剣魂    作:トライアル

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 祝え! 大食いで毒舌ながらも、女子らしい一面も持つ銀魂ヒロインの生誕を! その名は神楽! 剣魂でも個性を光らせる彼女の凱旋である!

 ……もう何回祝っているんでしょうね。予定外ではありますが、またウォズネタで誕生日を祝いました。二日過ぎてしまいましたが……投稿してない間にも、お妙ちゃんも誕生日を迎えて益々誕生日ラッシュが続いています。
 さて、久しぶりの投稿となりますが、今回は家族篇の後半です。結構内容を詰め込んでいるので、時間に余裕がある時にお読みください。それでは、どうぞ。



第四十二訓 迷いが晴れる日

 シノンがちはると出会ってから、二日が経過した八月の二十一日。彼女は未だに理想的な家族像を模索しており、内心ではさらなる疑問を積み重ねている。月詠や仲間達にも本心を明かすことは無く、平然を装って誤魔化していた。

 そんな彼女は現在、当番でもあった日輪が経営する茶屋を手伝っている。迷い続けている気持ちを押さえながら、接客へと臨んでいたのが――

「うーん……全然お客さんが入ってこないわね」

今日に限ってはまったく客足が途絶えていた。平日の昼時にも関わらず、店内には誰一人として客が入っていない。まさに閑古鳥が鳴く状態である。その理由として、シノンはだいたいの目星が付いていた。

「やっぱり、この曇天が原因なのかしらね」

 外へと近づき空模様を覗くと、暗くて分厚い雲が空全体を覆い、今にも雨が降り出しそうな光景が広がっている。この天気は朝から続いており、おかげで付近の通りもまばらにしか人が歩いていない。気温が高く湿気の多い夏の時期だからこそ、じめじめとした雰囲気は人々に陰鬱な印象を与えていく。

 もちろんシノンも、この曇天には好ましく思っていない。自身の悩み続ける心境と照らし合わせて、内心ではさらに考えを詰まらせていた。

(それにしても嫌な天気ね。自分が迷っている時に限って、全然晴れないなんて……まるであの時に読んだ小説と同じ状況だわ)

 より複雑な表情を浮かべて、つい迷いに苛まれてしまう。二日前に読んだ小説の場面も思い出しており、何も感じられない無常さを悟っている。心の整理が上手くできずに、じっと動きを止めていた時であった。

「どうしたの、シノンちゃん? ずっと空を見上げていて」

「ん? 日輪さん?」

 孤独な空気を打ち破るようにして、店主である日輪が後ろから話しかけてくる。そっと微笑みを見せた後に、彼女は車椅子を動かしてシノンへ近づいていく。

「今日は夕方くらいから晴れるみたいよ。それまではずっと曇りで、雨も降るみたいだから、お客さんは中々来ないと思うわ」

「えっ? そうなのね……」

「ウチってこういう天気に限って、全然お客さんが入らないのよ。だから、しばらくは休んでいても大丈夫よ。ちょうどお茶も出来上がるから、一緒に飲みましょうよ」

 日輪の明るいペースにつられて、店の事情を聞いていると、急に彼女はお茶を取りにキッチンへ戻っている。咄嗟に勧められた誘いには、シノンも驚きつつ母親のようなお節介を感じていた。それでも好意的に受け取っており、気遣いを察して、さり気ない笑みを浮かべていく。

「私はお客さんじゃないんだけど……まぁでも、日輪さんらしいわね。おかげで気持ちも楽になった気がするわ」

 悩み続けていた雰囲気が変わり、つい彼女の行動には感謝を覚えている。呼吸を整えてから近くの客席へ座ると、トレイに急須や湯呑を置く形で、日輪が運んで持ってきていた。

「はい、どうぞ。今日のお茶は自信があってね、思い切ってほうじ茶を入れてみたのよ」

「ほうじ茶ね……あんまり飲んだことのないお茶かも」

「知られてはいないけど、結構効果も多いのよ。冷え性の改善や、リラックス効果もあって、休憩には打ってつけの代物だと思っているわ」

「へぇーそうなのね。じゃ、ありがたく頂くわね」

 シノンの横隣りへと置き、彼女は丁寧にも淹れたお茶について説明していく。今日の気分に合わせて茶の種類を変えており、効能の多いほうじ茶を快く勧めていた。

 分かりやすい説明にはシノンも興味を持ち始めており、ひとまずは湯呑を手にしている。匂いからじっくりと楽しんだ後、そのまま口へ含み「ゴクッ」と飲み始めていた。

(……あっ、意外においしいかも。さっぱりとしていて、飲みやすいわね)

 その味わいは予想を優に上回っている。癖がなく香ばしいすっきりとした味が、口全体に広がり満足感へと浸っていく。表情もほのかに赤くなっており、身も心も温かく満たされている。日輪の勧めた通り、現状のシノンにとってはぴったりのお茶であった。

「うん、かなりおいしいわね。日輪さんの言う通り、だいぶ心も落ち着くわ」

「気に入ってくれたなら嬉しいわ。これでシノンちゃんの迷いも、解消できるといいわね」

「そうね……って、迷い?」

 彼女がお礼を伝えた矢先に、事態は急展開を迎えている。日輪の言い放った確信を突く言葉を聞き、シノンは顔色や態度を急変させていた。真意を悟られないように警戒していると、日輪は優しい口調で本来の目的について話してくる。

