剣魂    作:トライアル

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第三十三訓 二人の師

「おーい! どこにいるんだよ!」

「さっさと戻って来いって!」

 森へと逃げ込んだ別世界のキリトを連れ戻す為に、銀時とキリトは東側と西側に手分けして捜索を続けている。しかし中々見つけられずに、事態は難航していた。その最中に悪い条件が重なり、途中から濃い霧が立ち込めて二人の視界を妨げていく。

「霧が濃くなってきたな……銀さんの方は大丈夫なのか?」

「おいおい、妙な霧だな。良からぬ事でも起こりそうじゃねぇか」

 後の捜索に支障をきたすと思い起こし、不安げな表情を共に浮かべている。それでも今は前に進むしかなく、霧をかき分けて探し続けていた。これから起こる不思議な出来事などつゆ知らずに――

 

「ん? あの光は……?」

 隈なく捜索していたキリトが見つけたのは、不自然にも発光する白い光であった。霧の中で忽然と存在を現して、はっきりと見える様子は違和感しかない。それでも彼は、好奇心から恐る恐る光へと近づいてみる。思わず手を伸ばして触れたその時であった。

「うわぁ!? って、今のは一体?」

 光は急に大きく輝きだして、辺り一面に広がっていく。一瞬何が起こったのか分からないキリトは、反射的にも目を閉じて自分の身を守っている。驚きを抑えきれない中、再び目を開けると、そこには信じがたい光景が待ち構えていた。

「えっ? ここは?」

 目にしたのは森の中ではなく、自然に囲まれた田舎のような場所である。一面を覆う自然豊かな風情は、この夢空間でも見覚えが無かった。唐突なる場面転換に、彼は動揺を露わにしている。

「いつの間にこんな所へやって来たんだ? 夢の空間だから、不安定な場所にも辿り着くという事か?」

 考察を練っているが、真相は定かではない。ひとまずは様子見の為に周りを見渡すと、すぐ後ろには古風な民家が一軒だけ建っていた。

「ん、建物? ……松下村塾?」

 表札には名が明記していたが、当然ながら初めて聞く言葉である。さらなる動揺を広げていく中で、状況はさらに急展開を迎えた。

「そこで何をしているのですか?」

 突然穏やかそうな男性の声が響き渡る。横へ振り返ると、そこにいたのは灰色の長髪をした和服姿の男性であった。雰囲気からキリトは、民家の関係者であると悟っている。

「あっ、いや……何でも無くて、ただ道に迷っていただけですよ」

「道ですか?」

 つい気まずさを感じてしまい、咄嗟に思いついた言い訳を口にして、この場を去ろうとした。無理にでも話を切り上げる彼の姿に、男性は違和感を覚えている。

「ここには用事も無いので、失礼しますね……」

「ちょっと待ってください! もしや君は、少し悩みを抱えているのではないですか?」

 逃げようとした直前に声をかけられてしまい、キリトは足を止めてしまう。心に刺さる質問を耳にして、率直に返答していく。

「えっ? まぁ、悩みは一応ありますけど……」

 すると男性は、穏やかに微笑んでから言葉をかけてきた。

「それならば、相談に乗りましょうか? こう見えても私は先生なので、アナタのように困っている人は放っておけないのですよ」

 朗らかな口調で先生と名乗り、相談を持ち掛けたのである。気の利いた行為だが、キリトからすれば反応に困る提案であった。

(妙に親切な人だな……断りづらいし、ここは流れに乗ってみるか)

 苦い表情を浮かべつつも、男性からの気持ちを察して悩みを話す事にする。了承したところで、彼は男性に連れられて松下村塾と呼ばれる民家へと入っていった。だが、キリトはまだ気付いてはいない。この男性の正体が、かつての銀時に学問を教えた先生――吉田松陽であることに。

 

「はっ!? なんだここは……」

 一方で銀時にも、キリトと同じような現象が起こっていた。気が付くと森にはおらず、閉鎖感が漂う建物の廊下へと立っている。彼もまた霧の中の光に触れて、目の前の場面が移り変わったようだ。

