アスナ「もちろんこの私よね!」
キリト「俺も祝ってほしいよな」
銀時「おいおい、主人公歴の長い俺に決まってんだろ!」
シリカ「……主張しづらい雰囲気です」
主人公やヒロイン達に挟まれているシリカちゃん。銀さんを抜きにしても、なんでこうも近い誕生日に設定したのだろう。
とりあえずキリト。まずは誕生日おめでとう!
茶番はさておき、いよいよ新長篇が始まります! 前回の長編と同じく、今回も新キャラやオリキャラが多めに出てきます。どうぞ、最後までご覧ください!
第六十五訓 始動
銀魂の世界には幾つもの星々が存在している。頭部に触覚の生えた天人が住んでいる央国星、煙草の栽培地として有名なハメック星、ほぼゴリラのような容姿の天人が住む猩々星。どれも尖った個性を持ち、この他にも多くの星々が作中にて登場していた。
そんな星の中には、SAOの本作に出てきたゲームの世界観と酷似した星も存在している。その内の一つが、地球より遠くにあるALO星。別名アルヴヘイム星と呼ばれるこの星には、原典と同じく九つの妖精種族達が、魔法を使って互いに協力しながら暮らしている。
自然豊かな風景があちらこちらに広がって、種族ごとの領地には町や村が形成していた。さらに中心では、巨大な神木であるユグドラシルがそびえ立つ。ランドマークのような役割を果たすこの神木の中には、星を収める王女とその一家が暮らしている。
ユグドラシルの近くには「アルン」と呼ばれる、いわば城下町が星の玄関口として発展を遂げていた。他の星を繋ぐターミナルも近くに常設しており、今日もこの街には多くの観光客が行き交う。ALO星に住む住人達も、昨今の盛り上がり様には嬉しい悲鳴を上げている。
そんな城下町の日常を少しだけ覗いてみよう。
「あっ、シマノブさーん!」
「カヤノン! 久しぶり!」
町を巡回していた近衛兵が、本屋で働く知り合いの看板娘に声をかけられている。
前者は黄土色っぽい髪色をしたプーカの青年。全身に鎧を身にまとっている。一方の後者は、金髪ロングのケットシーの若い女性。ゆったりとした服装とエプロンを着用していた。
見知ったかである二人は出会い頭に、昨今の事情や出来事について話し始めていく。
「そっちの調子はどう? 確か本屋で働き始めてから、しばらく経ったはずだよね?」
「うん、そうね。全然悪くはないわよ。他の星からもお客さんが来ているから、毎日程よく忙しい感じね」
「そうなんだ。観光客相手にも商売しているのか」
本屋のアルバイトとして働く彼女は、忙しい日々を送っている様子だ。来店する客は地元住民だけでなく、観光に来ている天人も含まれているという。
会話の途中で彼らが辺りを見渡すと、町には妖精達に加えて、多種多様な天人達が通りを行き交っていた。観光地としては申し分ない盛り上がりに、二人も満足気な表情を浮かべている。
「僕達の星もだいぶ知られてきたようだね」
「ここ最近のブームのおかげね。でも……良い事ばかりじゃない気がするわ」
「えっ? それってどういうこと?」
ところが彼女には、一つだけ心配していることがあった。急にしかめっ面な表情を浮かべると、ある人物達に指を差し向けていく。
「例えば、あの人達とか」
「えっと……って、アレは!?」
二人が遠目から発見したのは――一際異彩を放つ団体の観光客である。
「ヒャッハー! 遂に来たぜ、ALO星へ!」
「最初はどこへ行きまっせ、リーダー!?」
「まずはルグルー回廊だ! その後は領地まで向かうぞ! 挨拶回りだぜ!」
「おぉー! これなら二週間のうちに全て回れそうですね!」
「いや、回るんだよ! そうと決まったら、行くぞ! GO TO アルヴヘイムだ!」
「「オー!!」」
常時高いテンションでバイクを乗り回すのは、モヒカン姿とジャケットの似合ういかつい男達。彼らは目的地を決めた後に、きちっと隊列を整えながら町中を突っ走っていく。
恐らく他の星からの観光客であるが、その独特すぎる服装や奇抜な雰囲気には、近衛兵や看板娘もつい気になり見入ってしまった。
