剣魂    作:トライアル

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落ち着いたら本格的にツイッター再開したいぞい。






これまでの剣魂 妖国動乱篇は

ユウキ「よしっ! それじゃ、次に向けて頑張ろう!!」

シウネー「ユウキ! ここの怪人達は私に任して、貴方はオベイロンの元へ向かって!」

ジュン「そっくりそのままお返しするよ! テロリストなんかには言われたくないね!」

タルケン「そう言われなくても戦いますよ! 私達がアルンの平和を守るのですから!!」

ノリ「もう仕掛けは分かった! これでもう遠慮なく闘えるってね!」

テッチ「そう簡単にやられてたまるか! おぉぉぉぉぉ!!」

〈オンライン! マキシマムドライブ!!〉

ユウキ「みんな!!」
シウネー「そんな……」

アナザーエターナル「痛い! 痛い! 貫通した! これ絶対に体貫通しているよぉ!!」

高杉「大したもんじゃねぇよ、ただのテロリストさ」
シウネー「テロリスト……?」

新八「何とか……って、アレは?」
ユイ「怪人? まさかマッドネバーの?」



ユウキ「う、兎!? 僕、妖精ですら無くなっているよ!! どうしてこんなことに……?」

ALO星の剣士ユウキ 万事屋のいる地球に移動して、その瞳は何を見る。



第七十六訓 マッドネバー再来襲!

「着いたよ。ここが地球のかぶき町さ」

「この町にあのガキがいるのだな」

 突如として地球にあるかぶき町に出現したのは、野卦を中心としたマッドネバーの一味。彼らは宇堵の使用したテレポートリングで、地球まで瞬間移動していた。転移した先は人気のない広い裏路地。到着早々一行は体を伸ばしていく。

「うぅー。なんでこんな面倒くさいことしなきゃいけないのかしら」

「これもヤツの命令だからな。致し方ない」

 亜由伽のふとした愚痴に、近くにいた唖海が返している。

「作戦が終わった後はもう自由なんだし、ここは我慢しとこうよ」

「だな。宇宙中でこの力を使うのが楽しみだな……!」

 二人に続いて宇堵や野卦も声を上げていた。どうやらダークライダーの変身者は、協力者であるオベイロンの作戦が終われば、自由の身となるらしい。ここが踏ん張りどころと一同は鼓舞していく。

「そうね。それじゃ、あの女を捕まえに行くわよ」

 吹っ切れたように亜由伽は、仲間達に改めて今回の作戦を伝えている。

 彼らがわざわざ地球までやって来た目的は、万事屋の一人であるユイを拉致すること。彼女は次元遺跡にて奇妙な力を発揮しており、それをきっかけにオベイロンが研究材料として目を付けていた。おかげでダークライダー達は本来の作戦を離れて、やりたくもない作戦を任されることとなったのだが……

 それはさておき、主に言われたからにはしっかりとやるしかない。念には念を入れて、この作戦には数名の幹部怪人やその配下である戦闘員も引き連れている。大所帯でユイを拉致しようと画策していた。

「ひとまず僕の力でミラーワールドに入ろうか。このまま大勢で行動しても、目立つしさ」

「そうだね。一部は現実世界に残しておこうよ」

「俺はそれで構わないぞ」

 さっさと任務に取り掛かりたい野卦達だが、最初は捜索のための下準備を進めていく。

「ギギ……」

「ほら、さっさと入れ。後が突っかかるんだからさ」

 野卦は連れてきていた戦闘員の一体、シアゴーストに命令。偶然出来ていた水たまりを利用して、無理やりミラーワールドまでの道筋を作ろうとしていた。

 天人が頻繁に行き交う地球では、怪人を連れていても特に問題は無いが、大所帯であるが故に集団での行動はかえって目立ってしまう。そこで一部の怪人達を除いて、大半のメンバーは誰もいないミラーワールドからユイを探索するようだ。

「ウッ!」

「よし入った。後はドラグブラッカーが入り口を繋ぐから、さっさとみんなも入りな」

「了解~! それにしても楽ちんだね。ミラーワールドって」

「まぁな。便利な能力を手に入れたもんだぜ」

 数分ほど時間はかかったものの、ようやくミラーワールドの道筋が開く。今一度野卦はこの能力が手に入ったことを誇らしく感じていた。元を辿れば、この技術力を再現したオベイロンのおかげとも言えるが――彼を見下しているため、その考えには至っていない。

 それはさておき、変身者や幹部怪人、戦闘員と次々にミラーワールドに入り込んでいく。そんな最中。変身者の一人である亜由伽だけは、不意に奇妙な視線を感じ取っていた。

「おや?」

「どうした、亜由伽?」

「いや、何でもないわ。ただの気のせいみたい」

「そうか」

 振り返るとそこには誰もおらず、彼女はただの思い過ごしだと括る。心配して声をかけた唖海にも、何事も無かったかのように言葉を返していた。

 こうしてマッドネバーの通称誘拐部隊は、現実世界と鏡の世界の捜索班に分かれることとなる。

「それじゃ、後は頼んだぞ」

「あぁ……。こっちも行くぞ」

 前者では、レオイマジンとその部下であるレオソルジャーが担当することになった。四人一組で行動して、こちらは地道な手段でユイを捜索していく。このまま町の大通りに踏み入れた彼らだが、町の住人達はどこかの星の天人だと思い込み、不思議そうに見ていたが騒ぐことは無かった。

「さぁ、こっちもよ」

「待っていろよ」

 時を同じくして、ミラーワールドに入った捜索班も動き出す。人がいないことを利用して、好きなように分散していた。適宜周りの鏡や反射物で、現実世界の様子を確認。そこからユイを見つけ出すのだ。

 静かなる捜索が、今まさに始まったのである……。

 

 

 一方でそんなマッドネバーの様子を、近くから様子見していた者がいた。

「危なぁ……! 一足遅かったら、見つかっていたところだよ」

 ぜぇぜぇと息を吐き散らしながら安堵の表情を浮かべるのは、諸事情でウサギになってしまったこの世界のユウキ。どさくさに紛れて一緒にテレポートしており、彼女も地球へと来訪していた。転移後に彼女は近くのドラム缶の影に身を潜めており、幸運にもマッドネバーには存在を悟られていない。何にせよ一安心だ。

「どうやら誰かを探しているみたいだけど……あの怪人を追いかければ大丈夫かな?」

 ユウキは密かに聞いていた会話を元に、情報を整理していく。どうやら地球にいる誰かに狙いを付けている様子だが……?

「とりあえず行こう!」

 ゆっくりと考えている暇もなく、レオイマジンの跡を密かに追いかけていく。そんな彼女の背中には自身の刀剣と、オベイロンから奪った数本のガイアメモリやスロットを包んだ手拭いを背負っている。荷物も肌身離さず大切に運んでいく。ちなみにだがウサギになったユウキに合わせて、何故か刀剣も小型化している。ガイアメモリの影響なのだろうか?

 と独自の行動を続けるユウキだが、内心では想定外の事態に少し困惑気味である。

「ところで姫様じゃなかったんだ……とんだ勘違いをしていたよ。僕、ALO星まで帰れるのかな?」

 数分前のマッドネバーの会話から、てっきりALO星の王女であるフレイアに牙が向くと思いきや、それはただの思い過ごしに過ぎなかった。仲間の幽閉や自身のウサギ化と思わぬトラブルが相次ぎ、ユウキも内心では焦りが生じていたのかもしれない。薄々とそれが原因だと悟っている。

「とにかく今は、あの怪人の跡を追いかけないと!」

 それでもなお、今は迷いを振り切って突き進むしかない。マッドネバーの狙う少女と遭遇すれば、少しでも組織の狙いが分かるかもしれないからだ。周りの住人からも気付かれることはなく、ユウキの尾行は続いている。

 

 

 

 

 

 ユウキが地球へと転移した一方、ALO星でも大きな動きがあった。

「テロリスト……?」

 マッドネバーの追手から逃げていたシウネーが遭遇したのは、テロリストを自称する紫髪の男。女性ものの着物を羽織って、軽装な風貌ながら刀を装備している。妖艶かつ危険な印象を持ち合わせるこの男の正体は――鬼兵隊の総督である高杉晋助だ。

「フッ。知らないならいいさ。それよりお前は……この星で言う騎士団だな?」

「な、何故分かったのですか!?」

「ただの勘さ。特に大した意味は無ぇよ」

 高杉は即座にシウネーの正体を見切って話しかけてくる。怪訝そうな表情を一切変えず淡々と声に出す姿勢は、彼女にただならぬ不信感を与えていた。

(この人、怖すぎます……あのオベイロンとも声が似ているし、テロリストとも自称していますし、味方とも言えなさそうです……)

 少なくとも友好的ではないと察している。声質がオベイロンと似ている部分に関しては、単なる風評被害だが……。

 警戒心を高める彼女だが、ふと頭の中ではとある迷いに苛まれていた。

(でも待ってください。一瞬とはいえあの怪人を一撃で葬れるのは、かなり実力者のはず……この方と一緒ならば、すぐにでもアルンへ辿り着けるのではないでしょうか?)

