剣魂    作:トライアル

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「もう何があっても、不思議はないぜ」
 今回の話はまさにそうだと思います……


前回の剣魂妖国動乱篇は――

亜由伽「そうね。それじゃ、あの女を捕まえに行くわよ」

シウネー「だ、大丈夫です……私もアナタのことを信じていますから」
高杉「信じるのは勝手にしろ。一緒に向かうだけ。ただそれだけのことだ」

来島「うるせぇ! 間違いなく本気で、プーカ領に行こうとしていただろ!」
武市「仕方ないじゃないですか! ロリ……フェミニストなんですから!」
来島「言い換えても無駄っすよ! 武市変態!!」

ユイ「あー! あそこに仮面ライダーがいます!!」
レオイマジン「何だと!? おい、探せ! まさか電王か!? ちょうどいい、俺が相手になってやらぁ!」

新八「平気だよ。僕も侍だからね。守ると決めたものは絶対に守り通す。だから安心して」

ユウキ「君がテロ組織に狙われている女の子だね? でも大丈夫! 僕も味方に付くからさ!」

ユイ「なんと言っているのでしょうか?」
ユウキ「ちょっと待って。ひょっとして、僕の言葉通じてないの!?」

キリト「まったく。戦闘から離れたら、すぐ緩むんだから」

神楽「そうネ。と言うわけでアッスー。このウサギを調理してほしいネ!」

アスナ(この感覚、前にもあったような……)

リュウガ「フッ。ちょいとお前らに用事があってな。このガキを渡せ!」

銀時「しっかり捕まってろよ!」
ユイ「はいです!」


第七十七訓 Aの切り札/万事屋逃走中

 遂にクーデターへと動き出したALO星の過激派組織、マッドネバー。騎士団や鬼兵隊、さらには万事屋をも巻き込み、事態は急展開を迎えている。

 そんな中で騎士団の一人であるシウネーは、鬼兵隊の総督である高杉晋助と遭遇。ひょんなことで、彼と一時的な協力を結ぶことになる。互いを信じあった共闘ではなく、利害の一致の元で出来た歪な共闘だが。

 シウネーは本拠地への一刻も早い帰還。高杉ははぐれた仲間との合流。最終的な目的も各々異なっている。

 現在は奇襲を仕掛けてきたマッドネバーの伏兵、ライオトルーパーの大群に二人は立ち向かっていた。

「ハァァァ! そこです!」

「ブホォ!」

「グルゥ!」

 数分前の戦闘と同じく、彼女は杖を巧みに扱って、次々とライオトルーパーを薙ぎ倒していく。相手の腹部に突き付けて吹き飛ばす攻撃と、左右から連続して打撃を与える攻撃を駆使して戦っていた。

「スウァ! フッ!」

「ギギ!」

「ウ!?」

 一方で高杉も、容赦なく刀を用いてライオトルーパーに斬りかかる。相手の気配をすぐに察して、背後からの不意打ちすらも相殺。凄まじい洞察力を生かして、赤子の手をひねるように淡々と瞬殺している。

「これで……!」

「しめぇだ」

 そして二人は同時に、残っていたライオトルーパーへ攻撃していく。

「「「ダアァァァ!!」」

 甲高い断末魔を叫びながら、伏兵達はゆっくりと地面に倒れ込んでいた。戦闘の終わった二人は、改めて辺りを見渡していく。そこにはライオトルーパーの残骸が、あちらこちらに転がっている。瞬く間に伏兵部隊を壊滅させていた。

「手ごたえのない奴らだったな」

「そうですね。早くアルンに向かいましょうか」

「あぁ」

 ほんの少しだけ会話を交わすと、高杉とシウネーは休む間もなく森を抜けるために走り出す。各々の目的が最優先であり、余裕があるうちにアルンまで進もうとしていた。

 早々に森を出発していた……その時である。

「ウッ!?」

「おい、どうした? 何かあったのか?」

 突然シウネーに異変が生じていた。彼女は左胸を強く抑えた後、強い痛みを感じてしゃがみこんでしまう。高杉も気にして声をかけるが、

「いえ、平気です! きっとさっきの戦いの傷ですよ……気にせずに行きましょう!」

「そうかい。じゃ、このまま行くぞ」

「はい!」

シウネーはすぐに立ち直っていた。ただの気のせいか強がりかは知らないが、本人の意思を尊重して高杉は気を取り直して走り出す。シウネーも引き続き彼の跡を追いかけるが、内心では複雑な心境を抱え込んでいた、

(何故急に力が抜けたのでしょうか……まさかこれもクーデターの一端? だとしたら、早くアルンに向かわないと!)

 今までに感じたことのない痛みから、彼女はマッドネバーが原因だと察している。クーデターによる影響も予想しており、増々アルンの様子を心配していた。その予想は当たることとなるが――

 乱入してきた邪魔者も片付けつつ、二人の奇妙な旅路はまだ続く……

 

 しばらく走り続けていると、森林地帯から草原地帯に抜け出していた。実はその近くでは、高杉の仲間である鬼兵隊の一員がいる。

「やれやれ。ようやく落ち着きましたか。こんな性格だから、仲間からはイノシシ娘と呼ばれるのですよ」

「やかましっすよ! つーか、その呼び名言ってんの武市先輩だけっすよ!!」

「はてさて、そうでしたか?」

 武市とまた子の口論も、未だに続いている様子だ。不完全燃焼だが、二人の争いはひとまず落ち着く。

 そんな他愛のない口喧嘩はさておき、鬼兵隊は高杉との合流を目途に再出発を試みる。

「ようやく終わったか。またマッドネバーが来る前に、ここを抜け出そうぞ」

「万斉先輩、そんなの分かっているっすよ!」

 万斉からも出発を促されて、また子は反射的に言葉を返していた。再度一行が準備を整える中、万斉は偶然にもある人物を見つけている。

「おや? おい二人共、あれは晋助ではないか?」

「晋助殿ですと?」

「晋助様っすか!? どこにいるっす!?」

 その正体は高杉であり、一早く仲間へ伝えていた。すると案の定、また子は人が変わったように豹変している。テンションを上げて周りを見渡し、高杉の行方を捜していた。

「どこ……?」

「また子よ、あそこでござる」

「あっ! いたぁぁぁ!!」

 万斉からの助言で、ようやく彼女は高杉の姿を捉えている。こちらとは遠い距離にいるが、また子は大声を出して、彼に気付かれるようにと必死のアピールを続けていた。その表情は、どこか晴れ晴れしく感じ取れる。

