剣魂    作:トライアル

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ようやく投稿できました! その前に一つ報告です。前回坂本辰馬を坂本辰真と誤変換していたことが発覚しました。現在は訂正していますのでご安心ください。
 今回から徐々に真面目なシーンが増えていきます。



第二十八訓 悪夢を見る少女

 銀時やキリトを始め、多くの仲間達が見続けている謎の夢。接点を結んで考察を続けていく中、万事屋の元に突如たまが訪れてくる。彼女によると夢の真相へ迫るために、ある人物に会わせたいようだ。たまの案内によって万事屋の六人が向かった先は、日々多くの患者が訪れてくる大江戸病院。一行は入り口を通り抜けて、すでに病院内へ足を踏み入れている。

「この病院にたまさんの紹介したい相手がいるんですか?」

「その通りです。十二号室にいますので、ひとまずはついてきてくださいね」

 改めてユイが確認すると、たまは丁寧な口調で答えを返す。紹介相手はこの病院にいるらしく、彼女は早速その部屋へ向かおうとした。たまに続いて万事屋一行も静かについていき、廊下内を進んでいく。その道中で仲間達は、率直に思ったことを話題に上げていた。

「病院か……俺やアスナも昔は随分お世話になっていたからな」

「そうだったわね。今でも目覚めた時の事は、昨日のように覚えているわ……」

 キリトやアスナは病院と連想して、自身の過去について振り返っている。SAOに幽閉された二人の肉体は病院へと預けられることになり、目覚めるまでずっと病室で過ごしていた経験があった。苦く辛い事もあったが、その分現実で再会した瞬間は今でも忘れてないという。一方で銀時ら万事屋も、病院に関する出来事を思い出している。

「まぁ、俺達も病院には世話になりっぱなしだな。糖尿病になるから医者に何度も警告を受けたこともあったし、スクーターが爆発して一週間くらい入院していたこともあったな」

「期限切れのカニを食いまくって病院送りになったこともあったアル! まぁ、今では感慨深い思い出だけどナ!」

 あたかも当たり前のように話す二人であったが、傍から見れば実に馬鹿馬鹿しい入院理由であった。笑い話で済まそうとしているが、キリトらは笑うどころか気が引いてしまい呆れ果てている。

「何やってんだ、この人達……」

「私達に比べたら、よっぽど緩い理由で入院していたのね……」

「まぁ、銀さんと神楽ちゃんですからね……」

 苦い表情で呟く二人を察して、新八は控えめなフォローを加えていた。微妙な雰囲気となり果てていたが、能天気な銀時や神楽は気にも留めていない。

 そんな会話をしているうちに、一行の足取りはようやく十二号室へと辿り着いていた。

「着きました。ここが十二号室です。早速ですが、中へ入ってもらえますか?」

「……あの、たまさん? 今更なんですけど、僕らが会おうとしている人って、一体どんな人なんですか?」

 着くなり入室を促してくるたまであったが、そこへ新八の質問が割り込んでくる。これから会う紹介相手については、まだ詳しい情報を聞かされておらず、年齢どころか性別すらも知られていないままであった。距離にして目と鼻の先にあるのだが、今一度たまから情報を聞き出したいのである。しかし、

「それについては会ってからでお願いします。まずは彼女の姿を見てほしいので」

「彼女?」

「……さぁ、入りましょうか」

たまからの答えは一斉返ってこなかった。百聞は一見に如かずのように、言葉ではなく現実を見せてから説明に入るようである。頑なに意志を貫くたまの行動に、何か秘密を隠していると一行は悟っていた。雰囲気は一変し真面目な空気が漂い始める中、キリトら六人は恐る恐る病室へ入っていく。

「お邪魔します……」

 小さく挨拶を発してから、カーテンを潜り抜ける。病室へ入り最初に目にした光景は、予想を越えた辛辣な現実であった。

「えっ? この子は……?」

「ずっと眠っているアルか?」

 アスナや神楽は驚いた表情で声を上げると、同時にたまもその重い口を開き始める。

「その通りです。眠り続けているこの少女こそが、私の紹介したかった相手です」

 険しい表情のまま淡々と説明を続けていく。万事屋が対面した相手は、ベッドで横たわり眠り続ける小柄な女の子であった。子供っぽさが残る中学生くらいの外見で、青みがかったセミロングの黒髪と目元についた泣きぼくろが特徴的である。口には酸素マスクを付けており、常に過呼吸気味に体を震えさせていた。顔色もだいぶ悪く、まるで悪夢を見ているような苦しみに苛まれているようである。今なお眠り続ける彼女の姿を見て、銀時達の心境は一変。思わず言葉に詰まり、内心戸惑いを見せていた。