「な、なんなんだ。あの人達は……」
「アレはGGO星からの観光客ね。この星とも距離が近いから、最近だともっぱらああいう類の人を見かけるのよ」
「そうだったんだ……モヒカン野郎が増えているのか」
「モヒカンは稀な方よ。奇抜なのは構わないけど、最低限ルールは守って欲しいところね。違法駐車なんてやられたら、町の雰囲気を壊すことこの上ないから」
「確かに」
どうやら看板娘によると、モヒカン男達の正体はGGO星からの観光客らしい。彼らの大半が移動手段として、バイクを所持したまま来国しているという。妖精らしいファンタジー感が売りのALO星とは、明らかにミスマッチであるが。中でも彼女は違法駐車と言った、町の秩序が乱れる行為を不安視している。
「大丈夫だって! もしそんなことがあったら、僕がちゃんと注意しておくからさ!」
「そう? じゃ、よろしくね」
すかさず近衛兵がフォローに入って、さり気の無い約束を交わす。頼りになる彼の一言に、看板娘も少しだけ安心感を覚えている。
一方で今度は、近衛兵の近況に話題が変わった。
「それでシマノブ君はどんな感じなの?」
「そうだな……今は稽古とパトロールくらいだよ。やれることって」
「えっ? でも近衛兵になったなら、姫様の警護とかはしないの?」
「それはもっと階級が上になってから。今じゃその枠は、別のチームが担っているし」
彼女のイメージとは裏腹に、彼の仕事内容は思ったよりも現実的である。兵に抱いていた役人の警護も、自身の階級によって決まるそうだ。
現在ではとある六人体制のチームが、姫様直属の親衛隊として役目を受け持っている。
「別のチーム? もしかして、あの人達のこと?」
「そうそう。確かチーム名はス――」
近衛兵がチーム名を言いかけた――その時だった。
〈キューン――キューン〉
「ん?」
彼の耳に聞こえてきたのは甲高い耳鳴り。軽い不快感を覚えており、雑音っぽく捉えている。
「どうしたの、シマノブ君?」
「えっと……変な耳鳴りが聞こえなかったか?」
思わず看板娘にも聞いてみるが、彼女は特に感じていない。
「耳鳴り? いや、全然」
「嘘だろ!? 絶対確かに聞こえて……いや、待てよ。もしかしてモンスターが町に近づいているのか? 僕ちょっと、見回りに戻るよ!」
「えっ、シマノブ君!?」
耳鳴りの正体を気にしていた彼は、勝手な推測でモンスターの仕業と仮定。居ても経ってもいられずに、場を離れてパトロールを再開している。
「もう……怪我しないように気を付けなさいよ!」
彼の無鉄砲な性格に苦労を覚えつつも、看板娘は優しく彼のことを見守っていた。穏やかな笑みを浮かべて、彼女は本屋の接客へと戻っている。
だが二人は気が付いていない。聞こえてきた耳鳴りの正体が、鏡の世界に潜んでいる漆黒の戦士だと言うことに。
「フッ、能天気な奴等め。もうじき僕等の作戦が遂行されるなどつゆ知らずに……!」
戦士は赤い複眼を不気味に光らせると、鏡の中から姿を消している。
平和かつ活気に溢れる町アルンに、邪悪な魔の手が少しずつ近づいていく……。
ALO星では最近、星の統治者が変わったことにより、国の体制にも大きな変化が訪れていた。比較的若い女性が女王を継承したことで、各種族の領主のみならず、他の星との関係も一変。国の治安改善や発展のみならず、他の星との交流もより深めていた。おかげで昨今の観光ブームにも、彼女が一役買っている。日々星や国の発展の為に、自分なりの方法で尽力を注いでいた。
だがしかし、この体制を快く思わない者たちも中にはいる。彼らは町より離れた洞窟内にて、密かにアジトを形成していた。
その組織の名前はマッドネバー。いわゆる反逆者とも言える彼らの目的は、気に入らない女王を自分達の手で引きずり降ろして、クーデターを成功させること。
着々と計画を進めていた彼らの元に、突如として転機が訪れていた。それは他勢力との協力である。資金や技術力は、高杉率いる鬼兵隊から援助。しかしこれは一方的な協定であり、途中でマッドネバー側が自らの手で破棄している。
