時刻はおおよそ十時半を指し示していた頃。銀時、シリカ、シノンの三人は、無事に遊園地へと入場していた。彼らは先に向かったキリト達との合流、さらに友人の猫探しを目的に動いている。その道中だが、当然普通に進むはずがなく……
「さて、ようやく入場した訳だが……」
「まずはキリトさ――いや、猫探しからしましょう!」
「そうね。すぐに見つけて、残りはキリトとの時間に当てるわよ!」
「オメェらの頭の中、そればっかじゃねぇかよ」
遊園地へと入場するや否や、シリカやシノンは早速近くにキリトらがいないか見渡していた。猫探しも念頭に置いているが、やはり彼女達にとってはキリトとの合流が第一である。
相変わらずの一直線な気持ちに、銀時も野暮を口にしている。彼は引き続き、猫探しについても皮肉を呟く。
「そもそも猫探しなんて、そう易々と見つかる訳がないだろ? まだ始まったばかり――」
気だるげな表情で、そう言い切った時だった。
「ねぇ、アレってあの猫じゃない?」
「アレ?」
「まさか……」
偶然にも周りを見ていたシノンが、とある生物を見つけている。それは付近のベンチの上にいた、丸っぽい形の猫耳が付いた生物だった。小さくて黄色い体色、つぶらな目つきからソリートが伝えていた特徴と一致している。恐らくこれが、彼女の飼う宇宙生物であろう。
「丸っこい猫で――聞いている話とぴったりですよ!」
「おい、初っ端から幸先良いんじゃねぇか!?」
「すぐにでも、捕まえるわよ!」
情報を読み解き、自信良く確信を得た一行。このまま猫に近づこうとしたが……
「モコ!」
惜しくも彼らの気配に気が付き、高い鳴き声を上げながらぴょんぴょんと逃げてしまった。
「あっ! 逃げ出しました!」
「よし、追いかけるぞ! 俺についてこい!」
「だから、アンタが仕切らないでちょうだいよ!!」
急いで銀時らも、猫の跡を追いかけていく。右方向にあるアトラクション付近に移動して、ひたすらに猫を捕まえようと試みていた。
すると猫は、とある屋敷へと逃げ込んでいる。
「この建物に逃げ込んだわね」
「だったら、チャンスですよ! アタシ達も入って、すぐに捕まえちゃいましょう!」
もはや猫にとって袋の鼠であり、シリカやシノンは勝利を確信していた。この好機をモノにしようと、やる気を高めていく。
だがしかし、銀時は建物を見てから明らかに様子が変わっている。
「……おい。本当に入るのか?」
「アレ? どうしたんですか、銀時さん?」
「だってここ……お化け屋敷だぞ」
そう、彼の態度の変化はこのお化け屋敷が原因だった。何を隠そう、銀時は大のオカルト嫌いである。霊や超常現象の類には、人一倍臆病な面を持っていた。例え作り物だったとしても。
みるみると顔色の悪くなる銀時を見て、シノンらは徐々に疑問を持ち始めていた。
「それがどうしたのよ?」
「だから、怖くねぇのかって! オメェらはそういうの平気なタイプかよ!?」
「私は別に問題ないけど」
「アタシは怖いですけど、ソリートさんの為なら乗り切れます! そういう銀時さんはどうなんですか?」
「(ギク!?) お、俺か……? こういうのは、平気だぜ。ただお前等が怖がってそうだから、気を遣っただけなんだよ……!」
女子達は特に、お化け屋敷には抵抗心が無いようである。すぐに質問で返されてしまい、銀時はさも平然を装った回答をしていた。引きずった笑顔を見せており、内心では大いなる不安に包まれている。
(ヤベェ! 本当は行きたくなんかねぇよ! 出口付近でのんびりと待っていたいんだよ、俺は! だが、正直に言うのも尺な気が……)
本音では突入を避けたいが、女子からの冷ややかな反応も気にしてしまう。一応ではあるが、情けない面は見せたくないようだ。
回避する術を模索する銀時に対して、シリカやシノンはと言うと……
「そうね。じゃ行きましょうか」
「えっ!?」
「大丈夫なんですよね?」
「……そ、そうだな! 行くか!」
考える時間すら与えない。さも当たり前のように参加を促している。
これには銀時も空気を読むしかなく、つられるままにお化け屋敷へと進んでしまった。
(クソッ! やっぱり見栄なんか張るんじゃ無かったよ! もう見下されてもいいから、ここから逃げ出してぇ~!!)
