剣魂    作:トライアル

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 今思うと今回の長篇って、過去に銀魂でやっていた「たまクエスト篇」と流れは一緒なのかもしれませんね。初期のSAOと攘夷戦争がメインではありますが、一応ふと思ったので伝えてみました。


第二十九訓 夢の世界

 千佐の現状を知ってから一夜が明けた七月三十一日。源外が取り急ぎ製作していた夢世界への転移装置が完成し、万事屋やたまらが計画した作戦が遂に本番へ移ろうとしていた。決行時刻である午後十時を過ぎ去ると、源外はトライシーバー越しにたまと通信を始める。

「たま、聞こえているか? 千佐の方の様子はどうだ?」

「大丈夫です。変わりはありません。彼女の額に焦点装置を設置しましたので、いつでも夢世界への侵入は可能ですよ」

「ありがとよ。後は彼女の具合を随時見張っていてくれ。病院の方はお前に頼んだぞ」

「了解しました。源外様もお気を付けてください。銀時様方を頼みましたよ」

「ああ、分かった」

 そう言葉を交わすと、二人は同時に通信を遮断した。現在二人は別の場所で待機しており、それぞれ違う役割に取り組んでいる。たまは千佐が入院する大江戸病院で、ずっと彼女の様子を見守っていた。千佐の額には小粒程度の焦点装置が付けられており、ここから脳波の動きを探って転移装置と交信を送っている。すなわち、たまの準備はもうすでに完了していた。

「千佐様。後少しの辛抱ですよ……」

 未だに夢から解放されない千佐の身を察して、たまはそっと彼女の手を握る。後はただ成功を祈るしかなく、夢世界へと向かう銀時達へ想いを託すしかなかった。

 その頃源外は、現在銀時やキリトらがいる万事屋で準備に取り掛かっている。今回の作戦ではこの二つが拠点となるようだ。

「ふぅ……果たしてこれで上手くいけばいいんだが……」

 不安げな表情で自らの思いの丈を呟いていく。今回開発した転移装置は、一定の条件が揃わなければ発動はせず、正直作戦が成功するのかは運次第でもあった。

 一方で協力相手でもある万事屋の六人は、何故か普段の格好のまま布団やソファーへと寝そべっている。木刀や剣まで装備して寝づらそうなのに加えて、頭には「転移」と描かれた白いヘルメットを着用していた。傍から見れば訳の分からない状況であり、銀時は早くも不満を口に出していく。

「おい、爺さん! こんなヘルメットで、本当に千佐の夢世界へ行けるんだよな?」

「何ぃ、心配するな。このヘルメットが転移装置だって言ったばっかりだろ。このカラクリはな、焦点装置との遠隔通信で互いの脳波を重ね合わせて、人為的に現実の人間を夢世界へと連れて行くことが出来るんだよ」

「……ということは、私達の肉体じゃなくて、意識が夢世界へと行くってことね」

「その通りだ。だから格好はそのままにしているんだよ」

 アスナからの質問にも、源外は自信良く答えを返している。どうやらこの個性的なヘルメットが、以前伝えていた夢世界への転移装置らしい。人の脳波を読み取る効果を持ち合わせており、それを利用して対象者を夢世界へと転移させるようだ。事細かに説明を伝えていく中、キリトやアスナは後者の仕組みには親近感を持ち合わせている。

「意識ごと転移か……なんだかナーヴギアやアミュスフィアを思い出す仕組みだな」

「ナーブにアミュス? どっかのお菓子名アルか、キリ?」

「いやいや、違うよ。俺達の世界にあったゲーム機の話だよ。前にも話しただろ? 俺達は仮想世界へフルダイブ中に、この世界へ来たって」

「……ああ! そう言えば、そんなこと言っていたアルナ!」

「ていうか、もう忘れかけていたんだ……」

 マイペースな神楽の反応に、聞いていたキリトは苦笑いで言葉を返す。だが彼の言っていた通り、今回源外が製作したカラクリは、SAO世界におけるフルダイブ系のゲーム機を彷彿とさせていた。それを耳にした銀時は、源外へ若干のちょっかいをかけ始めている。