そしてもう一方は、サイコギルドの資材提供だった。彼らがサイコホールによって集めた怪人達の欠片は、総帥の技術力によって本体を復元しており、これが組織の兵力拡大に繋がっている。
もはやクーデター実行まで目前と迫る中で、マッドネバーの元にサイコギルドの一員であるアンカーとシャドームーンが、彼らの様子を見に来ていた。
「フッ、来てやったぞ。情報通りに出来たのか? 平成怪人達の記憶と言うのは」
「おぉー。これはサイコギルドの皆さん。よくぞ来てくれた。この僕の研究成果の為に」
「相変わらず自己主張が激しいな。オベイロンよ」
二人の目の前にいるのは、マッドネバーの総帥兼科学者の――オベイロンである。その姿はかつてキリト達と敵対した須郷信之こと、妖精王オベイロンと酷似しているが、彼とは何も関係はない。いわば銀魂の世界で暗躍する、この世界のオベイロンなのだ。
その容姿も偶然なのか原典とほぼ酷似している。光沢のある金髪に一段と鋭い目つきやとんがった耳、頭部には金色の王冠を装着していた。全身を覆う緑色の服装は、貴族のような雰囲気を醸し出している。しかし、この世界ではあくまでも科学者の一人だ。
そんな彼の本性は、原点と同じく傲慢さと野心に満ち溢れている。
「そっちこそ、ふてぶてしい態度は変わらないな。シャドームーンよ」
「やかましい。それよりさっさと、平成怪人達の記憶を渡してもらおうか?」
「まぁ、焦るな。ちゃんとブツは渡すから安心しろ。いやーそれにしても、君達には大変感謝しているよ。君達がくれた怪人の欠片のおかげで、我が組織は飛躍的に進歩した! この戦力ならいずれ、僕がALO星の王として君臨する日も近いな……!」
長々と自身の想いを語った後に、自信に満ちた表情を浮かべていた。隠し持っていた野望が現実味を帯びて、心の底から気持ちを高ぶらせていく。
(こいつ、まったく変わってねぇな)
若干慢心気味のオベイロンに、シャドームーンも内心では気を引かせている。
一方で隣に待機しているアンカーは、彼ともあまり顔を合わさず、今日一日よそよそしい態度を続けていた。
「どうした、アンカーよ。まだあの事を引きずっているのか?」
「別に……なんでもないよ」
彼から心配されても、冷めた態度で言葉を返す。以前に生じた考え方の違いから、アンカーはサイコギルド自体に不信感を持ち始めていた。
とそれはさておき、オベイロンは再び自信良く声を上げてくる。
「まぁ、いいさ。約束通りブツを渡す前に、ひとまず僕の研究成果を見てもらおうか」
彼は指をパチンと鳴らして、復元した怪人の一体を場に呼び寄せた。現れたのは茶色い体色に覆われた、屈強そうなカブトムシ型の怪人である。
「こいつは……グロンギ怪人だな」
「その通り。コイツは僕が最初に復元した怪人でな、戦闘力も高く幹部級に着いてもらっているんだよ」
オベイロンの言う通り、怪人の正体はグロンギの一種であるゴ・ガドル・バだ。原典でも圧倒的な戦闘力を持ち、最強の戦士として名高い怪人である。そんな彼は現在、復元されるとマッドネバーの幹部怪人として配属されていた。
このようにオベイロンは、提供された欠片から数多の怪人達を復元させて、マッドネバーの戦力として従えているという。
「ゴラゲロゴセドダダバグバ? (お前も俺と戦うか?)」
「えっ? 何を言っているの?」
するとゴ・ガドル・バは、濁音を多用した言語を発してきた。これはグロンギの特徴でもあるグロンギ語である。
「アレはグロンギ語だな。まさかここまで再現しているとは」
「当然だ。個の強さを強調するには、完全再現が間違いないからな。この僕の技術力さえあれば、容易いことさ! ハハハ!!」
その再現度の高さから、シャドームーンは思わず感服していた。機嫌を持ち上げられたオベイロンは、甲高い笑い声を発して、調子に乗っている。自身の才能を自画自賛して、酔いしれているようにも見えなくはない。
(何か分からないけど、すっごくムカつく気がする)
思い上がる姿に、アンカーも内心では腹を立ててしまう。この数分の間に、彼への印象は最悪なものへと化している。
