剣魂    作:トライアル

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 なんとか間に合いました! 今年最後の剣魂は、季節外れのカブト狩り!? 最後までコラボたっぷりで、ご覧ください。内容を確認していたら、いつもよりも遅くなりました……


第四十六訓 夏の風物詩に乗っかっていけ!

「カブト狩りじゃゃゃゃ!!」

 人一倍張り切った神楽の叫び声が、自然豊かな森全体へとこだましていく。八月も中盤に差し掛かったこの日、彼女は仲良しの子供達を引き連れて、江戸近くにある森で「カブト狩り」ならぬ「カブト取り」へ出かけていた。籠や網を装備して、虫よけスプレーまで用意する徹底ぶりである。子供達を差し置いて、彼女が一番童心に帰っていた。

 一方で連れてきた子供達は、ユイ、晴太、いずみの計三人である。特にユイはいつもの白いワンピースではなく、動きやすい探検用の服へと衣装を変えていた。茶色い半袖のチョッキに短パンと、これまた彼女にとって珍しい服装を着こなしている。

「どうですか、晴太さんにいずみさん。神楽さんが選んでくれた服なんですけど、ばっちり合っていますか?」

「うん、大丈夫! しっかり似合っているよ。ねぇ、いずみちゃん?」

「あっ、そうだね。普段とは違うけど、可愛らしいよ」

「本当ですか!? ありがとうございます!!」

 新衣装の評判もまずまずであり、つい嬉しさを露わにしていく。幸せに笑顔を撒く姿には、晴太も微笑ましく感じていた。

 だが一方で、いずみだけは一人浮かない顔をしている。念願だった虫取りがまた実現したのはいいが、ユイまで来るとは想定外だった。知らずの内に彼女をライバル視して、心の中では静かに敵対心を燃やしている。

(なんでこの子までいるの……!? 折角の虫取りなのに、これじゃ調子が上がらないんだけど!!)

 本音をこっそり呟いて、表情も自然と強張っていく。口には出さずとも、態度では密かに不満さが明らかとなっていた。

「ん? どうかされましたか?」

「いいや、なんでもないよ!」

「そうですか! それでは、早く進みましょう!」

 自身の気持ちを勘付かれないように、適当な誤魔化しで場をはぐらかしていく。ユイも大して気にすることなく、早くもカブト狩りに気持ちを切り替えていた。

「はぁ……あのユイって子と、上手くやれるのかな……」

 誰にも言えない複雑な想いを抱えながら、いずみも神楽らと一緒に森の奥へ足を進める。こうして、波乱に満ちたカブト狩りがいよいよ始まろうとしていた。

しかし、背後の草むらにいた謎の生物の気配には、まだ誰一人として気が付いていない。

〈ビート……〉

 その標的は、いずみらの方へ向こうとしている――

 

 場面は変わり、こちらはかぶき町にある万事屋銀ちゃん。そのリビングには銀時、新八、キリト、アスナの四人が集まっている。ところが後者二人は落ち着くことなく、常にそわそわしていた。朝っぱらからユイと神楽を見送った後に、彼女達の動向を不安視している。

「うーん……大丈夫かな、二人共」

「怪我もせずに、元気で帰ってくれればいいんだが……」

「たかが虫取り如きに、心配をかけすぎなんだよ。別に何事も無く、アイツらはきっと帰ってくるよ」

「そうですよ。何かあったら神楽ちゃんが対処してくれるから、安心してくださいって!」

「そう言われても……」

 未だに心配が尽きることは無く、キリトら二人の過保護さには、銀時達も気が引いていた。さり気無いフォローも効かず、共に顔をすくめて不安を募らせていく。これは新八らも、対応に困り果ててしまう。

「ど、どうしましょう銀さん。今日の朝から二人共、この調子ですし」

「それだったら、落ち着くまで放っておけよ。俺達が横やりを入れても、変わらないのは明白だからよ」

「それはそうですけど……」

 気がかりで仕方ない新八と異なり、銀時は既に気持ちを割り切っている。マイペースに物事を捉えており、早くも気だるい表情に変わっていた。するとそのまま、近くにあったリモコンでテレビの電源を入れて、キリトらをそっちのけに一人でくつろぎ始めている。