「晋助様! こっちっす! 早く――」

 と根気よく声をかけ続けていた時だ。また子はある衝撃的な光景を目にしてしまう。

「はぁ!? 誰だ……あの女!!」

 その光景とは、高杉と共に行動する謎の女性だった。彼女の正体は高杉と共闘を結んだシウネーだが……一行はその事情を把握していない。故にまた子はシウネーを見るや否や、あらぬ妄想を掻き立てて、嫉妬心を存分に剝きだしていた。表情も一変して、傍から見ると鬼のような形相である。

「おい、また子。そんなに怒ってどうしたのだ?」

「晋助殿ではなかったということでしょうか?」

 彼女の豹変ぶりには、仲間達もつい心配していた。万斉らは奇遇にも死角にいたせいで、シウネーの姿は見えていない。だからこそ、また子の心情の変化を理解していなかった。

 すると彼女は息を荒げつつ、強い口調のまま仲間達に想いを流布していく。

「いいや、本物っす! あの女、ただじゃすまないっすよ……さっさとついてこい! 男共よ!!」

「えぇ!? ちょっと!? また子さん?」

 断片的にしか事を伝えず、また子は一人で高杉の元まで走り出していた。私怨を剥き出しにして、無我夢中で突進する様は、まさに愛の暴走と言っても差し支えないだろう。

 猪突猛進の如く突き進む彼女を見て、万斉、武市共に困惑めいた表情を浮かべている。

「一体何があったのだ?」

「さぁ? 存じ上げませんが、さっさと追いかけましょうか」

「そうでござるな」

 冷静に対処しつつ、彼らはまた子を追いかけることにした。ひとまずは直接本人に理由を問い詰めることにしている。

 こうして鬼兵隊も動き出しており、アルンへと向かう高杉とシウネー、その跡を必死に追い回すまた子、さらに彼女を追う万斉と武市。重複する尾行の中で、果たして無事に再会を果たすことは出来るのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 一方でこちらは地球のかぶき町。そこにあるスナックお登勢では、とあるニュース番組をお登勢らは視聴していた。

「ここで臨時ニュースをお伝え致します。先程ALO星の中心街であるアルンにて、クーデターが発生したとのことです。繰り返します。ALO星にてクーデターが発生しました。現在は邦人及び地球人の安否が急がれるところですが――」

 草野アナは先ほど入ってきた情報を、繰り返し視聴者へと伝えている。どうやら地球より遠く離れたALO星という星で、唐突にもクーデターが発生したとのことだが。

「オ登勢サン。ALO星でクーデターデスッテ」

「なんだい。またどっかの星で起きたのかい。本当懲りないもんだね」

「ドコノ星ニモイマスヨ。コウイウ後先考エナイヤツハ」

 クーデターと聞くと一大事にも聞こえるが、お登勢やキャサリンはまるで日常事のように薄い反応を示していた。日々波乱が巻き起こるかぶき町で暮らす身だからこそ、よっぽどのことじゃない限りは驚かないのだろう。目を細くしつつ、二人は引き続きニュースを見ていく。

 その一方でエギルは、クーデター並びにALO星の存在にも驚きを示していた。

「ALO星なんてあったのか……」

「どうかされましたか、エギル様?」

「いや、実は俺が元の世界でやっていたゲームも通称ALOって言うんだよ」

「そうなのですか。ALO星は妖精と魔法が中心となっている星ですね」

「それ……まんまこっちとそっくりだな」

 たまからALO星の特徴を伝えられると、彼は増々その星に親近感が湧いている。元の世界に存在するゲーム、ALOとも世界観や設定が酷似しているからだ。そんな星でクーデターが起きようならば……彼は気になって仕方が無いのである。

「おいおい、大丈夫かよ……」

 怪訝そうな表情で呟くも、たまが冗談交じりに彼へ返答していた。

「きっと大丈夫だと思いますよ。いざという時は、銀時様達が解決してくれますから」

「ってアイツらまで巻き込んでいたら、もっと大変なことになるよ」

「町ガ余計ニメチャクチャニナリソウデスケドネ」

 万事屋一行を巻き込んだ冗談話に、四人はついクスっと笑っている。何をしでかすか分からない万事屋だからこそ、状況が悪化することは容易に想像が付く。スナックお登勢に加入して間もないエギルすらも、お登勢らと同意見である。

 そんなことは起きるはずが無いと四人は括っていたが――予想とは裏腹に彼らは現在、とんでもない騒動に巻き込まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ? 追ってきてないか?」

「大丈夫ですよ。誰も来てません」

「ということは、しばらく安心して良さそうだな」

「ふぅー、良かったです……」

 万事屋を出発してから早数分後。銀時や新八、キリトらは追手が来ていないことにひとまず安堵の表情を浮かべている。それを聞いて、ユイら女子達も同じく一安心していた。

 彼らは現在当てのない逃走をしており、突然襲来してきたマッドネバーの一味から必死に逃げている。マッドネバーの目的はユイを連れ去ることであり、一行は何としてでもそれを阻止しなければならない。

 緊張感がより一層強まる中で、彼らの進む速度は変わらない。スクーターや定春、はたまた背中の羽を使いながら、かぶき町を駆け抜けていく。ひとまずは、今後の目的地だけでも決めようとする。