急ごしらえの見栄を張った挙句に、自分の首を絞める結果となってしまう。本音を言えるタイミングも逃してしまい、苦悶な表情で多大な後悔を感じている。
一方のシリカやシノンだが、とっくに銀時の本音を見透かしていた。
「絶対に銀時さん、無理していますよね?」
「素直に言えばいいものを……まぁ、非常口はあるみたいだから、いざという時はそこまで連れていきましょう」
「そうですね」
逐一見せる挙動不審な反応から、彼の真意を察したようである。彼女達は小声のまま言葉を交わして、銀時の今後の対応を練っていた。
互いの思惑が交差して、三人はいよいよお化け屋敷に入り込む。
とその直後である。
「最初はメリーゴーランドに乗るアルよ!」
「って、待ってください! 神楽さん!」
屋敷の近くでは、奇遇にも神楽やユイらが別のアトラクションに向かっていた。もちろんだが、銀時達が近くにいることは一斉気が付いていない。
「やっぱり、先に来ていませんね」
「銀さんが来るのも、時間がかかりそうだな」
「もう……早く来てほしいのに」
入場しても銀時の姿が見当たらず、アスナらの気は滅入るばかりである。やはり彼が不在だと、物足りなさを感じるようだ。一行は銀時との合流を切望している。
一方でこちらは、お化け屋敷に入り込んだ銀時達。屋敷の内部はとても薄暗く、何が起こるか分からない静寂に包まれていた。恐怖心を煽る雰囲気に、早速シリカは恐れを感じてしまう。
「……シノンさん。ちょっと怖いので、肩や腕に掴んでも良いですか?」
「もちろんいいわよ。でも見た感じだと、大袈裟に怖い作りは無いわね。今のところは」
そう言って彼女は、シノンの左腕をぎゅっと掴んでいた。ペット捜索のためと言っても、やはり怖く感じてしまうのは致し方無い。度胸があって堂々としているシノンを頼りつつ、彼女は勇気を持って前に突き進んでいる。
そして銀時はと言うと……
「それはそうと、銀さん。何で私の肩を、さっきから掴んでいるのかしら?」
シリカが寄りかかる前から、すでにシノンの右肩を掴んでいた。冷静に問い詰めてみると、彼は無意識にも取り乱しながら返答していく。
「……いや、決して怖がっているとかじゃないからな! オメェが不安そうに見えたから、掴んでいるだけだぞ!」
「そんな必死に弁解しなくても……」
「銀時さんの方がよっぽど不安そうですよ」
もはや何を言っても誤魔化せず、余計に怖がりな印象を与えるだけである。薄っすらと見える彼の必死そうな表情から、並々ならぬ焦りを感じていた。
意地でも認めない銀時の姿勢に、シリカやシノンは増々彼に呆れてしまう。そっとため息を吐いた……その時であった。
〈モコ―!〉〈ギャャャ!!〉
突如として聞こえたのは、あの猫の特徴的な鳴き声。何やら男性の悲鳴と合わせて、屋敷内に鳴り響いていた。
「今の叫び声って、あの猫の声よね?」
「この先にいますよ! 急ぎましょう!」
「おい、待てお前等! 俺を置いていくんじゃねぇよ!」
居ても経ってもいられず、女子達は真っ先に奥へ進んでいく。銀時も置いていかれないように、跡を追いかけていった。
その道中にて一行は、お化け屋敷の洗礼を受けている。
「あっ、二人共! 右側の扉が開くわよ! 気を付けて!」
「えっ、キャ!?」
「はっ!? ギャァァァ!!」
仕掛けに気が付いたシノンが、後ろにいる仲間達へ注意を促していた。壁から飛び出してきたゾンビらしき手に、シリカは軽く驚いてしまう。
そして銀時にも同じ仕掛けが襲ってきたが……彼は大きく悲鳴を上げて、豪快にも大きく転げ落ちている。
「って、銀さん!?」
「大丈夫ですか!?」
大袈裟すぎる反応に気が付いて、シノンやシリカは思わず彼の元に駆け寄ってきた。
「ねぇ、本当に大丈夫なの?」
「もし怖かったら、あっちに非常口がありますよ。ギブアップしますか?」
銀時の状態を共に心配しており、寄り添うようにして非常口へ連れて行こうとしている。ところが、
「い、いいや大丈夫だ! 平気に決まっているだろ!」
銀時はすぐに立ち上がって未だに意地を張り続けていた。何としても、自身の物怖じする性格を隠したいようである。
「って、表情は青ざめていますけど」
「怖いなら、素直に言った方が楽になるわよ」
女子達が幾ら説得を促しても、彼の考えは一斉変わらない。
「そんな訳ないだろが! こういう時はな、根性と歌で乗り切るんだよ! こんな風に! デレレ~デレレ~デレレ~デレレ~!!」
