剣魂    作:トライアル

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前回の続き
キャサリン「私モ八月二十一日生マレナンデスケドネ……」
お登勢「仕方ないよ。良い流れにアタシらが割り込むのも、間が悪いからねぇ……」
 本編が終わった後に気付いてしまいました。シノンとキャサリンって、同じ誕生日だったんだ……すっかり忘れてた。



第四十三訓 料理は見た目から食べるモノだ

「何!? 将軍様が、昼食の内容を変更したいだと?」

「ええ。たまには目新しさが欲しいとか言い出して、今回限りは違う料理に変更したいそうですよ」

 真選組屯所に届いた通達を知り、土方は驚きを隠せずに声を上げている。江戸を収める将軍様こと徳川茂々が、日々食する昼食に物言いを申したからだ。恐らくは親しい関係にある松平を介して、無理やりここへ流れ着いたと思われる。

このように将軍の希望を叶えるのも、真選組としては稀に入る仕事であった。その大半は、散々な結末を迎えているが……

 それはさておき、要望を投げかけられた近藤、土方、沖田の三人は、もちろん対応に困り果てている。屯所内にある一室へ集まり、早くも対策案に追われていた。

「しかし、どうするんだ? 料理を変えるといっても、これまでにほとんど変えてきただろうからな……」

「こうなったら、別の料理人を探すか? それともマヨネーズを入れて、いっそ味覚でも変えてみるか? 悩ましいな……」

「いや、後者は絶対に無ぇですよ」

 マヨネーズの出番だと期待を寄せる土方であったが、沖田からは呆れ気味に否定されている。近藤も思いつく限り知恵を絞るが、どれも目新しさに欠けていた。僅か数分もかからずに、会議はとたんに静まり返ってしまう。

 そんな中で沖田は、場の空気を変えるために、戸を開けて外の景色を眺めている。雲がまばらに浮く夏の昼空を眺めていると、奇遇にもある知り合いを見かけていた。

「ん? アイツは……」

 目を凝らして見ていると、そこには青く透明な羽で飛行するアスナがいた。ちょうど屯所の上空付近を通り過ぎている。

 そんな彼女は現在、今晩の献立について悩みながら飛行していた。

「うーん……今日はどんな夕食を作ろうかしら?」

 家にある材料からヒントを得て、頭の中ではおおよその料理を思いついていく。足りない材料を補うために、商店街へと向かう最中であった。

 アスナの万事屋事情はつゆ知らずに、沖田は彼女を見かけた瞬間からある作戦を思いついている。

「あっ、そうだ。あの女を連れてきて、協力させればいいや」

「あの女? って、総悟は何を見つけ――お前!? 何バズーカなんか構えてんだよ!?」

 そう呟いた直後に、彼は肩にバズーカを構えていき、飛行するアスナへ向けて狙いを定めていく。唐突なる行動には土方らも驚き、慎重にしてなだめているが……時すでに遅い。

「今でっせ」

 何のためらいも無くバズーカの引き金を引くと、銃口からは勢いよく飛翔弾が解き放たれる。飛翔弾は上空で形を展開していき、事前に仕込ませた網を広げたところで――

「ん? ……キャャャャ!?」

アスナを丸ごと包み込み、空中で捕縛してきた。自身の思惑通りに作戦が成功すると、沖田は不敵な笑みを浮かべてそっと喜んでいる。

「ふっ……やりましたぜ」

「いや、そうじゃねぇだろ!! 何でお前は達成感に浸っているんだよ!!」

「アスナ君が!! おーい、大丈夫か!?」

「全然大丈夫じゃないわよ!! 一体何なのよ~!!」

 突拍子も無い彼の行動によって、場にいた全員が慌てふためいていた。近藤や土方は動揺しつつも事態の収集を図り、巻き込まれたアスナは状況を読めないまま、無情にも助けを求めている。

 この騒動をきっかけに、彼女の長い寄り道が幕を開けたのであった……

 

