銀時ら万事屋が挑んだ決闘は、突如現れたチサの介入によって幕を下ろす結果となった。もう一人の自分との間に出来た誤解は徐々に薄れてはいるが、それでも微妙な距離感であることに変わりは無い。
現在万事屋一行はチサ達に連れられていき、森の奥に佇む教会風の建物へと足を踏み入れている。彼女曰く仲間達が過ごすアジトのような場所で、六人は揃って手狭な一室に通された。夢世界側のチサ、銀時、キリト、アスナの四人も集まっており、共に簡略的な話し合いを取り行っている。
「誠に済まなかった。君達を敵だと勘違いして……」
最初に声を上げたのは、夢世界側の銀時。律儀にも深々と頭を下げており、本物とは違った生真面目な印象を一行に与えていた。
「悪かったよ……アタイも早とちりで勝手に判断していたからな」
彼に続いてアスナもぶっきらぼうな口調で謝りを入れて来た。手で前髪をさすりながら、若干頬を赤らめて接している。その姿はまるで恥ずかしがっているようにも見えた。
「ううん、別にいいのよ。誤解が解けただけでも嬉しいから」
本物のアスナが穏やかな口調で返答すると、咄嗟に彼女は真剣な眼差しで睨みを利かせてくる。
「えっ? 急にどうしたの?」
「いや……本当にアタイなのかと思ってな。お前の方が色気もあるし、女子力も高そうだな……耳もとんがっているし、一回触らせろよ」
「さ、触る!?」
「何驚いてんだよ。女子同士なんだから、触っても問題ないだろ? 胸とか尻を揉むわけじゃないから、安心しろって」
「安心できるわけないでしょ! くすぐったくなるからやめてって! もう一人の私~!」
自分との容姿や雰囲気の違いに納得がいかず、好奇心を公にしながら差し迫っていく。持論を展開して、彼女のとんがった耳を触ろうと企んでいた。もう一人の自分の急な行動力に、本物のアスナは対応に困り果てている。
一方で夢世界の銀時の謝りには、神楽ら万事屋が反応してきた。
「そんなに深々と謝らなくてもいいネ、もう一人の銀ちゃん! こっちも大した怪我は無かったし、不幸中の幸いアルから!」
「そうなのか? でもお前らの仲間は、シリカやリズベットから仕打ちを受けたと……」
「ああ、こいつか。それなら大丈夫だよ。新八は眼鏡が本体だから、肉体が傷つこうが関係ないからな」
「って、おいぃぃぃ!! 何嘘をぶっこ抜いているんだぁ!? アンタら夢世界でも、お決まりのネタをかますんじゃねぇよ!! 僕達以外で理解している人いませんからね!!」
銀時からのお馴染みの眼鏡ネタに、新八は勢いよくツッコミを加えてくる。万事屋にとっては見慣れた光景であったが、夢世界の銀時は何のことだかさっぱり分かっていない。
「眼鏡が本体……ということは、この男は人間じゃないという事か?」
「って、別の銀さんが真面目に受け止めちゃっているよ!! さっさと誤解を解いてくださいよ!」
不運にもまた違った誤解を招いてしまい、新八からさらにツッコミを入れられてしまう。この様子に銀時と神楽の二人は、笑いを押さえながらこの状況を楽しみつつあった。一方でキリトも、もう一人の自分との会話に勤しんでいる。
「でも一段落して良かったよ。君が伝えてくれたおかげで、無駄な争いが起きずに済んだからな」
「そんな、僕なんて……言いそびれただけだし」
「俺達は気にしていないよ。悲観なんかせずに、自信を持った方が君は良いと思うよ」
決闘を止めてくれたことに感謝しており、彼に対して素直に褒めたたえていく。夢世界のキリトが控えめに言葉を返すと、横にいたチサも急に声を上げてくる。
「その通りです! そもそもキリトは、ネガティブに考えすぎです! いつまでもくよくよしていたら、みなさんに置いていかれますよ!」
「で、でも……人には出来ないことがあって……」
「そうやって可能性を否定するから、成長なんかしないのですよ! 戦いも佳境に入るし、本当に自分自身を変えないといけませんよ!」
「はい……」
まるで姉に叱られている弟のように、チサは心に溜めていた気持ちをためらいもなく指摘していく。反論もできない彼は、落ち込みながらも深く心へ受け止めていた。この光景にユイや本物のキリトも、何とも言えない表情で呟いている。
