それは、かぶき町公園で突然起こった出来事だった。
「ん? 何だ、ありゃ?」
段ボールに座っていた長谷川泰三は、ふと空を見上げると濃い緑色をした光の球体を目撃する。しばらく様子を見ていると、球体に異変が起こりこちらへ向かって落下することがわかった。
「な、何!? こっちへ来る!?」
急な事態に長谷川は、慌てて近くの茂みへと隠れる。そして、
「ドーン!!」
球体は凄まじい音とともに彼の座っていた段ボールへと衝突した。
「おいおい、隕石かよ! 俺はどんだけ不幸なんだよ!」
と自分の自虐を含めて叫んだ長谷川だったが、光の球体をよく見てみるとその態度は一変する。
「いや、隕石じゃねぇ……人? しかも、男か?」
そう。落ちてきたのは隕石ではなく、一人の屈強な男だった。褐色の肌とスキンヘッドが目立ち、頑丈な装甲をまとっている。その正体は、キリトの仲間の一人であるエギルだった。すると、彼もようやく目を覚ます。
「痛……ここはどこだ? まさか、別世界か!?」
頭を押さえたエギルはふと辺りを見渡すと、そこは公園のような広場が近くにある森の茂みであることがわかった。さらに、横には驚きを隠せないサングラスをかけた男性が腰を抜かしている。どうやら驚かせてしまったらしい。
「おっと、人がいたのか? 大丈夫か、アンタ?」
「……ああ、なんとかな」
長谷川を見つけたエギルは彼の手を掴み助けた。互いに悪意は感じておらず、長谷川はエギルを訳のあるおっさんだと思い、エギルも長谷川をこの世界にいる見た目に反して優しそうなおっさんだと思っている。そして、このまま信じて話を続けることにした。
「えっと、まずは自己紹介からだな。俺はエギルだ。アンタは?」
「俺は長谷川泰三。通称、マダオだよ」
「マダオ? アダ名ってことでいいか?」
「ああ、そうさ。マジでダンディなおっさんって意味だ。どうだ、かっこいいだろ?」
「ダンディか……悪くないな。ということは、俺もマダオということか?」
「ふっ、確かにアンタにも似合いそうだな!」
アダ名をきっかけに距離を縮めていく二人。ちなみにマダオの意味は「まるでダメなおっさん」でもあるのだが、長谷川が勝手に解釈してエギルに伝えていたのだ。すると、早速話しかけたのは長谷川の方である。
「それでアンタは一体何者なんだ? 隕石みたいに落ちてきたってことは、何か訳がありそうだけどな」
「あっ、そうだったな。実は――」
こうして、エギルは長谷川からこの世界のことや現在の状況について色々と教えてもらい、互いに理解を深めたのであった。
それから、数分も経たないうちに二人はこの状況を完全に理解する。
「てわけだ。やっぱり、アンタも別の世界の住人ってことか?」
「ああ、そうだな。教えてくれてありがとう。マダオ……長谷川さんだったか?」
「どっちでもいいさ。アンタもマジでダンディーな男みたいだな……エギル」
木の下に隠れ、ふと休むおっさんの二人。エギルは、この世界の状況や現在のキリト達のことを知り、一方で長谷川は彼がキリトの仲間で別の世界の住人であることを知った。話したいことは山積みだが、まずは互いの素性から話が交わされる。
「それにしても長谷川さんがホームレスなんて思いもしなかったな。てっきりサラリーマンをやっているもんだと思っていたぜ」
「いや、俺だってな、前まで入国管理局の局長をやっていたんだよ。それなのに今じゃ、この有様だぜ」
「随分哀愁が漂っているな……」
エギルは長谷川の独特な雰囲気に触れて自分の世界には滅多にいない、波乱万丈で面白い人だと感じていた。
(なんで、ホームレスなのにこんなに男前なんだ?)
