剣魂    作:トライアル

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リーファって剣魂の中じゃ、一番不憫な気がする。
・元の世界と違って、キリトと一緒に住めない。
・沖田に目をつけられて、精神的な痛みを受けた。
・彼のせいで、恥ずかしい寝言を仲間達に暴露される。
・お妙さんにも巨乳の件で目をつけられている。
 それでも彼女は現在、平穏な日常を送りつつあります。今のところはね……



第二十四訓 パラグライダーに気を付けろ

「それじゃ九兵衛さん! また明日、よろしくお願いしますね!」

 柳生家での手伝いを終えたリーファは、九兵衛へ別れの言葉を交わす。その後に彼女は、背中へ透明な羽を広げていき空へと飛び去っていった。

「今日は思ったよりも早く終わったな~。どうせなら万事屋にでも寄って、お兄ちゃん達にちょっかいでもかけにいこうかな~!」

 慣れた飛行を続けていき、今後の予定について考えている。普段のリーファは柳生家で仕事をこなしており、余った時間は九兵衛との剣術稽古に励んでいた。しかし今日の柳生家は午後に予定が入っており、午前で仕事を切り上げることになる。そこで出来た時間に、キリトらへ会おうと彼女は企んでいた。

「抜け駆けはダメだけど、この場合は仕方ないよね! こっそり会って、ひっそりと帰ってこよう~!」

 偶然にも韻を合わせて、調子はより高まっていく。久々の再会に妄想を膨らませて、リーファの心には隙が生まれていた。そんな時、反対方向から知り合いが通りすがる。

「あっ、沖田さんだ! こんにちは!」

「うっす」

「こんなところで沖田さんに会うなんて偶然――って、沖田さん!? こんな上空で!?」

 信じられない光景に気付き、思わず目を疑った。集中力が鈍っていたとはいえ、あの姿は間違いなく沖田である。幻覚だと疑って後ろを振り返ると、そこにはいたのは

「アレ? パラグライダー?」

やっぱり沖田であった。パラグライダーに乗り込んでおり、どうやら空を飛んでいたらしい。

しかもその尾翼部分にはバズーカまでも装備されていた。

「ちょうどいいや。おい、デカ乳女。少し手を貸せ」

「えっ? って、キャァァァ!!」

 そして彼はためらいもなく引き金を引き、バズーカから丈夫な網を放出させる。リーファを上空で取り押さえると、そのまま彼女をどこかへと連れ去ってしまった。こうしてリーファの立てた計画は惜しくも崩れてしまう。

 

 一方こちらは真選組が待機している山奥。今回彼らは、ある特別任務を受けてこの場所へとやって来ていた。簡易的なテントで本部を立てて、少数精鋭で連絡を取り合い、場には物々しい空気が漂っている。その人数は三十人と規模もそれなりに多かった。そこにはもちろん近藤と土方もおり、共に緊張感を持って場の指揮を行っている。

「どうだ、総悟の調子は? ちゃんとパラグライダーには乗れているだろうな?」

「あいつなら大丈夫だよ。すっかり乗りこなして、空の散歩に出かけていったからな」

 近藤からの問いに土方が答えていた。

「ハハ! さすが総悟だ! 相変わらずの調子で安心したよ!」

「そうだな……それでどうすんだよ。総悟は良いにしても、もう一方のパラグライダーは破けたみたいじゃねぇか。これじゃ、作戦が台無しだろ」

「確かにな。こういう時に、キリト君達がいてくれたら助かるんだが……」

「あいつらか。強ち間違ってはいねぇな。だがそう上手くはいかないだろ」

 突然起きたトラブルの対処に困り、悩みを打ち明かしている。実は今回真選組は、幕府の依頼でこの任務に携わっていた。その基盤であったパラグライダーが一台故障してしまい、現在窮地に立たされている。代案が見つからず不安を口にするが、さらなる問題が二人にはあった。

