キリト達が万事屋に入り早二日。初仕事である引っ越し作業は、ユイの立てた作戦によって効率良く進み、ようやく全ての荷物を地上の広場へと運び出すことができた。
「よし、これで運び終えたアルな!」
神楽は最後の家具を置くと汗をぬぐう。段ボールに詰められた荷物と家具が広場に集まり、依頼者を除く万事屋の一行はその場へと集まっている。
「これで引き下げ作業は終了ですか?」
「そうだな。ユイのおかげで時間短縮できたよ。ありがとう」
「どういたしましてです!」
キリトに褒められて思わず笑顔を浮かべるユイ。初めての仕事をこなし嬉しく思っている。早めに終わった引き下げ作業だったが、まだ仕事自体は終わっていない。
「おい、てめぇら。喜ぶのはまだ早ぇよ。部屋の掃除をするために戻るぞ」
「えっ!? あっ、まだ終わってなかったのね……」
「でも、まだ午前中ですし午後の仕事までには終わると思いますよ」
まだある仕事を知り、疲れを露わにするメンバーもいた。そんな時、ベランダから依頼者が声をかけてくる。
「そうです! それに後数分すれば兄貴が差し入れの弁当を買ってトラックでやってくるので、一緒に頑張りましょう! みなさん!」
彼から飛び出したのは差し入れの話。それを聞き銀時達の表情が変わる。
「おい、てめぇら! さっさと掃除して昼食にありつくぞ!!」
「弁当が私を待っているネ! 乗り遅れんなよ!」
「おいぃぃぃぃ!! あんたら! 食い意地が過ぎるよ! 運んだ荷物は誰が見るんですか!!」
「新八がやっとけアル!!」
「結局僕ですか!?」
銀時と神楽はやる気が復活し一目散に五階まで階段を駆けていく。新八は止めることができず勝手に荷物の見張りを任されたのだ。
「はぁ……うちのメンバーは新メンバーを追加してもマイペースなんだから……」
「そう気を落とすなよ、新八。それに銀さんや神楽が食い意地を張るのはいつものことだろ?」
「出会って二日でもう二人の個性を理解したんですか!?」
「まぁ、そうかな? それで、荷物の見張りは――」
「はい! 私も新八さんと見張るので、パパとママは銀時さんと神楽さんを押さえてくださいね!」
「わかった! それじゃ頼むよ」
「行ってくるわね!」
一方で、キリトとアスナも羽を広げて空を飛び依頼者の部屋である五階のベランダまで飛んだ。銀時らと比べるとかなり落ち着いている。結局荷物の見張りは新八とユイが担当し、部屋の掃除は四人に任せることになったのだ。
「行ってらっしゃい~!」
「あの二人を落ち着かせてくださいね!」
仲間を見送ったところで二人は、近くにあったベンチに腰かけて休み始める。すると、新八がユイに話しかけてきた。
「ふぅ……どうですかユイちゃん? 万事屋として初仕事は?」
「とっても楽しいですよ! 働くことは喜びの連続ですね!」
「ハハ……社畜が聞いたら発狂しそうなセリフだな……」
ユイの疲れのない笑顔に新八は苦笑いで対応する。しかし彼女には、もう一つこの万事屋を通してある思いが生まれていた。
「ところで、ユイちゃん。これから万事屋としてやっていけそう?」
「はい! だって、私にとって現実の世界は初めてで、折角みなさんと一緒にいられるなら元の世界に帰る前に色々と体験したいんですよ……」
「……そっか。ユイちゃんは仮想世界しか生きられないんだよね……」
そう言った彼女の表情は悲しそうに見えた。ユイはキリトやアスナと違い現実の肉体が無いため現実世界そのものが彼女にとってみな新鮮に感じている。だからこそ、この世界で生きることに喜びを覚えて、万事屋として使命を果たそうと張り切っているのだ。
「だから、新八さん! これからも私達をよろしくお願いしますね!」
「もちろん! 帰れるまではみんなの世話をきちんとするよ!」
「ありがとうございます!」
訳を聞いた新八も笑顔で返して彼女を安心させる。しっかり者で常識人の二人は、この一件でより強い仲を紡いだのだ。すると、ユイはさらに質問をする。
「あっ、そうでした! 質問したいことがあったんですよ!」
「うん、いいよ。答えられる範囲ならなんでも教えるよ」
「では……なんで、お通さんの曲はいつもピー音がつくんですか?」
「……えっ?」
唐突な問いに戸惑いを覚える新八。ユイの言う通り、お通の曲はどれも放送禁止用語や毒のある言葉が目立っている。さっきの引っ越し作業でそれを知ったらしく、彼女もつい気になっていたのだ。
「気になってしょうがないんです! 教えてもらえませんか、新八さん!」
「って、ユイちゃん! 一旦落ち着こう! これは深いわけがあって――」
と対応に困った新八は偶然にもあるモノを発見する。
「ん? あっ、ユイちゃん! アレUFOじゃない!?」
「えっ!? またですか!?」
空へ指を指してユイの興味を変えさせた。すると上空には緑色に光る未確認飛行物体が出現しユイの興味が変わる。彼女は上空を眺めてその不気味さに惹かれていた。
「本当ですね……! そういえばこの世界には宇宙人が存在しているんですよね? ということは、この世界での技術ってどうなっているんでしょうか?」
(よし! 興味が変わった! ここは思い出さないように話さないと!)
