剣魂    作:トライアル

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 前回の話の補足を致します。来島また子が初登場しましたが、来島を木島と誤植していました。現在はすでに訂正されています。誠に申し訳ございませんでした。

 それでは五十三訓の話をどうぞ。



第五十三訓 留守番中に限って、鬱陶しい客がやって来る

 ガレージセール。それは不要になったものを、庭先や車庫前で売る一種のリサイクル運動。もちろん銀魂の世界にも存在している。

 

 時期は前回と同じく九月の上旬頃。スナックお登勢前では、たまがエギルにある相談を交わしていた。

「えっ? 余った部品をセールに出して欲しい?」

「そうです。源外様の試作品が多くなったので。残念ながら私は明日用事があるので、エギル様に託したいのです」

 彼女が申し出たのは、ガレージセールへの委託である。どうやら自身に用事があり、同じ職場仲間のエギルに助けを求めていた。この提案に当の本人は、やや驚いている。

「別に構わないが……どうしてまた俺なんだ?」

 素朴に質問を返すと、たまは即座に返答していく。

「それはぴったりだと思ったからです。変な輩に絡まれようが、大丈夫そうなので」

「そんな理由なのか?」

「はい。エギル様のタフさであれば、きっと大丈夫ですよ」

 どこか意味深な一言だが、この時の彼は特に不思議に思わず、ただの冗談だと受け流していた。日頃から世話になっている身なので、すぐに委託を引き受けようとしている。

「まぁ……いまいち分からないが、快く引き受けるよ」

「ありがとうございます。では、無事を祈りますね」

「ハハ。いちいち大袈裟だってば」

 たまの真意にも気づかず、呑気に笑って言葉を返していた。こうしてエギルは依頼を引き受けたが――当日を迎えると、ようやくその意味を理解する。

 

 

 

 

 

 

 

 ガレージセールに選ばれた舞台は、多くの船が行き交う江戸の港。当日の天気は快晴で、澄んだ青空が一面に広がっていた。

 数多くの倉庫が並び、手前には個性豊かな商人が自慢の品を売りさばいている。もちろんエギルの姿もあったが、彼は目の前の光景に気が引いてしまう。何故ならば、

「ヒャッハー! 遂に来たぜ、我らがメタルフェス!」

「掘り出し物探して、激しく盛り上がろうぜ!」

辺りには高いテンションの男達しかいないからだ。港を歩く人々はみな、パンクロックな衣装やメイクを施しており、中にはモヒカンヘアーを見せる強者もいる。

 実はこのガレージセールは、ヘヴィメタル系のフェスと合同で開催されていた。遠くを見れば野外ステージが設置されており、多数のバンドが激しい音楽を演奏していく。もはやこちらが本命であり、ガレージセールはオマケのような扱いである。

 こんな如何にも騒々しいイベントに、エギルはたった一人放り出されていた。

(そ、そういうことだったのかー!! どおりで俺に頼んだわけだ!)

 鮮烈なる後悔が彼の心へと襲い掛かる。時すでに遅いが、たまの意味深な言葉をここで理解していた。その表情も途端に苦く変わってしまう。

(と、とりあえず落ち着こう! たかがノリの良い奴等が集まっているだけだ。他にも俺と同じような普通の商人もいるはず……)

 と一旦は心を落ち着かせて、辺りの様子を見ることにする。自分と同じ普通な人を探して見たが、

「おぉ! アンタもあのバンドが好きなのか!?」

「おうよ! 新時代を駆けるのは、アイツらで決まりだろ!」

「いやいや、次に出る女子バンドも負けてねぇよ」

周りはヘビメタ一色で会話が進んでいた。商人や客のみならず、他の星から来た天人も会話に割り込み、より親睦を深め合っている。

 熱狂的な様子を見ても、やはりエギルだけが浮いているのは明白であった。

「ヤバい……話についていけねぇ……」

 話の理解よりも、心の挫折が先である。この流れにうまく乗れず、つい気まずさを感じてしまう。こうなるともう素直に開き直って、周りに左右されないのが最善の手だった。

「はぁ……だったらもう、比較せずに続けるか。地道に待っていれば、一人くらいは訪れるだろ」

 ボソッとため息を吐いて、彼は肩の力を抜いていく。今後の見通しには不安を感じたが、それでも託された役目だけは、最後まで果たそうとしている。販売する品々はヘビメタとは無関係なカラクリだが、物好きな客が来ることへ期待していた。

