剣魂    作:トライアル

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 一か月という沈黙を破り、再び投稿出来ました! みなさん、お久しぶりです! トライアルです! 色々と予定が崩れたのですが、ようやく出来ました! 今回は、シリカら女子四人が下宿することになった「ひのや」でのお話。時系列は十六訓と十七訓の間となります。それでは、どうぞ!


第十六.五訓 新生活は期待と不安で心が一杯になる

 時刻は午後の十時を回ったあくる日の万事屋。この日は万事屋の知り合いや、キリトら別世界の住人が集まって話し合った、他世界対策交流会議が行われていた。やるべきことも決まり一行は、それぞれの新しい居場所へと帰っている。そんな中、万事屋ではさらなる話し合いが行われており、六人は揃ってテーブルを囲みソファーへと座っていた。

「さて……明日からまた本格的に万事屋としての仕事が始まるわけだけど……その前にはっきりと決めておきたいことがあるのよね」

「決めておきたいことですか?」

 アスナの力強い言葉に、ユイが反応する。どうやら彼女は、ある問題について白黒をつけたいようだ。その表情は真剣さを極めている。

「おい。それって一体なんだよ?」

 銀時も聞いてくると、急にアスナは彼の方を向き再び口を開いた。

「銀さん。これからのことも考えてちゃんと言っておくわ……今後は私が万事屋のお金を管理していいわね?」

「ああ、うん。って、はっ!? おい、それどういうことだよ!! 急展開すぎるだろうがぁ!?」

 思ってもいない言葉を聞き、銀時は耳を疑う。彼女が伝えたことは、これからの万事屋の家計簿を握ることだった。もちろん銀時は、この考えに真っ向から反対している。一方でアスナは、冷静に訳を話しだす。

「私は今後の万事屋の事を思って提案したのよ! 銀さんみたいにギャンブルなんかしてお金をチャラにされるよりは、私がしっかりと管理した方が効率的でしょ? 養ってもらっている身だけど、しっかりした組織体制にしないと元も子もないわ! どうかしら?」

 真剣な眼差しで、彼女は銀時を睨みつける。正論を言っているためか、今日のアスナは普段よりも強気であった。その言い分に銀時は言い返すこともできずに、立場が危うくなる。そこで彼は仲間達を頼ることにした。