 直後にまずは周りを見てみるが、室内の灯りは少なく人気も無いため、徐々に恐怖や寂しさを感じて体を震えさせている。

「ちょっと待て。なんでよりにもよって、暗い場所にいるんだよ! こういうのは苦手なのによ……」

 オカルトや幽霊といった類にはめっぽう弱い銀時にとっては、まさに最悪の環境に近かった。普段は口にしない弱音を吐きながら、警戒心を高めていた時である。

〈キィィ〉

「ん? そこにいるのは誰だ!?」

 突然右側の扉が開き、中から人が姿を現した。予想もしなかった声掛けに、彼の心拍数は急に上昇して、落ち着きを失っていく。そして、過剰にも驚嘆した反応を示していた。

「ギャャャ!! 出たぁぁ!! 命だけはお助けを……!!」

「はぁ? 何を言っている? 子供のように怯えて恥ずかしくないのか?」

「えっ……?」

 吹っ切れたように恐怖を露わにする銀時に対して、男性は冷静な態度や口調で指摘を加える。その真意に気が付くと、彼は目の前の男性をじっくりと凝視して、幽霊でない事を確認した。同時に心を落ち着かせて、先程までの取り乱していた自分へ後悔を始めていく。

「って、幽霊じゃないのかよ――じゃ、ただの騒ぎ損じゃねぇか! 見知らぬ相手に、醜態をさらしただけかよ!?」

「ようやく気付いたか。まったく、いちいち忙しい男だな」

 一人でツッコミを繰り出す銀時であったが、男性からはまたも辛辣な言葉が返ってくる。二人の間には温度差が生じており、互いの第一印象を強く残していた。

 一方で銀時は、改めて声をかけてきた男性へ目線を向ける。外見は痩せ型で目つきが鋭く、常に白衣を羽織る姿は、学者や研究者を彷彿とさせていた。そんな白衣の男性は、話題を変えて銀時の正体について追及を始める。

「というか、お前は一体誰なんだ? ここには私一人しか入らないようにしているが、どこから侵入したのだ?」

「侵入って、気が付いたらここにいたんだって。本当は森の中にいたんだけどな、霧が立ち込めてからは前も分からなくなって今に至るんだよ」

「益々訳が分けらん……ひとまず、話だけは聞こうではないか。ちょっとこっちまで来い」

 やはり軽く話しただけでは上手く噛み合わず、解明のためにじっくりと言い争う構えを見せていた。その表情も疑いを強めたように、鋭利に目を尖らせている。執念深い男性からの提案に、銀時はつい気だるさを覚えていた。

(随分と周到な奴だな……本当に自分が納得するまで問いただすのかよ。ああ、絶対長引きそうだぜ)

 大幅な時間の消費を推定しており、複雑な事態になったと心では嘆いている。沈んだ気持ちのまま、彼は男性に連れられていき手狭な一室に入っていく。しかし、銀時は思ってもいないだろう。現在自分が対面している相手が、かつてSAO及び仮想世界を作り出した立役者である茅場晶彦である事に……

 

「では、まずは自己紹介を。私の名前は吉田松陽と言います。この松下村塾で、教え子達に学びを教えている先生ですよ」

「松陽さんか……。あっ、俺はキリトだよ。よろしくな」

 松下村塾内にある広々とした教室にて、キリトと松陽の二人はお互いの自己紹介を交わしていく。共に正座を組み、穏やかな雰囲気のまま会話は始まった。ところが、キリトには少しだけ心に引っかかる部分がある。

(なんだか松陽さんって、茅場晶彦と声が似ているな。いや、気のせいかもな)

 SAO開発者であり自分とも因縁がある茅場と、松陽の声が似ていると感じ取っていた。しかし人柄はまったく違うので、同一人物でない事は明白である。心の中で考えを巡らせる中で、松陽は早々と本題へ移っていた。

「それでは早速、キリト君の悩みを聞かせてもらえますか?」

「ああ。悩みっていう、悩みじゃないんだけどな」

 若干首を傾げながらも、キリトは自分が抱えている問題について打ち明けてみる。別世界の自分を後輩と差し替えて、特訓時に起きた出来事やこの場所まで来た経緯を大まかに話していく。

「――そうですか。弱気な後輩君を強くするために、一緒に特訓をしている途中で、相手が逃げ出してしまったという事ですね」

「そうだな。それで森の中を探していたら、ここに辿り着いたってところかな」

 彼からの話を聞いた松陽は、ゆっくりと頷いて問題の本質を読み解いていた。一旦目を閉じて自分なりの考えを構築する間に、場は静寂に包まれ声を上げづらい状況が続いている。キリト自身もつい相手の出方を伺う程であった。

(アレ? 急に目を閉じたけど、大丈夫かな?)

