剣魂    作:トライアル

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 お待たせしました! 残る日常回も後僅か。今回は滅多に無い衣装交換回をお送り致します。誰が該当するのでしょうか……? 


第五十八訓 たまにはイメチェンも必要だ

 時期は前回より進んで九月の中旬頃。ちょうど正午を迎えていた時に、万事屋銀ちゃんでは一人の女性が訪問へやって来ている

「ちょっと、銀時はいるかい? 家賃の件で話があるんだが」

 玄関前にて銀時を呼ぶのは、万事屋の大家であるお登勢だった。どうやら家賃のことで、相談をしたいようだが。

 雲一つない快晴の下で、彼を待ち続けること早三分。一向に現れる気配はなかった。

「また居留守かい。キリト達が来ても懲りないもんだねぇ……」

 徐々にイライラを募らせており、不機嫌な表情に変わってしまう。長年の勘から居留守だと決めつけている。とそんな時――ようやく目の前の戸が開いていた。

「やっとご登場かい。おい銀髪、何故反応しなかった!?」

 反射的にも彼女は、恐ろしい形相で差し迫っていく。てっきり銀時だと思い込んでいたが……

「お、お登勢さん?」

「えっ? なんだアンタの方かい」

残念ながら出てきたのはキリトである。彼の驚嘆とした表情を見ると、お登勢も落ち着きを取り戻していく。

 そして改めてキリトの容姿を見ると、その変貌ぶりに目を疑っている。

「ん? その服はどうしたんだい? まんま銀時と同じ着物じゃないか」

「あぁ、これか。実は今日一日借りることにしたんだよ。この服でこれから、アスナやユイと散歩に出かけるんだよな」

「そりゃまた、変わったことをやるねぇ」

 彼が着ているのは銀時の着物であり、一時的に本人から借りた様子であった。さらにこの格好で、散歩に向かうらしい。

 そう言った直後に、アスナやユイも玄関先に集まって来ていた。

「キリト君! お待たせ!」

「神楽さんからの手直し、終わりましたよ!」

「って、アンタらも着込んでいるのかい」

 もちろん彼女達の衣装も、万事屋メンバーを踏襲している。アスナは神楽のチャイナ服、ユイは新八の幼少期の袴を着こなしていた。

 印象を一新させる衣装姿には、お登勢も僅かに衝撃を受けている。

「アレ、お登勢さんもいるの?」

「こんにちはです! もしかして、銀時さんに用事ですか?」

「まぁ、そうだね。アイツはここにいるのかい」

「もちろん。呼べばすぐに来ると思うよ」

 挨拶や軽い会話を交わすと、彼らは早速出発しようとした。

「それでは、お登勢さん。私達は散歩に出かけてきますね」

「あぁ、そうかい。気を付けて行ってきな」

「もちろん。夕方には戻ってくるわよ!」

「それじゃ、銀さんには優しくな!」

 彼女にもしっかりと言葉をかけてから、三人は階段を下っている。銀時達とは異なる真面目な雰囲気に、お登勢もそっと彼らのことを見守っていた。

「ヤレヤレ……変わった万事屋が出来たもんだねぇ」

 小さい微笑みを浮かべて、満更でもない気持ちを呟いている。

 そんな優しさに触れていた時、それとは真逆の方々がようやく現れていた。

「アレ、お登勢さんが来ていますよ」

「マジかよ。おい、ババア。いつの間に来ていたんだよ」

 随分と間を空けて、呼び続けていた銀時らが姿を見せている。余韻を壊すような一言には、お登勢も一瞬にして態度を変えていた。

「アンタはすぐに来んかい! こっちはさっきから呼んでいたんだよ!!」

「急に大声で怒鳴るな。ていうか、呼びかけるなら今の声量で十分だろうが!」

 先ほどのキリトの助言も虚しく、早速二人は言い合いを始めてしまう。表情でも怒りを滲ませており、数秒前とはまるで異なっている。普段の二人の姿勢であった。と一喝したところで、お登勢はあの件について銀時に聞き出している。