「ふざけんな! そんなの新八達が納得するかよ! なぁ、お前ら! アスナよりも俺の方が良いって言ってくれよ!」

 とキリトら四人へ勢いよく聞いてみたのだが――

「いや、俺はアスナの方がいいと思うが……」

「僕もアスナさんの意見に賛成です」

「ママの方が良いに決まっていますよ!」

「問答無用でアッスーアル」

全会一致でみなアスナの意見を推している。誰一人として銀時に賛同する者はいなかった。さらに、

「ワフ!」

定春でさえ手をアスナの方へ向けて彼女を指示していたのである。これには銀時も気持ちが沈んでしまい、動揺を隠せずにいた。

「……なんでおまえらまで? 定春も俺の味方じゃねぇのかよ……」

「仕方ないネ。アッスーの方がしっかりしていて、頼りがいがアルからナ」

「正直銀さんのギャンブル癖のまま、お金は管理してほしくないですからね」

 長い付き合いである新八や神楽からも、辛辣な言葉と共に簡単に手のひらを返される。そして、アスナは満面の笑みでとどめをさした。

「フフ……分かった、銀さん? これで私がお金を管理してもいいわよね?」

「……はい、大丈夫です」

「ありがとうね」

 遂に言い返せなくなった銀時は、アスナの要求を受け入れることにする。その光景はまさに下克上であり、万事屋の歴史が大きく動いた瞬間でもあった。

「ふぅ……これで万事屋も少しはまともな組織になるアルナ」

「そうだね。もういっそのことアスナさんが万事屋の所長でいいんじゃないですか?」

「そうネ! アッスーがリーダーで十分アルヨ!」

 新八や神楽からは容赦ない言葉をかけられ、ますます万事屋での立場を失っていく銀時。その表情は徐々にやつれ始めていた。すると、彼の元にキリトが優しく声をかけてくる。

「おーい。大丈夫か、銀さん?」

「……なぁ、キリト。一つ聞いていいか?」

「ん? 何?」

「アスナって、なんであんな強引なんだよ?」

 銀時は憔悴しきった声で、キリトへ疑問を問いかけた。すると彼は、丁寧に答えを伝える。

「それは……アスナなりの優しさだと思うよ。万事屋のことを真剣に考えた結果なんだし、しょうがないことだよ」

「そうか? 俺からしてみれば、鬼嫁以外の何者でもねぇぞ」

「ハハ……。相当トラウマを植え付けられたみたいだな」

 皮肉を口にした銀時に対して、キリトは思わず苦笑いで返してしまう。説得しようとも銀時の気持ちは沈んだままである。そんな彼を励ますように、キリトは銀時の愚痴に付き合うのだった。こうして、万事屋の忙しい一日は終わりを迎える。

 

 その一方で、シリカ達女子四人は月詠に連れられて、下宿先のある吉原へと向かっていた。新生活が始まることから不安も見せていたが、会話をしているうちに気持ちが変化していき、期待も大きく高まっていく。

「下宿と言えばなんだろう……? まずは寝間着でゴロゴロと転がって、その後は枕投げが定番かな?」

「って、途中から修学旅行あるあるになっていますよ!」

 リズベットの思いついた考えに、シリカがすぐにツッコミを入れる。そんな彼女達の話題は、新しく始まる下宿生活で持ち切りだった。リーファもこの話の流れに乗っかってくる。

「でも、あながち修学旅行みたいな感じだよね。みんなで泊って生活するなんて」

「そうなのか? 主らは普段、お泊り会とかはあまりせんのか?」

「そうね。このメンバーで本格的に泊まるのは初めてかしらね。その分、期待も高まっているけど」

 月詠からの問いにシノンが答えた。みな下宿自体あまり経験したことが無く、女子同士で泊ることもあまり多くないという。これには月詠も少し驚いていた。

「なるほど。主らにしては意外じゃな。てっきり何回も行っていると、わっちは思っていたが……」

「えっ? そうなんですか?」

「ああ。元の世界ではみな学生だと聞いていてな。今どきのJKはあまり遊びには行かんのか?」

 今度は月詠から質問が飛び出す。興味深く聞く彼女に対して、リズベットが返答した。

「まぁ、アタシ達のいた世界には仮想世界があったから、そっちで集まって済ましちゃうこともあるのよね」

「ほう……時間短縮と言うことじゃな。まったく時代も変わったもんじゃ」

「って、月姉の世界と私達のいた世界は別物だから、時代もへったくれもないんだけど……」

 神妙に納得した月詠であったが、リーファからは正論を言われてしまう。SAO世界の事情も理解したところで、再び話題は下宿へと戻る。

「そこは気にするでない。仮想じゃろうと現実じゃろうと、主らが満足しているならよい。それに、今のわっち達は主らの保護者じゃからな。元の世界へ戻れるまでしっかりとめんどうを見るから、安心して頼ってきなんし」

「月姉さん……」

 場が落ち着いたタイミングで、月詠は頼りがいのある言葉を一同へかけた。生活環境が大きく変わっても、何不自由なく暮らしてほしい。そう月詠は伝えたかったのだ。そして、彼女からのメッセージを受け取り、シノン達もみな前向きに捉えている。

「そうよね。まだ慣れてなくて分からないこともあるけど、月姉さんやお妙さん達がいればきっと大丈夫よね!」

「みなさんを信じて、この困難もきっと乗り切りましょう!」

「ナー!」

 シリカの勢いにつられてピナも共鳴するように叫ぶ。同じく仲間達もアイコンタクトで、思いを一致させた。その表情は希望に満ち、みな屈託のない笑顔を見せている。そんな女子達の絆を目の当たりにした月詠も、そっと微笑んでいた。

「ふっ……やっぱり、この子達は仲がいいのう。ウチがますます賑やかになりそうじゃ……」

 彼女達と生活を共にすることに期待を持ち合わせている。明るくも前向きな雰囲気が辺りへと漂っていた。そんな時――

「フギャ!!」

「えっ? あっ!」

ちょっとしたトラブルが起こってしまう。月詠が手を後ろへ下すと、ちょうどシリカの猫耳を鷲掴みにしてしまった。身長差があってか、月詠は無意識に行ったらしい。一方で、急に触られたシリカは気が立っている。そして、早速怒りをぶつけてきた。

