剣魂    作:トライアル

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 銀魂を見返していて思ったんですけど、神楽って手紙書く時は敬語なんですね。




第五十九訓 気配を消せる奴の大半は無意識

 とある星にある小さな星間連絡所。星々を繋ぐ港のような役割を持つこの場所に、一人の男が地球行きの船が到着するのを待っていた。

「ふぅー。いよいよ地球に行けるな。神楽ちゃんにも、ようやくこれを渡せる!」

 穏やかに微笑みを浮かべる彼の名は、第一級危険生物の駆除を請け負う星海坊主である。古びたマントを羽織り、中華服に似た服を身にまとっていた。口元にはちょび髭を生やしており、髪型は……残念ながら毛根が死滅している。故に帽子で頭を隠しているのだ。

 そんな彼だが、実は神楽の父親でもある。仕事の関係で会う機会は少ないが、手紙を通して関係を今なお築いていた。今回もあえて連絡はせずに、地球へと向かう予定である。

 船を待つ傍らで彼は、神楽からの手紙を読み始めていく。

『拝啓 お父さん。そっちは元気でしょうか? 毛根はとっくに死滅していますよね。こっちは相変わらず元気です。銀ちゃんをしごいたり、新八の眼鏡をいじめたりと、楽しく過ごしています』

「ふっ、相変わらずだな。神楽ちゃんは……」

 手紙からも伝わる元気そうな様子に、クスッと笑みをこぼしていた。その後も読み進めていると、気になる文章を見つけ出している。

『それと大切な話があります』

「大切な話? 一体なんだ?」

 そこに書かれていたのは……

『この度万事屋に、家族が増えましたー!!』

「はぁ!?」

理解しがたい一文だった。思わず裏返った声が飛び出してしまう。

『写真を送ったので見てください。左からキリ、アッスー、ユイって言います。詳しいことはまた会った時に話しましょう。神楽より』

 さらには写真まで添付している根回しの良さである。入っていた写真に写っていたのは、いつもの万事屋メンバーに加えて、三人の若い男女だった。とんがった耳を持つ黒髪の男子と、同じくとんがった耳の青髪ロングの少女。そして白いワンピースを着た普通の幼い少女である。

 名前まで記載されているが、いまいち理解が追いついていない。何よりも万事屋に新しい仲間が追加された事実に、衝撃を受け続けている。

「ウオォォォ!! どういうことだぁぁぁ!?」

 彼の無常なる叫びが辺り一帯に響き渡っていく。この状況を理解するのは、もはや無謀に近いだろう。

 こうして星海坊主にもキリト達の存在が認知されたが……そう簡単には受け入れられていなかった。

 

 

 

 

 

 

「お父さんは聞いていませんよ!! 万事屋が増えたとはどういうことだ!? まさかあの若僧共と暮らしているということかー!?」

 地球へ着くや否や、収まりきらない嘆きを叫び続けている。日傘をさしながら、彼は一目散にターミナルからかぶき町へと足を進めていた。

 唐突にも訪れた万事屋の一報。神楽の父親として、心配が無尽蔵に湧き出てくる。

(俺の知らない内に何が起きたんだ!? あの童顔男は……まさか神楽の恋人か!? あの青髪女は……まさか神楽の恋人か!? あの女の子は……まさか神楽の子供か!?)

 いや、そんな訳がないだろう。星海坊主の心の中では、あらぬ妄想が頭の中を網羅してしまう。キリトとイチャイチャをする神楽の図。アスナとイチャイチャをする神楽の図。神楽をマミー呼ばわりするユイの図。傍から見ればツッコミどころが満載だが、彼は至って真剣である。

 

 一方で現在の神楽はと言うと、

「ブアックション!」

「どうしたんだよ、神楽? まさか風邪でも引いたのか?」

「いいや、違うネ。急に悪寒を感じたアル。勝手に勘違いをされているような気がしたネ」

「そりゃ、また。沖田さんとかが風潮しているのかな?」

「絶対そうネ! あの腹黒、許さんアル!!」

間接的な影響からかくしゃみをしていた。彼女は沖田だと決めつけていたが、まったくの的外れである。星海坊主が近づいていることにも、一斉気が付いていない。

 

