剣魂    作:トライアル

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 意外な情報ですけど、リズの中の人(高垣彩陽さん)も銀魂に出演しているんですよ。OVAの方で。結構SAOレギュラー陣も銀魂で出ているんですね。ちなみに、キリトとシリカとリーファの中の人は、銀魂に出たことがないそうです。(トライアル調べ。間違っていたら、すいません)


第二十二訓 万全を期せば、何も怖くない!

 鉄子が営む刀鍛冶屋にリズベットが加わって早数日。彼女の鍛冶技術は鉄子の指導の下で、以前よりも格段に上がっていた。強い向上心を持ち日々努力を続けているリズベットだったが、今回鍛えていた刀には一時の迷いが生じている。

「こんな感じかな……?」

「どれどれ。まぁ大丈夫だと思うよ。少し変わっているけど、本音をいえば普通の刀だから」

「普通じゃないわよ。刀身に文字がついた武器なんて、アタシのいた世界にも無かったわよ」

「それは……依頼者曰く宇宙から取り寄せたものだから、細かいことはむしろ気にしない方がいいのかもね」

「宇宙か……確かにそんな気がするわね。この刀は」

 悩みを浮かばせながら彼女達が打ち直していたのは、刀身部分に文字が付属された刀であった。カタカナで「ゲキタイ」と刻まれており、その外装は見る者に違和感を与えている。特殊な形状を模した刀に、リズベットらは鍛冶作業中も困惑しながら進めていた。

「というか、最近こういうのが流行っているの? 何か昨日も同じような武器を鍛えた覚えがあるんだけど……」

「アレも確かに文字が付いていたね。さすがに「ゲキタイ」ではなかったけど、恐らくこの刀と同じ系列だと思っているよ」

「武器にまで文字を付ける時代になったのね……アタシには理解しがたいわ。依頼者の顔が見てみたいわよ」

変わった流行を受け入れられずに、リズベットは思わずため息を吐く。その表情は少し苦みを利かせていた。そんな彼女に対して、鉄子は冷静に説得を加える。

「まぁでも、どんな武器であれ最高に鍛え上げるのが鍛冶屋としての宿命だよ。それに依頼者の顔を見たら、きっと驚くこと間違いないかもね」

「えっ? それってどういう……」

 最後の言葉に違和感を覚えたリズベットが、鉄子へ聞き直そうとした時だった。ちょうどよいタイミングで、店に人が入ってくる。

「こんにちは。頼んでいた刀の様子を見に来たんだが……入ってきてもいいか?」

 聞こえてきたのは低く特徴的な女性の声であった。リズベットにとっても馴染みのある声だったので、すぐに反応して入り口の方へ顔を向けると――

「きゅ、九兵衛さん!?」

「リズ君!? そうか……確かここは、君が手伝っている鍛冶屋だったな」

そこにいたのは、真剣な眼差しをしていた柳生九兵衛である。リズベットと親交の深い女性の一人であり、実に会議以来の再会であった。まさか刀の依頼者として鍛冶屋にやって来るなんて、彼女にとっては予想もしない展開である。

「ねぇ。やっぱり驚いたでしょ」

「そ、そりゃ九兵衛さんが刀の依頼者だったら驚くわよ! 意外過ぎるわ……」

 平然と接する鉄子に対して、リズベットは未だに驚きを隠し切れなかった。同じく九兵衛も思いがけない再会に驚嘆している。お互いに相手を伺う中、鉄子が介入してある考えを提案した。