心の中で彼はそっと呟く。一方、長谷川もエギルの素性を知り興味を持ち合わせている。
「それならこっちだって、アンタがバーの店主だって思いもしなかったぜ!」
「そうか? そこまで驚かれるのはびっくりだぜ」
「まぁ、人は見かけによらないってことかな?」
これを機にフッと笑う二人の男。バーテンダーとホームレスが分かり合えた瞬間である。そして、二人はその上でこれからどうするか共に考え始めていた。
「それで、これからアンタはどうするんだ?」
「ん……他の仲間もこの世界に来ているかも知れないからな……だから、さっき言っていた万事屋って場所に行ってみるのがいいかもしれないな」
「そうか……それが一番かもな」
結局、万事屋に行ってキリト達と合流する決断で落ち着いたようである。そんなエギルに対して、長谷川は最後まで手助けすることを決めた。
「よし! そうと決まったら、俺が万事屋まで案内してやるよ」
「えっ? いいのか?」
「お安い御用だよ。ここで会ったのも何かの縁だ。その代わり後でもっと話してくれよ。アンタの波乱に満ちた人生をよ」
「長谷川さん……ああ! なら、俺も聞きたいな。長谷川さんの痛快な人生をよ」
「こりゃ、一本取られたぜ。さてと、まずはとりあえず俺についてきてくれよ! 話はそれからだぜ!」
「わかってる……アンタの背中を追いかけさせてもらうぜ!」
「任せろ! ついてこい!」
そう言って二人は勢いよく公園を飛び出した。共に話の飲み込みが早いせいか、ほんの数時間で男同士の友情はかなり深まっている。まずは万事屋銀ちゃんを目指して、キリト達と合流するのが彼らの目的だった。そして二人が住宅街付近を走り抜けていると、エギルはあることに気付く。
「ここは本当に宇宙に開国した江戸時代なのか?」
「ああ、そうだぜ。ビルやタワーも天人っていう宇宙人達が持ってきた技術で発展したんだよ。そのせいで弊害も起っちまったかがな」
そう、この世界の町並みだった。江戸のような古風の風景に現代技術であるビルが乱立する不思議な光景。これにはエギルも内心驚くしかない。その途中ある住宅街を通りすぎたのだが、彼らは気付いていない。そのうちの一軒の家には今、万事屋がベビーシッターとして働いていることを――
引っ越し作業を終えた万事屋一行が次に挑む仕事はベビーシッター。しかも、十五人の子供がいる大家族だったので、六人はそれぞれの対応に追われていた。
「おらぁ! どうだ!」
「まいったか?」
「参った! 参ったからもう離してもらえるか!? ハハ!!」
やんちゃな男の子達を相手しているのはキリト。実は一対一のチャンバラごっこをしていたのだが、負け続ける男の子は最後の手段として弟達を呼び彼を取り押さえる。現在、彼は三人の男の子のおもちゃとして遊ばれていたのだ。
「にいちゃん! おもしれぇ!」
「みみもたぷたぷしててきもちいいし、わらってるかおもおもしろいよ!」
「それは、君達がこしょばしているからだろ! いい加減やめてくれって! 笑い苦しいよ!」
初めての子守りに奮闘する彼は、大苦戦している。あながち数分前に銀時が言った「子供はラスボス」という意味を痛感したキリトであった。一方、他の男の子達はアスナの前にいる。その手には、それぞれ自分の大切にしている物が置かれていた。
「アスナおねえちゃん! ぼくとつきあってください!」
「いや、このおれとつきあってくれ!」
「いやいや! オイラとつきあってくれ!」
そう、告白されていたのだ。彼らはアスナを見た瞬間に心がときめいて虜になっている。もちろん、彼女にはすでにキリトという男がいる。本人が直接断りを入れるのかと思いきや、ここで一緒にアスナや神楽とおしゃべりしていた妹達が動きだす。
「ちょっと、アンタたち!! アスナおねえちゃんは、すでにかれしもちなんだからうばっちゃだめでしょ!」
「そうだよ! おねえちゃんだってこまってんだからもうやめなさいよね!」
「「「……は、はい……」」」
二人の強気な態度に反論できなくなった男の子達は、潔く諦めてしまった。
