後先週は忙しかったので、作る時間を確保できませんでした。すいません。
「あーん。やっぱり冷たくておいしいですね! ピナが気に入る理由も分かります! ほら、ピナもどうぞ!」
「ナー!」
ピナと散歩に出かけていたシリカは、駄菓子屋で買ったアイスを口にしていた。彼女が買ったのは「ピオ」という、バニラとチョコを挟んだアイスである。ピナにとってもお気に入りの好物で、口へ入れた瞬間に幸せそうな表情を浮かべていた。
「この世界に来てから、随分気に入っていましたもんね。でもしっかり、ペットフードも食べて栄養補給しなきゃダメですよ!」
「ナー!」
「……といっても、ドラゴン用の栄養食が普通のペットショップに売っている時点で、とても信じがたい状況なんですけどね……」
飼い主としてピナの健康を気にする一方で、この世界のペットショップ事情にシリカは驚きを隠しきれない。そんな彼女とは対照的に、ピナは呑気にもアイスを頬張っている。穏やかな雰囲気のまま散歩を楽しむ中、ある場所を通るとピナの様子は急に変化していた。
「ナ……」
「ん? またあのお屋敷が気になるんですか?」
シリカからの問いに、ピナはゆっくりとうなずく。彼が見つめていたのは二階建ての白い屋敷だった。ここはいつも散歩で見かけており、その度にピナは気になって立ち止まっている。実はこの屋敷の住人は、ピナのような小竜を飼っていると噂されていた。ときたまに二階のガーデンで姿を見せると言われているが、今日はまったく出る気配すらない。
「ナナー?」
「今日はいないみたいですね……折角晴れているのに」
天候には恵まれているが、一斉外には出てこない。シリカは不思議に思いつつも、今はピナが感じている心情を読み取っていた。
「ナ……」
「そうですよね。この世界だったら、ピナにそっくりな竜がいてもおかしくありませんよね。友達のように仲良くなりたいんですよね……」
彼の寂しげな表情から、シリカは悟っている。ピナにも友達が必要なことを。その気持ちに答えたかったが、情報量が乏しいままでは何も行動に起こせない。困っていた彼女達の元に、ある知り合いが声をかけてくる。
「アラ? シリカちゃんにピナちゃんじゃない。どうしたの、そこで立ち止まって」
「お、お妙さん!?」
声の聞こえた方向へ振り返ると、そこには買い物かごを下げた妙が立っていた。偶然の再会にシリカはかなり驚いている。
「どうしたんですか、こんなところで?」
「ちょっと買い物していたところでね。料理で使用する卵を買いに行っていたのよ」
「た、卵……」
「ナ……」
妙からの言葉を聞き、シリカとピナは一瞬にして表情が凍り付いてしまう。彼女達は過去に妙の料理を口にして、丸一日気絶していた経験があった。強い抵抗心を持っており、自然と恐怖が蘇ってくる。しかし妙は、彼女の怯えた様子に気付くことなく話を続けた。
「シリカちゃん達の口に合うように、日々練習しているのよ。あっ! もし今時間が空いているなら、ウチに寄っていく? もう少しで卵焼きもできそ――」
「えっと、お妙さん! さっきアタシ達、お昼を食べたので今はちょっと……」
「ナ……」
「アラ、そうなの? それじゃ、仕方ないわね」
誘いを断られて残念がる妙に対して、シリカは安堵の表情を浮かべている。以前の教訓を胸に刻み、妙からの誘いは意地でも断ると決めていたのだ。
(助かった……もし誘いに乗っていたら、今度こそアタシ達の命が危なかったかも…)
「ナー……」
彼女は心の奥底でそっと呟く。ピナにもその気持ちが伝わったのか、優しい鳴き声で静かに返された。料理への話題が落ち着いたところで、妙は本題へと話を戻す。
「それはそうと、シリカちゃんはこんなところで一体何をしていたの?」
「あっ、それはですね……少し悩みがあって」
「悩み? 私で良かったら相談に乗ってあげるわよ」
「えっ、いいんですか!?」
「もちろん! 同じ貧乳キャラ同士、包み隠さずに話していいのよ」
「貧乳って……お妙さん! アタシが今一番気にしているのに、さり気なく会話に挟まないでくださいよ!」
「いいじゃない。緊張をほぐしただけだから、そんなに深い意味はないのよ」
「もう! お妙さんってば……」
冗談を交えた言葉に、シリカは頬っぺたを膨らませて怒りを露わにする。内心気にしている貧乳を話に挙げられて、彼女は不満を持ち始めていた。それでも妙と話せば答えが見つかると信じて、一連の出来事を打ち明けることにする。
「と、とりあえず! 話が出来る場所まで移動しましょう!」
「そうね。ちょうど近くにベンチがあったから、そこまで行きましょうか」
木陰にひっそりと佇むベンチへと移動して、二人は座り込む。そしてシリカは、白い屋敷の噂やピナが感じている心情を事細かに説明していった。
「――なるほどね。ペットの為にそこまで考え込むなんて、さすがシリカちゃんだわ。飼い主の鑑よ」
「そ、そんなことないですよ! アタシは当たり前のことをしているだけなんですから!」
ペット思いで優しいシリカに感心した妙は、彼女を褒めちぎった。その言葉に浮かれて、シリカのテンションはかなり上がっている。数分前の怒りもすっかり忘れ切っていた。そんな彼女を一旦落ち着かせて、妙は話の趣旨を簡潔にまとめていく。
「要するにシリカちゃんは、ピナちゃんのために友達作りを協力したいということね」
「そ、そうです! でもお屋敷についてまだ分からないことが多くて……本格的に考えていないんですよ……」
「うーん。じゃまずは、情報収集から始めた方がいいわね。協力できることは何でもするから、難なく頼ってきなさい。一緒にピナちゃんの思いを叶えてあげましょう」
「お妙さん……ありがとうございます!」
「ナー!」
頼りがいのある妙の言葉を聞いて、シリカとピナは律儀に礼を返す。共感できる人が出来て嬉しく思っていた。温かい雰囲気の中、二人の心にもある変化が訪れている。
(お妙さんはやっぱり優しい人です……アタシ達のことをしっかりと理解してくれて。料理下手が少し傷ですけど……)
妙への印象を見直して信頼をより強めるシリカ。一方の妙は、
(シリカちゃんはとても純粋な子ね。猫耳自体私はあまり好きじゃないけど、なぜかつい優しくしちゃうのよね。あの子が不遇なヒロインだからかしら?)