「あっ! 刀が出来上がるまであと少しだから、リズは九兵衛さんの相手をお願い! おしゃべりとかして、時間を潰してて!」

「って、鉄子さん!?」

「久しぶりに会ったんでしょ。私に構わないで、ゆっくり話してきな!」

 仕上げの作業を全て任して、リズベットと九兵衛が会話できる機会を作ったのである。そのまま鍛冶作業へと戻ったため、場には二人だけが取り残された。

「……随分と急な展開だな」

「そうね。とりあえず、座敷で休みましょうか」

 空気を読みつつ、一旦二人は鍛冶屋にあった座敷まで移動して腰をかける。しばらく間をとったところで、最初に話しかけてきたのは九兵衛の方であった。

「ひとまずはリズ君が元気そうにやっていて何よりだよ。この世界の生活にはだいぶ慣れた方かい?」

「まぁ、そうかな。最初は戸惑ったこともあったけど、今は自然と慣れているわ。みんなとの下宿も楽しいし、鍛冶技術も高められて一石二鳥ね!」

「そうか……じゃ、僕の依頼した刀も君が打ち直してくれたのか?」

「ああ、あの刀ね。鉄子さんが率先して打っていたから、アタシは半分くらいしか手伝っていないわよ。むしろアタシだけで打つなんて、まだまだ先のことだし」

「そんなことは無いよ。鉄子殿がリズ君の腕を認めているならば、きっといつかは大役を任せられるはずだ。遠慮なんかせずにもっと自信を持つべきだと僕は思っているよ」

「九兵衛さん……ちょっと照れるようなことを言わないでよ~!」

 率直な意見を言われたリズベットは、若干照れてつい笑ってしまう。九兵衛から褒められて、内心嬉しく思っていた。そして九兵衛も彼女につられて笑顔を浮かべている。会話を進めるうちに緊張がほぐされていき、自然と二人にも笑顔が戻っていった。

(相変わらず九兵衛さんは堅苦しいわね。でもそこが九兵衛さんの良さだし、いつも通りに接してくれて一安心したわ)

(リズ君が頑張っているならば何よりだな。一人前になれるように、僕も心から応援するよ)

 互いの魅力に惹かれ合い、心の中で相手を思う二人の女子。より深い仲を彼女達は築き上げたのである。会話も弾んできたところで、リズベットはいよいよあの刀の詳細について九兵衛から聞き出すことにした。

「あっ、そうだ九兵衛さん! そう言えば気になっていたんだけど、あの刀について詳しく教えてくれない?」

「ああ、あのゲキタイバーのことか」

「ゲ、ゲキタイバー!? って、あの刀の名前なの!?」

「元々無名だったから、僕が代わりに名付けたんだ。そこまで驚くことか?」

「……いや、分かりやすくていいんじゃないのかな?」

 名付けられた刀の名称を知らされて、リズベットは若干引きずった笑いを見せる。独特なネーミングセンスに何も言い返せなかった。

(清々しいほどあっさりした名前ね……いい意味で九兵衛さんらしいわ)

 本音では微妙な反応を示していたが、ひとまず心へと抑え込み本題の質問へと移る。

「それでこの刀って、地球産じゃなくてどっかの星から取り寄せたの?」

「そうだよ。骨董市でたまたま見つけてね。バ〇ダ〇星における護衛刀として売れている武器らしい。地球でいうスタンガン感覚で、みなこの刀を常備しているそうだ」

「うわぁ……聞いただけで頭に浮かび上がってくるわ」

 予想通りの返答に、棒読み混じりで呟く。ある程度想像を膨らませていたので、リアクションは薄めである。ゲキタイバーへの情報を聞く中で、彼女には一つの疑問が浮かんでいた。

「でもなんで、九兵衛さんはゲキタイバーを買おうと思っていたの?」

「それはだな……お妙ちゃんの為でもあるんだ。彼女に蔓延る巨悪を叩きのめす為にも、必要なんだ!」

「巨悪? って、お妙さんの身に何かあったの?」

 購入理由を聞いた瞬間に、九兵衛は突如真剣な表情へと変わっていく。意味深な言葉と変化に気付いて、詳しく真相を迫ろうとすると――

「お待たせ! 依頼品の刀は、この通り打ち直したよ」

絶妙なタイミングで鉄子が介入してくる。打ち直したゲキタイバーを、九兵衛へと差し出してきた。

「何!? もう修復できたのか?」

「大方出来ていたから、そこまでかからなかったんだよ」

「そうか……だがこれでようやく、お妙ちゃんを守れるな!」

 ゲキタイバーを受けとった九兵衛は、手にした瞬間に思わず気持ちを高ぶらせる。そのまま立ち上がると、まずは懐から依頼金を取り出して鉄子へと手渡した。そして軽く会釈を交わして、二人に改めて礼を伝え始める。