「急に問いかけてごめんなさいね。でも実は昨日、月詠達から聞いたのよ。シノンちゃんの元気が無くて、何かあったんじゃないかって」

「そ、それは……少し悩んでいただけで……」

 気まずそうに答えるシノンとは対照的に、彼女は相手の気持ちを探りながら慎重に話を進めていく。

「悩みね……それだったら、尚更放ってはおけないわ。私から言うのはお節介かもしれないけど、シノンちゃんが困っているなら相談に乗れるわよ。今すぐじゃなくてもいいから、後はアナタの決断に任せるわ」

 穏やかな表情を保ったまま、自らの想いを惜しげもなく伝えてきた。密かにシノンの様子を心配しており、自然に相手との距離を縮めて、助けを差し伸べている。

 一方の本人は、急な提案に心の準備が追い付かず、つい戸惑っていた。

(どうしよう……決断に任せるって言われても、日輪さんにはまだ打ち明けるのに抵抗があるし……)

 焦った表情となって、一時は否定を考えていた時である。ここで彼女は、銀時からの言葉を思い出していく。

〈――もし仲間とかに話しづらいなら、月詠や日輪も頼りになるとは思うぞ。男の俺が言うよりも、女同士で話した方がきっといい方向に向くよ〉

 まるで迷っている心を後押しするように、彼の言葉が脳内をよぎっていた。さり気ない助言が、思わぬ場面で大きな役割を果たしている。

 この言葉に感化されたシノンは、迷いがスッと抜けていき、真剣な表情へと変わっていく。自らの考えを改め直していき、日輪からの提案を好機と捉え始めていた。

(そうよね……これはチャンスかもしれない。ここで話さないで、いつ打ち明けるのよ! この場に二人しかいないなら、ここで動くしか――)

 話したところで何が変わるのかは分からない。ただそれでも、素直な想いを理解してもらいたい。信じる気持ちが高まり、シノンがするべき行動はもう一つしかなかった。

「あの、日輪さん! 今からでも相談に乗ってもらえる?」

「ええ、もちろんよ!」

 日輪の言葉に甘えて、頼ってみることにする。真剣に考えた末の決断は、彼女も後悔はしていない。二人っきりで話せるからこそ、ここで気持ちを貫くと覚悟を決めていた。平行線を辿っていたシノンの悩みは、日輪の何気ない気遣いによって、徐々に解決の道へと突き進んでいく……

 

「――ということなのよ。私がずっと思い悩んでいたのは……」

「なるほど。そうだったのね……」

 それからシノンは、日輪へ向けて一昨日の出来事について話していた。ちはると出会ったきっかけ。家族への考え方。解消しきれないモヤモヤとした感情。自身が抱えていた悩みを、全て打ち明かしていく。

 彼女の想いに触れていき、日輪は理解を深めながら会話を進めている。

「要するにシノンちゃんは、家族想いの男の子と出会って、考え方にズレが生まれたってことね」

「そうね……ちはる君の気持ちは何となく分かるのに、どうしても上手く掴めないのよ。家族って存在が……」

 表情も段々と暗くなり、シノンは言葉すらも次第に詰まらせてしまう。家族という存在について思い悩ませていると、日輪は彼女へ寄り添うようにして話しかけてきた。

「確かに……シノンちゃんが悩む気持ちは、私にも理解できるわよ」

「えっ? 日輪さんもなの?」

「ええ、そうよ。私も家族って存在には、良くも悪くも苦しめられた経験があるからね」

「……どういうこと?」

 意味深な言葉を耳にして注目を寄せていると、彼女の口から出たのは意外な事実である。

「実は、あんまりみんなには言ってなかったんだけどね……私と晴太って、本当の親子じゃないのよ」

「えっ……!?」

 唐突に告げられた事実を知り、シノンは大きく驚きを露わにしていた。日輪の息子と認識していた晴太は、実の親子関係ではないのである。衝撃からか彼女は体や表情までも固まってしまうが、日輪は構わずに話を続けていく。

「本当はね、あの子自身が一番分かっているのよ。こんな受け入れがたい事実を打ち明けても、私の事を母親だと認めてくれた。他の家族とはまったく関係が違うけど、私は自信を持って言い切れるわ。晴太は私の大切な息子だってね」

 切なくも凛々しい表情のまま、自分が大切にしている晴太への気持ちを表している。仲睦まじい親子関係にあった二人にも、一言では言い表せない事情があると、シノンは心の中で察していた。

(日輪さんと晴太君の間にも、辛い過去があったってことね。それでも幸せそうな家族に見えるのは、よっぽどお互いを信頼しているってことかしら……)

 困難を乗り越えた二人だからこそ、現在のような関係に行きついたと考えている。流石にこれ以上詳しい事情は聴けなかったのだが、彼女にとっては十分すぎる内容であった。さらに日輪は続けて、自身の持つ家族への捉え方について話していく。

「だからね、家族って存在に正解は無いと思うのよ。母子家庭や父子家庭でも、幸せだって思う家族は大勢いるんだから。きっとシノンちゃんは、真面目に考えすぎたから、悩み続けているのよ。もっと肩の力を抜いて、視野を広げた方が良いと私は思うわよ」

 決まった家族像は存在せずに、幸せと感じるのも人それぞれだと伝えている。ちはるの家族と向き合う姿や、晴太の普段の様子を見ていれば、自然とその考えが頭に入ってきた。

「そうよね……いつの間にか、一つの理想に偏っただけかもしれないわね……」

 薄っすらと苦笑いを浮かべていき、そっと今の心情を呟いている。固定概念に囚われていた事にも気が付き、少しだけ後悔を感じていた。そんな考えを改めたシノンへ向けて、最後に日輪はある気持ちを含めた言葉を投げかけてくる。