こうして新八は、ユイにこの世界の技術力について話して話題を変えることに成功する。しかし二人は気付いていない。空に光る物体には仲間が入っていることに――
「止めてぇぇぇ!!」
緑色に光る球体にいる一人の少女。その正体はキリトの義妹であり仲間でもあるリーファがいた。羽を使っても自己制御できずに、絶望感を漂わせる。
「このままじゃ建物に落ちちゃう……!」
彼女の真下にあるのは広いお屋敷。そこで落下を覚悟して目を瞑り、希望を諦めてしまった。しかし、
「……アレ? どうなっちゃったの?」
落下する直前に自分の動きが止まる。気になって目を開けるとそこには庭園のような風景があり、上へ向けると自分が男性に抱えられるのが見えた。
「おや? 大丈夫かい、お嬢ちゃん?」
助けた男性はゴリラのようないかつい印象の男である。そう、その正体は近藤勲。素振りの稽古中にリーファを見つけて助けたらしいが、彼女は近藤の姿に驚きを隠せなかった。
「えっ?」
なぜなら――近藤は何も履いていない全裸状態だったからだ。
「い……いやぁぁぁぁぁ!!」
「ブホォォォ!!」
えげつないものを見たせいで混乱したリーファは、近藤の顔面を殴り彼を気絶させてしまう。その直後に羽を広げて脱出し、近くの屋敷へ逃げ込んだ。
「誰か! 誰か助け――」
助けを求めるため戸を開け部屋に入ったが次に見たのは、
「おい。何の騒ぎだ? 俺の昼食を邪魔するやつは?」
大量のマヨネーズを白いご飯にかけて食べる土方十四郎の姿である。この光景にまたもリーファは唖然として衝撃を受ける。
「う……うわぁぁぁ!」
たまらずその場から逃げ出し部屋を去った。廊下を走ろうとするとそこでまた男と会う。
「くたばれ土方……くたばれ土方……くたばれ土方……」
釘人形を使って土方へ呪いをかける沖田総悟がいた。しかもその人形には赤い絵の具が血のりのように塗られており余計にリーファを怖がらせる。
「な、何なのよ! ここー!」
常軌を逸した男性と立て続けに会い我慢が限界を超えてしまう。そんな彼女の元に一つのアンパンが転がってくる。
「あっ、それ俺のアンパン!」
今度は山崎が近づいてくるが、すでに混乱状態であったため訳も分からずリーファはアンパンを手に取って、
「もう、イヤ!! 来ないで!!」
「グハァ!!」
山崎の顔面を攻撃してしまった。いわゆるスパーキングを受けた山崎は倒れ込みその場で気絶する。
「な、なんで?」
剣魂初登場の山崎だったがタイミングが悪すぎた。こうしてリーファもこの世界へやってきたが、武装警察の屋敷に落ちて、軽いトラウマを心に植え付けられたのである。
それから数分後、身なりを整えた近藤らは他の隊士にばれないようにリーファを接待用の部屋へ連れていく。互いに正座をして向かい合いながら、不穏な空気を漂わせる。いわゆる警察でいう事情聴取はまず近藤の謝罪から始まった。
「先程は大変失礼した! まさか空から女の子が降ってくるなんて思いもしなくてな! つい身を裸にしたまま助けに行ってしまった!」
「だからって全裸で外に出ていたらあきらかに通報されるってことくらいわかるでしょ!」
やはりリーファは気が立っており、彼らに怒りを露わにして不満な表情を浮かべる。しかし近藤以外のメンバーは謝りもせずに煽りを始めてきた。
「何を怒っているんですかい? お前もしかしてチン〇を見たのは始めてか?」
「……あのね、もうちょっと柔らかい表現で言ってよ! 私の心をどこまで汚せば気が済むのよ!」
「ったく、うるせぇ女だな。純粋アピールはいいんだよ。処女かてめぇは?」
「っていい加減にして!!」
「ちょっと落ち着てくださいよ! みなさん!」
山崎の一言で黙り込んでしまう一同。和解どころか真選組の対応に、リーファの怒りは収まるどころかさらに増す。その心境はもちろん荒れていた。
(何なのこの人達! 思春期の女の子の前でも平気で下ネタを使ってくるし、デリカシーのかけらもないわね!)