「とりあえず万事屋だ! 神楽ちゃんに聞けば分かるはず! あの三人の正体が……!」

 そして彼は、着々と万事屋へと近づいていく。キリト達の正体を知るべく、躍起となっている。表情でも思わず力んでいた。

 彼はふと立ち止まり、辺りを見渡していると……

「ん!? アイツらは……?」

そこには万事屋の格好をした三人組を見つけている。しかも写真の人物と同じく、キリト、アスナ、ユイの三人であった。

「新万事屋メンバーだと? なんで格好が違うんだ……!?」

 しかもキリト達は、奇遇にも衣装変更した直後である。銀時の格好をしたキリト、新八の格好をしたユイ、神楽の格好をしたアスナ。事情は本人達にしか分からないが、星海坊主にとってはさらなる困難を招いていた。

「何故神楽ちゃんがいない……!? あの若僧共との間に何があったんだ?」

 訳も分からずに、またも勝手な憶測を始めてしまう。動向が気になってしまい、彼はこっそりと尾行を始めることにした。隙があれば話しかけようとも試みている。

「うん?」

「どうした、アスナ?」

「いや、視線を感じたんだけど……多分気のせいね」

「視線ですか?」

「特に無いと思うけどな……」

 キリト達も特に気にする様子はなく、また歩み始めていた。跡を追いかけるように、星海坊主の尾行も進められていく。

(あの三人……万事屋を乗っ取ったのか!?)

 いや、そんな訳がないだろう。

 

 

 

 

 

 

 それから彼は適宜話を盗み聞きしながら、キリト達に関する情報を集めている。彼らが寺門通と偶然会った時も、見廻組と対面した時もこっそり話を聞いていた。その度に新しい衝撃を受け止めている。

 把握出来たのは、三人が長い間万事屋の世話になっていること。銀時や神楽達とも関係が良好なこと。彼らと同じような風貌の仲間が多数いること。

 この短時間の間に、十分すぎる情報を習得していた。

「あの三人、増々気になるな。万事屋を尊敬しているみたいだが……」

 数時間前よりかは落ち着いたものの、やはり信じがたいことばかりである。何よりも慎重に徹している為、話しかける機会も見つからない。

「ドーナツもご馳走になっちゃいましたね」

「佐々木さんに信女さんか……また知り合いが増えたわね」

「この格好だと、やっぱり間違えられるのかもな。傍から見れば、偽者の万事屋みたいだし」

「確かにそうですね!」

 一方でキリト達は、彼の尾行に気付くこと無く、かぶき町へと戻っている。偶然にも出会ったお通や見廻組を振り返りながら、談笑を続けていた。

 そうまったりとした雰囲気でも、尾行する星海坊主の姿勢は変わっていない。しかし捉え方には変化が起きている。

「やっぱりただの新メンバーなのか? 特に怪しげな様子も無いし」

 抱いていた無粋な考えが、次第に和らいでいた。そう思った矢先である。

「そういえば話は変わるけど、今日は神楽と一緒に寝るのか?」

「そう! たまにはってことで、ユイちゃんと一緒の三人で添い寝するのよ!」

(そ、添い寝!?)

 またも誤解を与えそうな会話が聞こえてきた。どうやらキリト達は、今晩の寝床事情について話題を弾ませている。

「女子同士のパジャマ回だから、キリト君や銀さんは入室禁止よ!」

「分かっているよ。それで一体何をするんだ?」

「もちろん、おしゃべりが中心ですよ! 眠くなるまで、楽しく駄弁るんです!」

「その後は、二人をぎゅっと抱きしめて夢の世界へ――」

 珍しくも女子陣のみで寝るらしく、アスナは赤裸々に添い寝した時の妄想を膨らませていた。決してやましい気持ちからではないが、星海坊主にとっては我慢の限界だったようで……