「てか、爺さん。ここまで酷似しているってことは、さてはナーヴギアをパクったんじゃねぇだろうな?」

「……さぁ、どうかな? 似せたところでたかが模造品よ。それに形は同じでも用途は違う。人に恐怖を与えるカラクリと人を救うためのカラクリ。俺が作りたいのは、断然後者の方だからな」

 返答を曖昧にしていたが、彼らしい信念を込めた言葉を聞くことが出来た。この時点で銀時も追及をやめて、素直に源外の粋な気持ちを受け止めることにする。

「分かったよ。アンタの気持ちは分かったから、これ以上は何も言わねぇよ」

「あっ、ちなみに現在俺がライバル視しているのは、茅場昌彦とドラえ〇んだな」

「って、絶対パクっただろ!! SAOだけじゃなくて、〇ラえもんからもちゃっかりおこぼれを貰っているじゃねぇかぁぁぁ!!」

 はずだったが、源外が本音を漏らしたことで、温かい雰囲気は台無しになってしまう。一連の流れからナーヴギアだけではなく、ドラ〇もんのひみつ道具までも参考にしていたようだ。おかげで場の空気は一変し、グダグダなムードが漂い始めている。一方でユイが気にしていたのは、その情報の出どころであった。

「アレ? そういえば、何で源外さんはナーヴギアなどの事を知っているのでしょうか?」

「それは……エギルさんやクラインさんから聞いたと思いますよ」

「あっ、そうですよね! じゃ、ドラえも〇はどこから聞いたんでしょうか? そもそもド〇えもんとは、一体誰なのでしょうか?」

「ユイちゃん……これ以上の追及はやめようか。もう面倒くさいから……」

 好奇心旺盛な彼女の質問攻めに、新八は内心答えに困ってしまう。特に後者は元ネタが分からなければ説明も難しいので、どう返答すればいいのかも分からなかった。

 早くも場は一つ目のピンチを迎えようとしていた……はず。

 

 それから数分が経った頃。場の空気が落ち着きを取り戻し、再び真面目な雰囲気へと変わっていく。源外が説明を振り返っていると、ようやく千佐の焦点装置から反応が返ってきた。

「これは……チャンスが舞い込んで来たってところか! てめぇらは、ひとまず心の準備だけはしておけ! もうそろそろ、夢世界への道が切り開かれるぞ!」

 体を横にしている銀時達にも勢いよく伝えていき、源外は用意したパソコンに向かってひたすらキーボードを打ち続けていく。焦点装置との波長と、銀時らが頭に付けている転移装置が発する波長を合わせながら、慎重に二つを組み合わせている。もし合成に成功すれば、夢世界への転移は可能に近づいていく。数少ない好機を逃さないためにも、彼は必死に作業を進めていた。

 そして結果を待っている万事屋ら六人は、みな心を落ち着かせながら万全に備えている。

「いよいよ夢の世界に行くアルか……一体どんな事が起こるアルか?」

「それは行ってみないと分からないよ。少なくとも、楽な道のりではないと思うけどね」

 ソファーで横になっている新八と神楽は、不透明な予測に心を惑わされていた。共に不思議な夢を見ていない為、何が起こるのかまったく分からないのである。神楽は珍しく不安な表情を露わにしているが、新八は肝が据わったように凛とした表情で時を待っていた。

 寝室の方では、今までと同じくキリト、アスナ、ユイ、銀時の四人が布団へと寝そべっている。銀時のみは屏風を挟んで、たった一人で横になっていたが。それはさておき、彼らの心境も神楽らと同じく期待と不安が大きく入り混じっていた。