「ところでどうしましょうか? 避難場所ってもう決めているんですか?」

 ユイの素朴な疑問に銀時が答えていた。

「そんなモン決めてねぇよ。これから決めるんだろうが。ってわけで、誰か良い場所思いついたヤツは挙手な」

「いや、人任せかよ」

 自由気ままな返答に新八も軽くツッコミを入れている。簡単に言うと特に考えておらず、銀時はそのまま仲間達に代案をぶん投げてしまう。

「じゃ、吉原とかどうだ? シリカやスグ達もいるし、月詠さんだっているから頼りになると思うよ」

「ひとまず真選組に相談してみたら? 良い隠れ家を提供してもらえるかもしれないわよ」

「のんのん。みんな甘いネ。こういう時はアパホテ〇に行ってみるネ! 豪華なディナーが待っているアルよ! ウシシ……」

「おい、私情漏れているぞ。神楽だけは却下な」

 キリト、アスナ、神楽と次々に避難先を提案するが、神楽だけは明らかに私情を挟めていた。当然銀時には見透かされており、即答で否定している。

 逃走している身とはいえ、その雰囲気は重くはなく、むしろ和やかそうであった。

「本当に大丈夫かな、この人達?」

 ウサギとなったユウキも、彼らの緩い雰囲気に不安視している。苦笑いを浮かべながら、その流れに飲まれないように気を引き締めていた。

 未だに避難先が決まらない中、逃げ続けている万事屋一行。このまま何事も無く守り切れば良いが……そう簡単には上手くいかない。

「ん? ぎ、銀さん!! 後ろ! 後ろ見てください!!」

「どうした、新八? まさかア〇ホテルの社長でも見つけたのか?」

「そんな小ボケはいいですから、後ろ見てくださいよ!!」

「一体何を焦ってんだよ。後ろに何が……」

 ふと後ろを振り向いた新八は、あるモノを発見して仲間達に慌てて忠告していく。いつものクセで小言を叩いていた銀時だが……彼も後ろを振り返ると、その存在を目にして驚嘆としてしまう。

「な、何じゃこりゃぁぁぁぁ!!」

 銀時及び仲間達が目にしたのは――彼らを追跡する謎のバイク集団であった。

「ターゲット確認。各位スピードを上げて追い越せ! あの少女を捕獲する!」

「「「了解!!」」」

 一人の隊員がそう呟くと、彼らは速度を徐々に上げて、万事屋一行との距離を縮めようとしている。バイク集団の正体は、マッドネバーの戦闘員であるライオトルーパーだ。彼らは専用のバイクであるジャイロアタッカーを乗りこなして、並列しながら銀時らを追跡している。その数はぱっと見ただけでも、十体程度はいた。

 無論ライオトルーパー達の目的はユイの誘拐である。虎視眈々と狙いを定めていき、力づくでも奪い去ろうとしていた。

「アレってまさか……!」

 彼らの姿を見たユウキは、すぐにマッドネバーの戦闘員だと把握している。思ったよりも早く追いつかれて、彼女は困惑めいた表情を浮かべていた。同時にユイを守り切るために、気持ちを強く引き締めていく。

 一方の万事屋側だが、追跡するライオトルーパー達に驚きつつも、各々が思ったことを呟いている。

「兵隊さんですか?」

「ていうか、こっちに近づいているわよ!!」

「俺達が狙いってことかよ……!」

 ユイ、アスナ、キリトは、すぐに自分達が狙われていることに気付いていた。冷静にも現在の状況を読み解いている。

「銀ちゃん、どうするネ! このまま振り切るアルか!?」

「急かすんじゃねぇ! ちょっと待ってろ! 今考えるから!」

「って言っても、もうそこまで近づいていますよ!!」

「ワフフ!?」

 彼らに対して神楽、銀時、新八、定春は、取り乱しながらも必死に打開策を考えていた。危機的な状況を察しているが、焦りへの気持ちが前面に出ている。

 追いつかれまいと少しずつ速度を上げる銀時らだが、ライオトルーパー部隊との距離は縮まるばかりだ。さらには、

「この……ならば!」

ライオトルーパーの一人が奥の手を仕掛けていく。所持していた武器、アクセレイガンを手にすると、

「発射!」

〈バキューン!〉

「「うわぁ!?」」

なんと万事屋一行に向けて発砲。姑息な手で妨害を仕掛けていく。

「いや、発砲までしてくるのかよ!」

「そこまでして、ユイちゃんを連れ去りたいの!?」

「アイツら、危険すぎるネ! 早く撒かないと、こっちの身が持たないアルよ!」

 銀時、アスナ、神楽と悲痛な想いを次々と発していた。意地でも追跡を止めないライオトルーパー達に辟易としながら、一行は今まで以上に危機的な状況だと悟っている。

 飛び道具まで使われれば、被弾した時点で逃げ切ることは難しくなってしまう。一行は知恵を振り絞りながら、必死に打開策を考え込んでいく。もちろんユウキも同じだ。

「このままじゃみんなが……どうすれば。あっ! そうだ!」

 すると彼女はある作戦を思いつく。近くにあった手拭いを動かし、この難局を乗り切る切り札を取り出していた。

「見つけた! もうこれでいいや! 頼む!!」

 ユウキが見つけたのは一本のガイアメモリであり、それを黒いメモリスロットに装填している。彼女の作戦とは、ガイアメモリの力で追手を追い払うものであった。逆転の一手を担うそのメモリの名は――

〈ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲! マキシマムドライブ!!〉

「はぁ!?」

「なんだ今の音!?」

ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲メモリである。あまりにも長い名前にキリトやアスナは微妙な反応を示し、はたまた銀時や新八達は聞き覚えのある大砲に衝撃を受けていた。

「って、おい! どうなってんだよ?」

「銀ちゃん! あのウサギがメモリを使っているネ!」

「いつの間に!?」

「まさかメモリの力を解き放とうとしているのか?」

 一行は状況を一早く察知して、ウサギの仕業だと突き止めている。全員が驚きを感じているうちに、早くもメモリの効果が現実に現れていた。

「よし、決めちゃって!」

 気合の入ったユウキの掛け声と共に、万事屋一行の上空に大砲の幻影が出現する。その形はまごうことなきネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲であり、知らない人から見たら男性の局部にしか見えない。

「な、なによアレ!?」

「ちょっと待て! これはまさかアレなのか……?」

 様子を見ていたアスナやキリトは、大砲の全貌を見て顔が真っ赤になってしまう。彼らからすると卑猥な物体に見えて仕方がなく、何とも言えない気持ちに苛まれている。

 一方の銀時達は慣れているせいか、あまり大きなリアクションはない。何食わぬ顔のまま、キリトらを落ち着かせようとしていた。

「何を勘違いしてんだよ。アレこそネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃねぇか。それにしても完成度高ぇな、おい」