 心配もしているが既に皆無である。松陽は目を開けると、キリトへ目線を向けて優しい口調で言葉を返してきた。

「キリト君は立派ですね。後輩君の為に、ここまで懸命に動くなんて」

「いや、俺も教えるのには慣れてないんだよ。あの子を見ていたら、昔の弱い自分を思い出して、とても放ってはおけなくて……」

「でも、少し考えすぎではないでしょうか? その後輩君が、キリト君のように強くなるのもペースが異なると私は思うのですよ」

「そ、それは……」

 仲間想いの一面には感銘を受けた一方で、周りを見ずに突き進む行動力に対しては注意を加えている。松陽からの的確な答えには、キリトも思わず返す言葉が見つからない。責任感が強く心へ抱える事の多い彼は、周りが見えなくなる事もしばしばあった。自分が掲げる理想を重視した故の弊害が起きていたようである。

 キリトが真摯にその言葉を受け止めていると、松陽は気持ちを察して話を続けていく。

「どうやら心当たりがあるようですね。でも、大丈夫です。違いに気が付いただけでも、十分な進歩なんですから」

 穏やかな微笑みを浮かべて、前向きな言葉を彼はかけていた。さらに、自分のある考えも声に上げてくる。

「一つだけ私の考えを伝えましょう。キリト君や後輩君にも、きっと当てはまるはずですよ。人が誰しも持っている弱さは、決して変えられないという事はありません。抗って変わろうとする強さも、人は誰だって持っているのです。そんな経験が君にもあるのではないでしょうかね?」

 人の持つ弱さを強さに変える力。先生と言う器に収まる事のない、人として生きる覚悟を松陽はキリトへ教えていた。その考えに触れて、キリト自身も顔色を変えて深く心に受け止めている。

「……そうかもな。ちょっとだけ考えすぎたかもしれないな」

「原因が分かったなら何よりです。先程と比べて、表情も晴々としていますからね」

 表情も明るく戻っており、彼は徐々に前を向き始めていた。気持ちを新たにすると、早速行動へと移し始めている。

「そうとなれば……俺行くよ。この気持ちのまま、後輩と真摯に向き合いたいからな」

「迷いを振り切れて良かったですね。もしよろしければ、またここへ遊びに来てください。教え子たちにも、キリト君の事を紹介したいので」

「もちろん、また来ると思うよ」

 互いに微笑みを向けて、また新しい約束を共に交わしていく。キリトも松陽の事を頼れる大人であると、心から信頼を寄せていた。

(松陽先生……あんなに良心的な人が、この夢世界にもいるんだな)

 人柄の良さを認識した上で、彼は松下村塾を後にしている。一方で松陽も、真剣なキリトの姿を目にして陰ながら応援していた。

「頑張ってくださいね」

 こうして不思議な一時を過ごしていたキリトだったが、門を抜けると同時に場面に変化が訪れていく。

「アレ? 戻ってきたのか?」

 気が付くとそこには、木々が立ち並ぶ森の中である。数分前と同じ場所へ戻ってきたようであるが、振り返っても松下村塾や吉田松陽も一斉見当たらなかった。

「ずっと森をさまよっていたのか? じゃ、さっきの松陽先生は一体……」

 記憶は確かに覚えているはずだが、どれだけ見渡しても濃い霧しか見えてこない。彼が過ごした出来事は、霧の中の虚構でしか無かったのか? その真相は誰も分からない……

 

「坂田銀時……元攘夷志士で、現在は万事屋を営んでいるか。さっぱり聞いた事が無いな」

「またこのパターンかよ……。だったら、もう信じるのは自由だよ。都市伝説感覚で受け取っておけよ」

 一方で銀時も、見知らぬ科学者を相手に話し合いを進めている。その正体が茅場晶彦だと知らないままに、彼は名前や肩書きについて説明していた。狭い研究室にて行われる会話は、最初から暗雲が少なからず見えていたのだが――

「もし君が別世界から来ているなら、私は君の証言を信じようではないか」

「って、むしろ信じるのかよ!?」

「別におかしい事ではないだろ。パラレルワールドは、理論上存在する可能性が高いからな。立証がされていないだけで多くの人間は信じないが、私は普通に信じているつもりだ」

意外にも茅場は何一つ疑わずに受け入れている。侵入方法も分からない上に話も合わない事から、この結論に至っていた。表情は未だに無表情を貫いているが、これでももう疑ってはいない。やや上から目線の彼からの反応に、銀時はむしろ違和感を覚えている。