「シノンちゃんって性格は真面目で自主性も高いけど、その分もっと人に頼ってもいいと思うのよ。積極的に私や月詠にも、自分の事を相談しても別に構わないのよ」

「そ、そうだけど……」

「確かに言いづらいことかもしれないわね。私もまだみんなとは一か月弱しか暮らしていないし、元の世界で何があったのかも、断片的でしか分からないわ……。それでもね、これだけは言える。どんな事実があっても、アナタ達の保護者である事に変わりは無いって。みんな働き者で良い子だし、結構私も助かっているのよ。だからこれからも、遠慮なんかせずに悩みがあったら相談しなさい。ちょっとやそっとの事で、私も驚きはしないからさ!」

 そう言い切って彼女は、安心感を与えるように温かい笑顔を浮かべてきた。保護者としての責任を持ちながら、しっかりと頼りがいのある一面や心構えを見せつけている。

 真摯な姿勢を目にしていき、シノンは改めて感じていた。この人はありのままの姿で見てくれていると。もっと頼ってもいい大人なのだと――今まで以上に信頼感が高まっていき、心の中ではその余韻に浸っている。

(日輪さん……やっぱり、優しくて心の広い人ね……。本当に頼れる大人って感じがするわ)

 現実では母親との距離を置いていた彼女にとっても、この信頼できる気持ちは新鮮味があった。こちらも自然と笑みを浮かべてから、日輪へ感謝を伝えている。

「ありがとうね、日輪さん……おかげで迷いもすっかりと晴れたわ」

「うん。シノンちゃんの表情を見ていたら、もう大丈夫そうね。良かったわ」

 穏やかにも笑顔を見せあった後に、この会話に幕を下ろしていく。同時にシノンは、心の中である決意を固めていた。いずれは元の世界で経験した辛い過去も、日輪に打ち明かしてみようと。きっと彼女の懐の広さがあれば、受け入れてくれると信じていた。

「あの、日輪さん。一つお願いがあるんだけど……もし今度時間があったら、また相談に乗ってもらっても良いかしら……?」

「もちろんよ! でもまずは、お客さんが来たから接客をお願いね!」

「ん? あっ、いらっしゃいませ――」

 約束を取り付けた最中で、ちょうど良く一人の客が来店してくる。今までのしんみりとした雰囲気から、素早く接客の姿勢に日輪らは切り替えていく。

 こうしてシノンが抱えていた悩みは解消され、より一層日輪への信頼を強めていた。そんな晴々とした彼女の心境を差し置いて、空模様は反抗するように「ザーザー」と雨が無情にも降り始めている……

 

 それから数時間が経って、時刻が午後の三時を過ぎた頃。天気は変わらずに雨が降り続く一方で、ひのやの接客係が午後の担当であるリーファに交代していた。時間に余裕が出来たシノンは、日輪からの要望によりかぶき町までお使いを頼まれている。

「雨が降っている中で申し訳ないんだけど……かぶき町までお使いに行ってきてほしいのよ。ちょうど、買い忘れていたものがあって」

「ええ、大丈夫よ。今日は相談にも乗ってくれたし、日輪さんの頼みだったら、何でも引き受けるわよ」

「じゃ、お願いするわね! お礼として高めのレインコートを貸すから、これで雨から身を守ってね!」

「って、別に安物でもいいんだけど……」

 了承したところで彼女は、事前に用意していた高値のレインコートをシノンへ手渡した。安物よりもしっかりとしているが、使用するには抵抗心を覚えてしまう。それでも引き下がる事は出来ずに、渋々とレインコートを羽織っていく。さらに護身用として、愛用している弓も背中へと装着している。

「まぁ、とりあえず買ってくるわね」

「いってらっしゃい。夜までには帰ってくるのよ」

「分かっているわ」

 そう軽く会話を交わしていき、シノンは背中から黄色く透明な羽を広げて、そのままひのやを飛び立っていった。さほど雨も激しく降っていないため、飛行をしても特に影響は無く、いつものペースでかぶき町に向かっている。

「――さてと、シノンちゃんがいない間に準備を進めるわよ」

 彼女が飛び去った頃合いを見て、日輪は密かにある準備を再開していた。シノンには内緒で通している計画のようだが……?

 

 そしてさらに数時間が経ち、時刻がちょうど四時半を迎えた頃。シノンは無事にかぶき町にてお使いを終えており、レジ袋に食材を詰めて、徒歩でひのやへと帰路についていた。

「ふぅ……結構時間がかかったわね。そもそもこの食材って、中々見つからない代物だったかしら?」

 その道中では首を傾げるようにして、独り言を呟いている。意外にも指定された食材を見つけるのに、大幅に時間をかけてしまった。疑問を引きずりながら、雨道を鬱陶しく思って進んでいる。すると奇遇にも、思い入れのある場所を通りかかっていた。

「ん? この公園って……」

 そこは初めてちはると出会ったかぶき町の公園である。入り口付近へ立ち止まると、彼女は一昨日の出来事を振り返っていく。

「そういえば、ちはる君と出会ったのもここだったわね。あれから来てないけど、もうぬいぐるみって完成したのかしら……?」

 家族の為に張り切る姿が印象に残っており、思わず彼の行く末に期待を寄せていた。後の動向も気になっており、シノンは公園を見渡して人気を確認している。流石にこの雨では誰も来ておらず、閑散とした雰囲気が場に広がっていた。