「パパが女の子に怒られているなんて、珍しい光景ですね」
「俺が弱気だと、周りの仲間達はみんな強気に接していくんだな……」
例え容姿が同じでも性格が異なれば、周りの対応も変わると改めて痛感したようだ。大して内容は進展せずに、ただ時間だけが過ぎ去っていく。
「おおー! だいぶ柔らかい耳だな! 本当に人間なのかよー?」
「だからそう言っているでしょ! いい加減に落ち着いてって!」
アスナ同士のじゃれ合いも、収まる気配すら無かった……
数分後。ようやく全員が心を落ち着かせたところで、本格的な話し合いがいよいよ始まっていく。
「それではまずは、自己紹介から始めましょうか。私はチサと言います。よろしくお願いしますね」
「俺は坂田銀時だ。仲間からは白夜叉と呼ばれている。どっちで呼んでもいいぞ」
「アタイはアスナだよ。閃光って言われているが、しっくりきていないから本名で呼んでくれや」
「僕はキリトです……アダ名とかはないけど、何でも呼んでくれていいですよ」
最初に夢世界側の銀時達が、肩書きを含めて自己紹介を交わしてくる。予想はしていたが、やはり本物の銀時達とは名前に大差がないようだ。
「では、君達の名前も聞きたいが……大方同じといったところか」
「その通りだよ。俺も坂田銀時で、こいつらもキリトとアスナって名前だから。強いて言うなら、この三人か。白ワンピースの子がユイで、赤チャイナ服は神楽。そして、人間をかけた眼鏡が新八だな」
「なんで僕だけで例え方が違うんだよ……」
隙を見て入れてきた銀時からのボケに、新八はすかさずツッコミを入れていく。恐らく夢世界側にはいない新八、神楽、ユイの三人のみを彼は紹介していた。
「ユイちゃんに神楽ちゃんに、新八さんですか?」
「アタイらの仲間にも、そんな名前や姿をした奴は一斉いないな。似ているのは、この三人だけってことか」
首を傾げ聞き慣れない反応を、チサやアスナは露わにしている。万事屋が感じていた予想は奇しくも当たっていた。
互いに名前を知ったところで、次は経緯について話題が移っていく。
「では改めて聞くが、君達は一体どこからやって来たんだ? なぜこの世界に迷い込んだのか、教えてくれないか?」
夢世界の銀時が神妙な表情で問うと、本物の銀時は渋い表情で答えを返してくる。
「まぁ、こっちもただならぬ事情があるんだよ。とある女子を助け出すために俺達は奔走していたが、行きついた先がこの世界だったんだよ」
「女の子を助けるために?」
「表現は大雑把だけど、筋はだいぶ一致しているよ。助けるための手がかりを見つけるために、この世界へとやって来たんだよ」
本物のキリトも説明への補足を加えていく。元々万事屋の六人は、昏睡状態の千佐を救う目的で彼女の夢世界へ侵入している。もっとも、目の前にチサがいることが重要な手がかりでもあったが……下手な動揺を誘いたくないので、一行はひとまず事情を伏せて伝えるしかなかった。
だがチサら四人は、ある言葉が心に引っかかり、不安にも別の動揺を広げてしまう。
「ん? どうしたネ? 何か変な事でも言ったアルか?」
「いや……自分達の意志でこの世界に来るなんて、珍しいなと思って」
「アタイらは脱出する為、必死に戦っているのにな……」
「それって、どういうことでしょうか?」
彼らがざわついていた理由は、万事屋がこの世界へ来たきっかけにあった。ユイが興味深く問いかけてみると、千佐達の口からは信じがたい現状が明かされる。
「実は私達は、この閉鎖された仮想の空間で何か月もの間捕らわれているんです」
「えっ!? それって……」
「簡単に略すると誘拐ってところだな。自分達の意志とは関係なくこの空間へ連れ去られて、今なお元の世界へ戻るために戦っているからな」
「そうだったのかよ……」
予想もしない真実を知ってしまい、万事屋の六人は大きく衝撃を受けていた。彼らは夢世界の住人ではなく、事情があり連れ去られた人間である可能性が示唆されている。異なった理由を抱え込んでいると予測しており、彼らへより詳しい情報を聞き出していく。
「でも、なんで閉じ込められているアルか?」