 その迷いとは高杉との一時的な協力である。彼の戦いぶりを見ると、例え途中でマッドネバーの一味に襲われても、すぐに対処出来ると想定していた。

 こうでもしなければ、いつまで経ってもアルンには辿り着かない。だからと言って、得体のしれない相手に背中を任せるのも抵抗はある。第一この提案すら易々とは受け入れてくれないだろう。様々な葛藤が渦巻く中、シウネーは早急に答えを出そうと考え続けていく。

(通信魔法で助けを呼んだとしても、いつ来るのか分かりませんし……ましてや各領地にもう向かっているかもしれません。ならば……!)

 正攻法とも言える通信魔法での救助要請では、より時間がかかると彼女は予見している。待っている隙を突かれて、マッドネバーの大群に襲われてしまえば、救助に来た仲間にも危害が及びかねない。こちらの手段もリスクが高いと言える。あらゆる策を模索し続けるシウネーなどつゆ知らず、高杉はマイペースにもこの場から去ろうとしていた。

「じゃ、特に無ければ去るぞ」

 軽く挨拶をかわして、ゆっくりと歩き始めている。もはや一刻の猶予も残されていない。シウネーはノリと勢いで、ようやく覚悟を決めていた。

(ここはもう一か八かです……どうにでもなれです!)

 一度深く呼吸を整えた後に、一段と大きな声で高杉を呼び止めていく。

「あの……待ってください!」

「ん?」

 彼女の力強い声に気付き、高杉も歩みを止めている。後ろを振り返ると、そこには真剣な表情を浮かべるシウネーが、こちらの目を合わせつつ自身の気持ちを吐露してきた。

「もし貴方がアルンに向かうようでしたら、一緒に同行してもよろしいでしょうか?」

「同行だ?」

「はい。実は私のチームはとあるテロ組織のせいで、離れ離れになっているのです。一刻も早く姫様の元に戻り、作戦を立て直さなくてはいけないのです! ですが、周りには敵ばかり、とても一人では裁ききれません――ですので、もしよければしばらくの間だけ極力してくれませんか!?」

 正直かつ私情を全面的にしつつ、真っ向から要件をぶつけている。無論この交渉がどちらに傾こうが、チームとして危機的な状況に変わりは無い。それでも一人でマッドネバーに立ち向かうよりは、高杉と組んだ方がマシだと考えている。

(怖いですけどでも! ここはあの人がいないと、アルンに向かえないかもしれません……藁でもなんでもすがります! ユウキ達とも約束したんですから!)

 最終的に彼女を後押ししたのは仲間との約束だ。再会という約束を果たす為、ここでくたばるわけにはいかないのである。リスクの高い賭けだが、自分の直感を信じて決断していた。

 一方でシウネーの提案を聞いた高杉は、フッと笑い満更でもない表情を浮かべている。

「……奇遇だな。俺も仲間とはぐれてんだよ」

「えっ? そうなのですか?」

「オベイロンってヤツの仕業でな。俺の仲間もアイツの奇妙な技で閉じ込められたんだよ」

「わ、私もです。あの人のせいで……」

 高杉からは思わぬ一言が飛び出して、シウネーはつい耳を疑ってしまう。

(う、嘘ですよね!? テロリストさんと同じ状況だったのですか……!?)

 まさかの彼もオベイロンの被害者だった。表面では平然を装っていたが、内心ではバクバクと激しく心が揺れ動いている。表情も徐々に驚きで引きずり始めていた。

 感情の起伏が分かりやすいシウネーとは対照的に、高杉は同じ境遇と分かってもまったく動じない。ほんの少しは親近感を覚えているようだが。

「そうかい。なら同じ境遇同士、分かりあえることもあるかもな」

「は、はい!? そうですね……」

 仕舞いには声をかけられただけで、彼女はビクビクしてしまう。極度の緊張感が生んだ、滅多にない大袈裟な反応である。一瞬取り乱したものの、シウネーはすぐに呼吸を整えて冷静さを取り戻す。

 そして高杉も明確な返答を彼女に伝えていく。

「まぁ。とりあえず、これも何かの縁だろ。お前さんの望み通り、アルンまで同行してやるよ。俺もその道中で別れた仲間と再会する予定だからな」

「ほ、本当ですか!?」

「ただし……牙を剥こうものなら俺は容赦しない。それだけは肝に銘じておけ」

「だ、大丈夫です……私もアナタのことを信じていますから」

「信じるのは勝手にしろ。一緒に向かうだけ。ただそれだけのことだ」

「はい……!」

 交渉の結果はまさかの了承である。意外な顛末を目にして、シウネーも内心では驚嘆としている。それでも高杉は彼女をまったく信用しておらず、あくまでも条件付きだった。大きな後ろ盾が出来たことに変わりは無いのだが。

(やっぱり信用していないですよね……でもこれで、ようやく姫様の元まで向かえます!)

 不安要素がまだ拭い切れない一方、遂に道筋が見えてきたことには素直に嬉しく感じている。仲間の想いを汲み取って、彼女も再び戦う決意を示していた。表情も凛々しく移り変わっている。

 一方の高杉だが、シウネーに協力した理由は特に無かった。強いて言うならば、面白そうだからと言うべきだろうか。

(随分と面白ぇヤツだな。足手纏いにならない限りは大丈夫だろ)

 来る者は拒まずと言った姿勢。意外な場面で彼の懐の広さを発揮していた。

 こうして高杉とシウネーは、しばらくの間は共に行動することとなる。

「ところで、アナタの名前はなんと言うのですか?」

「名前? 高杉晋助だ。お前は?」

「シウネーです」

「そうかい」

 出発早々に二人は、改めて自己紹介を交わしていた。シウネーは高杉の本名をここで知るが、彼女はこの名前に違和感を覚えている。

(高杉晋助? 聞き覚えがある気が……)

 聞いたことはあるが上手く思い出せない。ひとまずはその違和感を、頭の片隅へ置くことにした。

 と出発して間もない頃である。

「見つけたぞ。騎士団の生き残りめ!」

「鬼兵隊もいるぞ! みんな、こっちへ来い!」

 早くも二人の目の前には、マッドネバーの追手が乱入してきた。ここぞとばかりに戦闘員であるライオトルーパーが集結。標的を一網打尽にしようと部隊を整えていく。

「やっぱり来たな。おい、シウネー。お前もきっちり戦えよ。騎士団ならばな」

「言われなくても戦いますよ! 高杉さんこそお願いしますね。テロリストなら!」

「案外口も達者じゃねぇか」

 大群を目にしても怯むことなく、高杉とシウネーは刀や杖と言った武器を構えて、こちらも戦闘態勢を整えていく。軽口を挟みつつも、互いに信じ始めているようにも見えている。その証拠にどちらとも、晴れ晴れしい表情を浮かべていた。

「「はぁぁ!!」」

 そして二人は真っ向から、ライオトルーパーの大群に立ち向かっていく。不穏さの漂う二人の旅路はまだ始まったばかりである……。

 

 

 

 

 