「いけませんんん!!」

思いっきり表舞台に飛び出してしまった。

「えっ?」

「誰?」

 当然キリト達にとっては、見知らぬ男性の登場に理解していない。

「おい、貴様ら! 俺の可愛い娘に百合を覚えさせようとは、なんとけしからん!! 女子同士のイチャイチャは認めませんからね!!」

 にも拘わらず星海坊主は、そのまんま言いたいことをぶつけてしまう。突然の登場、突然の指摘に、増々理解が追い付かない。

「だ、誰ですか? この人……?」

「ちょっと待って……さっきから感じていた視線って、アナタなの?」

「ずっと俺達をつけていたのか?」

 しかしアスナだけは、薄っすらと感じていた視線を彼と照らし合わせている。尾行だとも思い込んだ彼らは、僅かながらに敵意を向け始めていた。

(えっ、待って? なんで俺が悪者的な空気になっているの!? まさかお父さんだって、伝わっていない!?)

 微妙な空気感を察した星海坊主は、内心にて戸惑いを感じている。娘と言ったつもりだが、意味は伝わっていない様子であった。

 その証拠に、キリトとアスナの目つきは一段と鋭くなっている。

「アンタ、一体何者だ!?」

「なんで私達をつけていたのよ!?」

(完全に不審者扱いされている!? しかも剣を抜く構えだぞ!? 戦う気満々じゃねぇかよ!?)

 彼の思った通り、どうやら不審者と間違われていたようだ。共に所持している剣の持ち手に手をかけ、戦闘準備を施している。ユイを後ろに隠れさせるなど、行動にも抜かりが無い。

「お、落ち着け! 俺は神楽の父親だ! だから気になって、尾行していたんだ!」

「神楽ちゃんのお父さん……?」

「本当か……?」

(いや、疑いすぎだろ! どんだけ信用ないんだよ!)

 疑われている雰囲気を打破しようと、正直に正体を明かす星海坊主。だがしかし、彼らが簡単に信じ込むことは無かった。より目つきも鋭く研ぎ澄まされてしまう。

 いつの間にか窮地に追いやられてしまった彼の元に……予想外の救世主が通りかかっていく。

「おや、何やってんだ。お前達」

「あっ、近藤さんですか!」

「真選組の局長!?」

 彼らの間に割って来たのは、パトロール途中の近藤勲である。キリト達のみならず、星海坊主とも顔見知りの男性だった。一段と陽気に振る舞う彼の登場により、場の緊張感は良くも悪くも緩和されていく。

「おっ! 今日は衣装交換しているのか! 万事屋の格好をして、面白いことでもしているのか?」

「いや、普通の散歩なんだが」

「そうか。って、星海坊主さんもいるのか!? どんな組み合わせだ!?」

 衣装を変更した彼らと接した直後に、星海坊主の存在にも気が付いている。珍しい組み合わせに、近藤は思わず目を丸くしていた。

「えっ? 近藤さんはこの方を知っているんですか?」

「おうよ。この人は宇宙の危険生物を駆除する、有名な掃除屋だよ! しかも! 神楽ちゃんのお父さんなんだよ!」

「「えっ!?」」

 さらにはあっさりと、彼の正体について明かしている。星海坊主の言った通りに、神楽の父親だと快く話していた。

 この一言によって、キリト達には別の衝撃が伝わっている。

「だから簡単に勝負を挑まない方がいいぞ! そんじゃ、またな!」

 言いたいことを言って、近藤は即座にパトロールへと戻っていく。自覚は無いが、殺伐とした雰囲気を変える一役だけは買っていた。

 しかし代わりに、気まずそうな雰囲気に様変わりしてしまう。

「……本当にお父さんだったんですか?」

「あぁ、もちろん」

 星海坊主の言っていることが嘘偽りなく分かると、つい見る目を変えていた。疑っていた姿勢を変えていき、

「「す、すいませんでした!!」」

愚直にもすぐに謝りを入れてくる。

「私からも謝ります。勘違いしてすいませんでした」

 ユイまでもが頭を下げており、揃って許しを請うてきた。彼らの誠実さが見える場面だが、傍から見れば周りに誤解を与えそうな場面でもある。

「いや、今度は別件で勘違いされるから! もう頭を下げなさい! 頼むから!」

「いえ! 失礼なことをしてしまったので!」

「どうか許してください!」

「いや、許しているからね!? いい加減頭を上げろ、若僧共!」

 会話や行動が噛み合わず、中々上手くいかない両者であった。

 こうしてキリト達は、極めて珍しい万事屋の親族との対面をも果たしている。

 