「ちょっと、銀時さん!?」
仕舞いには、とうとう奥の手で乗り切ろうとしている。以前にも幽霊の恐怖を紛らわすために、歌い続けた「ドラえも〇のうた」を唐突にも繰り出していた。
「ぺぺぺぺぺぺぺぺぺーちゃらららららら――」
思わぬ奇行に唖然としてしまう女子達を無視して、単身銀時は「ドラ〇もんのうた」を歌ったまま、出口まで駆け込もうとしている。
「こんな事いいなー! 出来たらいいなー! あんな夢―こんな夢―いっぱいあーるけーどぉぉぉ!!」
「なんかどこかで聞いた事のある曲なんですけど!!」
「ここまでして、臆病なのを隠し通したいの……?」
「ある意味、凄い精神力です……」
この突飛な行動には、シリカとシノン共に心からドン引きしていた。苦い表情を浮かべたまま、彼の歌う「〇ラえもんのうた」が嫌でも猫耳に入ってくる。ひとまずは暴走している彼を追いかけようとした、その時であった。
「空を自由に飛びた――ギャャャ!!」
「って、銀時さん!?」
「今度は何が起こったのよ!?」
歌のサビに向かう途中で、大きな悲鳴が響き渡ってくる。気になった女子達は、彼の元まで急いで向かっていく。すると見えてきたのは、
「えっ!?」
「これは……?」
銀時を含む三人の人間と追っていた猫が気絶している光景だった。みな揃って白目を向いたまま、仰向けや俯いたまま床に倒れ込んでいる。
銀時の他に気絶している人を見てみると、そこには意外な人物も紛れ込んでいた。
「銀時さんと、猫とピエロと、土方さん?」
「さっきの悲鳴の正体は、土方さんだったってこと?」
その正体はなんと、真選組の土方十四郎である。どういう理由で屋敷にいるのかは分からないが、恐らく横で一緒に気絶しているピエロと何かあっただろうと考察していた。
肝心の猫を一匹捕まえられたのはいいが、横で倒れている三人が気になって仕方がない。
「……改めてみるとカオスですね」
「はぁ……。世話が焼けるけど、まずはみんなを起こしましょうか」
「そうですね」
とりあえずは、起こさないことには話が始まらないので、女子達は銀時や土方らの気を戻そうと体をさすっていく。
小さい意地を張り続けた男の、意外過ぎる顛末であった。
そして場面は変わって、一行はお化け屋敷の出口前に行きついている。女子達二人は保護した宇宙猫の様子を確認していた。一時は気を失った猫だったが、現在は体を小さくして、ぐっすりと眠りについている。
「グシュー……」
「猫の方はぐっすりと眠っているわね」
「お化け屋敷を探し回った甲斐がありましたね! ただ……」
「うん。そうね……」
元気そうな猫に一安心する二人だったが、それ以上に気になるのは、真横でどんよりと体育座りする二人の大人――銀時と土方であった。両者共に自身の物怖じする性格が女子達にバレて、大変気にしている。
銀時は意地を張ったことを後悔して、土方は気絶して助けられたことを情けなく思ってしまう。共に生気がない表情をしたまま、適当な会話を交わしていく。
「土方君。なんで君が、ここにいるのかな……?」
「ちょっとした尾行調査だよ。総悟に言われて屋敷に入ったはいいが……ただはめられただけだったよ。それより、お前もなんで屋敷にいたんだよ? 確かオカルトは嫌――」
「それ以上は言うな。意地を張った結果、無理して入っただけだ」
「そうか。分かったよ」
「察してくれ」
普段からいがみ合う二人でも、今回ばかりは同じお化け屋敷の被害者と捉えている。対抗心を控えめにしながら、互いの悲壮感を分かち合っていた。
落ち込み続ける二人の元に、ようやく女子達が声をかけてくる。
「だ、大丈夫ですって! 人には必ず苦手なものがあるんですから、気にしなくていいですよ!」
さり気の無いフォローで立ち直らせようとするシリカと、
「正直に苦手と言えばいいのに……。強がって情けない姿を見せるのは、男としてはかっこ悪いわよ」
「おいそれ、俺にも言ってねぇか」
直球的な指摘を加えるシノン。どちらも励まし方は異なるが、共に心配していることは明らかである。特に後者の言葉が効いたのか、銀時はすぐに自信を奮い立たせて、真っ先に立ち上がっていた。
「ったく、分かっているよ! チキショー! お化けが苦手だって、いいじゃねぇかよ!」
「フフ、こっちの方が銀さんらしいわね」
「どういう意味だよ!? とにかくだ。猫も捕まえたから、気を取り直して別の場所に向かうぞ!」
「今度は無茶しないでよね!」