「イィー!」

「ウー!!」

 場面は変わり、こちらはマッドネバーの追手を蹴散らしている鬼兵隊の一行。高杉とは別行動をとっており、後の再会を誓って彼らは前に突き進んでいた。森林地帯から草原地帯へ辿り着いたところで、不幸にもマッドネバーの戦闘員軍団と遭遇してしまう。一念発起と来島ら三人は、この戦いから生き残るため必死に戦っていた。

「くたばれっす!!」

 来島は得手である二丁拳銃を用いて、次々に相手を打ち抜いている。身軽な身体能力を生かしつつ、縦横無尽に戦場を駆け抜けていく。

「フッ……」

 一方の万斉は所持していた三味線から、強度の高い弦を何本も解き放つ。無数の相手に絡ませると、彼は三味線に仕込ませていた刀を抜きだす。そして身動きが出来ない大群に向かって、しなやかに斬りかかっていく。

「甘いな」

 そう吐き捨てると、瞬く間に戦闘員は倒れていき、連鎖するように爆散していた。一方の武市はというと、

「エァ! やっと十体目ですか」

地味ながらも戦いには参加している。ただし戦闘員とはいえ、撃破には時間がかかっていた。辛うじてギリギリ戦えているというべきか……。

 こうして万斉や来島の活躍で、数十体ほどいた戦闘員の大群は瞬く間に壊滅していた。

「ったく。これで全員すっか!?」

「そのようでござる。ようやく追手もいなくなったか」

 ようやく全員を倒しきったことを知り、両者は思わず一安心している。当然だが疲れも感じており、しばらくは全力で戦えそうもない。二人の元には武市も駆け寄ってくる。

「こちらも倒しきりましたよ。まったく厄介な奴等ですね」

「ウチにはただでさえ戦力が削られているのに、これ以上は止めてほしいっす! 二人にしかいないってのに……」

「うんうん。って、また子さん? 私の存在は?」

「戦力外なんでノーカンっす」

「いや、酷すぎませんか!?」

「妥当っすよ」

 鬼兵隊の危機的な状況を憂う来島だが、彼女の認識では現在の戦力に武市は入っていなかった。参謀役故に戦いには慣れていない分、無意識に除外しているという。肝心の本人は納得していないが、来島は一切認識を変えるつもりはない。そんな応酬を続けていく中、万斉が二人に声をかけている。

「それよりも、これからどうするかだ? 仲間を取り返すにしても、高杉との合流は必須だろうな」

「そうっすよ! 絶対に全員を取り返してみせるっす……!」

「まったくだ。奴らを好き放題にされては、鬼兵隊の名が廃るからな」

 鬼兵隊として今後すべき行動や目標を、彼は改めて提示していく。一時的に別れた高杉との合流。幽閉された仲間の救出。そして散々な目に合わせたマッドネバーの報復……この星でやるべきことは残されている。

 だからこそ、全てを果たす為には一致団結しなくてはならない。全員の気持ちを一つに合わせる中で、武市が途端に声を上げてきた。

「しかし同志が捕まっている以上は、こちらの不利に変わりはありません。ここは別の策を講じなくては」

「別の策って、何か良い方法はあるんすか。武市先輩」

 従来の方法ではなく、新しい方法でこの難局を乗り切るべきだと捉えている。来島が詳しく問いかけると、彼は声を高ぶらせながら返答していく。

「ありますよ。まずはプーカ領に行くのです」

「はぁ、プーカ?」

 まさかの話題に上がったのは、ALO星の種族の一つとされるプーカである。

「プーカとはこの星に住む妖精の一種だな。音楽の才能に長けていると聞いたことがある」

「で、そのプーカ領に当てでもあるんすか?」

 何やら嫌な予感のした来島らだが、ひとまずはその理由を武市に問い詰めていく。

「そうですとも。私達が今会うべきは、そうセブンちゃんなのです!」

「セ、セブン?」

「真紅のファイターと呼ばれるアイスラッガー使いのことか?」

「いや、それはウルト〇セブンっす……」

 万斉の珍しい小ボケはさておき、武市の口から出たのはプーカに関係する女子だ。さらに話を深掘りすると、その嫌な予感はものの見事に当たることとなる……。

「セブンちゃんとは、まさにこの星を代表する科学者! 僅か十二歳にして研究所を持ち、なおかつアイドルまでやっているという! この私が知らないわけないじゃないですか! あの子の力を借りるべきなのです。ちなみに私はロリコンじゃありませんーフェミニストでーす」

 余計に声を高ぶらせながら、セブンの魅力を伝えていく武市。その姿は巧妙な作戦を練る参謀ではなく、ただ推しの魅力を延々と語り妄言に浸る厄介なオタクそのものだ。もはや願望と言われても差し支えないだろう。

 作戦とはまったく無関係なことを言われて、来島は次第にイラつき機嫌も悪くなる。万斉の方は怒りこそ湧いていないが、武市のいつもの振る舞いに内心では呆れを感じている。

「つまりアレっすか。ただお前が会いに行きたいだけってことすか!!」

「そうですね」

 正直な気持ちを聞くと、彼女はさらに怒りがこみ上げてしまう。そして拳銃を握りしめて、何のためらいもなく武市の顔面に突き付けてきた。

「覚悟決まってんだろうなぁ……?」

「お、落ち着きなさい! 私はただ場を和ませるジョーク言っただけですよ!」

「うるせぇ! 間違いなく本気で、プーカ領に行こうとしていただろ!」

「仕方ないじゃないですか! ロリ……フェミニストなんですから!」

「言い換えても無駄っすよ! 武市変態!!」

 中々怒りの収まらない来島に、武市は必死に彼女を宥めていく。緊迫とした状況下では、例え冗談でも悪手だったのだろう。ひょっとすると本気だったかもしれないが……

 困り果てて鎮静化を図る武市やツッコミが如く怒りをぶつける来島を見て、万斉は無暗に介入せず、自然に落ち着くのを待っていた。

「やれやれ。いつになることやら」

 三味線を鳴らしつつ、二人の喧嘩が落ち着くのを静かに見守っている。

 果たして鬼兵隊にも、これから逆転の好機は訪れるのだろうか……?

 

 

 

 

 

 

 

「グゥゥ……!」

「か、怪人!?」

「鏡の中からですか……?」

 再び場面は変わって、こちらは地球にあるかぶき町。鏡の中から突如として現れた怪人ことシアゴーストにより、新八とユイは恐れおののいてしまう。何故現れたのか模索する一方、二体のシアゴーストは彼らを威嚇するようにゆっくりと距離を縮めていく。

「と、とりあえず逃げよう! ユイちゃん!」

「は、はいです!」

 疑問は色々と浮かぶが、ひとまず新八らはこの場から逃げ出そうとしている。一刻も早く銀時らへ伝えなければ……そう心の中で決めていた時だった。

「そうはさせるか……!」

「何!?」

「こっちにも怪人さんが……!?

 行く道を阻むが如く、別の怪人と戦闘員が姿を露わにしている。その怪人の名はレオイマジン。仮面ライダー電王と戦いを繰り広げた、ライオンをモチーフにしたイマジンの一体だ。幹部級の実力を持ち、レオソルジャーと呼ばれる専用の戦闘員も配下に引き連れている。

 数体の怪人達により、行く手を防がれた新八とユイ。窮地に陥った二人に対して、レオイマジンは手にしていたロッドの先端を差し向ける。そして強気に脅しをかけてきた。

「お前らに恨みは無いが、これも主の命令でな。その小僧を渡してもらおうか?」

「わ、私ですか……?」

 彼らは目線をユイに合わせて、そっと狙いを定めている。彼女を標的にしている点から、新八は怪人達の正体をマッドネバーの一員だと確信していた。

「誰が渡すもんか! お前らの思い通りには動かないぞ!」

「新八さん……」

 一段と頼りになる新八の姿を見て、ユイは安心感を覚えている。新八はさり気なく彼女を自身の背中に移動させて、ユイに危害が出ないように配慮していた。そして強気にも、レオイマジンらへ探りをかけている。

「ていうか、お前らの言う主って……オベイロンのことか!?」

「よく分かったな。主はこの小娘に興味があるそうだ。研究材料としてな」

「何だと……」

「そ、そんな……」

 二人の直感通り、怪人の正体はマッドネバーの一員だ。しかし、ユイを狙う理由が分かると共に強く動揺してしまう。彼らは明確にユイを標的として捉えていた。その為ならばどんな手段を使っても可笑しくはないと察している。