元も子もないメタ発言をひっそりと呟いていた。猫を苦手とする彼女であるが、シリカにはむしろ好感を持ち合わせている。互いの本音をつゆ知らないまま、気持ちを一つにした彼女達は早速作戦を立て始めた。
「よし! それじゃまずは、情報収集から始めましょうかね」
「えっ!? もう始めるんですか?」
「そうよ。なるべく短期決戦で情報を集めないと、この難局は振り切れないわ」
「……でも、どうやって?」
「それなら任せて。私にぴったりの考えがあるから」
「考えですか?」
屋敷への情報を探る方法を妙はすでに思いついているという。シリカが興味深く聞くと、彼女は何の前触れもなく立ち上がった。
「お妙さん? 一体何を……」
戸惑っているシリカには何も説明せずに、近くにあった一本の木まで移動する。拳を強く握りしめながら木の幹へ狙いを定めると、
「出てこいや!! ゴリラァァァ!!」
気合に溢れた叫び声を上げながら勢いよく殴りかかった。すると彼女の狙い通り、ある物体が落下してくる。
「ぎゃゃゃ!!」
「悲鳴!? 一体誰が――って、近藤さん!?」
甲高い悲鳴と共に落下してきたのは、妙のストーカーをしている近藤勲であった。今日もこっそりとついてきていたが、すでに妙から見破られていたようである。彼は正体が晒されても悪びれることなく、早々に言い訳を始めてきた。
「あっ、お妙さん! これには訳が――って、グハァァ!!」
ところが話している途中で近藤は、妙に首根っこを掴まれて持ち上げられてしまう。体の自由を奪われたまま、彼女は喧嘩腰に脅してきたのだ。
「おい、ゴリラァァァ!! 私の可愛い後輩のシリカちゃんが困っているんだよ! 今までの話を聞いていたら、すぐに警察の権力を使って行動しやがれ!」
「えっとつまり……あの屋敷の情報を集めろと?」
「分かっているじゃねぇか。だったら、今すぐやれや!!」
「は、はいぃぃぃ!!」
鬼の形相で近藤を恫喝して、強制的に約束を交わした。同時に妙は手を下ろして、近藤の拘束を解き放つ。彼は這いつくばりながら去っていき、屯所へと戻っていく。ストーカーには容赦ない妙の実力行使に、シリカとピナは愕然として言葉を失っていた。
「ふぅ……任務完了ね。これならあっという間に情報を手に入れられるから、事態も大きく進むわよ」
「そ、そうですか……良かったですね。ピナ」
「ナ……」
一瞬にして穏やかな笑顔へと変わった妙の姿に、シリカとピナは苦笑いで返事をする。裏表の激しい彼女の性格を目の当たりにして、気が大きく引いていたのだ。
(お妙さんだけは、絶対敵に回しちゃいけない気がする……)
(ナナ……)
滅多に見かけない妙の豪快さに、シリカは尊敬と恐怖が入り混じった気持ちに苛まれている。複雑な心境を抱えたまま、事態は近藤も加入して大きく動き始めていた。
一方真選組屯所へと戻った近藤は、早速情報収集へと勤しんでいる。
「あっ、いた! 山崎! お前に一つ、頼みたい監察があるんだ!」
「えっ!? どうしたんですか、局長? そんなに慌てて……」
偶然に出会った山崎へ話しかけて、これまでの状況を大まかに説明した。
「――というわけなんだ! だから山崎! 今すぐ監察して、情報を集めてくれ! お妙さんとシリカちゃんのためにも!」
「あっ、はい……分かりました……」
意気込んで真剣さを伝えた近藤であったが、山崎は訳を聞いた瞬間にやる気が失せてしまう。完全に私情だと確信したからだ。その目線は横を向き、彼と目を合わせないようにしている。それでも山崎は渋々命令を聞き、屋敷の身辺調査を短期間に渡って始めた。
それから約四日が経った頃。山崎を通して屋敷の情報を得た近藤は、妙とシリカに連絡をとって集合を呼び掛けていた。
「えっ!? もう情報が集まったんですか!?」
「そうみたいよ。ストーカーをやってのけるゴリラだから、案外早く集まったのかしらね」
「ストーカーは関係ないんじゃ……」
近藤に厳しく当たる妙の態度に、シリカは控えめな笑顔で返答する。
(もうどっちが加害者なのか分からないです……)
「ナ……」
二人の不思議な関係性に、頭が混乱しかけていた。そんな彼女達は現在あの屋敷の門で待機しており、そこで近藤の到着を待ち合わせている。四日前と比べて何も変わっていないと思いきや、妙だけはなぜか和服との相性が悪いリュックを背負っていた。不自然な変化に、シリカも疑問に思い始めている。
「そういえばお妙さん? 珍しくリュックを背負っていますけど、一体何が入っているんですか?」
「ああ、これ? 秘密兵器とお弁当よ。今回はピナちゃんのために、卵焼きをドラゴンが好む味付けに改良したのよ」
「えっ!?」
「ナ!?」
リュックの中身を知って、再びシリカ達の表情が凍り付く。どうやら三日前から予告していた卵焼きが完成して入っているようだ。持参してきており、その言葉を聞いた瞬間に体を震え始めている。