これまでの所業を根に持ち気を荒くしているが、彼女はすぐに歯向かうことはできない。この世界が本当に怪人の言っていた別世界なのか? 仲間達や兄もこの世界へ来ているのか? 聞きたいことが山積みだからだ。何より黒髪の冴えなそうな男を除いた三人は、佇まいから刀の使い方が達者であると確信している。とても自分の手では敵わない。そう心の中で思っていた。
(あの三人は見た目からして強そうね……相当な実力を持っていることに違いないわ。ここは下手に動かない方がいいわね……)
警戒心を持ちつつもその場をしのごうと決意した時、思いもよらない言葉を近藤から聞くことになる。
「さて、取り乱してしまったが話を戻そうか? 君はなんで真選組の屯所に落ちてきたんだ?」
「……えっ? 新撰組?」
近藤のセリフにリーファは耳を疑った。新撰組はSAOの世界でも歴史の偉人として存在しており、彼女もかっこいいイメージを持ち合わせていた。だが、この状況で会うとは思いもしておらず、ましてや目の前にいるのは個性の強すぎる男達が新撰組だとは、信じがたかった。
「おや、急にどうしたんですかい?」
「ア、アンタ達、新撰組なの!?」
「そうだが、どうした?」
さも当然に答えた土方の言葉に、リーファの動揺はより大きくなっていく。
「――いやいやいや! じゃなくて! 私の思っていた人達と違うんですけど!?」
「一体どこが違うんだよ」
「だって新撰組って京都を救った英雄で、近藤勇、土方歳三、沖田総司を始めとした志士で形成されている組織でしょ! それがあなた達なんて……」
持っていた知識を全て使い自らの疑問を四人に問いかけたが、彼らは全く思い当たっていない。
「ああ? 何を言っているんだ? 俺達真選組は江戸を守る武装警察だぞ」
「……はぁ!?」
「名前だって違うぞ! 俺は、近藤勲だ!」
「俺は土方十四郎だ。歳三じゃねぇぞ」
「ついでに俺は沖田総悟でさぁ」
「後俺は名前が挙がっていないけど山崎退といいます」
微妙な名前の違いを聞きリーファは口を閉ざし固まった。そしてこの事実を知りあることを確信する。
「ここは……私の知っている世界じゃない!!」
この世界が別の世界であることを。
「知ってる世界じゃない!? ということは、君は別の世界から来たということか?」
「あっ! いや、これはその……」
思わず声に出した独り言を聞かれ言い訳に困ってしまう彼女だが、真選組は驚いてもいない。山崎を除いて。
「別に驚きはしねぇよ。昨日も同じような連中と会ったからな」
「えっ? それって誰なの?」
土方の言葉に引っかかったリーファはある予感を感じていた。そして、確信へと変わる。
「誰って確か……万事屋と一緒にいたキリト君、アスナ君、ユイちゃんと言っていたか?」
「えっ?」
「あ~そうでしたね。ゲームのアバターと肉体が融合したっていう、別の世界のゲーマーですよね?」
「えっ?」
「そうだな。帰る方法も見つかんねぇから、ひとまず万事屋に連いていくとか言っていたが、本当に大丈夫なのか?」
「えっ?」
「あのその話、俺聞かされてな――」
「えぇぇぇぇぇ!!」
真選組の口から次々と発覚する事実にリーファはただ驚愕するしかない。頭を整理したいところだが、まずはこの人達に聞くしかなかった。
「おや? どうしたんですかい? もしやお知り合いなんですかい?」
「お知合いっていうかお兄ちゃんなんだけど!! この世界にいたってこと!?」
あれだけALOで探しまくったというのに、まさかこの世界にいるとは思いもよらない。
一方、真選組も早速反応する。