 瞬く間に変わる状況に困惑しながらも、二人は冷静さを保ちつつ、この窮地を抜け出すべく必死に頭を動かしていく。

「大丈夫だよ、ユイちゃん。早く逃げて、万事屋に戻ろう!」

「そうですね……一緒に帰りましょう!」

 新八もユイに過度な不安を与えないように、優しい言葉で希望を繋げていく。本人もその言葉を信じて、所持していた本を強く抱きかかえている。絶対に万事屋の元へ帰ると誓っていた。

「逆らうのならば仕方ない。力づくで奪うまでだ……」

 一方で強硬な姿勢を続ける新八らに、痺れを切らしたレオイマジン達も動き出している。戦闘員に指示を与え、彼らはゆっくりと新八らの周りを取り囲んでいく。逃げ道をさらに狭めて、無理にでもユイを連れ去ろうとしていた。

 徐々に二人も追い詰められていき、深刻そうな表情に移り変わってしまう。そんな中で、ユイはふとある作戦を思いついている。

「……新八さん。ここは私に任せてくださいね」

「ユイちゃん? それって……?」

 そう新八に声をかけつつ、彼女は深く呼吸を整えていく。そして――渾身の嘘を彼レオイマジンらにぶつけてきたのだ。

「あー! あそこに猫さんがいますよ!」

「あぁ? 俺を欺いたつもりか? そんな口車に乗るかよ」

「あー! あそこに仮面ライダーがいます!!」

「何だと!? おい、探せ! まさか電王か!? ちょうどいい、俺が相手になってやらぁ!」

 ――何とも古典的な手段である。最初の嘘は俗にいうブラフであり、本命は次の一言だ。まんまと怪人達はこの嘘に乗せられて、周りをキョロキョロと探し始めている。注意力が散漫となっている隙に、

「今です!」

「ユ、ユイちゃん!?」

二人は勢いよく場から逃げ出していった。

「な、しまった! おい、追いかけろ! もたもたするな! 追え!!」

 レオイマジン側もようやく嘘だと気づき、思わず慌てふためている。引き連れていたシアゴーストやレオソルジャーに、強く叱責しながら二人の跡を追いかけていた。

 一方の新八とユイは裏路地を駆け巡りながら、万事屋まで真っ先に向かっている。逃亡する最中では、先ほどの嘘についても話題にしていた。

「任せるって、このことだったの!?」

「はいです! きっと引っかかると思っていました! 万事休すでしたね!」

「そ、そうだね……」

 にこやかにも作戦の成功を喜ぶユイに対して、新八は苦笑いをしながら言葉を返す。機転を利かした作戦に、彼女のただならぬ底力を感じたからだ。いずれにしても、上手く作戦がハマって何よりである。

 その一方でユイは、自身の存在が狙われていることに少々不安を覚えてしまう。

「でもまさか、私が狙われることになるなんて、思っていませんでした……」

「ユイちゃん……その話は戻ってからにしよう!」

「そうですね。今は逃げ切りましょう!」

 原因はいまいち分からないが、ひとまずは逃げ切るのが先決である。この好機を無駄にすることなく、二人の足取りはさらに早くなっていく。

(奴らの目的は何なんだ……研究材料って言ったけど)

 内心では新八もユイの狙われた理由について考えている。これまでの経験から、やはり次元遺跡での出来事が関係しているのではないか。思い当たる節を踏まえつつ、有力な要因を密かに探していく。そんな時である。

「キャ!」

「うわぁ!?」

 咄嗟にユイが足を止めてしまい、新八もつられて急停止してしまう。目の前の光景を見てみると、そこにはすでにシアゴーストが待ち構えていた。

「もう追いつかれたのか!?」

「ギィィ!」

 鳴き声で威嚇をしつつ、二体の怪人はギョっと二人を睨みつけていく。さらにその後ろでは、レオイマジンとレオソルジャーにも追いつかれてしまう。再びマッドネバーの怪人達に取り囲まれてしまった。

「鬼ごっこはもう終わりだ。再度通告しよう。大人しく小娘を手渡せば、お前の命だけは保障してやる。さぁ、よこせ!」

 レオイマジンは再度新八に向かって脅しをかけてくる。ユイを引き渡すように再三そそのかしたが、彼の意思が変わることはない。

「絶対に渡すもんか! 戦うなら、僕が相手だ!」

 そう言うと新八は、近くにあった鉄パイプを手に取って戦う姿勢を示している。どんなに窮地へ追い込まれようとも、ユイだけは命懸けで守り抜く。侍としての信念を、彼は貫き通している。

「だ、大丈夫ですか?」

「平気だよ。僕も侍だからね。守ると決めたものは絶対に守り通す。だから安心して」

「新八さん……」

 一瞬だけ不安を覚えたユイだが、彼の自信に満ちた表情を見るとどこか安心感を覚えていた。彼とならばきっとこの状況でも乗り越えられる。失いかけていた希望が再燃していた。

 そんな絶対に諦めることのない二人の近くでは、ようやくあの女子がレオイマジンの尾行に追いついている。

「あっ、やっと見つけた――って、何これ!?」

 その正体はもちろんウサギと化したユウキだ。途中でレオイマジンらを見失った彼女は、かぶき町を右往左往しており、ようやくその足取りを見つけている。

 だがしかし。彼女が目にしたのは、今にも少女らに襲い掛かろうとする怪人達の姿だった。一瞬で緊急事態だと察している。

「あの女の子が狙われているってこと? だったら……!」

 するとユウキは体を上手くならして、背中に抱えていた刀剣を一旦地面に落とす。そのまま刀剣を口にくわえて、少女らを助けるべく準備を整えていた。

「仕方ない。やれ」

 一方のレオイマジンらも覚悟が決まった様子である。配下であるレオソルジャーやシアゴーストに指示を与えて、一斉に襲い掛かっていく。

「来い!」

 新八も真っ向から彼らに立ち向かおうとした――その時であった。

「ちょっと待った!!」

 突然場には奇妙な鳴き声が響き渡り、それを耳にした一行は敵味方問わず動きを止めてしまう。

「えっ!?」

「何だ!?」

 皆がその正体を気にして周りを見渡す中、レオソルジャー側に異変が生じていた。

「ハァァァ!!」

「ギィィ!」

「ウゥゥ!!」

 突然何者かに襲われた様子で、当の本人達も何が起きたのか全然分かっていない。

「何をしている!? さっさとあの小娘を捕まえろ! クッ!」

 レオイマジンも謎の存在に襲われており、上手くユイらに近づくことすら出来ない。

 無論新八達も、怪人らの異変を目にして理解が追いついていなかった。唯一理解できることは、逃げ出すには絶好の好機ということである。

「今です、新八さん!」

「そ、そうだね!?」

 この混乱へ乗じることにして、二人は足早にその場を逃げ出した。辛うじて戦わずに済み、新八も内心ではホッと一安心している。

「よし! こんなもんでしょ!」

 二人の逃亡を見届けたところで、ユウキも怪人達への襲撃を止めて、素早く場を立ち去っていく。無事を確認するために、新八らの元に向かっていった。

 一方で思わぬ襲撃に悪戦苦闘していたレオイマジンは、同じく襲撃を受けたレオソルジャーやシアゴーストに対して、理不尽な八つ当たりをぶつけていく。

「お前ら……何をモタモタしていた!?」

 怒りを滲ませながら声を荒げると、レオソルジャーの一体が情報を彼に伝えている。

「何だと? 紫色の兎に襲撃されただぁ? ふざけるのも休み休み言え!」

 がしかし。良い訳とみなされてしまい、彼に受け入れられることは無かった。ユウキの動きが素早かった分、それを認識出来たのはごく僅かしかいない。ましてや怪人側は、その正体がユウキだとは知る由もない。様々な要因が重なり、レオイマジンらはユイらを取り逃がす羽目になってしまった。