「おー!! やったアルな! 二人共!」
「とうぜん! かぐらおねえちゃんからまなんだげきたいほうで、ギャフンといわせてあげたわ!」
「だいじょうぶだった? アスナおねえちゃん?」
「うん、私は大丈夫よ! 助けてくれてありがとうね、あなた達!」
「「えっへん!!」」
アスナに褒められて女の子達は誇らしげに喜んだ。そうして、女子同士のおしゃべりは再開する。一方、銀時はある男の子に対決を挑まれていた。
「ふっ、四十号だ!」
「せいかい!!」
「くそ!! またまけた!!」
クイズ対決で。彼らは週刊漫画に関する問題で競い合っている。大人しい男の子を審判にして一対一の対決をしていたが、結果は銀時の圧勝。子供相手でも彼は容赦ない。
「ハハーン! どうだ、この俺の実力は? 参ったか?」
「いいや、まだだ! もういっかいしょうぶだ!」
「何度やっても同じだと思うぜ! いくらでも受けてやるがな!」
調子に乗って悪役のように笑う銀時。そんな彼に対して審判の男の子から皮肉が飛ぶ。
「でも、これくらいしかぎんときにいちゃんのほこれることはないんじゃ?」
「おい! 何言ってんだ、コラ!!」
「す、すいません! ちがいますから!」
「というかこどもあいてにようしゃねぇだろ……」
ついには勝負していた男の子にまで呟かれた。彼もなんだかんだで子供達と馴染んでいたが、もっと子供と馴染めているメンバーがいる。
「やいやい! いい加減にしねぇか! ――こんなものでしょうか?」
「だから、そこでけいごになっているって! まったく、タメグチもつかえないなんてまだまだね!」
「えへへ、ごめんなさいです!」
「また、けいごになっているよ!」
「ユイちゃんもくろうしているね!」
それはタメ口を練習中のユイであった。彼女は、女の子達に囲まれて今どきの子供事情や口調を知り勉強中である。優しく接する性格から女の子達も好意的に接してきた。
「まぁ、がんばっているからあともうすこしだよ」
「そうですか! では、がんばります!」
「ゆだんしないでよね!」
「はい!」
純粋なユイと素直になれない女の子。いい友情が築いた瞬間だった。とここで、二人の女の子が加わる。
「みんな! おいしゃさんごっこのあいてがみつかったよ!」
「あいて? だれなの?」
「このアイドルオタクよ!」
彼女らは新八を取り押さえて持ってきたのだ。彼をお医者さんごっこの遊び相手にするために。
「新八さん? なんで、ここに?」
「芸の準備をしていたら突然連れていかれたんだよ!」
「そうよ! さぁ、おとなしくしゅじつされなさい! メガネ!」
「って、なんで僕はこんな扱い何だよ!! ちょっとみなさん、待って……ギャャャャ!!」
抵抗する暇もなく新八は女の子のごっこ遊びへ強制的に参加することになった。取り押さえられている姿にユイは心配しつつも、みんなが笑いあう姿を見て彼女もそっと微笑む。
「楽しいですね、ベビーシッターって!」
また一つ、働くことの楽しさを分かち合ったのだ。
一方、こちらはかぶき町にある万事屋銀ちゃん前。スナックお登勢を前に長谷川とエギル、二人の男が立っていた。
「ここが万事屋ってところか?」
「そう。頼まれたらなんでもやる仕事をやっているんだ。そこでキリト君達は新メンバーとして入ったんだよ」
「へぇーあいつらがね……」
改めて万事屋について知ったエギルは、ふとキリト達の働いている姿を想像する。だが、
「……本当に大丈夫なのか? あいつらちゃんと接客とか出来ているのか?」
どうしても失敗する場面か浮かばなかったため少々心配してしまった。
「そんな心配しなくていいよ! そもそも接客だけってわけでもないし、銀さん達がついているからきっと大丈夫だって!」
そう長谷川が説得した時である。スナックから一人の女性が出てきた。
「おや? 誰かと思えば長谷川様ではありませんか?」
「ん? たまさんじゃないか!」
「たま? 長谷川さんの知り合いか?」
「その通りです。私はこのスナックで働く従業員ですよ」