「それはそうと、キリトらはどうしたんだい? 急にアンタらの格好をしてさ」

「あぁ、それには深い訳がアルネ」

「深い訳?」

 どうやらキリト達の衣装変更には、並々ならぬ事情があるようだ。銀時らは数時間前の出来事を思い出している……。

 

 

 

 

 

 

 時は遡ること一時間前。この日の万事屋は、以前に提案があった衣装変更を実行している。きっかけはリーファとあやめであり、彼女達の衣装交換に感化されたアスナが仲間達に嘆願していた。キリトやユイも興味を持っていた為、事前準備を通して今に至っている。

 場面は着替えが終わり、キリト達がオリジナルの決め台詞を披露するところから始まる。

「万事屋一の辛党! ゲーム攻略なら俺に任せろ! 万事屋のニューリーダー、キリト!」

「女子陣の華麗なリーダー! キリト君を支える頼もしい彼女! 万事屋の副隊長はこの私、アスナよ!!」

「頭脳勝負なら任せてください! パパにママ、みんなを助ける為に精一杯頑張ります! 万事屋の新ツッコミ担当、ユイです!」

「「「三人揃って、万事屋キリちゃん!!」」」

キリト、アスナ、ユイ共に、一貫してノリノリな姿勢を見せていた。雰囲気も多少なり掴んでおり、仲間達からも賞賛の声が上がっている。

「うむ、流石だな。アピールポイントを堂々と見せてこそ、万事屋の名にふさわしいからな」

「みんな似合っているネ! 私の目から見ても上出来アルよ!」

「いや、アンタらはどうして上から目線なんだよ」

 褒めてはいるが妙に鼻のつく言い方で接する銀時と神楽。二人に対して新八は、さり気の無いツッコミを入れていた。

 ここからは個人ごとに、着替えた衣装の全体像を言い合っている。

「どうだキリト。俺の一張羅を着てみて」

「うん、思ったよりも着やすいよ。着物にしては通気性も抜群だし、意外と水色の柄もかっこいいと感じるよ」

「それは良かったな。だが一応言っておくと、それは着物じゃねぇぞ。ズンボラ星人の学校指定ジャージだからな」

「えっ!? この衣装、ジャージだったのか!?」

 あっさりと明かされた銀時の普段着の秘密に、キリトはつい耳を疑ってしまった。そんな彼が着こなすズンボラ星人のジャージは、普段とは違った印象を引き出している。

 滅多に着ない和服に加えて、自身のイメージカラーとは反する白い着物は、見る者に新鮮味を与えていた。サイズはブカブカだが、それでもイメチェンにしては成功しているだろう。ちなみにお馴染みの長剣は、変更後もちゃんと背中に装備している。

「やっぱりアッスーにはドレスタイプが似合うアルナ。一段と大人っぽく見えるアルよ!」

「もう~神楽ちゃんってば褒めすぎよ! 照れちゃうじゃないの~!」

「そんなことないネ! この服装だとまるで……そう! 童貞殺しにぴったりネ!」

「って、もっと別の言い方は無かったの……?」

 神楽の言い放った直球的な例えに、アスナもつい言葉を詰まらせていた。それくらい彼女の大人っぽい魅力を感じ取ったのだろう。

 アスナが着用しているチャイナ服は、神楽の所持する中でも露出度の高いドレスタイプである。肩出しのノースリーブや前垂れから伸びる脚線美は、見る者に色っぽい印象を与えていた。これには神楽自身も、羨望の眼差しで彼女を見つめている。