「ありがとう、鉄子殿にリズ君。君達が鍛え上げたゲキタイバーを使って、必ずやお妙ちゃんを守ってみせるよ……! それでは、行ってくる!!」

「って、九兵衛さん!? 肝心の理由を話し忘れているよ! お妙さんの身に何があったっていうの!?」

 思いを吐いた直後に九兵衛は店を走り去っていく。彼女の勢いは止められず、リズベットの声すらも聞こえていなかった。結局は妙の事情を聞き逃してしまい、リズベットはひたすら気になりかけている。

「行っちゃった……結局聞きそびれたんだけど。九兵衛さんも浮足気味だったし、心配なんだけど……」

 ため息を吐きつい不安を口に出してしまう。そんな彼女を見て、鉄子はまたもある提案を思いついていた。

「彼女は真面目過ぎて空回りすることもあるみたいだからね。それだったら、リズが止めに行ってきたらいいんじゃないのかな?」

「えっ? でもまだ、仕事が終わるまで時間が……」

「そんなことは気にしないの。大方の仕事は片付いたし、どっちにしろ今日は私だけでも大丈夫だよ。それに自分が打った刀の使い道を見届けるのも、いい経験になると思うよ」

 さり気ない気遣いを見せて、そっと微笑みを入れる。九兵衛との仲を理解して、鉄子は後押ししようと考えていた。空気を読んだ行動にリズベットも彼女の本心を受け止めている。

「鉄子さん……ありがとうございます!」

 九兵衛同様深く礼を交わした後に、彼女は鍛冶屋を後にした。透き通った銀色の羽を広げて、空中から九兵衛を追いかけていく。

「危なくなったら、意地でも止めに入りなさい――って、もう聞こえてないか」

 大声で注意を言おうとしたが、既に彼女の姿は遠くへと消えかけている。鉄子は苦労を感じながらも、弟子の行く末を最後まで見守っていた。何も起きないことを祈り、作業へと戻っていく。

 

 一方でリズベットが飛行を続けていると、あっさりと九兵衛の元まで追い付いていた。

「九兵衛さん! 待って!!」

「ん? この声はリズ君!?」

 声をかけられてようやく九兵衛は気配に気づく。後ろを振り返ると、ちょうどリズベットは地上へと降り立ち羽を収めている。そこへ九兵衛が駆けつけて話しかけてきた。

「どうしたのだ、ここまで追いかけてきて。何か忘れものでもあったのか?」

「いいや……九兵衛さんが心配になって来てみただけよ。話の続きも聞いてないし、色々と気になってここまで飛んできたの」

「そうだったのか……鍛冶屋の方は大丈夫なのか?」

「鉄子さんに許可を取ったから大丈夫……それよりも続きを教えてくれない?」

「ああ、分かった。まずは君が落ち着いてからだな」

 急いで飛んできたため、リズベットはやや息切れ気味に答えている。彼女が落ち着きを見せたところで、九兵衛も立ち止まって続きを話してくれた。

「それじゃ話を戻そうか。妙ちゃんのことなんだが……彼女には昔からストーカーがついていて、今なお被害を受けているんだよ」

「えっ? お妙さんって、ストーカーの被害者だったの!?」

「そうだな。しかもそのストーカーは、ゴリラのようにしぶとく諦めが悪くてな……僕や仲間達も対応に困っているんだよ……」

「それはゴリラと言うよりも、ゴキブリの方が分かりやすいのでは……?」

 小さくツッコミを入れるリズベットであったが、妙がストーカー被害を受けていることについては内心驚きを隠せなかった。

(お妙さんにストーカーする人なんて、この世にいたんだ……。よっぽど度胸がある人なのかしら……)

 妙に関しては気が強いイメージしかないので、被害者と言われても正直思いつかない。またストーカーの正体も彼女は知らないので、一層の謎を深めている。そんなリズベットとは対照的に、九兵衛は怒りを燃やして徐々に感情的になっていく。