だがサイコギルドにとって、肝心なのは彼ではない。マッドネバーとの契約時に結んだ、平成怪人達の記憶の確保が目的だ。
「さてと、話はここまでにしよう。約束通りに平成怪人達の記憶を渡してもらおうか」
「フッ、いいだろう。さぁ、受け取るがいい」
要件を急かされたオベイロンは、手のひらを広げて禍々しさを放つ緑色の球体を作り出している。それをさっとシャドームーンの元まで飛ばしていた。この球体こそ、圧縮された平成の怪人達の記憶である。
「ありがたい。確かに頂いた」
「それを有効活用してくれよ。なんせ僕の技術力の結晶だからな」
自分の手柄だと言わんばかりに、研究成果の主張を続けるオベイロンだが――アンカーからは手痛い指摘が加えられていた。
「アレ? でもアンタの手下さんに聞いたら、別組織の資金と技術があったから、出来たって言っていなかった?」
「……ケホン。それはそうと、僕からの約束も果たしてもらおうか」
「いや、なんで無視するの。絶対不都合だったからでしょ」
核心を突く一言には何も言い返せずに、まるで何事も無かったかのように無視している。意地でも手柄を主張したい、自尊心が垣間見えていた。
どさくさ紛れにオベイロンは話題を切り替えて、事前に依頼した遺跡の行き方について聞いていく。
「約束? あぁ、あの遺跡の行き方だな」
「そうだ。発見したはいいが、行き方がどうも分からなくてな……何か分かったことはあるか?」
「あの遺跡へ行くには、特定の呪文が必要だ。呪文を唱えながら、ゾロ目が揃う時間帯に近くの扉を開け。そうすれば、行けるはずだろう」
「呪文だと? それも把握しているのか?」
「あぁ、そうだな。確か始まりは――」
するとシャドームーンは、遺跡へ向かう特殊な呪文をひっそりと教えていた。
「そうか、分かったぞ。これならばも英雄の力も手に入り、僕の研究がようやく完成する……!!」
「それは良かったな。では、もう用が無ければ去るぞ」
「ご苦労だった。サイコギルドよ……」
マッドネバーとの要件を全て済ますと、彼はあっさりとすぐに場から立ち去っていく。何とも呆気ない別れ方に、アンカーも若干戸惑っている。すかさず彼女もシャドームーンの跡を追いかけていた。
「ちょっと、あれで良いの? あのままアイツを放っておいて?」
「気にするな。俺達が欲しかったのは、平成の怪人達の記憶だけだ。それさえ手に入れば、アヤツのこと等どうでもいい。それにあの男の傲慢な性格は、肝心なところで爪を甘くする。俺達が関わらずとも、簡単に自滅するだろう」
「そうなの……?」
やはり彼にとっての興味は記憶だけで、マッドネバーには一斉肩入れしていない。仕舞いには自滅するとまで断言している。
この件からは身を引くサイコギルドだが、アンカーのモヤモヤとした気持ちは未だに収まっていない。
(私もこのまま、シャドームーンと一緒にいていいのかな?)
徐々に感じている考え方のズレ。それは日に日に大きくなり、彼女の心にも迷いを与えている。それでも今は気持ちを押し殺して、彼についていくしかなかった。
そんな二人の去り際を、オベイロンとゴ・ガドル・バはじっと見張っている。
「ゾンドグビリボガギデギギギバ?(本当に見逃して良いのか?)」
「ザバデデゴベ。ドブサンロブデビパブビンゲギガヅザ。ゴセザベゾビロビレギジソ(放っておけ。僕らの目的は国の制圧だ。それだけを肝に銘じろ)」
彼からの指示を受けて、ゴ・ガドル・バはこくりと頷いた。彼らもサイコギルドには興味を示さず、取引を終えた時から他人事のように片づけている。
探し求めていた遺跡の行き方を知ると、オベイロンは咄嗟にある計画を打ち立てていた。
「さぁ、次元遺跡への扉は開かれた! この僕も、英雄となるチャンスが巡ってきたのだ! 是非ともお前達には、その調査に向かってもらおうか!」
そう高らかに声を上げると、彼は後ろへ振り返る。そこには話を聞き流していた手下の天人達がいた。声をかけられて、意気揚々と表舞台に姿を見せてくる。