「そうだトシ。俺のポケットに入れていた婚約指輪がどこにいったか知らないか?」

「知らねぇよ。ていうか、そもそも結婚する予定じゃないだろ?」

「備えあれば患いなしだよ。いつどんな状況でも、お妙さんと婚約するか分からないだろ?」

「どういうポジティブ思考だよ……それよりも俺の買った高級マヨネーズが丸ごと無くなったんだが、近藤さんは知らないか?」

「いいや、見てないよ。トシのマヨネーズを奪う奴なんて、俺達の仲間にいないと思うぜ」

「総悟以外はな……まぁ、あいつが帰ってきたら問いただしてみるか」

 大事に懐へしまっていた婚約指輪やマヨネーズが紛失し困り果てている。ある程度心当たりがあるようで沖田の帰りを待っていると、すぐに彼は上空から戻ってきた。

「心配ねぇですよ。こちとら代わりを連れて来やしたから」

「おっ! その声は総悟か! 代わりって言うのは――って、えっ!?」

 彼の声を聞きつけた二人が後ろを振り返ると、急に表情が乱れて黙り込んでしまう。そこにいたのは沖田だけではなく、

「ウッス。近くにいた露出妖精を捕まえて来やしたぜ」

「総悟ぉぉぉぉ!? お前何連れてきてんだぁぁ!?」

何故かリーファも連いてきていた。網に捕まり抵抗できないまま、彼女は静かに黙っている。大胆な沖田の行動には、土方らの衝撃も大きかった。一方で彼は、何も悪びれることなく話を再開させる。

「おや? 何を驚いているんでい? ご覧の通りこいつはリーファですよ。もしかして、もう忘れちまったんですかい?」

「いやいや! 覚えているから! 俺達が聞きたいのは、なんでリーファちゃんを連れてきたってことだよ!? しっかり説明してくれって!」

 平然と話す沖田とは違って、近藤や土方は未だに動揺しながら接していた。仕方なく彼も、

一連の流れについて説明しようとした時である。

「説明? そんなの簡単よ! このドS男に拉致されただけなのよ!!」

 急に声を上げたのは、網に捕らわれていたリーファだった。口調も怒りに満ちており、声を震わせて真選組へ伝えてくる。しかし、沖田はそれでも否を認めない。

「あん? 何言ってんだ? 俺はただ任意の元で近づいただけですよ」

「アレのどこが……任意だって言うのよォォォ!!」

 早くも彼女は堪忍袋の緒が切れて、高らかに怒りを露わにする。その瞬間腰に収めていた剣を抜き、覆っていた網を切り裂いていく。罠から抜け出したところで、その剣を沖田へと差し向けてきた。

「フッ、流石柳生家に入っただけはあるな。一応剣術の才能はあるみたいですねぇ……」

「これでも元の世界では剣道を習っていたからね……男相手でも私は容赦しないわよ!」

「面白れぇ……なら一回俺と戦ってみるか? 女だろうと手加減は一斉しねぇよ……」

 目の前にある剣に怯むことなく、沖田はこの状況でも冷静に対応している。むしろ、リーファの強さに興味を持ち本気で戦おうと考え始めていた。その顔つきも高らかに楽しみ、彼女の動揺を一段と広げている。

(やっぱり沖田さんの行動は読めない……このまま戦うしかないってこと?)

 引くに引けない状況となり、表情を固めながら対応に困っていた。二人の喧嘩が始まるのも時間の問題である。

「ト、トシ!? 早く止めないと大変なことになるぞ!?」

「何やってんだよ、あいつは……おい。いい加減にして――」

 見るに見かねた近藤と土方が、二人の争いを止めようと声をかけてきた。とその時、

「お二人共やめてください!! 刀を持って争う前に、話し合ったらどうなんですか!?」

近藤らよりも一早く話しかけた人物が現れる。声が聞こえた方向を向くと、そこには真剣な眼差しで様子を伺っている少女が立っていた。

「えっ? この子は一体……」

 リーファには馴染みのない相手だが、真選組にとっては大きく関わりのある人物である。

「あっ、姫様」

「はぁ? 姫様!?」

 沖田の呟きにいち早く反応した。改めてその少女の姿を凝視してみると、長い黒髪に付けられた煌びやかな髪飾りや、手入れの行き届いている麗しい赤い着物が一段と目立っている。以上の特徴から姫様であると彼女は薄々察し始めていた。

「ま、まさか本当に……姫様なの?」

「そうですよ。こちらにいるのは、第十四代征夷大将軍徳川茂々の妹君……徳川そよ姫なんですよ」

「えっ……えぇぇぇぇ~!?」

 予測が確信へと移り変わり、リーファの注目がそよへ集まる。大きく叫び声を発して、愕然としてしまった。同時に自分の身だしなみにも気をかけて、先ほどまで手にした剣も鞘に戻して緊張した声を発していく。

