剣魂    作:トライアル

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 今回は皆さんの予想通り、あの天人が登場します。果たしてどうなる事やら……


第五十七訓 プレゼント選びは慎重に!

 九月八日。この日のリズベットは、朝っぱらから手当たり次第に花屋を渡り歩いていた。尊敬している師匠こと村田鉄子の贈り物として、とある花を懸命に探している。しかし……中々見つけることが出来ていない。

「うーん……どこにあるのよ?」

 

 一方で時を同じくして、万事屋一行は全員揃って食材の買い出しに向かっていた。割引価格の商品を目当てに、かぶき町とは多少の距離があるスーパーへと赴いている。

 まばらに雲が浮かぶ晴天の下で、彼らは和気あいあいとした雰囲気で町内を進んでいく。ただ一人、銀時を除いては。

「暑いな……つかーよぉ、俺達まで行く必要あるのか? 家にいた方がまだ涼しいわ」

「銀さん、また文句言っているの? 今日のスーパーは購入制限の商品があるから、どうしても人手が必要なのよ。もちろん荷物持ちも任せてもらうわよ」

「ちゃっかり、仕事を増やすんじゃねぇよ」

 彼は遠出することに気乗りせず、グチグチと文句を吐いていた。言いだしっぺのアスナからも説得されたが、何気にもう一つ仕事を増やされている。今回の買い出しでも、男子陣は荷物持ちとして連れてこられたようだ。

