剣魂    作:トライアル

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 吉原滞在組の四人って、普段どんな生活をしているんだろ? 絶対三日に一回は、キリトの話で揉めていそう……


第五十五訓 地元自慢に限って、穴場スポットは知っていない

 穏やかな朝を迎えていたある日の吉原。シリカら女子達が滞在するひのやには、珍しい客が訪問していた。

「何? この荷物を届けたいじゃと?」

「その通りです。かぶき町に間違って配達されたものなので」

 店内にて月詠と会話を交わすのは、カラクリ家政婦のたまである。彼女は手にしていた小包の入手経路を説明していた。どうやらスナックお登勢で、飛脚が誤って届けてきたものらしい。

 月詠が興味深く小包を物色していると、裏側に書かれていた宛先を目にしている。

「うむ……この住所なら、確か町の隅っこにあるな」

「隅っこですか。より詳しく教えてもらえないでしょうか? 私が代わりに届けたいので」

 世話好きなたまは自分から進んで、小包を本来の持ち主へ届けたいようだ。住所までの道筋を、月詠へ詳しく聞いている。

「えっと、ここから右折して――いや、そんな説明よりも案内役を立てた方がいいな」

 しかし、複雑な行程故に彼女は言葉を詰まらせてしまう。そこで思い付きから、代わりの案内役を提案している。

「案内役ですか? 私は一人でも大丈夫なのですが」

「いやいや。いざという時にも、二人の方が大丈夫じゃろ。確か今日空いている者は――」

 たま自身はさほど気にしていないが、月詠は吉原の事情を鑑みて、案内役の適任を考え始めていた。一覧にすると、月詠はこれからリーファやシノンとの稽古の約束があり、シリカは日輪のお使いで店を離れている。消去法から思い浮かんだのは、今日が休日のあの女子だった。

「フワァァァ~おはよう、月姉」

 なんとも絶妙なタイミングで姿を見せたのは、起床したばかりのリズベットである。大きな欠伸を吐いており、まだ意識がはっきりとしていない。少しむくんだ表情で、月詠から話をかけられていた。

「リズ。ようやく起きたのか。休みだからって、だらけてはいかぬぞ」

「いや~ちょっと夜ふかししてね……まずは顔を洗ってくるわ」

「また夜ふかしか――あっ、そうじゃ。主に一つお願いしてもよいか? たまさんと一緒に荷物を届けてほしいのじゃが」

「あぁ~そう。分かったわ。後で詳しく聞くね」

 言われるままに頷いており、あっさりと了承をしている。質問等はまったくせずに、リズベットはひとまず洗面所へと足を進めていた。本当に理解をしているのかは、いささか不安であるが。

「寝ぼけていたそうですが、大丈夫でしょうか?」

「まぁ、心配することはない。リズはしっかりとしているし、仕事も投げ出さないからな。すまないがわっちにも時間が来てしまった。このままリーファ達の元に向かうから、たまさんはリズが戻るまで待っているのじゃぞ」

「分かりました。気を付けていってらっしゃいませ」

 一抹の不安はあったものの、案内の役目は彼女へと委ねている。そしてこのまま月詠は、予定通りにリーファ達の待ち合わせ場所へ向かっていた。場に残されたのは、小包を抱えたたまのみである。

「リズベット様とのマンツーマンですか……」

 考え込む素振りを見せており、ふと思ったことを呟いていく。

 店内にて待ち続けていると、リズベットが洗顔を終えて戻って来ていた。

「あぁーやっと目が覚めたっと! そういえば月姉から、お願いされた気がするけど……」

 眠気はとっくに無くなり、表情も生き生きとしている。歩きがてらに月詠の託を思いだそうとしたが、中々頭には浮かんでこない。

 そんな最中で目に映ったのは、店内で待っていたたまの姿であった。

「アレ? たまさん?」

「おはようございます、リズベット様。ようやく目は覚めましたか?」

「覚めたけど……それより、なんでひのやにいるの?」

 来店するまでの経緯を知らない分、驚いた反応を見せている。不思議そうな表情で、たまとの目線を合わせていた。

 すると彼女は続けざまに、約束通りの案内を促している。

「荷物の住所を知りたくて、ここへと訪れたのです。それでは、案内をお願いできますか?」

「あ、案内?」

「先ほど月詠様から依頼をされたはずです。やはり身に覚えが無いのですか?」

 さも当たり前のように勧められていき、リズベットの困惑はさらに深まってしまう。しかしたまの姿勢に引っかかり、ほんのりと託の内容を思い起こしていく。

(もしかして、たまさんの案内役が月姉からのお願いなの? そういえば、任されたような気が――)