「お兄ちゃん!? って、ことはキリト君の妹なのか!?」
近藤と山崎は信じて衝撃を受けるが、土方や沖田の二人は全然動じていない。
「ああ、妹? 全く似てねぇじゃねぇか? あいつに比べたら前髪Ⅴ字の角度が軽くずれているぞ」
「見比べるのはそこなの!?」
土方は前髪Ⅴ字を理由に似てないと指摘して、兄妹関係をかなり疑っている。その顔は決してふざけておらず本気であった。
「そもそも似てねぇじゃなぇかよ。本当に妹なのか?」
「し、失礼ね! そりゃお兄ちゃんは養子だから多少似てないところもあるけど、私はれっきとした妹なの!」
きっぱりと言い放ったリーファに、今度は沖田が話しかけてきた。
「わかりやしたぜ。なら、DNA鑑定しやしょうか? なーに肉体と融合してるんだろ? 血くらい出るんだろゴラー」
すると彼は唐突に懐から注射器を手に取り彼女へ向けてくる。その顔は、悪魔のような薄ら笑いを浮かべていた。
「アンタ達! 私をどこまで疑っているのよ! って、本当にやる気!? ちょっと、やめなさいよ! アンタ達それでも警察なの!?」
沖田の本気度を知り、いきなり危機が訪れるリーファ。密室で逃げられないうえに迫る注射器に、一瞬涙目になる彼女であったが、
「ふっ、何本気でビビっているんでい? これ、おもちゃですよ。本当に純粋みたいですねぇ、てめぇは?」
「えっ?」
急に沖田がネタバラシを始める。注射器の針を触るとそれはゴムのように柔らかいおもちゃであった。どうやら彼女は沖田に一杯食わされたようである。それを知ると急に顔が赤くなっていった。
「……はぁ!? 何してるの、この悪魔! ドS!」
「ふーん」
そして怒りを沖田へ向けてぶつけたが彼は何一つ動じずに適当に返すだけである。そんな二人を見かねて土方が入った。
「おい。こいつに何を言っても無駄だぜ。なんせサディスティック星から来た王子だからな」
「つまり沖田隊長は、ドSの中のドSということですよ」
「……おい、ザキ。後で裏に来い。しょっ引いてやるからな」
「なんで、俺だけ!?」
とばっちりを受ける山崎。一方、土方の言う通り沖田はドSで、人をいじめることに関しては豊富な知識を持つ癖の強い男性であった。それを知りリーファの心は、大きい屈辱で一杯になってしまう。
(とんでもない人達ね……特にあの沖田って男は怖い! お兄ちゃんと大違いね!)
彼らとはとても仲良くできなさそうに見えた。特に沖田に対しては――
それから数分後。場が落ち着いたところでリーファは真選組のメンバーからこの世界のことや万事屋、キリト達の現状を話せるだけ話した。この場面でようやく真選組もリーファの名前を覚える。
「リーファ……桐ケ谷直葉か……本当にどっかの星の天人じゃないんだな?」
「そうよ! とんがった耳をしているけど私は地球人だからね!」
「本当ですかい? こないだ会ったブラコン星の天人と似てやすけどね?」
「ブラコン……!? 違うってば!!」
「なんで間を開けたんですかい?」
ブラコン(ブラザーコンプレックス)を言われて、顔を赤めるリーファ。沖田はこの反応を聞きあながち間違いではないと確信した。一方、彼女も真選組のメンバーを改めて振り返る。
(近藤さんは体格が大きくて男っぽいけど全裸の印象しかない……でも一番人が良さそう。土方さんは厳しそうだけど真面目っぽい……マヨネーズ丼は受け入れられないけど。山崎さんは……特になし。沖田さんは一番警戒しないといけない相手かも……警察でいじめるのが好きってどうゆうことよ!! この四人を今は頼るしかないってこと……?)