「えっと、本当に姫様なんですよね!? 私は何をしたら……」

「そんなことはどうでもいいです! それはそうと、アナタ達は仲直りしたんですか!?」

「……はい?」

 意外にもそよが一番気にかけていたのは、沖田とリーファの仲についてであった。その行方を聞くために、ややほっぺを膨らませながらリーファへと迫っている。これには彼女も答えに困ってしまう。

「えっと仲直りって……」

「さっきまでアナタ方がしていた喧嘩のことですよ! しっかりと互いに謝って、仲直りした方が良いと思いますよ!」

「それで沖田さんが謝るわけが……」

 と冗談半分に沖田の方を振り返ってみると、

「どうもすいやせんでした、リーファさん。俺がやりすぎました」

「早!? 沖田さん!? さっきとやってることが真逆すぎるわよ!?」

すでに頭を下げて謝罪を告げている。そよの前ではさすがに対立を長引かせずに、事態を収めようと彼は画策していた。表情では誠意に欠ける部分もあったが、リーファ自身も空気を読んで謝罪を受け入れることにする。

「……でも、私も剣を差し向けたわけだし、今回はお互い様ってことで私は大丈夫よ」

 彼女からの言葉を聞き、沖田は静かにうなずいた。二人の謝罪風景を見て、そよも満足そうな笑みを浮かべ始めている。

「良かったです! お二人が仲直りしてくれて!」

「いや~ほんの些細なことで喧嘩していたんで、姫様が来てくれて助かりやしたよ」

(って、そんなこと微塵も思ってないくせに……)

 そよに話しかけられた沖田は、不自然にもにこやかな笑顔で返答していた。明らかに作り笑いであるが、肝心の彼女には気付かれていない。一方で沖田は心の中で、自らの想いを吐き出していた。

(まぁ、今日は姫様が割り込んで来たのでこれくらいにしときやすよ。今度会ったら、本気の戦いを期待してやすね……)

(ドキ! 絶対悪いこと考えているよ……なんて人に私は目をつけられたのよ……)

 リーファに対して沖田は不敵な笑みを見せつける。これには彼女も危機感を覚えて、聞こえてなくても嫌な予感だけは理解していた。二人の対立は未だに続いたままである。

「と、とりあえず喧嘩は収まったってことで大丈夫だよな、トシ?」

「そうみたいだな……総悟も下手に行動できないからな。天真爛漫な姫様によって、あいつらは助けられたんだよ。きっと……」

 今まで状況を見守っていた近藤や土方も、一触即発を解消してくれたそよには大きい感謝を感じていた。場は緊迫感が薄れていき、徐々に落ち着いた雰囲気へと戻り始めている。

 

 そよが介入してから数分後。リーファがようやく心を落ち着かせたところで、彼女達は改めて自己紹介を交わし始めてきた。

「そういえば、まだ挨拶をしていませんでしたね。沖田さんの紹介通り、私は徳川そよと申します。アナタは何て言うのですか?」

「私はリーファよ。つい最近かぶき町に来たばかりで、今は柳生家で修業しているのよ」

「そうなんですか……可愛くて強いなんて、憧れてしまいます!」

「そ、そんなことないってば! 姫様、褒めすぎだって!!」

 数分前の緊張した態度とは対照的に、リーファはそよとの距離を縮め始めている。羨望の眼差しで見つめられて、彼女は満更でもなく思い始めていた。仲睦まじい光景に、見張っていた近藤ら三人も驚嘆している。

「そよ姫とリーファちゃんがすぐに打ち解け合っている……!?」

「これは予想外だったな。まさかウマが合ったっていうことか?」

「あっち側にも黒髪ロングの幼女がいたから、きっと親近感があるんじゃねぇですかい?」

 口々に思ったことを声に出していた。そよの寛大さのみならず、リーファのコミュニケーション能力の高さも見直し始めている。一方で女子達の会話は、いよいよ本題へと移り変わっていた。

「あっ! そういえば姫様って、この山奥に何か用があってきたの?」

「その通りですよ! 実は今日、念願の空飛ぶじゅうたんに乗せてもらうんです!」

「そ、空飛ぶじゅうたん!?」

「はい! 松平さんっていう長官の方がいるんですけど、その人に頼んでみたらすんなりと通ったんですよ! だから、今からウキウキと心待ちにしているんです!」

 天真爛漫に語るそよであったが、リーファには何一つ意味が伝わっていない。だが周りの状況を見ると薄々ある事に気付き始める。物々しそうに準備を進める真選組を見て、そよのために動いていると推測していた。

