かぶき町の朝。キリト達にとっては、この世界で二度目の朝を迎える。今日は万事屋としての初仕事の日。六人と一匹は、一層の気合を入れて朝食を食べていた。
「おおー! おいしいアルよ! アッスーの料理!」
「本当だな! これがラノベヒロインの女子力か!」
「はいはい。冗談はいいから銀さんも神楽ちゃんも温かいうちに食べなさいよ!」
アスナの料理を褒めまくる、銀時と神楽。そんな六人が食べていたのは、彼女が作ったサンドイッチである。油で炒めた鶏肉に野菜と合わせて挟んだ朝食は、銀時ら三人からも大絶賛で、みな喜びの表情を浮かべていた。
「でも、アスナさんの料理っておいしいですね」
「そりゃ、アスナにとって料理は得意中の得意だからな」
「そうですよ! ママの料理は宇宙一ですから!」
「もう~! 照れるじゃないの、ユイちゃん! キリト君!」
キリトらにも褒められて、まんざらでもなさそうな表情で照れるアスナ。その様子を見た銀時や神楽は、突如顔色を変えて皮肉を言い始める。
「ついでに年中発情しているヒロイン、宇宙一かもな」
「うさぎよりムラムラしてそうアル。ああいうのを欲求不満って言うアルよな」
「って、コラー!! 二人ともご飯中にそういうことは言わないの!」
根も葉もないことを言われて、アスナからツッコミを入れられてしまった。さらに、それを聞いたユイが勘違いしてしまう。
「ムラムラ? 一体ママは何が宇宙一なんですか?」
「ユイちゃん!? そこは気にしなくていいから! アスナさんが余計ショックを受けるだけだから!」
ユイの疑問を新八が抑え沈静化する。そんな万事屋の朝は、いつにもまして賑やかで楽しい。そうキリトは感じ取った。
(みんな楽しそうだな。これも万事屋のみんなのおかげかな……?)
そう心の中でそっと呟くと、彼は一足早くサンドイッチを食べ終え突然立ち上がる。
「さぁ! みんなも早く食べて仕事へ行こう!」
「おいおい、てめぇは少し張り切りすぎじゃないのか?」
「そんなことないって! ほら、行こう!」
銀時へ向けて屈託のない笑顔を見せると、彼も同じく微笑みで返す。こうして、万事屋は朝食を食べ終えて仕事への準備を始めたが、ユイがあるモノを窓から発見した。
「ん? アレはなんですか?」
彼女が見つけたのは、水色に光る物体が空を飛び続ける光景である。
「光が錯乱している?」
「アレは一体何なんだ?」
アスナやキリトは見慣れない存在に疑問視しているが、万事屋は全く動じていない。
「アレアルか? ただのUFOアルよ」
「た……ただのUFO!?」
「まぁ、この世界じゃ珍しくねぇんだよ。どっかの天人が不法入国してきたんだろ?」
「だから、そんな気にしなくていいんですよ」
「そうなのか?」
銀時曰く、この世界じゃよく見かけるUFOだと言われ、キリトらは反論のしようのない。一応気になってはいたが、今は仕事に集中して気を戻すしかなかった。
「よし、そんじゃ行くか!」
銀時の掛け声と共に万事屋を出た一行は仕事先へと向かう。キリトの仲間達が次々と、この世界へ来ていることなど知らずに――
かぶき町に現れては落ちている球体上の未確認飛行物体。住人達は天人の乗ったUFOだと思い込み大して気にしてはいないが、その中にはSAOの世界から来たキリトの仲間達が入っている。昨日の夜に落ちたクラインは、桂とエリザベスによって助けられ彼らの所属する攘夷党に加入。朝早くに落ちたシリカ、リズベット、ピナも妙と九兵衛に救われ現在は恒道館にいるが妙の作った料理、いや暗黒物質を食べてしまい気絶した状態である。そして、またもかぶき町の空に物体が出現した。水色に光るその中には、
「ここ……どこ? って、空!?」
シノンが入っていた。気を戻した瞬間に自分が空にいることや、身動きできない状態だと早くも理解する。
「早く止めないと……! でも、動けない……!」
