銀時達がキリトの仲間達と合流している間、真選組屯所でも動きがあった。時刻は午前十一時過ぎ。ちょうど万事屋一行が、吉原でシノンや月詠らと話し合っていた時である。屯所にある宿泊部屋にはリーファが泊まっており、今なお眠っていた。寝間着姿で髪をおろし、布団をまるで抱き枕のようにして寝ている。しかもその寝言も幸せそうであった。
「えへへ……お兄ちゃんと二人っきり~!」
布団に強く抱きつき満面の笑顔を見せている。キリトと一緒に過ごしている夢を見て、楽しい気分に浸っていた。そのせいで、中々夢から覚めようとしない。
「そんな大胆だってば……! こんな人通りの多い中でキスだなんて……! もう、しょうがないわね!」
ついにはキスというチャンスが訪れる。例え夢であっても関係ない。彼女は全身全霊をかけて彼からのキスを受け止めようとしたが……そこに邪魔者が割り込んでしまう。
「なら、この俺がしてやりやしょうか?」
「えっ……?」
聞こえてきたのはキリトの優しい声ではなく、やる気のない男性の声である。聞き覚えがあり、ふと目を覚ますと目の前にいたのは――
「おはようございやすー」
沖田総悟だった。昨日と同じく人を馬鹿にしたような表情でリーファの方をじっと見つめていたのである。
「……うわぁぁぁぁ!!」
急に夢から現実に覚めた彼女は、驚愕してしまった。さっきまでの夢の雰囲気を壊され、今は沖田への恐怖心で心が一杯になってしまう。動揺しながらも今は、沖田へ理由を問い詰めていく。
「お、お、沖田さん!? なんでこの部屋に入ってきているのよ!? ここは男子禁制でしょ!?」
「はぁ? 何を言っているんでい? こちとらてめぇが起きてこないからわざわざ心配して見に来たんですよ。もう十一時なんでねぇ」
「十一時……って、こんなに寝ていたの!?」
沖田に言われ横にあった時計を見てみると、確かに針は十一時を超えていた。しばらく夢の中にいたとはいえ、これには彼女も驚きを隠せない。一方で沖田はリーファの様子を伺うために、スペアの鍵を使って部屋へと入ってきた。元々やる気すら無かったが、彼女の大胆な寝言を聞くと態度が一変。表情をにやつかせて、早速からかいを始めている。
「それはそうと……いや~すごかったですねぇ。てめぇのブラコンっぷりは……最高でしたよ」
「……ギク! やっぱり聞いていたの……?」
「そうですよ。夢の中で兄とセ〇〇〇や逆〇〇プをしたんですよねぇ?」
「って、違うから! キスだけだから! 勝手に話をねつ造しないでよね、沖田さん!」
沖田の面白がる表情とは異なり、リーファは顔を真っ赤にして恥ずかしがってしまう。彼がいる前では、対抗策が見つからず本調子が出ないのである。ドSさを見せる沖田は、さらなる仕掛けで追い詰めていく。
「そうですかい……なら、これで確認しやしょうか?」
「確認?」
すると沖田は懐からある物を取り出した。それは一つのボイスレコーダーであり、軽くボタンを押すと聞こえてきたのは、
「お兄ちゃん!! 大大大だーいすーき!!」
さっきまで呟いていたリーファの寝言である。これを聞いた本人は、さらに顔を赤くして動揺を広げていた。
「……ギャャャャ!! なんで、私の寝言なんか録音しているのよ!! 沖田さん!?」
「いや~面白かったんでね。人の弱みを握るってこんなに心が躍るんですねぇ」
「って、渡しなさいよ!! こんなのお兄ちゃんやみんなに聞かれたら私の立場がなくなるでしょ!!」
「いやですよ、こんな面白そうなもの。簡単に渡すわけにはいきゃせんよ」
「渡しなさいー!! このドS!!」
激しい感情を露わにしながら、リーファは沖田へと近づきボイスレコーダーを奪おうとする。だが、彼の素早い身のこなしによって中々奪うことができない。昨日に続き今日も彼女は沖田に振り回されてしまった。
それから数分後。ボイスレコーダーは、結局リーファに渡されて騒動は幕を閉じる。あまりの執着心に沖田も辟易して渡したようだ。