その立ち振る舞いは、どこかヤケクソにも見えなくないが……。いずれにしても、銀時の調子は戻り、彼へつられるようにして土方もキレを戻し始めている。
「ってわけだ。じゃあな、土方君。これ以上は情けない姿は見せるなよ」
「いや、それお前もだろうが! さっきの描写、ほとんどテメェが占めていたじゃねぇか!」
調子だけではなく、ツッコミの勢いも戻っていた。このまま別の場所に向かおうとした一行だったが、ここでシノンから質問が挙がっている。
「あっ、ちょっと待って! ねぇ、土方さん。この近くでキリトやアスナを見なかったかしら? それと、この猫と同じ宇宙生物も見ていない?」
僅かな希望から、彼に情報提供を呼び掛けていた。あわよくば決定打となる情報が欲しいところだが……そう上手くはいかない。
「いいや、特には。そもそも来たのが朝一番だったからな。少なくとも、俺は見かけてねぇよ」
「そう……ありがとうね」
特に目立った成果を得られず、この話は終わってしまった。シノンも若干だが、しょんぼりとした表情になってしまう。
「まだまだ合流まで遠いな」
「はぁー。運よくどっちも、早めに見つかると良いんですが……」
目的達成までの道のりは長く、銀時やシリカも浮かない顔をしている。今は地道に探し続けるしか、最善の道は無かった。
すると土方は、ペットに関連して銀時達にある注意を伝えている。
「ていうか、ペットを追っているなら、一応お前等にも伝えておいた方が良いか」
「あん? どうしたんだよ、オメェ。急に改まって」
「俺達が尾行調査している野郎のことだ。ヤツは宇宙で有名な動物ハンターだそうだ。昨今この遊園地での目撃例が多くて、俺と総悟が今探し回っているんだよ」
「動物ハンターですか?」
「また物騒な肩書きが出てきたわね……」
彼が捜索しているのは、宇宙から来た動物ハンターだと言う。目撃例がこの遊園地にあるらしく、あくまでも任務としてここにやって来ていた。
藪から棒の如く出てきた物騒な情報に、女子達はつい不安を覚えているが……銀時だけは反応が異なっている。
「おい、お前それ……ハタ皇子じゃねぇの?」
「いや、違ぇよ。そもそもあの皇子、今日地球に来てねぇよ」
動物と関連付けて、ハタ皇子と勘違いしただけであった。土方からは、冷たいツッコミが返ってくる。
「とにかく、そいつには気を付けておけよ。不審なヤツを見かけたら、俺か総悟に伝えておけよ。そんじゃあな」
伝えるべきことを伝えたところで、彼はその場を後にしていた。猫探しの障害となり得る動物ハンターの存在は、一行に何とも言えない気持ちを与えている。
「真選組が追う動物ハンターか……関わりたくねぇ野郎だな」
「増々猫が心配になるわね」
「そのハンターさんへ見つかる前に、残りの四匹もすぐに見つけちゃいましょう!」
「そうだな」
いずれにしても、ゆっくりとしている時間はない。保護した猫は銀時の服の懐に入れて、しばらくの間寝かせることにする。遊園地を彷徨う残り四匹の猫を保護するために、銀時ら一行も別の場所へと走り出していた。今度は北東方面にある、絶叫系アトラクションがあるエリアへと向かっている。
そこへ向かう最中でも、再び銀時の物怖じする性格が話題に挙がっていた。
「それで銀時さんって、結局幽霊系は苦手なんですか?」
「いや、あんまり大きい声で言うなって。知り合いとかにも、内緒で通しているんだからよ」
「思ったんだけど、そこまでして隠したいの?」
「当ったり前だ! あんな情けない姿、キリトやアスナに知られたら一生モンの恥だからな」
彼は神経質にも、自身が苦手とするモノを他者に知られたくないようである。一生モンの恥だと例えていたが、女子達にはすぐにその光景が思い浮かんでいた。
(確かにすぐに腰を抜かしたり……)
(ドラ〇もんのうたで恐怖を紛らわすなんて、情けないにもほどがあるわね……)
ついさっきまで見せた銀時の奇行を知ると、確かに隠したい気持ちも分からなくはない。ちなみに彼が歌った「〇ラえもんのうた」は、未だに女子達の耳元に残っている。
〈みんなみんなみーんな、叶えてくれるー。不思議なポッケェで叶えてくれる~!〉
(全然離れません……)
(微妙に音痴なのが、頭に残るわね……)
思わぬところで二次被害を受ける二人であった。
そんな彼女達だが、ちゃっかりとこの機会を利用して、銀時に新たな制約をかけている。
「と言う事は、この件はアタシ達だけの秘密になりましたね!」