住宅街の上を縦横無尽に飛んで行くシノン。徐々に落下していき地面に近づくと、彼女は思わず目を瞑った。
「もう、ダメ……」
そうあきらめた時、救いの手が現れた。
「……何?」
目を開けると何者かに抱えられて無事だった。周りを見ると江戸時代らしき民家の路地裏。上を見ると忍者のような白服に薄い紫髪をした女性がおり、彼女がどうやらシノンを墜落直前で助けたらしい。
「あ、あなたが私を助けてくれたの?」
「そうよ! ケガはなかった? 銀さん!」
「……銀さん?」
違う人の名前を言われて、シノンは反応に困ってしまう。この一言で女性は人違いしているのではないかと心の中で感じていた。一方、彼女を助けたのは言うまでもなく、銀時のストーカーである猿飛あやめ。歩いていたところ、メガネを落としてしまい視界がぼやけたままシノンを救出。髪の色が少し似ているだけで勝手に銀時だと思い込み今に至る。
「何か小さくなった? でもいっか! さぁ、私と共に行きましょう!」
「って待ちなさいよ! 私は銀さんって人じゃないわよ!」
「またまた~! その髪の色は間違えなく銀さんじゃないの! ほら、行くわよ!」
「違うってば! 離してよ! 早く!」
あやめの怪しげな雰囲気に危機感を感じ、シノンは抵抗し始めた。そんな時、どこからともなく赤い眼鏡が飛ばされて、あやめの顔に付けられる。
「よかった! これで銀さんの顔がはっきりと見えて……って誰だ! お前!」
「それはこっちのセリフよ!」
あやめの手のひら返しに、強くツッコミを入れるシノン。するとあやめは、彼女を解放して一旦距離をとると、にらみつけながら文句を言い始める。
「だいたいアンタ銀さんと同じ髪の色をしているのよ! ややこしくて~!」
「知らないわよ! だいたい銀さんって一体誰なのよ!」
文句をも言われシノンも怒りを露わにした時、もう一人の女性が二人の中に割って入ってくる。
「そこまでじゃ! 主ら!」
「ってまた女の人?」
二人の前に現れたのは、紅葉の柄が入った着物を着ている女性。吉原の番人、月詠である。あやめに比べて落ち着いており、大人びた印象をシノンは感じ取った。
「何よ、ツッキー! 割り込んでこないでよ!」
月詠の介入にあやめは一喝するが、彼女は動じずにフォローを続ける。
「落ち着くんじゃ。そもそもこの猫耳の子は空から来とるんじゃ。何か訳があるかもしれんじゃろ?」
「空から――」
この言葉を聞きシノンは思い出していた。銀色の怪人が言っていた別の世界の存在について。冷静になれば、メニューが開けないことや、前にいる二人の女性にHPゲージがついていないことが、別の世界である証拠を物語っていた。
「嘘でしょ……まさか本当に別の世界なの?」
頭の中での整理が追い付かない彼女は、額を押さえて落ち着こうとする。しかし、情報量が多くて全く混乱が収まらない。そんな時、月詠がシノンへ話かけた。
「主、ここで話すのもなんじゃ。一旦移動するぞ」
「えっ!? ちょっと!?」
「ほら、早く!」
あやめに抱えられたシノンは、そのまま彼女達に連れられていき住宅街を去っていく。こうして、吉原へと向かうのだった。
一方、万事屋一行は別の住宅街を歩いている。今回は依頼先が徒歩でも行ける距離だったので、定春は同行していない。すると、一軒の五階建てアパートへ辿り着く。最上階にある五階まで行き、依頼人の部屋にあるチャイムを鳴らした。
「ここが最初の仕事場所ですか?」
「そうだな。505号室で合っているよな?」
「確かそうですよ」
ユイや銀時が新八に再度確認すると、今度は神楽がキリトらへ話しかける。
「ここで今日は最初引越しの手伝いをして、荷物運びをするアルよ!」
「でも、五階からか……少し大変そうだな……」
「時間がかかりそうね……午後のベビーシッターまでに間に合うのかしら?」