「紹介相手って、昏睡状態の女の子だったんですね……」

「たまさんが隠していた理由って、この事だったんだ……」

 ユイや新八は口々に感じたことを声に出している。紹介相手をひた隠しにしていた理由も分かり、深く心に受け止めていた。深刻な表情となっていき、神楽やアスナも同じ気持ちを持ち合わせている。一方で、銀時とキリトの反応は四人とは少し異なるものであった。

「おいおい、まさかこの子供が夢を解く鍵を握っているのか? いかにも訳アリで、一筋縄じゃいかなそうじゃねーか」

 予想とは違った展開に、銀時は気だるくも本音をこぼしてしまう。昏睡状態の少女と自身や仲間達が見続けている夢との関連性が、まったくもって想像つかないのである。早くも複雑な状況だと察しており、事は簡単に解決しないと予測していた。その一方で、

「う、嘘だろ……」

何故かキリトだけはより大きい衝撃を心に受けている。眠り続ける少女の姿にも驚いていたが、何よりも彼女の容姿を見て大きく心を動揺させていく。常に冷静なキリトでも、今回ばかりはある理由から落ち着きを戻すことすら至難を極めていた。

「ん? どうした、キリト?」

「いや、なんでもない……」

 彼の微々たる変化に、横にいた銀時は気付いて声をかけてくる。キリトが否定してもなお、いつもと様子が違うことは明白だったので、銀時はどこか違和感を覚え始めている。出会ってから初めて見せる素振りに、ただならぬ理由があると勘付いていた。

 驚嘆する万事屋の反応を見届けたところで、たまが前へ移動してまずは深くお辞儀を交わす。

「返答を先送りにしてすいませんでした。ただ私は、千佐様の現状を知らせたかっただけなのです……」

「そうだったんですね、たまさん」

「言葉では伝えづらかったってことかしら……」

 改めてたまからの本音を聞き、ユイやアスナは頷きながら彼女の気持ちを理解していた。最初の段階を踏み入れたところで、ようやくここから本題へと入っていく。

「それで、たまさん。千佐さんと言うのは、この眠っている女の子でいいんですよね?」

「そうです。改めて紹介しますと、彼女の名前は早見千佐様。一か月前までは、この近くの寺子屋に通っているごく普通の少女でした。しかしある日を境にして、今日まで眠り続けていることになります」

 新八からの質問に、たまは事細かな説明で答えを返す。昏睡状態である早見千佐の名前や入院前の状況について、簡略的に伝えていく。

「ある日? 千佐の身に一体何が起こったアルか?」

「はい。事の発端は三週間ほど前に遡ります……。七月の上旬頃、夜に源外様がカラクリを整理している時、うつむきながら歩く千佐様の姿を発見致しました。声をかけてみると、一言だけ言い残してそのまま倒れ込んだそうです。その後は病院へ搬送されて、現在もなお眠り続けていると言うわけです」

 今度は神楽から質問して、千佐に関する情報を聞き出していた。事の経緯は源外が倒れ込んだ彼女を発見したことで、現在へと至っているらしい。一連の出来事を聞き入れたところで、次にユイが話しかけてくる。

「それからずっと、寝込んでいると言う事ですか……。千佐さんが倒れ込んだ理由って、病気か事故が関係しているのでしょうか?」

「それは……まだ分からないのです。医者の診断でも特定できないみたいで、病気かどうかも定かではありません。現在は最低限の処置で安静を保っているようですが、今後の治療プランもまだ不透明なままなんです……」

「そんな……原因不明なんて」

 さらに明らかになったのは、千佐に対する厳しい現状であった。彼女の昏睡状態は医者ですら原因を突き止められず、今なお全容が明かされていない。回復の兆しすらなく、治療は今なお難航している。