 そう心を改めていた時。エギルの元には、記念すべき一人目の客が訪れている。

「おい、そこのいかつい男よ。ちといいか?」

「ん? お客さんか?」

 気の抜けた男の声に気が付き振り向くと、そこに立っていたのは――

「ここにカラーひよこが売っているみたいじゃが……お主は知っているかのう?」

「ひ、ひよこ!?」

二人の珍妙な天人だった。頭部に生えた触手が際立つ彼らの正体は、央国星の出身のハタ皇子とその家臣じいである。

(あ、天人……!? しかもヘビメタとは無関係な奴が来たんだが!?)

 当然エギルにとっては初対面であり、彼の容姿には大いに衝撃を受けていた。内心では本音のままにツッコミを繰り出している。思わず表情は固まっているが、ハタ皇子は気にせずに接していく。

「おーい、聞いているのか? カラーひよこはどこにいるんじゃ?」

「……あぁ。実は俺も分からないんだよ。このイベント自体、初めてでさ」

 聞かれていた質問には、エギルも丁寧に返答している。どうやらハタ皇子は、カラーひよこを探索しているようだが――このイベントからすれば的外れでしかない。側についていたじいも、たまらず文句をぶつけ始めている。

「だから言っただろ、バカ皇子。こんな陽キャしか集まらないイベントで、ひよこ売りのおっさんが来る訳が無いと」

「うるせぇな、じい! さっきまで賛同してたくせに、ころころと手のひらを返すんじゃねぇよぉ!」

「それはそれ。これはこれです」

「理由になってねぇよ! 適当に受け返すんじゃねぇよ!」

 ハタ皇子も即座に言い返して、一触即発な雰囲気へと変わってしまう。二人の内輪揉めが始まったことで、エギルだけが会話から置いてきぼりにされている。

(勝手に喧嘩が始まったんだが……てか、バカ皇子って言うのか? 付けられた本人は可哀そうだと思うが……)

 内容を断片的に切り取り、彼はハタ皇子をバカ皇子だと誤認していた。哀れな名前だと信じ込み、つい同情を寄せていく。

 その一方で、喧嘩の最中にじいはある物を発見している。

「とにかく無い物は無い……おや? これはもしや?」

「ん? どうしたんだ、そんなにガラクタなんか見て?」

 偶然にも目を付けたのは、ひよこの形をした鉄くずだった。これを手に取って凝視すると、彼はある策を閃いている。

「ほら、見てみろバカ皇子! これは心の綺麗な者にしか動かないメタルひよこだぞ!」

「メ、メタルひよこ!?」

「はい?」

 咄嗟に鉄くずをメタルひよこだと呼称して、ハタの注目を逸らしてきた。これには彼のみならず、エギルも驚いて首を傾げている。

 現場は微妙な空気となったが、じいは自信良く主張を続けていく。

「この白銀に染まった素体! 手ごろな小ささ! 小柄な足型! これぞまさに、希少種と名高いメタルひよこだ!!」

「いや、ただのガラクタなんだが……」

「メタルひよこは正しい心を持つ者にしか、動きを見せないという。さぁ、皇子! 貴様はどうなんだ!?」

「だからガラクタなんだよ! こんな見え据えた嘘に騙されるわけが……」

 エギルのもっともな指摘にも、彼は構わず無視をしている。意地でも鉄くずをメタルひよこだと通したいようだ。

 この主張に肝心のハタ皇子はと言うと――

「おっ、今動いたぞ! じい! 本物のメタルひよこじゃ!」

「おぉ! でかしたぞ、皇子! 貴様も正しい心の持ち主だったとだな!」

「えっ!? 本当に信じるのか?」

純粋な心構えで信じ切っている。まさかの展開には、エギルのツッコミも追い付いていなかった。するとじいは、エギルへ近づきある口約束を交わしてきた。

「とりあえず、このガラクタの代金は払っておくぞ。あのバカを遊ばせるのに、ちょうどいいからな」

「やっぱり……騙していたのか?」

「絶対に明かすなよ! 分かったな!?」

「は、はい……」

 やはり本音では、嘘と偽ってハタ皇子を手早く満足させたいだけである。代金を渡しつつ、念入りに威圧をかけていた。その必死さから、家臣としての苦悩も垣間見えている。

「よし、それじゃ行くぞ。皇子!」

「あっ、待ってくれ! メタルひよこー!」

 そして彼はメタルひよこ及び鉄くずを掲げて、ハタ皇子を誘導していく。二人は勢いよく走り出して、港の出口方面へと向かっていた。まるで嵐が過ぎ去ったように、何も残さずに立ち去っている。

