剣魂    作:トライアル

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 祝え! 万事屋のリーダーでもあり、銀魂の主人公を務める侍の誕生日を! その名は坂田銀時! これからも大いに活躍する彼に、祝辞を述べようではないか!

 ……すいません。何とか頑張ったんですが、全然生誕祭に間に合いませんでした。でもこれで、アスナ、キリト、銀さん。主要キャラの誕生日は祝えた……シリカだけは出来なかったけど。

 そんなこんなで誕生日ラッシュが続く中、今回はシノンの主役回をお届けします。では、どうぞ。



第四十一訓 サプライズは最後まで貫き通せ

 八月もいよいよ終盤を迎えようとする今日この頃。かぶき町公園では、暑さに負けじと子供達がはしゃいで遊びまわっている。活気が飛び交う公園にて、一人の少女はベンチに座り、物静かに読書を楽しんでいた。

「ふぅ……終わっちゃった。中々面白い物語だったわね」

 読み終わると同時に体を伸ばして、自身の柔らかい猫耳をさすっていく。そう、少女の正体は超パフュームに所属するシノンである。彼女は休みが出来ると、公園や広場に出向くことが多く、毎回お気に入りの本を持ち寄って、一人の時間を楽しんでいた。今回は雨を主題にした群像劇を読み込んでおり、完成度の高さからつい満足感に浸っている。

「雨の中での再起ね……やっぱり粘り続けるのが肝心なのかしらね」

 印象的な場面を思い起こして、空を見上げていく。残念ながら天気は小説と違い晴天だが、お構いなしに深呼吸をして心を落ち着かせていた。

「さてと……そろそろ戻ろうかしら」

 そう呟くと彼女は、晴々とした気持ちのまま、身支度を始めている。ベンチを立ち上がって、ひのやへ戻ろうとした――その時であった。

「ん? そこにいるのは誰なの?」

 突然背後からの視線を感じて、顔色を急変させている。後ろの茂みから人の気配を察しており、振り返りざまに問いかけた。すると、茂みから姿を現したのは一人の少年である。

「えっ? 君は一体……?」

 もちろんシノンにとっては、初対面の相手であった。無愛想な表情でやんちゃな雰囲気を持っているが、その印象とは一変して手には糸や針、作りかけの猫のぬいぐるみを抱えている。明らかに訳がありそうな佇まいであった。

「はぁ……バレたか。分かったよ。ちゃんと訳は話すから、勘弁してくれよな」

 一方で彼は悪びれず素直に接しており、シノンへ近づき訳を説明していく。この出会いがきっかけで、彼女の心境には大きな変化が訪れている――

 

 一人の少年と接触したシノンは、再びベンチへと座って彼の話を聞き入る事にしていた。風貌とは異なる堂々とした性格から、悪意が無いと察しており、彼女には信じる気持ちが湧いている。少年も呼吸を整えたところで、ようやく会話が始まっていく。

「まずは自己紹介からだな。俺はちはるって言うんだ。近くの寺子屋に通う生徒だよ。姉ちゃんは、そもそも何て名前なんだよ?」

「私はシノンよ。地球には留学目的で訪れていて、今は百華のお手伝いをしているわ」

「そっか……やっぱり天人だよな。猫耳や尻尾も生やしているし……」

 互いにまずは自己紹介から交わしている。少年の名は「ちはる」であり、晴太と同じく寺子屋に通う生徒であった。一方のシノンも自己紹介をしたが、以前の約束通りに天人の留学生と称して誤魔化している。嘘を伝える事には、少しだけ罪悪感を覚えていた。

(本当は別世界の地球人だけどね……)

 気付かれないように心の中で、こっそり本音を呟いていく。

 そんな事情はさておき、話はいよいよ本題に移っている。

「それで、ちはる君はどうして隠れていたの? 後……このぬいぐるみは何かしら?」

「実はな……言いづらいけど、姉ちゃんをモデルにしてぬいぐるみを作っていたんだよ」

「えっ、私なの!?」

 予想もしない返答を聞き、シノンも動揺して大きく声を発してしまう。ぬいぐるみ作りはどことなく想像は出来ていたが、そのモデルに自分が選ばれていたことが衝撃的であった。驚きに包まれる彼女とは対照的に、ちはるは顔を赤くして、恥ずかしそうに話を続けていく。