「またトンキーホーテのように、買い溜めするのか?」

「そうネ! 頑張るアルよ、キリ!」

「そもそも神楽ちゃんの大食いも原因なんだけど……」

 人一倍調子に乗ろうとする神楽には、新八の核心を突く指摘が飛んでくる。彼女の大食いな性格も、少なからず食費に影響しているようだ。

「いわゆる成長期ですね! 私も神楽さんほどに食事をしたら、体も大きくなるのでしょうか?」

「いや、ユイちゃん……むしろ体を壊すから止めておいた方がいいよ」

 それを聞いたユイは、思わず無邪気な発想を呟いている。好奇心から食事の量に興味を示したが、すぐに新八から止められていた。

「とにかく! キリト君に銀さん達も、今日は張り切って頼むわね!」

「「は、はい……」」

 そして、アスナの期待を込めた一言が男子陣にのしかかっている。彼女の晴々とした笑顔からは、トンキーホーテの時と同じ荷物量だと薄々察していた。

 適度に会話を交わしながら、ゆったりとした足取りで進むが……そんな彼らには偶然にもある知り合いを見かけている。

「アレ? あの人って……?」

「ん? どうしたアルネ、ユイ?」

「いや、花屋にリズさんが入っていきまして……」

「えっ、リズが!?」

 一足先に発見したユイによると、どうやらリズベットが花屋へと入ったらしい。これを聞いた女子陣は足を止めて、彼女の行方に興味が向けられていた。

「ちょっと気がかりね……見に行きましょうか」

「おいおい、買い出しはどうすんだよ?」

「まだ時間があるから大丈夫よ! それよりもリズの方よ」

「私も気になるネ、行くヨロシ!」

「はいです!」

 あれだけ意気込んでいた買い出しを後回しにして、女子達三人はぞろぞろと花屋へ近づいている。

「おい! ……ったく、今日のアイツら自由奔放過ぎねぇか?」

「まぁ、仕方ないよ。女子同士の再会って、いつもあんな感じだし」

「行動の一つ一つが気になるってことですね。じゃ、僕等もついていきましょうか」

「ちょっと面倒だけどな」

 取り残された男子陣だが、ヤレヤレと思いながらも、アスナ達の跡を追いかけていく。

 こうして六人は日陰にそっと気配を隠して、店内で店主と会話をするリズベットの様子を覗き見していた。

「努力の花、グロウフラワーねぇ……」

「あの、この店には置いてあるの?」

「残念だけど、ウチでは取り扱っていないわ。力になれなくごめんね」

「そんな……これで二十軒目なのに」

 またしても目的の花を見つけられず、落ち込んだ表情となっている。そんな彼女と話をするのは、万事屋とも顔見知りの相手であった。

「二十軒も探して見つからないって……」

「入手が難しい花アルか?」

「いやそれよりも、あの女ってさっちゃんの同期じゃ無かったか?」

「あっ、そういえば……」

 そう。銀時ら三人には見てわかる通り、この店の店主は忍者でもある脇薫である。ただ顔を知っているだけで、そこまで深い接点は無いのだが。

 それはさておき、リズベットと薫の会話は続いている。

「てかアンタ、よくもそんなマイナーな花を探しているのね」

「それは花言葉が気に入ったからよ。アタシの尊敬する人にどうしても贈りたいのよ……」

「ほぉう、そういうことね」

 グロウフラワーと呼ばれる花に並々ならぬこだわりを持ち、しんみりとした表情を浮かばせていく。彼女によると贈り物として、その花を探しているようだ。

「尊敬している人って、一体誰アルか?」

「それは……鉄子さんではないでしょうか? ずっとお世話になっていますし」

 リズベットの尊敬する人に焦点を当てて、神楽やユイは次々と声を上げている。彼女の言い方や雰囲気から、鍛冶屋繋がりの鉄子だと予測していた。

「でもなんで、このタイミングなんだろうな」

「誕生日とかじゃないのか? 確か九月頃じゃなかったか?」

「そんな気がしますけど……」

「しっかりと花言葉にこだわるのが、リズらしいわね」

 他の万事屋メンバーも、思ったことを呟いていく。長い付き合いであるキリトやアスナは、リズベットの粋な優しさに感銘を受けている。このまま様子を見守ろうとしたが……そう長くは続かなかった。

「おや? 何をしているんだ、君達は?」

「って、えっ!?」

「きゅ、九兵衛さん!?」

 こっそりと覗いていた光景を、通りかかった知り合いに見つかってしまう。声をかけてきたのは、散歩の途中だった柳生九兵衛である。

「何を覗いているのだ? まさか花屋に妙ちゃんがいるのか!?」

「いやいや、違いますから! 僕等もたまたま見ていただけで」

「たま投げ!? 一体花屋で何が起こっているんだ!?」

「たま投げじゃなくて、たまたまよ! そこは勘違いしないでって!」

 早とちりから妙のいる前提で話しかけており、会話が噛み合わずにアスナらもタジタジになって応対していた。聞き間違いにより、場はちょっとした騒ぎに発展してしまう。

 当然だがこの騒ぎは、リズベットらにも気づかれている。

「ん? この声は」

「もしかして……アタシの知り合いかも。ちょっと見てくるわ!」

 会話を中断させてから、彼女は様子見として一旦外に出ていた。一方の薫はタイミングが悪いことに、リズベットが退店した途端に、グロウフラワーの心当たりについて閃いている。

「あっ。あの店だったら、あるのかも……」

 跡を追いかけずに彼女は、ひとまず近くにあったメモ帳に情報を書き記していく。そしてリズベットの方では、

「……えっ!? キリトにアスナ!? 九兵衛さんも!?」

「「「「あっ」」」」

「み、見つかっちゃいました……」

万事屋一行や九兵衛らと目線を合わせていた。思わぬ再会に彼女は困惑しており、万事屋側もつい言葉を詰まらせている。

「リ、リズ君? お妙ちゃんでは無かったのか……」

「いや、最後まで信じていたのかよ」

 ただし九兵衛だけは、予想が外れたことに衝撃を受けていた。新八のツッコミも無常に決まっている。

 偶然が重なり合い、リズベットの花探しはさらなる展開を迎えていた。

 

 

 

 

 

「てか、アンタ達につけられるなんてね……」

「だ、黙っていたことは謝るよ……」

「別にいいわよ。銀さんだけだったら、正直許してないけどね」

「おいそれ、どういうことだよ」

 会話の最中に思わぬ飛び火を受けて、銀時は即座に反抗している。

 尾行がバレてしまった一行は、今一度冷静になって互いの状況を説明していた。

「それで、万事屋が買い物で九兵衛さんが散歩の途中だったんでしょ? まさか最初にバレたのが、アンタ達とはね」

「やはり僕等には知られたくなかったのか?」

「いやいや、大丈夫よ。こっちも花探しに息詰まっていたから、むしろ助かったわよ。全然見つからなくて、困ってんだからね!」

 尾行の件は軽く受け流しており、気にしていない様子である。むしろ彼女は花束のことで、ありのままの本音を仲間達へぶつけていく。本命が見つからないことには、だいぶ憤りを感じていた。