(いちいち生意気な奴だな。先生と同じ声でも、性格は全然違うってことかよ……)

 さらに茅場が松陽と似た声であると、心では察していた。例え同じ先生と言われる立場でも、その根本は大きく異なっている。そう銀時が感じていた時に、茅場はさらなる質問を仕掛けてきた。

「ところで一つ聞きたいのだが、君の世界には浮遊城なる巨大な建物は存在していないのか?」

 聞いてきたのは、浮遊城に関する情報である。

「浮遊城? ラピュ〇って程ではないが、ターミナルくらいなら俺は知っているよ」

「ターミナル? 駅の事か?」

「駅って言うか、宇宙と地球を結ぶ空港みたいなもんだ。あの技術があってこそ、俺のいた世界は普通に宇宙人も生活しているんだよ。もっとも、弊害が起きている事は言うまでもないがな」

 銀時は代わりに、自分の世界にあるターミナルについて紹介していた。銀魂世界における象徴であり、江戸の要と言っても過言ではない建物である。この返答には、茅場も予想外だったらしく若干驚いた表情をしていた。

「別の世界では、宇宙人も存在しているのか? いつかは、私も行ってみたいものだな」

「行けば良いだろうが。勝手に装置でも完成させて。というか、なんでアンタはそこまで別世界にこだわるんだよ。そんなにこの世界が嫌なのか?」

 より強く別世界への興味を示していたが、現実の事柄には一斉口にしていない。つい疑問に思い銀時が聞いてみると、茅場はすぐに答えを返してくる。

「否定は出来ないな。私自身昔からあの城の完成に執着しているからな」

 そう言うと彼は、壁紙に立てかけておいた巨大な城のイラストに指を指した。無機質な鉄の塊が集まった城であり、空中に浮かぶ姿はまさに浮遊城とも言える。美しさをも感じさせる外観には、銀時もつい息を呑んでいた。

「おいおい。あの城がアンタの理想だって言うのか?」

「ああ、そうだ。名前はアインクラッド。このイラストは、私が仮想世界で再現しようとしている浮遊城の全貌ってところだな」

「それはまた壮大な。遂に自らの手で作ろうってか。良い意味でアンタも、馬鹿正直な事をやろうとしているんだな」

「何とでも言え。私はアインクラッドの完成ならば、どんな犠牲だって払うつもりだ。例えそれが、人の道を踏み外そうとしてもな」

 茅場から計画の一部を聞かされた銀時は、彼の行動力やこだわりに呆れ果てている。現実への興味の無さは、あの浮遊城が全てを物語っていた。しまいには率直な言葉で揶揄していたが、彼は一斉動じていない。それどころか意味深な言葉まで呟いており、どこか危険な思想を匂わせていた。

「おい。それってどういう……」

「これ以上は深入りするな。例え別世界の人間であっても、ここからは企業秘密だからな」

 嫌な予感を察して問い詰めるも、軽くあしらわれてしまう。これ以上話しても恐らく発展性が無いと感じた銀時は、潮時と見て中途半端なタイミングで部屋を去る事にする。

「――そうかい。じゃ俺は帰らせてもらおうぜ。少年の心を忘れずに頑張れよ、ジブ〇男。バルスされないように気を付けろよ」

 適度に冗談を交えながら、彼はそのまま研究室を出て行った。茅場は一斉銀時へ目を向けずに、挨拶もしないまま退室を黙認している。

「フッ。最後まで訳の分からない男だったな――坂田銀時。名前だけは覚えておこうか」

 それでも自分の記憶には、別世界の客人としてちゃんと残しておくようだ。一人っきりになったところで、彼は中断していた研究を再開していく。

 そして銀時の方は、ある重大な見落としにようやく気付いている。

「アレ? そういえば、アイツの名前を聞いてなかったな。どっかに書いてないのか?」

 今まで話していた相手の名前を、すっかり聞き忘れていた。部屋の方角に振り返って表札を見てみると、そこには茅場晶彦と名が書かれている。

「茅場晶彦……どこかで聞いた事があるような」

 既視感を覚えていたが、やはり何も頭には思いつかない。考えに詰まらせていると、急に場面が大きく変わっていた。

「ん? 森に変わった!? さっきまでの研究室は……!?」

 気が付くと彼は、濃い霧が立ち込める森の中へと戻っている。もちろん研究室も、茅場晶彦なる人物も近くには存在していない。銀時もキリトと同じように、霧の中の虚構に惑わされていたのだろうか……