「どう? 一緒に食べてみたら?」
「えっと……いや、それはさすがにダメな気が……」
「ええ、どうして!? あの時みたいに気絶なんかさせないから安心してよ!」
「そう言われても……」
自信満々に卵焼きを進める妙とは異なり、シリカは意地でも断ろうと躍起になっていた。反応に困り始めていたその時である。
「遅くなって済まない! 二人共!」
「あっ! 近藤さん!」
タイミングよく近藤が二人の前へと現れた。すると妙の対象が近藤へと移り、辛辣な態度を取り始める。
「あら、近藤さん。やけに遅かったわね。アナタから呼び出しておいて」
「レポートをまとめるのに遅くなったんだ! そしてこれが、あの屋敷に関する情報だ!」
「ご苦労よ、ゴリラ。礼だけは言っておくわ」
「ありがとうございます!」
「本当にご苦労様です……」
高圧な態度で返す妙に対して、シリカは控えめな言葉で礼を伝える。そんな彼女達が近藤から受け取っていたのは、数枚に重ねられたプリント用紙だった。書かれていたのは、山崎が集めた屋敷の情報である。
「えっと、あの屋敷はテイマー星の王女が所有しており、愛玩動物として宇宙生物の小竜を飼っていると」
「さらに三日間のうち、外へ出た回数は一回。晴天や雨の日には現れることはなく、曇天の日に必ずガーデンへ出るって、書いてありますよ!」
一通り目を通していき、二人は屋敷に関する情報を頭へと入れていく。住人の正体は別の星から来た王女様であり、噂通りペットを飼っている。そして必ず曇天の日に、二階のガーデンでペットと現れるらしい。偶然にも今日の天気は、太陽の光が遮られている曇天日。まさに今が絶好の機会であった。
「ということは、今から乗り込めばペットと主人に出会えるという事ね」
「これはチャンスですよ! 今からでも入るべきです!」
「ナー!!」
ピナにも気持ちが伝わり、シリカと同じく笑みを浮かべている。好条件が揃っているため、訪ねる機会はまさに今しかなかった。しかしここで重要なのはその方法である。
「って、待ってくれ二人共! 今から入るにしても、まずは手続きをしてから入った方が良い気がするんだが……」
「まどろっこしい事をしてる場合じゃないのよ。読者には分かりやすい展開で伝えないと。今回でさえ文字数が多くなっているんだから、無駄な事は省かないといけないのよ」
「いやそんなこと言われても、勝手なことをしたら後でウチが困るんだが……」
近藤からの忠告を妙はさらっと聞き流していた。小言を言われようと今の彼女には関係ない。とっておきの方法をすでに立てていたからだ。
「……仕方ないわね。それじゃ強行突入よ。シリカちゃん達は、羽を使ってガーデンまで飛んでいきなさい」
「えっ? じゃ、お妙さんはどうするんですか?」
「私も飛ぶわよ。これでね」
そう言うと妙は、リュックに装備されていた隠しボタンを押す。するとリュック真下から炎が燃え上がり、調節しながら空中浮遊してきたのだ。
「こ、これって……!?」
「フフ。たまさんから借りたカラクリ装置よ。ジェット噴射で屋敷のガーデンまで、一直線に飛ぶわよ!」
秘密兵器の正体は、特製のリュック型飛行ユニットである。この数日間でたまを通して、源外から借りてきていた。当たり前のように使いこなし、シリカや近藤に驚きを与えている。
「えっ!? あのリュックって、そんな仕組みだったんですか!?」
「そうよ! それじゃ、先に行っているからついてきてねー!」)
そう言うと妙はそのまま屋敷上空を飛行して、宣言通り二階のガーデンまで侵入した。
「って、お妙さん!? 待ってくださいよ!」
「ちょっと二人共!? まだ最後の情報を伝え終わっていないのに飛んじゃうの!? 待ってくれ!!」
彼女を追いかけてシリカとピナも羽を広げて飛び去っていき、屋敷の前には近藤だけが取り残されてしまう。
「な、なんてことだ……アレだけは伝えなくてはいけないのに」
置いてきぼりにされて彼は一段と焦っている。実はレポートにはまだ続きがあり、一番重要な情報を彼女達は見逃していたからだ。
「こうなったら……」
責任を感じた近藤は、急いで裏口へと走り出す。現在レポートは妙が所持しているが、それだけでは不十分にしか伝わらない。直接会って話さなければ意味がないと考えて、躍起になっていた。こうして展開は思わぬ方向へと進み始めている。
一方空中から屋敷に侵入した妙らは、無事に二階へと着陸していた。
「よっと、到着!」
「ほ、本当に来ちゃったんですね……」
意気揚々と侵入成功に満足する妙に対して、シリカは気が引けて罪悪感を覚えている。未だに彼女だけは戸惑い、否応なしについてきただけであった。
「それにしても、強行突入して良かったんでしょうか?」
「いいのよ。庭から入った方が確実的に出会えるでしょ? 時には思い切った行動することが、人生を切り開くベストな方法なのよ!」