キリトに続きアスナも高層階への懸念を示す。最初の仕事は引っ越しだったのが、最上階から運ぶので時間を多く有してしまう可能性があった。それを聞いたユイは、ある作戦を考えている。
「ここに配置すればいけるかも……」
「ん? どうしたアルか? ユイ?」
「いえ! 考え事です!」
まだ途中しか考えていなかったので、つい言われても否定してしまう。そう時間を過ごしていた時、ようやく依頼主が姿を現した。
「あっ、遅れてすいません! あなた達が万事屋ですね!」
「ええ、時間通りですよ」
快く迎えてくれたのは、引っ越しの依頼をしたタツヤさん。近くの会社に通う新人のサラリーマンで、この度アパートの再改造のために違うアパートへ引っ越すため、万事屋へ依頼を頼み込んだ。そんなタツヤは、会ってそうそう万事屋の新しい顔ぶれに気付く。
「って、アレ? 聞いていた人数よりも多くありませんか?」
「ああ、こいつらか? 昨日は入ったばかりの天人達だよ。こう見えて全員十八だからな」
「じゅ、十八!? でも明らかに小さい子が……」
「気にするな、十八だ。お前も知ってんだろ? 見た目は子供、頭脳は大人の名探偵〇ナン君を? アレと同じだよ」
「そ、そうなのか……?」
ユイへのごまかしを別の漫画であるコ〇ンで例えて、無理やりタツヤを納得させた銀時。彼の強引さには誰にもかなわない。
「名探偵コナ〇? どっかで聞いたことあるような、ないような……」
「気にしなくていいアル、アッスー。ただの漫画ネ」
「私と同じ……コナ〇君と似ているとはどういう意味でしょうか?」
「ユイちゃん。そこは触れなくていいから。少なくとも理解するのに九十巻以上はかかるから」
「というか、天人って言えばごまかしがあっさり効くんだな……」
仲間達は、微妙な反応のまま彼の行動を様子見しているしかない。タツヤ側も納得したところで、万事屋はようやく部屋に入る。
「リビングやほかの部屋は事前にまとめておいたんですけど、まだ自分の部屋の片づけが出来ていなくて……」
「へぇー。で、ここが自分の部屋か?」
「って銀さん!? 勝手に入っちゃダメじゃ――」
と彼の自室に入った時である。意外な趣味を目の当たりにすることになった。
「えっ!? ここは……」
「アイドルグッズ!?」
そこには、大量に貼られた一人のアイドルのポスターグッズがある。紫髪のサイドテールに黄色の振袖を着た女性アイドルで、どの写真にも楽しそうに歌っているのが印象的であった。そう、彼はアイドルオタクだったのだ。
「こ、これって……まさかあなた! お通ちゃんの大ファンなんですか!?」
「そうなんですよ! でもいわゆる俺は隠れオタクってヤツであんまり人には言っていないんですけど……」
うっかりとバレて自白する依頼者。そんな彼が好きなアイドルは、お通ちゃんとして愛称を親しまれている寺門通である。この世界では、メジャーなアイドルで認知度も抜群に高い。銀時ら万事屋はもちろん理解していたが、キリトら三人は全くわかっていない。
「この子があなたの応援しているアイドルってこと?」
「そうです! 江戸のトップアイドルとして有名なんですよ!」
「へぇ~この子が今売れているアイドルなのか」
普通の反応をするキリト達。三人共にアイドルには疎いのだ。ただし、万事屋には一人大きくテンションの上がっているメンバーがいる。
「あの……すいません。あなたもお通ちゃんの大ファンなんですか?」
声質を震えて口に出したのは意外にも新八であった。
「はい、もちろん! って、あなたはまさか!?」
「そうです! 僕もファンであり、そして親衛隊の隊長ですよ!!」
そう。今までキリト達に口では言わなかったが、彼は寺門通のファンであり、親衛隊のリーダーを務めるほどお通の大ファンだったのだ。その熱狂振りは凄まじく、多くのファンからも憧れの的とさせるほどである。依頼者ももちろん知っていた。