 さらなる重い空気が場へ流れ込み、誰一人として声を上げられなくなってしまう。そんな中、千佐の口からは思わぬ寝言が微かに聞こえてきた。

「銀さん……キリト……」

「ん!? 今の声って、まさか……」

 唸りながら彼女が無意識に発したのは、会ったことすらない銀時とキリトの名である。唐突に聞こえてきた意味深な寝言に、万事屋内での動揺はさらに広がっていく。

「えっ!? なんでこの子、銀ちゃんとキリの名前を知っているアルか!?」

「千佐さんとは初めて会うのに、どうしてでしょうか?」

 神楽は慌てふためいたように驚き、ユイも心を落ち着かせつつ疑問を呟いている。一行には何が起こったのか分からず、ただ無情にも困惑するしかなかった。

 ところが、銀時だけは千佐の寝言からある仮説を閃いている。その瞬間「フッ」と顔を緩ませて、意気揚々とたまや仲間達へ向けて声を上げてきた。

「そういうことか、たま。俺達をここに連れてきた理由は、やっぱり謎の夢と関連しているんだな」

「流石銀時様です。もう思いつくなんて」

「まぁな。この千佐って子は俺達と同じ夢を見続けている……ただ違うのは、彼女は昏睡状態だからずっと夢の中へ居座っている。これが俺達に伝えたかったことだろ?」

「……その通りです。銀時様方が見続けている夢と、千佐様の見ている夢は、本質的に一緒なのかもしれません」

 堂々と言い放った銀時の仮説に、たまは素直にも肯定する。千佐が眠り続けている理由と、銀時達が見続けている夢は、やはり間接的な繋がりがあると推測してきた。もちろんアスナら仲間達も、この仮説に注目を寄せていく。

「えっ!? それって、本当なの?」

「確証はありませんが、関連性は高いと思われます。実は夢に悩まされているエギル様にも協力していただいて、千佐様との脳波を調べさせてもらいました。すると、こんな結果が導き出されました」

 そう言ってたまは、懐から一枚の用紙を手渡してきた。そこに描かれていたのは二つの折れ線グラフだったが、よく目を凝らしてみるとグラフが重なり合っているのが分かる。つまり結果から、脳波の動きが同じであることを証明していた。

「これが千佐さんとエギルさんの脳波……」

「二重になっているグラフが、二人を表しています。波長が酷似しているため、共に同じ夢を見ていると捉えて良いでしょう」

「ということは、千佐も俺達と同じ「夢を見続ける被害者」って捉えていいんだな」

「大方その通りだと思っています」

 周到に銀時が確認した上で、千佐と夢との関連性について確信づける。グラフによる集計によって、仮説はより現実味を帯びていた。多くの情報や証明を露わにしたところで、新八ら仲間達も徐々に信じこんでいく。

 だが一方で、依然としてキリトの調子は戻っていない。顔をうつむかせたまま考え込んでおり、仲間達もその異変に気付き始めている。

「ん? どうしたの、キリト君? さっきから喋ってないけど、具合でも悪いの?」

「いや、何でもない……」

 心配になったアスナが話しかけてきても、彼は元気を戻すことはなかった。付き合って数年は経っているが、ここまで露骨にテンションが低いのは滅多にない。そう感じた彼女は過度に干渉せずに、時間をおいてキリトの様子を見ることにする。

そんな中、昏睡状態の千佐からまたも意味深な寝言が飛び出してきた。

「一つ目……多くの蛇が取り――」

「って、また寝言を言っているアル!」

「今度は、一つ目と蛇ですか?」

 神楽やユイがいち早く気付き、一行へと伝えてくる。彼女がうなされながら呟いたのは、二つの謎めいた言葉であった。一つ目と蛇。これが何を表しているのかは、全くもって理解できていない。万事屋内でも早速推測が飛び交っていた。

「千佐さんの夢の中に出て来たってことか……銀さんは何か心当たりはないんですか?」

「知らねぇよ。俺だって、そんなに夢の内容を覚えてないし。キリトとかの方が、知っているんじゃないのか?」

「いや、俺も分からないかな……」

「……そうか。分かった」

 新八からの問いを受け流して、銀時はついキリトへと話を振っていたが、やはり小さい声で返されてしまう。元気がない様子が続いていき、銀時のみならず新八ら仲間達も彼の変化に気付いている。みな心配をかけていたが、空気を読んであまり大きい事は出来なかった。

