あとこれは余談なのですが、妖国動乱篇の初期案ではALO星に平成仮面ライダーの伝承が伝わっている設定にしていました。しかし妖精と平成仮面ライダーの相性がミスマッチと考え、急遽次元遺跡というまったく別の案に方向転換したのです。ちなみにこの初期案の構成案は――悪名高いとされるあの作品です。
〇モンライド! 約束の地へ駆け抜けろ~~
採用しなくて良かったー。
※諸事情により、タイトルを一部変更しました。
※アリシャの誤植が見つかったので、変更致しました。第七十九訓も同じです。
これまでの剣魂妖国動乱篇は、
マッドネバーに連れ去られたユイを取り戻すべく。ALO星に乗り込んだ銀時、キリトら一行。街の惨状に呆然とする中で、友人であるフィリアや新たな仲間のシグルドと遭遇。
一方のユイは、全ての元凶であるオベイロンと邂逅。彼の自分勝手な意見に反論するが、非常にも投獄されてしまう。
混沌とした状況下で、鬼兵隊も密かに動き始める。高杉はフレイアやシウネーと、マッドネバーが乗っ取った世界樹に侵入。来島らもサクヤ率いる領主達と対面していた。
状況は刻一刻と変わり始めていく……!
カウント・ザ・メモリーズ! 現在ユウキの持っているメモリは……
A アルヴヘイム L リード O オンライン
「「「はぁぁぁぁ!!!」」」
羽で空中浮遊しながら、呪文を唱え続けるのはサクヤ、ユージーン、アリシャの領主達。彼らはアルンに貼られた透明な壁を取り除くべく、魔法を使って対処していた。
そんな三人の真下にいるのは、来島、万斉、武市の鬼兵隊一行。共闘する運びになった彼らは、サクヤ達の動向を見守っている。すると万斉はぶつぶつと独り言を呟いていた。
「サクヤ。シルフにおける実質的なリーダー。分け隔てなく面倒ごとを請け負う一方で頭も冴えるその様は、繊細さが求められる演歌と言ったところか。対してアリシャ・ルーは無邪気さが目立つケットシーのムードメイカー。隙を見せない猫っぽさは、一流の女性アイドルソングに匹敵するな。そしてサラマンダーの将軍、ユージーン。この星では五本の指に入るほどの実力者。常に激しく大胆に行動する様は、パンクロックに通ずる」
「って、万斉先輩。また音楽で例えるっすか?」
「ただのクセでござる。視聴者に分かりやすく説明したくてな」
「いや、全然通じてないっすよ!!」
やや満足そうな表情を浮かべる彼に対し、来島は容赦のないツッコミを入れていく。どうやら領主達を音楽で例えていたが、独特なセンスで仲間からは理解されていない。
マイペースな万斉にため息をつく来島だが、彼女の横ではもっと厄介な男がいる。
「落ち着いてください、お二方。音楽如きで喧嘩はみっともないですよ」
「で、でも武市先輩!」
「音楽ならばセブンちゃんを聞くと良いです。この戦いが終わったら、CDあげますよ」
「いや、アンタもその話に乗るんかい!? 別にいらないっすよ、このロリコン!」
「ロリコンではなくフェミ――」
「どっちでもええわ!!」
わざわざセブン好きをアピールした武市だ。彼曰く音楽活動もこなすセブンのことを尊敬しており、非常事態でもいつも通りに振舞っている。おかげでまた子からは怒りを買うことになったが。
と鬼兵隊の言い争いはさておき、領主側にもようやく動きがあった。
「「「はぁ!」」」
呪文を唱え終えた途端、手元へ溜めていたエネルギーを壁に向かい放出。すると瞬く間に、壁は次々と光の粒子状になり消滅していく。壁に強い衝撃を与えることで、全体像を破壊する作戦だったようだ。
「よしっ!」
「やったな」
「当然よ。これくらい」
順調に作戦が上手くいき、一旦は喜び合う三人。希望の活路が見え始めたところで――
「おい、伏せろ!」
「ん? キャ!?」
唐突にも予期せぬ事態が起きてしまう。ユージーンは見えぬ脅威に気付いて、急いで仲間に警告。見えぬ脅威とは街に漂う異様な空気であり、それに直撃した三人は飛行状態を保てなくなり、そのまま地上に落下してしまった。
「って、皆さん! アレを!」
「はぁ!? 大丈夫なんすか!?」
断片的に様子を見ていた来島らは、慌てつつも領主達の落ちた場所まで駆け寄る。幸いにも落下地点には砂が盛られており、辛うじて目立った怪我は無かった。
「おい、しっかりしろ。大丈夫か?」
「あぁ、なんとかな」
万斉の呼びかけにユージーンが応える。来島もサクヤやアリシャの無事を確認して、何が起きたのか詳しく聞いていた。
「一体何が起きたんすか?」
「詳しくは分からないけど……恐らくアルンにもう一つの仕掛けがあったと思う」
「もう一つの仕掛け? あの透明な壁以外にも?」
「恐らくあの壁は囮さ。アルンに溜まっていた空気は、私達妖精の能力を封じるものだな」
「おかげで空も飛べなくなったし」
「えぇ……」
深刻な表情で二人が伝えたのは、アルンに仕掛けられた罠である。正体不明の空気を浴びたことで、自身の保有していた魔法や飛行能力が一切使用出来なくなったという。
(恐らくこの空気は、オベイロン及びアナザーエターナルの能力によるものだ。次元遺跡でも似たような効果を発揮したからである。ちなみに領主や鬼兵隊はこの情報を知らない)
ただならぬ不穏さを感じ取る中、武市や万斉は必然的にマッドネバーの企みだと見抜く。
「これもマッドネバーの仕業か」
「こんな物騒な仕掛けまであるとは……」
神妙な表情で今後を憂う一方、来島は領主達の無事を再度確認する。
「と、とにかく領主達は行けるっすか?」