「だから言いたくなかったんだ! 正直ドン引きすると思って、言いづらかったんだよ……」

「いや、そうじゃなくて……そもそもなんで、私をモデルにしていたの?」

「実は――俺には目的があって、今はこの猫のぬいぐるみ作りに全力を注いでいるんだよ。慣れてなくて最初は戸惑っていたけど、シノン姉ちゃんが公園に来てからは自然と調子が上がっていったんだ。この猫のイメージとぴったり合っていて……。でも中々本人に言いづらくて、今に至ってんだよ……」

 終始言葉を詰まらせながら、彼は伝えるべきことを包み隠さずに話している。ちはるの作っていたぬいぐるみをよく見てみると、水色の体色に大きい猫耳とシノンの印象とまるで一致していた。流石に顔はゆるキャラっぽいアニメチックな猫になっていたが、それでも彼女を思わせる箇所は、所々に散りばめられている。

 その真相を知ったシノンは、気を引かすことも無く、真摯にちはると向き合っていく。

「確かに私と似ている部分もあるけど、それだったら別に話してくれても良いのに。ちゃんとした理由があって、ちはる君はぬいぐるみ作りに取り組んでいるのよね?」

「そ、そうだけど……出来ないんだよ。姉ちゃんみたいな美人さんには、正直声もかけづらいし……」

 さらに説明を続けていくと、彼はさらに恐縮して恥ずかしがっていた。男子特有の淡い感情が前面となって、声をかけられなかったらしい。率直な理由を聞き、シノンも徐々に理解を深めている。

(この子、結構女子には控え目なタイプなのね。というか……美人と言われると私も返答に困るわね……)

 しかし彼女も誉め言葉には弱かった。嬉しく感じている分、若干頬を赤くして静かに照れている。どうにか心を落ち着かせて、シノンはさらに会話を振り下げていく。

「えっと、まずは褒めてくれてありがとうね。それでもう一つ質問なんだけど、ちはる君が言うぬいぐるみを作る目的って一体何なの?」

「それだけど……実は近々、俺に家族が増えるんだよね」

「家族? 妹さんや弟さんが生まれるってこと?」

「そう。妹なんだけど、もうそろそろ生まれるんだよな。母さんは今産婦人科にいて、出産の準備の真っ只中なんだ。俺も出来る事をやろうと思って、サプライズでぬいぐるみを作っているんだよ……これから生まれてくる妹の為に!」

 ここで彼の心情がようやく明るみとなっている。ぬいぐるみを製作する本当の理由は、新しい家族を迎い入れる為であった。一段と嬉しそうに話すちはるの様子から、相当な家族思いである事が伺える。母親には内緒で進めながら、慣れない裁縫を頑張っているようだ。

 しかしシノンの反応は異なっており、家族と言う言葉に引っかかって、複雑そうな表情を浮かべている。

「そっか……家族の為に頑張っているのね」

「ん? どうしたんだ?」

「いいや、なんでもないわ。ちょっと考えていただけよ」

 ちはるの前では平然を装っていたが、その心にはある葛藤が生まれていた。

 実を言うとシノンは、家族と言う存在をあまり理解していない。幼少期から父親を早くに亡くして、母親ともある事件から疎遠となり、以来祖父母としか関係を維持していなかった。年を重なるごとに自立心が強くなり、元の世界では一人暮らしを続ける彼女にとって、家族は遠い存在のように感じている。現状のちはると見比べれば、真逆の立場である事がよく理解できる。

(この子は家族の事を大切に思っているのね……聞いているだけで、その想いが伝わってくるもの。私にもこの気持ちが、分かる日が来るのかな……)

 あまり表面上には出さずに、心の中でそっと呟いていく。彼女は徐々に気持ちを切り替えていき、心に出来た葛藤も抑え込んでいた。無理のないように笑顔を浮かべると、自分から再び話を切り出している。

「ねぇ、ちはる君。話を聞いていて思ったんだけど……良ければ私も、ぬいぐるみ製作を手伝っていいかしら?」

「えっ、良いのか!? 姉ちゃんをモデルにしても?」

「構わないわよ。時間もあるから、焦らずゆっくりと進めていきましょう」

「あ、ありがとう! この恩は一生忘れねぇよ!」

 自ら進んで協力を持ち掛けており、彼の希望通りに応えようとしていた。それを聞いた本人は、屈託のない笑顔を見せて喜んでいる。シノンもつられて優しく微笑んでいたが、心にはある本音がよぎっていた。

(ちはる君の家族愛に触れていければ、私にもその大切さが分かるのかな……?)