「さぁな。そんな理由が分かったら、ここまで苦労なんかしねぇよ! そもそも、ごく普通の世界で生きていたのに、なんでこんな空間に閉じ込められるだよ……」
「元々僕やアスナさんも、何の変哲もない中学生だったのにね。突然黒い塊に吸い込まれちゃって、気が付いたらこんな格好で戦わされているなんて……どうしてこんな事に巻き込まれたんだろう……」
若干感極まりつつも、夢世界のアスナやキリトが思いの丈を打ち明かしてきた。二人は戦いとは無縁な世界から来たようだが、所々に気になっている箇所が存在している。
「黒い塊って、ブラックホールの事じゃないでしょうか?」
「その可能性もあるな。やっぱりサイコギルドが関与しているのか……」
彼らが口走った黒い塊に注目を寄せており、本物のキリトやユイはブラックホールと仮定して、サイコギルドの仕業であると考察を始めていた。さらにキリトは、直感である仮説を思いついている。
「いや、待てよ。ひょっとして……」
すると、もう一人の自分へと近づいてある質問を声に出していく。
「なぁ、もう一人の俺! 一つ聞きたいことがあるんだ!」
「えっ!? な、何……?」
「君がいた世界に、VRMMOであるSAOは販売していなかった?」
「SAO……? あのゲームは販売延期になったはずじゃ……」
突然の質問にどよめくキリトであったが、本物のキリトは答えを聞いた瞬間にしっかりと頷いて自らの仮説に確信を持たせていた。彼からの答えには、SAOを知っているアスナやユイらも驚きを浮かべている。
「えっ? アナタ達もSAOの事を知っているの?」
「だいぶニュースに上がっていたからな。2022年くらいに発売される予定が、ゲーム機共々重大な欠陥が発覚して二年も延期になったんだよ。まぁ、アタイは興味が無いからどうでもいいけどな」
「SAOが販売延期ですか……?」
またも知ることになった予想外の真実。銀時ら三人も言葉に詰まってしまう中、キリトだけは自信を持ってある仮説を一行へと伝えてきた。
「なるほどな……」
「キリ? 何が分かったアルか?」
「ああ。俺の考えなら、ここにいるもう一人の俺とアスナは……恐らくパラレルワールドの俺達かも知れないんだ」
「パラレルワールド……つまりこの二人は、本来の歴史とは違う世界からこの空間に連れ去られたという事ですね」
「その通りだよ。SAOが販売延期された世界の俺達だと思うんだ……」
彼の考えには新八ら仲間達も素直に納得している。本物のキリト達と夢世界のキリト達では、過去に起きた出来事に誤差が生じているため、マルチバースに基づく別世界であると判断したようだ。さらにこの仮説は、千佐ら四人も興味深く反応している。
「別世界のキリトやアスナと言う事ですか……」
「じゃ、もう一人のアタイ達はSAOが販売された世界からやって来たんだな……」
「そういうことになりますね……」
やや半信半疑ではあるが、キリト達六人を別世界の人物であることを理解していた。互いの情報を交換して話し合いが進展すると、もう一人の銀時も関連する内容を声に上げる。
「そうか。ならもう一人の俺は、攘夷戦争を終えた後と捉えていいんだな」
「お前……まさかとは思うが、その格好はまだ戦争が続いているってことか?」
「ご名答だ。俺や高杉達も、攘夷戦争の真っ只中でこの空間へと転送された。以来戦闘に不慣れなキリト達を補佐しつつ、彼らと共に戦っているというわけだ」
彼が告げたのは、別世界での現状であった。銀時ら攘夷志士達もキリト達とは別の世界線におり、過去に銀魂の世界で起きた攘夷戦争が続いている世界からこの空間へ飛ばされたようである。以降は戦闘の最前線に立ち、戦いの素人でもあったキリト達を助けながら、元の世界へ戻るために戦っているらしい。
多くの事情や世界線が明らかになったので、ここで一行は一連の情報をまとめていく。
「う~ん。話が複雑になってきたネ~! 頭が痛いアル~!」