心の中で印象を整理して見極めを図っていたのだ。そんな考え込むリーファだが、一方で真選組もこれからについて相談している。
「おい、トシ! どうするんだ? リーファちゃんは、本当にキリト君達の仲間かもしれないぞ!」
「そんなの服装見たらだいたいわかるよ。まぁ、あいつら同様何らかの理由でこの世界に来たなら、合流させるか……」
「それはいいですねぇ。いっそのこと人質にして金を巻き上げるのはどうでしょうか?面白そうですよ」
「って警察の考えることじゃないですよ! 沖田隊長!」
四人はこれからのリーファの扱いにどうするか悩んでいた。すると、話を聞いていた本人が声を上げる。
「あの……! 今、万事屋って言うなんでも屋にお兄ちゃんがいるのよね?」
「ああ、そうだが。まさか、合流するのか?」
「うん。できるならそうしたい。きっと私達の仲間もこの世界に来ていると思うから、早く会ってこれからについて話したいのよね……」
リーファはそう言って真選組へ自身の希望を伝えた。その顔はややしんみりとしている。真選組も訳を聞き彼女の要望に賛成することにした。
「わかった。リーファ君のために我々も動こうじゃねぇか!」
「ここまで来りゃ乗り掛かった舟だ。できることはやってやるよ」
「良かったな。これで兄貴を寝取るってことか。昼ドラルートまっしぐらですねぇ」
「って、恋愛ゲームで例えないでよ! お兄ちゃんを寝取るってことは……そ、そんなことしないんだから!!」
「おい、焦っているぞ」
近藤や土方とは違い沖田だけはやはり彼女を煽りその反応を楽しんでいる。コラボしようとも彼のドSは、何一つ変わらない。そして、いよいよ作戦が動き出す。
「うむ。まずは、万事屋に伝えねぇとな。山崎! 今すぐ伝えてきてくれるか?」
「もちろんです! 局長!」
まずは山崎を連絡係として送らせる。彼が部屋を出る一方で、近藤はある不安を明かす。
「さて、万事屋に送るまでにまずは君をどうするかだな……」
「えっ? それってどういうこと?」
彼が悩みを浮かべるのは訳があった。
「実はこの屯所は女子禁制で立ち入りをなるべく控えているんだ」
「えっ!?」
突如真選組の決まり事を言われて困惑するリーファ。真選組では、女性隊士の募集を行っておらず屯所にいるのもほぼ男性だ。もし、この四人以外にバレてパニック状態になってしまえば、キリト達との合流どころではないのである。
「そ、それを早く言ってよ! 見つかったら処罰とかされちゃうの!?」
「別にそんな厳しくしねぇよ。最悪の場合、男だって言ってごまかしてやるよ」
「私のどこが男!? どう見ても女の子でしょ!?」
「いやいや、大丈夫ですよ。このデカ乳を偽物って言えばギリギリ男って言ってもバレませんよ」
「バレるよ! ていうか、私のことデカ乳って言うのやめてもらえる!? 立派なセクシャルハラスメ――」
とリーファが土方や沖田と言い合いになった時だった。
「すいません! 大変です! 副長!!」
突然部屋に男性が入ってくる。その正体は真選組十番隊隊長を務める原田右ノ助。スキンヘッドが特徴で、ある事件を伝えに近藤らへ会いにきていた。
「今日の内に三件も未確認飛行物体が現れて――って誰ですか!? その女性は!?」
報告の途中に原田は、やはりリーファの存在に気付き疑問を呈してきた。不安が的中した瞬間である。
(やっぱりバレたじゃん! いまさら誤魔化しようもないし一体どうするの!?)
汗をかき口が開けなくなったリーファは、周りを見た。近藤は慌て言い訳を考えていたが、土方は至って冷静である。と理由を思いついた沖田が原田へ弁解をした。
「あっ、悪い原田。ちとこれには訳がありましてね……」
(お、沖田さん!? 一体どんな言い訳をするの?)