「まぁどっちにしろ、今日がゴリラの命日となるだろう……妙ちゃんが受けたこれまでの苦しみを、全て倍返しにして返してやる!!」

「って、九兵衛さん! ゲキタイバーを強く握り閉めないで! 本気で殺しかけたら、廃刀令に関係なく逮捕されるんだからね!」

 激しく高ぶらせる九兵衛を抑え込み、今度はリズベットが落ち着かせていた。彼女の心情から、妙のストーカーに相当な恨みを抱え込んでいる。そうリズベットは予測していた。不安が的中したちょうどその時、タイミング悪くある男性が彼女達へ近寄ってくる。

「若! ここにおられたのですか!」

「と、東城!?」

 話しかけてきたのは、九兵衛の付き人を務める東城歩であった。どうやら彼女を捜索していたようであり、その表情も焦りを見せている。

「……なぜここに来たんだ?」

「今日は若のゴスロリ衣装を共に買うと約束していたではないですか!」

「はぁ? そんな約束は元々断ったはずだ。さては強引に連れて行こうとしているな?」

「……ちが、違いますぞ! 付き人として当然の使命を果たそうとしているだけですから! さぁ、行きましょう!」

 見え透いた嘘と呆れた捜索理由にがっかりした九兵衛であったが、東城は意地でも連れて行こうと躍起になっていた。彼女の気持ちに関係なく、東城が強引に近づこうとした時である。

〈ストーキング発見! 撃退!〉

 所持していたゲキタイバーより電子音が響き渡ってきた。その瞬間に刀身が光りだし、バチバチと光る電流を流し込んでいく。するとその変化に気付いた九兵衛は、

「ん? って、ギャャャ!!」

何のためらいもなく東城へ向けて、電流を帯びたゲキタイバーを振りかざしてしまった。刀に触れただけであったが、彼の体には死なない程度の強い電流が流れ込んでくる。数分もがき苦しんだ後に、そのまま東城は路上へと倒れ込み気絶してしまった。連続して起こった衝撃の出来事に、リズベットはただ唖然として体が固まってしまう。

「な、何この刀!? 急に電流が流れてきたんだけど!?」

「これがゲキタイバーの威力か……さすが〇ンダ〇星が誇るスタンガン技術だな!!」

「モロホンのスタンガンでしょうが!! 文字通りに撃退したんだけど!? ツッコミどころが多くて追い付かないんだけど!!」

 納得する九兵衛に対して、リズベットはひたすらツッコミを続けていた。状況をまとめると、ゲキタイバーは電流を流せる機能を持ち、その効果を受けた東城が気絶してしまったらしい。一応正当防衛ではあるが、この行動に九兵衛は罪悪感すら覚えていなかった。

「まぁいいだろう。東城はストーカーみたいなものだし、むしろ試し斬りに付き合ってくれて助かったよ」

「元も子もない事言わないでよ! 東城さんって付き人じゃなかったの!?」

「そもそもこいつは、アスナ君を襲ったクラディールと言う男と声が似ているらしい。その分を含めても、倒されて当然だっただろう」

「何その強引な理由!? 声が似ているだけで電流を浴びせるとか、とばっちり以外の何者でもないわよ!」

 無理のある理論を打ち出して、勝手に正当化し始めている。そんな彼女の考えに、リズベットのツッコミも激しくなっていく。しまいには気分を良くした九兵衛が、変な自信まで付け始めてしまう。

「この刀さえあれば、ゴリラの息の根を止めることだって出来るな……!」

「あの、九兵衛さん? さり気なく怖い事を言わないでよ! 段々と危険な方向に向かっているわよ!?」

「この際そんなもの構わない! ゴリラを血祭りにあげてやるぅぅぅ!!」

「お願いだから落ち着きなさい!! そもそもゴリラって一体誰なのよ!!」

 暴走気味に走り出し、妙のいる恒道館までがむしゃらに向かっていく。我を忘れた九兵衛を追いかけるように、リズベットも羽を再び広げて尾行を再開させた。一刀の護衛刀によって、早くも状況は急展開を迎えてしまう。そんな最中、場に取り残された東城はというと、