「完成度云々じゃないのよ!! あんなのただのわいせつモノでしょ!!」

「何言っているアルか。この大砲は江戸城に攻撃を仕掛けた天人の決戦兵器アルよ」

「そういう細かい事情はいいから! 形に問題があるんだよ!!」

 神楽も加わり説得するも、やはり納得がいかない様子である。さらに二人は、大砲を凝視しているユイにも注意を加えていた。

「てか、ユイ! 今すぐ目を瞑れ! あんなの見たら、汚れるぞ!」

「えっ、なんでですか? ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲ですよ。ただのこの世界の大砲じゃないですか」

「なんでもう名前覚えてんの!!」

 焦りながらも促すが、当の本人は普通の大砲だと信じている。純粋故に解釈するユイの姿に、アスナは激しいツッコミを入れていた。

 そんな中で銀時は、この状況を利用して悪乗りしていく。

「おい、ユイ。あれは建前で大砲と言っているが、実は違うんだよ」

「そうなのですか?」

「そうそう。本当は……」

「「銀さん!!」」

 にやけながら真実を話そうとするも、怒気の籠ったキリトとアスナに一喝されてしまう。偶然にも選んだメモリのせいで、万事屋一行は混沌とした状況に陥っている。

「えっと……とりあえず! あの戦闘員を蹴散らして!!」

 メモリを差し込んだ張本人であるユウキも、つい申し訳なさそうな表情を浮かべていた。それでも今は、追手を倒すのが先決である。幻影の大砲もエネルギーが充填して、ようやくライオトルーパー達に向けてエネルギー弾が発射されていく。

〈ヒュー ドガーン!!〉

「何だ!」

「伏せ……ギャァァ!!」

「「「うわぁぁ!!」」」

 エネルギー弾は見事に全てのライオトルーパーに被弾。連鎖するように爆発を引き起こし、次々と彼らを吹き飛ばしていく。

 万事屋一行も皆が動きを止めており、神妙な表情を浮かべつつ、ライオトルーパー達の末路を見張っている。

「こ、これは……」

「全滅か?」

「おぃぃぃぃ!! なんだよ、このふざけたメモリは!?」

 その結末は全滅に等しかった。ライオトルーパーはおろかバイクまで消し炭となり、跡形もなく無くなっている。さらには周りに被害は及ばず、綺麗にライオトルーパーだけに危害が加えられていた。高性能すぎる効果に、新八も高らかにツッコミを上げている。

 いずれにしても、万事屋一行の危機的な状況を見事に打破していた。

「とりあえず一安心だな。しばらくは追手も来ないだろ」

 銀時も安堵の表情を浮かべており、そっと心を落ち着かせる。仲間達も同じ気持ちだと思い周りを振り返ると、

「じゃないだろ!」

「じゃないでしょ!」

「うわぁ!? なんだよ!?」

必ずしもそうではない。キリトとアスナは怒りながら、銀時へ迫るように接近。そして数分前の不平不満を、彼にぶつけ始めていく。

「よくもユイちゃんにあんな卑猥な大砲見せたわね……」

「しっかり落とし前は付けてもらうぞ……」

「おい、ちょっと待て! 仕掛けたのは俺じゃねぇぞ! 文句はこの展開を考えた投稿者に……」

「でも、銀さん。ユイちゃんに堂々と下ネタを教えようとしたわよね……?」

「そ、それは……大人の階段と言うかなんというか」

「覚悟しろ……!」

「ま、待て! 話せば分かる……ギャァァァ!!」

 二人はユイに下ネタを教えようとした銀時が許せず、怒りが収まる前に制裁を加えようとした。キリトは目を鋭くさせ、アスナは怒りを滲ませた笑顔で容赦なく襲い掛かる。彼は命に関わらない程度に、手痛いお仕置きを受けてしまった。

 一方のユイは、何故銀時がボコボコにされているのか分かっていない。

「銀時さんは何故パパとママに怒られているのでしょうか?」

「まぁ、大人同士のトラブルというか……」

「結局ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲は何なのですか? 詳しく教えてくださいよ!」

「そう言われても……難しいネ」

 邪な深読みは決してせず、純粋な気持ちでネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を知りたがっていた。神楽や新八に問い詰めるも、二人もどう答えればよいか反応に困っている。もちろん定春もだ。

 一時的な脅威は去ったが、メモリの巻き起こした波乱で万事屋はグダグダな雰囲気となってしまう。

「ギャァァァ! ウオォォォ!」

 銀時の制裁もまだ続いている。そんな中でユイは、難局を救ってくれたウサギに感謝の言葉を伝えていた。

「それにしても、助けてくれてありがとうございます! ウサギさん!」

「どういたしまして……何かトラブルが起きているようだけど、大丈夫なのかな?」

 有難く気持ちを受け取るも、言葉は通じないため表情で返答していく。密かに万事屋内で起きているトラブルに、彼女は一抹の不安を覚えている。それでも雰囲気的に深刻そうに見えず、すぐに収まるだろうと察していた。

「あっ、そうだ! 今のうちに!」

 そんな中でユウキはさらなる考えを思いつく。またも手拭いを探りながら、今度はOが刻まれたメモリを探している。それはオンラインメモリであり、ユウキの仲間であるジュン達四人を封じ込めた忌まわしきモノだ。このメモリをもう一度使用すれば、元に戻せるのではないかと予測している。

〈オンライン! マキシマムドライブ!!〉

「これで仲間を呼び戻せるかも! お願い! 戻って来て!!」

 早速メモリをスロットに装填して、後は上手く行くように祈っていた。あの穴が出てくることを期待していたが……

「ん? 何も起きないの?」

ユウキの期待とは裏腹に何も起きていない。試しにもう一度差し込もうとしたが、

「あっ、ダメですよ! 勝手に試したら何が起きるか分かりませんから、没収しますね」

「ちょ、ちょっと!!」

ユイに気付かれてしまい取り上げられてしまった。取り返そうとするも、やはり言葉が通じないため願いが叶わずに好機を無くしてしまう。

「アレ? おかしいな……なんで出てこなかったんだろう」

 予想が外れたことに納得のいかないユウキ。その表情も気難しく変わっている。

 

 

 

 

 

 

 

 だがしかし。彼女は気付いていなかった。オンラインメモリが実は役立っていたことを。

「ちょっとみんな! あら……? 見失っちゃったわね」

 場面は変わって、こちらは万事屋とはまったく逆の方角にある住宅街。そこには妙が二重の弁当箱を抱えながら、誰かを探しているようだが?

