剣魂    作:トライアル

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 今回は珍しくゲームの世界へ行きます。果たしてどんな世界へ行くのでしょうか? それでは、どうぞご覧ください。


第四十四訓 未来は想うままに辿り着かない

「まずい……この先の行動で、決着が着くのか……」

 とある事情で窮地に陥っていたキリトは、思わずただれた本音を呟いていた。表情は緊張感に包まれており、慎重に行動を選んでいる。

 きっかけは些細な事であったが、勝負となれば負けるわけにもいかないましてや。相手は、仲間でもある新八。彼の隠された一面から、勝負は持久戦へ持ち込まれていた。

「さぁ、早く選ぶがいい! まさか僕に勝ちを譲る気かな?」

 まるで人が変わったように、調子に乗って挑発気味の発言を繰りだしている。高らかな自信からは、一斉の迷いすらも感じられない。

 一方で近辺には、残りの仲間達四人がこの勝負を見守りつつ観戦していた。

「キリト君、頑張って……!」

「パパ、ファイトです!!」

「ていうか、この場面から始まるの? この話」

「読者には何が起こったのか、全く伝わってないアルよ」

 アスナやユイは祈りを込めてキリト側を応援していたが、銀時や神楽は冷めた目つきで他人事のように呟いている。メタ発言も交えており、その温度差はかなり激しかった。一体万事屋の身に何が起こったのか? 時間を巻き戻して、昼頃にからくり堂を訪れた辺りから話を進めよう――

 

「えっ? ドリームギアを改造して、ナーヴギアっぽくしたんですか?」

「あたぼーよ。夢世界ではなく、瞬時にゲームの世界へ行けるカラクリを完成させたんだよ。名付けてドリームギアV2だな!」

「ドリームだけは、名前を変えないのね……」

 源外の癖のある名称のこだわりには、アスナも引き気味に苦笑いを浮かべている。

時系列はちょうど八月の半分を過ぎた頃。万事屋一行は彼からの連絡で、昼頃に揃ってからくり堂を訪れていた。新作のカラクリであるドリームギアV2のお披露目としてやって来たのだが……全員の反応は十人十色のようにバラバラである。

「ドリームギアは確か……早見千佐さんを目覚めさせるために、使用した装置ですよね?」

「そうだな。少しナーヴギアやアミュスフィアと系統は似ていたけど……まさか似せてくるなんて、思いもしなかったよ」

 過去の実績を振り返りつつ、好意的に受け止めているキリトやユイらに対して、

「ていうか、爺さん! それってつまり、ナーヴギアを諸々パクったって事アルか?」

「おいおい、それは頂けねぇな。無許可でやったなんざ、後で本人からのお叱りを受けるに違いねぇぞ」

「いや、アンタがそれを言うなよ! ブーメランの如く、返ってきていますよ!」

銀時や神楽は文句ばかりを口にして否定的であった。特に銀時は人には言えないことまで言い放ち、新八に核心を突くツッコミを入れられている。

 万事屋からのまばらな反応には気にせず、源外は終始冷静とした態度で接していく。

「まぁ、言いたいことは良く分かるが、そこも安心してくれ。俺も一人の大人だから、けじめの一つくらいは付けているさ」

「けじめですか?」

「ああ。無許可云々を乗り越えるには、まったくの別物に寄せればもうなんてことないよ。ナーヴギアが頭に被って仮想世界へ行けるならば……」

 そう言いながら彼はドリームギアV2を手に取り、近くにあった携帯用ゲーム機の上に被せてきた。

「えっ? これって……」

「もう見てわかるだろ。頭がダメならばゲーム機に被せればいい! これならばちゃんと、差別化も図れて問題なしってわけだ!」

 予想の斜め上をゆく発想には、万事屋一行もみな言葉を失っている。ナーヴギアとの差別化を重視した結果だが、正直凄いのかくだらないのかよく分かっていない。それでも源外は、意気揚々と誇らしく感じていた。