 いずれにしても、千佐の寝言から思い当たる節が見つからず、万事屋内でも推測が難航してしまう。そんな中、たまは覚悟を決めて隠していた事実を一行へ伝えようとしていた。

「……あの、みなさん。少しよろしいでしょうか?」

「ん? どうしたんですか、たまさん?」

「実は言おうか迷っていたのですが、彼女が源外様に残した言葉が、妙に気になっているのですよ」

「言葉? 一体どんな事を言い残したアルか?」

 千佐が倒れる寸前で源外へ伝えた言葉を、このタイミングで打ち明かすようである。六人は再びたまの方へ注目していくと、そこで耳にしたのはある衝撃的な真実だった。

「それは……サイコギルドだったそうです」

 その言葉を聞き、全員の顔色は見違えるほど急変してしまう。大半が強張った表情へと変わってしまい、体を震えさせる始末であった。たまが言い放ったサイコギルドという名前は、現在のキリト達にとっては度し難い存在なのである。

「サイコギルド……!?」

「たま……それは本当なのかよ」

 一段と落ち着いていた銀時でさえ、言葉を詰まらせて動揺してしまう。

 サイコギルドとはキリト達を銀魂世界へ送った張本人であり、密かに万事屋が追い続けている組織である。極端に情報が不足していることから、最近は調査が滞っていたが、まさかこのタイミングで足取りを掴めるなんて想定外であった。

 全員が一層深刻な表情へと変わる中、たまからさらに詳しい情報を聞き出すことにする。

「本当の事です。千佐様が倒れる寸前で、源外様へそう伝えたそうです。サイコギルドがサイコホールを作り出してと」

「そんな……じゃ、千佐さんはサイコギルドの陰謀か計画に巻き込まれた……って、ことじゃない!」

「そういうことになりますね。最後まで打ち明かすのをためらっていましたが……やはり、最初に伝えておくべきでした。すいません……」

 アスナから問いただされると同時に、彼女は三度頭を下げていき万事屋へ真剣な謝りを入れてきた。彼らの動揺を誘いたくない故に、伝えるタイミングを伺っていたようだが、結局は失敗へと終わってしまう。その表情も珍しく深々と悔やんでいるようである。

 万事屋一行も最初こそ困惑していたが、徐々に落ち着きを戻していくと、それぞれ異なった反応を口にした。

「……ったく。まさかアイツらまで絡んでいるとはな。とうとう尻尾を掴んだってところか」

「やっぱり、この世界で暗躍していると言う事でしょうか? 千佐さんはひょっとして、サイコギルドの重要な秘密を知って、昏睡状態にされたってことじゃないですか?」

「きっと、そうネ! ブラックホールを作れるくらいなら、少女を貶める方法なんて幾らでも出来るはずアル! 本当、卑劣極まりないアルナ!」

 銀時や新八ら万事屋の三人は、追い求めていた組織の手がかりを見つけて、十分な好機として捉え始めている。千佐の一件や謎の夢も彼らの仕業であると断定しており、激しい怒りも露わにしていた。一方でアスナら三人は、怒りよりも衝撃の感情が大きく、その余韻をだいぶ引きずっている。

「裏でサイコギルドが暗躍しているなんて……」

「衝撃的よね……。私達と同じで、ブラックホールを通じてこの世界へ来たのかな? どっちにしろ、何を企んでいるのかしら……」

「アイツらも関わっているのか……」

 特にまだ落ち着いていないキリトにとっては、火に油を注ぐ事態であり、さらに心をかき乱されてしまう。表情はより一層暗くなり、またも深く考え込んでしまった。

 

 数分後。たまから多くの情報を教えてもらった万事屋一行は、一連の流れを整理して今回の件についてまとめている。

「改めて情報を整理しますね。パパや銀時さん達が見続けている夢は、偶然ではなく必然であること。千佐さんも同じ夢を見ていて、今なお昏睡状態が続いていること。そしてこの二つに、サイコギルドが関わっているかもしれないこと。後一つ目や蛇の謎もありますが、これで大方合っていますよね?」