 彼女へ追いつくように、九兵衛や月詠も妙の元に駆け寄ってきた。

「妙ちゃん! シリカ君達は見つかったのか?」

「それが見失ったのよ。一体どこへ行ったのかしら?」

 九兵衛は妙にシリカらの行方を聞くが、妙曰く見失った様子である。どうやら女子達四人を捜索しているようだが、とある出来事がきっかけで道場を逃げ出したという。

 その理由はもちろん……妙の料理絡みである。

「主が無理やり料理を食わせようとするからじゃろ」

「えー? 折角腕にヨリをかけて作ったのに……」

「妙ちゃんの場合、ヨリをかける方が不味いと思うが……」

「何か言ったかしら?」

「いえ、なんでも」

 月詠や九兵衛からも諭されるも、妙はあまり責任を感じていなかった。彼女曰く自信作のようだが、その実態はいつもの暗黒物質である。リーファやシノン達は自身の命の危険を感じ取り、密かに道場を抜け出したという。

 上手くは見つけられない中で、彼女達は知り合いと遭遇する。

「あら? みんな集まって、何か話しごとかしら?」

「ん? その声は猿飛か」

 近づいてきたのは、道場には訪れていなかった猿飛あやめだ。たまたま近くを通り過ぎて、妙達を見つけたようである。

「もしかしてまた、リーファちゃん達絡み? あの子達ならさっき……」

 とさり気なく目撃情報を伝えようとした時だ。

「あっ、猿飛さん。上、上」

「上って一体何が――うわぁぁぁあ!?」

 唐突にもあやめの頭上に何かが出現している。サイバー空間のような穴が開き、そこから四人の人間と思わしき生物が落下してきた。予想だにしない展開にあやめも回避することが出来ず、その生物達の下敷きになってしまう。ちなみに穴は瞬く間に閉じている。

「痛ぁ……俺達どうなっちゃんだ?」

「恐らくあの怪人のせいで、妙な空間に閉じ込められたものだと」

「早く戻って、ユウキやシウネーと合流しなきゃいけないのに……!」

「ていうか、ここどこだ?」

 落下してきた四人は次々と思ったことを発していた。そう彼らの正体は、オンラインメモリにより幽閉されていたスリーピングナイツのメンバーである。ジュン、タルケン、ノリ、テッチと自身や仲間の無事を確認しつつ、周りの様子を見渡していた。

「だ、誰だ君達は?」

「空から降ってきたじゃと?」

 突然の妖精達の登場により、九兵衛や月詠らも困惑めいた表情を浮かべている。だがしかい、一番困っているのは下敷きにされたあやめであった。

「ちょっと……アンタ達。すぐに離れなさいよ!!」

「おっと、人がいたのか!?」

「これは失敬でした!」

 彼女は力づくで四人を薙ぎ払っていく。ようやくジュンらもあやめの存在に気付き、謝罪の言葉をかけていた。ひとまず彼らは、周りにいた妙達に状況を聞くことにする。

「えっと、アナタ達は? それにここはどこですか?」

「どこってかぶき町よ。地球の」

「さらに付け加えると江戸の町の一部だな」

「「えっ?」」

「「はい!?」」

 妙からの言葉に耳を疑う一行。ALO星から地球に来たとなれば、その過程で何が起きたのかつい気になってしまう。あまりにも衝撃すぎて、開いた口が塞がらなかった。

 こうして幽閉されていたスリーピングナイツのメンバーは解放されたが、状況を理解するにはまだまだ時間がかかりそうである。さらにはこの事実をユウキはまだ知っていない。妙や月詠達の出逢いが、彼らにどんな影響を及ぼすのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方でこちらは引き続き逃走中の万事屋一行。とあるメモリのせいで波乱が起きたものの、現在は落ち着いて逃亡を再開している。皆に変わりは無いが、銀時だけはキリトやアスナから受けた制裁の跡が残されていた。

「銀ちゃん。ズタズタになっているアル」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫なわけないだろ。こんなのただの冤罪だろうが」

「悪乗りするのがいけないのよ。ユイちゃんにも悪影響でしょ」

「ユイに変なことは教えるなってことだ」

「そんなに変だったのでしょうか?」

「「変だよ!!」」

 銀時は未だに不満げであり、納得がいかない様子である。肝心のユイも何が問題なのかは分かっていない。騒動により起きた余波は、今でも万事屋に影響を与えていた。

「もっと別のメモリにした方が良かったのかな……?」

 ユウキも苦笑いを浮かべたまま、若干の責任を感じている。過ぎたことは仕方がないが。

 ユイの将来を考えて今後は、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲メモリは使わないことに決めていた。代わりに新しく使えそうなメモリを探すことにしている。

 ちょっとした混迷を乗り越え、気持ちを新たに進む万事屋一行。目的地も決まりつつある中で……さらなる追手が姿を現していた。

「ダラァァァァ!!」

「ぎ、銀さん!! また追手ですよ!」

「アイツは……あん時の龍か!」

「ったく、しつこいアルナ!」

 けたたましい鳴き声が響き、一行は後ろを振り向く。そこにはリュウガが使役する黒龍、ドラグブラッカーがこちらに接近していた。距離も徐々に縮めており、いくら速度を上げようとも差は縮まるばかりである。

「このままじゃ、また追いつかれるぞ!」

「早くメモリの力で追い払いましょう! ……もちろん、アレ以外で」

「どんだけトラウマになっているんだよ! とにかく、新八! 神楽! それとウサギ! 頼むぞ!」

 正攻法では振り切れないと察したアスナは、ガイアメモリの使用を仲間達に促していた。入念にも例のメモリは省いており、銀時からはツッコミを入れられている。それはさておき、銀時に言われなくとも新八らは手拭いからメモリを探していた。