「って、銀さんも! テレビなんか見てないで、考えて下さ――」

 彼の能天気さに注意を入れようとした時であった。ちょうどテレビでは昼時の報道番組に変わっており、大御所キャスターである草野義仁が最新のニュースを伝えている。

『こんにちは、草野です。早速ですが、まずは速報からお伝えします。先日から地球に滞在している央国星のバカ……ハタ皇子が、今日の朝未明より失踪している事が分かりました。共に一夜を過ごしていたペットも消息を絶っており、警察は誘拐も視野に入れて捜査を進めています――』

 番組にて話題に上がっていたのは、来国していたハタ皇子の失踪事件であった。実はこの皇子、万事屋とは大変因縁の深い関係なのである。

「おいおい。あのバカ皇子、また地球に来ていたのかよ。原作での出番が、ほとんど減っているのによ」

「懲りずにまた珍獣探しでも来たんじゃないですか?」

「そうだな。相も変わらず、変な皇子だぜ」

 今までにも彼の起こした所業や態度を振り返ると、自然と口からは文句がこぼれていく。辛辣な言葉をかけて、今まで通りに呆れ果てていた。

 その一方で、ハタ皇子に馴染みがないアスナらからしてみれば、二人の言い分はさっぱり理解していない。

「結構言いたい放題なこと言ってるわね……」

「そんなにこの皇子は、評判が悪いのか?」

「まぁ、あながち間違ってはいないぜ。俺達もアイツのワガママのせいで、とんでもない目に合ってきたからな」

「ほとんどヘンテコなペットが原因なんですけどね……」

 気になって質問をしても、大雑把にしか答えは返ってこなかった。共に微妙な表情をしたままで、さらに話しかけようとした時である。ニュース番組には、ある新情報が伝えられていた。

『えー、先程のバカ皇子失踪事件について、新たに情報が入ってきました。側近に当たるじいやの証言によると、逃げたペットを追って密かに宿屋を抜け出したとのことです。気になるペットの特徴ですが、カブトムシに酷似した成虫で、陽の光を大量に浴びると戦車ほどの大きさに変化する宇宙生物のようです。現在被害は確認できていませんが、一部の情報にはかぶき町の近辺にある森へ入ったと多数寄せられています。みなさんも、用心深く注意してください。さて次は――』

 さらなる詳しい情報が明らかになったが、これには万事屋一行もつい驚嘆としてしまう。なぜなら――現在その森には、ユイや神楽が遊びに出かけているからだ。

「ちょっと待って!! この森って確か……ユイちゃん達が今行ってる場所よね!?」

「そういえば、そうですよ! しかも宇宙生物までいるってことは……」

「みんなの身に何かあったら大変だ! 今すぐ俺達も森へ向かおう!!」

「だな。あのバカ皇子、また余計な仕事増やしやがって……!」

 みな顔色を急変させて、取り急ぎ外出の準備を進めている。皮肉にもキリトやアスナが察していた不安が、見事に当たってしまった。銀時や新八だけは、またも迷惑をかけたハタ皇子に怒りを燃やしている。各々の気持ちを抱えながら、銀時ら四人は急いで万事屋を後にしていった。

 

 そして神楽ら一行は、穏やかな自然を満喫しながら森の奥へと突き進んでいた。からっと晴れた清々しい青空を見上げながら、緑豊かな木々の空気に触れている。暑さには負けない元気さを持ち続けて、みなカブト狩りにやる気を高めていた。

 軽く会話を交わしつつ歩いていると、早くも通り道が二つに分かれている。

「ん? ここに来て、分かれ道アルか?」

「本当ですね。どちらが本当の道なのでしょうか?」

 唐突に訪れた選択肢の出現に、一行は悩み始めていた。一つの小道には日差しが当たっているが、もう一方は日陰に隠れて暗い雰囲気を漂わせている。まさに裏表のある選択肢であった。次の行く先にみなが頭を悩ませていると、ここでいずみにある直感が思い浮かんでいる。