「誰もいない……当然よね。こんな雨の中じゃ――って、えっ?」

 そう決めつけていた次の瞬間である。ここで彼女は、信じがたい光景を目にしてしまう。

「嘘でしょ……ちはる君なの?」

 声を上げながら公園の奥をよく見ると、そこには雨に打たれるちはるの姿が見えていた。顔をうつむかせており、たった一人でただならぬ悲壮感に包まれている。不穏な空気を察したシノンは、咄嗟に走り出してそのまま彼の元へと近寄っていく。

「何やっているのよ! こんな雨の中で!」

「あっ、シノン姉ちゃんか……」

「そうじゃなくて、一体何があったのよ! それに、ぬいぐるみはどうしたの?」

 目線を合わせて話しかけてみると、ちはるの様子は明らかに憔悴しきっていた。以前会った時よりも元気は無く、肌身離さず手にしていた猫のぬいぐるみも、何故か無くなっている。状況を把握するために聞いてみると、彼は小さい声で返答してきた。

「取られた」

「えっ?」

「取られたんだよ……あいつらとの喧嘩に負けて」

「……あいつらって、あのいじめっ子達に?」

「そう。本当は今日の時点で、完成する予定だったんだ。でも、急にアイツらがやってきて、ぬいぐるみを人質に喧嘩を仕掛けてきたんだ。俺も頭にきて無我夢中で戦ったら、この有様だよ」

 あまりにも理不尽な事実を知り、シノンは返す言葉に詰まってしまう。ちはるの証言から大まかに出来事を理解していた。以前にもちょっかいをかけてきたいじめっ子達が原因であり、突然喧嘩を仕掛けられた上にこっぴどく敗れている。大切に縫っていたぬいぐるみも奪われてしまい、まさに泣きっ面に蜂であった。

 雨に打たれ続けるその姿は、例えようのない無常さも感じさせる。落ち込んだ様子に気を遣いながら、シノンは慎重に話を続けていく。

「そうだったの……でも、奪われたなら取り返せばいいんじゃないの。今からでもあの子達を探せば、大丈夫じゃない?」

「いや、もういいんだよ。雨だって降ってきたし、きっとあのぬいぐるみも台無しになっているよ。下手な挑発に乗った俺も悪いから、自業自得なんだ……もう放っておいてよ」

 悔やんだ表情でちはるは、自分自身を責めてぬいぐるみも諦めかけている。喧嘩に負けたことで精神的にやられてしまい、失意に暮れ果てていた。二日前に見せた家族愛に溢れる姿は、もうどこにも残されていない。今度は彼自身が心に迷いを宿していた。

 そんなちはるの様子を見て、シノンは心の中である覚悟を決めていく。

(私の知らない間に、そんなことがあったなんて……ちはる君にも迷いが生まれているなら、今度は私が助けてあげないと――!!)

 真剣な表情へ変わっていき、真っ先に行動へと移している。

「放ってはおけないわよ。絶対に」

「えっ?」

「……探しましょう。アナタの作ったぬいぐるみを」

 静かに話しかけると、急にちはるの右手を握り、そのまま公園を去ろうとしていた。突然の行動には彼も驚き、反抗するように声を上げていく。

「って、待ってよ姉ちゃん! 俺はもういいって、言ってんだろ! 正直諦めているんだから、何も助けなんていらないって……!」

 強気な口調で否定を続けていると、シノンは急に後ろを振り返ってくる。すると大きく息を吸った後に、自らの感情を惜しげもなく伝えてきた。

「本当にそうだったの? ちはる君が大切にしてきた気持ちは……こんなくだらない事で折れるようなものだったの!?」

「ね、姉ちゃん……?」

「私はね……アナタの家族愛に溢れる姿を見て、快く協力したのよ! ただ新しい家族を迎い入れたい気持ち、お母さんを喜ばせたい気持ち……それが、ちはる君がぬいぐるみを縫う理由じゃなかったの!?」

「そ、それは……」

「外野にとやかく言われようとも、自分の信念を貫いてきたじゃないの! だったら気持ちに嘘なんかつかず、行動すればいいじゃない! 今アナタに必要なのは、雨に打たれることじゃないわ! 自分の想いを詰めたぬいぐるみを、取り戻すことでしょ! どうなのよ、ちはる君!!」

 高らかに言い放ったシノンの想いを耳にして、ちはるは勢いに押されていき黙り込んでしまう。ぬいぐるみ製作を通して思い出した家族への愛情、ひたむきに続けていく強い意志といった、自身が感銘を受けた気持ちを訴えかけていく。普段は冷静なシノンでも、今日に限っては気持ちの赴くままに感情的となっていた。

 そしてその気持ちは、ちはるにもちゃんと届いている。熱意がこもった言葉によって、大切にしていた愛情や本来の目的を、彼は徐々に思い出していく。

「シ、シノン姉……俺、本当は……」

 張りつめていた想いが弾け飛んでいき、我慢できずに涙腺すらも緩ませていた。疑心暗鬼に陥っていた自分にも後悔を覚え始めている。

 雨に当たり続ける中で気持ちを再起していると、彼の手元にはシノンが着用していたレインコートが手渡されていた。

「ん? 合羽?」

「レインコートよ。このまま濡れちゃ困るから、これを着て雨を防ぎなさい」

「でも、それじゃ姉ちゃんが……」

「心配ないから――こんな雨、早々長くは続かないわよ。私は大丈夫だから、早くぬいぐるみを見つけましょう!」

 彼女は自身の雨具を手放してもなお、ちはるの体調を優先的に気遣っている。雨に打たれようが気にせずに、屈託のない笑顔で相手に安心感を与えていく。さり気ないシノンの優しさに触れて、彼はさらに目に涙を浮かばせていた。