「そう言われても……」
妙の大胆すぎる行動や考え方に、シリカは理解できずにいる。それでもついてきた身なので何も言い返せない。不安が大きくなる彼女であったが、まずは辺りを確認して心を落ち着かせる。二階部分はガーデンとなっており、自然豊かな風景と横に連なる広さが際立っていた。魅力的な庭にシリカだけではなく、ピナも見惚れ始めている。
「それにしても綺麗な庭ですね。整っていて、本当に森の中へいるみたいです……」
「ナ……」
共に自然を感じて心を整理したようだ。とその時である。「ガチャ」とドアを開閉する音が聞こえてきた。
「えっ? まさか……」
もしかしなくても、嫌な予感であることは悟っている。彼女が恐る恐る後ろを振り返ってみると、
「アラ? アナタ方は……ここで何をしているのですか?」
目に映ったのは気品の良い穏やかな女性だった。薄く青いドレスを着こなし、淡くて白い肌を惜しみなく露出している。艶のあるオレンジ色の髪を腰まで下ろして、鋭利にとんがった耳が天人である証拠を表していた。雰囲気から噂の王女様であると感じたシリカは、見つかった瞬間に大きく取り乱してしまう。
「あの、えっとその……ご、ごめんなさい!! 侵入しましたけど決して怪しい者じゃないんです!! 深い訳があってここにやって来たんです!!」
そして大声で威勢よく謝りを入れた。突然の謝罪に横にいた妙でさえ驚いている。
「シ、シリカちゃん? 急に謝ってどうしたの? 怪しくないなら正々堂々とするべきじゃないの?」
「いいえ! もう耐えられないんです! これ以上……不法侵入者扱いされるのは、ごめんなんですよ!!」
「そこを悩んでいたの!?」
真面目に考えすぎたシリカの自白に、妙も珍しくツッコミを入れた。違った対応をする二人の姿を見て、女性にもある変化が起こる。
「フフフ……」
なんと口に手を当てて笑いを堪えていた。予想外の行動にシリカと妙も会話をやめて、彼女に注目する。
「えっと……どうしたんですか?」
「あっ、違うのよ! 決してアナタ方の会話が面白かったから、笑っているんじゃないのよ。ただの思い出し笑いだから!」
「凄い無理矢理感があるけどね……」
笑いをごまかす女性に妙も本音を呟く。いずれにしてもお互いの掴みは偶然にも上手くいっていた。
「まぁ、少なく見ても悪い人ではなさそうなので、どうやって来たのかはあえて問わないことにしますね」
「あ、ありがとうございます……」
女性の計らいで、シリカ達は何も問われずに済む。無事に落ち着いたところで、ようやく互いの挨拶が交わされていく。
「さて、まずは私から挨拶しますね。私の名前はソリート。テイマー星出身の天人で、この地球には研修で訪れているんです」
「ソリ―トさん?」
「はい。呼び方は自由に読んでください。ソリちゃんだとか、ピ〇―ルソリとか」
「一つ読んじゃいけないアダ名があったわよね……」
シャレのつもりで言ったアダ名に、妙から控えめな言葉でツッコミを入れられる。見た目や立場に反して、意外にもノリの良い性格であった。しかし、気品溢れる雰囲気は見る者の心を奪い、彼女の魅力として大きく引き立てられている。
(意外にも気さくな人なんですね。でもやっぱり、綺麗な人です……)
(王女様と言う肩書は伊達じゃないみたいね……でもまぁ、所詮一話限りのゲストキャラだし、そこまで気にするほどじゃないわね)
シリカはうっとりと目線を集中させる中、妙はメタ発言を交えながら嫉妬を燃やしていた。ここでも二人の反応は対照的である。すると今度は、シリカ達が挨拶をする番であった。
「それでは、アナタ方の名前を教えてもらえますか?」
「あっ、そうでした! アタシはシリカって言います。ピナっていうこのドラゴンと一緒にテイマーをしているんですよ」
「ナー!」
「そして私は志村妙よ。好きな物はバーゲンダッシュアイス。嫌いな物はゴリラストーカー。そんなところかしらね?」
「って、お妙さん! それじゃ伝わりづらいですよ!」
「フフ……やっぱり面白い人達ね」
漫才のように交わされる二人の会話に、ソリートの笑いも止まらない。これでお互いに自己紹介を交わして、話を続けようとした時である。
「ナー?」
ピナがドアの奥からある生物を見かけた。一瞬しか見えなかったが、その姿は自分と似たドラゴンだと思っている。好奇心が高まった彼は、シリカの元を離れてドアまで飛んでいく。
「って、ピナ!? 一体どこへ行くんですか!?」
シリカが声をかけても、ピナは止まろうとしない。この行動にソリートもある直感を思いついている。
「もしかして、ロアに気付いたのかしら?」
「ロア? って、ソリートさんのペットですか?」
「そう。ちょっと特殊な事情を持っているドラゴンで、確か見た目もあなたが飼っているピナと似ているのよ」
「そ、そうなんですか」
