第十八訓 甘党の恨みは恐ろしい
人の幸せというのは、気付かないうちに儚く散っていく。だからこそ、毎日を懸命に生きていかなければならない。七月も中盤に差し掛かった今日この頃。万事屋では一瞬にして幸せを破壊された男がいた。
「ギャャャャ!!」
「さぁ、銀さん……」
「覚悟するネ……」
「やめろ! やめてって! 腕がもげるからぁぁ!!」
朝っぱらから銀時は、悲痛な叫び声を上げている。彼は今、アスナと神楽の二人によって体を拘束されており、強く痛めつけられていた。苦しみに苛まれている銀時であったが、拘束は一向に収まる気配が無い。神楽はゴミを見るような目で銀時の足を押さえつけ、アスナは不気味な笑顔のまま彼の両手を締め付ける。この光景に、仲間達はただ唖然として見守るしかない。
「銀時さんは大丈夫なのでしょうか?」
「まぁ、あんなことをしたから、フォローのしようもないんだけど……」
「アスナや神楽も楽しみにしていたからな……」
キリトも苦笑いで、ユイや新八へ返答する。一見銀時が被害者のように見えるが、実はこの事態、彼が引き起こしたものであった。
時はさかのぼり昨日の夕方。この日の万事屋一行は仕事を終えた後、近くのスーパーにて夕食の材料を購入していた。
「これでよしっと! お好み焼きの材料は全部揃ったわ!」
「やったネ! あ~早く食べたいアル~! アッスーのお好み焼きー!」
期待を高めて笑顔を見せる神楽に、アスナもそっと微笑んで返した。今日の万事屋の夕食は、前々から決めていたお好み焼き。小麦粉やキャベツ、豚肉、山芋などと材料を買い揃えて準備は万全であった。すると、急に銀時がある考えを思いつき呟く。
「お好み焼きか……ソースの代わりにホイップクリームをかけて食べてみてぇよな」
「って、銀さん! ユイちゃんもいるんですから、そんなこと言わないでくださいよ!」
甘党めいた発言に、すかさず新八がツッコミを入れた。普段の万事屋であれば問題ないが、現在はすぐに影響してしまうユイがいる。心配の尽きない新八であったが、肝心のユイはそこまで気にしていない。
「大丈夫ですよ、新八さん! 銀時さんが甘いものが大好きなのは、既に分かっていますから! そんな心配は無用です!」
「ええ? そうなんですか?」
「そうだよ、新八。ユイは覚えるのが早いから、銀さんの癖はもう熟知しているもんな」
「はい! もちろんです!」
キリトから太鼓判を押されると、ユイは笑顔で返答する。彼女は既に銀時の癖を理解しており、そこまで驚いていなかった。さらにユイは、思いつく限りの銀時の癖を言い始める。
「例えば、漫画を読んで居眠り。鼻くそを暇さえあればほじる。後、よくママからこっぴどく怒られたりしますよね!」
「って、それもう癖じゃないだろ!! もういいから! 過去のことは言わなくても!」
しかし、だいぶ本筋からそれてしまい、当の本人からツッコミを入れられた。ユイの汚れのない笑顔を見ると、銀時も強く出られないのである。万事屋らしい温かい場面であった。そんな彼らが会計を済ましてスーパーを後にした時、駐車場である人だかりを見つける。
「ん? 何か人が集まっているアルよ?」
「本当ですね。何かを売っているのでしょうか?」
神楽からの問いにユイが返す。気になった一行が人だかりへと近づいて覗いてみると、
「ケーキの販売車みたいだな……」
そこには移動販売用のトラックが止まっていた。コンテナ部分を開きケーキを販売しているみたいで、十数名の行列も出来ている。すると、神楽とアスナの二人はこの店を見てあることを思い出した。
「あっ! この店って確か、前にテレビで紹介されていた店じゃない?」
「本当アル! ロールケーキが美味しい評判の店ネ!」
そう、ここは以前テレビの情報番組で取り上げられていたケーキ屋であった。口コミや話題性から評判を呼び、人だかりや行列が出来ていたのである。
「へぇ~。こんなところでお目にかかれるなんて偶然だな」
「そうですね。折角ですし、僕らも買っていきますか?」
店の評判を知り、キリトや新八も興味を持ち始めていた。一方で神楽とアスナは、目の色を変えて銀時の方へ顔を向ける。
「そうね。それじゃ、銀さん……!」
「銀ちゃん……!」
目をキラキラと輝かせ、おねだりを始めてきた。その真意は、銀時に行列を任せようと考えている。分かりやすく甘えてくる二人を見て、銀時のツッコミも止まらない。
「って、おい! その顔は何だ!? その目は何だ!? つまり、俺が並べってことか!?」
「そうよ! もし並んでくれたら、またアップルパイを作ってあげるから~!」
「私もネ! とても酸っぱい酢昆布をプレゼントするアル~!」
「って、それもう料理ですらねぇだろうがぁ!」
おねだりはまったく収まらず、収束する気配すらない。女子達の勢いに負けた銀時は、仕方なく要求を受けることにした。
「ったく……しゃあねぇなぁ。じゃ、俺が代わりに買ってきてやるから、お前らはここで待っていろよ!」
「「はーい!!」」
元気よく返事をする神楽とアスナ。銀時は怠さを感じつつも、渋々行列へと並び始める。彼の粋な優しさを感じて、ユイ達は自然と笑顔を浮かべていた。
「やっぱり銀時さんって、なんだかんだ言って優しいですね!」