「あぁ、問題ない。魔法が使えなくとも、戦える術は持っているからな」
「ハンデが出来ただけだ。俺達にとってはちょうど良い」
「構わずにこのまま行こう!」
密かに心配する彼女をよそに、三人は揃って力強い言葉を返す。特殊な力を一時的に失っても、まだ戦う力が彼らには残されていた。そう簡単には諦めない根性を発揮する。
「分かったす」
「なら行くでござる」
その強い想いを、鬼兵隊一行は受け取っていた。再度サクヤ達の様子を確認して、一行は侵略されたアルンへと突入していく。
こうして新たな事実に直面しながらも、戸惑うことなく彼らは突き進んでいった。
依然として混沌を極めるアルンの現状。領主や鬼兵隊が果敢に街へ侵入する傍らで、世界樹内でも動きがあった。
場所は各星の要人達を招き入れる特別な待合室。そこには簡略的に作られた檻が設置されており、ちょうどユイもその檻に囚われていた。
「どうだ? あの子の様子は」
見回りに来たカッシーンは、門番を務めている怪人達にユイの様子を伺う。門番として選ばれたのは、ホエールイマジンとアリゲーターイマジンだ。
「ずっと~あの調子だ~」
「悲しみに暮れて、ずっとしゃがんでいるよ。アレじゃ心も折られてんな」
「そうか。ならば気を緩めずに見張っとけ」
そうやり取りを締めくくると、カッシーンは別の場所に移動する。てっきり彼らはユイが挫折していると察して、近づいて様子を確認することは無かった。
だがしかし、彼らの判断は大間違いである。ユイの目にはまだ光が残されているのだ。
(どうすればここから抜け出せるのでしょうか……)
真剣な表情を浮かべつつ、ずっと檻から抜け出す術を考えていく。僅かに恐怖心はあるが、そっと抑え込んでいる。
(絶対にこんなところで諦めたくないです。奪われた結晶も取り戻して、早くパパ達の元に戻らないと!)
どんな酷い目に遭おうとも、必ず仲間が助けに来てくれることを信じていた。一筋の希望は絶対に諦めたくないのである。
ひとまずは奪取された結晶を取り返したいが……この状態では無暗に動けない。自力で抜け出すのも無理があるだろう。
状況を上手く掴めずに、やきもきと気持ちを募らせるユイ。不安そうな表情を浮かべていた時、彼女にとっては千載一遇の好機が訪れようとしていた。
「おい。ここはどこだ?」
「ここは確か、待合室ですよ。姫様へ会いに来た要人を迎い入れる場所です」
ちょうど待合室の近くまで来たのは、密かに世界樹へ侵入していた高杉、シウネー、フレイアの編成チーム。彼らはフレイアの案内の元、敵に見つからずここまで辿り着いたらしい。
到着早々に一行は、待合室に檻が設置されていることに衝撃を受ける。
「って、檻? なんでこの場所に」
「恐らくあの野郎が作ったんだろうな」
「悪趣味な人ですね……」
ポツンと置かれた檻には三人揃って不快感を示しており、高杉は皮肉そうに呟き、シウネーも本音をポロっとこぼしていた。
それはさておき、一行は変わり果てた待合室の様子を探る。するとフレイアは、檻に囚われているユイに気付いていた。
「ん? 皆さん、見てください。檻に誰かいますよ」
「アレは……女の子?」
シウネーも不思議そうに檻の中を確認した――その時である。
「アイツは檻にいたのか。だったら話は早い」
「って、高杉さん!?」
「急にどこへ行くのですか!」
「何ぃ、ただ知り合いを助けに行くのさ」
なんと高杉は誰にも話すことなく、単身檻まで突き進んでいた。本心の読めない彼の飄々とした行動には、女性陣も困惑めいた表情を浮かべる。
「これで借りは返したぜ」
そんな反応などつゆ知らず、高杉は自分なりに動いていく。ユイを助ける理由も、以前にキリトと共に救われた恩があるからだ。不器用ながらも礼は返す律義さを発揮する。
と私情はさておき、高杉は早速見張りのイマジン達に戦いを吹っ掛けてきた。
「おい」
「ん? 誰だ――うわぁ!?」
「どうした~」
声をかけると同時に、彼はアリゲーターイマジンへ一発殴りかかる。もう一体のホエールイマジンが驚く中、高杉は構うことなくアリゲーターへ攻撃を続けていた。
「フッ! ハァ!」
「クッ!?」
自慢の刀技を披露し、相手に攻撃する隙すら与えていない。その眼差しはまさに、獲物を確実に仕留める百獣と言ったところか。突然の襲撃により、アリゲーターやホエールは上手く対処が出来ずに押される一方だ。
「えっ? 誰って――高杉さん!?」
そしてユイも事態の変化を察していく。目を凝らしながら檻の外を見ると、そこには高杉が乱入していた。思わぬ知り合いとの再会に、つい頭を混乱させてしまう。
「なんであの人が……あっ、そうだ」
状況を把握できずに困惑したものの、よくよく考えるとこれは好機かもしれない。高杉を説得すれば、奪取された結晶を取り返せるかもしれないからだ。試してみる価値は十分にあるだろう。彼女がそう考えを練り始めていると、さらに予想外の事態が起きている。
〈カチャ!〉
「ん?」
「ようやく開きました!」
「さぁ、お嬢ちゃん。もう大丈夫よ」
鍵を破壊した音と共に、二人の女性が話しかけていた。高杉が専ら戦う傍らで、密かに檻の鍵を壊していたシウネーとフレイアである。彼女達は少女が無事なことに安堵した。
ところがユイにとっては、これまた意外な人物の登場に衝撃を受けてしまう。
「えぇ!? フレイアさんにシウネーさん!? なんでここに……?」
「ん? 何故私達の名を?」
「もしかして、この星の住人でしょうか?」
「いや……この子は確かアルンにも他の街にもいなかったはず。とりあえず檻から出てきてください」
