであろうか。
今回はSAOの現実世界にいる伊東鴨太郎並びに沖田ミツバとの邂逅を中心に描いていきました。如何でしたでしょうか? どちらも原作では見られない中々にレアな光景が描けたと思います。さらにサプライズでトッシーも参戦! 深澄の友人枠で今回登場となりました。彼が本名として語った霧ヶ峰十五郎は、SAOのGGO編でキリトが土壇場で発した名前を模しております。
因みに今回ミツバの登場に当たって、沖田総悟以外の人物には会わせないように徹底した節があります。やはり別の世界のミツバと再会できたのは、沖田だけにしたいという思いがあった為ですね……。なのでミツバと総悟が出会えたことは、近藤、土方は恐らく知らないままとなりますね。ただし、ミツバ自体の出番は今回で終わりではございません。実は終盤にあることをするので、是非お楽しみにしていてください!
次回予告
沖田「いかにも怪しそうなゲームセンターですねぇ」
トッシー「任せるでござる!」
深澄「これ、転移のアイテムだよ!」
土方「まちやがれ、誘拐犯!」
伊東「大人しく観念しろ!」
近藤「お前もまさか……!」
?「そう。俺こそがMだ!」
次回 オフ会をするなら人の多い場所で!