「分かってますよ!」

「でもどのメモリが良いアルか!?」

 数本あるメモリを一つ一つ見てみるが、その効果は実際に使わないと分からない。しばらく二人が頭を悩ませていると、ユウキは直感であるメモリを選んでいた。

「だったら……これで!」

「おぉ! ありがとうネ、ウサギ!」

「よし、ならこのメモリで行こう!」

 言葉は通じずとも、素振りで神楽らにメモリを渡していく。彼女が選んだのはHの刻まれたガイアメモリである。

「どうか変な効果じゃありませんように……!」

 直感で選んでおり、正直まともな効果は保障できない。それでも追手を追い払うことを祈って、手を合わせていた。

 そして新八はスロットにメモリを装填していく。

〈ホームレス! マキシマムドライブ!〉

「ハァ!?」

「ホ、ホームレス!?」

「えぇ……嘘でしょ」

 謎に包まれたHのガイアメモリの正体は――まさかのホームレスメモリである。見るからに使えなさそうであり、一行の期待値はガクンと下がっていた。ユウキもつい絶句してしまう。場にいた全員がホームレスメモリに困惑していると、すぐに効果が表れている。

「ん? うわぁ!?」

 メモリスロットから突如として謎の光が放出。その光はドラグブラッカーに直撃すると、

「ダァ? アーア」

「えっ?」

「帰っちゃいました……?」

なんと追跡を止めてどこかへ去っていた。意外にも追手を退けることには成功している。

「とりあえず、危機は去ったみたいだな……」

「良かったわ……でも、まさかホームレスのメモリに助けられるなんて」

「一体どんな効果だったんだよ? つーか、あの龍はどこに向かったんだ?」

「さぁ?」

 キリト、アスナ、銀時、新八と一行は危機を回避したことに安心していた。しかし結局、ホームレスメモリの効果は分からないままだ。ドラグブラッカーの向かった場所も気になるところだが……

 ちなみに万事屋やユウキは知らないが、ホームレスメモリの効果は光に触れた相手のやる気を著しく低下させるものである。眠気をも誘うので、ドラグブラッカーは追跡を止めて眠れる場所を探すことにしたのだ。

 そして偶然にも見つけた場所は、

「ん? なんだ……って、ギァァァァ!!」

公園の隅っこで寝ていた長谷川の寝床である。段ボールで出来ているが、ドラグブラッカーにとっては最高の寝床だった。これもホームレスメモリの作用と言うべきか……

 長谷川を体格差で追い払い、ドラグブラッカーはそっと昼寝に付く。これでしばらくは追ってこないが、思わぬ形で別の被害者が生まれていた。

「な、何だよコレ!? ていうか、俺の寝床から出ていけ!!」

 折角の居場所を奪われた長谷川は、怒りながら突然襲ってきた黒龍に文句を発していく。事情を知らない彼にとっては、たまったもんじゃないだろう。この原因を辿れば万事屋とも知らずに……。

 

 

 

 

 

 

 と長谷川の受難はさておき、万事屋一行はようやく逃亡先の目的地を決めていた。

「とりあえず、真選組の屯所で良いわね?」

「あぁな。納得はしてねぇがな」

「同じくネ」

「って、二人共! 今回ばかりは協力するべきですよ!」

「あまり落ち込むなって」

 相談事も踏まえて、真選組の屯所へ向かうことにしている。一応近藤らを頼ることにしたが、銀時や神楽は少々納得していない。仲の悪い土方や沖田に頭を下げたくない気持ちがあるからだ。テンションの下がる二人に対し、ユイやキリトは積極的に諭していく。

「真選組は確か……この星の警察組織だったはず。てか、万事屋は真選組に何かされたのかな?」

 ユウキもこっそりと話を聞いていたが、真選組に対して悪い反応を示す銀時らが気になっていた。彼らだけは何かしらの因縁があると考えているが。

「そうですよ。今回ばかりは協力しないと、本当にユイちゃんを守り切れませんよ」

「分かっているけど、何か気が進まねぇんだよ。アイツはマヨネーズ臭いし」

「えっ? マヨネーズの匂いするの!?」

「そうアルよ。あのドS男なんか、何してくる分からないアル。こっちにたかって、バカ高い警備料をぼったくるに違いないネ!」

「警察がぼったくり!? ……どんだけ信用されていないの?」

 引き続き話を聞くと、耳を疑うような事例がわんさかと出ている。マヨネーズといいドSといい、本当はネタだと考えてしまうほどだ。つい表情を引きずってしまうユウキである。

 様々な気持ちに葛藤しながらも、結局は屯所へ向かう事にした万事屋一行。気持ちを落ち着かせつつ、着実に目的地へ近づこうとしていた。そんな時である。

〈strike bent!〉

「くらえ!!」

 何の前触れもなく鏡の中から、ダークライダーの一人であるリュウガが現れていた。万事屋の目の前に立ちはだかり、装着していたドラグクローから漆黒の炎を解き放っていく。

「な、何だ!?」

「ダークライダーです!!」

「みんな、止まれ!!」

「ワフー!!」

 リュウガ及び炎の存在に気付くと、万事屋は皆動きを止めている。スクーターはブレーキがかかり、定春は炎に怯えて自主停止。キリトやアスナも炎を避けつつ、羽を閉じて一旦地上に降りていた。目の前に現れたリュウガにより、万事屋は行く道を完全に阻まれてしまう。