 一方でユイと新八は、万事屋付近の路地裏へと到着。辺りを警戒しつつも、ひとまずは休息に付くことにする。

「ふぅー……危なかったです」

「ここまで来れば、もう大丈夫なはずだよ」

 両者共に呼吸を整えて、精神を落ち着かせていく。二度も窮地に追い込まれた中で、敵を振り切れたことは奇跡に等しいであろう。

 ユイはずっと抱えていた本を再度抱きしめると、ここまで自身を支えてくれた新八に礼を交わしている。

「ありがとうございます、新八さん! いつもよりはかっこよかったですよ!」

「いやいや、そんなこと――いつもよりはか……」

 若干とある言葉に引っかかったものの、彼女の素直な気持ちには正直に受け止めていた。その過程で気になったのは、怪人達を襲撃した謎の存在である。

「ところであの怪人さん達には何が起きたのでしょうか?」

「それは……ん? ユイちゃん、アレじゃない?」

「アレ? ウサギさんですか?」

 考えこもうとした時、新八はこちらに近づく一匹の動物を発見していた。紫の体色に小柄な体格。背中には荷物を背負い、口元には艶のある刀剣をくわえている。この一風変わったウサギこそが、先ほどマッドネバーを襲撃した犯人だと考えていた。

「良かったぁ、やっと人に会えたよ。これで僕の事情も話せるし、安心できるね」

 一方のユウキは、ようやく話が通じそうな相手に安心感を覚えている。あわよくば自分の正体を明かして、彼らの力を借りたいと思い始めていた。

 とりあえずユイらにコンタクトをとっていく。

「君がテロ組織に狙われている女の子だね? でも大丈夫! 僕も味方に付くからさ!」

 最初は明るくも親しみやすい雰囲気で、二人と距離感を縮めようとした。ところが……

「なんと言っているのでしょうか?」

「鳴き声だけだけど、少なくともマッドネバーと敵対しているんじゃないかな?」

「ということは、私達の味方をしてくれるということでしょうか!?」

「その可能性があるだけだからね」

「えっ!?」

新八らに微塵もユウキの言葉や想いが伝わっていない。意思疎通すらもままならないのは、ユウキのウサギ化に原因があった。

「ちょっと待って。ひょっとして、僕の言葉通じてないの!?」

 そう。ここで彼女はある重大な真実に気が付いてしまう。ウサギになったせいで、自分の言葉が他者にまったく伝わっていないのだ。幾ら自分が話そうとも、他者にはウサギの鳴き声程度にしか聞こえていない。

「聞こえてる!? 僕はユウキって言って、ALO星の騎士団なんだよ! 今はウサギに変身しているけど……!」

 試しに大声で新八やユイに呼びかけるものの、反応する素振りすら見せていない。

「とりあえず、このウサギさんも万事屋に連れていきましょう!」

「そうだね。何かマッドネバーとも関りがあるかもしれないからね」

 勝手な憶測を立てつつ二人は、ウサギも抱きかかえて一旦万事屋に戻ることにした。

 ユウキ本人の意思とは逸れるように、事態は思わぬ方向に向かってしまう。

「ちょ、ちょっと!! 本当の僕は妖精なんだってば~! 気付いてって!!」

 幾ら抵抗や呼びかけをしようとも、当然二人の耳に届くはずが無い。あまりにも理不尽な出来事に、ユウキの憤りはさらに募っていく。

「って、今日の僕どんだけ不運なんだよー!!」

 誰にも届くことのない悲痛な叫び声を、高らかに上げ続けている。表情も困り果てているが、新八やユイには間違った解釈で伝わっていた。

「何やら渋い顔をしていますね」

「戦って疲れたからかな? 万事屋に戻ったら、すぐに洗ってあげよう」

「そうですね!」

「だから違うんだってー!!」

 果たして、本当の正体が分かる日は来るのだろうか? 受難続きのユウキである。こうして新八とユイは、謎のウサギ(ユウキ)を連れて万事屋へと帰宅していく。

 

 

 

 

 

 

 場面は変わり、こちらはかぶき町にある万事屋銀ちゃん。ご存じ銀時やキリト達のいる町のなんでも屋である。

 今日も今日とて仕事……と思いきや、新八、ユイを除く四人が、店の裏側で密かに特訓を行っていた。

「ハァァァ!」

「フッ! セイ!」

 木刀や聖剣を用いて、接近戦及び剣技の練習を行う銀時とキリト。

「ホワチャァァ!」

「セァ!」

 細剣や拳で互いの攻撃を確かめ合う神楽とアスナ。どちらともに現在の自分の実力を確かめ合い、堂々と真剣に戦いを繰り広げていく。

 この特訓を提案したのはキリトとアスナの二人であり、今後の戦いに備えて銀時や神楽に依頼をしていた。元々銀時は乗り気ではなかったが、キリトの強い要望によって渋々付き合っている。現在は熱意が高まり、数分前の素っ気なさは皆無だったが。

「おいおい、中々やるじゃねぇか。てめぇ、いつの間に強くなったんだよ?」

「これでも暇を見つけては練習していてね……それに、銀さんとの決着もまだ付いていないからな!」

「まだ覚えていたのか、そんな前のこと! ったく、どこまでもバカ正直だな!」

 互いの剣をぶつけあい、想いを発したところでまた一歩下がっている。特にキリトは最初に出会った時の決闘を覚えており、その気持ちを馳せつつ戦いに臨んでいた。銀時も思わず軽口を叩きつつ、彼の純粋な熱意は受け止めている。

「やっぱり強いわね、神楽ちゃん……」

「当然アル! そういうアッスーも強くなってるネ!」

「もちろんよ……! 絶対に負けたくないからね!」

「私もネ!」

 一方の神楽とアスナは、互いの実力が向上したことにどちらとも嬉しく感じていた。この二人も未だに決闘の決着が付いていない。いつになるかは不明だが、また本気で戦えることを楽しみにしている。その為にも今から、互いの強さを図っているのだ。

 もちろん本命は、マッドネバーとの戦いに備えた特訓なのだが。

 そんな滅多にはない特訓を続けるうちに、騒ぎを聞きつけたお登勢らが彼らに話しかけてくる。

「おやおや。随分と盛り上がっているようだね」

「あっ? なんだ、ババァかよ」

「一言多いわ。腐れ天パ」

「多くねぇわ。いつも通りだろ」

 いつもの口冗談を交わしつつ、一行は一旦戦闘を中断した。様子を見に来たエギルらの四人と、たわいのない会話を交わしていく。

「久しぶりじゃないか、こんな堂々と戦うなんてさ」

「まぁな。今後の戦いに備えなくちゃいけないからな」

「戦いですか?」

 そうたまがキリトに聞き返すと、今度は神楽とアスナが返答してくる。

「マッドネバーアルよ! きっとまた戦うことになるはずネ!」

「そうね。サイコギルドの件もあるけど、今はそっちが優先かしらね。いずれにしても、あの男の思い通りにはさせたくないわ……!」

 特訓に至った経緯を彼女達は解説した。万事屋としては今後衝突するかもしれないマッドネバーを警戒しており、そのためにも今から実力を上げようとしている。皆その表情は少し深刻そうではあった。