「はい。私が伝えたかったことは、これで全てですよ」

 ユイが丁寧に要約してくれたおかげで、だいぶ内容を整理することが出来た。改めて振り返ってみると、実に密度の高い情報を手に入れたと思われる。目的が次々と積み重なり、万事屋内では新しい目標が着々と立てられていった。

「ということは、まず僕らがやるべきなのは、千佐さんを昏睡状態から解放させること……ですよね?」

「この子が目覚めない限りはどうにもならないだろ。でも、どうやって起こすんだよ? 下手に行動したら、危険性が増すだけだろ」

「だったら思い切って、千佐の夢の中へ入って、起こしに行けばいいんじゃないアルか?」

「って、神楽ちゃん。そんな漫画みたいな展開が、そう易々と実現する訳ないでしょ。もっとしっかり考えないと!」

 結論から千佐を目覚めさせることが解決への糸口となっていたが、その具体的な方法についてはまだ明確に決まっていない。神楽が思いつきで言い放った提案には、アスナが現実的な主観で否定していたのだが――

「いいえ。千佐様の夢の中に入ることは、源外様のカラクリでなら実現可能ですよ」

「……えっ!? そうなの?」

即座にたまから反論が飛び出してくる。予想外の答えにアスナも耳を疑っていたが、彼女によると源外特製のカラクリを使えば可能ではあるらしい。

「って、たまさん!? それは本当なんですか!?」

「もちろんです。夢の一件を聞きつけた源外様は、現在急ピッチで夢へ転移するためのカラクリを製作中です。完成まであと僅かですので、夢へ入ることは実質的に可能でありますよ」

 またも寝耳に水な事実を知らされて、万事屋は文字通り驚きに満ちている。今回はたまや源外の行動が一段と早いため、気合の入れ方が格段に違っていた。

「なんだよ、もう作っているのか。今回のお前ら、随分気合が入っているじゃないか」

「当然ですよ。あの子達と約束を交わしましたから……」

「約束?」

 銀時からの言葉を聞き入れると、たまは真剣な表情となり、ある気持ちを抑え込んでいる。彼女が行動を急がしているのも、やっぱり何かしら理由があるらしい。つい口走っていた約束という言葉にも一行が注目していく中、丁度よいタイミングで病室にある人物が訪れていた。

「こんにちは……」

「おや? アナタ達は……」

「あっ、お姉ちゃんも来ていたんだ。千佐の見舞いに」

 やって来たのは、千佐と同じ中学生くらいの女子二人組。下の名前で呼び合う仲から、二人は千佐の友人であると万事屋は察している。

「たまさん? この女の子達は……」

「千佐様のご友人です。同時に、私が約束を交わした相手でもあります」

「えっ? この子達なんですか?」

 さらに女子達は、たまと約束を交わした相手でもあった。すると彼女は友人達へ近づくと、子供達の目線に合わせて腰を下げていく。その後に優しい口調で会話を始めていた。

「ねぇ、お姉ちゃん。千佐って回復しているよね? もうすぐ元気を取り戻すよね?」

「もちろんですよ。千佐様は絶対に治ります。もう少しの辛抱ですから、アナタ達も彼女が目覚める日まで信じてあげてくださいね」

「うん……分かった! 私達だけじゃなくて、クラスのみんなにも伝えておくね!」

「大丈夫ですから。安心してください」

 微笑ましい表情のまま友人達を慰めていき、不安を与えないように接していく。彼女が約束を交わした訳も自然と理解していき、万事屋内でもその気持ちを受け止めつつあった。

「たまさんの約束って、きっと千佐さんを連れ戻す事ですよね」

「約束を果たすために、いつもよりも気持ちが入っているってことアルナ」

 新八や神楽はしみじみとたまの事情を解釈していき、

「千佐さんって、みんなから信頼されているのね」

「きっと友達思いで、優しい子なんですよ」

アスナやユイは千佐の人柄の良さを思い起こしている。様々な思いが交差するこの一件に、万事屋が協力する以外もはや選択肢はなかった。課せられた使命に覚悟を決めて、銀時達の想いは一つになっていく。