「なんだかドキドキしますね。夢の世界へ行くなんて」

「このやり方で、千佐さんを救えるのかは心配だけど……ここまで来たら、やるしかないわよね!」

 千佐を救うために決意を新たにして、アスナとユイの二人は共に深呼吸をしてから気持ちを落ち着かせている。表情も晴々としており、終始リラックスした雰囲気であった。

 一方でキリトや銀時の二人は、緊張感を高めながらも、今後の展開について予想を頭へ浮かべている。

「あの子の夢の中か……俺達が見てきた夢の通りになんのかな、キリト?」

「さぁ、分からないけど……彼女を救えるなら、俺はどんな奴が相手でも立ち向かえるよ」

「ふっ……同じくだ。負ける気はまったくねぇぜ」

「ああ、俺もだ」

 穏やかな会話を交わしていき、こちらも決意を新たに誓い合う。果敢に挑戦する心意気は、キリトが千佐に対する救いたい気持ちから生まれていた。銀時もそれに同調して、一層の気を引き締め合っている。

 転移への時間が刻一刻と差し迫っていく中、もう一匹の万事屋メンバーも夢世界へ行く仲間達へ応援を送っていた。

「ワフ~!」

「あっ、定春! 見送ってくれるアルか?」

「ワン!」

「……そうネ! 待っててヨ。すぐに戻って来るからナ!」

 不安に苛まれている神楽を後押しするように、定春が元気よく彼女へ近づいてくる。彼のあどけない一面を目の当たりにして、神楽も思わず笑顔で返してきた。一瞬ではあるが、気持ちはちゃんとほぐされていたようである。

 長い待ち時間を過ごしていたちょうどその時、ようやく運命的な瞬間が訪れようとしていた。

「よし、繋がった! 夢世界への道のりが、遂に出来上がったぞ!」

 中々完成に至らなかった二つの波長が、奇跡的に一つへと集約していき、未知なる進路を作り出している。立役者でもある源外は喜びを声に上げた後、時を急ぐように銀時らへと催促を促してきた。

「いいか、お前等! 俺から言うべきことはただ一つだ! タイムリミットの明日の朝までに戻ってこい! 千佐を救うのに制限があるって事を忘れるんじゃねぇよ!」

 注意深く伝えた後に、彼はキーボードにある「Enter」のカーソルを勢いよく押していく。すると転移装置が本格的に動き始め、神秘的な虹色の光を解き放ちながら、六人の波長と合わさっていく。後は銀時らの任意次第で、千佐の夢へと突入することが可能となる。一行は覚悟を決めた後に、即興である考えを思いつく。

「よし! それじゃ、行くか!」

「って、その前に掛け声はどうするんだよ?」

「そんなのもう決まっているアル!」

「夢世界へ行くなら、言うべき言葉はただ一つね!」

「みなさんで合わせて行きましょうか!」

「そうですね。では早速……せーの!」

「「「「「「ドリームスタート!!!」」」」」」

 突入する前の掛け声で気持ちを合わせていき、六人の想いは一つとなっていた。同時に意識も夢世界へと転移していき、みな気を失ったように眠りについてしまう。さっきまでの万事屋とは思えないほど、場は静寂に包まれていく。現在は源外と定春しか起きておらず、後はパソコンで状況を把握しながら、銀時らをサポートするしかなかった。

「ワフ……」

「千佐を頼んだぞ、てめぇら……」

 一筋の希望を万事屋へと受け継ぎ、戦いの舞台は夢世界へと移り変わっていく。

 

「よっと……もう夢世界に着いたのか?」

 転移が始まってから僅か十数秒後。キリトは早速千佐の夢世界へと到着しており、気が付くと同時に自分の所持品や容姿について確認している。寝る前と同じ服装や、装備していた二本の長剣がそのまま引き継がれており、ひとまずは安心していた。

「ふぅ……寝る前とまったく変わっていないな」

 一つの不安を解消していたちょうどその時。四方八方から次々と、アスナや銀時ら仲間達五人が彼の元に駆け寄ってくる。

「キリト君―!」

「ここにいたのか! 何も変わっていねぇよな!?」

「ああ、もちろんだよ」

 彼らもキリトと同じく転移前とまったく容姿が変わっていない。ユイを除く四人もちゃんと武器を装備したままであり、戦力面から見ても何一つ問題は無かった。予想よりも早く万事屋の六人が集合したので、幸先の良いスタートを飾る結果となる。