 

 銀時とキリトが不思議な体験をする傍らで、別世界のキリトは霧をかき分けて、誰もいない森の中でただ一人しゃがみ込んでいた。自分自身の弱さを嘆いて、ひたすらに責めている。

「ハァ……ハァ……僕には無理だって言っているのに」

 小粒の涙を浮かべながら、気持ちを落ち込ませていく。未だに自信を付けられずに、悲しみに包まれていたその時であった。

≪君を弱いと思ったことは一度もないよ。だって俺も、自信が持てずに悩み続けた時があったからな≫

 ふともう一人の自分から聞いた言葉を思い出している。その瞬間に涙を止めた彼は、その言葉の真意について考え始めていた。

「そうだよ……もう一人の僕だって、泣きたい事がたくさんあったのに、それを乗り越えて強くなっているんだよね。だったら、僕にも出来るのかな?」

 本物のキリトが抱えていた気持ちを悟って、自身の背中を強く押し始めている。心には変化が訪れており、今までよりも強い勇気が湧いていた。残っていた涙を腕で拭い、深呼吸を交わしたところで気持ちを落ち着かせると、近くである物体を発見した。

「これは……落ちてきた岩石か?」

 そこにあったのは、自分の背丈と同じくらいの岩石である。山から落石したものだと思われるが、キリトは怯む事は無くその岩石に向かい合っていく。

「ちょうどいいや。これを的にして、技の練習をしてみよう!」

 そう、自身を鍛え上げるために、岩石を練習台として使用するようだ。決意を新たにしており、その表情もやる気で満ち溢れている。背中に装備された二本の長剣を手に持つと、教えられた剣術を思い起こしながら、ひたすら岩石へ斬り刻んでいく。

「はぁ!! はっ!!」

 剣を振るう度に重厚な音が辺りに響き渡る。慣れない剣術を繰り返し行い、思い通りの技には中々完成へと行きつかない。それでも諦めずにキリトは、工夫を凝らして攻撃を続けていく。より素早く正確に。それを筆頭にして、一人だけの特訓は密かに続けられた。それから三十分が経過していくと、ようやく変化が現れる。

「ハァァ!!」

 交差するように斬り込んだ直後に、岩石は小さく音を立てて真っ二つに分かれた。輪切りのように決まった新技に、本人は驚きを隠せずにいる。

「えっ!? やった……遂に出来たんだ!! 僕自身の力で!!」

 努力を積み重ねた事により、達成した悲願に思わず喜びの声を上げた。長く時間はかかったが、別世界のキリトも自分の強さを見出している。おかげで自信も付き、新しい可能性を切り開くことが出来た。ひとまず心を落ち着かせて、達成感に酔いしれていた時である。

「ん!? この気配は……」

 急にキリトの表情が大きく変化した。邪悪なる敵意を近くで感じており、彼は恐る恐る警戒心を高めている。すると西側の崖から、ある話し声が僅かに聞こえてきた。

「この下か?」

 小声で呟きながら、キリトは気配を消して崖の下を覗いてみる。そこにいたのは、赤いマントを羽織った統率者らしき人物と、ボスと思われる大型のモンスターが解放ステージへと入る場面であった。

(統率者にモンスター? アレがエリア75の刺客なのか?)

 心の中で呟きながら、彼は手がかりを見つける為に統率者らの監視を続けている。そして瞬く間に、重大なる秘密を目撃してしまった。

(嘘……? 僕達が戦ってきた刺客の正体って……)

 予想もしない展開を見てしまい、つい言葉を失う始末である。自分達が戦ってきた過去をも覆す事実に触れて、大きく心を動揺させていた。

それでも相手に自分の存在が見つかれば元も子もない。驚嘆した気持ちをグッと心へ抑え込み、キリトは静かにこの場を後にする。幸運な事に統率者はキリトの存在に気が付かないまま、配下と共に解放ステージへと足を進めていった――

 

「銀さん!!」

「あっ? キリトか?」

 一方の銀時とキリトは、三度森を彷徨う中で再会を遂げている。お互いの無事を確認したところで、彼らは自分が体験した出来事について話し始めた。

「こっちは全然見つからなかったよ。それに……どこか幻を見ていた気がするんだ」

「奇遇だな、俺もだよ。森を探し回っていたら、研究室に辿り着いたからな」

「研究室? 俺は寺子屋らしき学び舎に行っていたんだが」

「何!? そんな所に行っていたのかよ……」

 情報を交換する中で、また新しい発見を伝えている。捜索していた別世界のキリトは見つかっていないが、代わりに二人は霧の中での出会いを口にしていた。状況の違いから誤差が生じているが、共通しているのは幻のように消えていった点である。不可思議な現象に興味を持ち始めており、さらに追求しようとした時だった。