 

 

 

 

 互いの勘違いから、偶然の出会いを果たしたキリト達と星海坊主。丁寧にも謝罪を交わしてから、彼らは揃って近場の公園に移動している。ベンチに腰をかけて、会話を続けていた。

「ハハ。まさか道中で君達と出会うなんて、思ってなかったからね。お父さんもつい早とちりしてしまったよ」

「いやいや! こちらこそ、神楽ちゃんのお父さんと会うなんて予想外だったので」

 思わぬ出会いをしたことに、衝撃をまだ受けている。先ほどよりも雰囲気は和やかであり、両者はゆったりと距離を縮めていく。

 するとユイは、無垢にも思い切ったことを質問していた。

「それにしても、星海坊主さん。なんでそんなに、神楽さんと似てないんですか?」

「って、ユイちゃん! その言い方はストレートすぎるよ!」

「いや、構わないよ。神楽はどっちかって言うと、母親似だからな。そこは仕方ないんだ」

「そ、そうなんだ……」

 一瞬失礼だと思い、アスナが注意を促したが――本人は気にせず返答している。神楽なりの親子事情が明かされていた。

「でも新しい仲間が加わると、神楽もさぞ喜んでいるだろうな」

「そうだな。いつもアスナやユイと、じゃれたり仲良くしているよ」

「って、キリト君ってば!」

 続いて神楽やキリト達との関係を明かすと、またも星海坊主は早とちりをしてしまう。

「じゃれつく? まさかお前さん、神楽に好意があるのか!?」

「いや、違いますからね! 神楽ちゃんとは友達の関係ですから! それに私には、キリト君って言う大切な恋人がいますから!」

「恋人だと!? まさか神楽の目の前で、愛を確かめ合ってはいないよな!? エッチな合体とかしてないよな!?」

「星海坊主さん!? 急になんて質問を繰り出すんだよ!?」

 神楽に好意があると思い込み、躍起になって問い詰めていく。弁解はしたものの、キリトとアスナの恋愛関係を知って、またもあらぬ誤解を与えてしまう。ネタではなく本気で問い詰めており、キリトら二人もタジタジになって応対していた。