「まぁ、あれが銀ちゃんアルからナ。やる時にはやる男ネ!」
行列へと並ぶ銀時を見守りつつ、彼の評判は上がっている。仲間達は銀時を見直し始めていた。その後、ロールケーキを無事に購入した一行は万事屋へと帰宅。今日ではなく明日のデザートとして残すことになり、冷蔵庫へと入れて楽しみにしていたのだが――
「ケーキを全部飲み友達にプレゼントしたって、どういうことアルかぁぁぁ!!」
「ごめんって! あん時の俺は無意識だったから、気付かなかったんだって!!」
「そんなの関係ないわよ!!」
当日の朝に事件は起こってしまう。実は昨日、銀時は夜遅くに桂やクラインに誘われて、下のスナックで軽くお酒を飲んでいた。気を良くした彼は、みんなが寝ている間に桂達へケーキをあげてしまう。そして朝を迎えると、アスナ達へ見つかってしまい現在に至る。おかげで昨日に上がった銀時の評判は一転。地の底まで叩き落されていた。
「私達がどれだけあのケーキを楽しみにしていたのか、分かっているの!?」
「本当ネ! 楽しみを奪ったことを後悔させてやるアル!!」
特にケーキを楽しみにしていた二人は感情的になり、悔しさと怒りを銀時へぶつけている。一方で制裁を加えられている銀時はと言うと、
「もう後悔ならしているからー!! だから許してくれぇぇ!!」
涙目のまま許しを貰おうとすがってきた。その姿はもはや、男としてのプライドもへったくれもない。痛めつけられている銀時を見ていた新八達も、絶句して対応に困っていた。
「神楽ちゃんだけじゃなくて、アスナさんも凄い本気だ……」
「アスナは怒らせると怖いからな。銀さんにも容赦ないし、仕方ない事だよ」
「ママも銀時さんのママになったということですね……」
キリトやユイも苦笑いのまま会話を続けた。ユイの言う通り、銀時へ厳しく接するアスナの姿は母親や保護者に近い。彼のだらしない性格や態度が放っておけず、率先して注意に出ることもしばしばあった。そんなアスナに対して、銀時も簡単に口出しできず強気な態度もとれないのである。そんな中、遂に状況は一変した。
「痛ァ!?」
拘束を解放された銀時は、思いっきり壁へと叩きつけられる。安心したのも束の間、彼女達の気はまだ収まってはおらず、鬼のような形相で銀時を睨みつけてきた。
「まったく銀さんってば……。反省しているみたいだけど、やっぱりこれだけじゃ足りないわ!」
「そうアル! こうなったらもう一回あのケーキを買い直してほしいネ! というわけで、今すぐ出かけてあのトラックを探してくるヨロシ」
「えっ……? はぁ!?」
神楽からの言葉に耳を疑う銀時。完全な許しを貰うには、ケーキを買い直すしか方法はないようだ。しかも、ロールケーキを売っている移動販売車が対象。場所も特定できないため、捜索への難易度も高い。これには、銀時も弱腰になってしまう。
「そ、そんなもん、どこにあんのかわからねぇだろうがぁ! せめて近場のケーキ屋とかじゃ――」
とグチグチ文句をこぼす銀時に対して、
〈シュ!〉
女子陣から追い打ちがかけられる。アスナは自身のレイピアを、神楽は握りしめた拳を彼の顔面へと差し向けた。突然すぎる行動に銀時の表情や体も固まる。
「か、神楽? アスナ?」
「私達はあの店のロールケーキが食べたいアルよ……。それ以外は求めてねぇんだよ、ゴラァ……」
「ないなら探すのが筋じゃないのかな~? ねぇ、銀さん?」
三度表情を怖くした神楽とアスナに対して、銀時は抗う力すら失った。今回ばかりは自分に非があるので、何も言い返せないのである。そして、
「……わ、わかりました。今から、行ってきます……」
銀時は弱った表情のまま、彼女達の要求を受け入れた。これ以上争っても、自分が勝てる見込みがないと確信したようである。
「ふぅ……じゃ、今日の夕方までに見つけて買ってきてね!」
「期待して待っていてやるからナ!」
希望通りの答えを聞けた二人は、表情を柔らかくして彼の元を離れた。稀に見る争いを見たキリト達は、銀時の方へ顔を向ける。彼は一段とやつれていて、精神的に追いやられていた。哀愁漂う姿に、キリトらはむしろ切なく感じている。
(銀さんがあそこまでやられるなんて……何か可哀そうになってきたな……)
今はただ心の中で、そっと呟くしかなかった。
時は過ぎていき時刻は十一時へと近づく。雲一つない空とまぶしい太陽が印象的な今日の天気は、言うまでもなく晴れであった。そんな真夏の日に銀時は、スクーターへと乗り込みケーキを売る移動販売車を探している。ヘルメットを着用しながらも、その表情はあまり浮いていない。しかし、乗り込んでいるのは彼だけではなかった。
「ったく!! なんで俺があんだけ怒られなきゃいけねぇんだよ!! たかが一回だけのミスによ!!」
「まぁまぁ、銀さん。アスナや神楽だって、ケーキを楽しみにしていたんだから、つい感情的になったんだよ。だから帰ったら、きっと謝ってくれるって」
「本当か? あの二人の事だから、きっとそんなこと微塵も思ってねぇよ!」
「随分根に持っているんだな……」