「そうですね。では一旦整理してみましょうか。先程の話で出た世界観の違いを分岐してみましょう。まずは銀時さん、新八さん、神楽さんの三人がいる江戸時代をA世界。次にパパやママ、それに私がいた2026年をB世界とします。さらにもう一人の銀時さんが戦っている攘夷時代をC世界として、もう一人のパパやママがいたSAOが販売延期した世界をD世界にすると……合計で四つのパラレルワールドが存在していることになりますね」
ユイの細かい補足説明によって、世界線が四つに分けられていった。銀魂世界とSAO世界で起きた過去の出来事が、何らかの要因で変えられた世界に銀時、キリト、アスナの三人がそれぞれ暮らしていたようである。信じがたい事実ではあるが、ブラックホールを操るサイコギルドが存在する以上は、可能である考えであった。
すると、別世界のキリトはユイのある言葉に心を引っかけている。
「パパにママ……? もしかして……別世界の僕とアスナさんって、結婚しているの?」
「あっ、そのことね。今は真剣に付き合っている身で、ユイちゃんとは養子のような信頼関係を築いているのよね」
彼からの疑問に、アスナは少し照れながら返答してきた。本物のキリトとアスナが交際している事実を知り、別世界側の二人は衝撃から体が固まってしまう。
「お付き合いしているんだ……」
「お前ら正気かよ……どう転がったら、そんな関係に行きつくんだよ……」
「って、そんな衝撃を受ける事なのか?」
普段の関係から交際に行きつくなど考えた事もなく、その分大きい衝撃を受けたようだ。価値観の違いが露わになった瞬間でもある。
一方で新八は、しばらく黙っていたチサへ話を振ってきた。
「これだけパラレルワールドがあるって事は、チサさんは一体どこの世界からやって来たんですか?」
「えっと……それはまだ分かっていないのです」
「ん? 自分がいた世界を知らないアルか?」
暗い表情をしたまま、質問には答えずにただ口を閉ざしてしまう。代わりに彼女の気持ちを察した別世界の銀時が、万事屋へと返答してくる。
「チサについては俺から説明しよう。彼女は俺達が戦っていた途中で、倒れているところを発見したんだ。ここへ来た経緯もまったく知らないようで、記憶もうっすらとしか分かっていないらしい。その記憶を戻すためにも、現在は果敢にも一緒に戦っているんだ」
「記憶喪失かよ。そりゃ辛くてしょうがねぇよな……」
チサは三人とはまた違った事情で、この空間に飛ばされてきたようだ。特殊な立ち位置であるが故に、万事屋はチサと昏睡状態の千佐の二人に繋がりがあると予測している。
「って事は、ここにいるチサは俺達がいるA世界から、この空間に来たって解釈できるな」
「ああ。でも同じ人物だとしても、別世界の俺や銀さんの件も解決しない限り、悪夢は解放されないと思うけどな……」
解決への道筋がようやく見えてきたが、同時に新たなる問題も発生してしまい、事態の収束はより複雑化していた。そこでユイ達は、この空間から脱出する手掛かりをチサ達へ聞いてみることにする。
「あの、一ついいですか? チサさん達はずっと戦っていると言っていましたが、一体何を相手にしているのですか?」
「それは……統率者からの刺客です」
「統率者って、最初に会った時に言っていましたよね?」
「ああ。俺達をこの空間へと閉じ込めた全ての元凶だよ。最初のエリアに忽然と姿を現して、こう告げたんだ。「この世界から抜け出したいならば、百あるエリアを攻略しろ」って」
「エリアの攻略? それが済めば、みんなは元の世界へ戻れるアルか?」
「そうだと信じたいけれど、まだ二十五個分エリアがあるし……先行きは不安しかないよ」
銀時やキリトらの証言によると、この空間を作り出した元凶は統率者と呼ばれる謎の存在らしい。彼が用意した百もあるエリアを突破しなければ、元の世界への帰還は成り立たないようだ。現状では七十五に位置するエリアまで到達したが、確証のない未来に別世界のキリトは思わず弱音を漏らしてしまう。
この理不尽とも捉える解放条件は、キリトやアスナにとっては既に経験済みであった。
「百個分のエリアを攻略って……」
「まるでアインクラッドみたいだわ……」
「アインクラッド? って、なんだそりゃ?」
「SAOに存在していた浮遊城の名前ですよ。あのゲームからログアウトするには、城にある百層まで辿り着かなければいけなかったんです」