「ちょっと、何言っているか分からないアル」

「安直にもほどがあるんじゃないのか?」

 沈黙に耐えかねて、再び銀時や神楽が冷めた目つきで愚痴を出している。全員揃ってすこぶる反応の悪さだったので、ここで彼は隠し通していた最終手段を披露していく。

「今日はねちねちと文句ばかりだな。だったら、これで驚かせてやるよ。ポチっとな!」

 勢いよくドリームギアV2のスイッチを押して、ゲーム世界の入り口を発生させていた。歯車のようなレトロ風の音楽が流れると、ゲーム機の周りを光の粒子が飛び回り、一つの塊へと集約していく。白いオーブを作り出して、現実とゲーム世界を繋ぐ光のトンネルが瞬く間に完成した。

「あ、穴が開きました!?」

「この輪っかは一体……」

 当然のことだが、万事屋一行の表情は急変している。否定気味だった銀時や神楽も、これには唖然とするしかない。すんなりと見返したところで、源外は高笑いをしつつ、自身のカラクリを自画自賛している。

「ハハハ! これがドリームギアV2の真骨頂よ!! このオーブは現実とゲーム世界を、そのまま繋げることが出来るのだ!! それじゃ……御託はいいから、ひとまずは行ってこい!!」

 勢いに乗って再びスイッチを押すと、白いオーブから風が吹き出して、瞬時に彼らの周りを包み込んでいく。まるで掃除機で吸い上げるように、六人を強制的にゲーム世界へ引きずり込もうとしていた。

「って、えっ!? まだ準備も何もしてないんだが!?」

「まさか強制的に連れて行く気なの!?」

「どんなゲームなのか、聞いてすらいねぇぞ!! おい、爺さん! 聞いてんのか!?」

 徐々に風へ乗っかっていき、キリトやアスナらは困惑して本音のままに叫んでいる。垣間見えた源外の強引さには、銀時も頭を抱えて悔やんでいた。

 すると、自ら仕掛けた本人が一行へ向けて声をかけてくる。

「心配するな! ゲームをある程度まで進めれば、現実へ戻れることが出来るぞ! それまでお前達には、ちと検証実験に付き合ってもらうけどな」

「って、オーブを仕掛ける前に言えアル! 完全に私達をはめやがったナ、ゴラァ!!」

「言ったところで、断られるのは目に見えていたからな。ちなみにセットしたゲームカセットだが……どんなジャンルを入れたっけな?」

「ここでド忘れしないでくださいよ!! もう時間がな――」

 さらっと重要な条件を伝えた後に、源外は間が悪くセットしたゲームを忘れかけていた。呑気に思い返そうとした……直後である。

「「「うわぁぁ!!」」」

「「「キャャャ!!」」」

 ちょうど万事屋一行はオーブの中へと吸い込まれていき、悲鳴を上げながらみなゲーム世界へ転移してしまった。中から吹き出した風は静かに収まり、何事も無かったかのような静寂に戻っていく。

「おっと、思い出したぞ! 確か眼鏡のお前さんが昔ドはまりしていた……アレ? もう行ったのか?」

 時すでに遅く源外が思い出した頃には、もう万事屋は誰一人としてここにはいなかった。突如として始まったドリームギアV2の検証実験。キリト達に待ち受けるゲーム世界とは、果たしてどんな世界なのだろうか?

 

「あぁぁーと! 痛ぁ!?」

 風に連れられるままオーブを潜り抜けていき、銀時は不十分な着地でゲーム世界へ転移していた。さらに彼へと続き、

「うわぁぁ!!」

「グハァァ!!」

キリトら仲間達五人も次々にやって来ている。みなが銀時の上に乗っかる形で来たために、本人はその重みから怒りがこみ上げていた。

「おい! てめぇら、早く降りろ!! どさくさ紛れに、乗っかるんじゃねぇよ!!」

「ぎ、銀さん!? あっ、ごめんなさい!!」

 呼びかけから気が付き、仲間達は慌てて銀時から降りていく。五人分の重みから解放された彼は、ゆっくりと起き上がった後に話しかけてきた。

「ったく、色々と後先が思いやられる展開だな……」

「まぁまぁ、銀さんってば。ひとまずは落ち着いてって」

「落ち着けるわけがないだろ。なんせ俺達は今、ゲームの世界にいるんだからよ」

「そういえば、そうだったな……」

 キリトがフォローするものの正論を言われてしまい、返す言葉を失っている。銀時の言う通りに、オーブを通り抜けたこの場所がゲーム世界のようだ。しかし、辺りを見渡していたアスナやユイはふと疑問を呟いている。