 それから数分が過ぎていくと、捕縛されたアスナは成り行きから屯所の一室へと連れられている。ようやく網の拘束から解放されたのだが、沖田ら真選組の印象は益々悪くなっていた。

「つまり……将軍様の料理を私が代行して作ればいいってこと?」

「そうですよ。もちろん、俺達に快く協力してくれるよな?」

「うん、分かったわ! ――って、なるわけがないでしょうが!! か弱い乙女を拉致する人達には、協力なんてしたくもないわよ!!」

 ひとまずは捕縛に至った経緯を聞いたアスナであったが、納得などは出来るはずがなく、沖田らに向けて強い怒りを露わにしていく。将軍様の昼食事情は少なからず理解していたが、彼の拉致行動が全てを台無しにしている。不機嫌な表情へ変わり、目つきも細く睨みつけていた。

 一方の沖田は何一つ動じることなく、平然とした態度で接している。

「なんでい? 将軍様の料理を作るなんて、中々無い機会でっせ。受けておかないと、勿体ないですよ」

「それ以前にアナタの態度が気に食わないのよ! リーファちゃんや神楽ちゃんからよく聞いているんだからね! ドSな事ばっかりして、信用が無いって!」

「仕方ねぇですよ。これが俺のやり方なんでね。チャイナもブラコン女も、相性がただ悪いだけなんでい」

「相性よりも、口の悪さが原因だと思うんだけど……」

 まったく反省の色を示さない彼の性格には、アスナも話し続ける度に気が参っていた。神楽やリーファの情報通りに、一筋縄ではいかない男である。依頼内容よりも今は、沖田から離れたい気持ちで心が一杯になっていた。

 二人の会話が平行線を辿る中で、見守り続けていた近藤と土方も、先行きを不安視している。

「おいおい、アイツ大丈夫か? アスナへの第一印象最悪だぞ。折角適任者を見つけ出したというのに……」

「噂でアスナ君は、かなりの料理上手らしいからな。この仕事には、ぴったりだと思ったんだが……」

「掴みが最悪だったな。総悟の強引さを見れば、怒らない方が無理あるからな」

「確かに……」

 互いにため息を吐いており、つい苦い表情を浮かべていく。二人も風の噂でアスナの料理の腕前は知っており、それを見越して依頼も視野に入れていた。議題に上げようと考えていたが……沖田のドSな捕縛行動が仇となって、最悪の再会で今に至っている。

「まぁまぁ、受けてくだせいよ。料理の一つや二つくらい、お前にとっては朝飯前じゃないですかい?」

「そんな簡単に作れるものじゃないのよ! そもそも頼む立場として、礼儀がなってないんじゃないの!?」

「……ったく、いちいち細かいな。だったらこっちにも、秘策があるんでい……」

 依然として交渉は上手くいかずに、アスナの機嫌も段々と悪くなっていく。交渉の決裂を悟った沖田は、巻き返しを図るためにここで切り札を取り出してきた。

(何を出す気なの……どんなにお金を積まれても、私は受ける気なんてないのに)

 過度な期待もせずに、アスナも心の中で興味を寄せていると、提示されたのは予想もしない代物である。

「はい、これですよ」

「だからお金は受け取らないって――えっ!? そのチケットは……!」

 目を疑うようにして、彼女は沖田の取り出したチケットをまじまじと見直していく。その中身は……江戸で人気のスイーツバイキングへのチケットである。若い女子の興味を引く代物を、彼は事前に用意していた。

 思惑通りにアスナのテンションが高まっていると、沖田は確信を得るように笑みを浮かべている。この絶好の機会を利用して、ここで一気に交渉を畳みかけていく。

「江戸に新しく出来た、飴泥牝陀の姉妹店が行っているスイーツバイキングでい。結構若い女子に人気らしいから、行かない手は無いんじゃないか?」

「そ、そうだけど……そんな手で私は釣れないわよ! 一人でバイキングに行ったって、何の楽しくもないもの!」

「それだったら……ペアチケット三枚分で、手を打ちましょうか? 一般ペアが二枚、親子ペアが一枚。これさえあれば、お前の彼氏も子供も喜ぶに違いありやせんよ。後はついでに、旦那と眼鏡とチャイナ娘も」