 純粋な想いを持つちはると接していけば、考えが変わるかもしれない。微かに感じていた家族の憧れが、薄っすらと蘇りつつある。そう思ってシノンは、積極的に協力を設けていた。かくして互いの理想が交差する中で、ぬいぐるみ製作は再開したのである。

 

「どうかな、こんな感じで?」

「良いんじゃない。中々可愛いわよ」

 それから数分が経った頃。二人は試行錯誤を繰り返して、猫のぬいぐるみ製作を順調に続けていた。モデルになったシノンが間近にいることで、ちはるの作業効率も上がっている。未経験者でありながら、その裁縫技術は彼女をも驚かせていた。

「結構手際が良いわね。本当に初心者なの?」

「いいや。シノン姉ちゃんが近くにいるから、作業がはかどるんだよ! 折角協力してくれたんだから、立派なモノを作らないと!」

「フフ、気合十分ね! でも、怪我はしないように気を付けて」

 ちはるは一段と気合が入っており、声を弾ませつつ縫い続けている。楽しそうに製作する彼の姿には、シノンも一安心して見守っていた。

 穏やかな雰囲気のまま時間を有意義に過ごしていると、突如として二人の元にとある乱暴者が介入していく。

「よぉ! またぬいぐるみでも、作ってんのかよ!」

「男子のくせして、女々しいよな!」

 聞こえてきたのは、ちはるを煽るような文句である。振り向くとそこにいたのは、目つきの悪い男子二人組であった。

「何あの子達? ちはる君の知り合いなの?」

「いいや、違ぇよ。アイツらはよっちゃんとけんちゃんだ。この近くを牛耳るいわば――ガキ大将ってヤツだよ」

「つまり、関わるとめんどくさい子達って事ね」

 二人組の正体を聞き、シノンは率直な言葉で揶揄している。彼らの名はよっちゃんとけんちゃんと呼ばれている近所のガキ大将達であった。気に入らない相手へ喧嘩を売るのも日常茶飯事であり、公園でぬいぐるみを縫うちはるは、既に目を付けられている。彼は目つきを鋭くさせて、適当によっちゃんらをあしらっていく。

「なんだよ。俺をいじる暇があるなら、勉強でもして来たらどうだ?」

「そんなことはするかよ。それよりもよぉ……いつ出来上がるんだよ? 早く完成させて、おままごとでも始めたらどうなんだ?」

「てめぇ……何度も言ってんだろ。俺は使命があって、このぬいぐるみを縫っていると」

「何ムキになってんだよ! お前のセンスじゃ、ぬいぐるみなんかで新しい家族も喜ばねぇつーの!! ハハハ!!」

「お前等、言わせておけば……!」

「やめなさい、ちはる君! 挑発に乗っちゃダメよ!」

 ちはるはつい怒りを抑えきれなくなり、このまま実力行使へと移っている。しかし、間一髪でシノンに止められて事なきを得ていた。場は一触即発の雰囲気に包まれているが、ここでよっちゃんは近くにいたシノンにも喧嘩を売っている。

「ん? もしかして、猫耳姉ちゃんもこいつの味方しているのか? だったら、やめといた方がいいぜ。こんな女々しい奴の手伝いをしたって、時間の無駄だからな」

「そうだぜ! 止めとけ! 止めとけ!」

 ケンちゃんも続けて煽り文句を口にしていく。例え年上だろうと、彼らにとっては関係なかった。対立意識が続き緊張が走る中で、シノンは二人の言葉を聞き入れずに、冷静とした態度で反論を発している。

「女々しいからって、手伝っちゃいけないのかしら?」

「あん?」

「……私は、この子の純粋な優しさに応えたくて手伝っているのよ。新しい家族を迎い入れるのに、間違っている事はしているのかしら? それとも、気持ちを分かった上で、アナタ達は批判しているの?」

 大人っぽい真剣な表情を見せて、言葉一つ一つをはっきりと伝えていた。自身が感じていた強い気持ちを表して、ちはるを咄嗟に守っている。シノンの本気に触れていくと、よっちゃん達の勢いも徐々に失い始めていた。

「って、それは……」

「ちっ! 分が悪いな! 今日はこのくらいで勘弁してやるよ!」

「お、覚えておけよ!!」

 返す言葉が見当たらずに、二人はのこのこと公園を立ち去っていく。一時的ではあるが、衝突の危機だけは回避できた。一方でちはるは、守ってくれたシノンの行動を見て驚きを示している。