 まだ確証は得ていないが、自然としっくりきている。内心では徐々に、話の本筋を理解していた。

「リズベット様? 大丈夫でしょうか?」

「あぁ、うん。分かっているわよ。えっと……とりあえず、アタシが案内してあげるわね!」

「それはありがとうございます。こちらの住所を教えて欲しいのです」

 ひとまずは場の空気を読み、すんなりと案内役を引き受けていく。元は月詠らの会話から決まったものの、特に投げ出すようなことは無かった。生真面目な一面を目にして、たまもつい一安心をしている。

 一方の本人はと言うと……実はかなりの不安を感じていた。

「ま、任せて頂戴! (吉原のえっと……これはあの場所だっけ?)」

 口では威勢よく返したが、内心にて緊張感に包まれている。住所にしてもうろ覚えであり、不安要素が積み重なってしまった。

 こうして意外な組み合わせの女子二人の、荷物届が幕を開いたのである。

 

 

 

 

 

 

 

「確かこの先を右に曲がった後に、今度は左へ曲がって――」

「なるほどです。確かに道筋は複雑ですね」

 身に着けた知識を頼りにして、リズベットはたまに正しい住所へと案内をしていく。すでにひのやを出発してから数分が経ち、まったりとした雰囲気で吉原の歓楽街を進んでいた。荷物の事情等は適宜たまから聞き、会話を繋げている。

 一見すると順調そうだが、リズベットは少しだけ気を遣っていた。

(道筋はどうにか分かるけど、それより会話のきっかけがないわね……何気にたまさんとの関わりもこれが初めてだし)

 硬く張った表情となり、彼女との接し方に悩まされてしまう。相手の職種は知っているが、内面についてはこれっぽっちも分からない。故に会話も広げられない始末であった。

 慎重に徹したせいで、迷いが生じている彼女に向かって、たまは気がれなく話題を振っている。

「それにしても、吉原の街は相変わらずですね」

「た、たまさん? 急にどうしたの?」

「かぶき町に匹敵するくらい、風俗店が多いと思いまして。やはり吉原の特徴ですね」

「あぁー確かにね。ここはこういう街だから……昼間は問題ないけど、夜は物騒この上ないからね……」

 彼女は周りに立ち並んでいた、風俗系の店に注目を寄せていた。辺りの店では夜の営業に向けて、せっせと準備に取り掛かる従業員の姿が見えている。

 当然リズベットには無関係な話で、思い付きで返答をすると――たまからは無粋な一言が呟かれていた。

「リズベット様達も心配に思えてきます」

「いやいや、大丈夫よ。夜になったらみんな、ずっと部屋に引きこもっているから」

「そうなのですか? 決して働いているわけではないのですね」

「当ったり前よ!! その点はしっかりとわきまえているわよ!!」

 思いもしない一言を聞き、激しいツッコミを反射的に繰り出している。まさか風俗関連の疑いをかけられようとは予想外であった。

「そうでしたか。このご時世に濃厚接触者になると、色々と厄介ですからね」

「濃厚云々じゃないでしょ!! そんな誘いも一斉無いから、勝手に勘違いしないで!!」

 誤解をされていると察して、顔を赤くして否定を続けている。たまの露骨な考え方から、一瞬だけ冗談だとも思い始めていた。

(たまさんって意外にも、冗談を言うタイプなの? 親切で真面目だけど、人をからかうのも好きだとか!?)