「そして私が、新八さんの袴姿です!」

「うん、とっても似合っているよ。まるで寺子屋の秀才児みたいだね」

「本当ですか!? これで私も、新八さんと同じくツッコミ王になれるのですね!」

「そんなことはないと思うよ……」

 ツッコミの方に興味を示すユイの無邪気さに、新八もそっと宥めていく。彼女は珍しくも、新八が幼少期に着ていた袴を着飾っていた。流石に眼鏡は装備していないが、新八の言った通りに頭脳明晰な印象は持ち合わせている。茶目っ気のある性格が子供らしさを引き立たせていた。

 いずれにしても服装を上手に着こなし、万事屋へなりきる三人。全員がこの衣装変更にご満悦な様子である。

「よし、キリト! 俺の仕草も真似しとけよ。まずは鼻をほじるところから」

「って、人前で出来るか!」

「ちょっと! キリト君になんてこと、教えているのよ!!」

「銀ちゃん! それはダメアルよ! 私だってアッスーに、鼻ホジやゲロの吐き方を教えるのはためらっているのに!」

「いや神楽ちゃんも、十分に失礼なこと言っているよ!」

「これがツッコミの醍醐味……勉強になります!」

「ユイちゃんは何に影響されているの!?」

 いつもの賑やかな雰囲気のまま、しばらくは六人の談笑が続けられていた。

 

 

 

 

 

「――ということがあったんだよ」

「いや、ただの反応集じゃねぇか。こんなに尺を取る必要あったのかい?」

 説明を聞き続けたものの、その大半は着用後の様子のみである。回りくどさには、お登勢からも指摘が飛んでいた。

 この衣装変更を一言でまとめると、些細な好奇心から瞬く間に成立したようである。

「けどまぁ、たまにはこういう気分転換も良いんじゃねぇのか。アイツらも楽しそうだったしよ」

「そうですね。今日はキリトさん達だけの時間を、過ごしてほしいですよ」

「あの三人もある意味、家族アルからナ!」

 快く協力した万事屋一行も、みな満足そうな気持ちに浸っていた。空気を読んで今回は、三人だけの時間を優先にしている。さり気ない気遣いを見せていた。

 もちろんお登勢もその想いに同情したが、彼女の本題は衣装変更ではない。

「家族ねぇ……事情は分かったよ。それはそうと、銀時ィ。今月の家賃分がまだ支払われていないんだが?」

 すかさず彼女は、払っていない家賃の催促を口にした。意地でも目線を合わせようとするが、それに万事屋の反応では、

「さぁ、俺達も家族の時間を過ごすか! ステイホームをするぞ!」

「そうアルナ! アニメ映画でも見て、暇な時間を過ごすネ!」

「一緒に見ましょうよ」

思いっきり現実逃避をしている。

「おい、無視してんじゃねぇ! ステイホームと括って、誤魔化すなよ!!」

「仕方ねぇだろ! 家賃のことはもうアスナに任せているから! アイツが帰ってきた時によろしく!」

「しばらく見ねぇうちに、もっと自堕落になったな! この天然パーマめ!!」

 仕舞いには家計簿を握るアスナへと丸投げをしてしまう。お登勢の怒りもとどまることを知らなかった。

 その後苦心の末に折り合いを付けて、万事屋は事なきを得たという。

 

 

 

 

 

 一方でこちらは、かぶき町をゆったりと歩くキリト、アスナ、ユイの三人。暖かな陽の光を浴び、久しぶりの三人だけの時間を満喫していた。

「ふぅー。今日は一段と天気が良いですね! 絶好のお散歩日和です!」

「そうだな。秋が近づいている感じがするよな」

「秋か……もう季節が変わっちゃうのね」

 恵まれた天気の下で、彼らは秋らしい空気や時間の流れを感じ取っている。気が付けばこの世界へ来てから約二ヶ月。季節の変わり目に立ち会うのは、これが初めてであった。

 和やかな雰囲気で歩き続けていると、再び着替えた服装について話題にしている。

「それにしても、キリト君が銀さんの服を着ると、印象がだいぶ違うわね。白い着物のせいかしら?」

「それもあるかな。でも印象だったら二人も変わっているよ。アスナは大人っぽいし、ユイは賢くてツッコミが上手く見えるし」

「そうですか? それなら嬉しいですよ!」

 互いに印象や似合っている点を言い合い、総じて良き評価を伝えていた。本家の万事屋とは違った、温かい家族の光景がそこにはある。

 しかし彼らはまだ気が付いていない。後ろからこっそりと覗く、怪しい気な男の存在に。

「やっぱり、アイツらだな……」

 