リーファが見守る中沖田が言い放った言い訳とは、
「これ俺の女でさぁ」
とんでもないホラだった。これには周りの仲間はただ驚くしかない。
「……はぁ? はぁ!?」
「って沖田さん!? 本当なんですか!?」
「まぁ、そうですよ。こいつは遠い星から来たブラコン星の天人でねぇ、しばらく遠距離をしていたんだが、今日サプライズで来たもんで、近藤さんや土方さんに紹介していたんですよ。そうですよね、みなさん?」
苦し紛れ……いや、まるで本当のことのように話す沖田の嘘に今はみな乗るしかなかった。
「そ、そうだな……」
「総悟も大人になったってことだな。ハハ!」
苦笑いをして原田へ信じ込ませる近藤と土方。そしてリーファも空気を読み、沖田の彼女のフリをする。
「そ、そうなんですよ! 総司君とは仲良くして良好な仲を築いているんですよ~!」
「総悟ですよ」
名前を間違えられ軽くツッコミを入れられるリーファ。彼の左腕を掴み原田に笑顔を振りまいたが、その心は悲しみに包まれている。一方、原田は報告など忘れて沖田の嘘を信じこみ祝福を送った。
「沖田隊長……アンタも大人になったんだな! わかりました! 必ず幸せを掴んでくださいね!」
そう笑顔で返すと彼は部屋を去った。そして、大声で他の隊士にも広めてゆく。
「お~い! 朗報だ! 沖田隊長がとうとう所帯を持つことになったぞ!!」
「って待って!? いつの間にかデマがとんでもないことになっているんですけど!? ちょっと!?」
彼女が声をかけてももう遅い。原田の声は大きく屯所内に響いてゆく。一応ごまかしは効いたが、リーファの心はかなり傷つけられてしまった。怒りの矛先はもちろん沖田である。
「沖田さん!! 何てことしてくれるのよ!! 私がいつあなたに惚れたっていうのよ!? ありえないんだけど!!」
「まぁまぁ落ち着いてくだせぇ。これはいわゆる計画通りでっせ……」
「……もう、いい加減にしてよ!!」
何一つ反省のない沖田を見たリーファはただ無常にも叫ぶしかない。ある意味他のメンバーより精神的な苦痛を与えられたリーファは、この屯所での待機を余儀なくされたのだった。そして、そんな沖田の姿を土方や近藤はいつになく恐ろしいと感じている。
「総悟? お前やりすぎじゃないのか? さすがにリーファ君が困っているぞ」
「心配ないですよ。いったでしょ、俺に考えがあるって」
「本当か? ただ女子をモテ遊ぶ男にしか見えねぇが?」
何やら沖田には策があるらしい。その不敵な笑みに一体何を考えているのだろうか?
場面は変わりこちらは万事屋銀ちゃん。引っ越し作業も佳境を迎え、依頼者の兄貴が乗ってきたトラックに荷物を詰め終えたところで、彼らの仕事は終了した。
「よし、詰め終えたアルよ!」
「ありがとうございます! おかげさまで、早めに終わりました!」
「でも、引き上げ作業は手伝わなくて大丈夫なんですか?」
「大丈夫です! 俺も金欠で後は兄貴の仲間達と共に運びますから! お代はもちろん払いますよ!」
そう言って彼は銀時に依頼料の入った封筒を渡す。彼らの要望で、引き上げ作業は行わなくてもいいので、平均の引っ越し代よりも低めだが万事屋にとってはいい報酬だった。
「あんがとよ! これで、家賃が払えそうだな」
「まったくよ。ちゃんと計画立てて使いなさいよね!」
浮かれる銀時とは違いアスナはしっかりして彼に注意する。そんな時、思わぬ情報を神楽から聞く。
「アッスー、もっと強く言わないとダメアルよ! 銀ちゃんはこう見えてギャンブルをしてお金をチャラにすることもあるからナ!」
「えっ!? そうなの!?」
「家賃滞納だけじゃなくて、ギャンブル症候群なんですか!? 銀時さんは!?」
「よく、万事屋として生き残れたな……」
「すごいよ。こんだけ衝撃を受けるなんて。やっぱりキリトさん達だよ……」
銀時がギャンブル好きであることを知り、驚きを見せるキリトら三人。そして、新八は彼らの普通の反応に真面目さを覚えた。そんな冷たい目線を向けられた銀時は言い訳を交わす。
「おい、てめぇら! さすがにこれから三人も養うのに、ギャンブルなんてやってられるかよ! しっかり有効活用するから安心しろ!」
「本当ですか~?」
「信じがたいアル~」