 内心では冗談交じりな一面を見て、彼女の印象が変わっている。そう思っていた矢先であった。なんと急にたまは、穏やかな微笑をリズベットへ向けていく。

「フフ。これこそリズベット様ですね」

(えっ? 急にたまさんが笑った!?)

 滅多に見せない感情の起伏に気が付くと、彼女も訳が分からずに動揺が強くなる。するとたまは、隠していたある種明かしを口にしてきた。

「あっ、申し訳ございません。実は緊張をほぐそうと、あからさまな冗談を言っていました。雰囲気が硬そうに見えていたので」

「そ、そうだったの……」

「はい。ですが安心致しました。やっぱり元気で張り切っている姿が、リズベット様にはお似合いだと思いますよ」

 どうやら遠慮な様子を見抜いて、それを把握した上で行動していたようである。先ほどの冗談も、調子を戻してもらう為の算段であった。

 回りくどい優しさだが、この不器用さにリズベットの心は打たれている。

(結局はたまさんの方が上手だったのね。遠慮せずに、アタシもいつも通りで良いのよ!)

 相手を気にしすぎて、本来の自分を出せなかったことに後悔を覚えていく。たまの言葉をきっかけとして、彼女の小さい迷いもすぐに解消されていた。

「まぁアタシも、たまさんとの関わりは初めてだし……これを機に深く知りたいと思っているわよ」

「それならば、よりいつも通りで良いと思いますよ」

 そう言って二人は、互いに笑顔を見せあっている。歩幅を合わせるようにして、二人の間には親近感が生まれていた。

「アナタのことは頼りにしていますから」

「ありがとうね、たまさん!」

「流石は超パフュームのニューリーダーです」

「って、それはお世辞でしょ! アタシがリーダーなんて、まだ早いから!!」

 自然な自分を見せていた途端に、たまからは褒めちぎられる始末である。ニューリーダーの響きに惹かれて、リズベットの気持ちも大いに舞い上がっていた。

 そう会話を弾ませている二人の元に、偶然にもある知り合いが話しかけてくる。

「アレ? リズさんじゃないですか!」

「ナー!」

「って、シリカ? とピナ?」

 元気よく声をかけられたのは、お使いを終えていたシリカとピナだった。例の如く後者は、普段通りに主人の頭へと乗っかっている。

「てか、アンタ達はどこへ行っていたの?」

「日輪さんのお使いですよ! それよりもリズさんこそどうしたんですか? 今日は非番じゃなかったですか?」

「それが道案内を手伝っているのよ。たまさんからの依頼で」

「たまさん? あっ! そういえば」

「ナ!?」

 会話を交わす中でシリカらも、ようやくたまの存在に気が付いていた。滅多にはない組み合わせに、二人を興味深く見つめている。

「これは珍しいですね……そもそもリズさんで大丈夫なのですか?」

「どこの心配しているのよ。アタシくらい、道案内は朝飯前だって!」

 余計な心配をしており、彼女はつい本音を発していく。すぐにリズベットは否定をしたが、ここでたまが事態をややこしくしてしまう。

「その通りですよ。リズベット様は超パフュームのニューリーダーですから、何も心配しなくていいのです」

「ニューリーダー!?」

「ナー!?」

「ちょっと、たまさん! 冗談で言ったことを、急に持ち込まないでよ!?」

 先ほどの冗談を口に出して、無意識に場を混乱させていた。これを聞いたシリカとピナは、共に目つきを細くさせると、リズベットへ向かって不満をぶつけている。

「ふーん。リズさんがニューリーダーって……」

「なんで睨みつけるの!? そんなに納得がいかないの!?」

 とりあえずは即座に反論をすると、シリカからは手痛い一言が飛び出ていた。

「一昨日の風呂上がりのアイス、黙って盗み食いしたのはどこの誰でしたっけ?」

「ギク! そ、それは……」

「しかも先週なんて、ピナのアイスまで食べていましたよね?」

「ナー!〈怒〉」

「え、えっと……」

 不意に発覚したのは、日常生活での卑しい所業である。シリカの言った通りに盗み食いを指摘されると、途端に勢いが無くなってしまった。反論する余裕も無くなり、彼女が出した苦し紛れの行動は――