「そんなに見つからないんですか?」

「うん。聞くところによると、宇宙からの外来種みたいなのよ。そのせいで流通が少ないだとか」

「結構大変なのね……」

 理由を深掘りするうちに、複雑な事情が明かされている。外来種等の特殊な事情が重なり、グロウフラワーは手に入りにくいものだと理解していた。

 アスナらが同情を浮かべる一方で、リズベットの表情は迷いが生じている。だがそれでも、彼女は簡単に諦めることは無かった。

「でも……見つけたいわよ。今日は鉄子さんの誕生日だし、日ごろの感謝を込めて、どうしてもグロウフラワーを送りたいのよね」

 入手難易度よりも自身の気持ちを優先しており、誕生日プレゼントとしてのこだわりは一斉揺るがない。困難に直面しても、最後まで希望を捨てることは無かった。彼女の“想い”を通す意志には、仲間達にも影響を与えている。

「銀ちゃん、キリ! 私達もリズに協力するアルよ!」

「マジかよ。買い物はどうすんだよ?」

「それはもう後回しです! リズさんの探し物の方が大切ですよ!」

 いてもたってもいられずに、神楽やユイは純朴そうな目つきで手助けを決意していた。彼女達にとってはこちらの方が大事であり、この気持ちは他のメンバーも同じである。

「でも僕らも気になりますから、一緒に行くのもありですよね」

「そうね。リズ、私達も手伝うわよ!」

「えっ? いいの、みんな?」

「別に構わないよ。俺達もその花のことが気になるし」

「僕も時間が空いているからな。是非手伝わせてもらうよ」

 新八、アスナ、キリト、九兵衛と快く協力の声を上げていく。旧友や大人達の親切に触れていき、リズベットの気持ちも前向きに捉え始めていた。

「みんな……ありがとうね。じゃお言葉に甘えて、よろしくお願いね!!」

 迷いも振り切っており、生き生きとした表情で明るく返答している。段々と普段の彼女らしさに戻っていた。

「元気が戻って良かったアルナ!」

「ですね!」

「ったく、後で無駄口を叩いても知らねぇぞ」

 気乗りはしないものの、銀時も渋々協力を引き受けていく。こうしてリズベットの元には、頼もしい仲間達が加わっていた。

 とちょうど良いタイミングで、機会を伺っていた薫が話しかけてくる。

「ようやく終わったのかい。それじゃ、アンタにこれを渡しておくよ」

「えっ? これは……」

 突然にも手渡してきたのは、住所の書かれた一枚のメモ用紙だった。

「私の知っている花屋の住所よ。確か天人が経営していたから、運が良ければグロウフラワーが見つかるかもね。素直に受け取っておきなさい」

 こちらも親切心から行き先を教えており、何気の無い気遣いを見せている。棚から牡丹餅のような幸運な展開には、本人も有り難く感じていた。

「あ、ありがとうございます! そうと決まれば、みんな行くわよ!」

「って、リズさん!? 急に張り切りすぎですよ!」

「おい、置いていくんじゃねぇよ!!」

 嬉しくも気持ちを高ぶらせた彼女は、一度感謝を伝えると同時に、勢いのままにその店へと足を走らせていく。仲間達も急いで、リズベットの跡を追いかけていった。

「フッ、見つかればいいけどね。ってそういえば、肝心なことを言い忘れたような……」

 無事に見つけられるようにと、薫はそっと彼女達の行く末を見守っている。その最中では、伝え忘れたことを思いだそうとしたが。

 しかし彼女は、ある重要な一件を伝えていない。リズベットの無邪気そうな表情や余裕が後に崩されるとは、この時の誰もが思っていないだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 それから一行はメモの情報を頼りにして、かぶき町を歩き回っている。懸命に探し続けていると、遂に店の近くまで行きついていた。