「あっ、そうだ! だったら人数も多いから、二人ずつに分かれて後で合流ってのはどう?」

「つまり、手分けしてカブトを狩るってことアルか?」

「そんな感じだよ。もし道に間違っても、後から合流すれば問題は無いからね」

 大人数ならではの方法で、彼女は解決策を提案してきた。チームごとに分担する手法には、仲間達も快く賛同している。

「それは良いですね! では、早くチームを決めておきましょうよ!」

「それじゃ、公平にじゃんけんで決めておこう!」

「絶対に負けないアルからナ!」

 妙な熱気も高まっており、三人のやる気もさらに上がっていく。晴太からの提案で、チーム決めはじゃんけんの勝敗で分けていくようだ。この一連の流れを目にしていき、いずみは密かに達成感を覚えている。

(よし! 引っかかってくれた! これで上手くいけば、晴太君とユイちゃんを離れさせられる……!!)

 そう。彼女の真の目的は、晴太とユイの距離を離れさせる事であった。チーム決めはその為の布石でしかなく、都合の良い口実合わせでもある。じゃんけんでは当然運も絡んでくるが、いずみは構わずに勝つことしか頭にはなかった。

(デメリットもあるけど、そこはもう関係ない! 私に必要なのは勢いなの! この調子で運を味方につけて見せる……!!)

 高らかに強気な自信を見せており、賭けも受け入れる所存である。気持ちを整理している間にも、いよいよ四人のじゃんけんが始まっていた。

「それじゃ、いくよ……」

「「「「じゃんけん、ぽん!!」」」」

 掛け声を合わしていき、各々が違った手つきを繰りだしていく。そこからどのようにチームが分担されたのか――

「それじゃ、また後で合流しようね!」

「ユイといずみも頑張れよアル!!」

「はーい! 分かっていますよ!!」

「……なんで、こうなったの?」

結果は彼女にとって信じがたいものである。ユイと晴太を離れさせることは出来たが、よりにもよってユイとチームを組むことになった。結果から日当たりの良い道をいずみとユイ、日陰の道を晴太と神楽の二人ずつで探していく。初っ端から微妙な展開を迎えている。

「頑張りましょうね、いずみさん!」

「そ、そうだね……ハハ」

 互いの温度差も大きくなっており、その様子は一目瞭然であった。気にもしないユイに対して、いずみは苦笑いでただれた気持ちを押し殺している。

各々の心情はさておき、四人はカブト狩りの為にそれぞれの小道を突き進んでいく。だが早々に、晴太はある不安を口にしている。

「大丈夫かな? あの二人だけで……」

「心配ないネ! ユイはああ見えて肝っ玉があるから、いざという時も大丈夫アルよ!」

「本当かな……?」

 無用な心配だとフォローをかける神楽だったが、それでも晴太はまだ疑っている。チームを決めたからには、もう信じるしか道筋は無かった。不安を薄めていき、彼は神楽の背中を追いかけていく。

 一方でユイといずみの方では、対照的な二人の絶妙な雰囲気が未だに続いている。

「ん? どうしたのですか、いずみさん?」

「い、いや……なんでもないよ。思えばユイちゃんと二人っきりになるのは、これが初めてかなってね」

「言われてみれば、そうですね。女の子同士ですけど、一緒に頑張ってたくさんカブトを捕まえましょうね!!」

「そ、そうだね……」

 益々やる気が高まるユイとは違い、いずみは距離を掴めずに、彼女との会話に合わせている。表面では気を遣っており、その分溜め込んでいた気持ちを心の中で吐き出していく。

(ってこの後、どうすればいいのー!! ユイちゃんとチームに組むなんて、想定外にも程があるんですけどー!!)