彼らに声をかけてきたのはスナックで働く従業員の一人たまである。エギルは彼女とは初対面であった。
「スナック? ああ、万事屋の下は酒場になっているのか」
「まぁな。俺や銀さんはいつもここで酒を飲んでいるんだよ。まぁ、みんなの溜まり場ってところだよ」
「まるで俺の店みたいだな」
このスナックを見てエギルは元の世界にあった自分の店を思い出していた。バーとスナック。種類は違えど飲み屋としての本質は同じだと彼は感じている。一方、たまもここでようやくエギルの存在に気付く。
「ところで長谷川様。この男性は一体誰ですか? ボビー〇ロゴンのそっくりさんでしょうか?」
「全然違うよ! この人はエギルって言って、キリト君達の知り合いだよ! 彼ら同様この世界に来ちまった別の世界の住人なんだよ!」
「そうなんですか?」
「ああ、そうさ。信じられないかもしれないが、俺は別の世界から来たんだよ」
そう説明したがたまはまだ半信半疑であった。そこで彼女は目の色を変えて彼の生体を読み取ることにする。
「ん? 何をしているんだ?」
「あっ、言っていなかったな。たまさんはカラクリ家政婦って言うロボットなんだよ」
「ロボット? どう見ても人間に見えるが、まさかアンドロイドってやつか?」
「そう思っておけばわかりやすいよ」
たまの素性を知り内心驚くエギル。同時にこの世界の技術力が高いことにも驚いていた。そして、一分も経たないうちに彼女は解析を終えた。
「読み取り完了しました。外観から肉体とアバターの融合を確認。この世界とは違う確率が九十二パーセントであることがわかりました」
「そうか……って、残りの八パーセントは一体何なんだ?」
「それはアンタがボビーオロ〇ンである確率です。流暢な日本語を話すので少ない結果となりました」
「って、それいる!? なんでボ〇―オロゴンばかり推してんだよ! エギルだって絶対理解してないぜ!」
「まぁその通りなんだが、だいたい想像はつくかな……?」
結果は完全な別の世界から来た人間であることが証明されたが、一割ほど某外国人タレントとの外観も混じってしまった。ただしそれに深い意味はないが――互いに打ち解けたところで、ようやく本題へ入る。
「それで、お二人は万事屋を訪ねに来たということですか?」
「そうだな。長谷川さんに案内されてここまで来たんだ」
「どうやら、彼らのお仲間達もこの世界に来ているかも知れなくてな。これからのことを含めて万事屋と合流しようと思ってんだよ」
「そうでしたか。しかし、残念です。ただいま万事屋は仕事に出かけておりましてここにはいませんよ」
「えっ!? そうなのか?」
「はい。午前に引っ越し作業、午後にベビーシッターと二件続けて行うと昨日申しておりました」
「そんなにやるのか!? 万事屋ってそんなにハードなんだな……」
万事屋へと合流するつもりが、留守とわかり計画が詰まる二人。特にエギルは万事屋の仕事の多さにキリト達を少し心配する素振りを見せた。そんな二人を見かねて、すかさずたまは対応する。
「もし、よろしければこのスナックで彼らが来るまで待ちますか? 外で待っても暑いだけなので中に入った方がいいですよ」
「えっ、いいのか? たまさん」
「はい。お酒は出せませんが水くらいなら出せます。さぁ、こちらへ来てください」
「わかったぜ。入ろうか、エギル」
「まぁ、そうだな。お邪魔するぜ」
たまに促されて結局二人は入ることにした。外にいても暑くなるばかりなので、建物に入り彼らが仕事から帰るまで待つことにする。そしてスナックお登勢の中へ入ると、その雰囲気にエギルは惹かれた。
「おっ、ここがこの世界の酒場か……いい雰囲気じゃないか」
「はい。お登勢様曰く酒と健全なエロをたしなむオヤジの聖地だそうですよ」
こじんまりした内装に自分のいた世界と変わらない設備。そしてこの世界の銘柄らしき酒がカウンターには置かれている。落ち着いた雰囲気が気に入り早くも好印象を与えていた時だった。
「なんだい、騒がしいと思ったらお客が来てたのかい?」
「マダヤッテナイダロウガ! 出直シテコイヨ! コラァ!」