 

 

 

 

 そこから彼らは、特に目的地を決めずにかぶき町を歩き続けている。するとユイは、あることに気が付いていた。

「そういえば、全然知り合いに会いませんね」

「平日だから、みんな忙しいのかもな」

「それじゃ、吉原に行きましょうよ! この格好で、みんなを驚かせましょう!」

「あっ。それは良いかもな!」

 特に見知ったかと遭遇しないためか、自分達から出向くと決めている。目的地を吉原に定めて、まずは女子陣との再会を視野に入れていた。

 その直後である。

「おーい! 万事屋の皆さん!!」

「ん? 誰だ?」

 突如として、万事屋を呼ぶ女性の声が聞こえてきた。三人が辺りを見渡すと、車道から一台のワゴン車が急に止まる。その窓ガラス越しからは、一人の女性が話しかけてきた。

「久しぶり……って、アレ? 新八君達じゃない?」

 威勢よく振る舞ったのは良いが、知り合いの万事屋とは違い、彼女は戸惑いの表情を浮かべている。

 一方のキリト達だが、女性の顔にどこか既視感を思い浮かべていた。

「この人、どこかで見たことあるような……」

「あっ、あの子よ! 新八君が好きなアイドルの……えっと」

「お通さんですよ!」

「あぁ、あの子か……って、えっ!? 万事屋のことを知っているのか!?」

 そう彼女の正体は、新八の応援しているアイドルの寺門通である。以前にも見かけたポスターと同じく、紫色のサイドテールや黄色い振袖、何よりも眩しい笑顔が特徴的な女性であった。

 いわゆる銀魂世界の有名人と会った三人だが、特に衝撃を受けたのは彼女と万事屋との繋がりである。すると咄嗟に、お通が返答してきた。

「うん。もちろん知っているよ! 万事屋さんとは何度も手助けさせてもらったし、依頼もたまにする仲だもの」

「そ、そうなの……」

 意外な場面で明かされた関係性。これにキリト達は何も言えず反応に困っている。万事屋の顔の広さを、改めて思い知っていた。

 そしてお通も、万事屋の格好をしている彼らに興味を持っている。

「それはそうと、君達も万事屋のことを知っているの? 服装もだいぶ似ているし」

「あの……これには深い事情がありまして」

「深い事情?」

 不思議そうに聞かれると、一行は手短に万事屋へ加入した経緯を説明していた。

「えぇぇぇ!! 万事屋の新メンバー!? 初耳だよ!」

 話を聞いたお通は、純朴にも驚嘆とした反応を見せている。目を丸くして、改めて彼らをじっくりと眺めていた。

「もうかれこれ、二か月はお世話になっているものね」

「そんなに過ごしているの!?」

「最初は不便なことが多かったけど、だいぶ慣れてきた感じかな」

 自身が知らない間に起こっていた万事屋の変化。未だに信じがたいが、徐々に状況を飲み込んでいく。今一度深呼吸を交わすと、表情を微笑ませて話を再開させた。

「そうなんだ……でも万事屋さんって、結構頼りになるよね。キリト君やアスナさん、ユイちゃんも、助けられたことって多いんじゃない?」

「そうだな……いっつも頼りにさせてもらっているよ」

「三人共、本当に優しい人達だから」

「おかげで、毎日が楽しいですから!」

「フフ。良かった……」

 万事屋が持つ優しさを挙げて、その想いを互いに共感している。三人の温かい返答には、お通もついクスッと笑っていた。新メンバーが増えても、万事屋らしさに変わりがないのは一安心している。