「これで、万事屋全員集合ですね!」

「驚くほど早いアル。まぁ、下手にバラバラに分かれても複雑になるだけだし、これがちょうど良いのかもしれないアルナ!」

「って、神楽ちゃん。ここでの裏話は控えめにしないと」

 ユイに続いて神楽も思ったことを呟いていたが、若干メタ要素を含むものだった。長篇故に控えるようにと、新八は軽く注意を加えている。

 一通り確認が取れたところで、まずは千佐の夢世界を知るために、辺りを見渡していく。

「で、夢世界へと来た訳だが……特に変わった様子は無いよな」

「今のところ、草原と森しか見つかっていないもんな」

 発見したものと言えば、自然豊かな情緒ある風景だけである。風に揺られて葉を落としていく木々達や、地平線まで緑に生い茂っている草原。空の色も現実と変わらない水色であり、ここまで見れば特に悪夢とは関係のない穏やかな夢の世界だとも言える。

「……どう見ても平和な世界よね。第一印象だけみれば」

「そうですね。でもここまで人気が無いと、むしろ気持ち悪いですよ」

 自然しか見当たらない風景に、アスナや新八は思っていたことを呟いていた。近くに人の気配が無いことに違和感を覚えており、夢世界を懐疑的に捉えている。銀時やキリトも同じ気持ちであったが、何よりも気にしていたのは千佐が言い残した寝言の正体であった。

「そういえば、千佐が言っていた寝言ってどうだったんだよ? 俺達の名を呼んでいたってことは、この世界にも俺やキリトがいるってことじゃないのか?」

「それもそうだが、一つ目と蛇という手がかりも気になっているんだよ。一体何を表しているんだ……?」

 謎めいた言葉を思い出したようで、今一度考察を始めている。現在残されている手がかりはごく少数であり、前述した千佐の寝言と、微かに覚えている銀時ら三人の夢の記憶しかなかった。未知なる世界へと訪れているため、著しく情報が不足している。そこで一行が最初にすべきことは、地道な情報集めであった。

「あー! じれったいアル! こうなったら場所を移動して、コツコツと手がかりを探して見るしかないネ!」

「そうですね! 神楽さんの言う通りですよ! ひとまずは進んでみるべきです!」

 士気を高めた神楽に続き、ユイも同じく高い志を照らし合わせていく。彼女達の言う通り、しっかりとした情報収集が現在の万事屋には必要だった。仲間達もみなこの意見には、素直に賛同している。

「それじゃ、とりあえず歩いてみるか。途中でこの世界の住人にも、顔を合わせるかもしれないからな」

「同感だ。じゃ、まとまって行動するか。下手に分かれても面倒だからな」

 集団での行動を決めたところで、ここからの流れはキリトと銀時の二人のリーダーに委ねていく。彼らは場の指揮を取り始めながらみんなを誘導して、多くの謎を含ませている森の中へと侵入していった。一行の心境にはまだ気楽さが残っており、雰囲気も穏やかに落ち着いている。

 ところが、彼らはまだ気が付いていない。森の中にはすでに隠れている人物がおり、ずっと万事屋の様子について周到に見張っていたことを。

「これは、みんなに伝えないといけないな」

「そうや。由々しき事態やからな……」

 そう小さく呟くと、二人の人間は万事屋とは別の方角に走り出していく。果たして、二人は一体何者なのだろうか……

 

 一方で万事屋一行は、ただひたすらに森の中を進んでいる。最初は元気よく意気込んでいた彼らであったが、人に出会う事もなければ手がかりすらも見つからないため、一部のメンバーは早々に疲れを露わにしていた。

「……全然見つからないですね」

「森の出口すらも分からない状況ね……」

 複雑な気持ちのまま呟く新八やアスナに続いて、

「もう何分歩いているんでしょうか?」

「あー! 喉が渇くくらい変化が無いネ! さっさと出てきてアルよ!!」

ユイや神楽もつい本音を口に出していく。それぞれ異なった文句を言い放っており、進展すらしない現状に若干の焦りを感じていた。そんな四人とは打って変わり、銀時やキリトは先へと進みながら過去の思い出について語り合っている。