「愛を確かめ合う? とは一体?」

「って、それはユイちゃんには早いことだから!」

「星海坊主さん! せめて言葉はオブラートに包んでくれよ!」

「俺のせいなのか!?」

 仕舞いには、ユイにまで飛び火してしまう。愛や合体と言った意味深な言葉に興味を持ち、無自覚に場を混乱させていた。

 そして……キリト、アスナの懸命な説得の元、落ち着いたのはおよそ五分後である。

「とりあえず、安心したよ。君達が付き合っているなら、神楽との恋愛関係は皆無だからな。あー、良かった! 良かった!」

 一安心して満足気な表情を浮かべる彼に対して、

「こっちは説得に疲れたけどね……」

「ユイまでも勘違いするからな……」

二人は疲労困憊とした表情を見せていた。説得する相手が両側におり、より時間をかけたようである。

 一方でユイは、またも質問をしていく。

「星海坊主さんって、とっても神楽さんのことが好きなんですね!」

「ん?」

「だって、心配しているじゃないですか。神楽さんのこと、一途に思っていると感じて」

 彼自身の娘想いな一面を見て、感銘を受けたようである。思ったことをそのまま伝えると、星海坊主は急にしんみりとした表情に変わっていた。

「そりゃそうだな。夜兎ではなく家族として、この気持ちは当たり前だからな」

「夜兎って、確か神楽ちゃんの種族よね?」

「その通りだな。彼女から詳しいことは聞いているのか?」

「いや、軽くだな。詳しいことは聞いてないよ」

「そうか……実は俺達の種族は数が少ないんだよ。この強大な力故に、他者からの潰しや利用なんてざらにある。だからこそ俺は、神楽を大切にしていきたいんだ」

 彼らに言える範囲で、星海坊主は夜兎の現状について話している。種族の運命に関係なく、娘である神楽を第一に考えていた。

 彼女本人からもあまり聞かない裏話に、三人も真摯にこれを受け止めている。

「そんな事情があったんですね……」

「戦闘民族って聞いていたけど、なんか残酷だよな……」

夜兎の事情をあまり知らなかった分、その衝撃は大きいようだ。

「神楽もそんな殺伐としたことは、言いたくないはずだからな。頭の片隅に置くくらいで大丈夫だよ」

「……分かったよ。星海坊主さん」

 同時に星海坊主の気持ちにも理解している。神楽に過度なお節介をかけるのも、彼なりの愛情表現だった。

 こうして、より深く会話を続ける星海坊主とキリト達。今度は後者が自分達を紹介しようとしたが、

「それじゃ私達の話も――」

「いや、大丈夫だ。これから万事屋に向かうから、詳しいことは帰ってからでも大丈夫だよ。万事屋と一緒の方が、話も円滑に進むだろうからな」

「あぁ。それもそうだな……」

あえなく途中で打ち切られてしまう。今後話しておきたいことは、万事屋に帰った時の楽しみとしてお預けとなった。

 すると彼は、ベンチから立ち上がって別れを告げてくる。

「それじゃ、俺はそろそろ万事屋に向かうよ。話が出来て、とても良かったよ」

「いえいえ、こちらこそありがとうございます!」

「うむ。これなら神楽達にも渡せそ――」

 と発した直後であった。彼はとあることに気が付いている。神楽ら万事屋に渡す予定であったチケットが、キリト達を含めると頭数が合わないことに。

「どうしたんだ、星海坊主さん?」

「……今の万事屋って六人だよな?」

「いいえ、違いますよ! 定春さんも含めて、六人と一匹です!」

「ハハ、そうか。分かった――ちょっと待ってろぉぉぉぉ!!」

「って、星海坊主さん!?」

 彼らには詳しい事情を言わず、一目散に場を走り出していく。万事屋へと立ち寄る前に、チケットを販売している都市部に向かっていた。

「い、行っちゃいました?」

「一体何を思いだしたのよ!?」

「テンションの差が激しかったな……」

 しんみりとした雰囲気で終わると思いきや、急な態度の変化には驚きを隠せない。つくづくと、万事屋に似たテンションだと彼らは察していた。

「でも、神楽ちゃんのお父さんとも出会うなんてね」

「これに関しては、偶然だけどな」

「とっても子供想いのパパさんでしたね!」

 それでも、彼との出会いには奇跡に似たものだと捉えている。服装から勘違いした誤解が、貴重な体験を運んでいた。また一つ、万事屋に帰った時の話のタネが出来ている。

「それじゃ、少し歩いてから万事屋に戻るか」

「そうね。またこの格好のおかげで、珍しい人に出会えるかもしれないし」

「散歩再開です!!」

 星海坊主との邂逅を終えた三人は、公園を出発してまた当てのない散歩に赴く。微かに想う新たな出会いを楽しみに持って、住宅街を突き進んでいる。穏やかな雰囲気で笑いあい、おしゃべりをしながら歩いていった。

 

 

 

 

 

 それから時間は過ぎていき、いつの間にか赤い空が浮かぶ、夕方へと移り変わっている。出歩く人々や子供達が家に帰宅を始める一方で、今日外出した彼らも次々と帰路についていた。