「若……電流を浴びせるならば、まだまだですぞ」

もうろうとした意識の中で一言呟いていた。そのまま倒れ込んでしまい、再び気絶状態へと戻ってしまう。こうして妙のストーカーを巡って、二人の女子はいよいよ恒道館へと近づいていく。

 

「ふぅ……ひとまず恒道館へと着いたな。リズ君にもついてきてもらい、何か申し訳ないな」

「いいや。こうなったらもう、乗り掛かった舟だから最後まで手伝うだけよ。ストーカーなんて女の敵は、さっさと諦めさせるべきなのよ」

「そうか……君まで手伝ってもらうと心強いな」

 恒道館前へと辿り着いた二人は、着くなりまずはお互いに会話を交わしていた。気分が高揚していた九兵衛も、時間の経過と共に今は落ち着きを見せている。しかし、きっかけ次第でまた暴走する可能性があるので、リズベットの警戒心はより高まっていた。

(まぁ半分は、九兵衛さんを制御するために来ているんだけどね……)

 建前ではストーカーの討伐に協力しているが、その本心は九兵衛の暴走を止めるためである。苦労を感じていたが、ここまで来たら見過ごしたりはできなかった。彼女らしい良心的な気持ちを沸かしている。

「それじゃ、さっさと入ろうか。まずはお妙ちゃんに訳を話さなければ」

「そうね。今の時間帯だったら、きっといるわよね」

 現在の時刻はざっくりと見積もっても十四時前後。恒道館に妙がいる可能性は大いにあった。何気なく門をくぐっていき、戸に手をかけようとしたその時である。

「なんで俺がこんな暑い中で、てめぇらの分のアイスまで買ってこなきゃいけねぇんだよ」

「仕方ないでしょ。銀さんがじゃんけんで負けたんだから、素直に行ってきてくださいよ」

「そうですよ! 銀時さんはパパと違って、往生際が悪すぎです!」

「好き放題言いやがって……」

 内部から三人の男女の声が聞こえてきた。会話をしているようだが、彼女達は早くもその正体を見破っている。

「アレ? この声ってまさか……」

「間違いなくあいつらだな」

 分かりやすかったので、共にパッと思い付いていた。すると戸が開き、予想通りあいつが姿を見せてくる。

「分かったから! 俺が行けばいいんだろ! 新幹線並みに走って戻ってくるから、ちょっと待ってろよ!」

 現れたのはやっぱり万事屋のオーナーである坂田銀時だった。納得してない表情のまま、未だに仲間との会話を交わしている。そして後ろを向いたまま歩きだしてしまう。目の前にいるリズベットと九兵衛のことなど知らずに。

「あっ、銀さん! ちゃんと前を見てくださいよ!」

「はぁ? 何があるってんだよ! そんなんで俺は誤魔化せ――」

 同じく戸から現れた新八の忠告を聞き入れずに、銀時は進み続けている。ついには横切った九兵衛の上半身に体を接触させてしまい……

「グワァァァァ!! 僕に触るなぁぁぁ!!」

「って、えぇぇぇぇ!?」

お約束通り投げ飛ばされてしまう。銀時は思うままに体を動かさず、建物へと強くぶつけられてしまった。予想外に起きた事故であったが、リズベットにとっては想定の範囲内である。

「九兵衛さんってば、また男の人を投げ飛ばしたの?」

「……あっ! 今回は銀時と分かっていたのに……」

 自分の癖を理解はしていたが、今回も無意識のまま行ってしまった。場は静まり返ってしまうが、そこへ銀時の仲間達が駆けつけてくる。

「大丈夫ですかー! 銀時さん!?」

「前方に九兵衛さん達がいるのに、気付かなかったんですか?」

「気付く訳がねぇだろ……話していたんだからよ……」

 気だるく文句を交わす銀時を見て、新八とユイはすぐに安心していた。一見いつもの万事屋にも見えるが、なぜか残りのメンバーであるキリト、アスナ、神楽の三人の姿はどこにも見当たらない。恒道館からも来る気配すら無かったので、リズベットら二人は不思議にも違和感を覚えている。そんな中、新八達が最初に声をかけてきた。