「ふぅ……やっと奪い返せた……」
一安心した彼女は、ボイスレコーダーをポケットへしまい後で壊すことを決める。一方で、渋々渡した沖田はリーファへ向かい皮肉を言い始める。
「ったく……たかが寝言如きに本気になりやがって……よっぽど兄貴にバレたくないんですかい?」
「それは、そうよ! 私だってみんなにバレたくない秘密があるんだからね!」
「はいはい。要するにてめぇはブラコンってことですね」
「勝手に片づけないでくれる!?」
怒りが収まらないリーファとは違い、煽りをやめない沖田。喧嘩はまったく収まらず、二人の溝は深まるばかりであった。そんな沖田は最後にリーファへ本題を伝える。
「そんじゃ、俺は出るんでブラコン星人はさっさと身支度を済ましてくだせぇ。終わったら、鍵を持って昨日いた部屋に来てくださいよ」
要件を済ますと彼は足早に部屋を出て行った。場は嵐が去ったように静まり返っている。一人になったところで、ひとまずリーファは心を落ち着かせた。
「はぁ……沖田さんに何回振り回されているのよ…… もう、あの人はドSどころか悪魔に等しい人だわ……」
思わずため息をこぼしてしまう。沖田に限らず真選組と出会ってから彼女は、ことごとく散々な目に合っている。その我慢も限界に近づいていたが、そんな日々も今日で終わりを告げる。仲間との再会が近づき、もうすぐ合流できるからだ。
「早くみんなと会いたいな……そのためにもまずは準備を完璧にしておかないと!」
再会を強く願うと、自然と気持ちが明るくなっていく。彼女は気を取り戻していき、手早く身支度を始めていった。
一方沖田は、近藤と土方がいる接待部屋へと戻っていた。ここは昨日リーファから事情を聞いた際にも使用した部屋で、今日もここで万事屋の到着を待つことになる。戸を開けた彼は、けだるく二人へ報告した。
「うーす。あのブラコン女を起こしてきやしたぜ」
「どんな呼び方してんだよ……あいつは確かリーファか桐ケ谷直葉って名前じゃなかったのか?」
「そんな中二全開の名前言いたくないですよ。ブラコン女、デカ乳女。後はあずにゃんって言う方が俺にはわかりやすいでっせ」
「いや、そっちの方がわかりにくいだろうが! 最後の名前に至っては中の人ネタじゃねぇか! わかるヤツにしかわからねぇよ!」
沖田の独自の考え方に土方は大きくツッコミを入れる。ふぬけた報告だが、近藤はしっかりと聞き入れて優しく返した。
「そうか! 無事だったなら何よりだよ! 一緒には来なかったのか?」
「待つのが面倒なんでねぇ。あの手の女子は、朝シャンに洗顔、髪の手入れに時間を使いやすからね。付き合ってられやせんよ」
「だとしても総悟。もう少しリーファちゃんには、優しくしてもいいんじゃないか? あの子は、女の子なんだから男の俺達がしっかりしてないとダメだろ?」
「はいはい、わかってやすよ」
近藤のアドバイスを受け流し、沖田はふてぶてしく座布団へと座る。適当さが目立つ返答に、土方は冷静に指摘を入れた。
「本当にわかってんのか? リーファに対しては優しくしろってことだよ」
「優しくねぇ……」
そう呟くと彼は黙々と考え込んでしまう。その心の中はまったく懲りておらず、むしろ開き直っていた。
(悪いな……俺には俺のやり方があるんで何を言っても聞きやせんよ。それに、アレを渡したとはいえ、こっちにはまだ面白いモンが残っているんでねぇ……)
そう心の中で言うと沖田は、ポケットに入ったあるモノを確認する。それはボイスレコーダーに似た黒い筒状の物体だった。一体沖田は何を企んでいるのだろうか……
時刻はついに一二時となった。真選組屯所前では、ようやく万事屋一行が到着。銀時、新八、神楽、キリト、アスナ、ユイ、シリカ、リズベット、シノン、クライン、定春、ピナの計十人と二匹が門の前に集まっている。
「ここだな。真選組屯所っていうのは……」
「ようやくリーファさんと合流できるんですね……」