「どうでしたか、信女さん。あの妖精女子達と戦ってみて」

「まぁまぁってところかしらね。武器の扱いには長けてそうだから、鍛えれば隊士くらいにはなるんじゃない?」

 江戸の都市部方面に足を進めるのは、見廻組の佐々木異三郎と今井信女である。前者は携帯電話をいじりながら、後者はドーナツを頬張りながら町を歩いていた。

彼らは月詠から、今回請け負った女子達との特訓について振り返っている。その評価は、可もなく不可もなくらしいが。

「それは良いですね。見廻組の新隊員としての器はありそうですか」

「聞くところによると、真選組にはあまり良い印象を持っていないみたい。これは使えそうじゃない?」

「うむ……まずは時間を置きましょうか。じっくりと判断するべきです」

 個人ごとの実力を見極めた上で、意味深な一言を彼は呟いていた。

 そう見廻組の目的は、女子達の中から新隊員を発掘することである。信女が真摯に彼女達へアドバイスを与えたのも、実力を高めさせるのが魂胆だった。結局は見送りとなったが、いずれは……引き抜くことも視野に入れているらしい。

密かな企みを浮かべている見廻組だった。

 

 一方でその女子陣だが、吉原の広場からひのやへと帰路についている。

「あぁ~疲れた~」

「お腹も空いたし、早く帰ってゆっくりしたいよ~」

 信女との激しい戦闘を経験して、一段と疲れ切っているリズベットとリーファ。共に愚痴をこぼしながら、よろよろと歩いていた。

「今日戦った信女さんって人も、結構な実力者だったわね」

「しかも見廻組の副長も務めているなんて、戦う女子の憧れですよ!」

一方のシノンとシリカは、ずっと信女の話題を続けている。彼女の強さや地位には、憧れをも持ち始めているらしい。

 女子同士の反応が異なる中で、突然リズベットはある提案を持ち掛けてくる。

「それはそうと、今度はアタシ達でもやってみる?」

「ん? 何をですか?」

「だから衣装交換だって! 今日のキリトやアスナみたいに、衣装を一新してみようよ!」

 それは衣装交換についてだった。万事屋の格好をしたキリト達に影響されたようで、今度は女子同士でも行いたいらしい。

「でも、誰と交換するのよ?」

「それは、超パフュームからよ! この中からでもいいし、お妙さんや九兵衛さんからでもどう?」

「いいけど、サイズ合うかな……?」

「細かいことはいいの! いつかやってみましょうよ、ねぇ!」

 例として身近な仲間や知り合いの女性陣を挙げている。それくらい彼女は、衣装変更を切望していた。

「急にやる気になったわね、リズ」

「でも、やりたい気持ちは分かるよ。私もあやめさんと交換したことあるし」

「近いうちに出来ると良いですね!」

 仲間達も快く思っており、彼女の提案に乗っかっている。衣装変更が実現するのも、そう遠くはないだろう。

 各々がゆっくりと会話しながら、女子達はひのやへと帰っていく。

 

 そしてキリト達も、住処である万事屋に戻って来ていた。

「ようやく帰ってきましたー!」

「思ったよりも、長くかかっちゃったわね」

「途中であえなく迷子になったからな」

「それでも、十分に楽しめましたよ!」

 どうやら散歩の道中には、見知らぬ道へと迷い込んだらしい。おかげで帰宅にも、時間がかかったようだ。それもまた、笑い話で済む良き思い出である。

 彼らは階段を上がっていき、万事屋の玄関前にて足を止めていた。すると……急にキリトは「フッ」と笑みを浮かべている。

「アレ? どうしたの、キリト君?」

「いや。帰れる場所があるって、安心するなって思ってさ」

「急にどうしたのよ。そんなに改まっちゃって」

「特に深い意味は無いよ。ふと思ったことを言っただけさ」

「そうですか? でも居場所があるのは、とっても大事だと思いますよ!」

 さも当たり前のような一言を呟き、アスナやユイからは不思議がられていた。彼の改まった態度には、大切にしている万事屋への気持ちが関係している。

(万事屋と出会えて、本当に良かったと思っている。元の世界に戻れるまでは、これからもこの時間を大切にしていきたいな……)