「……とんでもない客だったな。アレで騙される皇子って、なんなんだ」

 巻き込まれた形のエギルは、彼らがいなくなると同時に疲労を感じてしまう。ハタ皇子らしい個性と相まって、大変な一時だったが、一品売れたことは好意的に捉えている。

「まぁ、一応売れたから結果オーライだろ」

 気持ちを入れ替えつつ、次なる客足に希望を託していた。その矢先に運よく、また新しい客が立ち寄ってきている。

「ほぅ……中々興味深い物を売っているでござる」

「おっ、きたきた。今度は一体……」

 再び目の前を振り向くと、そこにいたのはまたも癖の強い人物だった。

「この鉄の山を見ていると、良い歌詞が浮かんできそうでござるな」

「ござる?」

 口調が特徴的な彼は、音楽家のような佇まいである。さっぱりとした青髪に、サングラスやヘッドフォンを着用しており、これまた青いロングコートを着飾っていた。さらには三味線まで背負っている。

 そう彼の正体は、鬼兵隊の一員の河上万斉だった。もちろんその事情を知らないエギルは、驚きの連続だったが……。

(ほ、本物のバンドマン!? わざわざここに立ち寄って来ているだと!?)

 音楽家を思わせる雰囲気から、プロの方だと錯覚をしている。彼は勝手に勘違いをしていたが、万斉はマイペースに話を進めていく。

「うむ……主も中々の個性でござるな。パワフル系のエンジニアとは、変わり種でござる」

(いや、アンタに言われたくないよ。サングラスに三味線にござる口調って、キャラが渋滞しすぎだろうが!)

 ふとエギルの容姿を見て一言呟いたが、やはりこちらも見た目から誤解をしている。本人もたまらずに、内心でツッコミを繰り出していく。

 少ないやり取りを続けると、万斉にはある歌詞が頭に浮かび上がっていた。

「おっ、閃いたでござる! ちょいと待ってもらえるか?」

「えっ、急にどうしたんだ!?」

 困惑するエギルをよそに彼は地面へ座り込み、紙と筆を構えていく。それからはひたすらに、思い浮かんだ歌詞を紙へと書き綴る。驚異的な集中力を発揮して、自分だけの世界観に入り込んでいた。

「こ、これは、凄いな……」

 才能を感じさせる早業に、エギルも思わず目を丸くする。見慣れない光景に言葉を詰まらせていると、突然にも彼の仲間も合流してきた。

「万斉さーん! って、ここにいたんすか!?」

 大きく声を上げてきたのは、活気のある女性である。片方だけ結いだ金髪と、へそ出し仕様のピンクの和服を着た彼女は、同じ鬼兵隊の来島また子だった。

(こ、今度は女!? あのバンドマンの仲間……いや、カップルの可能性もあるな)