「あぁ、そうだな――って、なんだよその表情は?」
突然にも女子達は、事情を含ませていそうな作り笑いを見せつけていた。彼が忘れているであろう、あの約束を再び提示していく。
「増々タピオカのおごりが重要になってくるわよ」
「とびっきり美味しいのをお願いしますね!」
もちろんそれは、入場前から言っていたタピオカのおごりである。
「って、オメェら調子に乗るなよ! 思いっきり弱みを握っているじゃねぇか!」
「いやいや、意地を張った銀時さんが悪いんですから」
「そもそも。あの状況だと、どうしても屋敷に入るしかなかったし」
「運が悪かったですね!」
「絶対面白がっているだろ! 薄ら笑いで煽ってくるなや!」
「さぁーどうかしらね?」
彼女達のおちょくるような素振りに、銀時自身もタジタジになって応対していた。終始話の主導権をシリカ達に取られて、彼は思うように進められない。より調子が滅入ってしまう銀時だったが……ふと視線を変えてみると、
「ん? あっ、オメェらアレを見てみろよ」
「アレ? もしかして、幽霊……」
「その話はいいから! 猫だよ、猫! ちょうど二匹目を見つけたんだよ!」
偶然にも捜索していた猫を発見していた。彼の食いつきように気が付いて、シノンらも視線を同じく合わせていく。
「って、どこにいるんですか?」
「ほら、あそこだ! ジェットコースター側にある骨組みの!」
「あっ、いた……えっ!? なんでそこにいるの!?」
ようやく猫を発見したのは良いが、彼が現在いるのはなんと、ジェットコースターが設置されている内部である。そこへ至った経緯は分からないが、危機的な状況なのは確かだった。緊迫感が無く、猫は上機嫌なままに登り詰めている。
このままのペースで登ると、上段の線路付近へと行きついてしまう。これだけは、何としても阻止しなければならない。
「おいおい、不味いぞ。鉄格子越しだから簡単に行けないし、何よりも線路に上がったら、より不味いことに……」
「あの……銀時さん。もうジェットコースターが出発しちゃいました」
「何だと!? バットタイミングすぎるだろうが!!」
慎重に対策を練っていた銀時だったが、より余裕が無くなる事態が起きてしまった。間が悪くジェットコースターが出発したようで、猫との距離を迫らせている。最悪の場合が重なれば、猫は衝突して大怪我を負うと彼らは予測していた。
「このままだと猫が……」
「こうなったら、従業員に言って止めてもらうか?」
「いいや。ここは私に任せてちょうだい!」
一刻も早く助け出したい一行だが、中々良い策が思いつかない。すると突然にも、シノンが作戦を思いつき、自信良く声を上げてきた。
「この弓矢で捕まえて、こっちへ連れてくるわよ」
「ほ、本当にそれで大丈夫ですか?」
「時間が無いもの。これに懸けて見せるわ!」
「おい、気を付けろよ!」
もはや定番技となった、弓矢戦法で決めるという。羽を広げて、なるべく距離を縮めた後、弓矢の先端から縄を放って猫を確保する算段である。
ジェットコースターが上り始めている今、安全に保護できる手段だと彼女は悟っていた。もちろん、上手くことが進めばの話だが。
「狙いを定めて……」
空中浮遊をしたままシノンは、すぐに登っている猫へ狙いを合わせていく。数秒後に配置される場所を予測したところで、
「今よ!」
弓矢を離して勢いよく発射していた。彼女の放った矢は、予測通りに猫の位置する場所へと向かっている。
「モコ!?」
そして作戦通りに縄が飛び出して、猫のみを優しく包み込んでいた。
「おっ、上手く行きましたか?」
「とりあえず、ジェットコースターが来るまでには間に合ったな」
地上にいる仲間達も、作戦成功に思わず安堵している。ジェットコースターもまだ急降下しておらず、時間的にも間に合っていた。本人もつい笑みを浮かべている。
「よし、余裕で間に合ったわ……」
このまま彼女は縄を引っ張っていき、確保した猫も無事に手元へと収めていく。そして降りようとした……その時だった。
「シノンさん! 後ろです! 回避してください!」
突然、シリカがシノンに近づく飛翔体へ気が付き、大声で注意を促している。
「後ろ――キャ!?」
「カー!!」
その正体は、偶然にも通り過ぎた野生のカラスだった。彼女の羽と衝突してしまい、シノンは飛行バランスを崩してしまう。
(お、落ちる!? 羽が思うように、動かない? まさかあの風なの……!?)