「シ、シノン姉ちゃん?」

「フゥ……私も我慢できなかったのよ。頑張っている人を馬鹿にするなんて、腹が立っちゃうもの。さぁ、気を取り直して製作に戻りましょう!」

「あ、ありがとうな……」

 場を収めてくれたことに恩を感じており、静かに礼を伝えていく。そして何事も無かったかのように、二人はぬいぐるみ製作を再開させていた。その最中で彼女は、心の内側で一連の流れを振り返っている。

(この子も大変なのね……いじめっ子たちにも目を付けられて。どうにか、気にしなければいいんだけど……)

 因縁を持たれているよっちゃんらとの、今後の関係について気にかけていた。大きい騒動に至らないことを、今はただ祈るしかない。進展するぬいぐるみ製作であったが、その道筋には思わぬ危険も潜んでいる。そう感じた一幕であった。

 

 さらに数時間が経った頃。時刻はすっかり夕方へと移り変わり、真っ赤な夕焼けが空一面を覆い始めている。集中して続けていたぬいぐるみ製作も、二人の帰宅時間を考慮して一時中断となった。状況は順調であり、シノンの協力もあってか完成はほぼ目前に迫っている。

「よし! 今日はこの辺でやめておくか」

「お疲れ様、ちはる君。随分と頑張ったわね。これなら、後少しで完成するんじゃない?」

「何とか間に合いそうだからな。これもシノン姉ちゃんが、協力してくれたおかげだよ!」

「どういたしまして。猫のモデルでも頼りになれたなら、私はそれだけで十分よ。この調子で進めて、立派なぬいぐるみを完成させてね!」

「もちろんだよ!」

 達成感に浸っていた二人は、互いに感謝の言葉を掛け合って、綺麗に場を締め括っていく。無邪気にも子供らしい喜びを見せるちはるの姿を見て、シノンも同じくらい微笑んで返していた。偶然の出会いを通じて育まれた縁は、共に新しい刺激を与えている。

 だが一方で、惜しくも別れの時間が訪れていた。

「あっ、もうこんな時間か。それじゃ俺はこの辺で帰るよ。じゃあね、姉ちゃん!」

「うん、さようなら!」

 門限が迫っているためか、急ぎ気味にちはるは別れの挨拶を済ましている。ぬいぐるみや裁縫道具を抱きかかえて、そのまま公園を去っていく。シノンも静かに手を振って、彼の姿を見守っていた。

 そしてまた一人になったところで、彼女の表情はまた切なく変わっている。家族想いなちはるの一面を見てもなお、家族と言う存在をまだ具体的には掴めていない。内心では迷いが広がっており、さらに考えを詰まらせている。

(ちはる君の持つ家族愛だけは理解できたけど、やっぱり私にはまだ分からないよ。なんでそこまで、大切に思えるの?)

 顔もうつむいてしまい、心の中では何度も疑問の壁にぶつかっていく。彼のように自然と芽生えてくる親の愛情が、自分には中々伝わっていなかった。他者と比べてしまい悩みを重ねていくシノンだが、そんな彼女の元にある知り合いが近づいてきた。

〈ヒュー〉

「ん? って、冷た!? いきなり何するのよ!?」

 唐突にもシノンの右肩に、少量の水が降りかかっている。反射的に驚き声を上げると、思わず前を向いていく。そこで目にしたのは、

「って、銀さん!?」

「やっぱりお前かよ。こんなところで、何やってんだ?」

水鉄砲を手にしていた万事屋のリーダー、坂田銀時であった。相も変わらず気だるい声や態度で接しており、自堕落な一面が垣間見えている。おかげでさっきまでの重い空気感は、いつの間にか吹き飛んでいた。良い意味でも悪い意味でも、現状のシノンにとっては突破口となっている。本人は苦い表情のまま、銀時に呆れを覚えていたが……。それはさておき彼女は、渋々彼との会話に徹していた。

「……いや、別になんでもないわよ。今日はオフだったから、公園で読書をしていただけよ。それよりも、銀さんこそ何の用で来たの?」

「ただ冷やかしに来ただけだよ。遠目で見かけたらおめぇがしょんぼりしていたから、この水鉄砲をかけたってわけだ」

「どんな理由よ!? そもそも水なんかかけてこないでよね! 猫にとっての弱点なんだから、結構嫌うなのよ!」

「おめぇ、そこまで猫じゃねぇだろうが……。ったく、折角地球防衛軍から仕入れてきたのによ」

「どんな場所から、持ってきているのよ……」

「勘違いするな。ただのリサイクルショップだよ」

「全然ツッコミが追い付かないんだけど……」

 続々と降りかかっていくボケとツッコミの応酬には、シノンもつい疲れを覚える始末である。銀時なりの気遣いではあったが、どれも思いつきで実行しているため、特に一貫性は無かった。声をかけた理由、水鉄砲を手に入れた経緯だけでもう十分である。