女子達に対する銀時の恨み節や愚痴に対して、キリトは控えめな笑いで返事をする。そう、スクーターを運転しているのは銀時だったが、その後方にはキリトが座っていたのだ。彼は銀時一人だと心細く感じており、情けから移動販売車の捜索に協力している。キリトなりの優しさであったが、当の本人にはあまり伝わっていない。
「つーかさ、お前は万事屋で待っていてもよかったんだぜ。この件には無関係なのに、なんでついてきてるんだよ?」
「それは――心配だからだよ。銀さん一人じゃ大変そうだし、恩返しの機会だって早々ないからチャンスかなって思って」
「そうか? でもまぁ、今日中に見つけないと、またアイツらからボコボコにされそうだからしょうがねぇか。見つけたら俺に教えてくれ」
「分かったよ、銀さん」
キリトからの言い分に納得した銀時は、照れ臭くも彼の同行を認める。本当は銀時もキリトが協力してくれることに、内心嬉しく思っていた。しかし、あまり表に出さないのは、もはや彼のお約束である。
(やっぱり分かりやすい人だ。でも銀さんも大人だし、ここはそっとしておくのが一番だろうな)
付き合いの長いキリトからは、早速見破られてしまったが。そんな彼の表情は、クスッと静かに微笑んでいた。銀時の持つ癖をユイと同じく彼も理解している。
涼しく舞う風を浴びながら、二人の乗ったスクーターはかぶき町を駆け抜けて行く。待っている仲間達のため、移動販売車を探索するのだった。
探索から約二時間が経過した。時間はだいぶかかったのだが、残念ながら移動販売車の手がかりは一斉つかめていない。つまり、探索に行き詰まっているのである。
「あ~。まったく見つかんねぇな」
「そうだね。でも、まだ時間はあるから焦らずにいこう」
冷静に状況を判断するキリトに対して、銀時は早くも暑さにやられてやる気が薄れていた。そんな二人の乗るスクーターはかぶき町を離れていき、江戸の都市部へと進んでいる。この近くには別の町へと向かう高速道路の入り口があり、車の行き交いが多い場所でもあった。すると銀時はスピードを緩めて、日陰のあった歩道側へとスクーターを停車させる。
「アレ? 銀さん? 急に止めて一体どうしたの?」
キリトが不思議そうに聞くと、銀時は彼の方を向いてあるお願いをした。
「なぁ、キリト……お前ってバイクの免許持っていたよな?」
「そうだけど……って、まさか!?」
「そう。俺と運転を代わってくれないか?」
その要件は運転交代である。実はキリトもバイクの免許を持っており、運転することも可能だった。長い時間運転していた銀時は、暑さのせいで調子が悪くなっているので、彼に交代しようと考えていたのだ。一方、キリトの反応は少し遠慮気味である。
「……まぁ、俺は構わないよ。でも、本当にいいのか?」
「いいんだよ。バイクもスクーターも同じようなもんだろ。お前なら出来るってば」
「また大雑把なことを……。でも、いいよ。俺が運転するから、銀さんは後ろに座って」
「あいよ」
粗大に考える銀時に頭を抱えつつも、キリトは彼の要望を受け入れた。二人は座席を移動して、キリトが前方の運転席、銀時が後方の席へと座り込む。
(銀さんは急に決めつける時があるよな……。でも、剣を装備していても大丈夫かな……?)
ハンドルやブレーキを確認しつつもキリトは、心の中である不安を呟く。彼は普段外出する時も、護身用として愛用の長剣二本を背中へ装備している。カバーを付けたままで刀身は露呈してはいないが、剣を所持したまま運転したことがないので、唯一の不安と感じている。一方の銀時は、そんなことはつゆ知らずに早くも自分だけ楽をしていた。
「そんじゃ、キリトー。運転頼むわー」
「はいはい。分かったから、銀さんはしっかり掴んでいて」
やる気を失いかけている銀時に対して、キリトは静かにフォローを入れる。温度差の違いに彼は思わずため息を吐いてしまった。
(はぁ~。銀さんがこの調子じゃ、俺までテンション下がっちゃうよ……)
キリトまで調子が下がり始めてしまう――そんな時である。状況がようやく一変した。
「ん? アレって!?」
キリトが前を向くと、歩道にはシリカとリズベットが歩いている。二人が持っていた袋には、なんとあのケーキ屋のロゴが入っていたのだ。
「見つけた!!」
「えっ!? それって本当――って、ブハァァ!」
好機だと確信したキリトは、アクセルを急発進して彼女達の元へ向かう。しかし、後方に座っていた銀時は、彼の持つ剣にぶつかってしまい弾き飛ばされてしまった。歩道側へと落ちた銀時には気付かずに、キリトはスクーターへ乗ったままシリカとリズベットの元へ近づき話かける。
「シリカ! リズ! ちょっといいか?」
「ん? あっ、キリトじゃん!」
「お久しぶりですね! 一体どうしたんですか?」
久しぶりにキリトと再会して、声を高ぶらせるシリカとリズベット。しかし、彼は今悠長に話している場合ではない。早速二人へケーキ屋について聞いてみた。
「二人が持っている袋って、移動販売車で買ったケーキだよね?」
「ああ、これね。休みだから二人で出かけていたら、たまたま見つけてね。月姉達のお土産として、結構多めに買ってきたのよ」
「そうなのか……。それで、そのケーキ屋はどこにいるのだ?」
「どこって……もう移動しちゃいましたよ。確か高速道路側に向かったと思います。買ったのも三十分くらい前ですし……」