再度バランスを立て直そうとするも、近くにあるジェットコースターからの逆風が無常にも襲い掛かっている。おかげで彼女は、ただ落下を待つことしか出来ずにいた。
この危機的状況に、仲間達も咄嗟に動き始めている。
「シノンさん!? ここはアタシが……」
「いや、待て。俺に任せろ!」
「ぎ、銀時さん!?」
一時はシリカが向かおうとしたが、有無を言わさずに銀時が走り出していく。必死に落下する彼女へと近づき、大きく飛び上がったところで……
「はぁぁ!」
シノンを抱きしめて彼女の身を体当たりで守ろうとした。そのまま銀時は背中から落下していき、自身を身代わりにして彼女と猫を救い出している。
「痛ぇ……背中打ったか?」
幸いにも背中への痛み程度で済んだ様子だ。この予想外な銀時の行動力には、助けられたシノンも目を丸くして驚いている。
「ん? えっ、銀さん? もしかして、助けてくれたの?」
「あたぼーよ。無茶するなって言ったのは、どこのどいつだよ? オメェも人の事、言えた義理じゃねぇな」
「って、アレはまぐれよ! 普段の私だったら、すんなりと回避していたわ! でも……助けてくれて、ありがとうね」
彼の調子に乗る姿勢を見ると、シノンもついムキになって反論してしまう。それでも彼女は、助けられたことに感謝していた。
(まるでさっきと大違い……銀さんって、こんな漢気のある人だったかしら?)
内心でも、銀時の頼れる一面には少しばかり驚いている。これを機に印象が変わりつつあった。
するとそこへ、シリカも心配して駆け寄ってくる。
「シノンさんー、銀時さんー! 大丈夫でしたか!?」
「おうよ、心配ねぇよ。猫の方も無事だったよ」
「モコ―」
「あー良かったです!」
彼らの無事を知って、再び一安心していた。このまま温かな雰囲気で終わると思いきや、ここで銀時が余計な一言を呟いている。
「そうそう。てか、お前。そろそろ降りてもらえるか? さっきから意外に重てぇからよ。さぁ、どいたどいた」
「重い……? 失礼ね! これでもこの世界へ来てから、痩せた方なのよ!」
「ブフォ!?」
冗談で言った一言をシノンが真に受けてしまい、不意にもまた平手打ちを受けてしまう。一瞬にして態度が変わった瞬間だった。
「おい! 命の恩人に反撃するなよ! そんなに腹立ったのかよ!?」
「当ったり前よ! 女子に重いなんて言葉、不謹慎にも程があるわよ! 一瞬でも見直そうとした私の方が、バカだったわ!」
「そんなに言うんじゃねぇよ! ただの冗談だって受け取れよ、バカヤロー!」
またも始まった銀時とシノンの言い争い。互いの性格が上手いこと噛み合わず、ついムキになっている。
「ハハ……流石銀時さんですね。全然締まらない」
「モコ?」
この光景にはシリカも簡単に手が出さず、ほろ苦い笑みを浮かべていた。保護された猫も、戸惑う表情を見せている。
両者の気持ちが一斉譲らない中、ここで意外な人物が彼らに介入していく。
「おや、旦那方じゃないですかい?」
「ん? えっ、沖田さん!?」
「はっ、お前!?」
場の空気を読まずに声をかけてきたのは、真選組の沖田総悟であった。土方と同じくして、彼も動物ハンターを探索している。その道中にて、銀時達を見かけてきたようだ。
沖田は銀時とシノンの口喧嘩に茶々を入れていく。
「いやいや、ここで会うなんて奇遇ですねぇ。というか、どうしたんでい? 昼間からSMごっこですかい?」
「って、違うわよ! 私は銀さんを正したいだけよ!」
「また勘違いされることを……だいたい重いって言葉に、引っ張られすぎなんだよ。おめぇは」
「えっ、旦那。そんな下世話な言葉を使ったんですかい? これは市中引き回しの上に、打ち首は免れやせんよ」
「お前も話に乗っかるなよ! そんなに言っちゃダメなNGワードだったのか!?」
いまいち全体像を把握していないが、適当に銀時が不利になるような素振りで場を誘導している。特に深くは考えずに、雰囲気だけをかき乱していた。その表情も、薄っすらだがコケにしたような笑いを浮かべている。
増々立場が危うくなる銀時だったが……彼はここで起死回生の一手に出ていた。
「とにかく落ち着けって。あっ、そうだよ。ここで一旦休憩して、タピオカをおごろうじゃねぇか。気分転換にさ!」
入場当初から念入りに推されていた、タピオカミルクティーのおごりを提案すると、
「……まぁ、そうね。ちょうど時間的にも頃合いだし」
(よし、機嫌が戻ったぞ! ていうか、ほとんどタピオカでチャラに出来るじゃねぇかよ。ブームが去っても、ご機嫌取りには役立っていんのか?)