 彼女の登場により、エギルは余計な誤解を増やしてしまう。音楽関係の同僚やカップルだと予想しているが、どれも的外れではある。

 一方の万斉だが、また子と合流しても手を止める様子は無かった。

「また子よ。五分ほど待っていてくれるか。今そこの商人に、ぴったりの歌詞を書き上げている途中でござる」

「またも自由なことを……こっちは予定が遅れているんすよ!」

「構いやせん。船の手配なら多少遅れても影響は無い。今はこっちを優先するでござるよ」

「……これだから、音楽馬鹿は」

 作詞に熱中する姿を見て、彼女は思わず呆れ果ててしまう。冷静に表情を変えない万斉に対して、また子は分かりやすく感情を露わにしていく。

 何にも邪魔をされずに書き続けると、ようやく万斉の筆が止まる。僅か五分の間に、エギルをモデルにした歌詞が完成していた。

「よし出来たぞ。主をイメージしたソングだ。記念に持っておくでござるよ」

「あ、ありがとうな……」

 そのきっかけを作った本人には、大変感謝をしている。そのお礼として歌詞を綴った紙を、エギルへと手渡していた。

「では、失礼するぞ」

 そして反応を伺うことなく、一言だけ言い残して、彼は気ままにこの場を去っていく。

「ちょっと万斉さん!? どこ行くんすか!! アンタばっかり目立ってずるいっすよ! 聞いているんすか!!」

 またも置いて行かれたまた子は、急いで跡を追いかけている。結局ハタ皇子に続き、こちらも素性を聞けずに終えてしまった。

「アイツも何だったんだ……てか、俺のイメージ曲って一体何だ?」

 正体を気にしているエギルだが、同じく手渡された歌詞も気になってしまう。自身をテーマにしたらしいが、果たしてそこに書かれているものとは。

〈ゆりゆららら〇るゆ〇 ゆりゆらららゆ〇〇り 〇り〇ららゆるゆ〇 大事件!〉

「な、なんじゃこりゃゃゃ!! 思いっきりアニソンじゃないか!? 俺にぴったりの曲じゃなかったのか!?」

 エギルの印象とは程遠いアニソンっぽい歌詞である。つられて彼は、型を外したようにツッコミを繰り出す。歌詞の内容すらも、まったく理解が出来ていなかった。

「これは馬鹿にされただけか……? いや、この曲こそがぴったりなのか?」

 挙句の果てには深読みまでする始末である。いずれにしても、書き上げた本人に聞かなければ元も子もない。

 そう考えを巡らせていると、彼はあるメッセージを見つけていた。

「おや、最後に書かれているな」

 そこに書かれていたのは、またも困惑をする一文である。

〈主のオーラから、絶妙な可愛さが湧いてきたでござる。さながらメタルひよこのようだ〉

「またメタルひよこ!? アレって嘘じゃなかったのかよ!? てか例えられても、全然分からねぇよ!!」

 思いもしないメタルひよこの再登場だった。例えとして出てきたが、どんな評価なのかははっきりと分かっていない。余計な混乱を増やしただけである。

 

 

 

 

 

 

 

 落ち着いたところで、エギルは今一度振り返っていた。イベント早々にも関わらず、彼の元にはハタ皇子や河上万斉といった、癖の強い者しか訪れていない。もっと普通の客が来ることを切に願っている。

「って、さっきから訪ねてくるのは変な奴が多いな……ここからは真っ当な客が来てほしいものだ」

 再び気を引き締めていたが――その願いは虚しくも崩れ去る。二度あることは三度あるの如く、またも癖の強い客が近づいていく。

「うわぁぁぁ!!」

「えっ!? どうした、アンタ!?」

 突如として目の前を横切ったのは、衝撃から吹き飛ばされた一人の天人。咄嗟に声をかけると、彼は怯えた表情で声を発している。

「メ、メタルひよこだ……」

「って、またか?」

「メタルひよこを賭けて、負けたんだよ! もうすぐあいつが来る……逃げないと!!」

「おい、待てアンタ!?」

 メタルひよこと口走って、その天人は速足で逃げてしまった。一体何が起こったのかと、エギルの困惑はさらに深まっている。

 そんな彼の近くには、これまた物騒な男達が通りを歩いていた。

「おや? 阿伏兎。あの男、逃げちゃったみたいだね」

「そりゃ、団長の腕っぷしを見れば、逃げたくなるだろ。メタルひよこまで賭けやがってよ……」

「別にいいじゃん。ここの奴等はそれが好きなんでしょ? 喧嘩材料になるから、遊ぼうと思ったのに」

「遊ぶつーか、只の蹂躙だろ。ありゃ」

 不穏な会話を続けているのは、ボロボロのローブを羽織った男達。彼らの正体はそう……宇宙海賊春雨に所属する神威と阿伏兎である。共にローブの下は中華っぽい服を身に着けており、日の光を遮る日傘もさしていた。

神威は赤髪と中性的な顔立ちが特徴的な青年。一方の阿伏兎は三十代だが、髭と老け顔が特徴のおっさんである。彼らは夜兎の血を引き継ぎ、数多の星で反逆活動を続けていた。そしてこのイベントに訪れていた理由は、只の暇つぶしである。次の船が来るまで、騒ぎにならない程度で、片っ端から強い相手を求めていた。