「は、はい!」
互いの記憶に相違があるものの、一旦はユイへ逃げ出すように促す。ユイはてっきりシウネーもフレイアも元の世界の住人と思い込んだが……二人の初対面な反応から、すぐにこの世界の住人だと捉えていた。いわば外見だけ似たそっくりさんだと理解する。
そんなやり取りを交わす傍ら、高杉の猛攻は未だに続いていた。
「ひ、卑怯だぞ! 不意打ちとは! 戦う準備くらいさせろ!」
「卑怯だぁ? てめぇらには言われたかねぇな。俺は戦いに来たんじゃねぇ。てめぇらを殺しに来たんだよ」
「なんだと!? くっ、うわぁ!?」
文句を垂れ流すアリゲーターに対して、高杉は虎視眈々と本音で返す。戦いに狂った一面を見せると同時に、目つきを細くして相手を次々に斬りかかっていた。
「はぁぁぁ!」
「な、く……うわぁぁぁ!!」
そして高杉は倒せる頃合いを見計らい、相手の中心部に刀剣を貫かせていく。この一撃がアリゲーターの急所となり、彼はゆっくりと場に倒れこみ――激しく爆散。高杉の本気が垣間見えた一幕であった。
「ひぃぃ! ここは撤退~」
あまりにも悲惨な倒された方を目にして、戦意を失ったホエールイマジンはたまらずに場から逃げ出す。もう一体の怪人を取り逃したが、彼は特に気にしていなかった。
「一匹逃げたか。まぁいいか」
小言を言いつつ刀を鞘に納めると、すぐにシウネーらの元へと戻る。
「ふっ。どうやら助け出したようだな」
「そうですね。高杉さんも流石の腕前でした」
「アレくらい大したことはねぇよ。それよりも俺が気になるのは……地球にいるはずのお前が、どうしてこの星にいるんだよ」
シウネーからの誉め言葉も気にせずに、高杉は早速ユイに話しかけていた。すると彼女は緊張感を持って言葉を返している。
「久しぶりですね、高杉さん……」
「あん時以来か。借りはしっかり返したぜ」
その一連のやり取りはどこかぎこちなく、絶妙な関係を一目で物語っていた。
「やっぱりこの少女とアナタは知り合いだったのですね」
「詳しく私達にも説明してくれませんか?」
シウネーやフレイアも二人の関係性が気になり、質問を投げかけていく。すると、
「おい、何の騒ぎだ?」
「まさか檻からあのガキが逃げ出したんじゃねぇだろうな」
待合室での騒ぎを聞きつけた怪人達が、こちらへと近づいていた。このままでは見つかってもおかしくはない。
「おい、ここに留まるのは不味い。さっさと別の場所に移動すっぞ」
「そうね……行きましょう」
「さぁ、貴方も!」
危険を察知した高杉らは、ユイを連れてどさくさと待合室を抜け出していく。彼らは裏道を上手く活用して、マッドネバーに気付かれないよう細心の注意を払っていた。
そんな彼らと行動を共にすることになったユイは、不安よりも期待の気持ちが大きく高まっていく。
(この三人とならば取り返せるかもしれません……これはまたとないチャンスなんです!)
先ほども頭に過ぎっていた結晶を、彼らとならば取り返せるかもしれないからだ。今後の戦いを左右する大事なアイテム。絶対に取り返したいと気持ちを強く鼓舞する。果たしてその願いは届くのか。
世界樹や郊外付近で動きがある一方、アルンへ密かに忍び込んでいた銀時、キリト、アスナ、神楽側にも変化があった。
「やっぱり懐かしい場所ね……」
街を一望できる場所に佇み、少し前の思い出に浸るのは、外の空気を吸っていたはずのアスナ。彼女は一人で考え事がしたくなり、仲間のいる場所から遠ざかっていた。(フィリア曰く近くに怪人がいないとのことで、彼女は伸び伸びと振舞っている)
「あっ、あのスタジアムもあるんだ。本当にALOと似ているのね……」
これまた既視感のある建物を見つけると、やんわりとした表情に移り変わる。先ほどの店を含めつつ、とある人物を思い起こしていた。
そう穏やかにも黄昏れていた時、彼女を心配した神楽が駆け寄ってくる。
「アッスー、ここにいたアルか」
「神楽ちゃん? って、わざわざ探しに来てくれたの?」
「そうネ! なんかアッスー寂しそうな顔をしていたからナ。一体どうしたアルか?」
どうやらアスナの心の変化に感づいたようで、素直にも打ち明けるように促していた。
すると同じタイミングで、ウサギことユウキも駆けつける。
「やっと見つけた――ん? 何か話している最中かな?」
彼女は密かに二人の雰囲気を悟り、一旦は近くの物陰に身を潜めることにした。あまり趣味ではないが、こっそりと話を盗み聞きしていく。
「少し昔の思い出に浸っていたのよ。この街並みや風景って、私の遊んでいたゲームとほぼ同じだもの」
「そうアルか? アッスーも元の世界だと、こんな中二病の塊のようなゲームを遊んでいたアルか?」
「とんでもない偏見に聞こえるけど……こういう妖精とかファンタジー系ってむしろ好きな方なのよ」
「へぇー」
二人の会話は、緩やかにもテンポ良く交わされている。そんな最中にユウキは、会話のある部分に注目を寄せていた。
「アレ? アッスーさんってまさか……別の世界の住人だったの?」
元の世界と言う言葉から、アスナがこの世界ではない別次元の人間だと捉え始めている。不思議そうな表情で、さらに会話へ耳を傾けると――ユウキはさらにとんでもない情報を知ることになった。
「あっ、だから懐かしんでいたアルか?」
「うーん、それとはまた違うことかな。ねぇ、神楽ちゃん。折角だから、まだ話していなかった私の友達の話をしていいかしら?」
「おぉ、友達アルか。めちゃんこ気になるネ! どんな子アルか?」