二人から多くの情報を得たキリトは、安心したと共に緊張も高まる。もしかすると、移動販売車が江戸を離れている可能性があるからだ。都市部自体あまり彼は来ないので、ここは土地勘のある銀時が頼りであった。
「そうか……。教えてくれて、ありがとう!」
「いいえ。力になったなら、アタシ達もそれで十分よ!」
「キリトさんもあのケーキ屋さんに用があるんですか?」
「まぁな。アスナや神楽にお使いを頼まれていてね。なぁ、銀さん? ……アレ?」
彼が後ろを振り向くと、そこには座っているはずの銀時が姿を消している。予想外の状況にキリトは言葉を失った。
「えっと、銀さん? 一体どこに……」
「って、ここだぁ! ゴラァ! 人を置いて出発しやがって!!」
辺りを見渡すと、歩道側から走ってくる銀時の姿が見えてくる。振り下ろされたことに怒りを立てており、その表情は強張っていた。ここで、ようやくキリトも銀時の状況を知る。
「えっ!? もしかして俺、銀さんを置いていったの!?」
「そうだよ! よくも気付かずに会話なんかしていたな! それでも主人公のやるこ――」
「って、銀さん! 説教なら後で聞くから、今はケーキ屋を追いかけよう! 高速道路付近に向かったって!」
「……はぁ!? そうなのか!?」
「シリカやリズから聞いたから間違いないよ! さぁ、早く!」
怒りを露わにする銀時であったが、キリトから捜索しているケーキ屋の情報を聞くと表情が一変した。彼と同じく好機を感じており、失いかけていたやる気を取り戻していく。
「わ、分かったぜ……! じゃ、早く出発しようか!」
「ああ! もちろん!」
すると2人は、大急ぎで出発する準備を進めていった。銀時は流れから後方座席へと座り、キリトの肩を掴む。共にヘルメットを締め直して、気持ちを落ち着かせた。
「それじゃ、シリカ! リズ! 情報をくれてありがとうな!」
「何だか知らんが、助かったわ! 今度会ったら、お礼として「んまい棒」を渡してやるからな! じゃあな!」
キリトは優しさを込めた感謝。銀時は彼らしい捨て台詞を吐いて、この場を勢いよく去っていく。キリトの運転するスクーターの元、ようやく移動販売車の追跡が始まる。
「って、もう行っちゃいました……?」
シリカ達は声を返す間もなく、二人を見送るしかなかった。
「まったくあの二人は。思い立ったらすぐに行動するんだから……キリトも銀さんもどっちもどっちね」
「性格的には正反対の方が、合うのかもしれませんね」
男子らしい仲を感じとり、シリカとリズベットは笑いあっている。皮肉も交えたが、本心では銀時とキリトを応援していた。気を取り直して、彼女達が次の目的地へ向かおうとしていた時。入れ違いでまたも知り合いと遭遇する。
「って、アレ? あの人ってまさか沖田さんですよね?」
「あっ、本当だ!」
二人が目にしたのは、パトカーから降りて携帯電話で連絡をとる沖田総悟の姿だ。何やら物騒な話をしているように見える。通話が終わると沖田は、近くにいたシリカ達の存在にも気付き始めていた。
「ん? お前らは確か……あの時の妖精達じゃないですかい? 随分、久しいな」
「ええ、こんなところで再会なんて偶然ね……」
話しかけられたと同時に、二人の表情は険しくなっていく。さらに、沖田との距離を遠ざけて警戒心を高める。
「はぁ? 何を遠くから話しかけてきてんだ? マウントでも取るのか?」
「違いますよ! 沖田さんがドSだから警戒しているだけですよ!」
「ドS……ああ、そういうことか」
そう、彼女達は沖田を恐れていた。被害者でもあるリーファから、彼の腹黒い性格や行動をだいぶ聞かされており、女子達の間でも要注意人物として話題に上がっている。だからこそ、会った時は緊張感が高まるのだ。一方の沖田は、まったく気にせずに接していく。
「何も心配ねぇですよ。今からお前らの持っているケーキに、タバスコなりデスソースなりを注入してやるから、さっさとこのお巡りさんによこしてくだせぇ」
「って、誰があげるものですか! 警察の言う事じゃないですよ! 沖田さん!」
「リーファが苦手意識を持つ理由も、だいたい理解した気がするわ……」
沖田からのからかいを受けて反撃するシリカに対して、リズベットは彼の腹黒さを理解していた。やはり沖田は、別世界の人間であろうと容赦はない。そんな時である。
「って、それは……トラックで売ってるケーキか? よく買えることができたな」
「これですか……?」
彼が話題に上げたのは、二人の持つケーキ屋の袋だ。興味深く見る沖田に、リズベットが説明を加える。
「そうそう! この店ってトラックで売っているから、中々見つけることができないのよね! まぁ、買えたからラッキーだったけど」
「へぇ~。お前らって、運がいいんだな。あのトラックって、今大変なことになってんのに」
「「えっ?」」
唐突に飛び出た沖田からの言葉に、シリカ達は耳を疑う。場の空気は急に変わり、怪しげな雰囲気を漂わせ始めた。
「大変……って、一体どういうことなの?」
「アレ? 知らねぇのかい? あのトラックって、今俺達が追っている過激派攘夷浪士がハイジャックしているんだぜ」
「「……ハァァァァ!?」」