「この道を右に曲がれば、ようやく花屋に到着できるわ!」

「今度こそ見つかると良いわね」

「きっと見つかるさ!」

 その中でもリズベットは、仲間達よりも一足早く進んでいる。心地よい風に当たりながら、彼女は大いに期待値を高めていた。

 一方でその跡を追う銀時らは、微かな不安を覚え始めている。

「ねぇ、銀ちゃん! 確かこの道の先にある花屋って……」

「あぁ、そうだな。まさかあの店じゃねぇよな?」

「僕等の予想が外れると良いですけどね」

「ん? どうしたんだ、みんな? そんな浮かない顔をして」

 以前にも関わったことのある某天人を思い起こして、万事屋の三人だけが微妙な表情を見せていた。九兵衛にとっては何のことだかさっぱり分からないが。

 反応は分かれたがリズベット側は気付かずに、大通り方面へと足を踏み入れている。

「よし! この近くね……あっ、あったわ!」

 一足先に着いたリズベットは、周辺にある花屋らしき店を探すと、右折方向にて見つけていた。遠目から見た店の外観は多くの花が飾られており、グロウフラワーの有無にも期待が高まっている。

「このまま行って、手に入れてみせるわよ!」

 単身でも向かおうとした――その時だった。店内から店主らしき天人が姿を現してくる。

「いや~今日は一段と暑いですね~」

「……えっ?」

 リズベットの瞳に映り込んだのは、インパクトの強い天人だった。緑色の体色をしており、体型は二メートル程の大柄。顔つきは厳つく、見る者に多大なプレッシャーを与えている。頭部には二本の白い角と、申し訳程度の一本の花が植えられていた。青いエプロンも着飾った彼の正体はそう……万事屋とも大変関わりの深い屁怒絽である。

 彼の強烈とも言える容姿には、リズベットも思わず心を引かせていた。

(まさか店主なの!?)