「あっ! それよりもまずは、九兵衛さん達に挨拶しないと!」

「そ、そうでした! お久しぶりです! リズさんに九兵衛さん!」

「ああ、久しぶりだな……」

 せわしない挨拶を交わされて、九兵衛が静かに言葉を返す。本筋とは外れているが、ひとまずはこの三人と話を進めることにした。

「ていうか、恒道館になんでアンタ達がいるの? キリトとかアスナとかは、今日来てないの?」

「ああ、あいつらか? 今頃行列に並んでしばらくは帰ってこねぇよ」

「行列だと?」

「はい! 実はですね、ママと神楽さんが限定品の餃子を手に入れるために朝から遠出しているんですよ! パパも二人に連れてかれて、今も一緒に並んでいるんです!」

「そんなことがあったの……?」

 三人しかいない理由が分かり、ようやく状況を読み込めた九兵衛ら二人。どうやらキリト、アスナ、神楽の三人は、江戸を離れて限定の餃子を手に入れるために現在並んでいるらしい。一人で買うには限度があるため、あえてキリトも道連れにされたようだ。この現状を知ったリズベットは、何気ないショックを受けている。

「ってことは、あの二人はここにいないってこと!? 嘘でしょ……」

「おいおい、どうしたんだ。まさかキリトに対して、寝取るつもりじゃねぇだろうな?」

「そんな訳ないでしょ! 少し二人をからかおうとしていただけよ! 勘違いしないでちょうだいよ!」

「どこのツンデレキャラだよ。別にうまかねぇよ」

 やる気のない皮肉交じりに吐く銀時のボケに対して、リズベットはややムキになってツッコミを入れた。思わぬとばっちりを受けたせいで、若干頬を赤くしてしまう。それはさておき、九兵衛は質問を続けている。

「それじゃユイ君達は、キリト君達が帰るまでここで待っているということか?」

「はい、もちろんです! パパとママがいない間に、銀時さん達からこの世界の文化について多く学んでいたんです!」

「文化……? 具体的に言うとどんなことだ?」

「えっと……この世界で一番優れた本はジャンプだとか……この宇宙で一番かわいいアイドルはお通さんだとか! とにかく多くの作品や歌の魅力について教えてくれたんです!」

 満面の笑みで答えるユイであったが、彼女とは対照的にそれを聞いた九兵衛とリズベットの目の色が変わった。銀時か新八の方へ目線を向けて、率直な感想を声に上げていく。

「アンタ達……まさかユイに偏った知識を教え込んだの?」

「か、偏ってなんかいませんよ! お通ちゃんが宇宙一かわいいのは、事実であることに変わりませんから!」

「そうだよ! 俺の愛読しているジャンプだって、子供達に友情と努力と勝利を教えてくるいわば教科書なんだよ! 何一つ間違っていねぇよ!」

「……まぁ、外野がとやかく言うのもアレだが、後であの二人に怒られても僕らは一斉知らないぞ」

「二人共ユイのことになったら、親バカを通り越すから気を付けなさいよ」

 かたくなに思いを守り続ける銀時と新八であったが、内心はキリトらに怒られることを危惧していた。男子達が意地を張る中で、九兵衛ら女子達は糸目をしたままその本心を読み解いている。大人達のいざこざを知ることなく、ユイは純粋にも鼻歌混じりに今日の出来事を振り返っていた。

「放送コードがなんぼのもんじゃい~始末書差し替え関係ねぇ~」

 歌の意味を知ることなく鼻歌を続けていた。ユイの件はさておいて、万事屋の事情を知ったところでようやく九兵衛達は本題へと移る。

「まぁ、ユイ君のことは置いとくとして……新八君。今日ここにお妙ちゃんはいるか?」

「あっ。姉上に用があったんですね」

「少し話したいことがあってね。今ここにいるのかしら?」

「お妙なら今、道場の方にいた気がするんだが……」

 と妙の居場所を教え込んでいた時であった。

「キャャャャ!!」

 唐突にも彼女の悲鳴が響き渡っていく。妙の身に何かが起こったことは明白である。

「た、妙ちゃん!?」

「まさか、もうストーカーが潜り込んでいたんじゃないの!?」

「と、とにかく僕等も行きましょうよ!」

「そうですね! 急いで行きましょう!」

「分かってら!」

 敷地内にいた五人は、急いで恒道館へと入っていき道場へと進んでいった。一分にも満たない距離を、みな緊迫しながら走っている。特にリズベットは正体すら分かっていないため、より強く緊張感を高めていた。