キリトやユイは続けて声に上げた。一昨日にも挨拶を交わして、真選組の存在を知っていたキリトら三人であったが、他の仲間達は初めてその存在を目の当たりにする。
「これがこの世界の新撰組……でも、何か違うような……」
「新撰の文字が微妙に違うわね」
「真に選ぶ……やっぱり私達の知っている新撰組ではないのね」
シリカ、リズベット、シノンの三人は、自分達の知っている新撰組との名前の違いに違和感を覚えていた。一方で、クラインは名前よりも真選組と桂の関係に気にしてしまう。
「桂さんと敵対しているって聞いたけど、どういうことだ……? まさか、喧嘩しているってことか?」
「あのクラインさん……決してそんな事公の場で言わないでくださいね。下手したらアンタ、捕まりますよ」
呑気な考察をして新八にツッコミを入れられた。現在の彼は攘夷志士であり、桂と同じ立場にある。もし桂との関係性が真選組等の警察組織にバレてしまえれば捕まってしまうが、彼自身はまだそこまで危機感はない。それぞれが独自の感想を述べたところで、次に銀時がキリト達へ向かって声を上げた。
「まぁ、この世界の真選組はバカの集まりって思っておけばいいよ? もしくは税金ドロボーでも意味は変わんねぇよ」
「散々言われているわね……」
「でも、この世界の新撰組は私達の世界で言う警察なんですよね? さすがに言い過ぎじゃないですか?」
シノンやシリカは銀時の言っていることが大げさに思っていたが、アスナや神楽らはそれが全て事実であることをよく知っている。
「決して言い過ぎじゃないのよね……」
「真実を知らない方が幸せアルかもな……」
真選組を知る者と知らない者の間で、かなりの温度差が生まれていた。そんな中、ついに真選組の門が開きはじめる。中から現れたのは――
「だ、旦那方!?」
「や、山崎さん!?」
真選組の監察担当、山崎退だった。外の様子を確認しようとたまたま門を開けたところ、万事屋らと出くわしたようである。ちなみに、山崎がキリトらと会うのはこれが初めてであった。
「山崎さん……? あなたも真選組の一員なのですか?」
ユイの質問に山崎が答える。
「えっ? そうですけど……って旦那方! まさか、この人達が新メンバーのキリトさん達ってことですか!?」
「ああ、そうだよ。一部違う奴等もいるけどな」
銀時が軽く補足を加えていた。驚く山崎とは裏腹に、キリト達も彼を見て異なった反応を声に出している。
「山崎……聞いたことのない新撰組の人だな」
「結構マイナーな人かしらね?」
キリトやアスナからは遠回しで地味だと指摘されて、
「どうせならもっとメジャーな人に会いたかったわね……」
「なんで、近藤勇や土方歳三のような人じゃないのよ……」
「正直がっかりです……」
「って、ちょっとぉぉぉ!? 会ってまだ数分しか経っていないのに、なんでみんながっかりしているの!? 知名度が低いからって、それはないでしょ!」
リズベットら女子三人からはため息を吐かれてがっかりさせていた。山崎の地味さ加減は、別の世界の住人にも伝わっているようだ。すると、今度はクラインが彼へ話しかけてくる。
「あっ、ところでよ、山崎ってやつ。ここにリーファちゃんがいるっていうのは、本当だろうな?」
「というかアンタも十分雑な言い方だな! ……もちろん、リーファさんならウチで預かっていますよ。もう折角ですから、俺が案内するんで連いてきてください」
「おー! マジアルか! ありがとうアル! ジミー!」
「だから、山崎だってば! 旦那方はせめて名前くらい覚えてくれない!?」
折角の優しさも、影の薄さで帳消しにされてしまう山崎。しかし、彼のおかげでリーファとの再会はすんなり進みそうだった。
「よし! ならお言葉に甘えるか!」
「そうだな。スグは昨日散々な目にあっているし、早く慰めてあげないと」
「散々な目? 何かあったのかよ?」
「それは……」