どうやらソリートもシリカと同じく使い魔を所持しているらしい。先ほどまでとは違い複雑な心境を浮かべる辺りは、何か訳があると彼女は予測している。すると噂の使い魔がピナに連れられてその姿を現した。
「ナー!」
「ロ……」
テンションに違いのある鳴き声が辺りに響き渡る。連れてこられたロアは文字通りピナにそっくりな小竜であった。体色は明るいピンク色に染まり、羽や目つきといった部分はピナと大方同じである。表情豊かで元気なピナに対して、ロアは控えめなイメージを持たせていた。あまりにも似ている竜の姿を見て、シリカ達はみな驚きを隠せずにいる。
「これがロア? まるでピナの色違いです!」
「やっぱり思った通りね。ロアにも遂に仲間が出来たのですね」
「ここまで似ているなんて、まるでコピペみたいだわ」
「って、どんな表現しているんですか!」
妙だけは少しボケを含んで声に発していた。しかし一番驚いているのはピナ本人であり、早速彼はロアと接触を試みている。
「ナー?(君は何て名前なの?)」
「ロ……ロ?(ロアだよ……君は?)」
「ナー、ナー!(ピナだよ、よろしくね!)」
「ロ……(よろしく……)」
積極的に話すピナに反して、ロアは控えめに接していた。引っ込み思案な上に、極端な臆病の持ち主とも読み取れる。
「なんだか、ロアさんは怖がっているみたいですね」
「それはあの子の弱点が原因で、中々他の動物とも馴染めないのですよ」
「弱点って、どういうことなの?」
ロアが控えめに接する理由をソリートは深く理解しているらしい。彼女が詳しく話そうとしたその時であった。
「それは――」
「それは陽の光が原因なんですよ、お妙さん!」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえてくる。思わず振り返ってみると、
「こ、近藤さん!?」
「やぁ、シリカちゃん……どうにか間に合ったようだな」
そこには壁をよじ登ってきた近藤の姿が見えた。ある事を伝えるべく、意地でもここまでやって来たようである。彼なりの好意であるが、妙からは不快にしか思われていなかった。
「って、どこまでついて来るんだぁぁ、ゴリラァァ!! さっさと落ちてしまえ!!」
「ブフォォ!!」
壁を登ってきてきた近藤にすかさず、ドロップキックをかまして地上まで転落させようとする。しかし間一髪のところで手すりに掴み、難だけは逃れられた。
「ちっ! 死ななかったか……」
「死ななかったかって何!? 完全にお妙さん、殺意むき出しだよね!?」
女性とは思えない鬼の形相で睨みつけ、舌打ちまでしてしまう妙。そんな彼女の行為に、シリカは辟易としてため息を吐いている。ところがソリートだけは反応が異なっていた。
「アレが地球の女性……なんて頼もしいのでしょうか!」
「あの、ソリートさん? 多分アナタが思っていることとは、だいぶ違いますよ……」
事情を知っているシリカは、素直に訂正を促す。一方で妙の怒りは一向に収まっていない。
「さて……どう落とし前をつけようかしらね……」
「待って! お願いだから話だけ聞いて! あの生物には秘密があるから!」
「ったく、仕方ないわね。いいわよ、上げてあげるわ」
納得はしていないが、妙はひとまず近藤を二階へと上げていく。彼が持っている秘密を話させるためである。
「はぁ……助かった」
「それで近藤さん? 秘密って言うのは……」
「ああ、そうだったな。実は……単刀直入に言うと、あのドラゴンは元々危険生物として扱われていたんだよ」
「き、危険生物!?」
思わぬ言葉を聞き、シリカは大声で驚いてしまう。妙もリアクションこそ薄かったが、それなりに驚きを見せている。一旦間を開けたところで、近藤は説明を再開させた。
「そうだ。元々は好戦的な性格で他の動物を襲っていたんだが、陽の光がない夜や曇りの深い時は一段と大人しくなることがあるんだ。条件付きで凶暴化するが、一般的には普通の宇宙生物として扱われているんだよ」
説明を一通り終えると、今度はソリートが加えてくる。
「確かに彼の言う通りです。ロアは自分の弱みを分かっていて、その運命に苦しんでいるのです。私はそんな彼を助けたいと思い一緒にいるのですが……中々直らなくて」
「そんな……ロアさんにそんな秘密が……」
ロアの弱点を知ったシリカは、複雑な気持ちを沸かしていた。ピナがこの真実を知ってしまえばどうなるのか……考えただけでも頭が痛いのである。
「ということは、曇りの日にしか外に出てこなかったのは、その弱点が原因と言う事ね」
「そうなりますね……」
妙の質問にそっとソリートは答えた。場には危うい雰囲気が流れ込み、みな複雑な思いを漂わせている。一方でピナとロアの様子を確認してみると、
「ナー!(最近「ピオ」っていうアイスにはまっているんだよ!)」
「ロー(何それ、おいしそうだね)」