「なるほど。要するにキリト達が戦っていたゲームフィールドとクリア条件ってヤツか」
ユイも即座に説明して、銀時ら三人へアインクラッドについて教えている。夢世界での現状とキリト達が体験したSAOには、類似点も多数あり何かしらの関連性があると推測を立てていた。さらなる考察を続けていく中、新八や神楽は統率者の情報をさらに聞き出そうとする。
「そういえば、統率者って言うのは一体どんな人なんですか?」
「どんなって……一瞬しか見てないから詳しくは分からねぇよ。赤いマントと頭巾を羽織っていて、顔も隠していたからな。しかも最初のエリアに現れただけで、以降はまったく見かけてねぇよ……」
「だからチマチマとエリア攻略を進めているアルか」
別世界のアスナから伝えられたのは、容姿のみの特徴だけであった。統率者の目的は一斉分かっておらず、接触しようにも居場所すら特定できないので、彼女達はエリア攻略に進むしか手段は無いのである。
夢世界への謎がより深まっていき、仲間内でも不安が募り始めていた。徐々に重い空気へ包まれていく中で、暗い気持ちを打ち消すように、本物の銀時とキリトがある覚悟を決めて声を上げてくる。
「だったら、もうゴールまで後少しじゃねぇか。ざっと四分の三までクリアしたんだろ?」
「ああ、その通りだが……」
「じゃ、俺達から言えることはただ一つだな」
すると二人は揃って立ち上がり、別世界の自分達へある提案を持ち掛けてきた。
「一緒にこの戦いへ参加してもいいか?」
「えっ!? 僕達と一緒に戦ってくれるの?」
「もちろんだよ。乗り掛かった舟だし、君達を放っておけないからね。助けになるなら、俺達は何だって手を貸すつもりだよ」
清々しい表情で共闘への志を真摯に伝えていく。彼らの話を聞く度に一言ではないと感じ取っており、チサだけではなく別世界の自分達も助ける決意を公にしている。即興で決まった二人の覚悟には、チサら四人と共に万事屋の仲間達も驚きを隠せずにいた。
「って、キリト君に銀さん!?」
「いきなりどうしたネ! そんな話、一斉聞かされてないアルヨ!」
「そりゃ、そうだよ。たった今決めたからな」
「そうなんですか……?」
「ああ。チサの件もそうだけど、もう一人の俺やアスナ達を救わない限りは、事態の解決に至らないと思うんだ。だから、一緒にエリアの攻略を手伝うべきじゃないのかな?」
「それは……」
動揺する仲間達を説得するように、銀時やキリトは冷静な口調で接している。あくまでも昏睡中の千佐を救うのが目的ではあるが、事態の収集には別世界の銀時達をも助ける所存であった。最初は戸惑いを見せていたのだが、二人の本気の想いを察すると少しずつ考えを理解していく。
「確かにそうかもしれませんね……千佐さんだけじゃなくて、別世界の銀さんやキリトさんもサイコギルドの被害者だったとしたら……」
「助け出すのが妥当アルナ」
「だとしたら、パパや銀時さんの意見に賛成ですね」
「まったく、こういう時の二人はすぐに意気投合するんだから……」
行動力の早さに感銘を受けながら、新八ら四人も共に戦う事を決意している。これで、万事屋全員が協力体制を取ることになったが、チサら四人の間では若干の遠慮が生じていた。
「ていうか、本当にそれでいいのかよ? お前等は戦うために、この空間へ来たわけじゃないんだろ?」
「そうだけど、君達を放ってはいけないんだよ。万事屋としても、こんな事態は一刻も早く解決したいからね」
「万事屋?」
「俺達が所属する組織名だ。頼まれたら何でもやる、万を売っている店だ。テメェらの人手が足りないなら、俺達はすぐにでも参入してやるぜ。当然、特別サービスで依頼料はチャラにしてやるからさ」
さり気なく自分達の肩書きであった万事屋も説明に入れて、銀時やキリトはチサ達へ説得を続けていく。四人の間でも考え方に変化が生まれており、大方は万事屋からの提案を受け入れるつもりであった。
「分かった。万事屋の俺よ。この戦いへ終止符を打つためにも、手伝ってもらえるか?」
「……あたぼーよ。承ったぜ、お前達の依頼」