「まさか、あなたのような人にここで会えるなんて!」
「こちらこそ理解してくれるファンと出会えて嬉しいよ!」
嬉しさのあまり二人は互いの手を握り、出会いを分かち合っている。一方、新八の一面を知ったキリト達は色々と衝撃を受けていた。
「えっ? 新八君ってアイドルのファンだったの……?」
「ファンどころか、親衛隊のリーダーを務めるほど心酔しているアルよ」
「そうなのか!? 結構意外だな……」
「人は見かけによらないとはこのことですね!」
「おい、てめぇら。新八にどういう印象を持っていたんだよ」
新八の隠された一面にただ唖然とするしかない。そんなお通への談義は後に回すとしてまずは、荷物を運び出すのが優先的だった。
「家具や割れ物は丁寧に運ぶとして、軽いもんはまとめて運ぶことはできねぇのか?」
「できるなら効率よく運びたいよな」
銀時やキリトが荷物運びに対して知恵を絞り考える中、突如ある作戦を閃いたユイが手を挙げる。
「あの……みなさん! 私に考えがあります!」
「考え? ユイは何か思いついたアルか?」
「この五階分の差を埋めて作業を効率化するには、パパとママの羽が必要になるんです!」
「羽……俺達が空から運ぶということか?」
「そうです! 二人が空から待機すれば効率よく荷物を運べると思うんです! どうでしょうか?」
ユイの熱意の込もった作戦。それはキリトとアスナの持つ羽を有効的に使い、時間短縮を図るモノであった。この彼女の考えを聞き、仲間達は迷いなく賛成する。
「確かにその方がいいかもしれませんね」
「中々いい考えよ! ユイちゃん!」
「さすがユイアル! 本当にコナ〇君みたいね!」
次々と褒めるアスナ、新八、神楽に続いて銀時やキリトもお礼を口にした。
「そこと比べてどうすんだよ! まぁ、いいんじゃないのか?」
「ありがとうな、ユイ。ナイスな考えだよ」
「はい! どういたしましてです!」
感謝を伝えられたユイは、心から嬉しく思い笑顔を見せる。そんな万事屋の作戦を聞いていたタツヤは、そのチームワークに驚いていた。
「これが万事屋の作戦……というか親衛隊長って働いていたんだな」
「驚くところそこですか!? タツヤさん!?」
さらに新八が働いているところにも驚いている。遅い反応であった。
ユイの決めた作戦で役割が振り分けられた。荷物の整理や準備を新八と依頼者のタツヤ、キリトとアスナは羽を使いベランダから荷物を運び、地上で待っている銀時と神楽とユイの三人へ渡すリレー式の方法である。ちなみにユイは作戦立案者ということで、荷物を確認する監督も務めていた。
「はい、できたよ!」
「ありがとうございます! タツヤさん!」
荷物の判別作業をして段ボールへ詰めると、新八はベランダへ向かいキリト達へ渡す。運ぶのは軽い物からで、重いものや割れ物注意のものはすでに銀時達が地上に向かうついでに運んでおり、家具は後回しである。
「キリトさん、アスナさん。頼みましたよ」
「「OK!」」
新八から受け取った段ボールを受け取り二人は地上で待機している銀時と神楽の元まで運ぶ。
「それじゃ、銀さん。この荷物は頼んだよ」
「あいよ」
「神楽ちゃんもよろしくね」
「任せてアル! どんどん持ってくるヨロシ!」
銀時らは段ボールを受け取るとユイのいる場所まで運んで置いた。こうして荷物運びを進めていく。階段を昇り降りするよりもよっぽど効率が良い作戦である。
「これなら、予定より早く終わりそうだな」
「そうね。さすが、ユイちゃんね!」
万事屋の仕事に手際よく進めるキリトであったが、ふと空を見上げた時だった。またも元の世界にいる仲間のことを思いだしていた。
「ん? どうしたの、キリト君?」
「いいや、なんでもないよ。仕事に戻ろう」
心配する思いを誤魔化してキリトは再び五階のベランダヘ飛ぶ。こうして引っ越し作業は順調に進んでいく。