「私にとって最高の友達……ユウキって名前の子なの」
突然アスナは自身の友達を話題に上げており、神楽は興味津々に話へ食いつく。終始しんみりとした雰囲気のアスナに対して、神楽は周りに警戒しつつも普段と変わらない元気さで振舞っている。
二人の激しい温度差も気になるが、ユウキはアスナが上げた名に衝撃を受けていた。それもそのはず。自身の名前とまったく同じだからだ。
「えっ? ユウキ……僕と同じ名前じゃん!! いやでも、男子でもユウキって名前の子がいるし……絶対勘違いだって、多分!」
最初は大いに驚嘆したものの、次第に冷静さを取り戻す。ユウキという名は男女問わず付けられており、必ずしも自分ではないと持論を諭していく。この時点ではまだ半信半疑だったのだが、
「へぇー、そんな子がいたアルか。どんな特徴があるアルか?」
「えっと、一人称が僕の女の子で、紫色の髪に赤いバンダナを付けて、小柄で剣の達人だね。一度はキリト君を打ち破ったこともあるのよ」
「えぇ!? キリを倒すなんて、中々の強者アルナ~」
アスナからの情報をきっかけにその疑惑は確信へと変わった。一つ一つ内容を聞くにつれ、ユウキの心には強い衝撃が走ってしまう。
「う、噓でしょ……ほぼ僕じゃん!! まさか別の世界の僕ってこと!?」
彼女は独り言の如く本音を吐き散らしていた。別世界と言う情報から察しがよく、アスナの知っているユウキが別世界の自分だと捉え始めている。この認識が後に彼女を苦しめることになるのだが……。
とそれはさておき、アスナと神楽は次々にユウキ(SAO)の話題を続けていく。
(ここから原典に登場したユウキは、地の文でのみ(SAO)と表示される)
「ねぇ、もっとユウキの話を聞きたいネ」
「もちろんいいわよ。ユウキとはある決闘で出会ってね、そこで強さを認められて彼女のチームに参加することになったのよ」
「チームって、パーティーみたいなモノあるか?」
「その認識で合っているわよ。スリーピングナイツって言って、ユウキの他にもシウネーやジュン、テッチやタルケン、ノリって仲間もいて、どのパーティーメンバーも個性派ぞろいだったのよ」
「個性派アルか。銀ちゃんや真選組、ヅラに姉御みたいなキャラ達アルか?」
「流石にそこまで濃くはないわよ……」
ユウキ(SAO)と重ねてスリーピングナイツも紹介しており、ご丁寧にチームメンバーも紹介している。個性派と称して神楽が例えの人物達を上げるも、アスナからは苦笑いで却下されていた。流石に根本が違うからであろう。
次々と明かされる別世界のユウキ(SAO)の情報だが、こちらのユウキはあまりの共通点の多さに段々と恐怖を感じていた。
「いやいや、おかしいでしょ!! なんでチームメイトと名前まで同じなわけ!? 偶然の一致で寒気がするのだが!?」
やはり名前まで同じなのは、運命的と言っても過言ではないだろう。
彼女の大袈裟な反応に気付くことなく、二人の会話はさらに続く。
「それでメンバーと一緒に難関のクエストや攻略に挑んだり、キリト君達も集めてパーティーをやったりとか。ユウキやみんなと出会えて、たくさん最高の思い出が出来たのよ」
「へぇー、良いアルナ。てことは、もしかしたらユウキもこの世界に来ていたかもしれないアルか?」
「う、うん……それはどうかな?」
楽しそうに思い出を語る中、突然アスナの表情が急変してしまう。下を向いたまま静かに黙り込んでしまった。
「アレ? アッスーさんの態度が変わった?」
細かな気持ちの変化には、ユウキや神楽も薄っすらと気付いている。
「どうしたネ。何か急に歯切れが悪いアルよ」
「いや……本当は来てほしいけど、それはもう無理なのよ。そもそもこの話も、あんまり神楽ちゃんには話してなかったでしょ」
「そうアルナ。結局どういうことアル?」
慎重に問い直す神楽だが、徐々に嫌な予感を察していく。今このタイミングでユウキ(SAO)の件も話したのも、よくよく考えると不自然である。
そして彼女の口からは――ユウキ(SAO)の顛末が語られた。
「率直に言うとね――ユウキは病気で亡くなっちゃったのよ」
「えっ……?」
「はぁ!? そんな……」
何の脈略も無かった告白に、神楽、ユウキ共に大きく驚嘆してしまう。特に後者は、別世界の自分の最期を知って言葉を失っていた。
「ど、どういうことネ、アッスー!? 展開が早すぎて、さっぱり分からないアルよ!」
神楽は血相をかいた表情となり、アスナへ激しく問い詰める。彼女は体を揺らされながらも、しんみりとした表情で事を深堀りしていく。
「元々ね……ユウキって体が弱かったのよ。私と出会った時にはもう、自分が死ぬ運命を受け入れていたみたい。それでも諦めず、頑張って戦い続けたんだけど……」
「――無理だったアルか」
神楽の問いにアスナはこくりと頷いた。
「旅立ったのはつい最近のことよ。過ごせた時間は少なかったけど……私は、ユウキと出会ったことが最高の幸せだったの。絶対にあの子のことは忘れない。そう心に誓ったから!」
途端に彼女は悲しみを堪えた表情に変わっていく。ユウキ(SAO)とは永久の別れになったが、アスナはそれを受け入れて前に進んでいる。
この思い出話を通して彼女は神楽に、ユウキの生きた想いを伝えたかったのだ。全てが伝わらなくても良い。少しでも感じ取れるものがあるならば良いと割り切っている。そんな強い気持ちとは裏腹に、神楽は言葉が詰まって下を向いてしまった。
「神楽ちゃん? やっぱり重かったかしら……」