「だったら、俺達がやるべきことはもう決まっているだろ」

「銀さん……そうね。私達で夢の中へ突入して、千佐さんを救い出すってことね!」

「上等アル! 何が待っていようと、必ず千佐を取り戻して見せるネ!」

 源外のカラクリを使って、直接千佐の夢の中へと侵入する。彼女を目覚めさせることが、今回の万事屋としての依頼でもあった。想定外の方法だが、一行には迷いなど一斉ない。夢の謎やサイコギルドを解き明かすため、何より千佐を救うために気持ちが高まっている。

「何だか、万事屋っぽくなってきましたね!」

「その通りネ! 人助けも立派な万事屋として仕事アルからナ! ねぇ、キリ!」

 と勢いよく神楽がキリトへと話題を振ってきたが、

「……」

彼からの返事はなく、とうとう黙り込んでしまった。急変した様子に我慢が出来ず、神楽は強気なまま本音を口走ってくる。

「って、どうしたネ! キリ、さっきから元気が無いアルよ! 一体何があったアルか?」

「パパ? なんで急に落ち込んでいるんですか? 何か嫌な事でも思い出したんですか?」

 徐々に元気を無くすキリトを見ていられず、ユイもつい心配気味に声をかけてきた。すると彼はようやく口を開き、落ち着いた口調で仲間達へと伝えてくる。

「悪い、みんな。少し考えたいことがあるんだ。ちょっと部屋を出ていくよ」

 若干寂しげな表情を見せた後に、キリトはそのまま静かに病室を去ってしまった。滅多には見せない心情故に、新八らだけではなくアスナやユイも強い心配を心へ浮かばせている。

「パパ!? ……本当に何があったんでしょうか?」

「きっとまた一人で抱え込んでいるに違いないわ。ちょっと、追いかけてくるね!」

 落ち込んだ理由を知りたいため、アスナも病室を出てキリトを追いかけようとした時であった。

「待てよ。ここは、俺に任せておけ」

「えっ? 銀さん……?」

 様子を見計らっていた銀時が、迷いなく声を上げてくる。追いかけようとするアスナを差し置いて、自分だけが出口へと歩み寄っていた。その間に、自らの想いを話し始める。

「俺が代わりに行ってきてやるよ。恋人同士でも、言いづらい事の一つや二つくらいあんだろ? だったら、俺だけで十分だ。おめぇらは、今後の予定でも立てて待っておけ。それでいいな?」

「……分かりました。銀時さん、パパをお願いしますね」

「任せろ」

 伝えるべきことを全て言い切った後、銀時は似合わない微笑みを見せて、その場を立ち去っていく。その姿は以前にキリト達を万事屋へと誘った時と、同じくらいの頼もしさを感じさせる行動であった。

「……なんか、あんなに頼りになる銀さんを見たの、結構久しぶりかも」

「まぁ、銀ちゃんはいざという時は、本当にかっこいいアルからナ!」

「普段はだいぶ偉い違いですけどね」

「そこが、銀時さんのギャップということですね!」

 普段の生活ではあまり見かけない一面に触れて、ユイやアスナも銀時については見直している。彼へキリトを任せてみることにして、四人となった万事屋は今後について考え始めていた。一方で、流れを見聞きしていた千佐の友人達は、

「お姉ちゃん。ああいうのを、青春って言うの?」

「そうかもしれませんね。アレも一種の青春という形かもしれません」

「受けと攻めって感じ?」

「それは……」

「って、意味が違っているよ! まだこの子達、寺子屋通いだよね?」

ある意味間違った解釈を踏み入れようとしている。思わず新八がツッコミを入れて、場の流れを修正していく。この先の展開が、やや心配であった。

 

 一方、見失ったキリトを追いかける銀時は、廊下を中心に探し回っている。数分歩いていると、ようやく彼の姿を発見した。寂れた二人掛けの椅子に腰をかけて、窓の方へと見つめている。外ではさっきまで晴れていたが、いつ間にか雲に覆われていき、今にも雨が降りだしそうな光景であった。影と相まって警戒心を高ぶらせているキリトに、銀時は怯むことなく近づき意気揚々と彼に声をかけてくる。