 高揚とした気持ちが一変、屁怒絽に対する恐怖で心が染められてしまう。

 予想外の事態に行動が拒んだ彼女は、屁怒絽に気付かれないよう、大通り方面から死角である建物脇に戻っている。そこにユイやアスナらが先に駆けつけてきた。

「アレ? リズさんがあっちで項垂れていますよ」

「どうしたのよ、リズ? もう花屋を見つけたんじゃないの?」

 事情を知らない彼女達は、リズベットの様子に違和感を覚えている。不思議そうに聞いてみると、彼女は感じたままのことをぶつけてきた。

「いや……予想外のことが起きたのよ」

「予想外って?」

「み、見た方が早いわよ。きっと腰を抜かすわよ!」

「もう大袈裟ね。一体何を見たっていうのよ?」

 動揺するまでの経緯を理解できず、キリト達三人も遠目から店を覗いてみる。するとそこには、

「いらっしゃいませー大切な人への花束はいかがでしょうか?」

おどろおどろしい声を発しながら、客寄せしている屁怒絽の姿が見えていた。その恐ろし気な容姿には三人も動揺しており、そっと顔を引っ込めている。

「えっ……あの人が花屋さんなの?」

「思っていたのと、まったく違うんだが……」

「見た目のインパクトが凄かったです……」

「だから言ったでしょ……」

 揃って苦い表情となり、大きな衝撃を引きずっていた。困惑がまったく収まらない中で、銀時らもこの場に到着している。

「って、どうしたアルか? みんなー!」

「いや、ちょっと動揺していて……」

「動揺? って、まさか屁怒絽を見たのか?」

 話を聞くうちに彼らは、その原因が屁怒絽だと理解していた。薄っすらと感じていた嫌な予感が、見事に当たっている。

「てか、みんなはあの天人のことを知っているの?」

「知っているというか……顔馴染みというか」

「どちらとも言えない関係アル」

 アスナから詳しく聞かれても、神楽や新八は曖昧な言葉しか言い切れない。何とも微妙な雰囲気が漂う中で、リズベットが咄嗟に口を開いてきた。

「ていうか、あの人は一体何なのよ!? はっきり言って威圧感しか無いわよ!!」

 自信が思ったことをありのままに吐き出していく。そんな彼女に対しては、銀時が返している。

「そりゃ屁怒絽だからな。アイツは地球に宇宙産の花を売りに来た、多分心優しい天人だと思うぞ。多分そうだよ。多分……」

「さっきから、多分しか繰り返して無いんだが」

 それでも上手く確信が持てずに、言葉を濁したままだったが。これには九兵衛も野暮をぶつけている。

 さらに続けてユイも質問してきた。

「では、あの特徴的な容姿は何か分かりますか?」

「まぁそれは荼吉尼族が関係しているアルよ」

「荼吉尼族?」

「傭兵三大部族の一つですね。鬼のような姿をした種族として有名なんです」

 今度は新八や神楽が返答して、屁怒絽の特徴を簡略的に伝えている。だがしかし、リズベット達の第一印象が覆ることは無かった。

「鬼っていうか、ボスモンスターに見えなくもないが」

「過去に戦った個体とも似ているわね……」

「変な詮索するなよ。屁怒絽がボスモンスターな訳ないだろ。ただの威圧感がある天人――」

 仕舞いにはSAOのボスキャラとして例えられている。冗談だと悟った銀時は、思わず屁怒絽のいる店の方へ覗いていく。すると彼は、

「さぁいらっしゃいませ。今なら限定品として、HPゲージが付いたキャップをプレゼントしていますよ~」

「何か付いてんだけどぉぉ!?」

タイミングの悪いグッズを宣伝していた。HPゲージを模したキャップを被り、付属品として通行人に見せつけている。間接的に自らが、ボスモンスターと印象を付けていた。

「おい、どうなってんだ!? まさかあいつ、SAO出身のモンスターかよ!?」

「落ち着いてください、銀さん! ただの偶然ですから! 関係ない小ボケですから!」

「あの形状はまさしく……酷似していると思います」

「ユイちゃんも余計なこと言わないで! 読者も混乱しちゃうから!」

 おかげで銀時も取り乱してしまい、困惑を大いに深めてしまう。彼を落ち着かせようと、新八が必死に説得を促している。

 屁怒絽の知らない間に、リズベット達には大きな影響を与えていた。

 

 

 

 

 

 

 それから時間を置くこと、数分が経過した頃。落ち着きを戻した一行は、これからの行動について話し合っている。

 その結果だが、リズベットが単身で店へ向かうことに決まっていた。

「……じゃ、行ってくるわね」

「本当に一人で大丈夫なの、リズ?」

「僕も付いていこうか? 何なら代役で買いに行っても構わないぞ」

 未だに不安を拭いきれない仲間達は、心配の声を上げている。屁怒絽への耐性がまだ十分ではないはずだが……それでも彼女には行くだけの理由があった。

「へ、平気よ。誰かの代わりじゃなくて、アタシ一人の手で手に入れたいから……怖いけど」

「おい、今本音が出なかったか?」

「と、とりあえずアタシに行かして! 大丈夫……慣れれば平気よ!!」

 自らの手でグロウフラワーを手にしたい気持ちから、恐れを跳ね除けて突き進んでいく。がむしゃらな心構えから、勢いよく店へと走り出していた。

「ちょっと、リズさん!?」

「本当に大丈夫なのか!?」

 仲間達の心配をよそにして、あっという間に場を離れている。もう彼らには、見守ることしか方法は残されていない。

 リズベットの決死の覚悟により、屁怒絽との交渉が始まっていた。

「今ならキャップをプレゼン……おや?」

「す、すいません! 一ついいですか?」

 まずは彼女から話を持ち掛けている。なるべく目を合わせないように、下を向かせながら聞いていた。

「お客さん。何をお探しでしょうか?」

(や、やっぱり威圧感が……でもここは乗り切るしか!)

 ふと目線を合わせると、やはり威圧感を覚えてしまう。恐れを我慢しながら、本題へと話を振ってくる。

「あの……グロウフラワーって置いてありますか?」

「グロウフラワー……ちょっと待ってくださいね」

 彼自身の反応は良好であり、さらには一旦店へ戻っていた。圧力から解放された彼女は、思わず深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

(頼むからあって! これだけ精神力を削ってんだから!!)

 後はもうあることを切に願うしかない。表情は変わってないが、心境はかなり必死である。だがここまではほぼ順調だった。

「何とか大丈夫そうね」

「この調子ならきっと乗り切れますよ」

「頑張れよ……リズ君」

 遠目からも仲間達は、切実に応援を続けている。女子陣もここまでの掴みには納得をしていた。だがしかし、ここで思わぬ事態が発生してしまう。

「って、銀さん! アレを見てくださいよ!」

「どうした……って、アイツら!?」

「何アルか?」

「う、嘘だろ……」

 男子陣や神楽が発見したのは、屁怒絽と同じ容姿をした集団である。そう彼らは、以前に銀時らとも邂逅した屁怒絽の親族だった。運が悪くも、彼らの視線はリズベットの方に向いている。

「アレ? 兄さんの店にお客さんが来ているよ」

「本当だ。とんがり耳の天人のようだな」

「これまた地球では珍しいな」

「一体どんな花を買うのだろうか?」

「ちょっと気になるねー!」

 左から次郎、三郎、四郎、五郎、チビと次々に声を上げていた。そしてリズベット自身も、彼らの存在に気が付いている。

(ん? えっ……はぁ!?)