「ゲームの世界とは言っても、現実と何も変わらない町並みですよ」

「少なくとも、私達の得意なRPG系では無いわね」

 彼女達の言う通り、このゲーム世界は現実との差があまり感じられない。江戸風の町並みに加えて、古民家とビル街が周りに立ち並ぶ昼下がりの光景。現在一行がいるのも、閑散とした住宅街に囲まれた歩道である。こうした少ない情報から、まずはこのゲームのジャンルについて解き明かしていく。

「となると、如何にも現実的なゲームっぽいアル。初っ端から不安しか無いネ」

「そうだな。もしかしたらゲートボールやパチスロをやらされるかもしれないから、てめぇら何が来てもいいように覚悟だけはしとけよ」

「それだけは俺も攻略できないよ……」

 銀時らの冗談めいた予想には、キリトも苦笑いで返答している。源外の古臭いセンスから、期待もしない答えが飛び交っていく。先行きが不透明な状況が続く中で、新八にはある既視感が頭をよぎっていた。

「まさか、このゲームの世界って……」

「ん? どうしたんですか、新八さん? 何か思いついたのですか?」

「いや、何でもないよ! 皆さんはここで待っていてください! 僕は確かめたいことがあるので、終わったら戻ってきますね!」

「えっ、新八君!? ちょっと待ってよ! おーい!?」

 ユイやアスナらの問いかけをはぐらかして、新八は確証を得たかのように仲間の元を離れていく。足早にこの場を去っており、不可解な行動にはみなが拍子抜けしていた。

「あの眼鏡、どっか行っちゃったアルよ」

「新八さんにしては、結構珍しい行動力ですよね」

 特に知り合ったばかりのキリトら三人は、意外な一面に驚きを隠せずにいる。その一方で銀時は、一連の行動を察してある答えに辿り着いていた。

「無断で行くとか突拍子も無いだろうが……でもこれで、このゲームの正体がようやく掴めたかもな」

「えっ!? そうなのか、銀さん?」

「おうよ。おそらくこのゲームの世界はな……愛チョリスっていうギャルゲーだよ」

「「「愛チョリス?」」」

 初耳なゲーム名を聞くと、キリトら三人は声を揃えて驚きを露わにする。彼の提案した仮説には、唯一神楽だけが食い入るように納得していた。

「あっ、あのゲームアルか! それなら、新八の行動にも納得できるネ!」

「いや、そうじゃなくて! 一体どういうゲームなのか、俺達に教えてくれないか?」

 流れを断ち切って詳しい情報を求めてくると、銀時はSAOメンバーに愛チョリスを軽く解説していく。

「簡単に言うと、リアルに近づけた疑似恋愛ゲームだよ。三人の女の子から一人を選んで、自分好みの彼女に育ませてゴールインするのが目的なんだよ」

「なるほどね……要するに王道な恋愛ゲームってわけね!」

「いいや。ツッコミどころ満載過ぎて、正直ついていけねぇゲームだよ。仕舞いには参加者揃って、妄想まで見える始末だったからな」

「それ、どんな状況なんだ……」

 一癖も二癖もある恋愛ゲームだと知ると、反応に困り言葉が詰まっていた。いずれにしろ、キリトらにとっては馴染みのないジャンルである。

 それはさておき、現実に戻るにはある程度までこのゲームを進めなくてはいけない。条件を満たすためにも、万事屋一行は体験を兼ねて、この愛チョリスを進めようと考えていた。その主軸となるゲームプレイヤーは――

「とにかくだ。まずはこのゲームを進めて、手早く現実世界に戻ろうじゃねぇか。折角だから、とりあえずキリトがやってみるか?」

「えっ、俺なのか!?」

まさかのキリトが指名されている。これを聞いた本人は、戸惑いの反応を見せていた。

「何驚いてんだよ。ゲーマーって呼称しているんだから、ギャルゲーの一つや二つくらい攻略できんだろうが?」

「そうは言っても、俺ほとんどやったことがないし……アスナやユイもいるから、やりづらいと思うんだが……」

 ノリで決めつけた銀時に向けて、彼は否定的な返答を突きつけている。その傍らで、場の空気や仲間達の気持ちまで察していた。どこか乗り気ではない態度は、ユイにもよく伝わっている。