 一方のキリト達も、お通の気さくな優しさに好感を持っていた。

「お通さんも、凄く温厚な方ですね」

「新八が応援しているのも、分かる気がするな」

「ファンサービスも欠かさない子なのね」

 このまま平和的な空気で終わると思いきや……彼女の意外な一面が最後に露わとなっていた。

「あっ、もう時間かな! じゃお礼として、新八君にこのCDを渡してもらえる?」

「CD?」

 新八への贈り物として、お通はCDアルバムを彼らに手渡している。そこに書かれていたのは、何とも意味深なタイトルであった。

「寺門通の新アルバム! 「お前の兄ちゃん、ニートのくせに現実逃避で仮想世界へ!」をプレゼントするね!」

((タイトルの癖が強すぎる!?))

 キリトやアスナも、思わず内心でツッコミを入れる始末である。一癖も二癖もあるお通のタイトルや歌詞センスに、反応を困らせていた。

「それじゃ、またね!」

 彼らの心境に気付くこと無く、お通を乗せた車は再び走り始めている。場に残された三人だが、彼女がいなくなった途端に思ったことを呟いていた。

「随分と奇抜なタイトルですね」

「ユイちゃん……深読みしちゃ、ダメな気がするけど」

「なんだろう……少しだけ心にグサッとする気がする」

 理由は特に無いが、心理的なダメージを二人は感じている。ユイは深読みせずに、ただ分からないままだったが。

 お通との初めての出会いは、一段と印象深い出来事であった。

 そんな彼らの様子を、未だに覗いている男がいる。キリト達が移動すると共に、彼もその跡を追いかけていった。

 

 

 

 

 

 

 場面は変わって、こちらは地下都市である吉原。シリカら女子陣に会いに来たキリト達は、彼女達の下宿先のひのやを訪れていた。だがしかし、

「えっ!? シリカさん達、ここにいないんですか?」

「そうなのよ。みんな揃って、月詠の知り合いと一緒に特訓しているのよ。恐らくだけど、近くの広場で戦っているはずよ」

ちょうど彼女達は別の場所にいるという。日輪の話によると、月詠の知り合いと共に特訓へ付き合っていると言うが。

「みんなで特訓か……」

「ちょっと見に行きましょうか」

 ちょうど近場にいる為、三人は日輪の教えてくれた広場へと足を進めている。

あっと言う間に辿り着くと、そこでは彼らの度肝を抜く戦闘が取り行われていた。

「あっ、アレじゃないですか!」

「えっ? 本当にみんななのか?」

 その広場では女子達が総出で、長刀を持つ一人の女性に立ち向かっている。羽を使って空中から攻撃を仕掛ける者もいれば、接近戦で技を繰り出す者までいた。

「はぁぁぁ!」

「せい!!」

「ふっ、甘いわね」

 女性にとっては多勢に無勢なのだが、瞬時に攻撃をかわしたり跳ね返したりと臨機応変に対応している。人数差があるにも関わらず、無表情のまま互角に戦っていた。シリカ達が相手にしているのは、白い隊士服を着た若めの女性である。赤く薄い目つきと、背中まである長い藍色の髪が特徴的だった。腰元にはショートパンツ、足元には青いニーハイと白いブーツを履いている。全体的にしなやかな印象だが、それとは裏腹に戦闘には容赦のない本気を見せつけていた。