「もしかして、今日の真選組の仕事って……」

「そう、姫様の護衛でさぁ。空飛ぶじゅうたんを再現するためにパラグライダーを利用するんですよ。だが一台壊れてしまってねぇ……そこでてめぇを連れて来たってわけだよ」

「って、そんな理由だったの!? だったら回りくどいことせずに、素直に言った方が良かったんじゃないの!?」

 自分が拉致された理由も分かり、リーファは激しいツッコミを沖田に繰り出す。彼女の推測通り、真選組一行はそよの願いを叶えるために山奥まで来て準備をしていた。一見大袈裟にも見えるが、将軍の妹の立場を考えればこの待遇でも納得はできる。リーファはさらにツッコミを入れたい気持ちで一杯になったが、それと同じくある想いも芽生え始めていた。

(そうだったんだ……将軍の妹だけあって、真選組ってなんでもやるのね。色々とあるけど、さっき言っていたパラグライダーが用意できなかったら打ち切られるのかな? もしそうなったら……)

 静かに悩み込みある決意を固め始めている。表情も真剣さを極めており、自ら近藤らへ伝えようとした時であった。

「おい、てめぇらぁ。代わりの案は思い浮かんだんだろうなぁ?」

 突如いかつい男性の声が響き渡ってくる。渋く威圧感があり、リーファ以外の四人はもちろん聞こえた瞬間に正体を察していた。

「この声は……」

「えっ? また知っている人なの?」

「知ってるも何も、俺達にとっての重要人物だよ」

「重要人物って……」

 再び緊迫感に包まれる場に、彼女はたった一人状況を把握できていない。予測を立てる暇もなく、ようやく噂の男性が一行の目の前に現れてきた。

「おいおい……テメェらだけかと思ったら、姫様に天人だと? どういうことか、ちゃんと説明しろやぁ」

「……えっ!?」

 予想を越えた見た目の濃い雰囲気の男性を見て、リーファは数分前と同じく愕然としてしまう。その男性は真選組隊士服に似た制服を着こなし、目元は黒いサングラスを装着している。中年っぽい見た目であり、強面な顔は見る者に恐怖を与えていた。そう、彼の正体は警察庁長官を務める松平片栗虎であるが……リーファにとっては初対面でまだ何者なのかはっきりと理解していない。

「だ、誰この人!? 真選組の幹部か署長なの!?」

 戸惑う彼女を見て、近藤が率先して説明を加える。

「いいやリーファちゃん……あの人はそんな生温い方じゃないんだ。真選組や見廻組……いや、江戸の治安部隊の全てを取り仕切る長官、松平片栗虎公なんだよ」

「って、警察庁長官!? あの人がぁぁぁ!?」

 やっと松平の立場を知って、より一層困惑を強めてしまう。見た目との差に驚きどう表現したらいいのか分からないのである。一方松平は、たった一人知らないリーファについて土方らに問いかけていた。

「おいトシ。あの天人は一体誰なんだ? おめぇの彼女か?」

「違ぇよ。あいつはリーファって言って、最近かぶき町に来た天人だよ。沖田の野郎がたまたま連れてきて、ここに今いるんだよ」

 彼は丁寧な説明でフォローを入れている。実際にリーファは別世界の住人であるが、松平には訳を知られたくないので、見た目から天人だと誤魔化し場を切り上げようとしていた。

「なるほど……要するに沖田の野郎がナンパして捕まえてきた女か。中々あいつもやるじゃねぇかぁ……」

「そういうことじゃないんだよな……」

 しかし松平は勝手に解釈して、沖田に脈がある相手だと勘違いしてしまう。土方も訂正しようとしたが、その真意が伝わっているのかは分かっていない。ちなみに一連の会話は、リーファや沖田にも薄っすらと聞こえている。