「姉ちゃん……ありがとよ」

「さぁ、泣いている時間はないわよ。早くぬいぐるみを探しに行きましょう」

 互いに言葉を掛け合うと、二人は公園を抜け出して住宅街へと進んでいる。ぬいぐるみを奪い去ったよっちゃんらの捜索に、今は全力を注いでいた。

 

 一方で公園より少し離れた歩道では、銀時がスクーターへ乗り込んで移動している。彼もまた日輪からの連絡を受けて、単身で吉原へと向かっていた。

「あーやっぱり降ってきやがったか……どうにか、濡れなきゃいいんだけどな」

 天候の悪化を危惧しており、浮かない表情で愚痴を呟いていく。雨具として傘を使用できないため、安物のレインコートで雨風から身を守っている。可能な限り速度を上げたいので、彼は雨が落ち着くことを心待ちにしていた。

「早く止んでくんねぇかな。面倒な事になる前に――って、アイツらは……」

 と自らの想いを呟いていた直後に、目の前である二人組を目撃している。傘をさしながら歩く二人の男子であり、その後ろ姿には既視感を覚えていた。気になった銀時は急に尾行を始めており、そのまま彼らの会話に耳を傾けていく。

「ふっ……スカッとしたぜ。これであいつも公園からいなくなるよな」

「いちいちめんどくさかったからな。ぬいぐるみの事になったら急に冷静じゃなくなるし、すぐに勝負がついたもんな」

「ざまぁみろってんだ! ハッハッ!!」

 きな臭い会話から、一瞬で正体を見透かしている。そう、先程ちはるに喧嘩を売っていたよっちゃんとけんちゃんであった。非情な手段で彼らは喧嘩に勝利しており、よっちゃんの手にはちはるお手製のぬいぐるみが抱えられている。

 この様子を見ていた銀時は、二日前に交わしたシノンとの会話を思い出していた。

(ん? ぬいぐるみってことは、まさか……)

 ぬいぐるみを縫う少年の話から、密かに関連性を頭に浮かばせている。だがまずは、悪行を働いた二人に罰を与えようと行動に移していた。

「ところでこのぬいぐるみはどうする? 勢いで持ってきちゃったし」

「どっかに置いておけ――って、ギャャャ!!」

「よ、よっちゃん!?」

 突如としてよっちゃんは、背後から両脇を捕らわれてしまい、上へと持ち上げられている。さしていた傘も振り落とされて、冷たい雨風が無防備に体へ当たっていく。当然だが仕掛けたのは銀時であり、堂々とした態度で二人に真相を突き詰めていった。

「急に何しやがるんだよ! って、お前は銀髪のニート!!」

「誰がニートだ、コノヤロー。それよりもお前等、また悪さしやがって。ぬいぐるみを奪って恥ずかしくないのか?」

「うっせーな! これはな、気に食わねぇ男子がいたから、喧嘩したついでに奪ってきたんだよ!」

「奪う時点でお前達も気に食わねぇ奴等だよ。だったら俺が、このままポリ公共につれていってやろうか? もしくは雨に打たれたまま、マンホールの気持ちになって反省するか?」

「いや、解放の道は無いのかよ! 後者に至っては、どっからツッコめばいいんだよ!」

 被害にはあっていないけんちゃんも、訳のわからない提案には、大声でツッコミを入れている。銀時の介入によって場の空気は乱されてしまい、いじめっ子達もめんどくさい大人に絡まれたと後悔を感じていた。

 だが彼の足止めが功を奏しており、シノン達は彼らとの距離を縮めている。

「ん? さっきの声は……まさか、アイツらか!?」

「ちはる君!? もう見つけたの?」

 捜索を開始してから、僅か七分の間に事態は動いていた。密かに聞こえてきたよっちゃんの声を頼りにして、二人は住宅街を走り抜けていく。ぬいぐるみの無事を信じて、曲がり角を通り抜けていくと――

「あっ、いた! アイツらだ!!」

ようやく捜索していた二人を見つけている。彼らの推測通りに、まだ公園の近くをうろついていた。静かに怒りを募らせるちはるに対して、シノンはある別件で驚きを示している

「って、銀さん!? なんであの子達と一緒にいるの!?」

 何故かいじめっ子達と一緒にいる銀時が、気になって仕方がなかった。事態はまだ読み解けていないが、一見すると銀時がよっちゃんを吊るして、何かを問い詰めているようにも見えている。

「それで喧嘩を売った理由は、一体何だったんだよ?」

「だから気にくわねぇからって言ってんだろ!」

 聞こえてきたのは、二人の間で行われている口論であった。するとここで、いじめ仲間のけんちゃんがシノンらの存在に気が付き始めている。

「ゲッ、よっちゃん! アイツらが追って来たぞ! しかも、あの猫耳女とも一緒だ!!」

「何!? ぬいぐるみを取り返しに来たのか……そうはさせねぇぜ!!」

「あっ!?」

 分が悪くなった二人は、ここで強硬手段に移っていた。力づくで銀時からの拘束を逃れて、ぬいぐるみを片手に持ち、そのまま場を立ち去っていく。意地でも嫌な思いをさせるために、悪知恵をあくせくと働かせている。