「そうですよ! パパにはママがいるんですから、例え疑似恋愛だとしても、浮気をしたら絶対にダメですからね!」

 彼女は頬っぺたを膨らませて、銀時の指名に強く否定していた。キリトへの愛情が深いからこそ、必死に守ろうと抗議を続けている。

「えっと……それじゃアスナはどう思うかな?」

 結論に詰まった彼は、慎重な面持ちでアスナにも意見を聞いてみた。すると彼女から返ってきたのは、想定外な一言である。

「うーん……別に参加してもいいんじゃない? だってあくまでもゲームの世界での疑似恋愛なんだし、問題ないと思うわよ」

「そうか、問題ないか……って、えっ?」

 まさかの肯定的な返答だった。気にする素振りを見せずに、ごく自然な対応で接している。これには全員が耳を疑ってしまう。

「アッスー、マジアルか!?」

「本当にいいんですか、ママ? パパが浮気しちゃうかもしれないんですよ!!」

 顔色を変えて食い入るように、神楽やユイが問い詰めていく。しかしアスナは、自分なりの意見を持ち合わせていた。

「そんな心配は無用よ。恋愛ゲームくらいで、キリト君の心が変わるわけがないもの。信じているからこそ、何も制限なんかかけないのよ」

「アスナ……」

 長い付き合いからの信頼がある以上、素直に彼女は受け入れている。優しさ溢れる心構えには、キリトもつい感激していた……。と思いきや、

「でもその代わり、一つだけお願いがあるわ」

「お願い?」

アスナは顔色を変えて、そっとキリトの耳元に近づいていく。周りには聞こえない小さめの声で、内緒の約束を交わしていた。

「現実に戻ったら、今日の倍以上の時間を使って私を奉仕してね。約束よ」

「えっ? あっ、えっと……わ、分かったよ」

「もうー、反応が悪いわね! 約束はきちんと守っているわよ!」

「わ、分かっているから! 忘れないから、安心してくれ!」

 ユイらには内緒で、こっそりと二人っきりになる時間を約束している。彼女の本心では、密かに濃厚な時間を過ごしたいと思い、この一件を利用してキリトへと取り付けていた。

 一方でこの約束を知らない銀時ら三人であるが、ユイを除く二人は薄っすらと気付き始めている。

「ん? お二人は何を話しているのでしょうか?」

「気にするな。カップルにしか分からない大人の事情だと思うぞ」

「ユイにはきっと、まだ早い世界アルよ……」

「どういうことですか? 教えてくださいよ!!」

「そう言われてもな……」

 気になって問いかける彼女とは対照的に、銀時や神楽は目を点にして言葉を詰まらせていた。いつにもまして愛情を深めるキリアスの姿に、微妙な反応を示していく。板挟みにされている二人が、この場における被害者なのかもしれない。

 紆余曲折はあったが、愛チョリスの主役は無事にキリトへ決まった……だがしかし、新八の方にも、ある異変が起きようとしていた。

 

「よし、名前も登録したな。それじゃまずは、彼女となる女子を三人から選ぼうじゃないか」

 順調に名前などの登録を終えた一行は、いよいよ第一の山場となる彼女選びに突入している。一応アスナから許しをもらったキリトであるが、知らぬ間に本人からは静かなる圧力をかけられていた。

「フフ……出来ればキリト君には、私に似た雰囲気の子を選んでほしいものだわ~」

「ああ……なるべく見極めるよ」

 満面の笑みで迫ってくるアスナの姿を目にすると、彼は引き気味に苦笑いを返している。複雑な心情を悟って、心の内では本音を吐き出していく。

(結構なプレッシャーをかけてくるな……やっぱり、本当は気にしているのでは……?)