 右も左も分からない別世界で、彼らと出会えた奇跡。面白くて人情味のある万事屋の善意を、大切に心へと残している。またもキリトはそっと微笑んでいた。

「さぁ、入りましょうか」

「そうだな」

「きっとみんな、待っているわよ」

 そう会話を交わした後に、揃って玄関先の戸を開く。最初に言うべきは、あの挨拶である。

「「「ただいまー!」」」

「おっ、ようやく帰って来たか。野郎ども」

「夕食の準備はもう出来ていますよ!」

「さっさと手を洗って、リビングに集合ネ!」

「さぁ、来なさい! みんな!」

「ワン!」

 威勢の良い彼らの声に気が付いたようで、万事屋一行も元気よく言葉を返していく。銀時、新八、神楽、定春のみならず、先に到着していた星海坊主も彼らの帰宅を歓迎していた。

「って、なんでオメェは万事屋ファミリーに混ざってんだよ!」

「仕方ないだろ! 先に来たんだから! むしろ俺も入れさせろよ!」

「茶々入れんなよ! この天然記念ハゲ!」

「ハゲじゃねぞ、おめぇ! せめて短髪さんと呼びなさい!」

「呼べるか! しかも誤魔化しきれるかよ!!」

 何食わぬ顔で振る舞う彼の態度に、銀時からは思わず文句が飛び出る始末である。お決まりのネタから一触即発な雰囲気となり、またも仲間達が二人を宥めていた。

「まぁまぁ、銀ちゃんもパピーも落ち着くアル!」

「そうですよ! キリトさん達の前で、喧嘩はみっともないですから!」

「ワフ―!!」

 仕舞いには定春までもが、仲介に入っている。もはやお馴染みとなった万事屋らしい賑やかしに、三人はそっと安心感を覚えていた。

「こらこら、銀さん! 喧嘩はしないでって!」

「そうよ! 星海坊主さんに失礼でしょ!」

「仲良くしてくださいよ!」

 つられるようにしてキリト達も、仲裁へと入ってくる。万事屋での日常は、まだまだ終わらない。

 

 

 

 

 

おまけ(食事シーンでの会話)

※ここからはオチも無いので、緩い感じでご覧ください。

 

 本日の万事屋の夕食は、銀問と新八の担当だった。副菜にはみずみずしさのあるキャベツと卵のサラダと、真っ黄色なたくあんの漬物が選ばれている。主菜では豚の肉厚さを閉じ込めた揚げたてのとんかつ。星海坊主もいる為、今回はより枚数を増やしていた。