ついアスナも心配して声をかけるも、神楽から返って来たのは意外な一言である。
「いや、違うネ……分かるアルよ! アッスーの気持ち! 大切な人が自分の前からいなくなったら、どれだけ寂しいか」
「神楽ちゃん……?」
「重くなんかないネ。むしろアッスーの大切な友達を知れて、とっても良かったネ。絶対に無駄じゃないアル!」
「そっか……ありがとうね」
彼女は感情を搔き立てつつも、しっかりと自身の本音をぶつけていた。アスナの気持ちに共感しており、同じような経験があるからこそ、辛さや悲しみも一通り理解している。すなわち、伝えたかった想いはちゃんと伝わっているのだ。
そんなアスナの切実な気持ちを目の当たりにして、ユウキも深い感傷に浸っていく。
「アッスーさんにとってのユウキは、大切な人だったんだ。別世界の僕の、かけがえのない友達……」
別世界の自分と括り、彼女の真摯な気持ちを理解していた。考えれば考えるほど、何とも言えない不可思議な想いに浸る。そう深く考え込んでいた時、ユウキはとある不安に苛まれてしまう。
「でも、待って。もし僕が元の姿に戻ったら……アッスーさんのことを傷つけちゃうんじゃないのかな」
それはアスナと出会うことだった。もしウサギの姿から元の姿に戻れば、まったく違うユウキに困惑することは間違いない。はたまた精神的な苦痛を与えてしまうと、良からぬ考えを煮詰めてしまう。
そんな不安に駆り出されてしまうユウキに反して、神楽とアスナはようやく気持ちを落ち着かせていく。
「とりあえず、ありがとうネ。アッスーの大切な思い出を話してくれて」
「ううん、いいのよ。神楽ちゃんにも、ようやく伝えられたし」
「上手くはいえないけど、きっとそのユウキもアッスーと友達になれて……幸せだったと思うアルよ!」
「うん……そう言ってもらえるだけで嬉しいわ」
神楽からの素直な一言に、アスナもつい微笑みをこぼしている。
「それじゃみんなの元に戻りましょう」
「そうネ。ユイを絶対に取り戻すアルよ!」
「もちろん!」
会話を上手く締めくくりつつ、二人は改めて気持ちを一つに合わせていく。凛とした表情に移り変わり、ユイの救出に再び情熱を注ぎこむ。感情を込めた話し合いが、より良い気分転換に繋がっていた。
そのまま帰宅しようとした矢先、彼女らはようやくウサギことユウキを目撃する。
「あっ、あのウサギも来ていたネ」
「心配して来てくれたの? じゃ、一緒に戻りましょうか」
てっきり様子を見に来たと思い、軽くお礼を交わしてからウサギを抱えていく。心配そうな表情をしているのは、周りの様子を警戒しているからか。それは全くの見当違いだが。
「どうしよう……これから」
アスナに本当の姿を見せることに、ためらいが生まれているユウキ。未だに悩み続ける中、果たして彼女なりの答えは導き出せるのだろうか。
アスナの発したユウキ(SAO)の話題は、神楽やこの世界のユウキにも大きな影響を与えていた……。
女子達がしんみりと会話を交わす一方、アルン北東部にいる銀時とキリトらにも動きがあった。
「ワフフフーフ」
「ナナナ!」
[今度はこっちだ]
仲睦まじくも定春、ピナ、エリザベスの通称ペット組は、宿屋にあったボールを用いて、室内でバレーの如くボール遊びをしている。緩急や変化を適宜付けつつ、ボールを落とさないように皆が奮闘していた。滅多にはないペット組の癒される一幕である。
その一方で銀時とキリトは揃って屋上におり、二人だけで話し合いを行っていた。
「「「じー」」」
そんな二人のいる屋上をこっそりと覗くのは、シリカ、リズベット、シノンの三人。彼女達は、キリトと話す銀時の様子が気になり密かに盗み聞きしていた。
「一体二人は何を話しているんですか……?」
「ていうか。なんでアタシ達じゃなくて、銀さんなのよ……」
「納得いかないわね……」
皆が揃って悔しそうな表情を浮かべながら、じっくりと二人の様子を見張っている。あわよくばキリトの相談相手に乗りたかったが……その役目を銀時にかっさらわれてしまい、若干不満げであった。
そんな覗き見をしている女子達には気付かず、銀時はキリトに本音を打ち明けるために画策している。
「それで一体何を悩んでんだよ。まさか本当にホームシックじゃあるまいな」
「いやいや、違うって。シグルドの件で思うことがあって……」
「あぁ、あいつのことか。俺から見りゃ胡散臭ぇ野郎だよな。表面が良いだけで、裏じゃ絶対救急車を蹴ってるに違いねぇよ」
「何そのピンポイントで、誰かを明らかにディスっている例えは」
「おっ。お前も新八並みにツッコミが上手くなったじゃねぇか」
「それは褒められてんのか?」
時事ネタや軽い話題を挟みつつ、キリトの本心を探っていく銀時。彼の予想通り、やはりシグルドが関係しているようだが。
「んで、シグルドに言いたいことがあったのかよ? まさかお前の知り合いなのか?」
「厳密には知り合いではないけど……とりあえず俺が説明するよ」
「おう。任せたよ」
核心を突くような質問を投げかけると、キリトは率直にも応じてくれた。こうして彼は複雑そうな表情を浮かべつつ、とある過去の経験を銀時に明かしていく。これが自身の抱えていた悩みにも繋がっている。
(この場面でも時の文でのみ、SAO世界のシグルドに(SAO)が付属される)
「シグルドは元の世界にもいて、俺の知っている彼はスグの知り合いだったんだよ」
「何? お前の妹、あんな胡散臭い野郎と顔見知りだったのかよ。絶対ヤ〇目的で近づいただろ」