ようやく二匹は打ち解けあい始めていた。ロアの表情も柔らかくなっており、ピナへの興味を高めつつある。ますますロアの弱点について、言い出しづらくなっていた。
「ロアの方も大変ピナのことを気にかけていますね。でも弱点次第で、その態度も一変するかもしれません――今しか打ち明ける機会はないかもしれませんね」
「そんな……それしか方法はないのでしょうか」
今後の行動次第ではピナを傷つけてしまうかもしれない。そう感じたシリカ達は、どうするべきか悩み始めていた。共に引きはがしたくない。かといって何も伝えないのも危険である。迷いを浮かべる彼女達に、突如予想外の事態が起こり始めていた。
「ん? えっ、まさか……」
シリカが気付いたのは、明るくなった空模様である。気になって空を見上げると、そこには雲が少なくなっていき、今まで隠れていた太陽が姿を現し始めていた。彼女達が抱えていた不安が的中した瞬間である。すると太陽の光は庭の装飾品を辿っていき、何度も屈折を重ねていく。その方向はちょうど、ピナとロアの場所まで向かおうとしていた。
「ロ!? ロー!!」
「ナー!?」
光を感じて危険を悟ったロアは、ピナに体当たりしてシリカ達の元まで突き飛ばす。彼の安全を考慮して、自らとの距離を離れさせるためである。
「ピナ!? 大丈夫!?」
「ナ……」
シリカとぶつかっただけで、ピナは怪我をしていなかった。一方でロアは、陽の光を浴びたことによって異変が生じてしまう。
「ロー!!」
「ロア! しっかりしなさい!」
叫び苦しみながらロアは、自分を制御しようと力を尽くしていた。ソリートが呼びかけて祈るも、ロアはすぐに行動を止めてしまう。すると目つきを鋭くさせて、態度を豹変させてきたのだ。
「ロ……ロー!!」
怒りに満ちた表情のまま勢いよく雄叫びを上げる。ロアは再び自分自身を制御出来ずにいた。さらに口からエネルギー状の塊を形成していき、シリカ達の元へ狙いを定める。
「あっ、アレって……!」
「ロアの暴走形態です! 光線を放ってくるので、みなさんかわしてください!」
ソリートが声をかけて、シリカ達へ攻撃を避けるよう呼び掛けていく。
「ロー!」
ロアの放った光線は床へと当たっていき、そこには黒く焦げた跡が残っている。幸いにもシリカらに影響は無かったが、ロアの暴走は依然と続いていた。光線攻撃をかわしていき、一行は出入口近くのドアまで避難して対策を練っている。
「まさかあんな風になるなんて……聞いてないわよ!」
「アレがロアの弱みなんです……もう! お天気お姉さんはずっと曇りって言っていたのに! 外れてどうするのよ!」
「怒るところそこなんですか!?」
ソリートの怒りの矛先にツッコミを入れるシリカ。しかし今は、悠長に話している場合ではない。ロアに近づき行動を止めなければ、被害は広がる一方なのである。すると、近藤が率先して声をかけてきた。
「落ち着くんだ、みんな! こういう時こそ冷静になるんだ! きっと方法は見つかるはずだ……だからお妙さん。アナタのことをきっと守って見せますよ……」
「近藤さん……」
力強く頼れる言葉をかけて、近藤はさり気なく妙を見つめてくる。こんな状況でも男らしさを見せて、気を引かせようとしていた。しかし妙には別の考えが浮かんでおり、それを実践すべく近藤へ言葉を返してくる。
「よし、分かったわ。近藤さんの事を頼りましょう」
「お妙さん……!」
「じゃ早速だけど、私の作戦に協力してくれるかしら」
「おっ、本当ですか!? お妙さんのためならなんだってやりますよ!」
気持ちが伝わったと勘違いして快く賛成する。とそこへロアの目線が、妙らのいる場所に狙いを定めていた。口にエネルギーを溜めていき、再び光線攻撃を準備していく。その隙を狙い、妙は作戦を実行させる。
「なんだってやるのね……じゃ、よろしくお願いね!」
すると彼女は急に近藤の腕を掴んだ後、向きを反対へ寄せて彼の背後へと隠れた。
「お妙さん? 一体何を……」
「作戦よ。名付けてゴリラシールド!」
「えっ? って、ギャャャャ!!」
なんと妙は近くにいた近藤を身代わりにして、理不尽にもロアの光線を浴びせたのである。それを受けた近藤は、悲痛な叫び声を上げた後に体を真っ黒にしてそのまま倒れてしまった。外道とも言える妙の作戦を目の当たりにして、シリカやピナは愕然としてしまう。
「……って、お妙さんー!? 何やっているんですか!? 近藤さんが、た、倒れちゃいましたよ!?」
そして状況を読み込めないまま、ひたすらツッコミを入れてきた。予想を超えた妙の行動を見て取り乱すシリカだが、妙は平然と返答してくる。
「大丈夫よ、シリカちゃん。ゴリラシールドは頑丈だから、これしきのことで死ぬことなんてないのよ。だから安心しなさい」
「安心できませんよ! 焦げて倒れている時点で重症じゃないですか!」
「心配ないわ。所詮ただの日常回なんだから、来週にはケロッと何事も無かったかのように出てくるわよ」