 ほんの数分前には背中を押してくれたのだが、一連の態度を見るとどこか不安を感じてしまう。益々とキリトの肩身は狭くなっている。

 その一方でユイや神楽が気にしていたのは、彼女候補に当たる女子キャラクターの特徴であった。

「そういえば、銀ちゃん。このゲームには、どんな女子がいたアルか?」

「分かる範囲で教えてもらえませんか?」

「そうだな……確か覚えているのは、メガネっ娘系とお姉さん系の女子だったと思うが」

 銀時が思い出しながら質問に答えていると、話に上げていた女子キャラクターが等身大のまま、イメージ画像として目の前に表示されている。ご丁寧に実物のキャラデザを見せて、説明を補足していた。

「うーん……まぁ、悪くはない可愛さよね。キリト君との相性が良いのかはさておき」

「相性って……アレ? そういえば三人ってことは、もう一人いるんだよな? 一体どんな女の子なんだ?」

 まじまじとデザインを凝視するアスナとは異なり、キリトはもう一人の女子キャラクターに注目を寄せている。初心者故の興味であったのだが……そんな淡い期待は一瞬にして砕かれてしまう。

「女子っていうか、特徴的なお姉さんなんだけどな」

「「「……えっ!?」」」

 銀時の言葉に続けて出てきたイメージ画像には――割烹着を着た妙齢の女性が映り込んでいた。哀愁を漂わせる風貌には、妙な貫禄を感じさせていく。先程までの女子二人とは明らかに異なるキャラデザには、キリトら三人にとってあまりにも強い衝撃が襲い掛かってくる。

「銀さん……何かの冗談だよな? この人、主人公の母親とか知り合い的ポジションだよね……?」

「いいや、立派なメインヒロインだよ。白水〇×子っていう、定食屋の女将だ」

「ちょっと待ちなさいよ!! 一人だけ存在感が違うじゃないの!! これ恋愛ゲームよね!? 完全に趣旨と異なっているわよ!!」

 説明を聞いても、当然三人は納得などしていない。アスナも新八ばりの激しいツッコミで、どうにか自制を保っていく。一方でこのゲームを体験済みである銀時は、珍しくも淡々として場を取り進めている。

「そう取り乱すな。どんなゲームにも、一つくらいはネタ要素があるもんだろ? そうわきまえれば、自然と慣れて来るって」

「慣れる以前に、特徴が強すぎて今にも胃もたれしそうなんだが……」

 何故そこまで平常心を保てているのか。今のキリトにとっては、銀時の強い肝っ玉の方が気になって仕方がない。さらにはユイまでも、このキャラデザに心からドン引きしていた。

「これは強烈な設定ですね……私でも引いてしまいます」

「そうアルか? ユイはまだ子供アルから、きっと慣れてないだけアルよ!」

「時間が経過しても、到底慣れるとは思いませんが……」

 苦めの表情を浮かべている彼女とは違って、神楽も平然とした態度で気にもしていない。強烈な個性に囲まれているからこそ、ここで反応の違いが露わになっている。

(この中から一人を選ぶのか……完全に二択でもいい気がするんだが。それとも、あの〇×子さんを選んで攻略した方が楽なのでは……)

 衝撃を抑え込みながら、キリトは内心で彼女選びを考え始めていた。正統派の美少女系キャラ二人から選ぶか。はたまた、強い存在感の〇×子にするべきか。周りの反応や自身の気持ちを分析して、悩み続けている――そんな時であった。

「何を迷っているのよ。ここは私を選びなさい!!」

 唐突だが野太い女性の声が、近辺から聞こえてくる。キリトに限らず全員が耳にしており、つい周りを見渡していると……ある信じがたい光景が目に入ってきた。

「さぁ、さっさと顔を見せなさい!」

 なんと表示されていたイメージ画像から、白水〇×子本人が破くように姿を現してきていた。例によってアニメ版同じく、顔面には黒いモザイクがかかっている。この強引な登場によって、場の空気は大きく一変していた。

「ぎ、銀さん!? 前に〇×子が!? 〇×子がいるんだが!?」

「あん、何を言ってんだ? そんな訳が――って、いたぁぁぁぁ!? こっちへ来てるぅぅぅ!?」

「今気づいたのかよ!?」

 全員が平常心を忘れて、近づいてくる彼女に恐怖を感じていく。大袈裟に取り乱す銀時と神楽、強張った表情で体をすくめるアスナやユイの姿が、印象に残っている。それはさておき、〇×子はゆっくり足を進めていき、なんとキリトの目の前にて立ち止まっていた。