「えっ、速い!?」

「こんなものかしら? 妖精の力って」

「いや、まだまだよ!!」

 中々行動を読み取れずに、苦戦を強いられる女子四人。がむしゃらに立ち向かうも、劣勢を覆すには困難を極めている。

 激しい戦いを続けている女子達の光景に、キリト達も思わず息を呑んでいた。

「す、凄いです……」

「リズ達を軽くあしらうなんて……」

「あの人は一体何者なんだ?」

 思ったことを声に出していたその時――同じく戦いを眺めていた彼女の仲間が、近づき話しかけてくる。

「彼女の名は今井信女。我が見廻組の大切な副長です。しっかりと覚えておいてくださいね」

「えっ、誰!?」

 声をかけてきたのは、ひたすらに折り畳み式の携帯電話を打ち続ける渋めの男性だった。服装は女性と同じく白い隊士服で、髪の色は白寄りのグレー。右目にモノクルをかけており、全体の風貌はやけに物静かである。表情も一斉動いておらず、 感情の起伏すら読みにくい。そんな彼だが、自らが申した通りに見廻組の関係者であった。

「おや、分からないですか? 私の名前は佐々木異三郎。見廻組の局長をやっています超エリートな警察ですよ。以後お見知りおきを」

「は、はぁ……」

 キリト達とは話しかけているものの、彼はずっと携帯電話の画面を見続けている。相手に無頓着でマイペースな様子から、キリト達の調子もつい崩れてしまう。

「また変わった人が出てきましたね。警察と言うと、真選組の仲間でしょうか?」

「そうね……それに見廻組って、京都で活躍したあの人達かしら? 聞いたことしかないけど……」

 アスナだけは彼らの元ネタを思いだそうとしている。

 情報をまとめると、白い隊士服を着た正体はもう一つの警察組織である見廻組。男性側は局長の佐々木異三郎。女性側は副長の今井信女と言う。どちらも癖のありそうな方々である。

 一方でキリトは、異三郎の声に違和感を覚えていた。

「まさかこの声って……」

「どうしたの、キリト君?」

「いや、佐々木さんって菊岡さんに似てないか? 微妙に声色とか」

「そう言われると……似てなくもない気が」

「確かに理解できます……」

 仲間達も皆微妙に共感したのは、異三郎と菊岡の声色である。後者はキリト達の知り合いであり、普段は政府にて仕事をしている。両者とも雰囲気はまるで違うが、その声色は似ているとキリトは密かに感じている。

「おや、どうかしましたか?」

「いや、何でもないですよ。少し声が知り合いと似ていて……」

「へぇー、それは偶然ですね。是非ともメル友になりたいものです。互いに仕事の愚痴とか言い合いたいですね」

 異三郎の声を聞けば聞くほど、菊岡の声も頭の中をよぎってしまう。やはり違和感を覚えるのも、無理はないかもしれない。

「やっぱり似ていますよね」

「声色だけじゃなくて、公務員なのも共通点よね」

「まさかこの世界の菊岡さんが、あの佐々木さんなのか?」

 仕舞いには互いの共通点まで探り、勝手な憶測まで始めてしまう。佐々木異三郎と菊岡誠二郎。似て非なる者に彼らは遭遇したのかもしれない。

 とそれはさておき、女子達の戦闘に戻ると残念ながら制限時間が来てしまう。

〈ピー!!〉

「終了よ。みんな集まってちょうだい」

 事前に用意したストップウォッチが鳴り響き、信女は戦闘の終了を宣言する。戦闘を交わした女子達を集めていき、全員の総評を語っていた。

「まぁまぁってところかしらね。全員瞬発力には優れているけど、いざという時の切り返しが弱い気がするわ。武器の扱いも存分に出来ていないから、戦略の幅を広げるところから始めた方がいいわね」

「「「「はい!!」」」」

 信女もまた無表情のままで、感じたことを発している。的確なアドバイスも加えて、根本にある優しさを見せていた。シリカ達女子陣も、この言葉を受け止めている。

「強いだけじゃなく、全員の行動まで把握していたのか」

「洞察力も凄いわね。それに落ち着いていて、大人な女性よね」

「まさにクールビューティ―っぽいです!」

 キリト達も信女の指導力にはつい脱帽していた。冷静な佇まいから、生真面目な女性だと見直していたその矢先である。

「信女さん、終わりましたか。差し入れにドーナツを用意したので、是非こちらへ来てください」

「ドーナツ……!」

 用意されたドーナツを聞きつけて、咄嗟に彼女の態度が一変していた。椅子に置かれたドーナツ入りの袋に目を付けて、吸い寄せられるように走り出す。そして袋を勢いよく掴むと、中身を異様に凝視していく。