「何の話ですか! 意味が分かりませんよ!!」
メタ発言を交えた妙の冷静な見解に、シリカは感情のままにツッコミを入れていく。この光景をみたソリートは、ある勘違いを浮かべていた。
「なるほど……この星の男性は愛する人の為なら、盾になる風習があるのですね。私思わず感動してしまいました!」
「ソリートさんもお願いだから勘違いしないで! ツッコミが追い付きませんよ!!」
二人分のボケをさばいていき、シリカはツッコミだけで早くも疲れを見せている。だがその間にもロアの暴走は続いていた。ピナもロアの一面を見て、悲しい表情を浮かべてしまう。
「ナ……」
(ピナが怖がっている? このままだと、気持ちが変わっちゃうかも……どうにかして、ロアさんを止めないと! でもどうすれば――)
ピナの表情を見たシリカは、気持ちを切り替えて頭を悩ませていた。すぐにでもロアの暴走を止めたいが、その手段が見つからない。もどかしいまま考え続けていた時、あることを彼女は思い出していた。
(あっ! アレを使えばどうにかなるかも……賭けかもしれないけど、ここはアタシがやらないと!!)
とっておきの作戦を考えついたのである。厄介ではあるが、暴走を止めるには打ってつけであった。シリカは決意して、早速行動に移していく。
「あの、ソリートさん! ロアの胃って、頑丈ですか!?」
「頑丈? まぁ、大丈夫だと思います。お腹を壊したことはないので……一体何をするのですか?」
「秘密兵器を使ってロアの暴走を止めるんです! お妙さんの料理で!」
「わ、私の料理で!?」
そう、彼女は妙の料理を使ってロアの暴走を止めることにしたのだ。食べれば体に支障をきたす不味い料理だが、即効性は抜群である。ピナの不安を払うためにも、彼女はこの賭けに乗るしかなかった。しかし妙は、やや不満に思い始めている。
「それって、私の料理で気絶させるって作戦なの?」
「ギク……! えっと……」
図星を突かれて対応に困ってしまうシリカ。ここは即興で思いついた言い訳で、難局を乗り切るしかない。
「あっ、それはですね……お妙さんの料理のおいしさで気絶させるって意味なんですよ!」
「おいしさ――あっ、そういうことね! ピナちゃん好みにテイストしたなら、ロアにも効くってことかしら!」
「そうです! おいしさでノックアウトさせるんですよ!」
「もうー! それならそうと、言ってくれればいいのに!!」
逆転の発想を用い、どうにか妙にバレることなく誤魔化した。彼女は褒められたと思い込み気分が高揚しているが、シリカは到底そんなことは微塵も思っていない。
(お妙さん、ごめんなさい……全て嘘です)
罪悪感を覚えて早くも後悔していた。しかしこれで、状況を打開するための材料が揃う。妙は早速リュックからタッパーを取り出し、お手製の卵焼きをシリカへ渡してきた。
「はい、どうぞ! シリカちゃん!」
「あ、ありがとうございます……」
半場苦笑いで渡されると、彼女は本音を心の中で呟く。
(うわ……期待を裏切らない出来……って、言ってる場合じゃなかった! 例えまずくてもロアを止められるなら、なんだって利用するだけです!)
ツッコミどころはあるが、今は抑え込むしかない。タッパーを手に取ると、大きく深呼吸して集中力を高めたのである。
「――それでは、行ってきますね」
「本当にシリカちゃんだけで大丈夫なの?」
「はい! ピナとロアさんの友情の為にも、アタシが頑張るんです! 短期決戦で絶対に、止めて見せます!」
「シリカさん……」
シリカの本気を見て、ソリートや妙も密かに願いを託す。全てはピナが芽生えた友情を枯れさせないため、ロアの暴走状態を止めるためだ。少ないチャンスを見定めながら、彼女は強い思いを心に宿している。
(ピナ……待っていてください。今アナタの友達を、取り戻して見せます!!)
そう意気込んだ直後に、ようやく好機が巡ってきた。ロアが背を向けて、行動を止めたのである。もう今しかチャンスは無い。
「行きます! 待っていてね、ピナ!」
「ナー?」
ピナに声をかけた後に、シリカは単身ロアの元まで向かっていく。背中に広げた羽を補助として使いながら、速度を調節していった。距離を縮めていき、気配を気付かれる前に押し切ろうと考えている。それがシリカの考えた作戦であった。
「もう少し……もう少しです!」
走り出してから僅か数秒で、ロアとの距離は目と鼻の先まで近づく。成長した自分の素早さに驚きつつも、いよいよ時は迫っていた。しかし、
「ロ……?」
至近距離手前にて急にロアから気配を悟られてしまう。後ろを振り返ると偶然にも、シリカと目線が合わさってしまった。
(えっ!? ここに来て……)
突然の窮地にシリカの頭の中は一瞬にして、真っ白になる。ロアが光線を溜め始めたその時であった。
「ナー!」
(えっ!?)