「待て! 勝手に逃げ出すんじゃねぇよ!」

 子供ながらの俊敏さには、銀時も取り押さえることすら出来なかった。つい怒りを感じているが、その気持ちはちはる達も同等である。

「あっ、ぬいぐるみが!!」

「あの子達……ちはる君! ここは私に任せて! ぬいぐるみは絶対に取り戻すわよ!」

 いじめっ子達の往生際の悪さには、遂にシノンも怒りが臨界点に達していた。ずっと手に持っていたポリ袋をちはるへ預けて、背中に装備していた弓を取り出し構えていく。ホルダーから隠れ網を仕込んだ弓矢を手にして、弓へと装填している。準備を整えると真剣な眼差しで、よっちゃんらが手にしているぬいぐるみに狙いを定めていた。

「……そこよ!!」

〈シュ!!〉

 相手の動きを予測した僅か数秒後には、弓矢はシノンの手元を離れていき、よっちやんらの方角へと向かっていく。軌道は勢いよく上に上がっていき、そのまま下へ急降下を始めている。距離を十分に保ったところで、

〈ガパァ!!〉

「何!?」

弓矢の先端からは小型の網が放出してきた。よっちゃんが手にしていたぬいぐるみを捕縛して、シノンが手ごたえを確認していくと――

「はぁ!」

弓矢に装備した隠れ網を引っ張っていく。すると自然に、ぬいぐるみはいじめっ子達を離れていき、ちはるの手元へと戻っていた。トリッキーな戦法によっちゃんらは唖然としており、対照的にちはるはぬいぐるみの奪還に大きな喜びを表している。

「あ、ありがとう! シノン姉ちゃん!! ぬいぐるみを取り戻してくれて!!」

「どういたしまして。遠距離戦は得意だから、アナタの役に立てたなら私も光栄だわ」

 ぬいぐるみと共に笑顔を取り戻した彼の様子を目にして、シノンも同じようにして微笑んでいく。不安が取り除かれており、一緒に達成感を覚えている。

 一方で、思わぬ仕打ちを受けたよっちゃん達は、何も行動できずに赤っ恥をかいていた。

「こ、これって……」

「チッ! 今日はこのくらいにしてやる! 帰るぞ!」

「って、待ってよ! 俺達超かっこ悪くないか!!」

 態度では強がっていたよっちゃんも、本当は根深い精神的ダメージを負っている。まさに自業自得な顛末を受けていた。

 そして一連の流れを目にしていた銀時が、二人に近づいていった時である。

「ふぅ……これで終わ――キャ!!」

「シノン姉!?」

 不覚にもシノンは足を滑らしてしまい、水たまりに転びそうになってしまった。転倒を覚悟して目を瞑った――その刹那である。

〈バサッ!〉

「……アレ? 落ちてない? って、銀さん!?」

 目をゆっくり見開くと、そこには銀時が彼女の身を抱え込み、水たまりから守ってくれていた。危機を察して駆けつけてくれた行動力には、シノンも驚いており、珍しくも男らしさを感じている。表情だけはいつも通り、気だるさが抜けていなかったが。

「おい、何やってんだよ。猫は水に弱いって、前に言っていなかったか?」

「銀さん……いや、違うのよ。ちはる君が雨具を持っていなかったら、私の分を貸しただけなのよ」

「そうなのか? まぁ、だったらもう必要ないかもな。お天道様も日を出してくれたし」

「えっ? お天道様?」

 そう会話を進めていた直後に、天候は急激に移り変わっていた。雨はいつの間にか止んでおり、曇天に覆われた空には夕日がほんのりと光を放っている。日輪の伝えていた情報通りに、夕方を境にして天候は回復傾向にあった。

「あっ、いつの間にか止んでいたのね」

「そう。ていうか、そこまで濡れてんなら新しい雨具でも買ったらどうなんだ?」

「って、こっちはそんな余裕一ミリも無かったのよ。銀さんの基準で判断しないでよね」

「何またツンツンしてんだよ。ツンデレアーチャーさんよ」

「それ、私の事よね!? 変なアダ名付けないでちょうだいよ! このニート侍!」

「って、お前までニート呼ばわりするのかよ! 俺は違ぇからな! 万事屋の所長だ、コノヤロー!」

「言うほど、所長らしいことしているのかしら!?」

「なんだと、コラ!?」

 晴々とした雰囲気など無視して、シノンと銀時の間ではアダ名の付け合いから、会話から口喧嘩へ発展してしまう。互いの顔をいがみ合わせて、不満に思う点を次々に上げている。

 仲良しなのか険悪なのか分からない二人の関係性だが、ちはるだけは何故か一安心して、静かに様子を見守っていた。

「フフ……シノン姉でも、ここまで張り合う事があるんだ。本音をぶつけ合うってことは、あの男の人はまさか――」

 意外な一面に脱帽しつつも、密かに深い関係性を揶揄していく。微笑みを浮かべながら、二人の口論が終わるのをひたすら待っていた。

 