「ご、ごめんなさい……後でアイスをおごるから許して」

素直に頭を下げて詫びるしかない。

「それはいいですよ。今後は黙って食べるのは止めてくださいね!」

「ナー!!」

「は、はい……」

 ここまで言われると受け入れるしかなく、ただただ申し訳ない気持ちで一杯である。

 猛省する姿を目にすると、シリカも一旦はこの件に区切りを付けていた。

「ふぅ……それじゃ、道案内頑張ってくださいね!」

「ナー!」

 言うべきことを言ったところで、彼女達はさっさと店先に戻っている。結果としてリズベットの一面が明るみになったが、ずっと様子を見ていたたまの態度は何一つ変わらない。

「争いなく事態を静めるとは……流石はニューリーダーと言ったところでしょうか?」

「もう止めて!! アタシはリーダーの器じゃないわ!! 急に恥ずかしくなっちゃったからー!!」

 またも彼女は無意識にも、煽り気味の一言をかけていく。現状のリズベットからすれば、ほぼ悪影響でしかない。

「その苦悩する姿も、リーダーっぽく見えますよ」

「絶対違うって!!」

 しばらくはこんなやり取りが、歩きながら続くのであった……。

 

 

 

 

 

 そしてさらに進んでいくと、またも見慣れた女子達を見かけている。

「おや? あの方々はもしや……」

「あっ、月姉達だ!」

 遠目から見えている広場には、月詠率いる百華の一員が集まって鍛錬を行っていた。約束通りにリーファやシノンも来ており、月詠との模擬戦を始めている。

「ハッ!」 「セイ!」 「ヤッ!」

 各々が得意とする武器を存分に扱い、真剣な面持ちでぶつかっていた。月詠はクナイを生かした身軽い体術、リーファは剣技に集中し、シノンは弓矢を用いた戦法と足技を駆使して戦っている。共に一斉の容赦はなく、本気で相手に立ち向かっていた。

 激しくぶつかりあう鍛錬だが、これはリズベット自身にも何度か経験がある。

「随分と激しく戦っていますね」

「まぁ、月姉の稽古はいつもあんな感じだよ。自衛術とか武器技術の向上を兼ねているから。週に一度くらい行うのよ」

 どうやら吉原滞在組にとっては、習い事感覚で行われているらしい。徐々に実力を身に着けているという。

「そうなのですね」

「うん。ただ、おかげでアタシも大変なのよね」

「大変とは? 過労ということでしょうか?」

「そりゃ鍛錬も疲れるけど、一番は武器の調整よ。戦った後にはみんな、アタシの元にやって来て鍛冶をお願いするのよ」

 しかしリズベットには、とある別の問題が発生していた。鍛錬後には仲間達がよく武器の調整を依頼してくるのだが――そこでいつも悩まされている。

「それはまたご苦労ですね」

「苦労で済めばいいんだけど、中々上手くいかないのよね……修理専用の鉱石があれば楽になるんだけど、割高だから手に届かないのが現状かな。今日だって、夜遅くまで調整していたし」

 金銭的な問題から、鍛冶を有利に進める鉱石が手に入らないことだった。おかげで地道な作業を続けており、時間がかかることに苦労を感じている。その表情もどこか悲しげに見えていた。

 リズベットなりの苦悩を聞き入れたたまは、同情と同時にある考えを閃いている。

「なるほど。それで今は鉱石が欲しいのですね」

「そう。てか、どうしたのたまさん? 急に顔色を変えて」

「いえ、何でもないですよ。先を進みましょうか」

 意味深な表情に気が付かれたものの、すぐにはぐらかしていく。何か考えを含ませてそうだが、最後まで明かされなかった。

(良い情報を聞きました……)

 内心ではそっと本音を呟いている。様々な心境の変化を感じながら、いよいよ目的地へと彼女達は辿り着く。

 

 

 

 

 