「ったく、よくも足止めしてくれたな。さっさとどきやがれや。お邪魔虫」

「早く立ち去れネ! ペッ、ペッ!」

「何とでも言え。何度言おうとも、僕らの目的に変わりは無いからな。さぁ、このガキを渡してもらおうか!」

 軽口を叩きつつ挑発した銀時や神楽だが、彼は気にせずに受け流していた。本来の目的に変わりは無く、一貫してユイの引き渡しを要求している。

 あまりのしつこさに違和感を覚えたキリトとアスナは、リュウガ及びマッドネバーの真の目的を探ることにした。

「……ちょうど良い機会だ。一つ聞かせてもらおうか」

「あん? 一体なんだよ?」

「ユイちゃんのことよ! どうしてアナタ達は、ここまでしつこく追ってくるの! そこまでして、ユイちゃんが欲しいの?」

 やや感情的になりつつも、正々堂々とした態度で本人に訳を問いている。すると彼の口からは、とんでもない計画が明かされていた。

「あぁ、欲しいさ。なんせ実験が上手くいけば、こいつは晴れて兵器として使えるからな」

「へ、兵器だと!?」

「どういうことだよ……?」

「何ぃ、簡単なことさ。こいつには自分でも気付いていない力が眠っているはずだ。次元遺跡の時に、その一端を使っていただろ?」

「あの時に……でもアレは私でも分からないんです! 結晶の力かもしれませんし……」

「そんなのはどっちでも良いんだよ! 僕達が欲しいのは、お前の純粋な生体エネルギーなんだよ! その秘められた力を、マッドネバーが有効活用してやんのさ!」

「それで兵器やテロに利用するってことアルか……?」

「もちろんだとも。この模造品の変身道具だって、本物そっくりに作り変えることすら出来るだろうからな! さぁ素直に話したことだし、とっととこちらに来てもらおうか?」

 厚かましくもリュウガは計画の一端を話した後、ユイを引き渡すように催促している。

 彼らがユイを狙う最大の理由は、彼女に隠されている力にあった。次元遺跡で起きた現象がきっかけで、勝手に確信までしている。

 簡単に例えるのならば、マッドネバーはユイを利用した悪事を企んでいるということだ。リュウガも変身道具を本物そっくりへと仕立てるため、どんな手段でも使う心構えである。あまりにも自分勝手な理由付けに、万事屋一行の怒りはさらに加速していく。

「はぁ? なんだよそれ……!」

「結局はアンタ達の都合ってことじゃない!」

「ユイを何だと思っているアルか!?」

「そんな好きにさせてたまるかよ……!!」

「絶対にお前らなんかに渡すものか!!」

「ウゥゥゥ!!」

 銀時、アスナ、神楽、キリト、新八、定春と皆が明確な怒りを露わにしていた。敵意を存分に剥きだしにして、リュウガへただならぬ睨みを利かせている。

「皆さん……」

 話を聞いて不安な気持ちになったユイも、仲間達の頼りになる姿を見て一安心していた。そんな彼女の近くでは、ユウキも同じように励ましている。

「大丈夫! 僕も絶対に君のことを守るから!」

 言葉は伝わらずとも、守り切る気持ちだけは伝えていた。こうして誓いを新たに、万事屋は気持ちを一つに合わせていく。絶対にマッドネバーには屈しないと。

 一方で敵意を向けられた側のリュウガは、万事屋の抵抗を想定の範囲内だと括っている。

「渡しそうにないか。ならば仕方ない……来い! マッドネバーの精鋭達よ!」

「アァァァ!」

「ハッ!」

「トウ!」

 彼は次なる段階に作戦を進めており、連れてきていた幹部怪人達を呼び寄せていた。話が通じないのなら、力づくで奪うしかない。本性を表したかの如く、強硬手段へと出ている。

 集結した四体の幹部怪人をまじまじと眺めていき、銀時やキリトらには若干の動揺が生まれていた。

「おいおい、なんなんだよ。こいつら」

「マッドネバーの作り出した怪人達なのか……?」

「正確には復元しただな。どいつも幹部級の実力を持っている怪人部隊のリーダー格さ」

「ビガラサバゾ、バンダンビジベシヅヅギデジャス(貴様らなど、簡単に捻り潰してやる)」

 怪人達の登場に誇らしく思うリュウガは、簡単な説明を加えている。さらには怪人の一体であるゴ・ガドル・バは、グロンギ語で万事屋に啖呵を切っていた。聞きなれない言語には銀時達は戸惑っていたが。

「何て言ったんだ?」

「サバはパンダと乳繰り合ってろじゃないアルか?」

「いや、どんな場面だよ!」

 聞き取った言語を思いつきで神楽が訳すも、やはりヘンテコな文章となってしまう。新八からもツッコミを入れられている。

 その傍らでキリトらは、幹部怪人達をしっかりと分析していた。

「アレは……あの時に戦ったショッカーとはだいぶ違います!」

「カブト虫にライオン……それにノコギリクワガタか?」

「ピエロ? って、体に星座が書かれているわ!」

 数か月前に激突したショッカー怪人とも比較するが、やはり見た目からして印象が異なっている。立ち姿からも強者感に溢れていた。

 万事屋の前に立ちはだかる幹部怪人は、グロンギのゴ集団のリーダー格ゴ・ガドル・バ。ギラファノコギリクワガタの始祖であるギラファアンデッド。金色の鎧に覆われたライオンモチーフのレオイマジン。道化師のような姿をしたふたご座の怪人、ジェミニ・ゾディアーツ。以上四体と、レオソルジャーやカッシーンと言った戦闘員も数名集まっている。

 どの怪人も歴代の平成仮面ライダーを苦しめた強者達だ。リュウガにとっても心強い味方であり、安心感からか彼はつい調子に乗り始めている。

「ハハハ! 笑っちゃうね。僕とお前ら、もう勝ちは見えたでしょ? なんせ僕の仲間達にもこの居場所は伝えておいたからな」

「何ですって!?」

「他にも仲間が来てたアルか……?」

「総力を懸けて、ユイを連れ去るつもりかよ!」

「さぁな? どっちだろうね……!」

 唐突に明かされた情報に、アスナやキリトらは耳を疑ってしまう。彼らへ追い打ちをかけるように、強気な発言まで発していく。

 増々危機的な状況を察する万事屋一行に対して、リュウガのハッタリはまだ続いている。

「さてさて、もっと追い込んであげようか! 僕のドラグブラッカーで君達を痛み付けてあげよう!!」

 その言葉と共に彼はカードをバックルから取り出し、黒き召喚機ドラグバイザーに装填していく。

〈adobent!〉

「ま、まさか!?」

「さぁ、来い! ドラグブラッカーよ!」

 そう彼は、自身の契約モンスターであるドラグブラッカーを召喚しようとしていた。万事屋を取り囲んで、数の暴力で一網打尽にする。見事なまでの完封勝利を決めようとした。

 だがしかし……思わぬ事態が彼の元に降りかかっている。

「ん? 何故来ない!?」

 なんとカードで呼び出しても、ドラグブラッカーは一切姿を現さなかった。再度召喚機を動かして、アドベントを発動するものの、

〈adobent!〉

「……だから何故来ないんだ!? 何が問題だ!?」

「おい、落ち着け」

やっぱり何も起きない。取り乱し始める彼に対して、レオイマジンと言った周りの怪人達が落ち着かせていく。数分前までの余裕はとっくに無くなっていた。

 ドラグブラッカーが来ない理由はホームレスメモリによる影響だが、残念ながら彼はそれを把握していない。てっきり故障か何かだと思い込んでいる。さらに不運なことに、万事屋がガイアメモリを所持していること、ユウキと共に行動していることにも気が付いていなかった。