「フッ、ようやく俺達の出番か」
「いよいよこの力を使えるのね」
「存分に暴れちゃうよ……!」
彼らの正体は、以前にもサイコギルドと邂逅したことのある辰羅や夜兎達だ。皆その手には、指輪やメダルと言ったアイテムを握りしめている。戦闘への意欲も高めており、テンションも徐々に高めていく。
しかしその人数は一人だけ欠けている。
「おや? 夜兎が一人足りないぞ」
「あぁ、あいつのことか。早速変身したついでに、鏡の世界へ行ったまま帰ってきてないぞ」
「また勝手なことを……早く呼び戻せ! もうすぐゾロ目の時間帯になるんだよ!」
「はいはい、分かったから」
どうやら暇を持て余したそうで、命令を無視して無断で行動しているようだ。遺跡へ向かうには時間の条件もあるので、彼は思い通りにいかず、怒りを露わにしている。初っ端から予定を大いに狂わされていた。
だがしかし、彼らは誰一人として気付いていない。アジトへと密かに潜入していた、とある少女の存在に。
(へぇー。そんな遺跡があったんだ。英雄の力か……行ってみようかな)
遺跡の話を盗み聞きした彼女は、足音を立てずに素早く場を跡にした。彼女は予め外見を透明にする魔法を使用しており、おかげでアジト内に侵入しても、誰にも気配を悟られていない。通路を通りかかる怪人達にも気付かれず、気持ちを浮かせたまま走り抜けていた。
ところが……魔法は徐々に解け始めている。
「ん? あの女は?」
姿が消えたり現れたりする中で、走り抜ける姿をあの漆黒の戦士に見つかってしまった。鏡の中から覗いている為、当然少女は発見されたことに気付いていない。
「あいつらにも知らせた方が良いな……」
そう呟くと彼は、急いで同士のいる研究室へと向かう。
一方の彼女は人気の無い場所に着くと、近くにあった扉の前に立ち止まる。魔法が解けて実体を戻してから、壁に掛けられた時計で時間を把握していた。
「11時10分か。ちょうどいい時間帯ね」
ゾロ目の時間帯まで約一分を切っている。盗み聞きから遺跡の行き方は知っているので、後は呪文を唱えるだけであった。
「確か呪文は……クウアギリュファブレヒビカブデンキバディ、ダブオーフォウィガイドラゴーエグビルジオ!」
ドアノブを手で握りしめてから、呪文をそっと唱えている。全てを言い終えたその途端に、時刻はちょうど11時11分11秒を指し示していた。
すると扉は眩い光を放ち、遺跡までの通路を繋げている。未知なる地への扉が開かれた瞬間であった。
「おー光ってる! よし、行こう!」
彼女は好奇心の赴くままに、扉を潜り抜けて次元遺跡へと足を踏み入れていく。
そして同じ時間帯に、マッドネバーに属する夜兎達も次元遺跡に向かっていた……
場面は変わって、こちらは次元の狭間にあると言われる次元遺跡。一般人が立ち入ることは不可能な場所で、その存在を知る者すらほぼいない。
しかしオベイロンは、独自の研究から遺跡の存在を確認。侵入方法もサイコギルドの協力によって見つけ出していた。彼はある理由から、遺跡に眠っているとされる強大な力に狙いを定めている。
そんな未開の地に一足先へ降り立ったのは、会話を盗み聞きしていたとある妖精の少女。興味本位で来ていた彼女は、現在遺跡の奥部へと足を進めていた。
「おっ、また扉? もしかして、この先に秘宝とかあるのかな?」
すると見えてきたのは、分厚く閉ざされた一枚の扉。行き止まりでもあり、ここが遺跡の奥部だと予測していた。まじまじと周りを眺めると、扉の横に配置された手形の痕跡が目に止まる。
「もしかして手を合わせろってこと? これで扉が開くの?」
彼女は手形の通りに右手を広げた後、その痕跡に手をかざしていく。てっきりこれで扉が開くものだと、信じ込んでいたのだが――
〈ビリィ!〉
「痛!? 何今の電流!? そういう仕掛けだったの、コレ!?」
残念ながら予想は外れてしまう。手をかざした瞬間に、ちくっと電気ショックのような痺れが体に流れ込んでいた。簡単には人を通さない、いわばセキュリティーの対策は徹底しているのだろうか?