「んなわけないだろ!! ただ種族が同じなだけだよ。それにスグには、中学からの付き合いのレコンって子の方が仲は良いよ」
「はいはい。どんだけ男が群がろうとも、お前の妹がブラコンなのは周知の事実だからさ。近づいても無駄ってもんよ」
「って、話が脱線しているから!」
まずは手短に自身の知るシグルド(SAO)を、簡略的に解説していた。リーファ経由で知ったらしいが、何故か話題は彼女に逸れてしまう。仕舞いには本人のいないところで、とばっちりまで受けていた。
「いや、キリトになんてこと言ってんのよ!」
「話題にしているリーファさんが不憫ですよ……」
「まぁ、ブラコンなのは事実だけど」
「「うんうん」」
女子達も銀時に思うところはあれど、リーファのブラコンには否定していない。こちらも本人の不在を良いことに、素直な気持ちを露わにしている。
「クッション!」
「どうしたんだ、お前? 飛沫かけてくんなよ」
「流石にかけないわよ! 誰か私の噂でもしているんじゃないの?」
アルンの南西エリアにいたリーファは、ちょうど同じ時間帯にくしゃみをしていたが……とそれはさておき、銀時のキリトの会話は続いていく。
「まぁ銀さんにも分かりやすく言うと、シグルドは表面上種族や組織のために活動していたけど、その実態はスパイに近いものだったんだ」
「スパイ? 山崎と同じタイプってことか?」
「山崎……まぁ、そんなところだよ」
「お前絶対分かってないだろ」
続けて彼が打ち明かしたのはシグルドの正体だが、銀時は近しい例えとして山崎を名に上げていた。しかしキリトの反応はいまいちであり、分かったかのような反応である。少なくとも二,三回は出会っている真選組の一だが……影の薄さはキリトらにも有効的だった。
「山崎って誰だったっけ?」
「それは……思い当たらないわね」
「会った事はある気がするけど……アレ? 本当に誰ですか?」
女子達も揃って何者なのか理解していない。
「ブアックション!」
「おい、山崎。かけてくんなよ」
「あっ、すいません。って、そんなに今日寒かったかな?」
これには地球にいる山崎も、不意にくしゃみする始末である。ちょうど近くにいた原田からも、飛沫を気にして煙たがられていた。
と話を銀時とキリトの会話に戻そう。
「まぁ山崎の件はさておき、お前の世界のシグルドが卑怯者ってことは理解したよ」
「そう。だからあの人を信じることにも抵抗があるんだ。もちろんただの杞憂かもしれないけれど、オベイロンも元の世界では極悪非道だったからな……無暗に信じられないんだよ」
「前にも言っていたことか」
まとめとしてキリトは、元の世界で暗躍していたシグルドの所業を語っていた。裏切りまで仕掛けた卑屈さが印象的で、その経験から彼はこの世界のシグルドもあまり信用していない。一連の話を聞いていき、銀時は自分なりの意見をキリトへと返答していた。
「なるほどな……じゃ、正体を現すまで疑い続けることで良いんじゃねぇのか。そう気に病むことじゃねぇよ」
「そうかもな。今の段階じゃ、それが最善だと思う。でもこの俺の勝手な決めつけを、みんなは信じてくれるのか?」
「そりゃ信じるに決まってんだろ。ヅラはともかく、女子共は誰よりもお前のことを信用しているぞ。そうなんでもかんでも、一人で抱え込むなや。俺も人のこと、言えねぇけどな」
「信用か……確かにそうだな」
大雑把にも答えを導いたが、責任感の強いキリトはまたも自分だけで抱え込もうとしている。そんな自己犠牲の強い彼に対して、銀時は軽く注意を加えていた。かくいう彼も人のことは言えないのだが。
何気のない一言だが、女子達にも思わぬ影響を与えている。
「ぎ、銀時さん。珍しく良いこと言いますね!」
「アタシ達は何があってもキリトの味方……分かってんじゃないの」
「ストレートに言われると、心にくるわね……」
キリトとの強い信頼関係を改めて誇示されると、揃って照れ気味な態度を表す。都合の良い時に限って銀時を見直す、ちゃっかり屋な一面を披露していた。それでも嬉しいことに変わりはないのだが。
そんな素朴な反応はさておき、銀時は突然にも二人の共通点について話題を上げる。
「なんかよ、俺とお前って結構似ているよな」
「って、急にどうしたんだよ。改まって」
「この機会だし、言っておこうと思ってよ。闇雲に一人で抱え込んだり、大切なモンは何が何でも守ったりよ」
「フッ……そう言われるとそうだな。それに銀さんとは、気兼ねなく話せるからな」
「年はこんなに離れているのにな」
「自然と歳の差は感じないけどな」
キリトとも概ね共感できる個所が多く、話を弾ませつつ二人はクスっと笑っていた。共に声は出していないが、他にも共通のクセや正反対の趣向など、思い起こせば次々と浮かび上がる。緩い雰囲気の中で本音を語り合えるのも、信頼の強い二人ならではの光景だった。
無駄話を踏まえて気持ちを一新させたところで、二人は話をまとめ上げている。
「シグルドの件はまぁいいよ。どっちに転ぼうが、俺達の目的は変わらねぇ。あの馬鹿げた野郎から、ユイを取り戻す。もちろんこの街も救うけどな」
「俺も同じ気持ちだ。あの男の好きにはさせないよ……!」
マッドネバーの野望も打ち破り、ユイも絶対に連れ戻すと共に強く誓ったところで――銀時は目線をドア付近へと向けていく。
「そんじゃ話も終わったし、出てきていいぞ。覗き屋ども」
「覗き?」
〈ギク!?〉
なんと彼は全てを見透かしたかのように、ドア裏にこっそりと隠れていた女子達に声をかけてきた。シノンらを呼んでいることは明白で、呼ばれた女子達は次第に焦り始める。