これ以上面倒には巻き込まれたくないため、シノンはこのまま場を飛び去ろうと考えていた。

「もう分かったから、何も無いなら私は帰るわよ」

 そう言って本を持ち、背中に生えた黄色く透明な羽を広げて、飛び立つ準備を進めていく。しかし、銀時からはある意外な一言が投げかけられる。

「用ならあるぞ。日輪のところに持っていく荷物があってな……吉原へ行くついでに、お前も送ってやるか?」

「えっ? 銀さんのスクーターに?」

「それ以外何があるんだよ。別にめんどかったら、このまま飛んでも良いけどよ」

 ぶっきらぼうな態度で提案したのは、想像も付かなかった送迎であった。どうやら荷物を届ける傍らで、シノンを家に送っても構わないようである。これを聞いた彼女は、一旦羽を閉じると急に悩み始めていた。

(銀さんにしては珍しい対応ね。よっぽど気を遣っているのかしら……?)

 彼の本心は不明であったが、さり気ない気遣いには好感を持っている。現状では一人でいるよりも、話し相手のいる方が精神的に楽だと察していた。悩んだ末の決断を、早速銀時へ返していく。

「じゃ、銀さんの言葉に甘えて、乗せてもらえるかしら?」

「ああ。でも今更なんだが……このヘルメットに、お前の猫耳入るか?」

「って、そこは最初に確認しときなさいよ!!」

 了承はしたものの、いきなり無理を問われてしまい、またしても彼女は激しいツッコミを加えている。彼が用意したヘルメットでは、どう見ても猫耳が入らない仕様となっていた。

 早々にハプニングがあったが、結局ヘルメットを押し込んで解決はしている。若干の不満を感じながらも、シノンは銀時へついていき、共にスクーターへ乗り込んで目的地である吉原へと出発していく。

 その道中でも、やはり文句は絶えずに会話が続けられていた。

「ねぇ、やっぱりこのヘルメットきついんだけど……」

「人間用に作られているからな。しばらく押し込んどいて、我慢しとけよ」

「はぁ……いつも銀さんはいい加減なんだから。本当にキリトとは偉い違いね!」

「当たり前だろ。価値観なんて人それぞれだから、バラバラでいいんだよ」

「だったらせめて、男らしさを見せなさいよ……」

 適当な言い訳を続ける銀時の応対に、シノンは何度も呆れを口にしている。マイペースともとれる彼の性格には、男どころか大人としても見る事は無かった。

 そんな二人を乗せたスクーターは、江戸の町並みを抜けて吉原へと続く住宅街付近に方向を変えている。同時にシノンも頃合いを見て、銀時に自身の苦悩を打ち明かしていく。

「ねぇ、銀さん。一つ聞いてもいいかしら?」

「あん、何だよ?」

「……実は今日、ぬいぐるみを縫っている男の子と出会ったのよ。なんでも生まれてくる妹さんのために、家族には内緒で作っていたのよね」

「そりゃ、珍しいガキだな。まだ生まれてもいねぇのに、張り切っているじゃねぇか。それで、そいつがどうしたんだよ?」

「ううん。ちはる君の事じゃなくて、悩んでいるのは私の方。あの子の家族愛が、いまいち分からない時があるのよ。理解したいのに、何故か気持ちが付いていかなくて……」

 感じ取っていた気持ちのズレ。分かりたいのに理解できない矛盾。密かに思っていた家族への憧れ。彼女は赤裸々に感じていた心の内を話していた。それを聞いた銀時は真剣に表情を変えて、慎重に返答を悩み続けている。そして丁度赤信号に差し掛かり、スクーターを停止させたところで、ようやく話しかけていく。

「結局悩んでいたのかよ。だったら、自分で問い詰めても答えは出ねぇよ。限界を悟っている証だ。それだったら、もっと身近な奴に打ち明けたらどうだ? もし仲間とかに話しづらいなら、月詠や日輪も頼りになるとは思うぞ。男の俺が言うよりも、女同士で話した方がきっといい方向に向くよ」

 相手に寄り添うようなトゲの無い言葉で、大雑把に答えを伝えていた。この大人らしい対応には、シノンもつい目新しさを覚えている。自らの励みにしながら、銀時なりの優しさを受け止めていた。