 渦巻いていた迷いを発散できず、彼女の苦悩は未だに続いている。あくまでもライバルとして見ているために、子供らしいプライドがより悩みへ拍車をかけていた。その表情も徐々に苦みを帯びていく。場の空気を察して慎重に行動を選ぶいずみであったが――ここで突然にも、ユイから話が振られてくる。

「あの、いずみさん。少しいいですか?」

「えっ!? あっと……何かな?」

「実はですね、私このカブト狩りを凄い楽しみにしていたんですよ! こうやって、同年代の子と遊ぶのも結構久しぶりで……」

「……そ、そうだったの?」

「はい。ほんの昔は、私よりも年上な人やパパやママと過ごすことが多かったので……でも、このかぶき町に来てからは、神楽さんや晴太さんにいずみさんのような同年代の知り合いが出来て、とっても嬉しいんですよ!」

 時折刹那そうな表情を見せて、彼女は率直な気持ちを声に出してきた。元の世界では中々出来なかった同年代の子との交流や遊び。現実世界に存在しているからこそ、焦がれていた想いがここで実現している。ユイにとってはこの上ない幸福であった。

 そんな純粋な気持ちを目の当たりにして、いずみの心にも徐々に変化が訪れている。

(……この子って、意外にも素直なのかな。今まで外見や振る舞いで勝手に決めつけていたけど、本当はユイちゃんってすごい良い子なのかも……)

 なりゆきから張り合っていた気持ちも薄らいでいき、自然と信頼感が沸き上がってきた。年の近い女子同士とあって、たった一つのきっかけで見方が変わっていく。いずみ自身も気持ちを切り替えて、彼女との距離を縮めようとしていた。

「あ、あのさ、ユイちゃ――」

 そう声をかけようとした時である。

〈ガササ!!〉

「ん? この音って……」

「もしや、念願のカブト出現ですか!?」

 タイミングが悪く、近くの草むらから物音が聞こえてきた。共に警戒心を高めつつ、恐る恐る草むらに近づくと……そこから予想外の人物が飛び出してくる。

「……おや、余のカブト虫では無かったのか?」

「「……えっ?」」

 彼女達の目の前に現れたのは、珍妙な姿をした男の天人であった。頭部に一本の触手を生やしており、赤や青で彩られた豪勢なマントやチョッキで身を包んでいる。全体的にふくよかな体格であり、細い目つきや紫色の体色が特徴的であった。そう彼こそが、失踪中の身であるハタ皇子なのだが……残念ながら、ユイやいずみはその事実を知らない。ちなみにいずみでさえも、彼と会うのは今回が初めてである。

「だ、誰この人!?」

「分かりませんが……もしかして、新種の生物ではないのでしょうか? しっかりと保護して、真選組に持っていきましょうよ!」

「余をUMA扱いするではない!! 央国星の皇子を知らんとは、地球人として無礼に値するぞ!!」

「央国星の」

「皇子……?」

 位の高さを強調するように、彼は自信良く肩書きを誇示してきた。しかし……当然のことだが、彼女達には上手く伝わってはいない。

「「フフ……アハハ!!」」

 それどころか型が外れたように、存分に笑われてしまう始末であった。

「何を笑っておるのじゃ!! 余はただ自己紹介をしただけぞよ!!」

「だって、皇子のイメージすらないから! 百歩譲って、王様なら分かるけど!!」

「本当この人、面白い冗談言う人ですね!」

「冗談ではないというのに……!」

 言動や雰囲気から肩書きを信じておらず、幾ら言おうとも豚に真珠である。そんな一幕はさておき、言葉も通じるのでまずは、いずみらからハタ皇子に関する質問が飛び交ってきた。

「ていうかそれよりも、なんで皇子様がこの森に来ているの?」

「ひょっとして、私達と同じくカブト狩りに来たんですか?」

「カブト狩り? いいや違うぞよ。余のペットが逃げ出して、ここまで追いかけてきたのだ。なんせ滅多に生息はしていない、新種の生物じゃからな」

「新種の生物ですか?」

 興味本位で聞くと、返ってきたのは意外な答えだった。ハタ皇子がここにいる目的は、逃げ出したペットを連れ戻す為である。さらに彼からは、詳しい情報が伝えられていた。

「そうぞよ。ライズ星に僅かながら生息しているカブト虫、「リッチングビートル」がこの地球で保護されていると聞いて、急いで駆けつけたのだ。じゃが奴は元気が良くて、捕まえても籠から飛び出してな、ここまで追いかけてきたってことぞよ」