別世界の銀時からの依頼を聞き入れると、本物の銀時は納得した表情で彼に返している。これにより、正式に万事屋もエリア攻略の戦いへ参入することになった。
「もう一人のアタイ達って、案外良い奴なんだな……」
「これは頼もしい助っ人が加わりましたね!」
「この人達と一緒なら、閉鎖空間からも抜け出せるかもね」
アスナら他の仲間達も、心強い仲間が加わったことに今後の希望を見出している。喜びあうその姿に、万事屋一行も安堵の表情を浮かべていた。新しい戦いにも恐れる事はなく、ただ一心に突き進む方針であったが――ここで一つの問題が浮かび上がる。
「アレ? そういえば、源外さんから朝まで戻るように言われてなかったっけ? エリアが百まであるってことは……もうそんなに時間は残されていないんじゃ……」
「「「「「あっ」」」」」
忘れていた注意事項をキリトが思い出すと、一斉に声を上げていく。源外曰く夢世界への滞在には時間制限があるので、銀時らが豪語していたエリア攻略は最後まで行けない可能性があった。これには仲間内でも、心配の声が飛び交っている。
「ぎ、銀ちゃん……大丈夫アルヨネ?」
「……心配するな。この長篇が終わったら、また日常回を再開するらしいから、そんなに長くはかからないと思うぞ……多分」
「いや、そっちの方が不安だよ!! さすがの原作者だって、そんな長丁場は書きませんよね!? 僕らの体力が尽きる前に、倒れたりなんかしませんね!?」
特に銀時ら三人はメタ発言も含めながら、どうにか自分達を納得させていた。一抹の不安がよぎっているが、考えても仕方のない事である。万事屋にも別の問題が発生していた、まさにその時であった。
「なんでや!! どういう事やねん!!」
別の部屋から威勢のいい男性の声が響き渡ってくる。関西弁の口調で怒りを露わにしているが、本物のキリトやアスナにとってはどこか聞き覚えのある声であった。
「アレ? この声って……」
「また、あの一派ですか……とりあえず様子を見に行きましょう」
「一派って、一体誰の事アルか?」
「ちょっと喧嘩っ早いチームがいるんだよ。とにかく、止めに行くぞ」
チサ達によると、この声の主はこことは違う一派の一員であるらしい。ちょうど別の部屋にはシリカや桂といった仲間達が待機しているので、心配になった一行はすぐに部屋を出て隣接する会議室へ入っていく。そこで目にしたのは、仲間達に構うことなく、高杉がある男性と口喧嘩を交わす光景であった。
「だから言っているだろうが。あの六人は統率者とは一斉関係ないって」
「じゃ、ワシらが早とちりしたとでも言うのか!」
「そこまでは言っていないだろ……いい加減落ち着け、トサカ頭」
「トサカ頭やない! キバオウっいう名前じゃ!!」
とげとげしい特徴的な髪形を震え上がらせて、高杉に臆することなく常に喧嘩腰で接している。会話から名前がキバオウと判明したが、実は本物のキリトやアスナにとっては面識があり、そして因縁のある相手であった。
「う、嘘でしょ……あの人も夢世界に存在していたの!?」
「ん、どうした? あの滑稽な頭をしている奴も、まさかお前らの知り合いなのか?」
「知り合いというか、あまり会いたくはない相手かな……」
夢世界での彼を見た瞬間に、二人は苦い表情を浮かべていく。過去に出会ったキバオウと言えば、せっかちで誰にでも当たり散らす好戦的な性格が目立つ男性であった。故にキリトも何度か目を付けられてしまい、仲もあまりよろしくはない。もちろん、夢世界でのキバオウもその性格は本人とほぼ同じである。
「いい加減に非を認めたらどうじゃ? ここで喧嘩を続けても、お互いの不利益になるだけぜよ!」
「そうよ! こっちは切羽詰まっているから、さっさと怒りを収めて別の話し合いに移りたいのよ!」
「何を言っているんや! 目の前にくりそつな銀時とキリトがおったんや! ドッペルゲンガー以外の何者でもないやろ!!」
「って、ちゃんと話を聞いてくださいよ!!」
辰馬やリズベットからの説得も一斉聞き入れずに、キバオウは持論を強く主張して、他の仲間達の手を煩わせていた。話すらまともに聞かない状況で、シリカやピナは辟易とした表情を浮かべている。その一方、桂やクラインらは隣にいた彼の理解者に話しかけてくる。