「よっ、見つけたぜ。急に出ていくから、びっくりしたじゃねぇか」

「銀さん……」

「お前にしては珍しいな。ここまでしょんぼりするなんて。一体全体何があったんだよ?」

 ヅカヅカとキリトの雰囲気へと割り込んでいき、否が応でも会話する空気を作り出していく。同時にベンチへと座っていき、彼への親近感を持たせていた。するとキリトも気持ちを紐解いたのか、銀時へ対して込み入った自らの想いを話し出す。

「それは……少し過去の事を思い出していたんだよ」

「過去? お前が経験したっていうSAOってやつか?」

「そう。実は千佐の姿を見た時に、ただならぬデジャヴを感じとったんだ。過去の仲間とそっくりで……」

「そういうことか。冷静になれなかった訳は……」

 場に二人しかいない会話は、まるでキャッチボールをするように、お互いへ言葉を返している。キリトが大きく動揺していた理由は、千佐をきっかけに昔の記憶を思い出していたからだった。

「どんな奴なんだよ。昔の仲間っていうのは?」

「……俺がSAOに閉じ込められてからほどなくして、一時的に加入していたギルドがあったんだ」

「ギルド? 要するにパーティーってことか?」

「そう。そのギルドの中に、サチって言う千佐に似ていた女の子がいたんだ」

「サチって……千佐をひっくり返しただけじゃないか」

 ここで明らかになったのは、サチという仲間の存在である。キリトが初期に入っていたギルドの一員であり、先ほど見かけた千佐とそっくりだった女子らしい。これが彼の動揺を大きくさせたのだと銀時は確信している。その後もサチに関する話が続いていった。

「そうだな。サチは他のメンバーと比べて気弱で、何度も現実から目を背けようとしたこともあったんだよ」

「まぁ、戦闘皆無の人間からしてみれば、そう考えるのは必然だな。本当にそんな心構えで大丈夫だったのかよ」

「……途中までは。俺自身も出来る限り力になりたくて、サチや仲間達にも色んなことを教えていったんだ。必死に戦って守ろうともしたんだ――でも!」

 その瞬間である。「バリバリ!」と大きい雷が鳴り響き、雲に覆われていた空から大粒の雨が降り出してきた。まるでキリトの持つ悲しみを先読みするように、雨は激しく降っていき目の前の窓にも強く当たってくる。銀時もまた、キリトが本当に言いたかったことを悟っており、深く心へと受け止めていた。

「そういうことか……。だいたい分かったぜ」

「えっ、銀さん?」

「守り切れなかったんだろ、その仲間達を……。俺もそこまで聞くつもりはなかったんだ。辛かったらここで断ち切っても良いぜ」

 彼の言った通り、キリトは目の前で仲間を失った過去を持っている。この事実は自身もひた隠しにしており、仲間内でも知っている人間はごくわずかであった。なぜ銀時へ打ち明かしたかは不明だが、当の本人は空気を察して思わず気を遣ってしまう。キリトの辛辣な表情を見てられず、話を遮ろうとしていた。しかし、彼にはある別の狙いがある。

「いや、そうじゃないんだよ。確かに俺にとっては、辛くて忘れられない過去だけど、それと今回の一件にはある想いを寄せているんだ」

「想い?」

「ああ。実はずっと考えていたことがあるんだ……。別世界だからこそ、まったく同じ姿をしたパラレルな人間がいたとしたら。あの千佐って子が、この世界で生きるサチだとしたら。面影が重なってつい戸惑っていたけど、冷静に考えればそう感じるんだ。今度こそ、彼女を救えるかもしれないって」

 キリトが打ち明けたこと、それは救いのある考え方だった。マルチバースにのった考えに沿って、早見千佐をこの世界のサチであると予想している。元の世界では失った彼女が、この別世界で生き続けていたら……そう考えると感慨深かった。現在彼女が危機的な状況に直面しているからこそ、同じことを繰り返したくない。万事屋一行と同じように救いたい気持ちが彼にはあった。この運命的ともとれるキリトの考えに銀時はというと、

「フフ……アハハハ!!」

「って、銀さん!? なんで急に笑ってくるの?」

シリアスな空気を壊すように、思いっきり笑っていた。予想外の反応に、キリトも表情を緩くして新八張りのツッコミを交わしていく。すると銀時は、にやつきながら思ったことを声に出してきた。