「森って聞くと、結構出会いが多い印象を持っているんだよ。現にシリカやユイと出会ったのも、森の中がきっかけだし」

「マジかよ。じゃ、ロリコンの森って言っても過言じゃねぇな」

「そんなことは無いって! それよりも銀さんは、森とかで思い出とかってないの?」

「森か……俺はあんまり覚えてねぇけど、ヅラが確か言っていたな。戦争中にアジトへ帰る時に、森で歩狩汗を見つけたって」

「ぽ、ぽかり!?」

「ああ、スポーツドリンクの名前だよ。偶然にも自動販売機が見つかったらしくて、どうやら俺が金をパクったらしいんだよ。そんなことあったかは分からねぇけどな……」

「いや、それ以前に……戦争中に自動販売機があるって、どんな状況だよ……」

 予想もしなかった銀時の思い出に、キリトはツッコミを忘れて言葉に詰まってしまった。森の中に自動販売機があるなど想像がついておらず、返答にすら困り果てている。そんな衝撃的な話を聞かされていた時であった。

〈コロコロコロ〉

 近くの茂みから一本の空のペットボトルが転がり、キリトの足元へとぶつかってくる。

「ん? ペットボトルか?」

「おいおい、夢世界まで不法投棄が浸透しているのか? しかも中身は歩狩汗か。奇遇だな」

「って、これがぽかり!? 漢字表記ではこうなるの!?」

 初めて見つかった手がかりだったが、その中身は意外にも話題に上がった歩狩汗そのものであった。ラベルにはちゃんと漢字が表記されているので、それを目にしたキリトはまたも衝撃を受けてしまう。

 それはさておき、ここで注目すべき点は転がってきた空のペットボトルだった。手がかりとしては十分であり、そこからの予測もだいたい考えは付いている。ここで仲間達も二人へ駆け寄っていき、ペットボトルの存在に気付き始めていた。

「銀ちゃん、キリ! 何か見つかったアルかー!?」

「って、ペットボトルを見つけたんですか?」

「そうなんだよ。たった今転がって来たんだ。しかも中身は入っていないからな。確実に誰かが飲んだ後だぜ」

「ああ、確かにそうですね」

「と言うことは、この近くに人がいるってことかしら?」

「そうかもな。願わくは、話が通じる相手だと良いんだが……」

 二人は中身の有無からペットボトルは使用後であると予測しており、この森の中に夢世界の住人が紛れ込んでいると考えている。状況は徐々に進展していき、同時に場の空気も緊迫感へと包まれていく。全員の表情も真剣さを増していたその時であった。

〈ガサァ!〉

 先ほどの茂みから、草と被さった大きい物音が聞こえてくる。その瞬間に一行はただならぬ気配を感じ取り、あらかじめ立てていた予測を確信へと移し替えていた。

「って、今のは……」

「やっぱりそういう事か。だったら、さっさと見つけねぇとな」

「ああ、もちろん。逃がしたら元も子もないからな」

 銀時やキリトの考え通り、あの茂みには何者かが潜んでいる。そう仮説を立てると、まずは二人だけが茂みへと向かっていき、気付かれないようにと距離を縮めていった。気配を消し足音を立てずに進んでいくと、ようやく茂みの目の前へと辿り着く。そして、

「そこに隠れているのは誰だぁぁぁ!!」

銀時が大声を上げると同時にためらいもなく侵入していった。潜んでいる対象者に驚きを与えるように、子供らしい悪戯で接触を試みたのだが――

「って、はぁ!?」

「えっ? 嘘だろ……」

むしろ驚いていたのは銀時とキリトの方である。その姿を目の当たりにして、大きく心を動揺させていた。

 対象者の容姿は黒髪のストレートヘアーが綺麗に目立ち、女子っぽい中性的な顔立ちをした男子である。黒いコートまで身にまとっており、まさにキリトとそっくり――いや、見間違えるほど姿が酷似していた。よく見ると耳が人間と似た形状であり、服装も若干本人とデザインが異なっている。しかしそれ以外は、まったくもってキリトそのものであり、未だに二人はこの事実を受け入れていなかった。