店の奥から二人の女性が騒ぎを聞きつけやってくる。共に着物を着ており、威圧的な見た目からこの店の経営者であると彼は感じていた。
「って、アレがお登勢さんか?」
「はい、その通りです。隣にいる猫耳を生やしたおばさんがキャサリンさんですよ」
「ッテコノ間と同ジ展開ダロウガ! モウチョットイイ紹介ハ出来ナイノカヨ!」
たまの紹介の仕方に一喝するキャサリン。一昨日のキリト達への紹介と全く同じためだった。それはさておきお登勢は状況を把握し始める。
「それで、あのお客は誰だい? ホームレスの連れてきた奴――いや違う感じがするねぇ」
「あっ、お登勢様。これには深い訳がありまして」
「訳? 一体何だい」
こうして、お登勢らも長谷川達から話を聞きエギルについて詳しく知ることになった。
それから数分後。場にいた全員がカウンターに集まって現在の状況を理解し始めていた。
「そうかい。アンタもまさか別の世界から来た人間だったとはね」
「ああ。俺も驚いたぜ。まさか、宇宙へ開国した地球の世界に来ちまうなんてな」
お登勢やキャサリンも彼が別の世界の住人であることを信じる。案外あっさりと納得したのはキリト達という前例があったからだ。その上で、彼らがこの世界に来た理由もだいぶわかってくる。
「それであなた達は、サイコギルドという組織によってこの世界に来たのですね?」
「そうだな。奴らの作り出したブラックホールによって、この世界に来ちまったからな」
「サイコギルドか……聞いたことない組織だな」
「私達モ見当タラナイ名前デスネ」
「そうか……」
彼らがこの世界に来た理由もわかったが、以前わからないのが現実だ。サイコギルドへの手がかりも見つからない中せめてエギルはクラインらの仲間の無事を祈るしかない。
「はぁ……だったら後は俺といた仲間の無事を祈るしかないな」
「確か、後五人くらいいたと言っていましたね」
「本当にこの世界へ流れ着いているだろうか?」
不安に苛まれるエギルであったが、それを見かねたお登勢は自分なりの言葉で励ますことにした。
「大丈夫さ、絶対に」
「えっ? お登勢さん?」
「アンタは知らないと思うけどこの世界には多くのバカがいるんだよ。あいつらともし会っているなら、救いはあるだろうね。個性は強いが絶対に人を見過ごさない奴等さ。だから、大丈夫だとアタシは思っているよ」
「そうか……わかったよ、お登勢さん。励ましてくれてありがとうな」
毒のある言葉も含んでいたが、お登勢は自分なりの言葉でエギルを励ました。彼女の言う通り、この世界に生きるバカ共と会っていればきっと大丈夫。そうエギルも安心し始めた。
だが正直に言うと仲間は違った意味で無事ではない。侍を志す男は指名手配者の侍と出会って心酔し、テイマーと鍛冶屋の女子とそのペットは、暗黒物質の犠牲となって未だに気絶した状態。猫耳を生やした女子はまたたびにより酔い潰れて現在も調子が戻っておらず、キリトの義妹は魔法も使えずに武装警察の来賓室でデマと辛さに苦しめられている。これらの事実をエギルは全く知るよしもなかった。それはさておき、話題はエギルのこれからについて変わる。
「さて、今後アンタはどうするんだい? 行く場所はあるのかい?」
「うーん……そこはまだ決めてなかったな」
彼の悩む表情を見てお登勢は唐突にあることを提案する。
「そうかい。なら、一旦ここに泊まるかい?」
「そうだな――って、えっ? 今、何て言ったんだ?」
「だから、泊まるかって言ったんだよ。行く場所がないならアタシらが一時的に受け持ってやる。ただそれだけだよ」
それは、エギルをかくまう提案だった。これには、エギルのみならず長谷川やキャサリンも驚いている。しかし、たまだけは納得して微笑んだ表情をしていた。もちろん場は混乱を極めている。
「ッテオ登勢サン!? イインデスカ? コンナ外国人タレントヲ雇ッテ!!」
「いいんだよ。それにこいつはワインに関しても詳しいから、きっとこのスナックにも新しい風を与えてくれるよ。後アンタよりも流暢に日本語を話せるからね」
「ギ、ギク!! ソコハ大目ニ見テクダサイヨ!!」