「そうだよね。ありがとうね銀さん。素直に答えてくれて……でも、アナタ自身はどう思っているの?」

 彼女は礼を伝えるとともに、流れに乗って彼なりの意見を聞いている。信号も青に移り変わって、スクーターも動き出したところで、銀時から聞こえてきたのは――

「ス―。スー」

わざとらしいいびきのフリであった。

「って、何寝たふり使っているのよ! 運転しながらつく嘘じゃないでしょうが!」

「痛ぇ、やめろ! てめぇ、どんだけ俺に当たり強いんだよ!? さっきまでの空気はどこいったんだよ!?」

「アンタがボケるから台無しになるんでしょ! 少しは自重しなさいよ!!」

 シノンの悲痛なる思いが、道路にてこだまするように響いていく。またしても垣間見えた銀時のいい加減さには、彼女も辟易として怒りをぶつけている。再会した時と同じく、しんみりとした雰囲気が急に破壊された。銀時も若干の被害を受けつつも、運転だけはしっかりと続けていく。

 巡っていく心理の中にて、シノンは少しだけ気持ちを楽にしている。それでもまだ答えが出ないのは事実であった。銀時もその様子だけは察しており、かけるべき言葉を頭の中にて模索していく。吉原までの到着はもう少しであったが……

 

 その日の夜。ひのやへ戻ってきてもなお、シノンは家族についての悩みを未だに引きずっている。銀時からのアドバイスを受けたものの、やはりすぐには行動出来なかった。自分自身で考えを続けて、答えが出るまで粘っている。

 現在彼女は寝間着へと着替えており、窓際から見える月を眺めながら、自分なりも考えを続けていた。

「はぁ……結局、何が正解なのかしらね」

 切ない表情でそっとため息を吐いている。そんな彼女の様子を心配して、月詠やシリカら仲間達は戸の隙間から密かに見張っていた。

「どうしたのでしょうか、シノンさん? 帰ってきてから、ずっとあの調子だし」

「かなり悩んでいるみたいだけど、何かあったのかな?」

「もうすぐあの日なのに……これじゃ、盛り上がるか心配だよ!」

 長い付き合いであるシリカ、リズベット、リーファの三人は口々に不安を呟く。内緒で進めているある計画にも、一抹の不安がよぎっている。とここで、月詠だけは我慢できずに早くも行動へと移していた。

「ならばやむを得んか……わっちが話してみるかのう?」

「って、月姉さん!? 流石に早すぎますよ!」

「もう少し様子を見ておかないと! 変な空気になっちゃ困るでしょ?」

「シノンさん結構ナイーブだから、まずはそっとさせた方がいいよ!」

「そうか? ならばやめておくが……」

 強引にも突入を企てており、速攻で三人からは否定を受けている。まだ慎重にシノンの様子を見定めており、話しやすい雰囲気を彼女達は狙っていた。いずれにしても四人にも、心配の念は拡大している。

 

 揺れ動くシノンの心。家族愛に溢れるちはるのサプライズ計画。さらなる悪事を考え付くよっちゃん達。密かに心配を感じている銀時。多くの想いが混ざり合う中で、みなは新しい明日を迎えていく。果たして彼女は、答えに辿り着くことが出来るのだろうか?




没案
 祝え! 小柄でありながら努力をたゆまぬビーストテイマーの生誕を! その名は綾野珪子(シリカの本名)! 剣魂では地味に出番の多い彼女に、祝福を送ろうではないか!

 誕生日にちなんで投稿した結果、全然上手くはいきませんでした。(汗) シリカ、キリト、銀さんって三日おきに誕生日来るのは、中々えぐいです。来年はもうアスナも含めて、全員分まとめちゃおうかな……

 さて、ここからは後書きになりますが、今回は銀魂でよくある感動系を意識して話を作っています。家族と言うテーマを題にして、シノンをベースに進めていきましたが、いかがだったでしょうか? 本編とはまた違った感覚で、シノンの心情や成長を描いていけたら幸いです。
 ちなみに……よっちゃんはオリキャラではなく銀魂本篇の登場キャラクターです。まぁ、またマイナーキャラですよね。
 それはともかくとして、シノンの心も揺れ動く中で、続きは後篇に回します。
 では、また次回まで!

 後、SAOの放送が再開しましたが、「剣魂」ではまったく影響を受けずに独自の路線で続けていきます。そこはご了承ください。(アリスやユージオ等新キャラクター達の出演は……まだ未定です)
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