 神威が次なる標的を探していると、偶然にもエギルが視界に入っている。

「おっ、見つけた! ちょっと喧嘩を売ってくるよ」

「おい、団長。騒ぎだけは勘弁しろよ」

「分かっているよ!」

 彼は気持ちを高ぶらせていき、一目散にエギルの元へと走り出す。阿伏兎の忠告も半分聞き流して、喧嘩のことしか考えていなかった。

 その勢いのままにエギルへ話しかけている。

「ねぇ、そこのおっさん!」

「ん、どうした――」

 声をかけられた本人が顔を上げたその刹那――

「俺と勝負しようよ」

不吉な言葉と共に神威が拳を振りかざしていく。エギルの目の前をすれすれで殴り掛かり、真後ろにあるガレージへぶつけてきた。その衝撃からか、ガレージは盛大にへこんでしまう。

 この突然すぎる出来事に、エギルも正直理解出来ていない。

「えっ……?」

 唖然としてしまい、言葉すらも出てこなかった。ただ唯一分かるのは、目の前の青年が好戦的なだけである。

 すると神威は顔をニヤリと笑わせて、睨みつけるように接していく。

「お前が強そうだから頼んでいるんだよ。もし断ったら……どうなるのか分かるよね?」

 自身の強さを見せつけながら、相手に断る隙を失わせていた。脅迫まがいなことでも、難なくこなしている。意地でも狙った相手は逃がさないようだ。

 威圧的な態度から、エギルサイドも内心であることを確信していく。

(ま、また変なの来たぁぁぁ!? もうこれで何回目だよ!? 如何にも不良少年みたいな奴に絡まれたんだが!?)

 赤裸々な想いを叫び続けて、激しくツッコミも繰り出す。彼は神威のことを不良少年だと察しており、無作為に喧嘩を売られたと思い込んでいた。

 一方の神威はエギルの反応などお構いなしに、喧嘩をいち早く勧めていく。

「さぁ、早くやろうぜ……」

 衝動から溢れ出る闘争心を掻き立てて、返答を待ち続けたが――彼の計画も狂いが生じてしまう。

「おい、アイツ。どっかで見た事あるぞ。春雨の一員じゃなかったか?」

「いや、でも普通ここに来るか? 多分人違いだよ」

 ふと耳に聞こえたのは、周りからの商人の声。ローブで変装をしているつもりだが、生憎自分の正体がバレかけている。そうなれば面倒なことになるので、これ以上目立つ行動は控えなければいけない。

「チッ……バレそうだな」

 思い通りにいかず、つい不機嫌な表情へと変わっている。そんな時に、阿伏兎もこの場へ駆けつけてきた。

「おい。だから騒ぎを起こすなって言ったろ」

「なんだよ。ここで終わりなんて、消化不良に決まっているだろ」

「いいから激しい戦いは止めにしろ。お偉いさんに目を付けられたら、困るからな」

 一歩も引き下がらない神威の姿勢には、阿伏兎の説得も中々行き届かない。足並みが微妙に合わず、二人の話し合いも上手くいってはいなかった。

(おっ、これはとうとう諦めたのか!?)

 一方のエギルだが、事情を知らないものの一安心はしている。このまま穏便に済ませば好都合であり、勝負の中止を願っていた。

 だがしかし、神威はとある折衷案を思いついてしまう。

「うーん……だったら別の勝負にしようか。簡単に決められるヤツ……そうだ! 腕相撲はどうかな?」

「えっ?」

「はぁ!?」

 この突飛な提案には、エギルに加えて阿伏兎すらも驚嘆としていた。特に後者は、神威の勝負への執念に呆れを感じてしまう。

「オメェはどんだけ戦いたいんだよ……」

「仕方ないよ。時間を無駄にはしたくないし。さてと、おっさんは俺との腕相撲に挑んでくれるよね?」

 あまり強くは言えず、神威は乗り気なまま腕相撲を勧めていく。さも当たり前のように質問をしてきたが、エギル自身は断りたい気持ちで一杯である。

「いや、それよりも……俺に断るって選択肢は無いのか?」

「無いよ」

(って、どんだけ喧嘩したいんだよ!)