「って、なんであの人もすぐにナンパへ結びつけているのよ……」

「仕方ないですよ。とっつあんはせっかちだから、すぐに断定して後は一斉聞いていないんですから」

「そんな……もうこれ以上変な噂を広めないでよ」

 嫌な予感しか察しておらず、面倒なことが起きないように今は祈るしかなかった。それはさておき、松平は早速要件を述べ始める。

「ところでてめぇら。姫様の為に準備は完了したんだろうな? 壊れたパラグライダーの代わりは見つかったんだろうなぁ?」

「いや、それがまだで……」

 恐縮気味に近藤が返答すると、松平は感情のままに怒りを露わにした。

「なんだと? 結局用意できなきゃ、作戦は中止するしかねぇんだぞ。折角お上を喜ばせて良い顔できるはずが台無しじゃねぇかぁ……どう落とし前付けるんだぁ!!」

「いやとっつあん! こんな山奥でパラグライダーが見つかるわけが……」

「だったら飛行ユニットやら重力低減装置やら持ってくるのが常識だろ、ブラァ!!」

「すいません!! だからもう少し時間を――」

「いいや、ダメだ。これ以上待っていたら、姫様の時間が無くなる……悪いがここで中断するしかねぇな」

 勢いに終始押されていた近藤であったが、彼の努力は虚しく松平は冷徹にも作戦の中止を言い渡す。そよの安全や時間の都合が重なってしまい、やむを得ない決断であった。

「そんな……」

 これにはずっと楽しみにしていたそよも、悲しい表情を浮かべている。顔をうつむかせた彼女に、リーファはその心情を悟っていた。

(やっぱり楽しみにしていたんだ……だったら、私に出来ることはこれしかない!)

 するとリーファは、心で固めていた決意を再び思い出していく。顔つきも凛と真剣さを増し、話し合うべき松平に向けて果敢に立ち向かっていった。

「あの……! パラグライダーの代わりに、私が飛んで姫様をサポートしていいかしら?」

「えっ? リーファさん?」

 彼女が伝えたことは作戦の続行である。しかも自ら協力する条件で、そよの気持ちを叶えようとしていた。場にいた全員が予想外の決断に驚嘆し、松平の表情も若干変化している。

「おい、天人の姉ちゃんか? 見た目に反して威勢がいいじゃねぇか。おめぇが作戦に協力するのかぁ?」

「そうよ! 姫様が悲しむ姿なんて見たくないから! 私の羽と飛行技術があれば、きっとパラグライダーの代わりになるわよ! 沖田さんのせいでここまで来たけど、今日くらいは私も協力させてよ! 当然姫様の為だけどね……」

 初対面かつ強面な松平に怯むことなく、彼女は根気強さを見せて自分の意志を貫く。そよの想いを守るためにも躍起になって接していた。

「ふっ……面白い展開になってきたじゃねぇか」

 流れを見守っていた沖田も、リーファの根性を見てつい素直に笑ってしまう。一方で説得された松平はというと、

「ったく、仕方ないな。作戦を変更して、続行させるか。ここまで用意した金も無駄にしたくねぇからな」

彼女の熱意に負けて作戦の継続へと変更した。ようやく想いが実を結び、立役者となったリーファは緊張をほぐして安堵の表情を浮かべている。

「良かった……実現しそうで」

 正直松平への恐怖で心が一杯になっていたので、その我慢も実は限界まで近かった。いずれにしてもそよの想いを守れたことは、大きい成果である。場にいた四人もリーファへと近づき、賞賛をたたえてきた。

「リーファさん!! ありがとうございます! 手伝ってくれるなんて、思いもしませんでした!」

「姫様……別にいいって! これで願いが叶うんだったら!」

 そよは元気よくお礼を交わして、自分なりの感謝を伝える。幸せそうな笑顔を見るだけで、リーファは十分であった。続いて真選組の三人も声をかける。

「とっつあんに挑むとはリーファちゃんも中々やるな!」

「一応姫様にも顔向けできるし、助かったとは言っておく」

「いや~正直びっくりしやしたよ。感謝だけは伝えやすぜ」

 共に彼女を見直していたが、沖田だけは皮肉気味に言ってきた。それでも慣れているので、受け流し笑顔で返す。雰囲気も活気よく戻っていき、準備もいよいよ最終段階へと入った。

「よぉし! 時間までに間に合わせろぉぉ!! 総悟の彼女も参加するんだぁ!! 本気で取り組めぇぇぇ!!」

「だから違うってば!! そんな大声で言わないでって!!」

 松平が受けた勘違いによって、リーファは思わぬ被害を受けることになったが……

 

 時刻は昼を過ぎた頃、ついにそよを安全に飛ばすための準備が全て整った。山全体に隊士達を配置させて、トラブルが起きた時の保険として潜り込ませる。一方でそよの乗るじゅうたんには、右側全体を沖田、左側全体をリーファが担当して、角と自分の体に命綱代わりの丈夫な網を括りつけた。そのままパラグライダーやシルフの羽を使って飛行バランスを保つことで、一行は空飛ぶじゅうたんを再現しようと考えている。