「つ、月姉さん!! 急になにするんですか!! びっくりするじゃないですか!!」

「す、すまぬ! つい気付かずにやってしまったんじゃが――」

「気を付けてくださいね! アタシやシノンさんは、猫耳や尻尾を不意に触られると驚くんですから!」

「わ、わかった。ちゃんと覚えておく……」

 先ほどのまでの雰囲気とは打って変わり、月詠も罪悪感を覚えて何も言い返せなくなる。普段はあまり見られない珍しい光景であった。

「月姉がシリカに対して、タジタジになっている……」

「ある意味、中々見れない光景かも……」

 シリカに怒られている月詠の姿を見て、リズベットやリーファは複雑な気持ちで呟く。しかし、同じケットシーであるシノンは違った反応を示していた。

「月姉さんにしては珍しい失敗ね。それにしても――ちょっと、シリカが羨ましいかも……」

 月詠の失敗に反応を示しつつ、猫耳を触られたシリカに対してちょっぴり焼きもちを焼いている。その証拠に表情もふくれっ面だった。ハプニングがありつつも、気を取り直して一行は目的地の吉原へと向かっていく。

 

 一方で、こちらは吉原桃源郷。江戸でも有数の遊郭であり、大人向けの店が軒を連ねていた。深夜へ差し掛かろうとしている今、多くの店が賑わいを見せている。そんな中、茶飲み屋であるひのやは夕方を過ぎた頃には既に閉店して、ある準備を行っていた。

「四人分の寝間着と布団。歯ブラシに、下着は――みんなが来てからで大丈夫かしらね。あっ! そうだわ! ペットも連れてくるみたいだから、その準備もしておかないと!」

 車椅子に座りながら、日輪は晴太と共に集めた下宿用の道具を確認している。そう、今日からひのやには、別世界から来た女子四人とペットが下宿先として泊まりに来るのだ。突然決まったことだが、日輪はすぐに了承して準備を手際よく進めている。楽しみにしている彼女であったが、その反応とは真逆に晴太はまったく落ち着いていない。

「ねぇ、母ちゃん……本当にウチに下宿してくるの?」

「当たり前でしょ。ウチは部屋が余っているだし、適任だったのよ。ところで、なんで緊張なんかしているの?」

「それはそうだよ! 急に姉ちゃんが四人も増えるなんて、まるでどっかのラブコメみたいじゃんか!」

「何言っているの。昨日来たシノンちゃんには、普通に接していたじゃないかい」

「それは、酔っていたからだよ! オイラだって、泊まりに来るって知っていたらここまで動揺してないのに!」

 顔を真っ赤にして、晴太は本音を口に出した。どうやら彼は下宿する女子達が気にかかり、ずっと緊張を隠せないようである。思春期の男子らしい反応であった。すると、戸惑う晴太を見た日輪は自分なりの言葉で返してくる。

「大丈夫よ。銀さんだって言っていたじゃないの。興奮するくらいかわいいって。みんな期待通りの美少女よ。だから安心して迎えればいいのよ!」

「そういう問題じゃないって! もう~! 母ちゃんまでからかわないでよ!」

 しかし、余計に晴太の気は乱れてしまう。恥ずかしがる姿を見て、日輪もついちょっかいをかけてしまったようだ。そんなやり取りをしているうちに、ようやくその時がやってくる。