 素直に返しても、即座に拒否をされてしまう。強引なやり方に、心の中でツッコミを返していた。

 またも巻き込まれ気味のエギルへ、神威の側にいた阿伏兎も声をかけている。

「おい、スキンヘッドのおっさん。すまんが付き合ってくれるか? こいつの熱意が収まるまでは、止められないんだよ」

「そうなのか……?。(一体どんなお願いの仕方だよ!?)」

 それでも到底納得はしていなかったが。彼の意志とは反逆して、神威のペースで勝負が進んでしまう。

「フッ……じゃ、さっさとやろうか」

 にこやかな表情となって、膝を地面へと着けている。右腕を差し出して、早くも腕相撲に備えていた。

(なんで俺は見知らぬ不良と腕相撲をしているのか? カラクリを売っていたんじゃないのか? なんでこうも手を合わせるんだ……)

 内心では自問自答を繰り返していたが、それでもここは空気を読むしかない、彼は左腕を前に出して、神威の手を強く握ってきた。

(まぁ、でも付き合ってやるか。見たところ体は細いから、体重をかけたら苦戦することはないだろう)

 嫌々ではあるが、さっさと勝負を終わらそうと決めて、腕に力を溜めている。神威との体格差も考慮して、力の調節を図っていた。ただ一つだけ、彼の自信満々な態度だけは気がかりだが……そう考えを巡らせるうちに、腕相撲はいよいよ始まってしまう。

「それじゃ、いくよ! レディー……ゴー!」

 神威の掛け声と始まり――その瞬間に決着が着いている。

「はぁ!?」

 なんとエギルが力で圧倒されてしまい、思いっきり投げ飛ばされてしまった。空中を一回転した後に、

〈ドシャーン!〉

背中から強く地面に強打している。一瞬の出来事であり、彼にとっては何が起きたのか分かっていない。

「いや……何あの力?」

 神威を夜兎だとは把握できず、ただただ困惑に囚われてしまう。

 一方の神威だが、あっさりした勝利に沿ってリアクションもかなり薄い。

「俺の勝ちだね。おっさんも大したこと無かったね」

「おい、そろそろ気は済んだか」

「もう大丈夫だよ。やっぱり暇が出来ると、それなりに苦労はするね」

「何を今更言ってんだ! お前はもう少し、自重を学んでおけ」

 これと言った礼も言わずに、彼は阿伏兎と共にこの場を去っていく。

 結局エギルは神威の遊び相手として、不条理な戦いに付き合わされただけであった。

「もういい加減にしてくれ……頼むから普通の客が来て」

 疲れ切った表情となり、未だに倒れ込んでいる。悲痛な一言を呟くと、彼は起き上がって体勢を戻すが……その心境は沈んだままであった。

(今日の俺はもしかしたら、運勢が最悪かもしれない。変な皇子に絡まれるは、癖しかない歌詞を渡されるは、不良に腕相撲で負けるは……もう今日は諦めた方がいいのか?)

 連続して訪れてきた強烈な客たちに、だいぶ心をすり減らされている。これも運の悪さだと一括りにまとめていた。

 つい憔悴しきっているエギルの元には、またしても個性的な客が訪れている。

「おぉ、見てみぃ! 陸奥! こっちにはお宝がザックザックあるぞ!」

 聞こえてきたのはテンションの高い男性の声。目の前を振り返ると、そこには土佐弁を使う男女が訪れている。

「高ぶるな、坂本よ。第一お前は快援隊の船長じゃき。きっちりしてもらわないと、こっちが困るぜよ」

「そんな固いことは言わん約束じゃ! 商人は気に入った物には、ゴキブリのように飛びつく! それがワシの流儀じゃ!」

「そんな流儀初めて聞いたぞ。後例えが不潔じゃ。せめて別なものに例えろ」

 余計にテンションを上げる男性に対して、女性は冷静な振る舞いで接していた。二人は態度や容姿も異なっており、男性は茶髪に丸いサングラスをかけて、服装は赤いコートや茶色い野良着を着け、下駄をはいた変わった格好をしている。一方の女性は明るい茶髪を編み笠で隠して、全身を青い野良着やマントで統一させていた。

 彼らの正体はそう――快援隊の船長坂本辰馬と、副船長の陸奥である。共にエギルが売るカラクリ類に興味を持ち、この店へと訪れていた。

「……ア、アンタ達は?」

「おっ、この店の主人か! おまんは良い物を揃えているきに! ちと時間があれば、こだわりとかも聞いていいか!?」

 これまでにはない類の客たちに、エギルはようやく安心感を得ている。ヘビメタ系でも不良でもなく、まともそうな客と彼は初対面をしていた。

(よ、ようやくだ……ようやく話の合いそうな人と出会ったぞ!!)