 ――そして出発から約二十分が経過すると、ようやくリズベット達は目的地の住所へと到着していた。

「あっ、ここで間違いないわよ」

「この住所なのですね」

 行きついた先は何の変哲もない古風な一軒家である。表札も確認して、宛先と間違いないか確認していた。

「……名前も合っているわね。とりあえず、至って普通の家で安心したわ」

「いえいえ、それは最後まで分かりませんよ。もしかすると、癖のある住人が住んでいるのかもしれません」

「またまた~そんなフラグ立てないでよ。そう思っていても、結局は外れるのよ」

 たまはまたも冗談らしき小言を呟き、リズベットからは受け流されている。段々と彼女との接し方にも慣れている様子であった。

 そう話しているうちに、一軒家からは住人が姿を現してくる。

「あの……ウチになにかようですか?」

 戸が開かれるとそこにいたのは、赤い着物を着た幼い少女であった。その風貌から園児と同じ年齢だと予測される。

「ほら、ただの普通の女の子じゃん。癖云々とか無い気がするわよ」

「そうなのでしょうか?」

「そうそう! あっ、アタシ達は荷物を届けに来たのよ。この小包で合っているかしら?」

 純朴そうな少女を見て、ごく普通の人間だと彼女は断定していた。特に深くは考えずに、荷物の有無を確認していく。

 すると……少女の口からは意味深な一言が呟かれていた。

「あ、とどけものだ! しろいこながついにとどいたんだね!!」

「……白い粉?」

 この一言に、リズベットはつい体を固めてしまう。不穏な空気を察して、つい自ら中身を確認してしまう。小包に入っていたのは……文字通り透明なビニールに詰められた大量の白い粉であった。明らかに怪しそうではある。

「う、嘘でしょ……ま、まさか!?」

 表情が一変してしまい、疑惑が確信へと変わっていく。邪推な考えが彼女の脳裏に駆け巡っている。理解が追い付かない一方で、たまも声を発してきた。

「チャンチャンチャーン! チャチャチャーン!!」

「って、たまさん! 不謹慎なBGMを付けないでって!」

 某サスペンスドラマの有名なBGMで。反射的にツッコミを入れられると、たまはようやく本音を話し始めている。

「申し訳ございません。ついノリから、やってしまいました。まさかあの女の子が、ピエー〇瀧や〇リカ様と同類だったとは……予想もしていませんでした」

「止めて!! まだ決まった訳じゃないから!! きっと何かの勘違いだから!」

 どうやらもう黒であることに確信を得ていた。益々リズベットの心情が追い詰められていく。

「このしろいこながあれば、おかあさんといっぱいしあわせになれるんだよ!」

(なんか別の意味に聞こえる!? きっと違うわよ! 絶対にアレじゃないわよ!)

 とどめと言わんばかりに、少女もまた喜びの声を上げてきた。潜在的なイメージが重なり、もはや黒であることに囚われてしまう。

 疑惑に苦しまされていると、少女の母親らしき人物も姿を現してきた。

「あや。一体どうしたの?」

「おかあさん! しろいこながとどいたよ! しろいこなが!」

「しろいこな? ホットケーキミックスのことでしょ。いい加減にしないと、誤解を生むから止めなさいって!」

「ホ、ホットケーキミックス!?」

 威勢のいい彼女の一言によって、潜在的なイメージが一気に崩れ去る。怪しげな物体と思われた白い粉の正体は、ただのホットケーキミックスのようであった。

「どうやら私達の心配は杞憂だったようですね」

「良かった~とりあえず心がホッと落ち着いたわ」

「ホットケーキにかけてですか?」

「何も関係ないわよ! 狙って言ったわけがないでしょ!!」

 疑惑が晴れて一安心したところで、またもたまからは小ボケが発せられている。お馴染みの流れで、リズベットがすぐにツッコミで返していた。いつの間にか表情も、明るく戻っている。一方の少女は、母親へ荷物について話していた。