「いいか! てめぇらの判断一つで、姫様をどうにでもできるのだと忘れるなよぉ! 最悪の場合、全員の首が飛ぶかもしれないから気を付けるように……」

「って、松平さん!? いきなり不吉な事を口走らないでよ!」

 耳へと着けたスピーカーから聞こえた松平の注意に、リーファは激しくツッコミを入れた。彼女も頭では分かっているのだが、将軍の妹の命を預かることには重い責任を感じとっている。

「まったく……本当に大丈夫なのかしら?」

「大丈夫でっせ。外部からの侵入はほぼ不可能。天候も良いし、何事もなきゃたった五分で終わりやすよ」

「その五分がとても長いのよ……」

 沖田は何度も護衛などに経験があるため手慣れてはいたが、リーファにとっては初めてが故に半場緊張状態にあった。そんな彼女に対して、じゅうたんに乗っていたそよが元気よく声をかけてくる。

「そんな重く考えないでください、リーファさん! 私もいざという時を考えて、パラシュートを装備しているので、気にすることなくいつも通り飛んで方がいいですよ!」

「そ、そうなのかな……ハハ」

 と苦笑いで返したリーファの心の中は、

(やっぱり心配かも)

全然不安なんて晴れていなかった。いずれにしても、ここまで来ればもう乗り切るしか方法はない。彼女も気を引き締めて意を決した。

「よし! それじゃ行け、てめぇら!」

 土方からの掛け声でようやく作戦が開始される。まずリーファが背中に生やした透明な緑色の羽を広げていき、ゆっくりと空に浮き始めた。同時に沖田もパラグライダーに装備された噴射機から微々たる燃料を放出させて、じゅうたんの飛行バランスを保っていく。お互いに浮遊が安定したところで、

「それじゃ、行きやすよ」

「分かっているわよ!」

心を一つに合わせて空へと向かっていった。速度を上げながらじゅうたんのバランスに気をつかい、飛行機が離陸するように上へと上がっていく。その結果は……予定通りじゅうたんを浮遊させることに成功した。すなわち、そよの思い通りに空を飛べたのである。

「うわ~! これが空の風景ですか! 気持ちよくて、最高ですね!」

「そうでしょ! 風も冷たくて、夏にはぴったりの気持ちよさよね~!」

 初めて体験する大空の風景に、彼女は自然の雄大さを感じていた。青く澄んだ空は宝石のように美しく、照らし続ける太陽は生き物に躍動感を与え続けている。滅多には感じ取れない光景に心を躍らせ続けていた。そよの屈託のない笑顔を見て、リーファも心から満足している。すると、浮遊を始めてから一分も経たないうちにスピーカーから通信が入ってきた。

「おおー! 作戦が成功したのか!! リーファちゃんの方も大丈夫か?」

「ええ、もちろん! 姫様も飛行を楽しんでいるわよ」

「そうか……それならば良かったな、とっつあん」

「いいや、本番はこれからだ。てめぇらは飛びながら、姫様の安全を守れよ。一瞬の隙を見逃さずになぁ……!」

「わ、分かりました……」

 未だに緊迫感の違いが生じている松平によって、リーファは心なしか気も休めていない。そよに気を配りながら、今度は沖田にも話しかけてきた。

「ねぇ、沖田さん! 空を飛んでいる時、どう感じているの?」

「あん? ごみのように小さい人を見て嘲笑っていやすよ」

「……そういうことじゃなくて、もっと具体的に……」

「そんなこと言っていないで、色々警戒してくだせぇよ。前方に障害物が現れたら、どうするんですか?」

 相も変わらずマイペースに話し返答しづらい雰囲気を作り出す。仕方なくリーファも答えを返さずに飛行へと集中する。

「まったく沖田さんってば……そうも簡単にトラブルが起こるわけが――」

 と呑気にも呟いていた時、ある異変が前方で起き始めていた。

「えっ? 何アレ……」

 突如として見えてきたのは、漆黒に束ねられた集団。目を凝らしてよく見てみるとそこには――大量のカラスが群れを成して突進している。彼女の予想とは反して、あっさりと危機は訪れていた。