とキリトが銀時へ説明しようとした時である。
「おい、山崎!! 何やってんだ!」
突如渋い男性の声が場に響いていく。一同が前へ振り返るとそこには、真剣な眼差しで銀時らをにらみつける五人の真選組隊士がいた。その中には、スキンヘッドが特徴的な十番隊隊長原田右ノ助もおり、どうやら彼が先ほど怒鳴りを上げたようである。
「は、原田!?」
「原田さん? あの方も真選組の一員なんですか?」
ユイの問いに今度は新八が答えた。
「そうだよ。でも、なんであんなに怒っているんだろう……まさか、山崎さんが原因!?」
「いや、俺じゃないですよ! 何もやらかしてませんからね!!」
山崎は真っ向から否定する。原田が怒っている理由を、彼自身もまったく理解していないのだ。すると、原田から銀時達へ話しかけてくる。
「山崎! そいつらはまさか、リーファさんを取り返そうとしている連中か?」
「はぁ? そんなの当たり前じゃないの? アンタ達が連絡したからアタシ達は、ここへやってきたのよ!」
「そうアル! リッフーを取り戻すために私達は来ているネ! 話が違うアルよ!」
強気に反論するリズベットと神楽。どうやら、万事屋側と真選組側で意見が対立しているみたいだが……互いに勘違いしている理由は、沖田の言ったデマが原因だった。
「何を言っているんだ!! リーファさんはな……沖田隊長の大切な婚約相手なんだよ!!」
原田の言い放った衝撃発言に、場は静まり返ってしまう。そう、沖田によるデマが一部の隊士の間で大きく話を膨らませていたのだ。昨日には沖田の交際者だと噂程度に広まり、いつの間にか結婚にまで嘘が拡散されている。この言葉が嘘だと知っているのは一部のメンバーだけであり、知らないメンバーはというと……
「えっ……? えぇぇぇ!? リーファさんが結婚ですか!?」
「嘘でしょ!? アタシ達の知らない間に何があったのよ!?」
「本当なの? 嘘じゃないの……?」
かなり惑わされていた。シリカやリズベットは慌てふためき、シノンは思わず絶句してしまう。一方、銀時だけは事態をすぐに飲み込んでいた。
「沖田が結婚……ただの嘘じゃないのか?」
「そうなんだよ、銀さん。だからリーファは大変なことになっているって伝えたかったんだけど……」
「今度はみんなが大変なことになっちゃったわね……」
アスナはこの混沌とした状況に頭を抱える。万事屋のみが嘘だと見抜き、ここでも温度差が露わになった。女子達が動揺する中、クラインも例外ではない。
「リーファちゃんが結婚……!?」
「って、クラインさんが一番衝撃を受けているんですけど!? どうしたんですか!? まさか、密かに想いを寄せていたってわけじゃないですよね!?」
「いや、違う……! 俺が気になっているのは……」
新八のツッコミを素通りして、クラインは原田へと近づく。一体何を言うのかと思いきや、彼は急に頭を下げ始めた。
「頼む!! その沖田隊長って人に会わせてくれ!! 一日で女性を口説き結婚させるまでのテクニックを教えて欲しいんだ!!」
「そこぉぉぉぉ!? アンタが別の意味で惑わされているよ!! つーか、アンタが会おうとしている人はこれから敵になる人でしょ!? そこまでしてモテたいんですか!!」
彼はリーファの結婚よりも、沖田の口説く技術に惹かれて驚いていたらしい。いずれにしろ、デマに惑わされていることに変わりはないが……混沌を極める場にキリトらが対応に困った時である。
「ええい! 下がれ! 二人の恋路を邪魔しようものなら俺達が相手になるぞ!!」
原田の怒りが限界を超えてしまった。
「うわぁ!!」
まずは近づいてきたクラインを跳ね飛ばし距離をとると、腰に携えていた刀に手をかける。原田に続き、四人の隊士も同じく刀を構え始めたので、完全に敵意を露わにしてきた。
「おいおい、ここまで話がこんがらがっているのかよ……こうなりゃ戦うしかないってことか?」
「そうみたいだな……戦って突破するしかないかもな……」