「このにもつはねぇ、あのおねえちゃんたちがとどけてくれんだよ!」

「お姉ちゃん……あっ、そういうことね。でもなんで、アナタ方が?」

「こちらに誤送されたので、正しい住所まで届けに来たのです」

「わざわざですか? それはありがとうございます」

「いやいや、大丈夫ですよ。ちょうど時間もありましたし」

 届けられるまでの経緯を知ると、母親からは礼儀正しく感謝を伝えられている。やはりごく普通の親子のようだ――娘の独特な言い回しを除いて。

「しろいこなをとどけてくれてありがとうね!」

「コラ! 止めなさいって!」

 無邪気そうにまた発すると、母親から叱責されてしまう。彼女自身もこの言い方に悩まされているようだ。

「随分とまた独特な呼び方ですね」

「ウチの子が今コナ〇にハマっていて、小麦粉やらも白い粉と呼んじゃうんです……」

「そ、そういうことだったのね……」

 原因もはっきりしており、某探偵ものの影響だという。理由が分かるとリズベットら女子達も、思わず心を落ち着かせている。

「でも良かったではないですか。ホットケーキミックス――いや、白い粉で美味しく作れるのですから」

「たまさん。もうそれ確信犯よね……」

 たまだけは場のノリに乗っかって、わざと言い直していたが。親子側からすれば念願の商品が届いたのだが……実は一つだけ問題が発生していた。

「えぇ、来たのは有り難いのだけど、タイミングがちょっと……」

「おや、どうしたのですか?」

「実はガス栓が朝に故障してしまって、料理が作れないんです。ウチはプレートも無いので、今は作れなくて……」

「そうなの……」

 なんとも運が悪く、ガス系統が故障をしてしまったらしい。家にある備品も少なく、現状ではホットケーキを作れないようだ。楽しみにしている少女の笑顔とは異なり、母親はどこか深刻そうな表情を浮かべている。

 このままだと親子が不憫そうなので、リズベットとたまは同じくして、何か手伝えないかと考え始めていた。

「ねぇ、たまさん! アタシ達で手伝えないかな? 例えば日輪さんから許可を得て、プレートを借りに行くとか?」

「いや、それよりもいい方法があります。お母様は追加で足りない材料を持って来てくれますか?」

「えっ? 何をするのですか?」

「私にお任せください。最高のホットケーキを作ってみせますから」

 するとたまは、あるとっておきの策を考え付いている。以前にも使用した“あの機能”を、この場で披露するらしい。

「えっ!? たまさんがこの場で作るの!?」

「そうですよ。私はカラクリですから、料理くらい火を使わなくても出来るのです」

 もちろんリズベットにとっては初耳であり、料理と言われてもそのような特徴は一斉感じられなかった。

(この自信は結構なものね……でも一体どうやって調理するんだろう? 腕を変形させて、ミキサーやプレートにするとか? そんな機能、たまさんにあったっけ?)

 想像力を働かせていき、思いつく限りのことを頭に浮かべている。ところがこの時の彼女はまだ、その全貌に気付くことは無かった……

 そうこうしているうちに、材料が瞬く間に揃えられている。ホットケーキミックスのみならず、牛乳や卵、砂糖、バターなどが置かれていた。

「うわーい! これからなにをするの!?」

「ホットケーキを作るのですよ。少し待っていてくださいね」

「やったー!!」

 母親の娘も注目しており、無邪気にも喜びの声を上げている。場にいる全員がたまに注目する中で、彼女はそっと座り込み材料を凝視していた。

「それで本当に作れるの?」

「大丈夫です。私はカラクリですから、料理くらい朝飯前なのです!」

 そう聞いていた直後である。たまは豪快にも用意された材料を、手当たり次第に口へと運んでいた。

「た、たまさん!?」

 予想外の行動にはリズベットのみならず、親子の二人も息を呑んでしまう。だがこれこそ、たまの得意とする調理方法である。

(一気に材料を飲み込んだ!? あっ、そうか! 体内で調理するって意味だったんだ! ……アレ? じゃ完成した時、どうするの?)