沖田から聞かされた事実に、二人は大きな衝撃を受けてしまう。彼によれば現在移動販売車は、指名手配中の攘夷浪士によって乗っ取られているらしい。突然の情報に混乱しながらも、シリカとリズベットは沖田へ詳しい事情を聞く。
「って、ど、どういうことなの!? アタシ達が買った時は、何も起らなかったのに……」
「だろうな。さっき俺達が掴んだ情報だから、ざっと十五分前くらいに起こっているんだよ。それで今から、対策を立てていたところでい」
「そんな……アタシ達の知らない間に、こんなことになっているなんて……」
自分達が気付かない間に、ケーキ屋が危機的状況に陥っている。信じがたい事実を受け止める彼女達だが、考えているうちにあることを思い出した。
「って、ちょっと待って……まさか、キリトと銀さんってこのこと知らないんじゃないの?」
「そ、そうですよ!! 知らないまま追っていますよ!! ど、ど、どうしましょう!?」
先ほど会ったキリトと銀時は、この状況をまったく知らないまま移動販売車へと向かっている。つまり、巻き込まれる危険性が高かった。混乱がより大きくなる彼女達に対して、沖田は冷静に判断する。
「何? 旦那まで絡んでいたのか……。だったら、仕方ねぇ。隊士達の分担を変更して、俺が代わりに行ってくるか」
そう言うと沖田は、止めていたパトカーへと乗り込みエンジンをかける。本来であれば真選組の隊士を分担させて作戦へと取り掛かろうとしたが、見ず知らずの銀時らが向かっている場合では支障を与えかねない。そこで彼が率先して移動販売車を追いかけようとしていたのだが……
「だったら、アタシ達も連れて行ってください!!」
「はぁ? 何を言ってんでい。一般人はパトカーに入ってくるな!」
「そんなこと言わないでよ! キリトのことが心配だから、アタシ達も追いかけたいのよ! だから入らせて!」
「ていうか、旦那の心配はいいのかよ!? お前らは一旦落ち着け!」
混乱したシリカとリズベットによって邪魔が入ってしまう。否が応でもパトカーに乗り込み、キリト達を追いかけようとしたのだ。思わぬ展開に、沖田も珍しく激しいツッコミを繰り出す。このせいで、だいぶ出発が遅れてしまった。
場面は変わり、こちらは江戸近くの高速道路。平日と重なっているためか、今日の通行量は少なく道路も混雑していない。しかし、そこを走る一台の移動販売車には……
「やりましたねぇ、兄貴! これで江戸をトンヅラできますわぁ!」
「幕府の犬に嗅ぎつけられる前にトラックを奪って正解だったな。人質も確保できたからな……」
沖田の言う通り過激攘夷浪士「鈍金昆愚(ドンキンコング)」のメンバーがケーキ屋を占拠していた。人数は運転者を含めて計六人。みな濁った袴を着て、腰には刀を装備している。メンバーは中年の男性しかおらず、みな人相も悪く目つきも鋭い。一方で店員の男女二人は、ガムテープやロープを巻かれて拘束されている。腕や足、口までも封じられており身動き一つとれない。まさに絶体絶命の危機だった。すると、メンバー間でまたも会話が始まる。
「ところでどうします? 江戸を離れた後は?」
「まずは、この店員共を利用するか。最近じゃ、宇宙での人身売買が高値らしいからな」
「さっすがですね! 兄貴ィ!」
人質までも金稼ぎの道具としか彼らは見ていなかった。この言葉を聞き、店員二人は言い知れぬ不安で心がかき乱されてしまう。浪士達の悪い高笑いが車中に響き渡り、勝利に酔っていたまさにその時である。
「ん? 兄貴! こっちに何者かが向かってくるぜ!」
「何!? まさか、真選組共か!?」
「いいや! 二人の男ですわ!?」
思わぬ邪魔者が、移動販売車へと近づいていた。危機を察した浪士達が、後ろの窓から追っ手の姿を確認する。その正体は――
「ケーキ屋!! 待てぇぇぇぇ!!」
「逃げるんじゃねぇぇぇぇ!!」
鬼のような形相で追跡する銀時とキリトであった。二人はもちろんのこと、移動販売車内に攘夷浪士がいることには気付いていない。アスナと神楽から任せられた使命感の元で、懸命に追い続けているのだ。
「もうチャンスはこれっきりしかねぇぞ! だからキリト! 思いっきりスピードを上げろぉ!」
「分かっているよ、銀さん! 行けぇぇ!!」
二人は好機を逃さないためにも、スピードを上げて必死に移動販売車を追い続ける。一方で志士達は、見知らぬ追っ手の登場を受けてみな困惑していた。
「何だ、アイツら!? まさか、俺達が占拠したことを知っているのか!?」
「とうとう幕府の犬に嗅ぎつけられたというのか!?」
「ええい、構うな! なんでもいいから、奴等を撒くのだ!」
リーダーが士気を上げていき、仲間達へ攻撃の準備を入らせる。銃火器は持ち合わせておらず、近くにあった障害物を使って追っ手を撒くようだ。すると、後方に設置された大窓がゆっくりと開いていく。
「あっ、銀さん! 窓が開いてきたよ!」
「おお! とうとう俺達の祈りが通じたってことか! 近くのサービスエリアまで誘導して、売ってくれるんじゃねぇのか?」
「それだと、だいぶ助かるな!」
自分達の意志が伝わったのか、呑気にも笑顔を見せる銀時とキリト。しかし、彼らはまだ浪士達の存在に気付いていない。そして、とうとう最悪の事態が起こってしまった。