すんなりと彼女の怒りは収まっている。改めて十代女子のご機嫌取りに苦戦する銀時であった。
途端に思いついた休憩に、シリカも忘れぬように自身をアピールしていく。
「って、銀時さん! アタシも忘れないでくださいよ!」
「分かっているから! ちゃんと二人分おごってやるからよ」
欲しい物をおねだりされる光景は、彼氏と言うよりも兄貴や父親の方がぴったりはまる。そう心の中で想う銀時であった。
すると沖田が、またも彼らの話に介入していく。
「おや? タピオカ屋をお探しですかい? だったら俺が良い店まで、連れて行ってやりやすよ」
「えっ、本当ですか?」
「ちょうど人気の移動販売車が来ているので、そこまで連れていきやすよ」
なんと意外にも、沖田自身がお勧めの店を案内してくれるらしい。彼が先導に立ち、銀時達も思わずついていこうとする。
「なんだよ。アイツも気が利くじゃねぇか」
「でも、沖田さんについていって良いのでしょうか?」
「あの人のことだから、何か企んでいる可能性も……」
「そうか? 店を紹介するくらいだから、変なことはしないと思うぜ。いざって時は、逃げ出せばいいだけだ」
「それなら、良いですけど……」
しかし女子達は、沖田のこれまでの所業から、やや半信半疑であった。どちらも浮かない顔をしているが、銀時の一言により警戒心は薄れたようである。
保護した猫を二匹抱えながら、銀時達は彼の跡についていった。
「フッ……これは絶好の機会ですねぇ。ちょっとばかり、あの猫耳娘共には陽気となってもらいやしょうか。楽しみですねぇ……」
ところが――銀時の予想は虚しく、沖田はもちろん邪推なことを企んでいる。彼のポケットには、怪しげな茶色い粉の入った袋が入っていた。その正体はもちろん……アレである。
一方でその一部始終を、木の影から覗く怪しそうな二人の男達がいた。
「チッ。真選組の輩が来ていたとはな」
「どうしますか、兄貴?」
「上手いこと、やり過ごしておけ! どうやら今ここには、珍しいペットもいるらしいからな」
「ヘイ! 分かりました!」
彼らの正体は、真選組の追っている動物ハンター達である。真選組の姿を目の当たりにしても、一斉行動を変える気はない。銀時達が猫を追う一方で、彼らもまた身勝手に動物達を狙い続けていた。幸いにも、ソリートの猫達にはまだ気が付いていない様子だが?
そしてこちらは、沖田が勧めるタピオカ屋の移動販売店近く。無事にお目当てのドリンクを買えて、女子達は上機嫌な気持ちに浸っていた。ちなみに銀時は、あまり乗り気ではない為買ってはいない。
「と言う事で、銀時さん! ゴチになりますね!」
「はいはい、ちゃんと味わって飲めよ。つーか、知らない間に高くなってねぇか? 650円もかかるのかよ?」
「そんなものよ。吉原で売っている値段と、そう大差は無いわ」
「いつから吉原は、原宿系に変わったんだよ?」
銀時だけはタピオカの値段に不服で、調子は上がらずじまいだったが。女子達はそこまで気にしてはいなかった。
念願のタピオカミルクティーに、女子達が口を通そうとしたその時。沖田がまたも口出しをしていく。
「あっ、待ってくだせぇ。このミルクティーに一味付け加えると、味が一変しやすよ」
「一味?」
「これのことです。店から持ってきたレモンパウダーですねぇ。一度ご賞味しれくだせぇ」
彼がポケットから取り出したのは、妙な柄の入った袋だった。その中身は沖田曰く、レモンパウダーと言うが……正直女子達にとっては半信半疑である。
「……まさか沖田さん。変な味とか入れていませんよね?」
「何を疑っているんでい」
「だって、これまでの所業を考えたら……」
思いつくのは、リーファから事前に聞いている酷い仕打ち。今回も裏があると読んでいたのだが、
「やだな。今回ばかりは、俺もおふざけは一斉入れていやせんよ。だから、素直に信じてくだせぇ」
「……本当ですか?」
「ならいいけど」
沖田の堂々としている態度からあっさりと受け入れていた。彼の勧めた通りに、パウダーをまんべんなくミルクティーへ入れていく。