「おい、ディアベル。お前一応サブリーダーなんだから、あの芸人かぶれを大人しくさせてこいよ」
「そう言われてもな……アイツはリーダーからの説得がないと、まったくもって応じないからな……」
「ったく、とんだ迷惑野郎だぜ……」
「どうにか出来ないのか?」
すんなりと断られてしまい、エギル達は思わずため息を吐いてしまう。一方で彼らの近くにいる青髪の男性ディアベルは、キバオウと同じくSAO世界にも存在していた人物だ。惜しくも第一層の戦いで倒されてしまったが、この夢世界ではちゃんと最後まで生き残っている。もちろん彼の姿にも、本物のキリトやアスナは衝撃を受けていた。
「なんだか、懐かしい顔ぶればかりいるわね」
「そうアルか? というか、あの男達は一体誰ネ?」
気になっていた神楽が問いかけると、別世界のアスナが答えを返してくる。
「ああ、あいつらか? キバオウとディアベルって言う、白組にいる構成員達だよ。特にキバオウって奴は癖のある男でな……自分の意見を断固として変えない、少々めんどくさい性格をしているんだよ」
予想通りに二人も、名前や姿が同一の別人である事が明かされた。ただ唯一異なるのは、白組と言う元の世界には無かった組織に所属している点である。
事情が分かったとしても、口論は一斉収まらずむしろ過熱の一途を辿っていた。依然として自分の非を認めないキバオウによって、場の雰囲気は徐々に険悪へと変わっていく。おかげで万事屋や千佐達も介入しづらい状況であった。
「てか、どうするんですか! このままじゃ、もっと入りづらくなるだけですよ!」
「止めたいのは山々なんですけど、多分僕とかが行くと火に油を注ぐ事態になるから、止めることは難しいんですよ……」
「ったく、もどかしいな! だったら俺が、あのネタキャラを止めてきてやろうか!」
誰一人として動くことが出来ない中で、本物の銀時は意気揚々と腕をまくって動こうとするが……
「待て。ここでお前が行っても、事態が長引くだけだぞ!」
別世界の銀時から止めるように促されてしまう。
「じゃ、どうするんだよ! アイツを止められる奴が他にいるのかよ?」
「そう焦るな。もうすぐでやって来るはずだ。白組一派の頂点に立つリーダーであれば、キバオウは素直に引くはずだ」
「リ、リーダー? そんなのいるのかよ?」
彼にはちゃんとした考えがあり、ディアベルらも呟いていたリーダーの存在に後は任せるようだ。
「リーダーって、あの二人をまとめる人間が他にいるってことか?」
「そうですね。見た目はあまり強くはないですが、リーダーシップが強くて、一大勢力を築くほどカリスマ性のある方なんですよ」
「へぇ……そんな人がこの世界にいるのね」
チサからの説明を聞き、本物のキリトやアスナは半信半疑でそのリーダーたる人物に注目を寄せている。すると、ようやくその時が訪れた。
「いい加減理解しろや! この提督野郎がぁぁぁ!!」
遂に我慢の限界を超えたキバオウは、実力行使へと移って、高杉の顔面へ向けて拳を投げかけようとする。この急を要する事態に、思わず万事屋や仲間達も反射的に動こうとした時であった。
「これ以上は止めろ、キバオウ!!」
突如として威厳のある男性の声が響き渡ってくる。その声質は、先ほどのディアベルとは若干似ているようにも聞こえていた。唐突な展開にキバオウだけなく、多くの仲間達が動きを止めて、声の聞こえた方向へ振り返ってみる。そこに立っていたのは、実に意外な人物であった。
「あ、あの人が白組のリーダーですか!?」
ユイを始め万事屋も、その姿によく目を凝らしてみる。そこで見えてきたのは……銀時の攘夷時代と酷似した衣装を着こなす小太りの男性であった。
「はぁ? あの人がリーダーなんですか?」
「キバオウを従えている割には、どこかイメージと違う気が……」
あまりにも拍子抜けした姿に、新八やキリトらは思わず呆れを口にしている。しかし銀時だけは心当たりがあり、すぐに激しいツッコミを入れて来る。