「やれぇ!!」
リーダーの掛け声のもと、大窓から一台の木箱が放り投げられる。地面へと落ちて転がると、数秒も経たないうちに……
〈ドサァァァ!!〉
中に入っていた大量のバナナの皮が道路へと散乱した。
「えっ……? って、銀さん!? 急にバナナの皮が飛び出してきたんだけど!?」
「マジでか!? 急にマリ〇カートみたいになってんぞ!? 一体どういうことだ!?」
「俺だって知らないよ!! とりあえず銀さん! 捕まって!」
予想外の事態に戸惑いつつも、キリトはスクーターのスピードを調節してバナナの皮を上手に交わす。運が良い事に彼らは切り抜けることが出来たが、後方の車は緊急停車をして早くも数台が立ち往生を起こしている。
「おいおい! バナナの皮でとんでもないことになっているぞ! 渋滞を起こしちゃっているよ!」
「なんでこんな迷惑なことを……? 俺達に売る気がないというのか?」
銀時がツッコミを入れる中、キリトは一連の行動を疑問視している。ケーキ屋らしからぬ豹変した対応に、深く考え込んでいた。すると、早くも彼はある仮説をひらめいていた。
「いや、まてよ……。もしかして、これって!」
「おい、キリト? 何か思いついたのか?」
銀時も興味深く聞き、話しかけようとした時である。
「しつこい奴等だ! もう一度食らいやがれ!」
またも浪士の一人が、木箱からバナナの皮を放出させた。前触れもなく出てきたバナナの皮によってついに、
「って、うわぁぁぁ!?」
「ギャァァ!?」
二人の乗ったスクーターは被害を受ける。スリップしたと同時にスクーターごと倒れてしまい、痛みを負ってしまった。幸いにも大きな怪我ではなく二人はすぐに立ち直ったが、移動販売車との距離は遠ざかってしまう。
「あばよ! 俺達を捕まえるなんざ、三万年早いぜ! ハッ! ハッ!」
追っ手を負傷させたことにより、一段と調子に乗る浪士達。高笑いが道路中へと響き渡る。しかし、この行動が二人の逆鱗に触れたことを彼らはまだ知る由もない。
「なぁ、キリト……さっき言おうとしたのは、もしかしてあのことか?」
「そうだよ。きっとアレは、昨今流行っているバイトテロだよ……」
「ハハ……そういうことか。通りで昨日と対応が違うわけだ……。バナナの皮を公道に放って調子乗りましたってか。笑わせるじゃないか……」
「ケーキを売る気もなく、人様に迷惑をかけるなんて、大した根性してるよな……」
「……だったらやるべきことは、ただ一つだ」
声を震わせながら二人はゆっくりと立ち上がる。去り行く移動販売車を睨みつけながらこう言い放った。
「「俺達に喧嘩を売ったこと……後悔させてやる……!!」」
恐ろしい表情を作りながら、復讐を誓ったのである。彼らはまだ攘夷浪士と気付いておらず、不適切な対応をとる店員だと思い込んでいた。いずれにしろ、渋滞などの迷惑をかけたからには全員懲らしめるつもりである。
「よし、乗れ! キリト! 今度は俺が運転してやる!」
「ああ、任せた! しっかり追跡してくれ!」
「わかってらぁ!」
本気となった二人は手早く実行へと移す。スクーターを立ち上がらせて乗り込むと、今度は銀時が運転席へと座り、キリトが後方へと座った。アクセルを思いっきり踏み、二人は追跡を再開させる。追う中で二人はある作戦を立てていた。一方で、浪士達も追っ手の変化に気付き始めている。
「どうだ? 奴等は撒いたか!?」
「いいや! まだ追ってきます! しかも、さっきよりも勢いが凄いです!」
「なんて奴等だ……。ならばもう一度、バナナの皮を撒け! 距離を稼ぐのだ!」
またも現れた邪魔者に対して、再び浪士達は木箱を準備した。使用済みのバナナの皮が詰められた木箱は、これで最後である。
「さっさと諦めろ!」
三度道路へと撒かれた木箱とバナナの皮。まんべんなく散乱して通る隙間さえないが、今の銀時達にとってはもう通用などしない。
「今だ! キリト! いけぇ!!」
「おう! ハァァァ!!」
二人が声をかけると同時に、それぞれの行動へと移る。キリトは剣を両手に構えると、羽を広げて空へと舞った。一方の銀時は車体を上げていき、さらにスピードを上げる。
「これでどうだぁぁぁ!」
そのままバナナの皮へ向かうかと思いきや、破損した木箱を台にしてスクーターを宙に浮かせたのだ。勢いのままトラップを潜り抜けていき、銀時は移動販売車を追い越して先頭部分へと向かっていく。その隙にキリトは、羽の速度を上げていき大窓から車内への侵入を試みる。
「銀さん、早く頼んだよ……。俺はその隙に……やるべきことを果たすだけだ!」
改めて自分の役割に責任を感じていた。ここで彼らの立てた作戦を説明する。まずキリトが車内へと侵入し、極力戦闘を避けながら時間を稼いでいく。その隙に銀時が運転席へと向かい、近くにあるサービスエリアへと誘導する。場所の安全が確保できたところで、存分に粛清してから身柄を拘束する流れだ。銀時の手早い交渉と、キリトの我慢強さが求められる作戦である。そして、ついに時は来た。
「いけぇぇ!!」
長剣を両手に大窓へとキリトは突進していく。近づいたところで剣を勢いよく振るい、
〈バキィィィ!!〉