 そして新八達も近づいていき、二人と同じ衝撃を受けることになる。

「ん!? キリトさんが二人……?」

「茂みの犯人が、キリだったってことアルか!?」

「夢の世界にいるパパと言う事でしょうか?」

「そう考えるのが妥当よね……服装もSAOの時と似ているし」

 それぞれ違った反応を示していたが、共通してみな驚きを隠しきれていなかった。

 万事屋全員が言葉を上げられない中、夢世界側のキリトも同じ気持ちである。大袈裟なまでに表情を怯えさせており、発作が起きたように体を震えさせていた。

「や、や、やっぱり、僕なの? 君達は一体……?」

「えっと……まずはお互いに落ち着こうか。俺も内心驚いているけど、まずは話し合わないとどうにもならないし……」

「しゃ、喋った!! しかも、同じ声だし……」

「そ、そうなのか? とりあえず落ち着いてくれ。少なくとも俺達は敵じゃないから」

「そう言われても落ち着かないよ!! だって、僕がもう一人いるんだから……!!」

「それはそうなんだが……」

 終始気持ちを押さえて冷静に接していくキリトに対して、夢世界側のキリトは気の弱さを前面に出してもう一人の自分の存在に恐怖を感じている。一人称や性格も本物とはまるで異なっており、容姿以外は微塵も似ている部分が存在していない。これには様子を見ていた銀時達も、違和感を覚えてしまう始末である。

「おいおい。夢世界の方のキリト、思いっきり弱腰じゃねぇか。本人とだいぶ違うぞ」

「あんなキリ見たことないネ。臆病すぎて、のび〇君に見えてしまうアル」

 銀時や神楽は何のためらいもなく、ありのまま感じた事を口に出していた。一方で、

「千佐さんが寝言で言っていたキリトさんって、まさかあの人の事じゃないですか?」

「その可能性は十分にありえます! でもなんで、パパとはだいぶ性格が異なっているのでしょうか?」

「分からないけど……夢世界の方だと、性格そのものが違うってことじゃないかしら?」

新八、ユイ、アスナの三人は早くも考察に徹している。千佐が寝言で発したキリトの正体。本物とはだいぶ差のある性格や言動。一つの謎が解決すると同時に、また新しい謎が浮かび上がってきた。

 そんな中キリトも、諦めずにもう一人の自分との交渉に試みている。

「信じてくれ、俺は敵なんかじゃない。この世界へ来たばっかりで、何一つ知らないんだ。当然君の事も」

「えっ? 世界って?」

「俺達はこことは別の世界からやって来た。まぁ元を辿れば、俺もそのまた別の世界から来たんだけどな……」

「どういうこと?」

「えっと、つまり! 俺達は君の手を借りたいんだ。この世界について分からないことだらけで、色々と情報が欲しいんだ。だから、俺達に教えてくれないか?」

 何度も説得を交わしていき、その度に彼は優しく微笑んで、手を差し伸べてきた。キリト自身もう一人の自分に対しては、何の抵抗も持ち合わせてはいない。臆病な一面もしっかりと心に受け止めている。だからこそ真摯に話し合って、彼を理解しようと思っていた。

 そんなキリトの優しさに心を打たれたのか、夢世界側のキリトも警戒心を解き始めようとしている。

(えっ? もしかして、もう一人の僕って優しい人なの?)

 心では信じる気持ちが湧いており、彼から差し伸べられた手を握ろうと歩み寄っていた。しかし、その瞬間に思わぬ邪魔者が入ってくる。

「キリト、避けろー!! そいつらから今すぐ離れろー!!」

「アタイ達が徹底的に懲らしめてやるからなー!!」

 聞こえてきたのは、銀時らしき男の声とアスナらしき女子の声。口調や一人称が異なり、当然本物とは違うことは明らかであった。足音は徐々にこちらへと近づいていき、警戒心を高めていると、遂にその姿が露わになっている。

「……ハッ! そこか!!」

 異常な殺気を感じとったキリトは、背中に装備した二本の長剣を抜き、上から迫ってくる二人の攻撃を受け止めていく。防ぎ切ると同時に剣へ力を入れていき、自分との距離を遠ざけるように薙ぎ払っていった。