痛いところを突かれたキャサリンは反論のしようもない。一方で、長谷川はエギルの待遇にあやかりおこぼれをもらおうとしていた。
「って、ちょっと待った! なんでエギルは大丈夫で俺は雇ってもらえないんだよ! おかしいだろうが!」
「そりゃ、訳が違うからだよ。そもそもアンタは帰る場所があるじゃないかい」
「段ボールですけど!? だったら俺もついでに――」
「店員オーバーだよ!!」
「うまいこと言うなよ! 頼む! 俺も雇ってくれ!」
しかし、お登勢の強気な態度に何も言い返せなくなった。なんとか、すがろうとするその姿は男としてのプライドもへったくれもない。そんな状況を見かねたエギルは、たまへ話しかけている。
「なぁ、本当にいいのか? 俺を雇うなんて」
「お登勢様が許可しているなら、遠慮なんかいらないと思いますよ。それに、男手がなかったので私はいてくれたら助かると思っていますよ」
「そ、そうか……ありがとうな」
「どういたしまして」
彼女はふとした笑顔で、エギルへ伝えた。そんな彼女に後押しされて、エギルはこの考えを受け入れることにする。後のことはキリト達と合流してから決める。そう心の中で決めたのだ。少しいい雰囲気になったがそこは置いといて彼は長谷川に近づき話しかける。
「まぁまぁ、長谷川さん。落ち着いてくれ。まだ仮に決まっただけだからさ」
「エ、エギル……」
「後はあいつらが来てから決めようぜ。それまでは、俺達の武勇伝を話し合うじゃねぇか」
「……そうだな。言っていたもんな。それじゃ、話すか!」
「ああ、頼むぜ!」
こうして、エギルは約束していた長谷川との話し合いを始める。その様子にお登勢らはため息を吐きつつも、平行して店の準備を始めるのだった。
話を万事屋銀ちゃんの仕事へ戻そう。ベビーシッターをしていた六人は、アスナと神楽におつかいを任されていた。スーパーで足りなかった材料を買い二人は家へと帰宅している。
「ふぅ……どうアルかアッスー? 初めての万事屋の仕事は?」
「いい調子よ! 子供達もかわいいし、これからやっていけそうね! もちろん、他の仕事も全力投球で挑むわよ!」
「おー!! 気合が入っているアルな!!」
元気な子供が相手でもアスナは疲れることなく体力を保っていた。そんな彼女の姿に神楽は、より憧れを強めたのである。
「やっぱりアッスーはお母さんアルナ! 私とまるで大違いネ!」
「それは経験の差でしょ。神楽ちゃんは、私と比べて四歳も差があるんだから仕方ないことだよ」
「でもいつかはアッスーみたいなお母さん。いや、お姉ちゃんみたいになりたいアル! 今度色々と教えてもらいたいネ!」
「もちろん! でも今は仕事をちゃんとこなさないとね」
「そうだったアルネ」
張り切る神楽とは違い冷静でしっかり者のアスナ。その姿は姉妹のようにも見える。一方で、今度はアスナから話しかけてきた。
「ねぇ、神楽ちゃん。前に私の友達を紹介したことあったわよね?」
「友達……あっ! シッリーにリッフー、リズとシノの四人アルナ!」
「そのネーミングセンスは変わらないのね……」
アッスーの時同様、神楽の個性的なアダ名のつけ方に驚くアスナ。そんな彼女が話題に挙げたのは、自分の友達についてだ。
「それでその四人がどうしたアルか?」
「もし……会える機会があったら友達になってほしいのよ。私達の仲間はとっても強くて個性的で、頼りになるから神楽ちゃんともきっと仲良くなれるわよ。この先どんなことが起こるかわからないけど、もし会ったらよろしくね」
アスナからの心の込めた言葉。それを聞き神楽も期待に答えようとしている。
「アッスー……わかったアル! しっかり期待するネ! もし、みんなもこの世界に来てたら一緒に変身ヒロインごっこをして遊びたいアルよ!」
「って、神楽ちゃん!? さっき遊んだ影響受けすぎだよ! みんな、そんな年ごろじゃないでしょ!」
「何を言っているネ! アッスーだって、「暁に舞う閃光の輝き!」って中二病臭いセリフをノリノリでやっていたじゃないアルか!」