「ただいまじゃ、日輪―! みなを連れて来たぞ!」

 玄関から聞こえてきたのは月詠の声。そう、いよいよ下宿する四人が月詠に連れられてやって来たのである。

「あっ、いらっしゃい! 今行くからね! さぁ、晴太。一緒に行き――って、アレ?」

 と日輪が声をかけた時、晴太は真っ先にその場からいなくなっていた。彼の行動から察するに、気持ちが落ち着かないまま逃げてしまったのだと彼女は考えている。

「全く、あのバカは。女子に対してすぐ意識しちゃうんだから」

 思春期の義息子に苦労しつつも、日輪はクスッと微笑みを浮かべた。そして、そのまま女子達を出迎えるために、車椅子を動かして単身玄関へと向かう。

「ん? やっと来たか、日輪。何かあったのか?」

「いいや。みんなのために準備をしていただけだよ。それで、この四人が今日から泊まる女子達かい?」

「ああ、そうじゃ。シノンにリーファ、リズベット、シリカとペットのピナじゃ。みな、しっかりと挨拶するのじゃぞ」

「「「「よろしくお願いします!!」」」」

「ナー!」

 対面して間もなく月詠に促されて、日輪へ挨拶を交わす女子四人とピナ。みな元気よく威勢の良い言葉で返す。そんな彼女達を見て、日輪も一安心していた。

「こちらこそよろしくね。みんな元気そうだし、かわいい子ばっかりね。将来は上玉って言われるくらい、べっぴんさんに成長するのかしらね~」

「って、日輪。……そういうことは初対面の時に言うものではないぞ」

「そうかしら? 無難に自己紹介をしても面白味がないでしょ? 凝った話で引っ張るべきじゃないの?」

「どこのトーク番組じゃ!! 主は普通に自己紹介するだけで、十分だと思うぞ!!」

 茶目っ気のあるボケをかました日輪に、月詠が激しくツッコミを加える。彼女達らしい親しげな雰囲気を見て、自然とシリカら女子達も親近感が生まれ始めていた。

「日輪さんって、結構ノリの良い人なんだ」

「そうね。雰囲気からしてみれば、親しみやすい人だと思うわ」

 リーファからの率直な感想を聞き、シノンが返答する。自己紹介はしなくとも、日輪の持つ優しい一面はうまく伝わっていた。

「気さくなお母さんって感じかな? どっちにしても親しみのある方が、話しかけやすいけどね!」

「そうですね! 遊び心のある大人って、素敵だと思いますよ!」

 リズベットやシリカも日輪に対して好印象を持ち合わせている。すると、それを聞きつけた本人は早くもお礼を伝えてきた。

「ありがとうね、みんな! 褒めてもらえてうれしいわ! お礼に明日の夕食は豪勢にしちゃおうかしら~!」

「何、浮かれとるんじゃ!! 照れているのがバレバレじゃぞ!!」

 冗談っぽく言った日輪に対して、月詠のツッコミも止まらない。場は自然と和んでいき、女子達は日輪とも打ち解けあい始めている。

 一方で、後ろ側にある戸の隙間からはある視線が突きつけられていた。その正体は――

(って、やっぱり銀さんの言っていた通りだ……いや、それ以上の可愛さなんだけどぉぉぉ!!)

心の中で本音を叫びまくる晴太である。彼は日輪が玄関へ向かった後に、こそこそと隠れながら外の様子を伺っていた。しかし、女子達の容姿を見ると余計に緊張が高まっていき、出るタイミングを失ってしまう。その証拠に、彼の心拍数は上がったままである。

(ど、ど、どうしょう……オイラあの子達とこれから一緒に暮らすの? そんなことしたら余計に緊張しちゃうし、SAOの読者を敵に回しちゃう可能性だって――ああ、オイラはどうすればいいんだよぉぉ!!)

 ついにはメタな心配まで晴太は始めてしまう。行動や思考すらも八方塞がりに追い込まれてしまい、今はただこの状況を様子見する他はない。彼が決意を固めるのは時間がかかりそうだ。

 

 それから数分後。結局晴太は表へ出ることもなく、挨拶をする機会を見失ってしまう。気配を消して、近づくことすらもためらっていた。一方で、女子達は日輪に連れられて廊下を移動している。向かう場所は、これから自分達の暮らす下宿部屋だ。

「さて、ここが今日からみんなの暮らす大部屋よ!」

「へぇ~。ここが下宿部屋なのね」

 新しい部屋の全貌を目の当たりにして、シノンら女子達は思わず息を呑む。四人が暮らしても十分な広さである十畳の部屋が印象的であり、旅館を思わせる和風な雰囲気を醸していた。内部ではすでに四人分の布団や寝間着に加えて、ピナ専用のバスケット型のベットも用意されている。気の利いた行為にみな心から嬉しく思い、リズベットも本音を口にした。