「ファ! お前達は一体……」

 身を守ったところで彼は、自分へと襲い掛かってきた人物の姿を凝視していく。銀時らも同じように注目していると、またも信じられない人物を目に映してしまう。

「えっ!? まさか……」

「って、おい……俺じゃないかよ!」

「嘘……私まで!?」

 その正体は、恐らく夢世界側にいる銀時とアスナであった。二人もキリトと同じく、本物との顔つきは大方そっくりである。

 夢世界側の銀時は、攘夷戦争で活躍した白夜叉時代の姿を踏襲していた。鉢巻を頭へと被せて、白い陣羽や灰色の野良着に身を包ませている。目も格好良く整っており、気だるさを感じさせない風貌は侍そのものであった。

 一方で夢世界側のアスナは、キリトと同じく昔のSAO時代を思わせる容姿をしている。髪色はALOと異なり、現実と同じ明るい栗色に染まっていた。服装はかつての血盟騎士団と同じ姿であり、赤と白を基調とした軽い鎧やスカートを身に着けている。足元も白色のニーソやシューズで統一していた。全体的な風貌は孤高の女騎士とも捉えられる。

 しかしいずれも、雰囲気はやはり本物とだいぶ異なっており、口調からその性格が滲みだしていた。

「大丈夫か、キリト! 怪我はしていないみたいだな?」

「ああ、そうだけど……あの人達は……」

「いいんだよ、伝えなくて。もう分かり切っていることだから……やい、てめぇら! アタイらの可愛い後輩をよくも泣かせやがったな! この落とし前は、ちゃんと付けさせてもらうぜ!!」

「その通りだ! 俺達がしっかり倍にして返してやるからな!」

 夢世界側のキリトとは違って、簡単には敵対意識を解こうとしない二人。だがそれよりも万事屋が気にしていたのは、夢世界側の二人の性格である。

「って、ちょっと待って! アレが夢世界の私なの!? なんで男勝りな口調で話しているの!? なんでちょっと不良っぽくなっているの!?」

 方が外れたようにアスナはツッコミを入れていき、思っていた違和感を声に出していく。夢世界での彼女は粗暴さが際立っており、本物と比べて上品さの欠片すら存在していない。その証拠に眼光も鋭利にとんがっており、メンチを切るようにずっと睨みを利かせていた。女騎士とは程遠い出で立ちである。

「ていうか俺に至っては、何で本物よりも主人公っぽくなってんだよ! 完全にオリジナルよりも男らしいじゃねぇか! 主役を食いそうじゃねぇか!!」

 一方で銀時にも、整理したい疑問が多く浮かんでいた。夢世界側の彼は仲間想いな一面が目立ち、責任感のある性格から一段と男前な印象を持たせている。おかげで普段の銀時との乖離が凄まじく、早くも仲間内からは本物を見下している意見が挙がっていた。