「それは、あの子達からの提案でしょ! そういう神楽ちゃんだって「力の切り札!」とか大人っぽくやっていたじゃないの!」
「それはそれ! これはこれネ! 私の想像力をなめないでアル!」
「って神楽ちゃんが考えたセリフだったの!?」
話はいつの間にか某変身ヒロインごっこの決め台詞へと移っていた。そんなアスナは自分の仲間のことをふと思い出して神楽へ伝えようとしていた。会ったら面白いことが起きると、頭の中で彼女は思っている。しかし、皮肉にもまだ二人は知らない。この世界にはすでにその仲間達が来ていることを……
時間はいつの間にか夕方を過ぎ、子供達の家にはママ友会を終えた母親が帰ってきていた。時刻はちょうど十八時。夕暮れ時とぴったりである。
「本当に今日はお世話していただきありがとうございます!」
「いえいえ、こちらこそ子供達との触れ合いは楽しかったですよ」
「そうです! 新八さんなんかもう表現できないくらい面白かったんですから!!」
「って、ユイちゃん!? まだ、受けていたの!? さすがに笑いすぎだってば!」
新八の顔を見るなり笑いの止まらないユイ。よっぽど面白いことをされたらしい。そんな万事屋は玄関越しに母親と会話して、彼女から依頼金を渡される。これで、仕事が終わり彼らは子供達に別れを告げた。
「それじゃ、またな!」
「また遊びに来るからナ!」
「じゃあね! よろずやのおにいちゃん! おねえちゃん!」
「またこんどね~!」
子供達はみな満足げな表情で彼らを見送る。そして、ユイと知り合ったあの子も。
「それでは、さようならです! みなさん!」
「ア……アンタ! もういっかいきてもいいんだよ!」
「はい! わかったよ! です!」
彼女との会話でタメ口を徐々に理解してきたユイ。彼女の心が成長した証でもあった。そして万事屋は依頼金を手に、帰り道を和やかなムードのまま歩いている。夕暮れと相まってか光が反射して格好よく見えた。そんな時、銀時がキリト達へ声をかけてきた。
「どうだった? 万事屋としての初仕事はよ。ばてなかったのか?」
「ばててないよ。ちゃんと全力でやったからさ。それに中々やりがいのあるものだったよ」
「私もよ。万事屋って意外に私達に合っているのかもね」
「大変でしたけど、とても勉強になりました! これからも続けて行けそうです!」
三人は互いに満足した表情で銀時へ返す。彼らは万事屋という仕事が大変気に入ったのだ。これには新八と神楽も安心している。
「それは良かったアル! 満足してくれたならそれで充分ネ!」
「彼らも続けて行けそうですね」
「まぁ、なんとかなるだろ。このままやっていれば」
そして万事屋の三人も働き者の仲間を見つけて喜んでいた。ひとまず初仕事は成功してこれからへの希望も見えた。そんな六人が歩き万事屋へ到着するとある異変に気付く。
「ん? 誰かいるのか?」
「こんな時間からお客さんでしょうか?」
と彼らがスナックのドアを開くとそこには、この世界にはいないはずの人間が座っていたのだ。
「えっ……アレって……」
この瞬間にキリト達は衝撃で体が固まってしまう。なぜなら、そこにいるのは紛れもない仲間だったからだ。見慣れた大型の斧と装甲、そして褐色のスキンヘッド。そう、その正体は、
「ん? おっ! やっと来たか、みんな!」
「「エギル!?」」
「エギルさん!?」
彼らの仲間エギルだが……
「「ボ、ボビーオロゴ〇!?」」
「いや、違うだろ!?まったく似てねぇだろうがぁ!!」
同じく万事屋も衝撃を受けて某外国人タレントと人違いをして叫んだのだ。しかし、これでようやく物語は動き出した……
本当はこの回から徐々にメンバーが集まっていく予定でしたが、エギルと長谷川の絡みを考えているうちに予定されていた内容とオーバーしたので、ちょうどいいところで区切りました。後、某外国人タレントよりも調べてみたら世界で戦っているプロレスラーや格闘家にエギルっぽい人がいましたが、認知度を考えて変えませんでした。しばらくしたら変えるかも?それはさておき、次回からいよいよ集結していくぞ!