話し合いでは通じない相手だと察して、銀時やキリトは戦闘準備を始める。仲間も続き武器を構えようとした時だった。思わぬ助っ人が銀時らの前に現れる。
「ワフ―!!」
「ナー!!」
「この声は……まさか!?」
突然聞こえてきた二匹の異なる鳴き声。同時に万事屋一行の頭上を、二匹の生物がジャンプして通過していく。その正体は――
「やっぱり定春アル!!」
「それにピナまで……!?」
ペットである定春とピナだった。突然やる気を見せた二匹の姿に、主人である神楽やシリカは驚きを見せる。今まで様子を見て目立った行動をしていなかった二匹だが、ここでようやくチャンスが訪れた。互いの目的を一致させて、原田ら隊士らに果敢にも立ち向かっていく。
「ペットが相手か……怯むな! 取り押さえろ!!」
隊士達も容赦なく定春やピナに向かって襲い掛かろうとするが……
「ワフゥゥゥ!!」
「「「「ぐわぁぁ」」」」
「何!?」
人よりも大きい犬には対抗する術もなく、隊士達は全て投げ飛ばされてしまった。さらに隙が生まれているうちに、ピナが追い打ちをかける。
「ナー!!」
ピナの口から透明な泡が多く発射された。それに当たった隊士達は、みな体の自由が効かなくなり動けなくなってしまう。いわゆる金縛りにあったのだ。
「な、なんだこれ!!」
「動けないぞ……一体何をしたんだ!!」
「えっと……ピナが泡を使ってアナタ達の動きを封じたんですよ!!」
「ナー!!」
シリカの説明にピナも同じく共鳴する。この技はピナの得意技であるバブルブレス。相手の動きを一定時間封じてしまう技なのだ。この世界でも、威力は健在で変わらぬ効果は発揮してくれた。なおかつ、定春の高い攻撃力も相まって二匹のコンビネーション技が決まる。そして隊士達の動きが封じられたところで……
「よっしゃぁぁ! 今だ、てめぇら! そのまま乗りこめぇぇぇ!!」
銀時が勢いよく声を出した。仲間達を誘導し、強行突入を決めたのである。
「って、ちょっと!? 銀さん!? 本当にいいんですか!?」
「いいアルよ! 細かい事なんて気にしていられないアル!!」
「そうだな! みんな、銀さんに連いていこう!!」
すぐに納得した一行は、勢いのまま屯所内へと侵入していく。一方でピナや定春はというと、
「ワフ―!」
「ナー!」
共に手を振り見送っていた。二匹はバブルブレスの効力が消えないか、ここで原田らを見張ることにするようだ。みなが知らない間に、二匹の仲も徐々に紡がれている。
「ま……待て……お前ら……」
一方で、動けない原田らはあっけない敗北を受けて屈辱に打ちひしがれていた。たかが、小さい竜の吐いた泡で負けるなど武士としてのプライドもへったくれもない。虚しい声が場に響く中、もっと悲惨な目にあった男がいる。
「何で俺まで……」
定春に踏みつけられた山崎だった。彼は巻き込まれた側の人間だったが、どさくさに紛れて定春に蹴り飛ばされ、ピナのバブルブレスを浴びて今に至っている。しかも銀時達に存在を忘れられるなど、悪いことが重なって起こっていたのだ。
「コラボしても俺はこの扱いなんだな……」
不憫さを感じる山崎である。
遂に屯所への侵入に成功した万事屋一行。みな靴を脱ぎ、廊下を走り抜けていく。順調に進んでいると思いきや、山崎を置いてきたことにより一行はリーファの現在位置を未だに分かっていなかった。
「って、銀さん!? 大丈夫なんですか!? 山崎さん、置いてきちゃいましたよ!?」
「構うかよ! こうなったら手あたり次第探すだけだ!!」
「行き当たりばったりすぎよ! 銀さん! 本当に大丈夫なの!?」
銀時の大雑把な考えに新八だけではなくアスナまでツッコミを入れる。しかし、もう引き下がることはできない。十人は足を止めずにただ進むしかないのだ。
一方、リーファは現在部屋にはおらず、沖田の指示した接待部屋へと向かっている途中である。衣装や髪型と身だしなみをきちんと整えて、部屋の鍵もちゃんと持ち合わせていた。