 それから数分が経って、時刻が六時を指していた頃。徐々に空が暗く移り変わる中で、シノンと銀時の口論はいつの間にか収まっていた。

「とりあえず、口喧嘩が終わって良かったね。二人共」

「喧嘩じゃないわ……考えが合わないだけよ」

「同じくだ。俺とお前じゃ、まったく正反対だからな……」

 ちはるも話しかけたが、二人の表情は未だに不満げである。考え方の違いから不仲にも見えるが、雰囲気からそこまで険悪ではないと彼は感じていた。

「まぁ、お互い仲良くな。それよりも、シノン姉。今までありがとうよ。ぬいぐるみも無事に取り返せたし、後は手直しさえすれば、もう完成するよ!」

「あっ、そうなんだ。別に私は大したことはしてないわよ。モデルをやって、捜索に協力しただけよ」

「それだけでも十分だって。俺、シノン姉と出会えて本当に良かったよ!」

「フッ……こっちもよ。ちはる君!」

 そしてちはるは締めの言葉として、率直な想いをシノンへ伝えている。彼女をモデルにした猫のぬいぐるみと見比べて、運命的な出会いに感謝していた。多くの奇跡を思い起こして、共に微笑ましい表情で余韻に浸っている。

 さらなる友情を深めていると、銀時も割り込むようにしてちはるに声をかけてきた。

「まぁ、俺が言うのもなんだが、アイツらのことは気にするなよ。また何かあったら、ウチにいる神楽に言えば、すぐに懲らしめに行くぜ」

「ああ、ありがとうよ。銀さん――で合っていたっけ?」

「そこは確認しなくてもいいだろ」

 自分なりのアドバイスを伝えて、彼の背中を後押ししていく。ぶっきらぼうでも人情深い気持ちは、シノンにもよく伝わっている。

「フフ……銀さんらしい大雑把な意見ね」

「俺らしいって、どういうことだよ」

「別になんでもないわよ!」

 彼女も軽口を叩きつつ、「クスッ」と小さく笑っていた。気長に会話を続けていると、惜しくもちはるの帰宅時間が迫っている。最後に彼は感謝を含めた挨拶で、シノンらに別れを告げていた。

「ありがとうね、シノン姉ちゃん! 俺、絶対にぬいぐるみを完成させるよ! 新しい妹の為に!!」

「うん、しっかり頑張りなさいよ!」

「ああ! そして銀さ――いや、彼氏さんも!」

「おうよ! ……って、はい!?」

「えっ!?」

「二人も幸せを掴めよな! じゃあね!!」

 綺麗に締められた別れの一幕だったが、一つだけ度し難い事実が発覚してしまう。満面の笑顔で告げられたちはるの言葉に、場の空気は大きく一変していた。突拍子もなく飛び出したのは、まさかの恋愛がらみである。恐らくちはるは、二人が交際関係にあると勘違いしたまま帰っていった。当然二人の間には、微妙な空気が流れ込んでいる。

「彼氏って……」

「幸せを掴めって……」

「「はぁ!?」」

 大きく驚嘆しており、事の重大さをようやく理解していた。戸惑い続ける中で、共に必死な表情で相手に否定を連ねている。

「おい、何勝手にあいつ勘違いしてんだよ!! カップルみたいな素振り、一回も見せてねぇだろうが!!」

「アンタが急に優しくするから、いけないんでしょ!! そもそも、銀さんと付き合う気なんて一斉ないからね!! 誤解しないでちょうだいよ!!」

「そんなもんこっちからお断りだわ!! 別作品の女に手を出すほど、俺は腐ってねぇんだよ!!」

「一体何の話をしているのよ!!」

 収まったはずの口論が、ここで再燃してしまった。激しく言い争っていると、銀時は興奮気味にメタ発言まで上げている。さらなる誤解を与えない為に、見苦しい弁解が続けられた。

 そして数分が経つと、互いに気持ちが次第に落ち着いていく。息切れするほど、長い言い争いを続けていた。冷静さを取り戻した後に、シノンは改まって銀時にお礼の気持ちだけは伝えている。

「とにかく……ぬいぐるみの件は手伝ってくれてありがとうね。多分あのままだったら、見つからずに終わっていたから……」

「なんだよ。そこは感謝しているのか。ったく、いちいち忙しい奴だな」

 まぐれだがいじめっ子達を足止めしたことや、転倒からかばってくれたことには、一応恩を感じていた。人としての義理を彼女は通している。

 そう言葉をかけていき、シノンはこのまま吉原へ戻ろうと考えていた。

「それじゃ、私も帰るわね。買い物もあったし、急いで戻らないと。じゃあね、銀さん」

 ポリ袋を手に持ち、足早にこの場を去ろうとした時である。

「いや、待てよ。折角手間が省けたんだし、また吉原まで送ってやるよ」

「いいわよ、そう何回も。もう晴れているし、私一人でも帰れるわよ」

「違ぇーよ。お前忘れてんのか? 今日が何の日か?」

「今日?」

「……まぁ、とりあえず乗っておけ。ひのやに着けば、その内に分かるよ」

 意味深にも何かを隠しているような素振りで、銀時はまたも吉原までの送迎を提案していた。どうやら今日に関する事だが、パッと考えても何も思いつかない。少々の不安を感じながらも、シノンは銀時からの誘いに乗る事にした。

 

 それからスクーターへ乗り込んだシノンは、銀時の運転の元で数分も経たない内に吉原内部へと入っている。何も情報が伝えられずに、道中でも彼女の問い詰めは飽きずに続いていた。

「って、何を隠しているのよ? いい加減教えなさいって!」

「うるせーな。もう着いたから、別に言わなくていいだろ。さっさと入れよ」

 銀時が適当に理由をはぐらかしている内に、一行は目的地であるひのやへ到着している。訳を聞けずに不満を感じているシノンは、仕方なくこのまま戸を開けて、ため息混じりに玄関へ入っていく。