一方シノンはというと、月詠とあやめに運ばれて吉原へと連れてこられ、茶屋である「ひのや」へと辿り着いていた。
「ここは?」
「わっちの恩人が営んでいる茶屋じゃ。ちと日輪を探してくる。猿飛、こやつを見てもらえぬか?」
「わかったわよ」
そう言うと月詠は、店に入って日輪を探す。一方、シノンは辺りを見渡し本当に別の世界なのか確認する。江戸の遊郭を思わせるような街の外観に人々の服装の違い。この世界が仮想世界でも現実世界でも違う別の世界である証明に繋がった。
「やっぱりね……」
「どうしたのよ。急に改まっちゃって」
「ここは私のいた世界じゃないわ……」
「それってどういう――」
あやめが聞こうとした時、ちょうど店の奥から月詠と日輪が現れる。
「あら? これが月詠の言っていたお客さんね。なんだか昨日の子達と雰囲気が似てるわね」
「昨日の子達?」
「そうじゃな。確かキリトとアスナとユイの三人じゃったかな?」
「えっ……」
二人の言葉を聞いてシノンの表情が大きく変わった。さらには、あやめも表情を変えて焼きもちを露わにし始めた。
「あっ! あの三人ね! 万事屋に入ったっていう! ったく、あのリア充が新メンバーなんて! 私はまったく認めな――」
「ちょっと待って!」
あやめの言葉に割り込んだシノンは、月詠に本人かどうか確認する。
「もしかしてその人達って、耳がとんがっていて格好がファンタジー風じゃなかった?」
「確かそうじゃったな。って、まさか主は知り合いなのか?」
「そうよ! 私はキリト達の仲間よ!」
「仲間!? ということはあなたもリア充ということね!!」
「違うわ」
あやめの勘違いに耐え切れず、シノンは塩対応で返す。だがこれでキリトら三人の安否がわかり、彼女は安心する。表情も柔らかくなったので、後は月詠達が相手することにした。
「そうか……なら、ゆっくり話すか。日輪、少し席を借りるがいいか?」
「もちろんいいわよ! 私はまだ仕事があるからこの場を離れるけど自由に使っていいわよ。さぁ入って! 猫耳のお嬢ちゃん!」
日輪に案内されてシノンは茶屋の席につく。背中に装備していた大型の弓ははずして、近くの椅子へ置いた。同時にあやめと月詠も座り、日輪は奥の部屋へと戻る。こうして三人の話し合いが始まった。
「ところで名乗り忘れたな。わっちの名は月詠じゃ。でこやつが」
「猿飛あやめよ。気さくにさっちゃんとかあやめって呼んでもいいわよ。それであなたは?」
「私はシノン。本名は朝田詩乃って言うのよ」
「えっと、どっちで呼べばいいんじゃ?」
「じゃ、シノンで」
「そうか、わかった」
まずは互いの名前を紹介して、それから本格的な話へと入る。まずは、あやめから話が振られた。
「それで、シノンちゃんは別の世界から来たっていうけど、その辺はあのリア充達と同じってことでいいわよね?」
「そうね。月詠さん達はどこまで知っているの?」
「軽くしか銀時からは聞いていないぞ。仮想世界から来たとか、謎の少女によってこの世界へ来てしまったくらいじゃな」
「謎の少女? 私達は、銀色の怪人によってこの世界へ来たんだけど」
「何ですって? じゃ、送った相手が違うってこと?」
「そういうことになるな。もしかするとその少女と怪人は仲間かもしれん。後で銀時達に伝えてみるか……」
話は落ち着いた雰囲気で静かに進む。シノンがこの世界へ来た理由や、月詠達がキリト達とどんな関係を持っているかが話の主軸であった。
「でも、少し安心したわ。この世界にもキリト達が来ているなんて」
「そうか。主らは知り合いじゃったな」
「確かにね。一人でいるよりみんなでいた方が安心するわよね」
「一人……」
あやめの一言を聞いたシノンは急に黙り込み場の空気を少し重くしていた。
(アレ? これ地雷ふんじゃった?)
(何をしているんじゃ、猿飛! シノンが黙り込んでしまったぞ! どう切り替えるんじゃ!)