 彼が謎の戸惑いを続けているうちに、万事屋はとある作戦を密かに立てていく。

「銀さん」

「あぁ、分かってる。今がチャンスだろ」

 キリトと銀時が小声で意思疎通をした後、彼らはユイと新八に作戦を話している。

「おい、新八にユイ。今のうちに逃げておけ」

「えっ?」

 それは二人だけがこっそりと逃げるものであった。つまりは残ったメンバーで、怪人相手に時間稼ぎをするのである。

「で、でも銀さん達は?」

「大丈夫だ。さっさと倒して、すぐに向かうから」

「それまでは時間を稼いでおくアル!」

「本当に大丈夫なのですか……?」

「心配するな。こんな修羅場、すぐに潜り抜けてやるよ」

「でも……」

 突然の提案に戸惑った二人だが、神楽やキリトも率直な気持ちで説得を続けていた。何よりもユイらが不安なのは、本当に無事に合流できるのかである。仲間達の行く末をつい心配してしまう。

 中々新八達の決意が固まらない中で、アスナは急に彼の手を掴んでいる。そして真剣な眼差しで新八との目を合わせ、自身の想いを伝えていた。

「ユイちゃんを今連れて行けるのに、新八君が適任なの。希望を託してもらえる?」

「アスナさん……分かりました!」

 新八の強い意志や図太さを信じて、彼に希望を託すことを決めている。それを聞いた本人はようやく万事屋の作戦を引き受けていた。

 一方のユイには、ユウキことウサギが寄り添っている。

「ウ、ウサギさん?」

「心配しないで! 僕も騎士団の一員だから、絶対に君のことも守ってみせるよ!」

 言葉は伝わらずとも、自身の気持ちは伝わるように目を合わせていく。彼女の強い気持ちを感じ取ったのか、ユイもまた決意を固めていた。

「一緒について来てくれるのですね」

「そう! 屯所に向かおう!」

 彼女も真剣そうな表情へと変わり、万事屋の作戦を受けいれる。

 こうして新八とユイ、ユウキは、近くの裏路地を利用して脱走。最終的な目的地である真選組屯所に向かい、走り続けていた。ちなみにガイアメモリや結晶の入った手拭いも、しっかりと所持している。

 場には銀時、キリト、神楽、アスナ、定春の四人と一匹が残っていた。次第に彼らは戦闘準備を整えていく。

「ったく、仕方ねぇな。ちょっくら時間を稼いでやるか」

「ここからは私達の出番アル!」

「特訓の成果を披露してやるよ!」

「さぁ、覚悟しなさい!」

「ワン!!」

 四人は自身の武器をしっかりと握りしめて、表情もより険しく変わっていた。定春も足を慣らして、態勢を整えていく。いつでも戦う準備は万全である。

「おい、お前。標的が逃げているぞ」

「うるさい! 今僕は……えっ? なんだと!? いない……?」

 一方のリュウガは、レオイマジンからの言葉でようやく事態の変化に気付いていた。前を向くとそこにはユイがおらず、隙を見て逃げたのだとすぐに察している。自身の失敗を手痛く後悔していた。

「ようやく気付いたのかよ!」

「でも、もう遅ぇぞ!」

「今度は私達が相手よ!」

「おりゃぁぁぁ!! カチコミじゃ!!」

「ウルウゥゥゥ!!」

 そして銀時達は好機を見失わず、勢いのままに幹部怪人達へ突き進んでいく。仲間の逃げる時間を稼ぐべく、懸命に戦いに身を投じている。

 銀時はゴ・ガドル・バ。キリトはギラファアンデッド。アスナはレオイマジン。神楽はジェミニ・ゾディアーツ。定春は戦闘員の大群を相手にしていた。

「チッ。厄介なことになったな……!」

 その間にリュウガは、物陰に隠れて作戦を組み直している。ドラグブラッカーの件もそうだが、気になるのは呼びかけたダークライダー達ですら来る気配がないことだ。

「何故あいつらは来ないのだ……!」

 じれったくも焦りだしたリュウガは、作戦を変更して再びユイの探索に当たることにしている。この場は幹部怪人達に一任するようだ。

 実はダークライダー達が到着しない理由は、各々がとある事情に巻き込まれているからである。




 さてさて、色んなミラクルが起こりましたが今回も如何だったでしょうか?
 遂に始まったマッドネバーのクーデター。詳しくは次回以降に記載しますが、かなり大変なことになっています。シウネーも高杉と共に急ぎますが、また子にその姿を見られてしまいます。後でドヤされる気がしますね……
 そして集団で追い掛け回すライオトルーパーのバイク隊! ファイズの劇場版を彷彿とさせる一幕でした。
 ガイアメモリも続々と登場して、出てきたのはなんとネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲メモリ! その形にキリアスもドン引き。ちょっとした騒動に発展してしまいました……。
 密かにもジュン達は妙や九兵衛達と遭遇。この出会いが後にどのような影響を与えるのでしょうか……?
 それにしても、ユイを兵器として利用するオベイロンの神経……やっぱり彼は別の世界でも邪悪そのものでした。

 それと皆さんにご報告があります。この続きは延長戦に続きます!
 どういうことかと言うと、実は思った以上に書きたい要素が多くて、中々まとまらずに今回は区切りの良いところで終わることにしました!
 大まかに内容は決まっているので、恐らくですが早めに出せると思います……多分。

 ユイの運命はどうなるか? 是非延長戦に期待していてください!
 ちなみに予告編は次回に持ち越しとなります。
 では!!

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