「だからこの森までやって来たんですね」

「そうなんじゃが、ちと不味い事になりそうで……リッチングビートルは陽の光を極度に浴びると、巨大化する性質を持っているのだ。その大きさは戦車程くらいだと聞いていたが……お主らは何か知らぬか?」

 生体情報を踏まえた上で、改めてユイ達にカブト虫の行方を聞いてみる。ところが、話を聞いている途中から彼女達はある事に気が付いてしまった。表情も怯えたような振る舞いとなり、困惑気味にハタ皇子へ声をかけていく。

「……えっと、それは」

「後ろです。後ろ!」

「えっ? 後ろがどうかした――って、ギャャャ!! 余のリッチングビートルではないか!!」

 なんと彼が話している間に、噂のリッチングビートルが後ろまで近づいていた。その容姿は規格外の一言に尽き、煌びやかな黄土色に彩られて、戦車程の巨体を持ち合わせている。

 予想外の出現に一行の間にも戦慄が走っていた。するとリッチングビートルは、目の前にいたハタ皇子に標的を定めている。

「ビート!!」

「って、アァァァァ!! 余のペットなのにぃぃぃぃ!!」

 鳴き声を上げてから、自慢の一本角を振るわせると、彼に打撃を与えてそのまま弾き飛ばしてしまう。悲壮感溢れる叫び声を上げながら、上空の彼方へと皇子は消えてしまった。

「えっ!? ってことは……私達かなりのピンチじゃないの!?」

 場に取り残されていたいずみとユイは、突然最悪な状況に転げ落ちている。興奮状態にあるリッチングビートル相手では、勝ち目が無いのは明確であった。早急な脱出が必要だったが……ユイはこのカブト虫に興味を持ち始めている。

「こんなに巨大なカブト虫がいるなんて。少し興味が湧いてきますね!!」

「そんな呑気なことを言ってる場合じゃないって! 早く逃げて、助けを求めないと――」

 好奇心旺盛な性格に、いずみもついツッコミを加えていた。対照的に彼女は、思いっきり動揺して体を震わせている。とそんな時、リッチングビートルは女子陣二人に狙いを定めてしまう。

「ビート!!」

「はっ!? キャャャ!!」

 ハタ皇子の時と同様に二人を弾き飛ばそうとしていたが――間一髪でユイがいずみの手を握って、この場からの脱出を図っていた。

「えっ、ユイちゃん!?」

「さぁ、こっちですよ!」

 先程までの子供らしさとは違う、冷静な対応を行動で示している。力一杯に手を繋ぐ行為からは、ひしひしと温かい気持ちが伝わっていく。未だに困惑している彼女を支えるように、ユイは逃げ出しながらそっと話しかけてきた。

「大丈夫ですよ、いずみさん! 元の道まで戻って、神楽さんに助けを求めましょう! 絶対にあのカブト虫から、逃げ切りましょうね!」

「ユ、ユイちゃん……。アンタは怖くないの?」

「はい! 簡単には諦めないので、いずみさんも最後まで希望を信じて進みましょう!!」

 ポジティブに物事を考えており、屈託のない笑顔で相手に安心感を与えていく。新しく出来た友人を守るために、ユイなりの方法で彼女を守ろうとしていた。

(やっぱり、凄い良い子じゃん。……それなのに私は、勝手に張り合ってばっかりで)

 真っすぐ前を向く姿勢に触れていき、いずみの心情にも信じる気持ちが湧いている。同時に今まで張り合っていた自分に、しみじみと後悔を悟っていた。表情もどこか寂しげに変わっている。

〈ビート!!〉

 だがしかし、穏やかに事が済むことは無い。興奮状態のリッチングビートルは、女子陣へ向かって、のこのこと追いかけていく。幸いにも移動速度は遅く、互いの距離は遠ざかるばかりである。この仕様を知ったユイは、思い切ってある行動へと出ていた。