「は、はい……!?」

 さらに用意がいいことに、アスナの分に加えて万事屋全員分のチケットまで、懐から取り出してきた。褒美で相手を釣る沖田の作戦は、意外にも上手くいっている。アスナの意志は急にぐらついて、真剣に依頼を考え直していた。

(ほ、欲しいー!! みんなでケーキバイキングなんて、結構楽しそうなイベントよね!! ……これじゃ沖田さんの思うツボかもしれないけど、将軍様の料理を作るくらいだし……まぁ、受けてもいいわよね!)

 全員分のペアチケットが欲しい為、依頼を前向きに捉えている。沖田への印象はひとまず置いといて、ここは素直に褒美へ釣られる事にした。

「わ、分かったわ。でも協力するからには、ちゃんとした料理を作るわよ! いいわね?」

「はいはい、分かっていますよ」

 過度な喜びを前面には出さず、言いくるめられた素振りで了承している。紆余曲折はあったが、沖田の機転をきっかけにして、交渉を成功へ納めていた。真選組にとっては喜ばしい結果だが、ここでまた彼は毒のある本音をこぼしてしまう。

「いやー、女っていうのは単純だから、餌を与えたらすぐに食いついてきやすよね」

「総悟……これ以上はもう言うなよ。二度と俺達、信用されなくなるぞ」

 培った努力を無駄にする発言を聞き、土方らも冷や汗をかいて注意を促す始末であった。アスナには聞こえていないのが、不幸中の幸いである。

 こうして幕府から投げかけられた将軍の希望は、万事屋に所属するアスナへと託されていった……

 

「よし! それじゃ、早速始めましょうか!」

 会議室から調理場へ場所を移動したアスナや真選組一行四人は、早くも料理の準備に取り掛かっている。そのほとんどを賄う彼女は、気合を入れつつ、素朴な緑色のエプロンを服の上から巻きつけていく。本人の愛嬌と相まって、着こなした容姿はとても可愛らしく見えていた。

「トシ。エプロン付けている女子って、一段と魅力が上がるよな! お妙さんのエプロン姿も、いつかは見てみたいものだ……!」

「エプロン以前に、料理の腕が上がれば問題ないんだがな。まぁ、そんな機会はもう来ないと思うが……」

「いや……それは……ないと思う」

「息詰まっている時点で、自覚ありじゃねぇかよ」

 連想するように恋焦がれる相手を頭に浮かべた近藤だが、土方の現実を突きつけた言葉により、一瞬にして妄想が破壊されてしまう。否定しようにも事実に変わりは無いので、彼はただ黙ることしか出来なかった。

 近藤の恋愛事情はさておき、料理へのやる気を高めているアスナには、沖田が丁寧な説明を促してくる。

「まぁ、まずは試しにここで調理してくだせいよ。材料は一通り揃えたので、好きに使って構いやせんよ」

「分かったわ。ところで、将軍様の料理って……何をテーマに作ればいいの?」

「特にこだわりはないですよ。豪勢な料理を作ろうが、家庭的な料理を作ろうが、上手ければ問題ないですからね」

「そんな、大雑把な考え方でいいのかしら……?」

 将軍の昼食でも、張り切らずに普段通りの料理で良いと伝えていた。条件に縛られず自由に調理が出来るが、その分強い責任をアスナは感じている。

 苦い表情を浮かべつつも、とりあえずは真選組の用意した材料をさっと眺めていく。

「へぇー結構揃っているわね。これだったら、大半の種類は作れそうよ」

 普段の料理でも使う野菜類やキノコ類、あまり見かけない魚や精肉などと、材料は豊富に揃えてあった。さらには調味料も、まんべんなく用意されていたが――ここで明らかにおかしい光景を目にしてしまう。