心の中でまずいと感じた大人の二人は、どう立て直そうとか頭の中で模索する。しかし、シノンが再び口を開いて、その沈黙を破った。
「ごめんね、月詠さん。あやめさん。少し嫌なことを思い出しちゃったけどもう大丈夫よ」
「そうなのか? 何かこちらもすまぬことをしたな」
「いいのよ。私だって色々あったけど、キリト達と出会えて変われることができた……ただそれだけなんだから……」
シノンはふと切なそうな表情で仲間を想っていた。彼女はSAOのレギュラーメンバーの中で一番遅い加入であり、一つの過去に悔み続けていたがキリトを始めとする仲間があってこそ成長した人間である。だからこそ仲間の存在を大切に思い、今を生きているのだ。その言葉と想いは月詠やあやめにも届いている。
「そうか。主も仲間を大切にしているんじゃな。ならばわっちもあのチャランポランと出会っていなければ今頃どうなっていたかわかりゃせんな」
「月詠さんもそんなことがあったの?」
「じゃな。人の縁ほど大切な物などありやせんよ」
そう言って月詠は手にした煙管から煙を吐き空へと飛ばす。その表情は優しく微笑んでいる。彼女もシノンと同じく銀魂のレギュラーメンバーで遅めの加入であった。今でこそ酒乱でクールボケのイメージのある彼女だが、銀時と出会う前は孤独のままに戦い抱え込む吉原の番人だった。そこから銀時ら万事屋と出会い多くの苦難を乗り越えて今の自分を受け入れている。その点を見れば、シノンと月詠は共通点の多い人間ともいえる。一方であやめもこのシリアスな雰囲気に乗り過去を語りだした。
「そうね。信じられる人間がいるっていいわね」
「猿飛さん? まさかあなたも?」
「ええ、そうよ。私だって銀さんと出会ったから全てが変わったわ。時間があれば銀さんの家の天井や床下に隠れていつも見守っているほど彼に心酔しているんだから!」
「へぇ……いつも見守――ってちょっと待ちなさい! 今何て言ったのよ!?」
シノンは耳を疑い顔色を急変させた。正気な人間だとは思えないセリフが、あやめの口から出てきたからである。一方、彼女は何一つ顔を変えることなく答えた。
「えっ? 銀さんをいつも監視していることを言ったのよ。恋する乙女にとってあたりまえじゃないの?」
「それを私のいた世界ではストーカーというのよ! まさか、猿飛さんってストーカー!?」
「そうよ。それが何か?」
「ハッ!?」
一斉悪びれずにストーカーだと認めたあやめに、シノンはより混乱してしまう。彼女もストーカーの被害者としての経験があるので、あやめにできるかぎりの注意を促そうとする。
「あなた、やめといた方がいいわよ! そんなことして……!」
「いいや! やめないわよ! この世界では、私が知っているだけで三人のストーカーがいるのよ! それくらい好意的なの! それくらい許させる世界なのよ!」
しかし、全く通じていなかった。あやめの開き直った姿を見たシノンは唖然としてしまう。そして、震えた声で彼女は呟く。
「狂ってるわ……」
先ほどのしんみりした雰囲気とは異なりあやめのカミングアウトで一変し、騒がしくなった。すると、月詠はシノンへフォローを入れる。
「心配せんでいいシノン。こやつがストーカーしているやつは十分強い。いつも跳ね返しておるぞ」
「で、でもいつ血迷った行動をするかわからないわよ!」
「そこも大丈夫じゃ。こやつはMで自分からは過激なことはしない」
「そうよ! 銀さんが追い返すたびに私のマゾが刺激されるのよ! だから余計に近づきたくなるのよ! まさにドMスパイラル!」
「それを狂っているって言うのよ!」
結局シノンが激しくツッコミをしただけでこの話は終わった。騒動も一段落したところで彼女が気になったのは、先ほどから話題に上がっている銀さんという人だった。
「ところでさっきから言っている銀さんって一体誰なの?」
「銀さん!! それはね――」
「あやめさんは落ち着いてからでいいから。それで月詠さん、銀さんって言うのはどんな人なの?」
さりげなくあやめではなく月詠へ聞いたシノン。もちろんこの扱いをあやめが黙って見過ごしたりはしない。
「何、否定しているのよ!」
「いいから、主は一旦落ち着くんじゃ。で、銀時じゃな……」