「はぁ……ただいま。って、日輪さん? みんな? 居間にいるの?」

 すると、早くも違和感を察していた。普段は灯りが付いているのだが、今日は家全体が暗闇に包まれている。胸騒ぎを感じており、少々の不安に苛まれていた。足を進めていき、居間への戸を開いた――その時である。

〈パーン!!〉 〈パーカン!!〉

「えっ!?」

 聞こえてきたのは、激しいクラッカーの音。そして、

「「「「「シノン(さん!)! 誕生日おめでとうー!!」」」」」

仲間達の盛大な祝福であった。驚き混じりに場をよく見ると、そこには日輪や月詠、晴太、シリカ、ピナ、リズベット、リーファといった下宿での仲間達。さらにはキリト、新八、アスナ、神楽、ユイの万事屋や、妙、九兵衛、あやめといった超パフューム関係者。桂、クライン、エリザベスの攘夷三人組に、たま、エギル、マダオまで駆けつけている。

 さらに仲間達だけではなく、居間には可愛らしい飾りつけ。テーブルにも豪勢な料理にロウソクが立てられたケーキと、盛大な宴の準備が用意されている。

 この用意周到なサプライズには、シノンの理解も追い付いてはいなかった。

「これって……」

「まだ気付かないのか? 今日はお前の誕生日なんだろ? まさか忘れているのか?」

「誕生日……あっ! 今日だったんだ……」

「そうだよ。日輪から言われてな、色々と準備していたんだ。アッと、お前を驚かせたいってな」

 銀時からの一言をきっかけに、彼女は全てを察している。今日八月二十一日は、自分の誕生日であることを。別世界であり意識もしていなかった記念日が、ここまで大きく発展するとは考えもしていなかった。記憶の片隅に置いていた懐かしい気持ちが、今蘇っている。

 経験したことの無い人情深い雰囲気に包まれていると、宴の立役者である日輪や月詠、晴太らが優しく話しかけていく。

「みんなに誕生日の日にちを聞いたら、シノンちゃんが一番近かったから、こっそりと準備していたのよ」

「例え別世界から来ていても、主が生まれた日に変わりはないからな。今日は存分に、わっちらと楽しもうではないか」

「もうシノン姉はオイラんちの一員だからさ! 気を遣わずに堂々と祝わせてよ!」

 至って純粋な気持ちから、この宴を三人は内密に計画していた。彼女達が持つ懐の広さや愛情が明るみとなり、シノン本人にも深く伝わっている。駆けつけてくれた多くの仲間達にも感謝を感じて、益々心を突き動かされていた。

(……そっか。これが私にとっての、家族だったんだ……本音を言い合えて、素直に信じあえる。そんな人たちと出会えて……本当に良かったわ!)

 内心で感極まった後、彼女は堪えていた涙をボロボロと流していく。そして、この宴を作ってくれた仲間達に、多大なる感謝を伝えていた。

「日輪さん……それにみんなも! サプライズ……ありがとうね!!」

 眩いとびっきりの笑顔を浮かべて、表情豊かに歓喜している。忘れられない大切な思い出を、また一つこの世界で紡いでいた。信じあう心が人を繋いでいき、彼女は最高の結末を迎えている。

 未だに涙を拭うシノンの元には、銀時もさり気なく声をかけてきた。

「何うれし泣きしてんだよ。そこまで、嬉しかったのかよ」

「当然よ! ここまで盛大な誕生日……久しぶりだもの!」

「そうかい……まぁ、楽しく感じているなら何よりだよ。ていうか……お前でも子供っぽい笑顔見せるんだな」

「どこに食い付いているのよ! まったく、銀さんらしいだから……」

 ちはるの一件を手伝ってくれた銀時にも、なんだかんだで感謝を覚えている。彼女に続き銀時もつられて小さく笑っていると、リーファら仲間内からは冗談が飛び交っていく。

「銀さんとシノンさんが仲良くなっている……!?」

「と言う事は……ここに来る前に何かあったのかな~?」

「えっ!? ま、まさか!?」

「って、アンタ達!! 何勝手に妄想しているのよ!! 誤解を生むような事、言わないでよね!!」

 本人の耳にもちゃんと入っており、涙を引き抜いて激しくツッコミを入れている。仲間達にも誤解を与えるわけにはいかず、必死に否定を貫いていた。微笑ましく仲睦まじい光景が、そこには広がっている。

 

 かくして、家族や仲間の存在を改めて再認識したシノンは、その仲間達と共に久しぶりの誕生日を全力で楽しむのであった。

 




 まさかのシノン誕生日篇でもありました。アスナ、シリカ、キリト、銀時、妙、神楽と続けてまた誕生日関係です。ややこしいですよね。何はともあれ遅くなりましたが、ようやく書き抜くことが出来ました。2か月経ったけど……シノン、ハッピーバースデー! (そこも祝えコールではないのか……?)

 またここからは余談ですが、シノンって原作の方だと大人と関わる事って結構少ないと思うんですよ。(クラインやエギルを除いて) だからこそ「剣魂」では、性格的に気が合う月詠や、頼りになる日輪がいて、考え方や精神面がより成長したと私自身は思っています。ちなみに、銀さんに対しては相変わらずの態度です(笑)。

次回予告
近藤「トシ! 将軍様が急に料理を変更したいと申し出が!」
土方「なんでまた俺達に押し付けるんだ……」
沖田「心配ねぇですよ。適任の女を連れてきてやりやすから」
近藤「本当か、総悟!?」
沖田「ああ、なんか行けそうな気がしますよ」
土方「それは別のソウゴだ!!」
沖田「次回、料理は見た目から食べるモノだ」
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