 主食にご飯を迎い入れて、計七人と一匹は夕食にありついている。もちろん、キリト達は衣装交換した格好のままで。その間にも、次々と話題の種が尽きなかった。

「何!? この子達は、別の地球から来た人間だと!?」

「アレ、知らなかったのかよ? 後リアクションが、今更すぎるぞ」

「キリトさん達はゲームのアバタ―の姿のまま、この世界に来てしまったんですよ」

「だから耳がとんがっていたり、服装がちょっと独特アルよ!」

「私だけは例外ですけどね!」

 時間が経過して判明したキリト達の新事実。万事屋や仲間達にとっては当たり前だったが、星海坊主には衝撃的で大袈裟にも驚きの声を上げている。

「てっきり、ALO星の住人かと思ってしまったよ」

「ALO星って確か、前にキリト君が教えてくれた星よね」

「あぁ、そうだよ。まさか似ている星があるなんて、奇跡的だよな」

「ここの宇宙は、一段とヘンテコのも多いけどな。それが銀魂って特徴だよ」

「銀魂……って、何ですか?」

「別に対した意味は無いよ。ユイは別に覚えなくてもいいぞ」

 一瞬だけ話題に挙がったのはALO星の存在。多様な星があるのも、銀魂世界の特徴だが……その根本的な部分(メタ要素)をユイらはあまり理解していなかった。

 一方でアスナは、星海坊主へあの件について聞いている。

「そういえば、星海坊主さん。どうしてあの時、急に走り出したのかしら?」

「あぁ、アレか。実はな、万事屋にプレゼントがあって……これを見てくれ!」

 そう言って彼が取り出したのは、六枚ほどある遊園地のチケットであった。

「これは、チケットですか?」

「その通りだ! 大江戸遊園地の特別版チケットだよ! 急ではあったが、手に入れられて本当に助かった」

 どうやら神楽へのサプライズとして、密かに遊園地のチケットを手に入れていたようだ。彼女の分のみならず、男子陣やキリト達の分まで用意する粋な計らいである。

「おぉー! ありがとうネ、パピー!」

「おいおい、俺達の分まであるのかよ。本当に貰っていいのか?」

「これも神楽の為だ。俺はまた仕事があるから、代わりにお前達だけで行ってくれ。しかしだ! 換金だけはするなよ!!」

「分かったから! 怒鳴らなくても、ちゃんと行くから!」

 自身には用事が重なっている為、その役目を銀時らへと託していた。だが信用が薄い為か、銀時だけには念入りに注意を加えている。

 このサプライズプレゼントには、仲間達からも喜びの声が上がっていた。

「遊園地か。こりゃまた、嬉しいイベントだな」

「今度の空いている日に行ってみましょうよ!」

「そうね。私達の分もあるみたいだし!」

「みんなで遊園地か……たまにはこういうのもいいですよね」

 特にキリトら三人の方では、舞い込んで来たイベントについ心を弾ませている。よっぽど遊園地に期待値を高めていた。

 そんな温かな雰囲気に変わる一方、星海坊主は銀時に小声である疑問を話してくる。

「それと思ったんだが……万事屋の風紀って大丈夫なのか?」

「風紀?」

「アレだよ。未成年の同居が増えて、問題とかは起きないのか? あの二人、付き合っているんだろ? そういう心配とかしないのか?」

 どうやらキリトとアスナが恋人関係と聞いて、万事屋自体の風紀を気にしているらしい。妙に気にかけている為、銀時は思うままに自身の解釈を伝えている。

「その辺については、アイツらに放任しているよ。ユイもいるんだし、添い寝くらいで我慢しているだろ」

「あぁ、そうか……てか、あのユイって子は一体どんな立ち位置なんだ?」

「そりゃアイツらの――連れ子? 養子? アレ、どれだっけ?」

「オメェもはっきりしていないじゃねぇか!!」

 納得したのも束の間、今度はユイの経緯について思い悩まされていた。銀時も忘れ切っており、つい混乱状態に陥ってしまう。

「銀時さんも星海坊主さんも、込み入った話をしているのでしょうか?」

「保護者同士の話し合いをしているのかな?」

「いやいや、キリ。そんな真面目な話じゃないアルよ」

 そんな二人の様子を、まったりと呑気に見守る仲間達。会話の内容には、一斉気が付いていなかった。

 こうして万事屋の一日は、まだ少しだけ続く。




小ネタ
星海「私には、あらゆる決断が予測出来ている!」
銀時「急にどうしたんだよ。毛根が蘇る道筋でも見えたのか?」
星海「いいや、違う。この俺の中の人も、ついにライダーデビューを果たしたからな」
銀時「ホホーウ。それはご苦労なこった。一体何を企んでいるんだよ?」
星海「フッ、人間の悪意の一つ……毛根いじめをこの俺が殲滅させてやる! フサフサ野郎には即、地獄を見せてやるからな!!」
銀時「テメェのコンプレックスじゃねぇか!! そんな理由で、人類を絶滅させるな!!」

機会があれば本篇とは関係のない小ネタ集を出したいですね(笑)




予告
銀時「次回は今日の話で触れられた遊園地篇をお送りするぞ。しっかし、アイツら俺を置いていきやがったな。寝坊くらい起こしに来てもいいだろうが」
シリカ「銀時さん! キリトさん達いますか!!」
シノン「遊園地へ誘いに来たわよ!!」
銀時「はぁ? アイツらなら先行ったぞ」
二人「「えっ!?」」

銀時「という訳で次回。二兎を追う者は一兎をも得ずだな。まるでオメェらみたいじゃねぇか」
シノン「って、失礼ね!!」
シリカ「そんなんだから、女の子にモテないんですよ!!」
銀時「なんだと、ごらぁ!!」
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