封鎖していた大窓を打ち破った。これで車内への侵入はひとまず成功を収める。
「な、何!?」
「打ち破ってきただと!?」
予想外の行動に、浪士達の動揺は広がっていた。しかし、キリトは車内へ着地後に早速行動へと出る。金色に輝くエクスキャリバーを浪士達に差し向けてこう言い放つ。
「……お前達か? 公道なんかにバナナの皮を撒いた非常識な奴等は……?」
その声はいつもよりも低く、怒りに満ちていた。顔もうつむいており、正面からは表情が読み取れない。まずは怒り気味に自らの思いをぶつける。
「こ、こいつ……まさか俺達とやり合うつもりか?」
「どこから情報を得たか知らないが、我らに歯向かう者ならここで朽ち果ててもらうぞ!」
彼の雰囲気に恐れをなして、浪士達はみな刀を抜き始めた。一人しかない敵に対して、浪士の数は五人。多勢で襲い掛かろうと企んでいる。不利な状況でもキリトは落ち着きを見せた。過去にも彼は多勢に囲まれる経験があるので、まったく恐れていないのである。
「やり直すのは今だぞ。それもできないなんて……お前らは本当に人間なのか?」
最低限の説得はしたが、やはり応じる気はない。彼の怒りも頂点に達すると、鋭い眼光を浪士達へと見せつけた。数分前とは思えない変わりようである。長剣を両手に握りしめて、戦闘準備も万全であった。
「だったらしょうがない……ここでこらしめてやる!」
「上等だ! 叩きのめしてやらぁ!!」
リーダーの言葉を皮切りに、浪士達は列を作りキリトへ斬りかかろうとする。しかし、
「ハァァァ!!」
「何!? ブハァァ!?」
本気を出したキリトの前になすすべもなく、返り討ちへとあってしまった。斬りかかろうとしても、彼の持つ羽が素早く動き、攻撃が一斉当たらない。その隙に長剣で攻撃を与えられ、前へと押されていく。予想もしない強さに浪士達は、さらに動揺してしまう。
「おい、あのガキ! 只者じゃねぇぞ!」
「こんな小僧に追い込まれるのか……」
「ええい! 奴は一人だ! 力づくでもねじ伏せろ!!」
それでも、体勢は崩さずに再び斬りかかろうとする。たった一人の敵に怯むことはないと。ところが、キリトは一人では戦っていない。
〈キィィ!!〉
「何だ……!? 止まったのか!?」
高音が聞こえたと同時に、移動販売車が急に運転を止めた。そう、これは銀時の作戦が成功した証である。コンテナ部分が開き外の風景が明るみになると、
「おい、てめぇら!! トイレ休憩の時間だ!! 全員降りてこい!!」
キリトに続いて銀時も戦いへと乱入してきた。自慢の木刀を片手に、浪士達を弾き飛ばして外へ放り投げる。その下では、運転していた浪士が銀時に倒されて気を失っていた。
「ぎ、銀さん! 来るのが遅いよ!」
「何言ってんだ! 作戦通りだろうが! ここなら、存分に暴れられるぜ!」
二人は容赦なく歯向かってくる浪士達に対して攻撃を加えていく。サービスエリアの駐車場にて、激しい戦いが行われていた。この光景にようやくリーダーも勘付いている。
「そういうことか……。あのガキは囮で、ここへ連れてくるために仕掛けたというのか……」
作戦を読み解いた時にはもう遅い。本気になった二人によって、仲間達は続々と倒されている。なぜあの二人を相手取ってしまったのだと、心から後悔するのであった。そして、
「「その通りだよ!」」
「えっ? って、グハァァ!!」
二人の息の合った技に抵抗することもなく、そのまま建物まで弾き飛ばされてしまった。意気揚々と語っていた浪士達であったが、二人の万事屋に喧嘩を売ったのが運の尽き。徹底的に打ちのめされて、戦力も全滅してしまった。一方でキリトと銀時は、戦いを終えてようやく気持ちを落ち着かせる。
「ふぅ……。やっと終わったな、銀さん。作戦成功だよ」
「そうだな。これで、バイトテロをした罪の重さを分かってくれるといいんだが……」
「まさか刀まで持っているなんて。最近は物騒って言うけど、その通りだよ」
「でもまぁ、後は拘束して真選組に任せりゃ万事解決ってことだろ」
紆余曲折はしたものの、自分達の作戦が成功して共に達成感を持ち合わせていた。そんな二人は車内を改めて見直すと、
「アレ? 捕まっている人がいるよ」
「おいおい、まさか店長か? バイトテロに巻き込まれた被害者じゃねぇのか?」
拘束されていた男女を発見する。すぐに二人の元まで駆けつけて、口元に貼っていたガムテープをはがした。すると、
「あ、ありがとうございます! 助けていただいて!」
「攘夷浪士達に取り囲まれた時は絶望しましたが、アナタ達のおかげで助かることができました! 本当、感謝です!」
店員達は早速感謝の言葉を伝えてくる。だが、銀時とキリトは反応に戸惑った。
「「……じょ、攘夷志士?」」
「「えっ?」」
ここで二人は、初めて自分達が戦った相手が攘夷志士であることに気付く。今更である。
時は経っていき、ようやく真選組が現場に到着した。浪士達はみな現行犯逮捕となり、パトカーへと送りこまれている。一方でキリトは、心配して駆けつけたシリカやリズベットと会話を交わしていた。
「もう! 心配かけて損しましたよ! またキリトさんは、無茶なことするんですから!」
「ごめん、ごめん。俺もまさか、攘夷志士だって分からなくて戦っていたから!」