「もう一度やってみようかな……?」
仕掛けにお見舞いされても、簡単には諦めない。電流による痛みよりも、全貌を知りたい好奇心が遥かに上回っているからだ。また手をかざそうとした――その時である。
「ねぇ、今声がしたわね!」
「間違いなくあいつだ! さっさと捕まえるぞ!」
彼女はふと耳を澄ますと、こちらに近づく男女の声を聞き入れていた。これでようやく、遺跡には自分以外の人間がいると把握している。
「えっ、なんでバレてんの!? てか、早く逃げないと!」
咄嗟に危機感を覚えて、すぐに場から逃げ出していく。黒い羽を広げて空中速度を上げると、遺跡へ降り立った扉まで一目散に向かう。常に警戒心を高めて周りを注視していた。
するとようやく目的の扉が目に入ってくる。
「あった、あの扉だ! アレで元の世界に……」
誰にも見つからずに、無事に帰れると確信した時であった。
「行かせるか! この盗人め!」
「うわぁ!? って、コウモリ!?」
突如として彼女の目の前に、奇怪な生物が姿を見せている。小さい羽をパタパタと動かし飛行する、黒色のコウモリだ。しかも厄介なことに、人間と同じ言葉で話せるようである。
「早く来い! 妖精の女を見つけたぞ!」
「って、何を知らせてんの!? いいから黙って……」
コウモリは冷静な態度で、追っ手に少女の存在を知らせていた。告げ口を聞くと、彼女は必死にコウモリの動きを封じ込もうとしている。迷惑この上ない仕様に、手を煩わせていた。
だがしかし、少女を追うのはこのコウモリだけではない。
「クワァー!」
「キャ!?」
突如として横から現れた物体と衝突してしまい、床に叩きつけられていた。ふと足を覗くと、そこには大きく噛みつかれた歯跡が刻まれている。
「痛! 何この跡……って、今度は黒い龍!?」
軽い痛みを伴いつつも、彼女は自身と衝突した正体を目にしていた。そこには見たことも無い大型の黒き龍が、こちらをじっと睨みつけている。赤い目を禍々しく光らせて、少女に威嚇を続けていた。
「グワァァァ!」
「うわぁ! こっちに来るなー!」
黒き龍の咆哮に恐れて、取り乱してしまう。右手を上下に振りながら、必死に抵抗した時であった。
〈カチ!〉
「えっ、スイッチ!?」
壁に手を当てた途端、何かが起動する音が聞こえてくる。嫌な予感を察しているが、それは見事に当たっていた。
〈ヒュル!〉
「えっ!? キャャャャ!!」
なんと寄りかかっていた壁が回転して、少女はそこに出来た隙間に落下してしまう。その先には次元同士を繋ぐ紫色の歪な空間が広がり、そのうちの一つの世界に吸い寄せられてしまった。
「どこに行っちゃうの、これー!?」
悲痛なる叫びは空間全体へと響き渡っている。もちろん誰の耳にも聞こえず、彼女は光の彼方へと消えてしまった……。
「逃がすか!」
「待ちなさい!!」
一方でこちらは少女を追跡する追っ手達。彼らが追いついた時には、もうすでに少女は遺跡外に放り出されていたが。
すると黒いコウモリが、二人に状況を伝えている。
「遅かったな。あの女なら遺跡の外に放り出されたぞ」
「えっ、本当に!? これじゃどこへ行ったか分からないじゃないの……」
対象の行方が不明となり、がっかりとしてしまう女性。しかし彼女とは対照的に、青年は前向きに気持ちを切り替えていた。
「いや、心配は無用だよ」
「ん? 何か策でもあるの?」
「そうそう。ドラグブラッカーがあの女に噛みついたんだ。この匂いがあれば、どこに行ったのかも分かるかもね」
「へぇー、そうなのね。やるじゃんアンタも」
どうやら彼によると、黒き龍――いやドラグブラッカーの作戦で、事前に少女へ印を付けておいたらしい。これさえあれば、現在地も特定できるようだ。
「仮にも僕達は異形の力を手にしたんだ。使える者は有効活用しないと。そのコウモリのようにね」
「もちろんよ。ねぇ、キバットバットⅡ世」
「そうだな」
彼らの柔軟な考え方には、コウモリ――いやキバットバットⅡ世も共感していた。
夜兎達が手にしたとされる異形の力。それはかつて、別世界で猛威を振るった漆黒の戦士の力である。使役するモンスターらに感謝しつつ、彼らは周到に少女の尾行を再開していく……。
一方で次元の彼方へと消えた妖精少女はというと、
「ここは……どこなの?」
真っ暗な闇が広がる森林にて力尽き倒れこんでいる。落ちていた無数の木の葉を埋もれながら、ひっそりと眠りについていた。
彼女が辿り着いた世界は、幸いにもALO星と同じ宇宙に存在する地球の某所である……。