「まさかバレていたの……?」
「銀さんめ……もう気付いていたのね」
「ど、どうしますか? 素直に出ますか?」
「でも出たところで、銀さんにおちょくれるのがオチでしょ」
「た、確かに……」
「下に逃げましょうか?」
迷っている時間は無いに等しいも、中々決断が定まらない三人。恥を忍んで屋上に出ようものなら、キリトはともかく銀時には小馬鹿にされる未来しか見えないからだ。それだけは何としてでも避けたい。とりあえずペット組のいる一階へ戻ろうとした――その時である。
「何故ためらうのだ。ここはもう勢いのままに行くべきではないか?」
「ん?」
「「うわぁぁ!?」」
急に距離を縮めて声をかけてきたのは、アルンにて行動を共にしていた桂だ。神出鬼没が如く現れて、空気を読まずに女子達へ声を上げている。
不意の声掛けにより、女子達は驚天動地のように緊張感が途切れてしまう。さらにはその弾みで、微かに開いていたドアに体重がかかり……案の定外部へ追いやられていた。すなわち桂の乱入で、女子達が積み立てていた計画は全て失敗に終わったのである。
「あっ、やっぱりみんなだったのか」
「覗きなんざ、悪趣味じゃねぇか。どこまでキリトと話したかったんだよ」
「えっ? 俺なのか?」
心配そうに声をかけるキリトに対し、銀時は皮肉そうに呟いていた。彼ら二人のみならず。シノンら女子達も思わぬ再会に困惑してしまう。
場が微妙な雰囲気と化してしまう中、きっかけを作った桂は態度を変えずに話しかけていた。
「ハハハ。何を黙り込んでいるのだ。銀時にキリト殿、女子達もどうやら会話に入りたかったらしいぞ。俺に構わず会話を再開させるといい! ハハ……」
意気揚々と笑った表情を浮かべながら、一行に快く会話を勧めている。無論こんな乱雑なやり方では、女子達も納得するはずがなく……
「「「じゃ、ないでしょ!!」」」
「ブフォ!?」
見事に返り討ちを受けてしまう。シリカ、リズベット、シノンは揃って桂に一発の拳をぶつけていく。ドア付近まで吹き飛ばされた彼は、反論する暇もなく彼女達の軽い仕打ちを受けることとなった。
「お、落ち着け君達! 俺はただ手助けをしたかっただけであって……」
「手助けじゃなくて、邪魔でしたよ!」
「なんでアンタはいちいち空気が読めないのよ!」
「少しは自分をわきまえなさいよ!!」
俗に言う「大きなお世話」とはまさにこのことだろう。もちろん桂に悪意はないが、強引なやり方が彼女らに逆鱗に触れてしまったのである。しばらくは怒りも収まらず、女子達の気が済むまでこの争いは続きそうだ。
突然の乱入からのグダグダな喧嘩を見て、銀時、キリト共にその反応に困ってしまう。
「一体何が起きたんだ……?」
「知らね。どうせヅラが適当に吹っ掛けて、総スカンを食らっているだけだろ。放っとけ、放っとけ。直に収まるよ」
「本当に大丈夫なのか?」
適当に受け流した銀時とは異なり、キリトは桂の様子を心配している。桂に対する認識が、二人の反応に違いを与えていた。それでもこの喧嘩は見るに堪えなかったので、潔く止めようとした時である。二人はこの場にいなかった仲間達に気付き始めていた。
「アレ? そういえば、エリザベスはいないのか?」
「本当だ。ていうか、定春もピナもいないぞ」
「どこに行ってんだ……?」
いつも桂の横にいるはずのエリザベス、シリカのパートナーであるピナと万事屋のペットの定春。いわゆるペット組の姿が見えないのである。本当は一階で待機しているが、ふと二人は辺りを見渡していると、
「あっ、銀さん。みんな外にいるよ」
「外だ? こんな時に何をやってんだよ。散歩か?」
三匹は揃って外部に出ていた。南西エリア組とは違って、周りの安全はまだ確証されていない状況。マッドネバーの怪人に見つかる可能性もある中で、何故彼らは外に出ているのか。危険を伝えるために、定春らへ声をかけようとした時である。
「ちょっと待って、銀さん。ここは声をかけないでおこうよ」
急にキリトは銀時を止めに割り込んでいく。
「えっ? じゃアイツらが、何かを見つけたのかよ」
「多分そうだと思う。隠れて覗いているんじゃないかな?」
彼はペット組なりに考えがあると悟り、冷静にも状況を様子見していた。銀時も渋々キリトの考えに応じていく。
改めてペット組の行動を見ると、皆が壁際に寄せ集まり、死角を利用して何かを覗いているようだ。奇しくも先ほどのシリカ達と状況は同じである。
「ワフ……」
「ナ……」
[ごくり]
定春やピナは真剣な表情で固唾を飲んでおり、エリザベスも何一つ表情を変えずにじっと探っていく。(表情が変わらないのはいつもことであるが……)
とそれはさておき、彼らはとある衝撃的な場面を目撃してしまう。
[これはまずいぞ。仲間に伝えるぞ]
エリザベスの指示のもと、定春やピナも静かに頷いていく。彼らは足音を立てぬまま、そろりと仲間にいる宿屋へとこっそり戻っていた。
「あっ、こっちに戻って来るよ」
「よし、俺達も降りるぞ」
何か重要な情報を掴んだと察して、銀時とキリトは急いで屋上から一階に向かう。
「あっ、待ってください!」
「ちょっと! 戻っちゃうの!?」
「おい、銀時にキリト殿! 俺を置いていくな!」
彼らの跡をついていくように、シリカらや桂も一階へと戻る。彼らがそこに集結すると、そこには神妙な表情で呼吸を整える定春とピナ。
[お前らに伝えなくてはいけないことがある!]