 勘が良くリズベットも、内心にて調理方法に気が付いていた。大方これで間違いないが、出来上がった際の届け方に疑問を浮かべている。

 するとたま本人は地面に膝を付けて、置かれていた皿に向かって口を開いてきた。

「オウェ! ブホォ! グへェ!!」

 生々しい嗚咽音と共に吐き出されたのは……バターの代わりに黄色いオイルがかけられた熱々のホットケーキである。

「で、出来ました……どうぞ」

「そこから!? なんてところから取り出しているのよ!? 食欲が失せちゃうじゃないの!?」

 ここまでの一連の様子を目にしていき、リズベットは我慢できず激しいツッコミをかけていく。たまの調理法の正体……それは体内で作り出し、嘔吐で提供するという奇想天外な仕組みであった。

 この方法に思いっきり気を引かせるリズベットに対して、たまはさも当たり前のように言葉を返している。

「いえ、これが私なりの方法なので……ほら見てください。メイプルシロップの代わりにオイルがかけられていますよ」

「そんな情報もいらないわよ!? ていうか、オイルって衛生的に大丈夫なの!?」

「心配ありません。無害なので……」

 顔色を悪くしたまま、自身の調理したホットケーキの特徴を発していく。それでもなお、リズベットからの印象が変わることは無かったが。

「こんなホットケーキで満足するわけがない――」

 そして気になる親子の反応を見ようと、彼女が前を振り向いた時であった。

「お、おいしいですよ! いがいに!」

「えっ!?」

 なんとすでに親子は、このホットケーキを食している。抵抗する素振りなどは見せずに、フォークで次々と口にしていた。

「本当だわ。オイルでもおいしく食べれるのね」

「ありがとうね! メイドのおねえちゃん!」

 味についても文句はなく、むしろ絶賛される始末である。見かけによらない技術の高さに、リズベットはもうツッコムことすら諦めてしまった。

「ど、どうなっているのよ……」

「結局料理は味が大事という事ですよ。リズベット様もどうですか?」

「いや……また別の機会にするわ」

 結果や味が重要だということを痛いほど分かっていく。たまからもホットケーキを勧められたが、気持ちの問題ですぐに断っている。

 一件落着となった荷物届だったが、その結末は彼女も予想が出来ないものだった。

「ピンクのおねえちゃんもたべようよ! おいしいって!」

「アタシは大丈夫だから……遠慮せず食べなさい」

 苦い表情を今なお続けている。

 

 

 

 

 

 さらに時が過ぎていき、気付けばとっくに正午を過ぎていた。荷物を届け終えたたまは、リズベットをひのやへと見送っている。

 そして入り口前にて、共に別れの言葉を交わしていた。

「とりあえず、荷物を届けられて良かったわね」

「一件落着ですね。ここまで案内していただき、ありがとうございます」

「いや、アタシはただ人助けをしただけよ。それに何だかんだで結構楽しかったし……」

 数時間ではあるが、どちらとも充実した時間を過ごせたらしい。おかげで互いの距離感も大いに縮まっている。

「それは私もですよ。では何か礼をしたいのですが」

「いやいや、大丈夫よ。礼なんてたまさんの気持ちだけで充分だから」

「そ、そうですか?」

「気にすることないって! じゃ、また何かあればよろしくね!」

 感謝の気持ちとして礼を送りたいたまだったが、リズベットは照れくさく感じてすぐに場を離れてしまう。最後まで優しさに溢れている対応を見せていた。

「そう遠慮しなくても良いのですが……」

 しかしたまは、どこか納得のいかない表情を見せている。出来れば彼女の手助けをしたいと思い始めていた。

 こうして彼女は、ずっと考え込んでいたある作戦に移っている。

 