「な……何でしょうか?」

 恐る恐る引き気味に聞いてみると、彼女は唇を曲がらせて、ある心情を声に出している。

「今の私の寂しさを埋められるのは、アナタしかいないのよ。この中性的な顔は、間違いなくエナ〇とそっくりだからね」

「エ、エ〇リ?」

「突然共演NGを告げた息子役の男よ。アナタにもその気持ちが、少しは分かるんじゃないの?」

「えっと……一応ですが、分かる気はします」

 意外にも複雑な事情が告げられていた。諸事情で出演が難しくなった〇ナリと照らし合わせて、雰囲気の似てるキリトに温もりを寄せている。やや生々しい話ではあるが、銀時の時と比べると、好印象のままスタートを切っていた。

「アレ? 結構上手くいっていますよ」

「銀ちゃんの時とは偉い大違いアルな」

「なんであいつは、〇×子にまだ好かれてんだよ! どこまでハーレムを築くつもりなんだよ!?」

 仲間内でも驚きの声が上がり、特に銀時は納得がいかずに、激しいツッコミを繰り出して、怒りをまき散らしている。

 相応の反応が続く一方で、アスナだけは人一倍〇×子の迫力に押されており、警戒心を高めていた。

「やっぱり、実物を見ると結構インパクトが大きいわね……まさかキリト君、あの人を彼女として選ぶのかしら……!?」

 苦い表情をしたまま、率直な気持ちを呟いていていると――

〈ヒュ!〉

「えっ?」

なんと急に〇×子が、アスナへ目掛けて圧迫感のある睨みを利かせてくる。目や口からは真っ赤な血を垂れ流して、ホラーテイスト風に脅しをかけてきた。

「この空間に割り込んだら……ぶっ潰す! 覚悟しておきなさい……メスガキ」

「そんな……嘘でしょ?」

 凄まじい本気の口調からは、薄っすらと恐怖を感じる始末である。真っ青な顔になると、つい反応に困ってしまう。さり気なく目線をずらして、小走りで銀時や神楽の後ろ側へ移動していた。

 気付かぬうちに争いが生じる中で、キリトは真剣に〇×子の攻略方法を考え始めている。

(〇×子さんには、恋愛関係に至りたい条件がそれなりにあるのか。息子さんと会えなくなったら、その気持ちも分からなくはないな……)

 少ない情報から彼女に同情していき、意外にも興味を持ち始めていた。彼らしい優しさが、ここで存分に発揮している。気持ちへ寄り添って動こうとした――その直後であった。

「ちょっと待ったぁぁぁ!!」

 タイミングが悪くあの男子の声が、高らかに場へ響き渡ってくる。みなが察している通り、その正体は単独行動を続けていた新八であった。滑り込むように駆けつけて、場の空気を一新させていく。

「し、新八さんですか!?」

「おい、お前どこ行っていたアルか!? それにこの衣装は、一体どうしたネ!?」

 彼との再会にユイら仲間達が驚いていると、さらにある変化にも気が付いている。衣装が袴から光沢のあるタキシードに変わり、雰囲気も数分前と比べると大人っぽく見えていた。別人のような振る舞いは、口調からもよく理解できる。

「騒ぐな、皆の者よ。今日から僕は、新しい新八へと生まれ変わるのだ! この百々さんと一緒に!!」

「モモさん?」

 キザっぽく話していると、何の前触れもなく女性の名前を上げてきた。すると新八に呼ばれるように、一人の女子が彼に駆け寄ってきた。

「おーい、新八君!」

「あっ、こっちだよ! 早くおいで!!」

 温和な声で現れたのは、ウエディングドレスを着たあどけない笑顔の似合う女子である。そう彼女の正体は、新八が以前愛チョリスを介して付き合っていた空想の彼女、百々さんであった。何故か彼女とも、このゲーム世界にて再会を果たしている。無理やり単独行動をしていた理由が、ここで明かされていた。