「そろそろいいかもしれません!」

「いいって何が?」

「こうですよ……誰か、助けてください―!!」

 急に立ち止まったかと思いきや、彼女はすぐに大声で助けを求めてくる。真逆ともとれる行動に、いずみも唖然としてしまった。

「ちょっと何してんの! 大声で呼んだら、あのカブト虫に見つかっちゃうでしょ!!」

「それを踏まえての呼びかけですよ! 後に分かりますから!」

「はい……? って、また来てる! 早く逃げよう!!」

 その結果、リッチングビートルとの距離がまたも近づいてしまう。このままでは元も子もないので、彼女達は再び走り出していく。一見すると無用ともとれる行動だが――実はこの呼びかけにより、神楽側にも異変が伝わっている。

「ん? この声ってまさか……ユイアルか!?」

「確かに……でもさっき、助けてって」

「こうしちゃいられないネ! 助けに行くアルよ、晴太!!」

「お、おう!」

 ユイの叫び声を感じ取ると、神楽らの顔色も急変していた。ただ事ではないと悟り、取り急ぎ彼女達の方面へと向かっている。さらに二人の跡を見つけて、あの仲間達も次々に追いかけていく――。

 一方で逃げ続けるいずみらであったが、

「えっ、きゃ!?」

「ユイちゃん!?」

ここで不運にもハプニングが起きてしまう。道端にあった石ころに、ユイがつまずいて転倒してしまった。彼女を気遣って、いずみも折り返して手を差し伸べていく。

「大丈夫なの?」

「平気ですよ! さぁ、早く逃げて――」

 そう言ってユイが、いずみの手を握った時である。

〈ビート!!〉

「あっ、危ない!!」

「きゃ!?」

 リッチングビートルは何の前触れもなく、突進攻撃を繰りだしていく。咄嗟に危機を読み取ったいずみは、ユイを抱きかかえてそのまま横へと回避している。間一髪で攻撃をかわしきっていた。

「い、いずみさん?」

「大丈夫だって……このくらい」

 心配をかけられても尚、謙虚な姿勢で言葉を返している。この困難を共にしていくうちに、彼女自身にも新しく友情が芽生えていた。改めて伝えたいことがあったが、今はこの危機を乗り越えるのに精一杯である。

〈ビート!!〉

 そんな空気を読むことは無く、リッチングビートルが三度接近しようとした――その時。

「ホワァチャャ!!」

〈ビー!?〉

 唐突にもある助っ人が、返り討ちの如く奇襲攻撃を決めていく。リッチングビートル側にも大きいダメージを与えていたその正体は、

「大丈夫アルか、二人共!」

「か、神楽さん!!」

手分けしていた神楽であった。紫色の日傘で日よけをしながら、ユイ達の目の前に駆けつけている。

「えっ? もしかして、助けに来てくれたの?」

「その通りだよ」

「あっ、晴太君も来たの!?」

 彼女に続いて晴太も、この場へやって来ていた。次々と現れる仲間達の登場には、ユイらもようやく安心感を覚えている。希望を灯されて、表情にも若干の余裕が出来ていた。

「さぁ、早くこっちへ」

 彼の案内の元で、ユイといずみは一時安全な場所へ避難していく。近くにあった森の茂みへ身を隠すと、またもちょうど良いタイミングで助っ人が駆けつけていた。

「「「ハァァァ!!」」」

〈ビート!?〉

 勢いを張った声を響かせて、三本の剣がリッチングビートルの装甲にダメージを与える。続けて現れたのは……銀時、キリト、アスナの万事屋一行であった。

「パパにママ!! それに銀時さんも!!」

「ん!? あの人達が両親なの……?」

 強くて頼もしい保護者達を目にして、ついユイも笑顔を取り戻していく。一方のいずみは事情を知らない為か、彼女の呼び方に混乱を覚えてしまう。

 それはさておき、次々と現れる強者たちの登場によって、状況はあっという間に優勢へと逆転している。

「おっ、みんなも駆けつけてくれたアルか!」

「当然よ! ユイちゃん達に怖い思いをさせたからには、きっちりお仕置きをしておかないとね……!」

「悪いがそう簡単には帰さないからな……!」

「ヤレヤレ、いつも通りの親バカだぜ。まぁ、その分きっちり戦えるけどな!」

 特にキリトとアスナは、怒りを交えてこの戦いへ望んでいた。目つきも真剣さを極めており、表情も迫力を増している。彼らに合わせるように、銀時や神楽も気合を高めつつあった。