「って、お前かいぃぃぃぃ!? なんでてめぇが、この世界でカリスマリーダーの座に付いているんだよぉぉ!!」
「ぎ、銀さん!? まさか、あの人の事知っているのか?」
「知っているも何も、アイツも一応攘夷戦争経験者なんだよ! 焼きそばパン補給係として活躍させていたのに、この世界では一派のリーダーってもう訳が分からねぇよ!」
衝撃的な展開を受け止められずに、銀時は感情的に想いを解き放っていた。彼の正体は、かつて攘夷戦争で密かに活躍した一人のパクヤサである。銀時に弟子入りを志願したが、見た目から却下されて、以後は食料の配給係として活躍していた。もちろん彼も本人とは無関係な別人ではあるが、この夢世界では立場が変わり、ディアベルやキバオウを従える一派のリーダーとして君臨している。
「アイツが白組のリーダーなんだよ。パクヤサって名で、多くのエリア攻略に貢献してきたんだ。いわゆるエリートの頂点に立つ男だ」
「あの人が攻略組のトップなんですね……」
「血盟騎士団とは、偉い違いだわ……」
別世界のアスナからの補足を聞き、ユイやアスナは三度衝撃を受けてしまう。人は見た目に寄らないともいうが、今回限りはもってのほかである。偽者とも捉えかねないパクヤサが、攻略組のトップにいるなど信じられなかった。
一方で彼が現れると同時に、キバオウは態度を変えたように気持ちを縮小していく。
「パ、パクヤサさん……!」
「何をしているのだ。この人達は敵ではないと散々言ったであろう? いい加減自分の非を認めて、謝ったらどうなんだ?」
「いや、でも……ワイは一刻も早くこの世界から抜け出したくて……」
「言い訳をするのか? ならばお前を、白組から除外しても良いのだな?」
「そ、それだけは勘弁してや! パクヤサさんの元で、ワイはまだ学びたいやねん!」
「ならば、すぐにでも仲間達に謝るのだな」
「は、はい!! この度はすいやせんでした、皆さん!!」
「って、早!? あの人、プライドの欠片すらないよ!? 完全にジャイア〇みたいに、仕打ちを受けちゃっているよ!」
話し合いの末に彼は、パクヤサに見捨てられたくない故に、自分の非を認めて素直に謝りを告げる。威張り散らしていた時とは一変し、強い者にはとことん弱い人物であった。あまりの変わり様に、新八もノリでツッコミを繰り出してくる。
こうして場は一段落したかに見えたが、しばらくするとある知らせが一行の元へと告げられてきた。
「大変だ! エリア75を解放するステージが、ようやく見つかったぞ!」
この情報によって、一同の態度は一変。いよいよ、運命を決める戦いが始まろうとしている……
パラレルワールドを題材にすると結構複雑になるので、ここで改めて整理してみようと思います。
A世界(銀魂の世界)
天人が地球に飛来して、宇宙に開国した世界。江戸時代でありながら、現代と同じ水準の文明を発展させている。「剣魂」では、この世界を主軸に物語が動いている。
B世界(SAOの世界)
茅場昌彦がナーヴギアや仮想世界を作り出して、VR技術を発展させた世界。文明水準は2022~2026年頃だと予測されている。
C世界(パラレルな銀魂の世界)
天人が地球に開国を迫り、銀時ら攘夷志士達が国の為に命を懸けて戦っている世界。未だに決着が付いていないが、大まかな流れは銀魂の攘夷戦争とほぼ同じである。夢幻解放篇では、その戦争途中に一部の攘夷志士達が夢世界に捕らわれたと予測される。
D世界(パラレルなSAOの世界)
本来ならば2022年に発売される予定だったSAOが延期となり、事件すら起こっていない世界。故にキリトやアスナの性格が異なっており、B世界と比べれば大きな誤差が生じている。推定だがナーヴギアも公には浸透はしていない
ここら辺の細かい内容は、のちの設定集にも記載していきます。
次回予告
遂に始まるエリア攻略への戦い
もう一人の自分と向き合っていき、万事屋は何を思うのだろうか?
キリト「君が本気を出せば、きっとみんなを守れると思うんだ!」
銀時 「お前はこれからも、良い人生を送れると思うぜ」
アスナ「ほんのちょっとの勇気だけで、アナタもきっと変われるわよ」
夢幻解放篇六 たった一歩の後押し