結局月詠からも一喝されて、彼女が答えることになった。
「銀時という男は、つかみどころのない男なんじゃ。普段はだらしないがその行動力や強さは常人を越えていて、幾度も守るために戦ってきたんじゃ」
「そんな極端な人間が本当にいるの? 信じがたいわね?」
話を聞いてみると前半と後半でかなり落差のある男であり、シノンも半信半疑である。
「そうじゃな。そんな男が今キリトら別の世界の人間の世話をしている。信じられるか?」
「うん……やっぱり信じがたいわね。でも、キリトがその銀時って人を信じようとしたことはきっと良い人だと思うわ。私も一度会ってみたいわね、銀さんって人と」
どうやらシノンにも少しだけだが銀時の魅力が伝わったみたいだ。
「そうか、ならよかった」
話を終えると月詠とシノンは互いにそっと微笑んだ。そんな二人の様子を見てあやめは既視感を抱き始める。
「にしてもアンタ達、雰囲気が似ているわね」
「そう? どこらへんが似ているんじゃ?」
「そりゃクールで大人びたところでしょ! 外見は違っても姉妹みたいよ!」
「姉妹ね……月詠さんがお姉さんなら楽しいかもね」
「わっちもじゃ。主とはいい関係を築けそうじゃ」
互いの顔を見てより信頼を深める月詠とシノン。あやめの言う通り雰囲気の似た姉妹にも見えなくはなかった。そんな月詠への興味を深めるシノンだったが、あやめには厳しめの言葉で返す。
「でも、あやめさんとはあまり合いそうにないわね。ストーカーをしていること自体理解できないもの」
「なんとでもいいなさい! あなたが何を言おうと私は止められないのよ!」
「シノン。こういう時は黙るのが大人の流儀じゃ」
「わかっているわ、月詠さん」
「ちょっと! 聞こえているわよ!」
早くも月詠とも意見を合わせて否定するシノン。一方、あやめもムキになって彼女のある部分に嫉妬心を抱く。
「そもそもあなたズルいのよ! なんで、人間の耳じゃなくて猫耳になっているのよ! どんなキャラ付けよ!」
あやめが名指ししたのは、シノンの猫耳である。彼女は他の妖精系アバターと違いとんがり耳の代わりに三角耳が生えておりそこから聴覚を感じ取っていた。ただしキャラ付けで彼女は決めてはいない。
「キャラって……そもそもこれは私の主要武器である弓を生かすために選んだアバターよ! 萌えとか選んだんじゃないのよ!」
「なんですって!!」
あやめとシノンの一触即発した場に月詠が再び介入する。
「落ち着きなんし二人共。それとシノン。アバターということは、現実の肉体があるということじゃな?」
「――そうね。普段の私はこんな派手な髪の色じゃないし普通の人間の耳よ」
「そうか……では仮想世界以外では普通の人間の耳なんじゃな」
「そうよ。そもそも現実でも猫耳の方がいないでしょ?」
「いいや、こっちの世界ではそんな人腐るほどいるわよ」
「えっ!? そうなの!?」
あやめの言葉にシノンが戸惑いを見せる。ここで彼女はこの世界の実情を知った。
「その通りじゃ。この世界は宇宙へ開国した江戸時代……故に猫耳をつけた宇宙人もざらにいるんじゃよ」
「宇宙へ開国した江戸!?」
予想の斜め上を行く世界観にシノンは衝撃を受ける。しかしこれで町並みのつじつまが合う理由にもなった。よく見ると江戸時代とは思えない装飾品や派手な看板。さらに上にはシェルターのような巨大な屋根があり、異様な風景を漂わせる。
「だからあんな機械の屋根があるの?」
「そうじゃ。他にも高層ビルや宇宙船があるのも、天人と呼ばれる宇宙人がその技術を持ってきてくれたおかげだからのう」
「そうだったのね。だからこんな町並みに……ということは私のように、猫耳が生えている人もいるってことよね?」
「そうよ! 知り合いにいるわよ! 猫耳を生えたおばさんが!」
「おばさんでも存在していることが凄いと思うわよ」
世界観を理解し受け入れたシノンはすっかり警戒心を紐解いている。そんな彼女にあやめはある忠告を促す。
「ところで気を付けなさいよ。この世界に来た以上は猫耳を生やしたキャラはモテ遊ばれるんだから。マタタビしかり、猫じゃらししかり」
「そんなことで私は壊れたりしないわよ」
「本当~?」
あやめは怪しむがシノンは自信満々に答える。その時、三人の前にある声が聞こえてきた。