 長時間の戦闘で疲労しているだろう四人に対して、キャサリンやエギルは気の利いた一言を発している。

「熱中シテルノハ良イコトデスガ、休息モ必要デスヨ」

「戦い詰めは体に毒だぞ。あまり無理はすんなよ」

「そうだね。ありがとう、二人共」

 休息をとるように促していき、キリトからは感謝の言葉が返ってきた。すると気を抜かしていた銀時は、その言葉に甘えようとする。

「そんじゃ、ババァの店で一休みっすか。おい、エギル。適当にカクテルでも作ってくれや。もちろんツケでな」

「おい、銀ちゃん! 一人だけズルいアルよ! おい、エギー! 私もニロで何かカクテルっぽいもの作れアル!」

「そう言われてもな……」

 ツケを前提にエギルへ、厚かましくも酒の要求をしていた。銀時のわがままに乗っかり、神楽も無理難題も要求してくる。酒じゃない分、マシとも言えるが……。

 突然の要求にエギル本人も困っており、見かねたアスナがすぐに仲裁へ割り込んでくる。

「ちょっと銀さん! 今週はピンチなんだから、余計な出費はしないでよ!」

「良いじゃねぇかよ、別に。こんだけ特訓に付き合ったんだからさ」

「そうアル! ニロ飲みたいネ!」

「それは買ってあげるけど、銀さんは絶対ダメよ」

「ちょっと待って! なんで俺だけ、冷遇してんだよ!?」

「ロクなことがないからよ! 先月も一杯飲むって言って、二十杯も飲んだのは忘れたのかしら?」

「いやそれは……盛り上がったからであって」

「せめて次の仕事の依頼金が入ってからにしなさい! さもないと……!」

「分かった、分かったから! 武力行使は止めろ! 言うこと聞くからさ!」

 中々引かない銀時に痺れを切らして、仕舞いにアスナは握っていたレイピアを彼に差し出してきた。表情も強張っており、その迫力に圧倒された彼は大人しく飲酒を諦めている。

 この二人のやり取りは、もう万事屋にとって毎度お馴染みの光景だった。

「ハハハ。ったく、アスナには銀さんも叶わないってことか」

「そうネ。もう実質万事屋のリーダーアルよ」

「そうかもな」

 力づくで乗り切るアスナの姿を見て、旧友であるエギルもつい笑ってしまう。神楽からも万事屋のリーダーとして称えられ、増々銀時の立場がなくなりつつあった。

 数分前とはまた違った銀時や神楽、アスナのやり取りを見て、キリトはクスっと笑って安心感を覚えている。

「まったく。戦闘から離れたら、すぐ緩むんだから」

「まぁ、良い意味でも悪い意味でもアイツらしいってことさ」

「仲間ガ増エテモ、アノ男ハ変ワラナイデスネ!」

「銀時様どころか、万事屋はまったく変わっていないですよ。もちろん、キリト様が来てからも」

 お登勢やキャサリン、たまの言う通り、銀時らは昔から何も変わらないという。上下関係が変わろうとも、彼らの根っこにある信念や優しさに揺らぎはないということだろう。お登勢らの言葉を聞くと、キリトも密かに一安心している。

(確かに。銀さん達のことだったら、何があってもいつも通りだと思うけどな)

 情けなさや破天荒さ、かっこよさにぶっきらぼうな優しさ。これまでに見てきた万事屋の姿を振り返りつつ、キリトは彼らへの信頼をさらに深めていく。

 マッドネバーと衝突することがあっても、この五人と一匹なら乗り越えられると確信している。

 そう心の中で想いを馳せていた時だった。

「あっ、皆さん!」

「おや? 新八様とユイ様ですね」

 突然場には、外出していた新八とユイが帰って来ている。何やら二人共息を荒くしており、何者かから逃げているようにも見えるが。

「おっ。新八にユイか」

「何だい。どこか行っていたのかい?」

 エギルやお登勢が声をかけると、続けて銀時やキリトもかけてくる。

「お前ら、随分と遅かったな」

「それにこの紫色の兎は何だ?」

 気になったのは二人の様子だけではなく、新八が抱えているウサギにも一行は注目していた。彼らを落ち着かせながら聞いてみると、やっぱり深い理由がありそうである。

「色々とこっちもあったんですよ……!」

「とにかく今は万事屋に戻りましょう!」

 

 

 

 

 そう二人に言われると、銀時、キリト、神楽、アスナの四人は、一度万事屋に戻っていく。ユイらを再度落ち着かせつつ、気持ちに余裕を持たせたところで、リビングにあったソファーに座らせている。そしてじっくりと、数分前に起きた出来事を聞き出していく。

「えぇ!? マッドネバーの怪人が、地球に来ているってこと!?」

「それでユイと新八を襲いに来たのか?」

「はい。正確には私を標的にしているようで……」

 ようやく明かされた事実を聞き、当然アスナやキリトらは困惑してしまう。マッドネバーの突然の来襲。ユイを研究材料として誘拐しようとしたこと。あまりにも急すぎる出来事に、脳内ではまったく内容が追いついていない。

 驚嘆とする四人に対して、ユウキもちゃっかりと話に聞き入っていた。

「なるほど。やっぱりあの子を標的にしているのか……わざわざ地球まで来るなんて、そんなにあのユイって子が特別なのかな?」

 そう興味深そうに呟くも、他者には鳴き声程度にしか聞こえていない。メモリの使用故に仕方ないが、無視されているようにも思えて、少々寂しい気持ちとなってしまう。

「うーん、誰にも聞こえていないのがこんなに辛いなんて。これだったら、無暗にメモリなんか触るじゃなかったよ……!」

 しょんぼりとへちゃむくれながら、誰にも相手されないことに体を丸くしながら拗ねてしまう。興味本位でガイアメモリに触ったことにも、彼女は後悔していた。ユウキが一人でしょげている一方で、銀時や神楽も新八らの証言に反応している。

「奴らも本格的に動き出したってことか」

「なんて卑劣な奴らアルか! まだ小さいユイを追いかけまわすとか、とんでもない鬼畜ネ!! さっさとチンピラ警察に捕まれネ!」

「落ち着いて、神楽ちゃん。でも一つ気になるのが、なんでユイちゃんをあの男が狙っているのかですよね……」

 特に神楽は一段と、マッドネバー及びオベイロンの姑息さに怒りを露わにしていた。感情的になり、表情も真っ赤になっている。そんな彼女を新八がそっと宥めていく。

 だが万事屋一行が一番に気になっていることは、ユイを標的にした理由付けである。

 すると彼女本人は、唯一心当たりのあった出来事を皆に伝えていた。

「もしかして、次元遺跡の行動が関係しているのでしょうか?」

「次元遺跡のこと?」

「そうです。あの時に私だけが扉の仕掛けを開けたり、マッドネバーを遺跡の外へ追い出すことが出来たと思うんですよ。でもそれしか、私には思い当たる節が無くて……」

 その出来事とは次元遺跡絡みである。彼女の言う通り、そこではユイだけが摩訶不思議な現象を起こしていた。その能力にマッドネバー側が目を付けたと推測している。本人に至っては、肝心の理由がまだ分かってはいないのだが……。

 現段階で推測論でしかないユイの考えに、万事屋一行は妙に納得していた。

「その可能性は大いにあるな。一体何だったんだ、あの力は……」

 再度キリトも考え込む一方で、銀時はありのままに発していく。

「本人すら分かってねぇのによ。随分とせっかちじゃねぇか? 悪徳金融の取り立てじゃあるまいし」

「それとこれとはまったく別ですよ。銀さんの小寒い洒落と一緒にしないでください」

 分かりやすく例えを提示したものの、仲間には一切伝わっていない。新八からも呆れたツッコミが返ってくる。

 とそれはさておき、万事屋一行に今出来ることは、ユイをマッドネバーの脅威から守り抜くことだ。場にいた全員がその方向性で一致している。

「とにかく! 何としてもユイちゃんを守り抜きましょう!」

「もちろんアル! あんなゴミクズ野郎には絶対渡せないネ!」

「そうね。一応真選組にも相談してみましょうか」

 新八、神楽、アスナと次々に声を上げていき、全員で新たな対策も考え始めていく。一段と頼りになる五人の姿を見て、ユイも内心では改めて強い安心感を覚えていた。

(きっと大丈夫ですよね? 皆さんとなら!)