再び場面が変わって、こちらはかぶき町にある万事屋銀ちゃん。時期は九月の中旬頃。秋の夜長にと彼らは夕食を食べ終えた後に、テレビで放送されている特番、カマシスギ都市伝説を興味深く見入っていた。
「へぇー、人間にも生き返る術があったんですね」
「その通りです! 死んでしまった人間は十五人の英雄の力を集めることで、この世に生を戻すのです! この話、信じるか信じないかはアナタ次第です!」
番組内では話の締めとして、セキさんの有名な台詞が決まっている。彼はゴーストになった人間の隠された蘇生方法について熱弁していた。
あくまでも噂程度の話だが、ユイはこの話に強い興味を示している。
「十五人の英雄ですか……!」
「おっ、ユイもこの噂が気になったアルか?」
「もちろんです! セキさんの話はどれも不可思議で、とっても興味深いですから!」
神楽からの問いに彼女は、満面の笑みで返答していた。相当この都市伝説系の番組を気に入った様子である。
「そういえばユイは、オカルト系の番組を見るのは初めてだったな」
「オカルトじゃありません! 都市伝説ですよ、パパ!」
「ハハ、ごめんって」
「でも確かに、ユイちゃんが気に入る理由も分かるよ。どれも意味深なものばかりだし」
「なんたって、都市伝説ですからね!」
新八ら仲間達とも面白さを共感しながら、彼らは引き続き会話を弾ませていた。より場は賑やかになる一方で、二人ほど会話に入れていない者達がいる。
「あっ、ところで銀ちゃんとアッスーはまだビビっているアルか?」
「そうだな……まだ一向に振り向かないし」
神楽やキリトが目線を向けたその先には――居間の隅っこで耳を塞ぐ銀時とアスナの姿があった。共に正座をしながら、幽霊系の話が終わらないか、今か今かと待ち続けている。普段から相性の合わない二人だが、今回ばかりは互いに協力しあっていた。
「おい……あの話って、もう終わってんのか?」
「私に聞かないでよ! ずっと耳を塞いでいるんだから、いまいち進行が分からないのよ!」
「それくらい把握しとけや! 仮にもお前、元血盟騎士団の副長だろ? そういう気配りくらいできないのかよ?」
「私に何を期待しているのよ! そもそも銀さんだって、攘夷戦争の英雄の一人なんでしょ? そんな人がお化けくらいにビビって、恥ずかしくないのかしら?」
「あんだと!? そっくりそのまま返してやるよ! ヤンデレ症候群!」
「言ったわね、ニート侍! 私と違っていい大人なんだから、怖いのくらい我慢しなさいよね!!」
「何を……!」
はずが、途中から不満が爆発して喧嘩寸前の空気に変わり果てている。銀時、アスナ共に互いの顔を睨みつけて、一時の意地を張り続けていた。負けず嫌いな性格が、悪い方向へと向かっている。
見るに堪えない二人の言い合いに、仲間達も思わず仲裁へと入っていた。
「って、銀ちゃんにアッスー! この辺にしとくアルよ!」
「そうですよ! 幽霊の話はとっくに終わりましたから!」
「えっ、そうなのか?」
「なんだ、良かったわ……」
新八らからの補足を聞いて、二人はほっと心を落ち着かせていく。次第に冷静さを戻して、喧嘩の予兆もすんなりと収まっていた。
「って、じゃ今は何をやっているの?」
「今は確か、セキさんがロケをしているな」
「空川町ってところで、あるモノを探すみたいですよ!」
アスナからの質問に、キリトやユイが返答していく。どうやら番組はトーク形式からVTR形式に変わり、またもセキさんが視聴者に概要を語りかけていた。
「おぉー、来たね! 空川町! こののどかな町の奥には、自然豊かな森があるんだよね! 森の奥を潜り抜けると、そこにあるのはそう! 古びた遺跡! 最近皆さんはこんな噂を耳にしたことはありませんか? 次元の狭間にある遺跡の存在を。もしかするとこの二つの遺跡、妙な関係を秘めているのかもしれませんよ! さぁ、早速向かいましょうか!」
彼が熱弁したのは、密かに噂されている遺跡の存在。次元の遺跡を話に挙げて、ある町の遺跡との関係を示唆していた。
意味深かつ不可思議な内容に、万事屋一行もつい気になってしまう。
「今度は遺跡の謎ですか!」
「こっちも面白そうアルナ!」
特にユイと神楽は、好奇心を震わせてテレビに食いついていた。一方の銀時らは、別の視点から遺跡に興味を向けている。
「空川町って、結構近い場所じゃねぇかよ」
「えっ? そうなのか?」
「確か列車で行ける距離なんですよ。キリトさん達の世界で言うと、東京から埼玉に行く感覚なんですよ」
「そんなに近いんだ……」
空川町の所在地を知って、キリトやアスナは小さくも驚いていた。彼らも元の世界では埼玉県に住んでいるので、妙に距離の説明には納得してしまう。