〈ビート……!〉

「いくぞ!」

「「「「はぁぁぁ!!」」」」

 勢いに任せたまま、四人の精鋭たちは本気でリッチングビートルを倒しにかかっていく。各々の感情を乗せたこの戦いが、呆気なく収束したのはもはや言うまでもないだろう。

「ていうか、ユイちゃんの知り合いって、凄い人達ばかりだね……」

「そうですよ! みんな強くて頼もしいですからね!!」

「ハハ……もうそのレベルじゃないと思うけど……」

 遠くから見守っていたいずみら三人も、ただこの戦いは愕然としてしまう。圧倒的な戦闘力を、嫌と言うほど目に焼き付けていたからだ。ユイだけは、さも当たり前のように感じていたが……

 だがこうして、万事屋一行の介入により、リッチングビートルは戦闘不能にまで追い込むことに成功していた。ちなみに一緒にいたはずの新八はというと、

「アレ!? みなさん!? どこに行ったんですか!?」

ただ一人森の中へと迷っている。どうやら途中ではぐれてしまい、未だに場所を把握できていない。肝心なところで、見せ場すらもらえていなかった。

 

 それから数分が経った頃。万事屋の追撃が決まったところで、事態はすんなりと収束している。陽の光が弱まって、リッチングビートルは元通りのサイズへ戻り、ダメージを負いながらもハタ皇子の元に返ってきた。もちろん吹き飛ばされた本人も、時間をかけて森へと戻ってきている。

 しばらくすると森には、央国星の関係者やじいやが事情聴取の為に集まっていたが……特に後者は皇子に対して喧嘩腰で接している。

「おい、このバカ皇子! なんてことしてくれたんだ! おめぇのせいで、こっちがどれだけ尻拭いしたのか分かっているのか!!」

「うるせぇよ、じじい!! そもそもお前が見逃したのが、いけねぇんだろうが! 責任と自覚を持てや!」

「勝手に責任転嫁するな! こんな泥喧嘩見せられて、読者もきっと呆れているぞ!!」

「変に話題を逸らすんじゃねぇよ、てめぇ!!」

 どちらも物騒な言葉づかいで、激しい口論を展開していく。いつもの万事屋からしてみれば見慣れた光景だが、キリト達にとっては信じがたい光景ではある。

「皇子とは思えない言葉遣いね……」

「平気で醜態をさらすんだな……」

「まぁ、この世界じゃ常識だからな。変な先入観は持たない方がいいぞ」

 一国の皇子が怒りに任せて感情的になる姿は、正直見ていられなかった。共に苦笑いをしつつ、言葉を詰まらせている。平然と接する銀時から、考え方の相違が明るみに出ていた。

 一方で神楽も、途中ではぐれた新八に一喝を入れている。

「というか、どこ行っていたアルか新八!? 眼鏡のくせして、すぐに駆けつけないとはどういうことアルか!?」

「眼鏡のくせって何!? あの時は僕も彷徨っていたんだって!!」

「まぁまぁ、二人共。落ち着いてって」

 二人の会話には、晴太も抑え気味に割って入っていく。冷静になるようにとなだめていた。

「ふぅ……あっ! それはそうと、ユイといずみはどこ行ったアルか?」

「ああ、あの二人ならあそこでずっと話し込んでいるよ」

 そしてユイらの行方を聞くと、彼女達はちょうど近くのベンチに揃って座っている。今日の出来事を振り返りつつ、いずみはある気持ちをユイへと伝えていく。

「今日はありがとうね。色々と助けてくれて……」

「いえいえ、そんなたいそうなことはしていませんよ。いずみさんも無事で、何よりですからね!」

「そう……あのさ、まだ正式に言ってはいなかったけど、もしよかったら私と友達にならない? もっと、色んな話がしたいんだよね……」

 若干照れ気味に彼女は、友達として誘いを図っていた。変な張り合いやプライドを捨てて、率直な気持ちを前面に出している。子供らしく正々堂々とした態度で接すると、ユイも真っ先に言葉を返していく。