 不安さも拮抗しつつ、この五人となら難局を乗り越えられると思っている。もちろん定春にも、同じくらいの信頼を注いでいた。

「ワン!」

「ありがとうございます、定春さん!」

 頼もしい鳴き声に感謝の言葉で返答していく。

 そんな一体感のある万事屋のチームワークを目にして、ユウキもつい思ったことを呟いている。

「なんだか良いチームだね。こんな状況でも互いに信じあえるって。きっと固い絆で結ばれているんだろうな」

 純粋な気持ちから、万事屋一行の信頼関係を高く評価していた。前向きに脅威へ立ち向かう姿勢に、彼女の心も感化されたという。だからこそ、ユイを守り抜きたい気持ちがより一層強くなっていた。

 そう銀時らが対策を講じる一方、ようやく新八らの持ってきていた謎のウサギに注目が向けられる。

「そういえばずっと気になっていたんだが……このウサギは何なんだ?」

 キリトがそう聞くと、ユイが嬉しそうに答えてきた。

「あっ、このウサギさんのことですね! 実は私達のことを助けてくれたんです!」

「えっ? そうなのか?」

「そうなんですよ。怪人達に取り囲まれているところに乱入してきて、僕達の逃げ道を作ってくれたんです。素性は分からないですけど、少なくとも味方だと思って連れてきたんですよね」

「へぇー、そうだったのか」

 さり気なく新八も話に参加して、ウサギとの詳しい出会いを細かく説明していく。勇敢にもマッドネバーに立ち向かった事から、少なくとも味方だと彼やユイは考えていた。

 二人の説明を聞くと、銀時ら四人もウサギをジロジロと見つめている。

「そんなジロジロ見る!? 特に変わってない普通のウサギだよ……僕」

 一斉に見つめられていることに恥ずかしさを覚えて、ユウキもつい困惑めいた表情を浮かべてしまう。時折毛並みを触られることもあり、改めて自分がウサギになったことを思い知っていた。同時に早く普通の妖精の姿に戻りたいと思い始めている。

「ウヘェ! また? 急にこすらないでって! くすぐったいんだから!」

 まだまだユウキの受難は続きそうである。そんな中、神楽はとんでもないことをアスナに提案してきた。

「ねぇ、アッスー。なんかこのウサギ見ていたら、前に言っていたサンドイッチの話を思い出したネ」

「えっ? あぁーあのラグーラビットのことネ」

「そうネ。と言うわけでアッスー。このウサギを調理してほしいネ!」

「……はい?」

「はぁ!?」

 まさかの暴論にアスナ及びユウキも耳を疑ってしまう。神楽は前に彼女の言っていたウサギの肉で作ったサンドイッチに興味を示しており、何をトチ狂ったのかユイらを助けたウサギで調理をお願いしてきた。

 特にユウキは一番このことに動揺している。

「いやいやいや、何言ってんのこの子!? 野蛮にもほどがあるって! 僕一応妖精なんだよ! 僕なんか食べたって、美味しくないから!! 誰か助けて!!」

 自身の生命の危機を感じ取り、必死に鳴き声を上げて助けを求めていく。無我夢中で抵抗する中、助け舟を出していたのはアスナである。

「いやいや、待って神楽ちゃん! 流石に見知らぬウサギを調理するのは、胸が痛むよ! 私でもそんな残酷なこと出来ないわ!」

「そうアルか、アッスー?」

 今回ばかりは神楽の言い分が理解出来ず、真っ向から否定して、すかさず説得をしていく。表情は若干青ざめていたが。

「よしよし、言ってやってアッスーさん! この野蛮ちゃんを説得しちゃって!」

 無論ユウキもアスナ側に肩入れしており、自身の想いが伝わるように念を送る。そうやり取りを続けていると、アスナが決定的な一言を言い放ってきた。

「それに紫色のウサギなんて、見るからに不味そうでしょ! せめてピンクか黄色じゃないと!」

「確かにそうネ。考えてみたら、紫色なんか食欲沸かないアル」

「野菜や果物なら良いけど、食肉の紫色はあまり良くないからね」

「……色の問題だったの?」

 色彩と言う観点から独断で決めており、それを聞いた神楽は完全に言い包められている。予想外の展開にユウキも少しばかり納得はいっていない。食べられる危機を回避できたことは、素直に喜んでいたが。

「第一ね。ウサギも嫌がってんだから、無理に調理すべきじゃないのよ。それにね……」

 とアスナはそのまま神楽のことを叱ろうとする。わざわざウサギを抱きかかえて、神楽に近づけようとした――その時だ。

「ん?」

 ふと彼女は強烈な違和感を覚えてしまう。顔色も途端に変わっている。

「どうしたネ、アッスー?」

「いや、何でもないわ」

 自分自身でもその違和感が分からず、神楽から聞かれても何事も無く言葉を返していた。ひとまずウサギを床に戻している。

「アレ? なんでアッスーさん、急に口が止まったんだろう?」

 ユウキも突然起きたアスナの行動に、疑問が生まれていた。何があったのか気になって、ジッと彼女の表情を様子見していく。

(この感覚、前にもあったような……)

 一方のアスナは、ウサギとの妙な親近感に強い違和感を覚えている。かつても会ったことのある存在。確証もない自信が心の中では生まれていた。この気持ちの正体が分かる時は来るのだろうか?

「にしても、刀剣で怪人を追っ払うとはな」

「マッドネバーとやっぱり関係がありそうだよな」

 一方で銀時とキリトは、引き続きユイらからウサギの情報を聞き出している。勇敢な戦いぶりや、明確な怪人達との敵対意識等、マッドネバーとの関係を特に気にしていた。

「もしかすると、オベイロンの実験でウサギになった妖精さんじゃないですか!?」

「確かにあり得そうではあるけど……本当かな?」

 ユイはつい思い付きで予測を発したが、皮肉にもその説はほぼ正解に近い。

「いや、本当なんだって! 変なメモリのせいで、ウサギになっているんだって!!」

 もはや彼らに聞こえなくとも、ユウキは諦めずに真実を叫び続けていく。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるのように、いつかは伝わると彼女は信じていた。

 とそんなことは知らず、ウサギやマッドネバーについての考察を続ける銀時達。すると彼らは、ウサギの持っていた手拭いに気付き始める。

「そういえば、その手拭いには何が入っているんだよ?」

「手拭い? そう言われれば、何なのかしら?」

 ふと手拭いの中身が気になり、アスナらは結びを解いてその中身を確認してみた。そこに入っていたのは、

「こ、これは!?」

「メモリか?」

数本のガイアメモリである。一見すると大型化したUSBメモリに見えて、中心には妙な形をしたアルファベットが刻まれていた。皆がその存在を不思議がる中で、銀時とキリトはこのメモリに心当たりがあった。

「おいおい。オベイロンも使っていたヤツじゃないか、コレ?」

「確かにそうだな……と言うことはやっぱり」

「僕らの予想は当たってそうですね……」

 二人はオベイロンの変身したアナザーエターナルとの戦闘中に、彼がガイアメモリを使用する場面を何度も目撃している。やはりマッドネバーとウサギには、何かしら関係があるそうだ。

「まさか本当に、アイツの実験でウサギになった被害者じゃないアルか!?」

「実験の最中にメモリを奪って、ここまで逃げ出してきたってこともあり得るわね」

「その仮説は濃厚だと思います!」

 神楽、アスナ、ユイも話に加わり、増々予想合戦が激化していく。これまでの情報からウサギの正体はマッドネバーの被害者。開発中のアイテムを奪って逃亡し、地球にたどり着いたと勝手に推測していた。

 もちろん事実とは違う箇所もあるので、ユウキ本人は訂正したくて体をウズウズさせてしまう。

「もどかしい……今すぐ本当のことを言いたいのに!! なんでこの人達には通じないのー!!」

 悲痛な想いを高らかに放つも、無論彼らには届かずじまいである。またもウサギになったことを強く後悔していた。

 万事屋内でマッドネバー関連の考察が続く中、突然あのアイテムにも異変が起きている。

「アレ? 皆さん、見てください!」

「えっ……結晶が光ってる?」

 なんと銀時の机に置かれていた結晶が、突然眩い光を放っていた。この結晶は次元遺跡にてフィリアから譲り受けたものであり、今まで特に不可思議なことは起きなかったが……何故急に輝きだしたのだろうか。

「こんなこと、今まで無かったよな?」

「あのメモリに反応しているじゃないアルか!?」

「そんなのありえるのか……」

 銀時、神楽、キリトと次々に思ったことを呟く。だがしかし、一行にとっては何故光ったのかまるで見当が付かない。結晶は何事も無く元の輝きに戻ったが、より一層謎の深まる結果となった。

「何だったのでしょうか? 今の光は?」

 ユイも結晶の動向を気にしており、思わず手に取って用心深く確認している。皆が結晶に驚きを示していた――その時だ。

(キーン! キーン!)