「ポンデリング……ポンデリングは!?」

「慌てないでください、奥底に入っていますよ。後二個までにしてくださいね」

「分かった」

 一瞬だが彼女は、ドーナツ(特にポンデリング)に執着する一面を見せている。先程までの冷静さとは、まるで異なっていた。

「びっ、びっくりした……」

「信女さんは、とってもドーナツが好きなんですね」

「個性も真選組と負けず劣らずだな」

 キリト達もその変わり様に、つい不意を突かれてしまう。やはり一癖もあるキャラだと理解している。

 そうずっと様子を見守っていた彼らの元に、ようやく仲間達も気付き始めていた。

「アレ? キリトにアスナ? ユイちゃんまで?」

「えっ!? いつの間に来ていたんですか、三人共!」

「それにその格好って……」

「あぁ。みんなが特訓しているって聞いたから、見に来たんだよ。それとこの衣装は、銀さん達から借りてきたんだよな」

「へぇ~。万事屋版の格好も中々似合うんじゃない?」

 突然の再会のみならず、万事屋の服装にも驚きを受けている。思った通りの反応に、三人もつい微笑みを浮かべていた。

「それに、銀時さんの着物姿もお似合いですよ!」

「むしろお兄ちゃんが、万事屋の社長で良いのかもね!」

「えっ、そうか?」

「そうだって! 銀さんなんて自堕落の塊だから、絶対キリトの方が良いって!」

 女子達からも大変好評であり、遂には銀時本人とも比べられてしまう。何の些細もない一言だが――実は銀時本人にも影響している。

 

「ブアックション!」

「銀さん、どうしたんですか?」

「この時期にくしゃみはデリケートアルよ! さっさと洗ってくるネ!」

「二次元なんだから別にいいだろうが。絶対誰か、俺の噂してんだろ……」

 万事屋では激しいくしゃみが繰り出されていた。

 

「アスナやユイも似合っているわよ。まるで本当の万事屋みたいね」

「ありがとうね、シノノン!」

「眼鏡さえあれば、後は完璧ですから!」

 その後も良き感想が飛び交い、キリト達のテンションもより舞い上がっていた。とそこに、異三郎や信女がようやく顔を向けてくる。

「騒がしいですね……って、ん? 何でアナタ方は、万事屋の格好をしているのですか?」

「佐々木さん!? 今気づいたのか?」

「本当だ、万事屋にそっくり。如何にも毒が無さそうな人達ね」

「何か遠回しに指摘されているような……」

 メールやドーナツに夢中だった二人は、今頃になって彼らの服装に気が付いていた。こうして再会を果たした一行だったが……やはり遠くから覗く者はまだいる。

(あの子らは、アイツらの同族か? 増々気になるな……)

 気配を隠して尾行を続けている彼の正体とは?

(えっ? 誰か覗いている?)




 正解はキリアスユイの万事屋衣装でした。たまにはこういう緩い感じで書くのも良きですねー。
 それと一つお知らせがございます。今回の話、話数が伸びました。一話分に収まりきらないので、前後篇に分けてお送りします。と言う事は……予告で出た星海坊主も次回に見送ります。






次回予告
星海「おい、どういうことだ! 俺の出番がほぼ無かったじゃねぇか! 予告で出てきた意味は!?」
銀時「仕方ないだろ。構成に変更があったんだから。その代わり、次回はお前視点から始めるってよ」
星海「本当なんだな!? 信じていいんだな!?」
銀時「なんでそこまで、テメェは疑うんだよ!!」
星海「次回! 気配を消せる奴の大半は無意識!」
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