「待て~!」
「ん? この声は晴太か?」
「せいた……? って、誰?」
「日輪さんの息子よ。思春期真っ盛りの子供と思っておきなさい」
晴太が何かを追いかけている様子だった。すると店に一匹の野良猫が入ってくる。
「ん? 猫?」
「野生種のようじゃな?」
「ちょっと待った! 月詠姐達!」
同時に晴太も店の前に立った。どうやら猫を追っていたらしくその手には〈猫注意〉と書かれた袋を持っている。一方、野良猫は自分の仲間だと思い込みシノンへ近づいてじっと動きを止めた。
「えっ!? これって――」
「捕まえた!!」
と次の瞬間、晴太は袋に詰めてあった粉を手一杯に握り猫へ向けてなげつけた。
「「「きゃっ!!」」」
突然舞った粉を吸って咳き込む三人。周りには粉が舞っている。
「うわぁ! みんな大丈夫!?」
「見てわからぬか! 大惨事じゃ! ケホ!」
「あんた! 急に何をするのよ!」
「野良猫を捕まえようと思って、友達から借りたマタタビを使ったんだけどさすがに量が多すぎたよ! 本当にごめん!」
「「マタタビ……!?」」
それを聞き二人の大人は嫌な予感を察した。野良猫は動きを止めたが、それと同じくシノンもマタタビを浴びて以降一斉言葉を発さずに動いていない。それどころかずっと下を向いたままである。
「ってシノン! 大丈夫か!?」
「アンタ! 気は確かよね!?」
彼女の元へ近づき異常が無いか確認したが、聞こえてきたのは
「ヒック……!」
イヤなしゃっくりだった。この一言で二人は感じ取る。シノンの身に起こったことを……そして彼女は顔を上げた。
「大丈夫でしゅよ~! 私は~!」
「「……」」
二人はこの光景に固るしかなかった。シノンがマタタビで酔ったからである。顔つきは人が変わったように柔らかくなり、表情も子供っぽくて陽気。フラフラした足取りに真っ赤な頬っぺたとクールキャラとは思えない変貌ぶりを露わにした。
「ってちょっと!? 完全に酔っているじゃないの!?」
「ええ!? 猫耳を付けた子にもマタタビで効いちゃうの!?」
「この子はちょっと特別なんじゃ! じゃなくて、おーい! しっかりするんじゃシノン!」
必死に呼びかける月詠であったが、被るように浴びたマタタビのせいでシノンは中々正気に戻らない。
「わかっているわよ~! 月詠さ~ん! それよりも――」
するとシノンは大胆にも月詠に抱きつきハグをし始める。
「な……これは?」
「私ね~! 月詠さんと遊びたいの~! 遊んでほしいにゃ~!」
「って何か子供っぽくなっているわよ!! 酔ったらこの子、子供に戻るタイプよ!!」
どうやらシノンは酔うとクールさを忘れて、子供のように甘える性格になってしまうみたいだ。無邪気な目をキラキラと輝かせて月詠を見つめてくる。あながち、数分前に言った姉妹のような光景である。
「わ、わかった。ひとまず中へ入ろうか?」
「うん! 早く、早く!」
「ってアンタ達! 待ちなさいよ! 万事屋に伝えるんじゃなかったの!?」
とあやめがシノンの手を握った時である。
「ふにゃ~!!」
「ぎゃゃゃ!!」
尖った爪を使ってシノンはあやめを攻撃、追い払ってしまう。子供に加えて猫っぽい行動もする。
「猿飛さんは黙っていて! 今は月詠さんと遊びたい気分にゃんだから! それじゃ行こう! 月詠さん~!」
「ああ、そうじゃな」
戸惑いつつも今は下手に刺激せずに、月詠はシノンを連れて奥の部屋へと行ってしまった。
「さっ、さっさん!? 大丈夫!?」
「……ドMなのに……なんでこんな気持ちになるのよ……」
あやめは複雑な気持ちを交差させて今は倒れ込むしかない。そこへ同じくマタタビで酔った猫も転がり込んできて、彼女の顔に落ちてくる。まさに踏んだり蹴ったりで、一番損な役回りをしたあやめであった。こうして、シノンも無事? この世界の住人と仲良くなった……はず。
月詠が酔わない代わりに誰がオチを決めると思う?シノンだ!…改めて全国のシノンファンのみなさん。ごめんなさい…ケットシーって猫の妖精だしマタタビのようなネタは多分ないと思ったので、意表を突いてみました。温かい心で許してください。それでは、次回は風の妖精×武装警察でお送りします。お楽しみに!