「それでこっちは調味料……って、ちょっと待ちなさい! これは何?」

「何って、ただのマヨネーズだが」

「……じゃなんで、こうもおびただしく大量にあるのよ!!」

 調味料置き場にあったのは、二十本を超える大量のマヨネーズであった。もちろん用意したのは土方であり、彼の異常なるマヨネーズへのこだわりが嫌でも分かってしまう。アスナも激しいツッコミを繰り出す中で、土方は自信良く反論を繰りだしてくる。

「はぁ? 何を言ってんだ? マヨネーズくらい、二十本は当たり前で用意するだろ?」

「全然常識外よ!! こんな大量のマヨネーズ、一体どんな時に使うのよ!!」

「用途を使い分けて、選ぶんだよ。左からハーフ、クォーター、ノンコレストロール、ノンオイル、マスタード、醤油風、みりん風、ケチャップ風、ソース風とあるぞ」

「途中から他の調味料と混ざっているじゃないの!! もはやマヨネーズって呼べるの、それは!?」

 理由を聞いてもなお、依然として理解をすることは無かった。たった一つ分かったのは、土方に何を言っても意志は変わらない事である。永遠に分かり合えないと悟り、アスナはこの一件を水へと流していく。

「相変わらず土方さんは、度を越えたマヨラーだったわね……で他には、どんな食材が置いてあるのかしら?」

 気を取り直して、またまばらに材料を見直していくと、不自然にも置いてある一つの発泡スチロールの箱を見つけていた。

「ん? これだけなんで、丁寧に舗装されているの?」

 つい気になって箱の中身を覗いてみると、そこに入っていたのは実に奇妙奇天烈な食材である。

「えっ? って、キャャャャ!!」

「おや、どうしたんでい?」

「な、何よコレ!? これが食材だって言うの!?」

 強い精神的ショックを受けて、アスナは思わず叫び散らして腰を抜かす。彼女が目にしたものは……死腐土(シーフード)星特産として知られているチコン貝であった。その外見は、女子にとってはかなり刺激の強い代物である。

「ああ、これか。俺の用意したチコン貝ってやつですよ。一部の界隈には、珍味として知られている高級食材でっせ」

「そ、そんな説明いいから!! こんな卑猥な食材、早く外してちょうだいよ!!」

「なんでですかい? 尾の部分にチ〇コが付いていただけで、ここまで動揺するんですかい?」

「当たり前よ!! ていうかアンタ、絶対に受け狙いで持ってきたでしょ!! これ以上、私の純情を汚さないでよ!!」

 そう、沖田の言う通りにチコン貝とは、男性の局部に似た尾を持つ珍妙な食材であった。当然アスナには理解ができずに、卑猥な外見から目をそらして気までも取り乱していく。

「とにかく、この貝は却下!! 使わないから、さっさと遠ざけてよね!!」

「はいはい、分かりやしたよ。〇ンコくらいでここまで動揺するなんて、お前も意外と純粋なんですね」

 彼女の指示の通りに、沖田はチコン貝の入った箱をこの場から遠ざけている。声を枯らしつつも、問題の一件が解決してようやく落ち着きを戻していた。

「まったく……沖田さんも土方さんも、なんでこうも常識からかけ離れているのかしら……」

 強烈なボケとも捉えられる二人の個性には、もはや呆れも通り越している。大きくため息を吐いたところで再び食材を見直すと、またも意味不明な物体を見つけていく。

「ん? なんでこのこんにゃくだけ、真ん中に切れ目が入っているの?」

 手にしたのは、不自然な切れ目の入った一個のこんにゃくであった。不思議そうに眺めていると、ここで近藤が慌てて動きだす。

「あっ、それは……俺の切ったもので!」

 すかさず取り返そうとした時である。

「ハァァァ!!」

「ブハァァ!? なんで……?」

 咄嗟にアスナは勢いよく、手にしたこんにゃくを近藤の顔面へ投げつけていく。カウンターのような攻撃を受けて、彼は当たるとそのまま後ろへ倒れてしまった。一方のアスナは顔を赤くして、感じたままに大声で伝えている。