 内心では衝撃を抑えきれない様子であった。もちろん仲間達の方でも。

「へ、屁怒絽一家だとぉぉぉ!?」

「おい!? なんでこのタイミングで来てんだよ!?」

「知りませんよ! というか、リズさんが囲まれてしまいましたよ!!」

 特に関わったことのある銀時と新八が、一段と衝撃を受けている。いずれにしても、この新たな危機をリズベットは乗り切らなければいけなかった。

「もう不憫すぎて、見ていられないわよ……」

「本当に大丈夫なのか?」

 見るのも辛くなってきた仲間達だが……本当に辛いのは彼女自身である。

(だ、誰か助けて……今にも襲われそうなんだけど!!)

 リズベットを取り囲む形で、屁怒絽ファミリーが四方八方にも睨みを利かせていた。逃げたくても逃げられない状況が発生している。精神力もすり減る一方であった。そんな想いとはお構いなしに、屁怒絽ファミリーは何気なく話しかけてくる。

「おや、お嬢さん。どの花をお探しで?」

「グ、グロウフラワーを買いに」

「おぉ、珍しい花では無いか」

「誰かに送るのか?」

「は、はい……師匠さんに」

「何とも健気だな。お前も見習うのだぞ」

「って、僕に言わないでよ!」

 なるべく顔は合わさずに、返答も簡素的に済ましていた。この待っている時間が、彼女にとっては地獄でしかない。

(気まずいを通り越して、もう恐怖なんだけど!! お願いだから、早く確認を済ましてって!!)

 我慢はもはや限界に近く、赤裸々な本音を内心で吐き続けていく。びくびくしている様子は、見守っている仲間達にも伝わっている。

「リズがもう泣きそうアルよ」

「あれだけ囲まれたら、動揺しない方が無理ないだろうな」

 銀時だけはまるで他人事のように、ボソッと呟いていたが。

「いやそれよりも、助けに行った方が……」

「いや、待ってくれ。ようやく事態が動いたぞ」

 見ていられずにキリトが助太刀に向かおうとしたが、九兵衛からは止められている。このまま下手に動かない方が良いと、彼女は思っていた。

 すると、店内で探していた屁怒絽が戻ってきている。

「見つかりましたよ……って、兄さん方ではないですか」

「久しぶりだな。時間が空いたから、遊びに来たんだよ」

「これはまたご苦労で。少し待っていてください。お客様の対応が先ですから」

 再会した兄弟達を後回しにして、彼はリズベットとの応対に接していく。

「探し物のグロウフラワーですが、ウチにはご用意していますよ」

「ほ、本当ですか?」

 なんと嬉しいことに、グロウフラワーがこの店に置いてあった。思わず歓喜に震える彼女に対して、屁怒絽一家は余計なお節介を付け加えてくる。

「だったら花束にした方がいいぞ。どうやらこの子は、師匠にプレゼントするらしいぞ」

「ちょ、ちょっと!?」

「健気に感じるし、オマケしてやってくれ。兄さんよ」

(よ、余計なこと言わなくて良いって!!)

 彼らの方から花束を勧めており、思わず度肝を抜かせていた。それを聞いた屁怒絽は、再びリズベットの方を凝視している。

「ほぉーそれは本当でしょうか?」

「……は、はいそうです」

 顔を近づけており、さらなる圧迫感を与えていた。リズベット自身も平常心を保っているのが、もうやっとである。何を言われるか分からない恐怖に晒されていると……間を置いていた屁怒絽が返事をしてきた。

「でしたら、少しお待ちください。只今施してきますので」

「えっ!?」

 特に文句等は言わずに、すんなりと花束の件を受け入れている。垣間見ていた優しさには、内心にて仰天していた。

「良かったな、嬢ちゃん」

「やっぱり言ってみるもんだね!」

「あ、ありがとうね……」

 取り囲んでいた屁怒絽の一族達からも、気持ちが分かち合っている。この一瞬の優しさをきっかけにして、緊張感が少しだけ和らいでいた。

(アレ? もしかしてあの人って、良い人なのかな?)