(フフ。引っかかってやんの)
もちろん沖田は最初から騙す気であり、すんなりと策が通ったことに不敵な笑みを浮かべている。これにて彼の計画は、ほぼ確実なものとなった。
沖田は表情を戻しつつ、効力が効くまで銀時らとの談笑を続けていく。
「いやーにしても驚きやしたね。いつの間に旦那は、雌猫共を手名付けたんですかい?」
「って、全然違いますよ!」
「銀さんとは、仕方なく一緒に行動しているだけよ。本命はキリト達の方なんだから!」
「そこまで言わなくても良いんじゃねぇのかよ?」
反射的に否定する女子達の態度に、銀時は意外にもダメージを受けている。パウダーの正体に気が付かないまま、二人はより深々と飲み進めていた。
「まぁまぁ、落ち着いてくだせぇ。でも旦那も一変だけ、黒剣さんと同じ待遇を受けたいとは思わないんですかい?」
「いいや、まったく。女が幾ら増えたところで、責任を追及されるだけだからな。オメェは知らねぇと思うが、こっちはいつぞやの飲み会の時に大変な目にあって……」
「もうそんな御託はいいですよ。旦那の願い通りに、ハーレムを形成させてやりやすから。あの雌猫たちは……フッ、もう面白いことになってやすね」
「お前何を言って――って、まさか!?」
突然にも不穏な雰囲気を醸し始めた沖田。女子達の様子に変化が訪れたことで、その本性を明るみにしている。銀時もタイミングは遅いが、彼の真意について気が付いていた。
「聞きやしたよ、土方さんから。どうやら雌猫共は、マタタビを体に入れると人が変わったように酔うのだとか。とっても便利な弱点ですねぇ……しかも効力は早いと」
「お、お前……」
「もうお分かりですよねぇ。俺が勧めたのはレモンパウダーじゃなくて……マタタビパウダーでさぁ」
その通り。彼が持ち出した袋の中身は、猫を酔わせるマタタビをすり潰した粉であった。過去にもシノンは何度もこれに酔っており、その情報を聞いた沖田は、暇つぶしの悪戯用として日頃から持ち出していたのである。
その犠牲者となったシリカとシノンは、当然の如く酔っていた。
「にゃーん! 銀時しゃ~ん!! 遊びましょうぅー!!」
「私達~急に気分が上がって来たわー!!」
「ど、どうなってんだぁぁぁ! これはぁぁぁ!!」
銀時が振り返った時にはもう遅い。そこには、真っ赤な顔で出来上がっている女子達がいたのだから。彼の無常なる叫びが園内中に響き渡っていく。
果たしてこの先、どうなることやら?
今回は銀さんのテンションの差が激しかったですね。ヘタレからの、ちょっとカッコイイところを見せたと思いきや、やはりグダグダにしてしまう。何とも彼らしいと思います。
そして最後では、またもマタタビ酔い!? 今回はより波乱を起こしそうです……
さらに今日は偶然にもシノンとキャサリンの誕生日です。これからも剣魂では、誕生日ネタを積極的に取り入れていきたいですね。現在の話の時系列だと、近くてアスナ、シリカ、キリト、銀時……結構多いです(笑) どう構成しましょうか……?
ちなみに現在の時系列だと、近藤さんとエリザベスさんは誕生日が過ぎているので、ノーカンです……。
・お知らせ
現在書いている遊園地篇ですが、次回で完結するかやや怪しいです。予想よりも文体が多くなる可能性があるので、字数の平均から判断して一話構成か二話構成にしようと思います。
また、新長篇の連載も九月へ先延ばしになります。本当にすいません……
なるべく早く投稿できるように頑張ります!
次回予告
シリカ「ニャンニャン! 銀時しゃーん、遊びましょう―!」
銀時「おい! いいから目を覚ませよ! こんな場面、モロホンの原作者にでも見つかったりしたら……」
シノン「ねぇねぇ、サンドバックにしてもいい? 銀さんでストレス発散したいようー!」
銀時「誰か―! 助けてくれー!!」
土方「次回は……とりあえず、タイトルは未定だ。って、何やってんだオメェ!?」
銀時「お前の部下が原因なんだよ!!」