「嫌な予感を察したからよ……きっとこのこんにゃくも、どっかの星のゲテモノ料理だって言いたいんでしょ!!」

「……はい?」

 あまりにも疑いを強めたせいで、かなり的外れなことを発していた。これには近藤も、首を傾げるようにして少々驚いている。

「疑いすぎて、とうとう頭にきたって感じか」

「本当はマニアックな下ネタなんですけどね」

 対照的に土方や沖田は、冷静に場の状況を淡々と分析していた。ボケには慣れないアスナだからこそ、早とちりで疑念に苛まれたと察している。ちなみにこんにゃくの一件は、真実を伝えると余計に取り乱すので、あえて詳しくは普及しなかった。

 調理の手前である材料選びから、早く波乱が巻き起こっている……

 

 それからさらに数分が経つと、アスナも気を取り直しており、本格的に調理を進めていく。ジャンルの異なる三つの料理の完成を目標にして、手際よく作っていた。

「ふふーん。ようやく料理も、完成に近づいてきたわね!」

 本人の気分も好調であり、鼻歌混じりに楽しく呟いている。誰にも邪魔されずに料理を続けられるのは、彼女にとってもこの上ない好条件であった。

 一方で真選組の面々は、何一つ手助けすることは無く、ただ傍観している。料理する光景を見守りながら、独自で会話を進めていた。

「なぁ、総悟。料理をしている女子って、なんか麗しく感じるよな!」

「また、この流れですかい? 何回でも言いますが、近藤さんの片思い相手は、料理下手に変わりはないですよ。なんせダークマターを作れる鬼才ですからね」

「き、聞こえてないぞ! 決して俺は、憧れている訳じゃないからな!」

「やっぱり、自覚しているじゃないですか」

 心に「グサッ」と刺さる沖田の一言を聞き、またも近藤は精神面を追いやられてしまう。恋焦がれる妙を想起していたが、密かに心では彼女の料理下手を気にしている。アスナとの才能の有無が露わになり、近藤は複雑な心境を持ち始めていた。

 二人の話が込み合う中で、土方だけはアスナへ近づいて、料理模様をじっくりと見物している。

「ほうー和洋中って、ジャンルごとに分けたのか?」

「その通りよ。下ごしらえはある程度終わったから、後は一気に焼いたり炒めたりするだけよ! さぁ、一品目が完成したわ!」

 軽く会話を交わしている内に、早くも一品目の料理が皿へ盛り付けられた。中華の部類に当たる青椒肉絲が完成しており、油に炒められた豚肉とピーマンの芳しい匂いが辺り一面へと広がっている。

「もう出来上がったのか? とりあえず、味見しても大丈夫だよな」

「ええ、どうぞ。かなりの自信作だから、期待して食べてちょうだいね!」

 匂いにつられて土方も、彼女の作った料理に興味を持ち始めていた。食欲をそそられており、食す前にじっくりと出来立ての匂いまで満喫している。

(よし! これだったら匂いも抑え目に作っているから、将軍様にもピッタリの料理だと思うわ。さぁ、土方さんはどんな反応を……)

 掴みは完璧だと確信して、アスナ自身も屈託のない笑顔を見せていた。料理の感想を楽しみにして、期待を寄せていた……直後である。

「あっ、忘れてた。マヨネーズをかけねぇと」

「はぁ!?」

 土方は急に携帯していたマヨネーズを取り出して、青椒肉絲に向けてたっぷりとかけ始めていた。折角作った料理を勝手に味付けされて、アスナも咄嗟に怒りで頭にきてしまう。

「ちょっと待ちなさい!! 味見にもマヨネーズをかけるとか、どこまで味を濃くしたいのよ!! というか、これは将軍様向けに作っているのよ!! 土方さん用には、作っていないんだからね!!」