「本当、アンタは周りが見えなくなる時があるんだから……」
無事であったキリトの姿を見て安心する二人であったが、そこに銀時が話に加わる。
「というか、なんで俺の心配はしないんだよ?」
「えっ? だって、銀さんは頑丈なんでしょ? 月姉からよく聞いているわよ。十人が相手でも死なないって」
「しぶといのが銀時さんの特徴だと、女子達の間でも話題に上がっていますよ」
「なんだその待遇の差!? 同じ主人公なのに、不公平じゃねぇか!」
二人が心配しない理由を知り、激しくツッコミを入れる銀時。信頼されているのか、けなされているのか、もはや分からなくなっていた。すると、沖田が銀時へと話しかけてくる。
「いや~。それにしても旦那方、やってくれましたね。おかげでこの高速道路はバナナの皮まみれ。渋滞も起こすなんて、ある意味才能がありやすよ」
「どんな嫌味だよ……。つーか、また迷惑料とか要求してくるんじゃないだろうな?」
「そうしたいのは山々なんですが、旦那方が戦った浪士達は結構なホシでね……。高速道路の方も渋滞しか起こらなかったみたいなんで、今回はチャラってことで許してやりやすよ」
「なんで上から目線だよ! 指名手配犯を捕まえたんだから、懸賞金くらいよこせよ! この税金ドロボー!」
追跡により起こってしまった二次被害の皮肉を交えつつ、沖田は複雑な事情を口に出した。こちらも感謝されているのか、バカにされているのか分からない始末である。しかし、良い事に変わりはない。二人の勇気ある行動によって、浪士達への確保、人質の救出が早まったのは沖田でさえ感謝している。
「でもまぁ、犯人確保に手伝ってくれたことはありがとうと言っておきやす。後、お前らが助けたケーキ屋から話があるそうですよ」
「ああ? ケーキ屋が?」
そう言うと沖田は場を去っていき、ケーキ屋の店員と話を交代した。
「この度は助けていただき、本当にありがとうございました!」
「ああ、礼か。いいや、俺達は大したことはしてねぇよ」
「そんなこと、めっそもない! 勇気ある行動に私達は感謝しきれないんです! だから、在庫で残っていたケーキでよければ、受け取ってもらえませんか!?」
「えっ? マジで!?」
助けてくれたことに恩を感じている店員の二人から、なんとお礼の品を受け取る。しかもその中身は、
「って、ロールケーキじゃねぇか!? 本当にいいのかよ!?」
幸運にも探し求めていたロールケーキであった。
「はい! 他にも種類があるんですけど、無事だったのがこれだけで……。それでもいいですか?」
「ああ、もちろん! これでアスナや神楽から、大目玉を食らわずに済むぜ!」
思ってもいない幸運が舞い込んだことにより、テンションが高まった銀時。嬉しさのあまり思わずガッツポーズまでとっている。そこへ、キリトらも話しかけてきた。
「良かったね、銀さん。無事にケーキをゲット出来て!」
「ああ。色々あったが、納得のいく結果だぜ……」
「報われて本当に良かったです!」
「ちゃんと持って帰って、見せつけなさいよ!」
シリカやリズベットも彼の嬉しそうな表情を見て一段落している。一同は笑いあい、幸せな空気を作っていた。
(銀さんが思いっきり笑っている……。よっぽど嬉しく思っているんだな……)
結局は丸く収まってキリトも平和に感じている。その後銀時らは、高速道路の出口を下っていきそれぞれの帰る場所へと戻っていく。とっておきのケーキを仲間達へ届けるために……
「というわけで、俺達が苦労して手に入れたロールケーキがこれだよ!」
「しかも、バナナが入っているんだぞ! てめぇら、存分に味わって食えよ!」
万事屋へと帰ってきた銀時とキリトは、早速仲間達へロールケーキを見せつける。困難の連続ではあったが、それでも目的を達成できたことを二人は誇りに思っていた。自信良く笑顔を見せるが、なぜか神楽達の反応はあまりしっくりきていない。
「ん? どうした? 遠慮せずに食べていいんだぜ」
「あんなに楽しみにしていたのに、一体どうしたの?」
すると、アスナが気まずい表情のまま声を上げた。
「ねぇ、銀さんにキリト君……」
「ん? どうした?」
「私達が昨日買ったの、イチゴの方だよ……」
「「えっ?」」
まさかの間違いに、二人は言葉を失う。苦労して手に入れた品が間違いとなると、もはや固まるしかなかった。こうして、綺麗に収まったオチは台無しにされるのである。
結論 銀さんとキリトを敵に回すと、勝つことは難しい。だから、みなさん。悪い事はやめましょうね。
さて、今後は出来る限りなんですが、月や火に投稿を集中していこうと思います。いつかは安定した時間帯に毎週投稿したいのですが、時間的に余裕を作りたいです……それでは、また次回!
後一つ報告があります。この小説のタグを増やしました。今後の展開次第で増えるかもしれません。また変化がありましたら、報告します。
次回予告
アスナ(アレ? 私達って卵を買いに来ただけだよね? それなのに、なんでこんな目に合っているの? どうして、ボス戦よりも緊張しているのぉぉぉ!?)
神楽 「次回! 考えすぎは体に良くない!」
アスナ(神楽ちゃん! これ以上はやめてぇぇ!!)