 いわゆるギャップを感じており、屁怒絽への印象が変わり始めている。それから二分ほど待っていると、彼は綺麗に飾った花束をリズベットへ渡していた。

「出来ましたよ、こちらでいかがでしょうか?」

「あっ、ありがとうございます」

「いやいや、どういたしましてですよ」

 念願の花束を受け取り、ようやく一安心している。探した甲斐があったと自分に言い聞かせていた。

「ちょうどです。毎度ありがとうございました。またの機会もお越しください」

「そ、そうします……」

料金もしっかりと支払って、これで彼女の買い物は終了となる。後はもう仲間達の元へと帰るのみだ。場から逃げ出すような勢いで、店を後にしている。すると、

「あっ、お客さん!」

「は、はい!?」

唐突にも屁怒絽が声をかけてきた。彼女は不意にも振り返ると、そこには彼とその一家が不敵な笑みを浮かべている。だがそれは、決して無粋な気持ちからでは無かった。

「想いが伝わるといいですねぇ……」

「は、はい……!」

 ただの後押しをしたい気持ちから出来ている。リズベットも真意を悟ったのか、勢いを込めて返答をしていた。そしてまた走り出していく。

「実に清々しい嬢ちゃんだったな」

「あの子ならきっと思いは届くよ」

「私も切に願っています……って。アレ? 何かを忘れているような」

 屁怒絽達からの印象は良好であり、純粋な気持ちから密かに応援している。しかし屁怒絽には一つだけ、忘れていることがあった。

 一方のリズベットだが、花束を抱えたまま仲間達の元に戻ってきている。

「キリト~! みんな~! アタシ頑張ったよ~!!」

 プレッシャーから解放された彼女は、思わずキリトへ抱きつこうとしていた。構わずに抱きついてみると……すぐに別人だと察している。

「アレ?」

「おい、急に何抱きついてきてんだ。コノヤロー」

 そう、誤って銀時に抱擁を仕掛けていた。これに気が付いた彼女は、あっさりと態度を一変させている。

「オメェに用はねぇわ!!」

「ブフォ!?」

 理不尽にもビンタを交わしていき、彼を地面に突き落としていく。ただの殴られ損な銀時であった。

「銀さんってば……」

「ってそれよりも、よくやったアルナ! リズ! 屁怒絽の重圧を乗り切るなんて!」

「アタシも信じられないよ……よくやったと思うわ!」

 一方で神楽達は、リズベットの手に入れた花束に話題を向けている。彼女自身でも耐え抜いたことが信じられずに、自分自身にも褒めていた。

 そしてキリトからも、励ましの言葉がかけられていく。

「十分に頑張ったよ、リズは。後は鉄子さんに届けるだけだよな」

「えぇ、もちろん!」

 満面の笑顔で返しており、満足気な気持ちに浸っている。仲間達からの歓喜と共に、内心では屁怒絽への印象についてそっと呟いていた。

(屁怒絽さんも冷静に話せば良い人だったし……でもやっぱり、見た目は苦手かも)

 やはり内面を見てもなお、外見の威圧さには苦手意識を持ってしまう。それでもだいぶ印象が変わっていた。

「いや、誰か俺の心配しろや……」

「キリトさん達も、銀さんの扱いに慣れてきたみたいですね」

「一応主人公だぞ、俺」

 皆がリズベットに注目したおかげで、銀時だけは最後まで声をかけられずじまいだったのだが。そんな彼女達の元に、さらなる脅威が差し迫ってくる。

「あっ、みんな! こっちに屁怒絽が迫ってきているぞ!」

「えっ、嘘でしょ!?」

 なんと屁怒絽が手渡すのを忘れた限定品を持って、こちらへと走り出していたのだ。

「お客様! 忘れ物がありました! HPゲージキャップを受け取ってください!!」

 その形相は威圧さをより高めており、見る者に恐怖を与えている。当然リズベットにはもう我慢の限界が迫っていた。

「いやいや、もう無理だから! アタシにもう休ませてよ!!」

「ちょっとリズ!?」

「おい、置いていくんじゃねぇよ!」

「待ってくださいよ!!」

 一目散に彼女は逃げ出して行き、その跡を仲間達が追いかけていく。さらに屁怒絽が追いかけていき、混沌とした追いかけっこがいつの間にか完成していた。

「お客さん!! どこですか~!!」

「頼むから、もう今日は追いかけてこないで!!」

 