 気持ちが高ぶって、しかめっ面で言い迫ったのだが、残念ながら土方には何一つ伝わっていない。

「いちいち、うるせぇな。俺のマヨラー流儀には、茶々を入れんなよ。そんなに嫌だったら、小皿に盛り付けて勝手に食えばいいんだろ?」

 ふてぶてしい表情で、彼は棚から皿を取り出して、マヨネーズの付いた部分だけ丁寧に箸で盛り付けていく。あくまでも我流を通す性格には、これ以上注意のしようがない。アスナも内心では、つい納得が出来ずにいた。

(なんて人なの……折角私の作った料理が、マヨラー男で台無しにされるなんて。こうなったら、もう一品料理を作るわよ……。土方さんを、ギャフンと言わせるために!!)

 しかし、怒りと共に沸き上がったのは悔しさを晴らす覚悟である。意気揚々とマヨネーズをかける土方に、料理で見返す計画を思いついていた。既に料理の構想も練っており、将軍様の料理と並行して作るようである。

「分かったわ、土方さん。もう一つ料理を作るから、全部出来上がったら、また味見してくれるかしら?」

「ああ、いいぜ。どっちにしろ、俺はマヨネーズ込みで評価するからな」

「望むところよ!」

 彼女は堂々と、相手に向けて宣戦布告を伝えていく。互いに気持ちを譲り合う事は無く、迫真の表情で自らの信念を貫いている。険しい表情となって、共にバチバチとした対立意識で相手を睨み続けていた。

「って、いつの間にか別の勝負が始まっているみたいですよ」

「ト、トシ!? 一体何があったんだ!? アスナ君の目が、結構本気なんだけど!?」

 知らずの内に二人の勝負が始まっており、沖田や近藤も薄々と気付き始めている。前者は冷静にも面白がるように、後者は再び慌てるようにして驚いていた。こうして、マヨラーの土方と料理上手なアスナとの間に空いた溝から、予想もつかない勝負が始まっていく……

 

「はい、どうぞ。これで全て出来上がったわ!」

 二つの目的達成に向けて料理を続けていたアスナは、いよいよ全ての料理を作り終えていた。和洋中のそれぞれを代表する料理が三品と、土方への対策料理の計四品である。どれも見栄えが良く、将軍様に出しても申し分が無かった。

「おっ、もう全部出来たのか!!」

「へぇー、これは中々やりやすね」

 改めて誇示された彼女の料理技術には、近藤や沖田もその全貌に脱帽している。それからは作り上げた料理を、丁寧に一品ずつ見渡していく。

 先ほど完成した青椒肉絲に加えて、和を代表する魚の煮物漬け、洋を代表とする野菜とひき肉をふんだんに使ったハンバーグが皿に盛られていた。青椒肉絲以外は出来立てを保っており、どれも食欲をそそる一品として完成している。

 そしてマヨラー対策用の料理は……こちらも和風料理であるキノコと海鮮系の天ぷらであった。

「はい。これが土方さん向けの料理よ」

「ほうー見た目は良さそうだな。まぁ、何が来ようがマヨネーズ込みで評価してやるよ」

「ええ、もちろん。後悔してもしらないわよ……」

「ああ?」

 アスナは意味深な言葉をかけると、フッと自信ありげな笑みを浮かべている。違和感を覚えた土方であったが、特に気に掛ける様子は無かった。

 ひとまずは、真選組の面々で作った料理を味見していく。一品ずつ口にしていき、最適の料理を定めていた。

「うん、中々これはいけやすね」

「どれも完成度が高いじゃないか! やっぱりアスナ君には、期待して良かったよ!」

「ハハ……それはどうも」

 どの料理にも大した不満は無く、出来栄えの良さから自然と食欲が進んでいる。特に近藤だけは、感激のあまり過剰な喜びを見せていた。

 一方で土方は、アスナの作った天ぷらに大量のマヨネーズをかけて食べようとしている。

「さぁ、これでようやく食べられるな。いただくか」

 いつもよりもふんだんに使ったことで、主軸である天ぷらがマヨネーズに埋もれてしまった。もちろんお構いなく、彼は箸でキノコの天ぷらをとって、そのまま口にしていく――すると、早くもある違和感を覚えている。

(……何!? おいしいはずなのに、味が濃い……? マヨラーの俺でも、耐え切れない濃さだと!?)