「お~い! 二人共―!!」

 急にキリトらしき男子の声が聞こえてくる。後ろを振り返り見てみると、そこには森へ逃げ込んだもう一人のキリトがこちらへと向かっていた。合流すると同時に喜びを浮かべているが、対照的に銀時やキリトは心配を念頭に話しかけてくる。

「って、お前!? ようやくお出ましかよ……」

「ごめん……。ずっと森の中で、自分を強くしていたんだよ」

「強く? つまり特訓していたって事か?」

 予想もしない答えを聞き、キリトが再び質問すると、別世界のキリトは自信良く返答した。

「うん。途中で投げ出したりしてごめんね。でも、君の言う通りにやってみたら、ようやく達成できたんだよ! だから……教えてくれてありがとうね」

「いや、俺も君の気持ちを察せなくてごめんな。少し考えすぎていた部分もあったから」

「そんな事はないよ。だから気にしないでって」

 誇らしげな表情で感謝を伝えているが、本物のキリトからすれば急激な変化に戸惑いを示している。落ち込む事の多いもう一人の自分だったが、自信が付くと前向きに気持ちが切り替わるようだ。それでも彼は、相手が満足しているならばそれが本望であった。

(心配は杞憂だったって事か。でもまた何かあるといけないから、油断は禁物だな。ちゃんと相手のペースを考えて行動しないと)

 心では松陽からの教えを思い起こしており、さらに気を引き締めている。一方銀時も、同じような考えを頭に浮かべていた。

(まぁ、一件落着ってところだな。あんななよなよしい奴が、ここまで自信を付けるなんて。元に戻らなきゃいいんだけどな……)

 期待と共に微弱な不安も感じている。願わくは前向きな気持ちで、このまま戦いを乗り切ってほしいと考えていた。再会の余韻に浸りながら話す三人であったが、ここで唐突にもお迎えがやって来る。

「ナー!!」

「あっ、見つけたアル! 三人共!」

「って、神楽? それにみんなも?」

 聞こえてきたのは、甲高い竜の鳴き声と万事屋である仲間達の声。近くを見渡してみると、後ろからピナと神楽、新八、ユイ、アスナの四人が駆けつけてきた。

「おいおい、どうしたんだよ? そんなに急いで。まさか俺達まで迷子扱いにされているのか?」

「まぁ、だいたいそんな感じですよ……それよりも、みなさん! もう仲間達がほぼ集まっているんですよ!!」

「えっ? そうなのか!?」

 息継ぎをしながら新八は、銀時らにアジトの現状を言い放っている。どうやら彼によれば、もう既に仲間達が集まっているようだ。さらに、ユイやアスナも続けて声を上げてくる。

「その通りですよ! 後はパパや銀時さん達だけなんですから!」

「もう一人の私も随分イライラしていたわよ。さっさと戻りましょう。ピナちゃんが連れてってくれるみたいだから!」

「ナー!」

 自分の名が挙がり元気よく鳴き声を返すピナ。そんな彼とは違い、万事屋の四人はみな真剣な表情を続けていた。遅刻である事態を察すると、ようやくキリトら三人も焦りが生じている。

「って事は、遅刻だよな?」

「そ、そうだよ! は、早く戻らないと!! アスナさんにしごかれる!」

「そうなのか? と、とりあえず辿った道を戻ろう! ピナ! 案内頼むな!」

「ナウー!」

 自身の立場を知った上で、一行は緊張感を持ちながらアジト内へと戻っていった。森を走り去る中で、銀時やキリトらは各々に起きた出来事を振り返っている。幻のように消えていった吉田松陽と茅場晶彦。そして統率者や刺客の秘密。強く印象に残った記憶を、三人は心に深く刻み込んでいた――

 




 まさかの夢の中で、それぞれ違う師との再会。いかがだったでしょうか? さぁ、次回はどうなっていくのでしょうか。




次回予告
遂に解放を賭けた戦いが始まる。
作戦を組み立てる中で、さらなる情報が伝えられた。
「あの……実は」
事態は大きく動き出す……

夢幻解放篇八 攻略開始
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