「ここまで用意してくれるなんて……予想外だわ」

「フフ。気に入ってくれたなら、何よりよ。四人共同部屋にしてみたけど、それで大丈夫だったかしら?」

「も、もちろん! 私達のイメージ通りよ!」

「そう。なら良かったわ!」 

 リーファからもお礼を言われ、日輪は満足気な表情を浮かべる。女子達が喜んでくれることに、幸せを感じていたのだ。

「それじゃ、部屋は好きに使っていいからね。詳しい事はまた明日になったら伝えるから、今日はゆっくり休みなさい。お風呂も沸かしてあるから、入ってきても大丈夫よ。わからないことがあったら、私や月詠に聞いてきてね!」

「はい! わかりました!」

 連絡事を全て言い終えた日輪は、部屋を出て女子達の元を去っていく。後のことは彼女達に任せるようだ。廊下を移動し月詠の元へ戻ろうとした時、タイミングよく晴太と鉢合わせする。

「か、母ちゃん……」

 突然の再会に彼は言葉に詰まっていた。すると日輪は一言だけメッセージを送る。

「晴太。あの子達はみんないい子よ。きっと仲良くなれるから、自己紹介は早めにしちゃいなさい」

 そう優しく伝え晴太の背中を後押ししたのだ。この言葉を聞いた彼は、ようやく決意を固めていく。

「そ、そうだよな……ここで待っていても始まらないし、チャンスは今しかないかも!」

 気持ちが楽になった今こそ、千載一遇の好機かもしれない。そう信じた晴太は、急いで女子達のいる下宿部屋へと足を進めた。そして、ちょうど戸の前へと立ち止まる。

(この部屋か……でも、少し物音がするからまだ着替えているのかな? ちょっと待ってみる?)

 部屋から聞こえてくる音を察して、晴太はタイミングを計り再び気配を消した。もし着替えている途中であれば、報復を受けかねないからである。少なくともエチケットは守らなくてはいけない。それから三分ほど待つと、ようやく部屋からの物音が静まった。

(そろそろかな? もう流石に着替えているのよね? 入っても大丈夫だよね?)

 静けさの中で再び彼は不安に包まれる。緊張も重なっていき、普段よりも疑心暗鬼に陥っていた。そこで晴太は、気付かれないように戸の隙間から部屋を覗くことにする。

(タイミングが悪かったら、すぐに離れよう……きっと、大丈夫だと思うけど。つーか、たかが挨拶に、オイラどんだけ神経質になっているんだよ……)

 ついには自分自身にもツッコミを入れ始めた。臆病さを感じながらも、晴太は隙間から女子達のいる部屋をこっそりと覗く。そこで目にしたものは、

「あ~~。久しぶりの布団は気持ちいいわね、シリカー」

「本当です~。季節は夏なのに、自然と温まりたくなりますよー。ねぇ、ピナ?」

「ナー……」

女子達がパジャマ姿でくつろぐ様子である。シリカやリズベットは、一日ぶりに布団へとこもり寝っ転がっていた。温もりを感じながらリラックスしている。同じくピナも自分専用の小型ベットに満足して、体を丸くしていた。みな表情は和らぎ、幸せそうである。

 一方のシノンとリーファは、共に枕を持ちある話し合いを行っていた。

「部屋の広さが限られている中で、いかに相手へ枕を叩き込むか……っていうルールで合っているわよね?」

「ええ、そうだけど……もしかしてシノンさんって、枕投げを楽しみにしているの?」

「べ、別にそうじゃないわ! ただ、やったことが無いから気になっているだけよ……」

「急なツンデレ!? って、本当は楽しみにしているじゃん!!」

 若干照れ始めているシノンに対して、リーファがすかさずツッコミを入れる。彼女達が話していたのは、枕投げへの戦略についてだった。数時間前に話していた下宿生活の定番で上がった話題だが、シノンは少なからず興味を持ち始めている。つまり、枕投げを存分に楽しもうと考えていたのだ。そんな女子達の雰囲気は和やかなものであり、みな楽しそうに過ごしている。この光景を見た晴太は、好機と捉えていた。

(良かった……。これならいつ訪ねても大丈夫だよね? なら今からでも――)