 神妙な表情となって気が付いたのは、天ぷらとマヨネーズとの相性の悪さであった。ありとあらゆる料理にマヨネーズをかけた土方でも、味わったことのない酸っぱい感触が襲ってくる。認めたくない複雑な感情が、沸々と心の奥底から上がっていく。

 困り果てる姿を見届けたところで、アスナは不敵な笑みを浮かべて、彼に種明かしを話し始める。

「フフ……ようやく気が付いたかしら。この天ぷらに隠された秘密を……」

「お、お前……一体何を仕掛けたんだ!?」

「それは……卵の代わりに、アナタの薦めた数多のマヨネーズを仕込んでおいたのよ!!」

「な、何だと……!?」

 意表を突く一言を聞き、土方は思わず驚嘆していた。彼女が明かしたのは、隠し味として使用したマヨネーズである。天ぷらの粉に多くのマヨネーズを調合して、絶妙な濃い味付け具合を実現させていた。さらに、後にかけるマヨネーズとミスマッチさせるように計算する徹底ぶりである。アスナが目論んだ見返しは、いよいよ仕上げに入っていく。

「少なくとも美味しさを踏まえた上で、マヨネーズ同士を調合したのよ。そのおかげで、普通のマヨネーズとはミスマッチさせる、完璧な隠しマヨネーズが出来たのよ!」

 詳しく事実を畳みかけていき、どや顔を見せつけて彼にとどめを突きつけている。SAOやALOで培われた調合技術が、思わぬ場面で発揮されていた。これには土方も返す言葉が見当たらず、観念して素直に負けを認めていく。

「くっ……俺の負けだ。参ったよ」

「よし! 見返し成功ね! やったわ、ハハ!!」

 悔しい表情となった姿を見て、アスナは爽快感に溢れた笑いで勝利に浸っていく。料理の腕を落とさずに、技術だけで相手を見返したことが、彼女にとってこの上ない幸福であった。

 と激しい勝負を展開した二人であったが、傍から見れば実はそこまで対した事ではない。傍観していた近藤や沖田は、首を傾げて呆れ果てている。

「何やってんだ、アイツら……目的を完全に見失っているぞ」

「マヨネーズバカと料理バカが張り合った結果、何とも虚しい雰囲気になってやすね。まぁ、本人達が満足するまで放っておきましょうか」

 冷たい視線を送った後に、二人は黙々と味見を続けていく。出来る限り口出しはせずに、そっと距離を置いていた。見返しに執着するあまり、周りの反応にはまだ気が付いていないアスナである。

そしてこの料理を元にして、彼女はレシピを書き記して、無事に依頼を達成させていた。

 

 それから数日が経過した頃。依頼料としてスイーツバイキングへチケットを手にしたアスナは、万事屋一行と共にその店を訪れていた。室内にあるテーブルに座り、皿に盛りつけたスイーツを味わいながら、彼女は真選組との間に起きた出来事を仲間内に話している。

「ということなのよ。この間私が、巻き込まれた昼食騒動って」

「へぇー。そんな濃い出来事があったんだ」

 一通りの話を聞くと、キリトは納得して深く頷いていた。アスナが経験した料理の苦悩が、大まかに仲間達にも伝わっている。

「それにしても、アッスーも頑張ったアルナ! あんな税金ドロボー達の依頼に、真摯に答えるなんて!」

「そうでしょ! 結構大変な目にあったのよ! 特にマヨラーとか、土方さんとか!!」

「よっぽど土方さんに、恨みが出来たんですね……」

 神楽から声をかけられると、怒りを思い出したように激しく主張していた。特に本筋から離れて対立していた土方には、やるせない気持ちを表している。不機嫌そうな表情からは、新八も深い理由があると察していた。