しかし、新八や神楽から疑いの目をかけられてしまい細い目でにらみつけられてしまう。そんな時、アスナが少し脅しをかけてきた。
「そう、銀さん。さすがに私達も趣味には口出ししないけど、もし取り返しのつかないことになったら――」
すると、アスナは銀時の背後へ向かいレイピアを抜く体勢を構える。この徐々に低くなってゆく言葉に、銀時は後ろに振り向かずとも気配だけで嫌な予感を察していた。
「……アスナ?」
「なーに?」
「なんでもないです……」
「よろしい」
彼は逆らえなかった。今まで万事屋にはいない、怒ると怖いタイプに口が出せないからである。神楽とはまた違った怒り方に銀時もタジタジになってしまう。そんな彼の姿を見て仲間達は次々と話し出した。
「あーあ。アッスーを怒らせたアルな」
「アスナさんって怒らせると怖いんですね」
「まぁ、アスナはそこらへんしっかりしているからな」
「さすが、ママです!!」
彼らの反応も十人十色だが、結局みな納得するだけだった。そんな万事屋を見た依頼者は、ふと呟く。
「やっぱり、万事屋に頼んで良かったな。楽しいし見ていて安心するよ」
万事屋に頼んで満足したらしい。こうして、引っ越し作業は幕を下ろしたのだった。
そして、真選組屯所にいるリーファにも動きがあった。沖田に連れられてある部屋の前に立っている。
「ここは?」
「見りゃわかりやすよ」
そう言って彼は戸を開き彼女を招き入れた。そこには、和風なお座敷が用意された旅館のような光景である。
「こ、これって?」
「お前が旦那方と会うまでに用意した個室だ。普段は幕府の重役とかを入れるが、今日は俺の彼女ってことで特別に許可が下りたんでい」
「って彼女じゃないから!! ――えっ!? もしかして沖田さん? 私を安全な場所に入れるためにわざと嘘をついたの……?」
彼女と否定したリーファであったが、ここで自分の待遇にある直感を閃く。沖田はワザと嘘をついて、助けてくれたのではないかと。それを聞いた沖田の返答は、
「はぁ? そんなんじゃねぇよ。あれくらいインパクトのある事言わねぇと、ここの部屋は使えないんでね。ただそれだけですよ」
「ですよね……」
ごみを見るような目で否定した。彼の不満そうな顔を見て、優しさではないことをリーファも納得する。
「まぁ、でも好きに使いな。俺達は部屋を提供しただけなんでね」
「わかったわ。ありがとうね、沖田さん!」
それでもリーファは助けてくれたことに感謝して沖田へお礼を伝えた。雰囲気の良い感じで会話が終わると沖田は去っていき、部屋には彼女ただ一人となる。
「……さて、一旦ゆっくりしてみんなと再会しようかなと~」
緊張をほぐしたリーファは、腰に付けていた剣を床に置きのんびりくつろぐことにした。とテーブルを見てみるとおもてなし用の饅頭が置かれている。
「ん? お饅頭? ちょうどお腹が空いていたから食べようかな~」
一人になったことで気持ちが楽になり、自分の時間を楽しむ彼女は饅頭を手に取って一口頂いた。しかし、口に入れた瞬間に異変が起こる。
「!? ……か、辛!? 何これ!? 水! 水!!」
感じたのは、痺れるような辛さ。触感からわさびっぽくつい饅頭の中身を除いてみると、
「な、なんでわさびが?」
そこには本当に大量のわさびが詰められていた。こんな事を仕掛けるのは、一人しかいない。彼女の心に直感が生まれている。
「まさか沖田さん!? もう!! なんで、こんなことするのよ!!」
悔しい思いを胸にリーファは悲鳴を上げるのであった。口一杯に広がるわさびの辛さに耐えて――そして、廊下を歩く沖田の顔は悪い微笑みを浮かべていた。
「悪いな。それが俺なんでね……」
やはり、彼が確信犯である。真選組への滞在はまだ続きそうだった。
再び万事屋へと場面が戻る。引っ越し作業を終えた、一行は次の目的地であるベビーシッターを依頼した家へと向かう。住宅街に入り、江戸らしい民家も見えたが二階建ての現代風の家もあり、交差する町並みはキリト達に不思議な印象を与えていた。
「何か見かけない光景だな……」
「そうですか? まぁ、それは置いといて次の仕事はベビーシッターですから、広い家が舞台ですよ」
「夕方まで子供を預かる大切な仕事ネ!」
「でも、夕方くらいならこんな大人数で行かなくてもいいんじゃないの?」