(お妙さんのストーカー相手……ゴリラのような人って聞いていたけど、一体誰なのよ……)

 妙の無事を祈りながら、ただひたすらに走り続ける。そしてついに入口へと到着して、勢いよく突入していった。

「お妙さん!! 大丈夫――」

 武器であるメイスを片手に持って戦闘準備を万全としたリズベットが、道場で見たのは

「ゴリラが人間様に逆らうんじゃねぇぇぇ!!」

「ギャャャ! 止めてお妙さん!! 苦じぃぃぃ!!」

妙がストーカーを――いや近藤に対して、体を締め付ける光景である。そう彼女は、ここでようやくストーカーの正体が近藤であることに気付いたのだ。正体にも驚いていたが、何よりも妙が優勢的に反撃していることにも衝撃を受けている。

「……九兵衛さん。アレって、もしかして」

「ああ、そうだよ。お妙ちゃんを追いかけ続けるストーカー……近藤勲だよ!」

「……あの人、真選組の局長だよね?」

「そうだよ。今更何を言っているんだ、リズ君?」

「あ。そういうことねー。完全に理解したわー」

 ストーカーと聞いて心配していた気持ちは、一瞬にして打ち砕かれた。ツッコミどころが多くて、もはや放置してしまっている。頭を抱えてやる気がそがれていくリズベットに、共にいた銀時らが声をかけてきた。

「お前の気持ちはよーく分かる。初めて知ったなら、驚いても仕方ねぇよ」

「ていうか、みんなは知っていたの?」

「まぁ、そうですね。キリトさん達も初めて近藤さんと会った時に、同じような衝撃を受けていましたよ」

「そうだったんだ。ハハハ……」

 状況が段々と読み込めても、未だに立ち直れていない。ユイも心配そうに彼女を見ていたが、銀時達の雰囲気を読み取って声をかけてはいなかった。一方で九兵衛の反応は真逆である。獲物に狙いを定めて、早速ゲキタイバーを抜いていた。

「ようやく見つけたぞ、ゴリラ!! リズ君達が打ったこのゲキタイバーで、塵と化すがいい!!」

 勢いよく突進していき、身動きのとれない近藤へ電撃を浴びせようと画策する。しかし、

「フッ」

「何!?」

彼は間一髪でかわした。溜め込んでいた力を発揮して、妙からの拘束を自ら解いたのである。

「なるほど。あの星の護衛刀か。だったら……!」

 さらに彼女にとって予想外の事態が起きてしまう。立ち上がった近藤は対抗するように、腰に携えた刀を抜く。そこに映ったのは、

「な……何!? ボウエイだと!?」

カタカナで「ボウエイ」と書かれていた刀である。近藤もまた九兵衛と同じく、特殊な護衛刀を隠し持っていた。

「フフ……お妙さんを守るために手に入れたのだよ。彼女のナイトになるためにも、邪魔者は全て叩きのめしてやるのさ!」

「貴様……! 意地でも歯向かうならば、返り討ちに合わせてやるぞ!」

「こっちのセリフだ! なんとしてでもお妙さんと……」

「お妙ちゃんとの……」

「「二人っきりの時間は作らせねぇぞぉぉ!!」」

 ついにはお互いの思いがぶつかり合い、とうとう衝突してしまう。九兵衛の持つゲキタイバーと近藤の持つボウエイバー。どちらも同じ性質の刀を振りかざし、所かまわず乱闘を展開する。この隙に妙は新八らの元へと合流している。