 ようやく覚悟を決めて、彼は改めて部屋へ入ろうと試みる。一歩前へと下がり、戸を叩こうとした時だった。予想外の出来事が彼に降りかかってきた。

〈ガラッ〉

「えっ?」

 聞こえてきたのは戸を開ける音。思わず前を向いてみるとそこには、

「って、みなさん……?」

シリカ、リズベット、リーファ、シノンと女子四人が立ち並んでいた。急すぎる場面転換に、晴太の理解も追い付かない。一方女子達は、彼を凝視して話しかけてくる。

「君が晴太君だよね? ずっと隠れていたみたいだけど、こそこそ何をやっていたのかな~?」

 不気味にも愉快そうな声でリズベットは話しかけた。その雰囲気は先ほどまでと異なり、静かに怒りを露わにしている。つまり、彼女達はすでに晴太の行動に勘付いていたのだ。これには晴太もすぐに察して、動揺が激しくなっていく。

「ま、まさかバレた……って、ハッ!」

 そしてつい本音を漏らしてしまった。不本意で覗いていたとはいえ、勘違いを与えたと彼は思っている。しかし、謝ろうにも時すでに遅い。

「さて、どういうことか説明してもらえるかしら?」

 誤解を与えたまま、シノンら四人は怒りが収まっていなかった。笑顔を崩さずに迫っていることから、晴太へただならぬ威圧感と恐怖を与えていく。とても弁解する空気ではない。対応に困った晴太はやむを得ず――

「えっと、その……さらば!!」

この場から逃げ出し脱出を図った。しかし、そううまくはいかない。

「逃がしませんよ! ピナ! バブルブレス!!」

「ナー!!」

 シリカがピナへと指示して、相手の動きを止める技、バブルブレスを発射させる。この泡に運悪く晴太も当たってしまい、

「って、何!? うわぁ!?」

体の自由が効かなくなると同時に倒れ込んでしまった。もちろん晴太はバブルブレスの存在は知らないため、突然の金縛りに頭が混乱してしまう。そして、

「さぁ、洗いざらい説明してもらうわよ」

「ギャャャ! 待ってー! 誤解なんだー! 許してー!」

リーファへと引っ張られていき、晴太はなすすべもなく連れていかれてしまった。体が思うように動かないため、抵抗することもできない。彼の気持ちは虚しさで一杯になっていた。

 

 それからも晴太は、下宿部屋で長い取り調べを受けている。もはや挨拶どころではなく、彼の頭は罪悪感で埋め尽くされてしまう。

「それで、どうして逃げたりなんかしたの?」

「正直に話してって、そう言ったのね?」

 リズベットやリーファが真剣な表情で自白を迫ってきた。シリカやシノンも同じように睨みつけているので、もはや晴太に逃げ道などない。

(ど、どうしよう……オイラもしかしてみんなに嫌われちゃったの? 下宿初日なのに……。でも、あの時すぐに挨拶しなかった自分も悪いし、自業自得なの……?)

 罪を重く感じている彼は、すぐに行動しなかった自分を責め立てていた。しかし、今は状況を鑑みて、女子達との誤解を解くことを優先的に考えている。

(でも、今はみんなの誤解を解かないと! 息苦しいまま生活したくないし……! ここで動くしか――)

 自分が説明しても信じてもらえない。そんな可能性だってある。でも今は、しっかりと自分の気持ちを伝えるしか方法はない。我慢してきてきた思いを解き放ち、晴太は四人に向けて全てを打ち明けた。

「ごめんなさい、みなさん……。急に覗いてきて……。でも、オイラはやましい気持ちで見ていないし、むしろ姉ちゃん達と友達になりたかったんだ……! 覚悟が決まらなくて、こんなことになっちゃって……。本当に、本当にごめん!!」

 謝罪も込めた晴太からのメッセージが部屋に響き渡る。彼らしく正々堂々と言葉を伝えてきた。その言葉を聞いた女子達は、急に表情を柔らかくしてみな純粋な笑顔を見せてくる。そして、リズベットが女子を代表して晴太へ話しかけた。

「ふぅ……言いたいことは良くわかったよ。最初からそうすればいいのに、本当男子ってじれったいわね」

「ご、ごめん。オイラが優柔不断なばっかりに……」

「別にいいよ。それに、アタシ達もそんな気にしていなし、怒ってもいないから安心して」

「……えっ? でも、さっき凄い怒っていたんじゃ……?」

「ああ、アレね。ただからかっただけだから、怒っていないよ。てか、よく演技だって気付かなかったわね」

「……はい!?」

 思いもよらぬ事実が晴太の耳へと聞こえてくる。彼女達が受けた誤解は最初から存在していなかった。つまり、全てを分かったうえで晴太と接していたのである。ネタバラシを聞かされた晴太は、驚きを隠せずにいた。