「あ、あの子ってもしかして……最初に選ぶ女の子の一人よね?」

「恐らくな……新八が飛び出した理由って、あの子も探す為だったのか……」

 謎を解けたのはいいが、変わり果てた新八の風貌を目にして、キリトやアスナは引き気味に反応している。イメージが覆されてしまい、少しだけ心の整理が追い付いていなかった。

 一方で事情を知っている銀時だけは、ため息を吐いて事態の複雑化を悟っている。

「おいおい……益々面倒な事になってんじゃねぇか。こりゃ、戻すの大変だぞ」

「えっ、どうしてですか? 新八さんはちょっと変になりましたけど、一見幸せそうに見えますよ」

 本音を混じらせつつユイが反応すると、彼は過去の経験談を語り出していく。

「そこじゃなくてな……アイツは愛チョリスに夢中になると、現実とゲームの区別が付かなくなってんだよ。おかげで引き戻すのに、かなり大変だったんだよな」

「えっ、そうだったんですか!?」

「憑りつかれたように、毎日やっていたアルからナ……」

「恐らくは過去の記憶が蘇って、今に至ってんだろ。現実へ戻る以前に、アイツを止めないと元も子もないかもな……」

 ゲームにのめり込んだ新八の姿を浮かばせて、苦労の数々を思い起こしていた。神楽も納得したように思い出して、彼の気持ちに同情していく。さらなる目的が出来てしまったが、その道のりは簡単には進まない。

「僕を止めるだって……? 何を言ってんだ! 今僕はキリトさんと同じ土俵に立っているのだ! もう非リアなんて、一斉言わせないぞ!!」

「……言った覚えは無い気がするんだが」

 反論するように新八は、彼女への愛情を膨らませて、仲間達に自慢をまき散らしていく。益々調子に乗っかっており、冷静さを取り戻すには、まだまだ時間がかかりそうである。

 そんな状況下で、新八自身もある事実に気が付き始めていた。

「おや? もしやキリトさんも、愛チョリスに入って来たのか?」

「えっ、ああそうだよ。女子を選んでいたんだが、〇×子さんにしようかと……」

 キリトへの愛チョリス参加を耳にすると、咄嗟に彼はある作戦を思いついている。

「そうか……だったら、話は早いな。今まで溜めてきた屈辱を、ここで晴らさせてもらう! たった今、君に勝負を申し込もうか!!」

「しょ、勝負!?」

 何と決めつけで、彼に堂々と勝負を申し立てていた。新八の宣言により、場にいた全員が驚嘆とした反応を見せている。

「あら、勝負でもするの? 殴り合いだったら、負ける気がしないわよ……」

「いや、物理勝負じゃないと思うんだが……」

 しかし〇×子だけは、違った解釈を頭に浮かばせていた。意外にも、腕っぷしには自信があるようである。

 次々と衝撃的な展開が続く愛チョリスの世界。万事屋は無事に現実世界へ戻れるのか? 〇×子とキリトは果たして仲を上手く深められるのか? 暴走気味の新八を止められるのは誰か? 彼の宣言した勝負とは果たして? 多くの波乱を持ち越して、話は後半戦へと続く……

 




 前回に引き続いて、銀魂の懐かしいネタを絡ませてみました! 気付いた方は、いるでしょうか? 今回の話では途中から分かりますが、一応キリトが主役です。後半戦では、彼の活躍をより強調しようと思っています。イキった新八を、彼は止められるのか? ご期待ください。
 ちなみに原作では出てきたエナ〇が出てきていないのは……察してください。
 次回も恐らくですが、二週間後に投稿となります。変更の場合はまたお知らせするので、よろしくお願いします。

 さらにハーメルンの方では、一訓に二枚の挿絵を投稿しました。ピクシブでは中々上手く表示できなかったので、一旦はこのサイトのみで上げようと思っています。





次回予告
キリト「ギャルゲーの恐ろしさ……十分に理解できたよ」
銀時「そうだろ? まぁ、彼女持ちのお前には到底関係はないけどな」
キリト「あの〇×子さんと、俺は上手く行けるのか……」
銀時「そこはもうお前次第だよ」
キリト「次回。乙女のときめきは分かりづらい」
銀時「リア充に憧れている全ての読者に贈るぜ」
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