「あっ……カラス!? ちょっとみんな!! こっちに向かって来ているから、早く対処しないと大変なことになるわよ!?」

 発見するや否や取り乱し、沖田やそよ、さらにスピーカーを通じて土方らにも警告を伝えていく。一段と緊迫感が上がる中、肝心の二人はと言うと

「あっ、姫様。あっちに白鳥を見かけやしたぜ」

「本当ですか! どこにいるのですか?」

「って、話を聞いてぇぇ!! さらっと現実逃避してるんじゃないわよ!!」

横を向いて真実から目をそらしていた。分かりやすい現実逃避である。一方で本部には伝わったらしく、スピーカーから通信が入ってきた。

「おい、みんな聞こえるか! こういう時の為に、総悟のパラグライダーに鳥よけを装備したから、早く使ってくれ!」

「えっ? そうなの?」

 勢いよく近藤が言い放ってきたのは、鳥よけについての情報である。沖田が乗り込むパラグライダーには護衛用として仕掛けが施しているらしい。もちろん彼自身もすでに知っていた。

「そうみたいですねぇ……じゃ、いっちょやりますか」

(そういえば今日会った時も網を放出していたよね……だったら乗り切れるのかも!)

 実は今日にも沖田は、リーファを捕まえる時にバズーカを使用して網を放出させている。これをうまく使えばカラスは危害を加えないのかもしれない。一筋の希望を信じて、沖田はためらいもなくバズーカの引き金を押した。

〈プシュュュ!!〉

「おっと! ……やっと出たか」

 と発射したところまでは良かったのだが……

「って、アレ? 網じゃなくてマヨネーズが出てきた!?」

その中身に問題が発生する。出てきたのは網ではなく大量のマヨネーズであった。何が起こったのか一瞬分からなかったが、土方だけは状況をよく理解し始めている。

「おい、総悟。まさか俺の高級マヨネーズを使ったわけじゃねぇだろうな……」

「あっ、やべ」

「何て言ったてめぇ!? 完全に図星じゃねぇかぁ!! 一体何企んでいたんだよ!!」

 そう、沖田が発射したマヨネーズの正体は、土方が無くしていた高級マヨネーズであった。密かに盗み出しており、事前にバズーカへと仕込みなおしていたのである。マヨネーズを無下に扱われて土方は怒りを露わにしたが、沖田は一斉懲りておらずむしろ煽り始めていた。

「チッ! バレたか……」

「バレたって何だよ! おめぇ地上に戻ってきたら、覚悟しとけよ!!」

「ちょっと沖田さん!? 戻りづらい状況作ってどうすんの!! 一層気まずくなっているわよ!?」

 もはや地上に戻るのも勇気が生じている。土方と沖田の仲が一層悪くなる一方、前方にいたカラスたちはマヨネーズをかけられたことで激しく怒りを見せてきた。

「カァァァァ!!」

「って、こっちに向かっているんだけどぉぉ!? ちょっと沖田さん! 早く網を放出させてよ! 喧嘩なんかしてないで!!」

 リーファが幾ら呼び掛けても、彼は土方との口喧嘩に夢中になっている。前方のカラスになど微塵も興味を示していなかった。絶体絶命の危機に陥る中で、いち早く行動したのは意外な人物である。

「お二人共、大丈夫です! 私の秘策を使って、カラスたちを追い払いましょう!!」

「姫様が!? でも一体どうやって……」

 なんとそよが立ち上がり、一同へ冷静になるよう促してきた。自信ありげな表情でカラスを収める秘策を持ち合わせているらしい。密かな期待を寄せながら、彼女は懐からある物体を見せつけてくる。

「これを使うんです!」

「これって、指輪?」

 手にしていたのは綺麗に輝くピンク色の指輪であった。リーファや沖田には馴染みがなかったが、近藤には深くかかわる物である。

「あっ! その指輪ってまさか、俺の買った婚約指輪じゃ……」

「こ、婚約指輪!?」

 なんと偶然にも彼が落としたという婚約指輪であった。そよは気付かずに拾っており、ここでようやく近藤の所有物であると理解する。

「あっ、そうだったんですか。道端で落ちていたんで、ついさっき拾ったんですよ」

「だったら俺に返してくれ! この指輪には、お妙さんとの未来がかかって……」

 必死にも取り返そうと説得する彼であったが時すでに遅い。

「あっ! カラスが来ちゃいます! こうなったら……ソレ!!」

「ギャャャャ!!」

 自分達の身を守るためにも大切な婚約指輪を軽々しく遠くへと投げ捨ててしまった。しかしこれによりカラスたちの興味が宝石へと移り変わり、多数の群れを引き連れながら宝石の落ちた方向へと進んでいく。どうにか危機だけは逃れることが出来たが――