 今まで感じてきた苦労を忘れ去って、心では大きい歓喜に満ち溢れている。次第に表情も明るさを取り戻して、快く坂本との交流を続けていく。

「あぁ、もちろんだ!」

「おぉ! 力強い挨拶じゃき! ともかくよろしくぜよ!」

 多大なる想いを感じ取り、坂本も元気よく言葉を返していた。こうして初めて対面した二人の商人は、互いの想いを踏まえて、カラクリや流通と言った話で仲良く盛り上がっている。

「坂本と同じ匂いがするが……まぁ、いいか」

 隣では陸奥が小言を呟いているが、特に横やりを入れることはなかった。坂本の楽しそうな様子をそっと見守っている。

 

 

 

 

 

 

 

 そしてイベント全般が終了して、エギルは売れ残った品を抱えて、スナックお登勢へと戻ってきた。まずは依頼を提案してきたたまから、話しかけられている。

「どうでしたか、エギル様? ヘビメタフェス及びガレージセールは?」

「まぁ、楽しかったぜ。最初は色々あったが、途中で話の合う知り合いが出来てから、行って正解だったよ」

「そうでしたか」

 エギルの満足げな様子を見て、彼女も思わず安心していた。どうなるか予想は付かなかったが、依頼して正解だと括っている。

「やはり任せて良かったですね。もしかすると、エギル様はヘビメタが似合うかもしれませんよ」

「ヘビメタか。あんまり触れてはいなかったが……そうだ。たまさんはメタルひよこの正体を知っているか?」

「メタルひよこ? 聞いたことがありません。一体何ですか?」

 会話の成り行きでエギルは、ヘビメタに関する質問をたまへと投げかけてきた。初っ端から触れてきた、メタルひよこの正体を題にしているが。

「メタルひよこはな……ヘビメタ界の有名マスコットらしいぞ! 坂本さんが言っていたんだよ」

「……はい?」

「いや、なんでしっくりきてないんだよ?」

 自信満々に伝えたが、たまのリアクションはピンと来ていない。彼にとってはずっと抱えていた謎の解消で、盛り上げていたが……やはり温度差が生じている。

 

 その一方で坂本と陸奥は、船内にて会話を交わしていた。

「アハハハ! 良い商売仲間が出来たきに! 今度地球に来る時は、エギルの元へ直行ぜよ!!」

「そうかそうか。それは良かったな」

「そうじゃろ! そうだ! 今度エギルを連れて、すまいるにでも出かけようか――」

「それよりも……買ったカラクリをお前は整理しろ!!」

 こちらもいつも通りの応酬である。能天気な坂本を、しっかり者の陸奥が叱りつけていた。イベントを通じて得を得た両者である。




 今回も初登場のキャラが続々と出てきました! ハタ皇子に河上万斉に神威と……凄いメンツが集まっていましたね(笑) 
万斉がエギルに渡したあの歌詞は……完全に中の人ネタです(笑)

 ちなみに予め言っておきますが、神威や坂本辰馬は次回の長篇とは関係ありません。ご注意ください。折角だし神威達に予告を任せてみるか……





次回予告
神威「どうやら俺達が次回予告を出来るらしいよ。今回は太っ腹だねー」
阿伏兎「何言ってんだ! その分次回からまた出番が無いんだぞ!」
神威「じゃ嘘でもいいから、次の話を俺達からリクエストするか。そうだなー宇宙に名を轟かす力の賢者と戦ってみたいな!」
阿伏兎「おい、やめろ団長! そいつは色々と戦いづらい相手だ!」
神威「賢者の拳を受けてみろ!」
阿伏兎「なんで声まで渋くなってんだ!? 読者には何一つ、伝わってないぞ!!」
神威「次回! おっさんの縁はいつの間にか芽生えている!」
阿伏兎「だから声真似やめろ!!」
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