 ――そして、時間は次の日の朝を迎えていた頃。昨日とは真逆にリズベットが朝一番に起きており、居間へと来ていた。その場には日輪が、ある荷物を持ってきている。

「おはよう~日輪さん~」

「おはようさん。そういえばアナタ宛てに、届け物が来ているわよ」

「こんな朝早くに? 一体誰から?」

「たまさんからね」

「たまさん?」

「きっとお礼の品が入っているんじゃない?」

 荷物を手渡しすると、彼女は居間から台所へと車椅子を進めていく。リズベットは一人になったところで、荷物に挟まれていた手紙に目を通していた。

〔昨日はありがとうございました。リズベット様は、お礼はいらないと言っていましたが、やはり恩返しも込めて贈ろうと思いました〕

「いや、別に良いのに……」

 手紙を読み進めるうちに、徐々に眠気も覚めていく。するとある一文を見つけて、彼女の心境は一変した。

〔アナタの一番欲しいものである、ヨロ鉱石が入っていますよ〕

「えっ!? まさか……」

 そのまさかである。慌てて荷物の中身を確認してみると、そこには朱色に輝く小さい鉱石がたんまりと入っていた。これこそが鍛冶の時に役立つヨロ鉱石である。

「本当に入っている……!」

 念願の品を手に入れて、内心では驚きと動揺に満ち溢れていた。さらに手紙を読み解くと、たまからの粋なメッセージが刻まれている。

〔これで皆さんの武器を鍛え直してください。アナタこそが、超パフュームのニューリーダーなのですから。これからも頑張ってくださいね〕

 それは紛れもない、純粋な気持ちが詰まった荷物だった。手紙を最後まで読み進めていると、リズベットの目には自然と涙が溢れ出している。

「た、たまさん……お礼なんていいって言ったのに。それに、ニューリーダーじゃないわよ。アタシは……」

 思いもよらない優しさに触れて、彼女は温かい気持ちに包まれていた。託された期待を背負って、また一歩だけ心を成長させていく。

 こんな感動的な雰囲気が長く続けばよいのだが――実はこの鉱石にはある秘密が隠されている。

「アレ? まだ書いているの?」

 手で涙を拭きながら再び手紙を見ると、隅っこにてある注意書きを発見していた。

〔PS.こちらの鉱石は自家製です。オイルの付着には気を付けてください〕

「えっ? オイル……」

 自家製やオイルと言った言葉に、嫌な予感を察し始めている。試しに鉱石を握ってみると、

「あっ……」

見たことのある黄色いオイルが付着していた。ここから導き出されるのは、昨日にたまが見せたあの機能しかない。

 思わぬ真実を知ると、一気に涙も引っ込んで気が滅入ってしまう。

「う、嘘でしょ……」

 つまり鉱石はたまの自家製だということだ。効能まで同じかは分からないが、いずれにしろたまの体内を介したことには間違いがない。

 温かくなった気持ちが急に下がっていた時に、仲間達も次々と居間に来ていた。

「ん? どうしたんですか、リズさん?」

「もしかして何か貰ったの?」

「いいな~一体どんな贈り物なの?」

 贈り物に大きく興味を示して、快く話かけていく。だが今の彼女は、そんな気分ではもう言い表せなかった。

「って、流石に抵抗するわぁぁぁ!!」

「「「なんで!?」」」

 本人には届かないであろう、悲しいツッコミを咄嗟に繰り出していく。これはもうリズベットにしか分からない気持ちであった。

 こうして二人は深い縁を築き上げた……はずである。




次回予告(嘘)
たま「私の名前はたま。調理することを得意とするヒューマギ〇の一人です。今日も元気に仕事を……」
リズ「って、ちょっと待ったぁぁ! なんか違うから! 分からないけど、多分ずれているわよ!!」
たま「次はもんじゃに挑戦しましょうか?」
リズ「止めなさいって!!」

※これは嘘予告です







次回予告
リーファ「ねぇ、お兄ちゃん! この世界にトンキーホーテって言うスーパーがあるみたいだよ!」
キリト「あぁ、俺も何度か行ったことがあるよ」
リーファ「そこでね! ウェブ用のマスコットキャラを応募しているみたい! これは絶好のチャンスよ!」
キリト「チャンスって?」
リーファ「トンキーをマスコットにしよう!」
キリト「はい?」
リーファ「次回! 地方営業のコンビニは意外と全国展開している!! って、どういうタイトルなの!?」
キリト「というか、トンキーってまさか!?」
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