「指輪がー!! お妙さんの為の婚約指輪がー!!」

「おい総悟!! 今すぐ降りてこい!! みっちり叩き込んでやるからなぁ!!」

「落ち着けてめぇらぁ!! 通信が聞こえないじゃねぇかぁ!!」

地上では悲しみと怒りが交じり合う混沌とした状況を作り出していた。戻ろうにも戻りにくい雰囲気である。こんな結果を生み出したにも関わらず、沖田とそよは平然と会話を再開させた。

「やりましたね姫様。これで俺達カラスに完全勝利しやしたぜ」

「はい! 嬉しい限りです!」

「……何このドSぶり。姫様にもそういう天性が備わっているの……? ていうか、もう戻りたい……」

 元気が有り余るそよと常に悪意をにじませる沖田を見て、リーファは静かにため息を吐いていく。今回彼女は巻き込まれた側であり、一斉否なんて存在しない。地上に戻った時の恐怖に怯えながら、今はひたすら飛ぶしかないのだ。

「誰か私の時間を返して……」

 ひっそりと涙まで浮かべる始末である。




裏話
 実は最初、姫様と将軍のどちらかを出すかで迷っていました。尺を考えた結果前者を選ぶことになりました。将軍の出番は、もっと大舞台ではっちゃけるべきです! というわけで、出番はまだ先になりそうです。

次回予告
クライン 「桂さん!! 俺ってどうやったら、モテるんだよ!?」
桂小太郎 「そうだな……まずはナンパから始めるのが一番だな」
クライン 「ナンパ……ちなみに桂さんは、やったことがあるのか?」
桂小太郎 「いいや、ない」
クライン 「えっ!?」
桂小太郎 「次回! 漢の決断は早めにしとけ!」
エリザベス〔さらに今回はもう一つ、予告があるぞ!〕

特報! 剣魂……ついに、長篇へ突入!

新八 「夢の中?」
たま 「はい。この子の夢には、キリト様達に関わるヒントがきっとあるはずです……」

 事態は突然動き始めた。銀時ら万事屋が出会ったのは、昏睡状態に陥っている少女、千沙。今なお眠り続けている彼女には、ある謎が浮かび上がっている。
神楽 「銀ちゃん! キリ! さっきこの子の寝言で、二人の名が出たアル!」
キリト「何……どういうことだ?」
 夢の中に二人がいる? 疑問に思った謎を解き明かすためにも、万事屋六人はついに夢
へと突入!?
銀時 「困ったときの源外頼みってことだな」
源外 「俺をドラえも〇扱いするんじゃねぇよ!」
 一夜限りの作戦。夢へと入った万事屋が見た光景は、
アスナ「えっ? 私達……?」
懐かしい自分達の昔の姿だった。これらが意味することは……?

キリト「お前が俺ならきっと出来るはずだ!」
銀時 「例え夢の俺でも、手を貸すと最初から思っていたぜ」
 蘇る戦いの記憶……二つの激闘が入り混じった夢世界で、果たして悪夢は解放されるのか?
ユイ 「きっと出来ますよ! ここにいるみなさんが力を合わせれば!」
 そしてついに明らかとなる……サイコギルドの刺客。
キリト「お、お前は……」
?? 「まだ言っていなかったな。私はかつて別世界で暗躍した親玉と言っておこうか……」
 想いは蘇って、新たな真実へといざなっていく……

剣魂 夢幻解放篇 令和元年以降に公開!! 絶賛構成中!!

銀時 「こんなに煽っているけど、期待すんなよ」
神楽 「物語が進むって言っても、またすぐに日常回が始まるから、温かい目で見ろよ」
新八 「って、コラァァァ! いきなり拍子抜けた言葉を言うなぁぁ!」
※構成中の為、上記の台詞が使われない場合があります。ご了承ください。

 というわけで、この度新しい長篇を発表させてもらいました。記念すべき最初ということで、二つの作品の始まりをテーマにしています。原作とはまた違った色合いがありますが、何分コラボを楽しむ作品ですので細かい事は気にしない方が良いと思います。令和以降の投稿を目指して、現在も構成中です。どうにか第二章を平成までには終わらせたい……残り二回まで走り抜けていきます!! ちなみに補足を入れますと、銀魂の初期のころに一回だけ出た夢幻教とは一斉関係はありません。ご了承ください。後以前伝えていたキャラクター紹介も第三章と同時に発表しようと思います。それでは、また次回!!
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