「おめぇら、わかってねぇな。母親はタフなシッターを欲しているんだよ。つまり、わかるよな?」
「どういうことですか?」
会話をしながら六人は、今日の仕事内容を確認する。ベビーシッターという赤ちゃんを一時的に預ける仕事だが、キリト達と銀時達には温度差があった。それは家庭事情を知っているかでわかるのだが、銀時達が説明する前にちょうど家に着いた。
「あっ、着いたな。ついでだ。お前らに子供という存在がラスボスと同じだってことを証明してやるよ」
「そんな、子供がHPゲージを三本付けたモンスターなわけがないでしょ?」
「アスナさん、その例えわかりづらいですよ」
銀時の言う意味深な言葉に思い当たらないキリト達。そして、ついに家から依頼者と子供が現れる。
「あら、もう来たんですね! 万事屋のみなさん!」
ドアから姿を見せたのは、すでに出かける準備をして着飾った母親。そして、
「あっ! よろずやだ!」
「きょうこそけっちゃくをつけてやる!!」
「みんなとつげきだー!」
「「「おー!!」」」
威勢で元気の良い男女の子供達が大量に押しよせて万事屋を覆ってしまったのだ。当然、この状況にキリト達は困惑を隠せない。
「うわぁ!? 何が起こったんだ!?」
「だから言っただろうが!! 子供はラスボスなんだよ! 俺達が太刀打ちできないくらい強いんだよ!」
「なんでこんなに数が多いのよ!!」
「そりゃ、七つ子と八つ子を含めて十五人いるアル!」
「そんなにいるんですか!?」
「だから、ベビーシッターが多く必要だったんですよ!!」
そう、この家は世にも珍しい大家族だった。母親のちょっとした都合で、子供を見守るベビーシッターが必要だったので万事屋もよく依頼されていたのだ。この事実にようやくキリト達は、銀時の言っていた意味を理解する。一方、母親はこの状況でもマイペースだった。
「アラ? 万事屋の人数増えた?」
「あっ、この人達はですね新しい万事屋のメンバーなんですよ!」
「そうなの! 六人もいれば子供達も楽しめるわね! それじゃ、早速ママ友会に行ってくるから世話をよろしくね~!」
軽く質問しただけで依頼者は、即座にママ友会の現場へと向かう。一方、万事屋は彼女の子供達に翻弄されている。
「おい! そこのとんがりみみ! おれとしょうぶしろ!!」
「って、俺のことか!?」
「おまえもしょうぶだ! ぎんぱつてんねんパーマ!」
「なんで俺はそんな呼び方なんだよ! 敵意むき出しだろうが!!」
勝負を挑まれる銀時とキリトや、
「しんぱちにいちゃんのオタげいをまたみたいよー!」
「ハハ。覚えてたんだ……」
芸をせかされる新八に
「かぐらねぇーちゃん! きょうもあそんでー!」
「あおかみのおねえちゃんもー!」
「おー! わかったアル! アッスー、気合を入れていこうアル!」
「もちろんよ、神楽ちゃん!」
一段と気合をいれる神楽とアスナ。多様に対応する万事屋だが、中でもユイは早くも子供の心を掴んでいた。
「おー! ちいさいこ!」
「あなたもわたしたちとおなじ?」
「はい、もちろんです! 今日はよろしくお願いします!」
「そんなかしこまんなくていいからためぐちでいいよ!」
「タメグチとはなんでしょうか?」
「ああ、もう! あたしがおしえるからまなびなさいよ!」
「はい、わかりました!」
ユイも出だしは好調である。こうして、万事屋は午後の仕事ベビーシッターを任されて子供達とともに部屋へ戻るのであった。
同じ時刻。かぶき町公園にいる長谷川泰三は、ある男性に説明していた。
「てわけだ。やっぱり、アンタも別の世界の住人ってことか?」
「ああ、そうだな。教えてくれてありがとう。マダオ……長谷川さんだったか?」
「どっちでもいいさ。アンタもマジでダンディーな男みたいだな……エギル」
そう、長谷川の目の前にいるのはキリトの仲間の一人エギル。彼もまたこの世界へとやってきていたのだ。バラバラに出会った六つの物語。それは重なりあって、いよいよ一つに合わさる。
あらかじめ言っておきます。リーファはブラコン星の天人ではありません。れっきとした人間です!まぁわかるか…そして次回はいよいよSAOキャラ集合へと動き出す…!!(集まるとは言っていない)