「なんかこっちの銀さんより男前ですよね。あっちの方が主人公っぽいかも……」

「いっそのこと、入れ替えてみるアルか? 本物の銀ちゃんを夢世界に置いて」

「そうですね」

「おい! 新八に神楽! ワザと聞こえるような声で見下すじゃねぇよ! 俺の心をどこまで傷つける気だよ!」

 銀時へ聞かせるように大声で話していき、新八と神楽の二人は不満を口にしていく。長い付き合い故に、つい本音をこぼしていたようである。

 そんな万事屋からの反応はさておき、夢世界側の銀時やアスナは依然と剣を収めずに、敵対意識すらも解こうとしない。警戒を続けている彼らは、内輪だけで会話を始めていた。

「おい、どうなっているんだ? あいつらはキバオウ達が言っていた新種の敵じゃないのか? 妙に俺達とも似ているし、調子が上がらないんだが……」

「アタイもだよ。あんな髪色に染めて、耳までとんがっているってどういうことだよ?」

「いや、それは……あの人達も別世界から来たみたいだよ」

「別世界? ということは、やはり統率者が呼び出した新たなる敵ということか?」

「いや、そういうことじゃなくて……」

「否定しなくていいんだよ。眼前の敵は叩き潰すだけ! そうみんなで決めただろ?」

「そ、それは……」

 夢世界側のキリトの押しが弱く、本当のことを伝えられずに物事が進んでしまう。その影響もあって、せっかちな二人は勘違いしたままある決意を固めていく。

「よし、だったら……おい、お前達! 何者だか知らないが、敵だということに変わりは無いんだろ? アタイらがここで一気に叩き潰してやるからな!」

「その通りだ! 覚悟しろ、貴様ら!」

「そんな……」

 銀時ら万事屋の六人を完全に敵だと思い込み、堂々と喧嘩まで売ってしまった。誇らしげに笑みを浮かべている銀時とアスナに対して、キリトは誤解が解けなかったことに苦い表情でため息を吐いている。

 一方で売られた側の本人達は、話が上手く通じないことにもどかしさを覚えていた。

「おいおい。折角打ち解けようとしたのに、俺とアスナが出てきてから強制戦闘になろうとしているぞ!」

「厳密に言うと夢世界の私と銀さんだけどね……でも、どうするの? ここは戦うしかもう選択肢はないわよね?」

「アイツらがその気だったら、こっちも戦うしか手段はないよ。少し心が痛むけど……仕方ないか!」

 売られた喧嘩に堂々と挑むようで、律儀にこちらも銀時とキリトとアスナの三人が夢世界の自分に戦いを挑むようである。木刀や長剣、レイピアと言った得意の武器を抜いたところで、夢世界側の彼らも緊張感を口走っていく。

「あっちも戦う気だよ……もう止められないよ……」

「ほら、キリト! アンタも剣を抜いて、アタイらに加勢しなさいよ!」

「はい……」

 未知なる存在に戸惑いを見せていたが、既に覚悟は決まっていた。キリトだけは武器を手にしてもなお、調子が下がっていくだけだったが。

 一方で本物の万事屋では、戦闘に参加しないユイと新八と神楽へ向けて、場から離れるように忠告を加えていく。

「新八と神楽はユイを頼む! 木の陰に隠れて守っていてくれ!」

「分かったネ、キリ! 任せるヨロシ!」

「パパにママ! 銀時さんも気を付けてくださいね!」

「何とか穏便に済ましてくださいね!」

 素直に応じると共に、三人は近くにあった大きい木の陰へと隠れ始めている。これで戦闘に必要な条件は、全て整うことになった。

「よし。じゃ、行くか……自分との戦いに!」

「OK!」

「もちろんよ!」

 説得を促すために気持ちを一つにしていく、本物の銀時ら三人。心の迷いは一斉なく、夢世界の自分にも果敢に挑む所存である。

「覚悟しろ、偽物共!」

「アタイらが打ちのめしてやるからな!」

「お手柔らかにお願いします……」

 そして夢世界側の三人も勢いだけでは負けていない。キリトだけは戦う気がさらさらないので、気持ちが戸惑っていたままであったが。

 いずれにしても、この戦いが終わらなければ進展しないのは事実である。万事屋達は千佐の悪夢を解放する手掛かりを見つけるために。夢世界側のキリト達は目の前にいる敵を倒すために。譲れない思いを心に宿しながら、遂に自分同士の決闘が始まろうとしている。

「「「「「行くぞ!!」」」」」

「やっぱり始まるの~?」

 戦いの火蓋は今、切って落とされた。

 




 本物のキリトと夢世界のキリト。新しい試みだと思っていたのに、いざ書いてみると……とてもややこしい! これは設定集でもまとめて、上げていくしかないな。いずれは分かりやすいように表記するので、しばしお待ちください。
 後は報告ですが、来週は所要の関係で投稿が出来ません。再来週までお待ちください。
 それでは、また次回まで!






次回予告
夢世界で現れたもう一人の自分
次々と現れる懐かしい顔ぶれ
そして……
「戦いをやめてください! みなさん!」
「君は……」
遂に夢世界の千佐も姿を現す!
夢幻解放篇四 もう一人の自分

銀時「ていうか、次回予告のテイスト変わってない?」
新八「予告を作っても、使われないセリフが増えたから変更したみたいですよ」
銀時「そっか。ただの裏事情だったか」

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