シリカの背後から、ピナの鳴き声が聞こえてくる。彼は得意技である泡攻撃「バブルブレス」を勢いよく放出させて、彼女を援護してきたのだ。
「ロ!?」
ピナからの攻撃を受けたロアは、光線を遮断されて動きを制限されてしまう。戸惑いを見せる中、シリカはピナの思いを読み取っている。
(そっか……ピナもロアを戻したいんですね……なら、もうすぐですよ!)
彼もまたロアを戻したと心から思っていたのだ。その気持ちを受け取ったシリカは、突き動かされていく。タッパーから卵焼きを取り出し、すかさずロアの口元へ狙いを定めたのだ。
「アナタの思いも伝えます! だから戻ってください!!」
そして勢い良く叫びながら、ロアへと卵焼きを投げつける。
「ロー!?」
避けることが出来なかったロアは、見事に命中した後にそのまま倒れこんでしまった。すると徐々に目つきを戻していき、数秒も経たずに大人しくなっていく。
「ロ? ロ……」
ちょうどよく陽の光もまた雲へと隠れた直後に、ロアの暴走はようやく収まっていった。数十分にも渡った無自覚な暴走は、シリカの作戦とピナの勇気によって終止符を打たせたのである。
「も、戻った……!?」
「ナー!?」
激戦を果たしたシリカやピナは、ロアの収まった様子を見てそっと一安心した。そこへ妙やソリートも駆けつけて、彼女達へ声をかけてくる。
「大丈夫だった? シリカちゃんにピナちゃん?」
「はい、なんとか! お妙さんの料理のおかげで、止めることが出来たんですよ!」
「そ、それは喜んでいい事なのかしら?」
満面の笑みでお礼を伝えるシリカに対して、妙はその言葉に複雑な心境を浮かべていた。一方でソリートは別の不安を心に宿している。
「でもこれで、アナタのペットともおそらく友達にはなれませんよね……」
「ソリートさん……いえ! そんなことないですよ!」
「えっ、それって?」
ピナを傷つけてしまったと思う彼女であったが、シリカはそこまで気にしていなかった。その証拠にピナは真っ先にロアの元に向かい話しかけている。
「ナー!?(大丈夫!?)」
「ロ……ロ(ごめんね……でもこれが僕の弱みなんだ)」
「ナ……(そうだったの……)」
「ロ、ロ……(うん、怖かったらもう僕とは近寄らない方がいいと思うよ……)」
互いに鳴き声を交わして、本音をぶつけ合っていく。ロアの提案にピナは、真っ向から反対している。
「ナー! ナー!(いいや! そんなことで離れたりなんか絶対にしないよ!)」
「ロ? ロ……(えっ? なんで……)」
「ナー! ナー!(素直に友達になりたいからだよ! たったそれだけなんだよ!)
「ロ……(ピナ君……)」
彼は暴走如きでロアを見捨てなかった。事情を理解して友達関係を築いていきたい。そう率直に思っている。ピナの優しさを通じて、ロアもようやく信じることが出来た。二匹は友情で結び合い、かけがえのない存在を作ったのである。
「ピナはこんなことで、ロアさんのことを見捨てたりなんかしませんよ」
「これは予想外です……やっぱりあなた方は面白い人達ですね!」
ソリートも予想していなかった展開だが、なぜかすんなりと納得していた。それはシリカやピナが魅力的で、優しさ溢れるテイマーだったからだと考えている。彼女も同じく、シリカや妙らと友情を深め合っていたのだ。
「それじゃ、これからも遊びに来ていいというわけね」
「もちろん、どうぞ! いつかはロアの弱点も克服して、きっとあんしんできるようにしますからね!
「頑張ってください! アタシ達からも応援しますね!」
困難を乗り越えた三人にも情が深まっている。お互いに笑いあい意志を疎通しあっていた。曇りの日に起こった出会いと騒動はこうして幕を閉じたのである。
「アレ? 俺の事忘れられていない? ずっと待っているのに、早く気付いてくれよ!!」
ずっと放置されている近藤などを知らずに。忘れ去られる仕打ちを受けた彼はただ嘆くしかなかった……
ちなみに補足ですけど、銀魂世界でのピナの食事はドラゴンフーズって言うペットフードで栄養を賄っています。機会があれば話のネタにするかもしれません。後は今更ですが、ピナはオスで合っていますよね? 間違っていたら指摘お願いします。
次回予告
九兵衛「なぁ、リズ君。ストーカーを撃退するにはどうすればいい?」
リズ 「どうすれば……スタンガンとかで対抗するとか?」
九兵衛「いいや。それだけじゃダメだ! だからリズ君! ストーカーをぶっ潰すための兵器を作ってくれ!!」
リズ 「って、依頼だったの!?」
九兵衛「次回! 万全を期せば、何も怖くない!」