「いや~一安心しただけだよ。表情も絶望しきっていて大丈夫かと心配したが、そんなこと考えていたのか。意外にも想像力が豊かだな。尊敬するわー」

「いや絶対嘘だろ! 完全に俺の事バカにしているだろ! 目つきで大体分かるんだよ! 銀さん聞いてる?」

 だいぶ適当なことを言いつつ、キリトの純情な気持ちを煽っていく。同時に彼らしい希望を捨てない考え方に、こっそりと感心している。

「フッ、だいぶ調子戻っているじゃねぇか。こんだけ激しいツッコミが出来ていたら、もう大丈夫だろ」

「そ、それは……銀さんがからかってくるからだろ」

「まぁ、半々ってことだな。俺はお前の考え方を否定しないし、そういうのも良いと思っているよ。失った野郎が、別世界で幸せに暮らしていたら……よっぽど嬉しいことだよな」

(えっ、銀さん……)

 その時、銀時の表情は一瞬だけ曇りかけていた。まるでキリトの気持ちと同調するように、寂しい目つきを露わにしている。銀時もキリトと同じく過去に命を懸けた戦いに赴いていたので、どこか同じように考える気持ちがあったのだろうか。詳しい事情を聞かされていないキリトでも、彼の気持ちにはそっと察し始めている。

 互いに込み入った話をしたことで、キリトも気持ちが楽になり肩の荷を下ろしていた。表情も明るさを取り戻したところで、銀時は話を締めていく。

「まぁ、これからは正直に話しておけよ。俺が言える義理じゃないが、なんでも一人で抱え込むなよ。アスナにでも言いづらい事があったら、俺に相談してきてもいいんだぜ。だから、これからは気を付けておけよ」

「銀さん。心配かけて申し訳なかったな」

「あいつらにも言っておけよ。じゃねぇと、質問攻めされるぞ。ロマンチスト君」

「って、キリトだから! 変なアダ名付けないでよ!」

「何だよ。新しい呼び名作ってあげただろうが。じゃ間をとって、松岡禎〇にすっか」

「人に名前になってんじゃん! 俺の本名、桐ケ谷和人だからな! 松岡ってそもそも誰だよ!」

 場の空気を変えるように、銀時がキリトへ構わず自由なボケを次々と発している。キリトのツッコミも激しくなっていき、二人はいつの間にか共に楽しげな表情を浮かべていた。窓の方ではにわか雨が既に止んでおり、徐々に雨雲も少なくなっている。そんな二人の様子を、仲間達は死角越しでこっそりと覗いていた。

「はぁー。キリト君が元気を取り戻してくれて、一安心したわ」

「銀ちゃんと腹を割って話して、スッキリしたってことアルネ!」

「多分そうだと思うよ。やっぱり銀さんは、こういう時には頼りになる人だな」

「普段とはまったく違いますけどね!」

 ユイの率直な言葉を聞き入れて、思わず四人はクスッと笑顔を浮かべている。彼が明るさを取り戻したことにより、みな心から安心していた。

 その後キリトが落ち着いたところで、再び一連の出来事について振り返っている。彼も快く了承して、千佐の夢へ侵入する計画が着々と進んでいった。

 千佐との出会いをきっかけに、物語は大きく動きだしていく。謎の夢の存在、サイコギルドの暗躍……彼らがたどり着く先では、一体何が待っているのだろうか? 舞台は未知なる世界、夢空間へと移り変わる!

 




 もうここまで来たら分かるんじゃないでしょうか。早見千佐のモデルとなったキャラクターを……。千佐を逆から読むとサチ。そう、アニメ版では三話だけにしか出てこなかった彼女なのです! ちなみに早見という苗字は、実際にサチの声を担当した早見沙織さんの苗字をそのまま使いました。いずれにしても、彼女が本章で大いに活躍してくれます。今後も注目しながらご覧ください。




次回予告

神楽 「着いたアル! 夢の中に!」
新八 「でも何か異様な光景ですよね」
銀時 「そこに隠れてんのは誰だぁぁぁ!」
キリト「って、俺!?」
アスナ「それに私まで来ちゃった!?」
ユイ 「夢の中にいるパパにママ、銀時さんと言う事でしょうか?」
夢幻解放篇三 夢の世界
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