「えっ?」

 ふと近くから、不協和音のような耳鳴りが聞こえ始めている。

「ん? なんだこの音?」

「外からか?」

「今度は何だよ」

 耳障りの悪い音が鳴り響き、万事屋一行は思わず不快感を覚えてしまう。この音に鬱陶しく思う一方で、ユイだけは妙な気配を感じていた。そう彼女は、数分前にもこの出来事を経験している。

「いや、違います! 皆さん、気を付けてください!」

 と咄嗟に仲間へ注意を与えていた時だった。

〈ギュイーン!〉

「うわぁ!?」

「何だ!?」

 万事屋にあったテレビの画面から、突然衝撃波が襲い掛かって来る。腕で防ぎつつ一行はゆっくりと周りを見ると、そこにはあの漆黒の戦士が出現していた。

「ほぉー、ここが万事屋だな」

「お、お前は!」

「野卦か!?」

「マッドネバーかよ……どうしてここに!」

 その正体は野卦が変身したダークライダー、仮面ライダーリュウガである。彼はミラーワールドからユイを探索。万事屋にいる彼らを発見して、現実世界へと戻っていた。突然現れたリュウガに驚嘆しつつも、一行はすぐに厳戒態勢を整えていく。

「アレは……!」

 ユウキもリュウガの姿を見て、より強く警戒心を高めていた。表情も強張らせており、唸り声を上げながら威嚇していく。あからさまな敵対意識には、ユイや神楽らも気付き始めている。

「ウサギさんも怖がっているのでしょうか?」

「ってことは、やっぱり予想は当たっていたネ!」

「アンタ達……このウサギに何をしたの!?」

 さり気なくアスナはリュウガに対して、真っ向からウサギとの関係性について問い詰めていく。しかし肝心の本人は、何のことだがさっぱり分かっていない。

「ウサギ? 何のことだ? 僕はそんなこと知らないよ?」

「本当かよ? 生物実験とかしているんじゃないだろうな?」

 リュウガの言い分が信じられず、キリトが再度問いかけようとするも、やはり通じてはいない。

「うるさいな……いい加減にしろよ。僕は知らないって言ってんだろ。いいからさっさと、そこにいるガキを手渡せよ」

 頭にきた彼は逆切れしつつも、手早くここへ来た目的を言いふらす。その真意はやはりユイの誘拐であった。

「……やっぱり私が目当てなのですね」

「そうだ。さぁ、こっちへ来い! さもなければ、お前の仲間も焼き殺してやるよ」

「嫌ですよ! 絶対にアナタ達の思い通りにはさせないです!!」

 強気にもリュウガは脅しをかけてくるが、ユイも強固な意志で一歩も引かない。彼女をかばいつつ、万事屋一行も粛々と戦闘態勢を整えていく。

「アスナ。いざという時は……」

「もちろん。一気に取り押さえるわよ。分かったわね?」

「あたぼーよ。何としても守り抜かねぇとな」

 キリト、アスナ、銀時と小声で交わしている。どんな状況下でもすぐに動けるように、万全の態勢を整えつつあった。もちろん新八、神楽も同じ気持ちである。

「僕も同じ気持ちだよ。万事屋さんと同じくね」

 ユウキもこっそりと自身の想いを呟いていた。

 互いがにらみ合い、一触即発の雰囲気が続く中で、一足先に動いたのは、

「ならば仕方ない。ここは力づくでも……!」

「ワフー!」

「うわぁ!? なんだ?」

「定春さん!!」

まさかの定春である。巨体を生かしてリュウガに突進しており、彼の体にのしかかると、今度は舌を使って全身を嘗め回していく。

「ワフフ!」

「おい、止めろ! この犬! 僕の体を唾液まみれにするな! 汚れるだろうが!」

 思わぬ妨害を受けて、見事にテンポを崩されてしまった。肝心のカード機能ものしかかられたせいで使えず、何も出来ずに足止めされてしまう。

 この隙に万事屋一行は逃亡を図っていく。

「定春! よくやったネ!」

「今の内ですよ、皆さん!」

「よし、逃げるぞ!」

「おうよ!」

 ここぞとばかりに好機だと括り、一行は必要な荷物を手にして寝室に逃げ込んだ。ちなみに荷物の中身は結晶とウサギの持っていたガイアメモリとメモリスロットのことである。

 寝室の窓を上手く利用して、一行は次々と外に脱出していく。

「定春もネ! こっちに来るヨロシ!」

「ワン!」

 神楽も定春に声をかけて、共に逃げるように促した。リュウガを唾液まみれにしたところで、彼は玄関を使って万事屋を抜け出している。

「おい、待て! チクショー……ベトベトじゃねぇかよ!」

 一方のリュウガは、文字通り定春の唾液を全身に塗りたくられていた。追いかけようにも痒みが邪魔をして、中々上手く動けていない。余計な時間をかけてしまっている。

 その間にも、万事屋一行の逃亡準備は完璧に整えられていた。

「しっかり捕まってろよ!」

「はいです!」

 銀時の乗るスクーターにはユイが搭乗して、神楽と新八、ウサギになったユウキは定春にまたがっていた。後者は木刀のみならず、結晶やガイアメモリを所持している。またキリトとアスナは羽を飛ばして、空中浮遊。低空飛行のまま、銀時らの跡をついていくようだ。

「こっちも大丈夫だよ!」

「さぁ、銀さん! 早く行きましょう!」

「おう――てめぇら、行くぞ!」

「「おう!」」

「「うん!」」

 再度仲間達の準備を確認したところで――一行は勢いよく出発している。まだ目的地も決めていない逃亡劇が幕を開いたのだ。

「チッ、逃げられたか。まぁ、いい。追手は僕だけじゃないんだからな」

 リュウガもようやく動けたものの、僅かな時間の差でユイを取り逃してしまう。それでもまだ策は幾度も立てているようで、他のダークライダーや怪人、戦闘員と総動員で彼女を捕まえようと画策していく。

〈adobent!〉

「あいつらを追いかけろ! ドラグブラッカー!!」

「グルァァァァ!!」

 満を持して取り出したアドベントカードでドラグブラッカーを召喚。万事屋を追跡するように指示していく。

 遂に本性を現したマッドネバーの恐るべき計画。彼らが何故ユイを狙うのか? まだまだ謎は隠されている。銀時やキリトら万事屋は、果たしてユイを守り切ることが出来るのだろうか?

「もうこうなったら、乗りかかった船だ! この人達は、僕が絶対に守って見せる!!」

 ウサギになったユウキも元に戻ることが出来るのか?

 様々な想いや策略が混ざり合い、ユイを巡る戦いはより激しさを増していく……。




鬼兵隊の残党を襲撃した戦闘員一覧
ライオトルーパー
カッシーン
屑ヤミー
グール
魔化魍忍群
バグスターウイルス






 さてさて、今回もいかがだったでしょうか? マッドネバーの忍び寄る脅威に、それぞれのキャラクターがどう立ち向かうのか。徐々に物語が動き始めた話だったと思います。
 それぞれを振り返ると、ひょんなことから行動を共にすることとなったシウネーと高杉。これをまた子が見ようものなら……発狂すること間違いなしです。多分次回は発狂します(笑)
 ウサギとなったユウキは紆余曲折あり、万事屋の元へ! アスナは何か違和感を覚えているようですね……
 個人的な感想なのですが、今回は新八が一番かっこよかったと思います! 鉄パイプを握りしめて、ユイを命がけで守ろうとしていましたからね!(どこかの脱獄囚ではないです)
 万事屋の特訓描写も、もしかして始めてなのではないでしょうか。あんまり銀さんが特訓自体乗り気じゃないので、これはこれで珍しい一幕です。
 後言えるのは、セブンちゃんは今すぐ逃げてください(笑)

 それじゃまた次回! 逃亡する万事屋一行に待ち受ける者は果たして!?

※前回の予告のメモリ使用描写は次回の持ち越しとなります。すいません……







次回予告

新八「おぃぃぃぃ!! なんだよ、このふざけたメモリは!?」

長谷川「おい、銀さん。何やってんだよ?」

リーファ「ちょうどいいわ。私達が相手になってあげる!」

近藤「総員妖精達に続け!」

ユウキ「本当に大丈夫かな、この人達?」

銀時・キリト「「俺達が相手だ!!」」

妖国動乱篇三 Aの切り札/万事屋逃走中 

これで決まりだ!

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