「ようやく終わったわ! これでいつお兄ちゃん達に会っても、大丈夫ね! 早くみんな来ないかな~!」
気持ちが楽になった彼女は、スキップをしながら廊下を歩いている。仲間との再会を強く願いながら……そして、ついにその時がやってきた。
「何の音かしら……」
彼女は何かが近づく気配を感じ取っている。曲がり角である廊下の方へ様子を見ようとすると……
「って、うわぁ!?」
タイミング悪く何者かと衝突してしまい、床へと倒れ込んでしまう。肩をぶつけただけで大したケガもなかったが、リーファは怒りを露わにしている。
「痛ぁ……って、何ぶつかっているのよ!! 廊下を走っちゃダメって……」
と怒鳴ったのも束の間。彼女はぶつかった相手に驚いてしまった。その正体は……
「お兄ちゃん!? それに、みんな!?」
まさかの仲間達である。よく見ると、エギルを除く全ての仲間がそこにはいた。唐突に訪れた再会に、リーファは脳内が混乱してしまう。それはキリト達も同じ気持ちだった。
「痛たた……って、誰だ……スグ!? いや、リーファ!?」
「えっ? あいつがリーファなのか!? もう見つかったのかよ!?」
思わず現実の方の呼び名で声をかけてしまったキリト。一方の銀時は、早くも最後の仲間と合流できたことに驚きを隠せない。ちなみに、銀時や新八らがリーファと会うのはこれが初めてであった。
「あれがリーファさんなんですか……」
「何か思っていた妹キャラと違うアル。なんであんなに乳がデカいアルか……」
「神楽ちゃん……気になるところ、そこなの?」
神楽の妬みに対して新八がツッコミを入れる。彼女は同じ妹キャラとして、外見の違いに一段と嫉妬を燃やしていた。いずれにしても予想よりも早く合流できたのは幸運である。
「よかったです! リーファさんをようやく発見できました!」
「そうね! これで全員集合ね!」
ユイやアスナは、安心して思わず微笑んだ。だが、リーファはまったくこの状況を読み取れていない。
「えっと……つまり何がどうなってみんなはここにいるの?」
「それはだな……」
とキリトがリーファへ話しかけようとした時である。
「ちょっと待ってください!!」
「それよりもまずは、教えなさいよ!!」
急にシリカ、リズベット、シノン、クラインの四人が話に割り込み、リーファへと近づいた。彼女達はまだデマを信じており、その真相を聞くために彼女に問い詰めてきたのである。
「な、何!? 急にどうしたの……!?」
「リーファ……結婚するって本当なの!?」
「……はぁ!?」
シノンの質問を聞き、リーファは理解に苦しむ。真剣な表情から彼女は、仲間達がデマの影響を受けていると気付き始めている。
「どうやって口説かれたんだよ! 沖田さんって人はどんな男らしい人なんだよ!」
「本当に結婚するんですか!?」
「教えなさいよ! リーファ!」
あまりのしつこさに彼女は対応に困ってしまったが、ここは大声できっぱりと否定することにした。
「あのね……私は口説かれていないし、沖田さんに恋しているわけでもないのよ!! それは全部デマ!! 私は沖田さんと関係なんか一斉もっていないんだからね!!」
全力で伝えた彼女の渾身のメッセージ。局内中に響き渡り、仲間達にも十分伝わっている。
「えっ……そうなの?」
「そうだよ! 昨日宿泊部屋を借りる際に沖田さんが言った嘘が大きくなっただけだからね!! だいたい、沖田さんと付き合うくらいならおに……もっと別の人と付き合うわよ!」
「おい、今は本音が出なかったか!? 完全に言いかけたじゃねぇか!」
興奮のあまり思わず本音を言いかけたリーファ。幸いにも銀時や神楽くらいしか気づいていない。一方、リーファの弁解を聞いた一同は一旦沈黙し、ようやく全てを理解した。
「な、な~んだ! やっぱり嘘だったのね!」
「ア、アタシ達はちゃんと最初からわかっていましたよ!」