するとここで、聞き捨てならない一言が飛び出ていた。
「ハハーン。こちらの方にお伺いしましょうかー。何か最近変わったことはありますか?」
「いやー実はね、最近見たんですよ。銀色の怪獣みたいなやつと、槍を持った女の子をね。アレは幻だったのかなー」
「そうですか! これは貴重な情報ですね!」
映し出されたのは、セキさんが町の老人から情報を得る一幕。町人が例えた表現に、一行は思わず耳を疑っている。
「えっ? 銀色の怪獣……?」
「槍を持った少女って……!?」
「もしかして、サイコギルドでは!?」
そうこの情報は、サイコギルドの面々とまるで特徴が一致していた。思いもしなかった情報提供に、キリトら三人は目を丸くしてしまう。
もちろん銀時らも、多少なりとも驚いている。
「おいおい、まさか本当にあいつらなのか?」
「確かに。次元を行き来する能力があるとしたら、一枚咬んではいそうですけどね」
特に銀時や新八は、冷静に物事を判断していた。サイコギルドに関する情報がわずかしかない中で、この手掛かりは大変貴重である。無いよりはマシと言ったところか。
さらに神楽は、早とちりである行動に移っている。
「こうしちゃいられないネ! ねぇ、みんな! 明日は空川町に行ってみるアルよ!」
「って、神楽ちゃん!? 急すぎるって! まだ本人だって、確定してないんですよ!」
「それでも行ってみるべきですよ!」
「そうね。私達から行動して、真実を確かめに行きましょうか!」
「それじゃ、シリカやリズ達にも声をかけてみるか」
「いや、アイツらまで誘うのかよ!? 遠足じゃねぇんだぞ、おめぇら!」
いてもたってもいられずに、ほぼ決めつけで空川町へ行くことを決めていた。番組そっちのけで、サイコギルド関連にテンションを高めている。
こうして万事屋一行は、仲間と共に空川町へ行くことを決めていた。サイコギルドの足取りを探すため、各々がやる気を高めている。
ALO星で暗躍する反逆者。地球に転移した妖精の少女。彼女を追いかける夜兎達、サイコギルドの謎を追う万事屋一行。様々な出来事が重なり合い、新たなる物語が幕を開けた……。
※没になった前書き
今日は10月4日! この日と言えば……
シリカ「はいはーい! アタシの誕生日なんですよ! 皆さん、祝ってくださいね!」
ゴースト「そしてこの俺、天空寺タケルの誕生日でもあるんだ!」
シリカ「うんうん……って、誰!?」
ゴースト「細かい事はいいから! という訳で、剣魂の新長篇が始まるぞ! 読者のみんなもバッチリカイガンして見てくれよな!」
シリカ「だから誰なんですか、アナタは!?」
おまけ予告 カマシスギ都市伝説!
今宵もアナタを惑わす噂の数々をお送りしよう……
「実は一昔前に起こった大量殺人事件は、戦闘民族の人殺しゲームが絡んでいるんですよ」
「本来の人類は一万年前に起きたサバイバルで勝ち残って、地球の支配者となったという記述が最近出てきたんです」
「超能力者が何故公にならないのか? それは神に近づく人間を恐れる生命体によって、抹殺されているから」
「人は絶望すると体の中から化け物を生み出すらしいですよ」
「宇宙を侵食する森が多くの星で持ちきりになっているんですよ」
セキさん「さぁ、これらの噂。信じるか信じないかは、あなた次第です!」
新たなる長篇はいかがだったでしょうか? ALO星で暗躍する反王権組織、マッドネバーとその総帥のオベイロン。彼に味方するのは数多の怪人達と、ごく少数の天人達。そして後者が従えていたモンスターや、所持していたアイテムとは一体? 次元の遺跡も明らかとなって、増々謎が出てきましたね。今後銀さんやキリト達とどう絡むのか、注目してください!
そしてこの長篇に関係するのは、話を盗み聞きしていた妖精少女。実はSAO出身のキャラクターなんです! 全貌は次回以降に明かしますが……
ちなみに冒頭から出ていた近衛兵と町娘は、特に長篇とは関係ないのですが、名前は少し小ネタっぽくしました。分かる人には分かるはずです。
ではまた次回、第二回目でお会いしましょう!
諸事情でコメントを返すのが遅くなるかもしれません。そこはご了承ください。
次回予告
神楽「電車なんて、物凄く久しぶりアルよ!」
沖田「どうしたんでい、俺に警戒して」
リーファ「いや、だって……沖田さんだし」
ユイ「公衆電話なんて、私初めて見ました!」
銀時「って、まさかの帰宅オチかよ!?」
キリト「君は……?」
フィリア「私は……フィリア」
――目覚めろ、その魂!