 そんな彼女に対して、銀時やユイはさり気ない言葉を返して慰めていく。

「でもいいじゃないか。こうやって今、スイーツバイキングに行けてんだからよ」

「そうですよ! 美味しいケーキをいっぱい食べれて、私はすごくハッピーですよ! ママ!!」

 前者はごく自然な振る舞いで、後者は満足気な表情で大きく喜びを伝えている。仲間内の温かい優しさを目にすると、アスナの気持ちも徐々に元気を取り戻していった。

「二人共……フフ、励ましてくれてありがとうね! さぁ、気を取り直して、バイキングを再開しましょう!!」

「もちろんアル!!」

 苦い経験を紛らわしていき、今は神楽達と共に有意義な時間を楽しもうと考えている。心機一転して彼女は、神楽と新しいスイーツを取りに席を外していく。人一倍笑顔を戻した姿には、銀時やキリトらも一安心していた。万事屋の甘い一時は、まだ始まったばかりである……

 

 一方で昼食のレシピを提出した真選組には、早くも幕府側からの返答が届いていたのだが――

「おいおい、嘘だろ……」

「まさかな……」

近藤、土方共に驚嘆とした反応を示していた。手紙の内容を目にしていき、思わず愕然としている。さらにそこへ、沖田も部屋へと入ってきた。

「おや、どうしたんですかい? 幕府側からの返答が、よっぽどショッキングだったんですかい?」

 興味深く聞いてみると、互いに神妙な表情となって手紙の内容を伝えてくる。

「いや、それがだな……将軍様に四つの料理を吟味させたみたいなんだが……」

「一番美味しかったのが……あのマヨ天ぷらだったらしい……」

 どうやら将軍の評価では、土方対策として作られたマヨ天ぷらが気に入ったようだ。これにはこの料理に否定的な土方も、驚きを隠せずにいる。話の流れを察した沖田は、彼の肩をそっと掴むと、急に優しい言葉をかけてきた。

「良かったじゃないですかい。これで将軍様も、マヨラーの道に引きずれますよ」

「いや、そうじゃねぇよ!! 何でよりによって、あの濃い味付けの料理を選ぶんだよ!! 予想外にもほどがあるだろうが!!」

「いいじゃないですかい。そもそもあの天ぷらは、マヨネーズをかけなかったら、結構美味しい代物でしたよ。土方さんは無駄にかけすぎるから、いけないんですよ」

「何だと、てめぇ!! 俺のマヨラー道を、否定するのかゴラァ!!」

 ごく当たり前な正論を言い放つが、やはり土方には何一つ伝わっていない。極度のマヨラーとしては、どうしてもあの天ぷらだけは認めたくは無かった。何とも歯がゆい性である。

「やはり将軍様は気まぐれなお方だな……いや、アスナ君の料理の腕が、高いと言うべきか……」

 険悪な雰囲気が流れる中でも、近藤は腕を組んでしみじみと結果を受け入れていた。結局はアスナ頼りであったが、十分に貢献したくれた事には、感謝してもしきれないのである。

 こうして依頼は一段落した一方で――

「へッ、クッション!!」

「おお、でっかいくしゃみアル!」

噂を聞きつけるように、アスナは大きいくしゃみを出してしまう。結果を未だに知らされていない彼女であった。

 




 思えばアスナも土方も副長繋がりなんですね。料理のセンスは、壊滅的に合わないけど……
 後はやっぱり、料理への描写って難しいですね!


次回予告
源外「てめぇら、ゲームの世界へ行きたいか―!」
銀時「どうしたんだよ、爺さん! そんなに張り切って」
源外「いいか、ようやくゲームの世界へ入れる装置をこの俺が開発した。剣魂にもSAOらしさが欲しいと、上から言われてな」
銀時「上って誰だよ! 適当な理由を語るんじゃねぇよ!」
源外「次回! 未来は想うままに辿り着かない! 懐かしのあのゲームが登場だぞ!」
銀時「な、なんでお前がそのゲームを!?」
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