「そんなことあるわけないわよね……」
「いや、完全に信じ込んでいたわよね。三人共……」
シリカら女子三人はすぐに誤魔化したが、その心の中は嘘で踊らされた自分を密かに後悔している。だが、やっぱりクラインだけは別のショックを受けていた。
「な、なんだ……やっぱり一日じゃ女の子と結婚までに発展しないってことか……」
「てか、クラインさんは何に対してショックを受けているのよ!? アナタだけ、話題がズレているわよ!?」
リーファもこれにはツッコミを入れるしかない。嘘が原因の騒動も一段落したところで、再びキリトが話しかけてきた。
「まぁ、嘘は置いといて。まずはお疲れさま、スグ。昨日は大変だったな、無事で何よりだったよ」
「うん! 慰めてくれてありがとうね! お兄ちゃん!」
キリトからの励ましの言葉をかけられて、思わずリーファは照れてしまう。一日ぶりの再会を彼女は心から喜んでいた。するとある疑問が浮かび、早速キリトへ聞いてくる。
「あっ! そういえば、お兄ちゃん達が万事屋って言うなんでも屋に入ったって聞いたんだけど、それって本当なの?」
「えっ? 知っていたのか?」
「うん。近藤さん達から聞いていたから」
リーファが知りたかったのは、万事屋についてだった。彼女自身も半信半疑で本人から直接聞いてみたが、
「まぁ、本当だよ。この世界へ来てからは、万事屋の一員として活躍しているんだよ」
「そうだったんだ……」
やはり事実である。リーファは、期待と共に不安も入り混じり苦笑いで返してしまう。すると、キリトへ代わり今度は神楽らがリーファへと話しかけた。
「そうアルよ! キリやアッスー、ユイもみんな働き者でこっちは助かっているアルからナ!」
「……あの、もしかしてあなたがその万事屋って人達なの?」
「そうネ! 私は神楽って言うアル! それと冴えない眼鏡が新八で、けだるい銀髪男が銀ちゃんアル!」
「って、神楽ちゃん!? 真面目に紹介してよ!」
「つーか、何週に渡って自己紹介すんだよ」
「そこはツッコまないでください! 銀さん!」
神楽のふざけた紹介や銀時のメタ発言に大きくツッコミを入れる新八。いつもの万事屋らしい光景に、リーファは名前よりも愉快で賑やか人達であると感じていた。
「なんだか、明るそうな人達ね……」
「まぁ、アレが万事屋のいいところなんだよ」
「すぐ笑いに変えちゃうもんね」
「さすが、万事屋ですね!」
既に万事屋に慣れた、キリト、アスナ、ユイの三人はさも当たり前のように答えていたが、リーファはまったく慣れていない。
(三人共、もう馴染んでいるんだ……でも、良い人達みたいだから安心したわ……)
それでも、彼女は心の中でそっと万事屋の雰囲気に安心する。少なくとも悪い印象は持っていなかった。互いに顔見知りになったところで銀時が場を仕切りだす。
「まぁ、詳しい話はここよりも移動してからの方がいいだろうな」
「それもそうだな。それじゃ、みんな! まずはここを出ようか」
「賛成アル! バカ共に見つかったら余計に時間を食うアルからナ!」
彼らは一旦屯所を出ることで考えが一致した。とその時である。
「おいおい、何の騒ぎだ?」
「まだ来ないですかい、あいつは?」
「一体何が……って……」
何とタイミング悪く、リーファを探していた近藤、土方、沖田の三人とばったり会ってしまった。互いに目を合わせて沈黙が続いてしまう。
「って、このタイミングで会うのぉぉぉ!?」
新八のツッコミが無常に響いていく。果たして彼らはこの危機を脱せるのだろうか……
元々下書きをしてから行うのですが、今回はもっとも変更部分が多かったのでこんなに遅れてしまいました。すいません……次回はこの話の続きと最後のまとめの二つの話を上げようと思います。うまくいけば来週には投稿できます。もし更新していなかったら次の週まで待っていただければ幸いです。いよいよ第一章も完結……最後までお付き合いください。