「おい、お妙。あの二人の暴走を止めてこいよ。もう一本刀が出てきたら、流石の俺でも処理しきれねぇよ」

「ええー。九ちゃんはともかくとして、近藤さんは止める必要ないでしょ? あのまま電気で痺れさせて、怪我を負わせたいもの」

「アンタはどんだけ黒いんですか! 他人事みたいに軽く言わないでくださいよ!」

 原因を作った妙でさえ、この光景にためらいを見せている。近藤には痛い目を合わせたいばかりに、九兵衛の方を応援する始末であった。呑気な会話を繰り出す中で、リズベットはある思いを心に宿している。

(はぁ……なんで互いに熱中したら止まらなくなるのよ……まさに不毛な争いね)

 感情が入り混じりながら、再び頭を抱えてしまった。彼女自身もどう表現したらいいのか分からず、ただため息を吐くしかない。一方でユイは、別の気配に気が付いていた。

「ただいまアルー!」

「みんなー! 餃子を買ってきたわよー!」

「あっ! ママ達です!」

 聞こえてきたのは、餃子を買いに出かけていた神楽達である。ほんのりとニンニクが香る餃子の匂いも道場まで届いていた。これがきっかけで、銀時達も気付き始める。

「おいおい、マジかよ。本当に餃子を手に入れたのかよ!?」

「やったわね、みんな! 早速神楽ちゃん達を迎いに行きましょう!」

 自然と興味が餃子へと移っていき、匂いにつられて次々と道場を離れていった。最後には新八も跡を追いかけようとする。

「あの、リズさん。後であの二人にも、餃子の件を伝えておいてくださいね」

「わ、分かったわ……」

 そう声をかけて彼も去ってしまう。道場にはうなだれるリズベットと、未だに戦いを続ける九兵衛と近藤の三人しか残っていない。いつまで経っても決着すらつかないので、仕方なく彼女は強制的に止めることにする。

「はぁ……こうなったら、やるしかないのね」

 三度大きいため息を吐くと、意を決してリズベットは大声を放ってきた。

「あのー! 乱闘終わったら、餃子あるから冷めない内に来なさいよ!」

「餃子だと!? お妙さんと一緒につつきあえるのか!?」

「ならば一層負ける気はしない! 妙ちゃんと餃子をつつきあうのは、この僕だぁぁぁ!」

 しかし情報を聞き間違えてしまい、対立を深める結果となる。止めるきっかけすら作れず、もどかしい気持ちから、ついにリズベットの我慢がついに限界を迎えた。

「……だ~か~ら……不毛な争いは辞めなさい!! このクソ真面目共がぁぁぁぁー!!」

 出来る限り声を思いっきり張って、怒りを込めた叫びが道場中に響き渡っていく。滅多には見せない彼女の激高に気付き、ようやく九兵衛らの戦いは中断される。

「リ、リズ君……?」

「はぁ……あ」

 大声を出しすぎたせいで、ついに声が枯れてしまう。リズベットの思いが届き一件落着――かに思われたが、別の問題が発生していた。

「リ、リズ?」

「ハッ!?」

 ふと我に返り聞こえてきたのは、キリトの声である。恐る恐る後ろを振り返ると、そこには帰ってきたキリトらの姿が見えた。みな彼女の叫び声に気付いており、思わず愕然としている。何が起こったのかすぐに察していた。

「キ、キリト……?」

「一体何があったんだ……?」

 友人に恥ずかしい姿を見られて、急に顔が赤くなってしまう。良くも悪くも今日のリズベットは、九兵衛に振り回されっぱなしである。その後彼女は必死に説得して、誤解は解けたようだ。

 




 元ネタはライド〇ルセイバー――ではなく、ライドヘイセイバーです。分かる人には、分かるはず! 平成もあと数十日で終わるのか……




次回予告
シノン「私達に頼み事って一体何なの?」
あやめ「アレが絡んでいるのよ! 厄介だから人手が必要なの!」
月詠 「主がストーカー以外に熱意を持つとは……珍しいな」
シノン「そうね」
あやめ「アンタ達、私をどういう目で見ていたのよ!?」
月詠 「次回、新戦力は早く使えじゃ」
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