「ど、どういうこと!? オイラが隠れていたの、みんな知っていたの!?」

「まぁ、日輪さんから聞いていたし、玄関先で覗いていたのも最初から分かっていたよ」

「そ、そうだったの?」

 リーファからも理由を聞き、晴太の動揺はさらに広がっていく。自分自身が気付いていなくても、みな彼の気配をしでに気付いていたのだ。さらに、シノンやシリカが続く。

「そうよ。それに日輪さんからも言われたのよ。晴太は女子に対して控えめになっているから、ちょっと驚かせて距離を縮めなさいって」

「恥ずかしがる年相応の男子って聞いていましたよ」

「か……母ちゃんがそんなこと言っていたんだ……」

 この騒動の発端は日輪も深く絡んでいた。初めて会う女子とまともに話せそうもない義息子の姿を見て、深く心配していたらしい。いずれにしても、嘘だと分かった瞬間に晴太は気が抜けて、心を落ち着かせた。

「でも、良かった……姉ちゃん達との間で誤解が生まれてなくて」

「そうね、でも、これだけは言っておくわ。これからはこそこそしないで、言いたいことがあったらはっきりと言って! 私達だって晴太君と仲良くしていきたいし、そんな誤解で関係を崩したくないもの……」

「そ、それは……そうだよね。元々オイラが悪いし、これからは恥ずかしがらずに向き合うよ。だから、ごめんなさい」

 最後にリーファが騒動に対する注意を聞かせる。晴太が再び頭を下げたことで、ようやく騒動は幕引きされた。同時にリズベットとシリカが、場の空気を一新させる。

「ふぅ……それじゃ、この件はもう終わりにして」

「改めて晴太君に、挨拶しましょうよ!」

「えっ? もういいの?」

「晴太君も反省しているみたいだし、私達も気にしていないから大丈夫よ!」

「だから晴太、もう一回あなたのことを教えてくれる? 私達も紹介するから」

 リーファやシノンも彼に笑顔を見せて、声をかけてきた。さらに、

「ナー!」

ずっと様子を見ていたピナも晴太の方を見つめてくる。互いに話し合ったことで、友好的に接したいのだ。自分が彼女達から認められたことを確信した晴太は、嬉しくなり自然と笑顔になっていく。

(なんだ……母ちゃんの言っていた通り、みんな優しい姉ちゃん達じゃん……)

 こうして晴太は彼女達との信頼を勝ち取った。お互いに信じあい、これからは姉弟のように親しい仲を築いていく。新しい絆は一つの騒動によって、強く芽生え始めていた。しかし、自己紹介を踏まえて話し合っている途中、またも晴太はからかわれてしまう。

「あっ、そうだ! 折角だし親睦を深めるってことで、今日はお姉ちゃん達と一緒に寝てみる?」

「えっ? そ、それは……か、勘弁してくださいぃぃ!!」

 リズベットからの提案に、晴太は顔を赤くして大声で否定する。最後まで惑わされて、女子達から茶化される晴太であった。初めての下宿は、波乱の連続である。




これで本当に第一章は幕を閉じます。長い間空けてしまいすいませんでした。これからは時間の余裕があるので、週間投稿ができるようになります。第二章も期待していてください。
後、一つ訂正があります。第一章の前半部分でよく出てきた機械の名称なんですが、ナーブギアではなく正しくはアミュスフィアでした。この話の時系列では、後者が当たっていました。話には直接関係はありませんが、こちらのミスなので申し訳ありませんでした。随時訂正します。
 さて、話を戻して次回からはようやく日常回を中心に物語が進んでいきます。といっても一話完結が主流ですけど。それでは、次回予告と共に締め括りましょう。また、次回!



次回予告
銀時 「ギャャャャ!!」
アスナ「さぁ、銀さん……」
神楽 「覚悟するネ……」
キリト「銀さん……可哀そうだな……」
銀時 「うるせぇ! 見てないで助けろって!」
新八 「えっと、次回! 甘党の恨みは恐ろしい!」
ユイ 「みなさん、是非みてくださいね!」
銀時 「いいから助けろ――って、ギャャャ!!」


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