 

 

 

 

 

 それから屁怒絽を撒いていくと、一行は刀鍛冶屋前まで行きついている。その店内では、リズベットが鉄子に念願の花束を贈与していた。

「鉄子さん! アタシからの心ばかりの贈り物よ」

「あ、ありがとう。まさか自分でももらえるなんて思っていなかったよ……大切に飾っておくよ」

「どういたしまして!」

 心温まるプレゼントを受け取り、鉄子もほんのりと笑顔をこぼしている。それを目にしたリズベットも、つられるようにして笑っていた。

 この光景を万事屋や九兵衛たちは、同じく温かい気持ちで見守っている。

「サプライズ成功で良かったアルナ」

「そうだな。つーかよ、花言葉って結局何だったんだ?」

「確か……「鍛冶を頑張るアナタへ」だったと思いますよ」

「そのまんまじゃねぇかよ!」

 花言葉の意味も明らかとなり、思わず銀時からツッコミを入れられていた。いずれにしても、鍛冶屋にはピッタリの花だったらしい。

 とそこに早くもリズベットが戻ってきている。

「お待たせ、みんな!」

「アレ? もう良かったんですか?」

「うん。また鍛冶作業に戻るんだって。今日までに仕上げる依頼品もあるし」

「そんなに忙しいのね」

「でも大丈夫よ! また明日会うから、今度こそゆっくり話すよ」

「フッ、それならいいかもな」

 鉄子の時間の都合から、また明日へ持ち越しになったようだ。それでも彼女は気にせずに、明るく振る舞っている。自身の気持ちを届けられたことに、満足感を覚えていた。

 こうして今回の大仕事は幕を下ろした。

「それじゃ、みんなはこれからどうするの?」

「僕は柳生家に帰るよ。リーファ君もそろそろ来る予定だし」

「じゃ、俺達は買い物でも戻るか」

 見届けていた仲間達もまた、本来の役目へと戻り始めている。このまま平和的な空気で終わると思いきや……

「そうだな……って、あっ!」

「リ、リズ……」

突如として彼らの顔色が一変していた。リズベットを除く七人が困惑めいた表情を見せている。どうやら彼女の後ろに何かがいるみたいだが。

「うん? どうしたの、みんな?」

 それに気が付かないリズベットは、何のことだかさっぱり分かっていない。だがしかし、声を聞いた瞬間にその恐怖は蘇っていた。

「見つけましたよ、お客さん」

「えっ?」

 肩を触られると同時に、おどろおどろしい男性の声が聞こえてくる。正体を勘ぐった彼女が、恐る恐る後ろを振り返ってみると――

「お忘れ物のキャップですよ……」

にこやかに笑う屁怒絽が目に映っていた。忘れ物のキャップを届けに、ここまで追いかけてきたようである。

「ギャァァァァ!!」

 無情にも彼女の叫び声が大きく響き渡っていく。この後にどうなったのかは、想像に難くはないだろう……





裏話
 元々はフリマを舞台に考えていましたが、この前のエギル回で同じようなネタをやったので、あえて差別化をしてみました。こちらの話でも屁泥絽さんは登場予定でした(笑)

 さて、今年も半分を過ぎたので今後の剣魂についてお知らせします。トップページにも書かれている通り、残りの日常回は三回ですが、五十九訓と六十訓は、前後篇に分かれていて、今の予定では恐らく一話分伸びます。なので次回の長篇は、六十二訓を予定にしています。


 そして! 次回頃にその長篇の予告篇をお出し致します。期待してお待ちください!






次回予告
星海坊主「読者の皆さん、こんばんは。俺が誰だか分かるかな? そう、星海坊主だ。久しぶりに神楽ちゃんの様子を見に来たら、娘と同じチャイナ服を青髪の天人が着ているだと!? 俺が留守している間に、一体何が起きたんだ!?」
銀時「次回、たまにはイメチェンも必要だ」
星海坊主「おい、銀髪! さっさと説明しろ!!」
銀時「って、オメェが主役じゃねぇよ。次の回は」
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