「友達? もう既になっているのではないのですか?」

「えっ?」

「だって神楽さんが言っていましたよ。友達と言うのは、自然と作れるものだって! だからもう、いずみさんとは正式に友達ですよ!」

 そう、彼女にとっては知り合った頃から友達であると悟っていた。考え方の近い神楽の影響を受けて、その言葉を信じ切っている。元から備わっている優しさが、ここで存分に発揮されていた。

 これにはいずみも、その人柄に触れて強く感激を受けている。つい表情も緩んでおり、そっと笑顔を浮かべていた。

「フフ……やっぱりアンタって、本当に面白い子だね!」

「そうですか? そういういずみさんも、感情豊かで女の子らしく見えますよ!」

「もうー! そう褒めないでよねって!」

 たわいない会話を続けていき、二人の穏やかな時間は今も続いていく。いずみが考え方を変えてくれたおかげで、ユイとの関係は大きく飛躍していた。新しい友情の芽生えは、当然二人にもより良い刺激を与えている。同じくして万事屋一行も、彼女達の友人関係を微笑ましく見守っていた。

「おー! ユイといずみも、とうとう友達になったアルか!」

「って、いつの間にそんな関係になったんだろうね?」

「まぁ女子達はすぐに友達を作れるものですからね」

 快く受け入れている神楽や、驚き気味の晴太など、その反応は十人十色である。もちろん第一の保護者であるキリトとアスナも、彼女の成長には嬉しさを覚えていた。

 数多ある出会いを繋いで、今日も万事屋の日常は終わっていく……

 




 色々と出演を見送っていたハタ皇子がようやく登場! ですが、そこまで重要ではない気がします。原作だって途中から出番が無くなったし……(最終章を除く)
 後書きとしては、やはり苦戦したのはいずみちゃんの描写でしょうか。前も伝えましたが、彼女は原作でも本当に出番が少なくて、中々性格が掴めないのですよ。なので一般的な女子像を意識して今回は作ってみました。ユイちゃんと友人関係になれて、本当に良かったですね! ライバル意識は変わらなそうですが……
 ちなみに新八の出番は、時間の都合でなくなりました。またいつかメイン回で頑張れるといいですね(笑)

 後は報告ですが、特別企画は時間の都合で来年に回します。それを踏まえて、二つの予告篇で今年は締め括ろうと思います。それでは、よいお年を!!
(諸事情で、コメントの返信は来年になります)

特別企画篇予告
新八「銀さん! 剣魂の特別企画って、一体何をするんですか?」
銀時「そりゃ、アレだよ。銀魂名物のアレで、アレすんだよ」
神楽「さっきから、アレアレしか言ってないアル」
銀時「アルよりはマシだろうが!」
新八「いや、意味が分からねぇよ!!」
ユイ「もっと明確に伝えてくださいよ!」
銀時「そうだな……他のアニメとかでもよくある手法と言うべきか」
アスナ「手法? 総集篇とかかな?」
銀時「……まぁ、それもあるな」
キリト「アレ? 何か図星っぽい?」
銀時「と、とにかくだ! 2020年も剣魂の投稿は続いていくから、てめえらさらにキバって行けよ!」
新八「って、誤魔化さないでください!!」

 というわけで、総集篇っぽい企画をやります(汗)

次回予告
2019年から2020年へ! 新年一発目の「剣魂」は……主要キャラが全員集合だ! かぶき町フレンドラリー篇開幕!!

銀時「元ネタは分かっていると思うが……東京フレン〇パークだからな」
新八「おぃぃぃぃ!! そこはいうんじゃねぇよぉぉぉ!!」

予想もしない混合チームが、かぶき町巡ってスタンプラリー!? 次回よりスタート!!
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