血相さをプラカードでアピールするエリザベスのペット組が、外部から帰って来ていた。あまりの焦りように、仲間達もつい心配してしまう。
「おいおい、どうしたお前ら。揃いも揃って」
「一体何を見たの?」
不思議そうな表情でシノンが聞き返すと、定春やピナは一目散に声を上げていく。
「ワフワフ! フフフ!!」
「ナナナ! ナーナナ!」
しかしもちろん鳴き声なので、銀時やキリトらにはあまり伝わっていない。
「えっと、どういうことだ?」
「お前飼い主だから、分かるんじゃねぇのか?」
「いや、分かりませんよ! でも良い知らせじゃないのは明らかですね……」
飼い主を理由にシリカへ通訳を丸投げした銀時だが、当然本人からは反対されてしまう。それでも落ち着きのない雰囲気から、重要な情報を握っているのは明白である。その意味を理解しようとした時だった。
[おい、お前ら。俺のプラカードで通訳できるか]
「おっ、そうだ。みんな! エリザベスのプラカードに注目するんだ!」
「その手があったわね」
二匹の代わりにエリザベスが前に出ている。自身の伝達手段であるプラカードを介して、定春やピナの代わりに入手した情報を伝えるようだ。
一行はエリザベスの周りを囲いながら、彼のプラカードに注目していく。
「えっ? 嘘!?」
「それ本当かよ……」
「まさかな」
「よく見つからなかったわね」
その全貌を目にして、シリカ、銀時、桂、シノンと次々に驚きの反応を示していた。場にいた全員がペット組の得た情報に絶句しており、何とも言えない表情になってしまう。特にキリトは、誰よりも複雑そうな表情を浮かべている。
「……そうか」
彼はあることを悟り、静かに覚悟を決めていた。
新たな事実に困惑しつつも、対処するために一行が考え始めた時である。
「すまない! 少々遅れてしまった……って、どうしたのだ? 皆で集まって」
外部の警備を行っていたシグルドが、ちょうど宿屋に戻って来ていた。彼は出会った仲間達が密集している場面を見て、つい不思議がっている。気になって聞いてみると、
「ううん。なんでもないわよ!」
「アンタが来る前に、ちとこちらで作戦を話し合っていたんだよ」
[今すぐにでも出発できるぞ]
「そうか。これは心強いな。では今一度作戦を立ててから、世界樹に侵入しようではないか」
リズベットや銀時らは穏やかにも補足を加えていく。この返答も間違ってはいないが、答え方や素振りはどこかぎこちなかった。
シグルドはあまり気にしておらず、黙々と作戦の話し合いに参加していく。この状況を打開するためにも、マッドネバーが乗っ取った世界樹に狙いを付けていた。密かに忍び込み、こちらの有利な状況を作り出すことが今後の命運を担っている。
真剣な表情で作戦を熱弁するシグルドに対して、キリトやシノン、銀時らの表情は緊張感に満ちていた。何故ならばペット組の得た情報は、シグルドが関係しているからである。故に全員が彼に怪しまれないよう、水面下である事を進めていく。
果たしてペット組の得た情報とは? シグルドは本当に裏切ったのか――
一方でこちらは、アルンの南西エリアにいる新八ら一行。とある飲食店に身を隠していた彼らにも、銀時らと同じく動きがあったようだ。
「ごめん。ちょっとトイレに行ってくるね」
「うん、分かった」
フィリアは周りの目を気にしつつも、単身トイレのために席を外している。彼女が場からいなくなった隙に、土方と沖田は二人だけである話を交わし始めていた。
「おい、総悟。その顔つきはお前も気付いているのか?」
「そうですねぇ。ちなみに土方さんは、確証ってどれくらいですかい?」
「四割程度だ。まだ情報も不十分だからな」
「そうですかい。じゃどこで判断を付やすかい?」
「ヤツが不審な動きをした時だな。十中八九やるとみているぜ」
「なるほどねぇ……この事はみんなに教えなくていいんですかい?」
「余計な混乱を生むからな。俺達だけでとどめておくよ。総悟も口出しはするなよ」
「分かってやすよ」
共に神妙な表情のまま、自身の抱えていた違和感を打ち明かしていく。どうやらフィリアに疑いの目をかけており、以前の彼女とは少々雰囲気が異なるらしい。もちろんただの杞憂かもしれないが、心配するに越したことはない。
今は土方と沖田しか感づいておらず、あまり仲間達にも大っぴらにはしなかった。下手な混乱を生ませないためである。洗脳や憑依、はたまた擬態した偽物とあらゆる可能性を踏まえつつ、二人はフィリアを注視していく。
そう決意を新たにする者がいる傍らで、新八はある事実を仲間達へ打ち明けようとしていた。
「あの……皆さん」
「ん? どうしたんだ、新八?」
彼の言いたげな雰囲気を察して、クラインや近藤が声をかけてくる。
「おっ。まさかトイレに行きたいのか?」
「いや、違いますよ! 皆さんに伝えたいことがあって……」
「伝えたいこと?」
ツッコミを入れつつも、話題は逸らさずに続けていく。彼は真剣な態度を続けていき、場にいた仲間達にあのウサギの秘密を打ち明かしていた。
「実は――」
そしてものの数分、新八はウサギの正体が少女(ユウキ)であることをリーファや沖田らに伝えていく。
「というわけなんですよ」
「そ、それは本当なのか!?」
「えぇ……!?」
特に近藤とクラインは、揃って大きなリアクションを繰り出している。彼らに限らず、場にいた土方、沖田、リーファも反応に差はあれど驚嘆していた。
「まさかあのウサギの正体が人間だったなんて……」
「人間というよりかは妖精っぽかったですけど」
「どっちでも同じだろ。だがお前らを助けたってことは、少なくとも味方と見ていいか」
「回りくどくマッドネバーの自演ってのも、可能性は低いでしょうからね」
疑り深い土方や沖田でさえも、一連の描写からウサギのことを信じている。
すると新八は、途端にウサギの正体について探り始めていた。
「そういえば、あのメモリを持っていたのもウサギだったはず……ってことは、あの子は。やっぱりマッドネバーから逃げ出したのか?」
ガイアメモリを所持していたこともあり、ウサギこと少女とマッドネバーの関係性をも気にしてしまう。一人でこっそりと考えようとした時。リーファがふと思った疑問を、彼に投げかけていた。
「ねぇ、新八君。その妖精って、どんな姿をしていたの?」
「えっと確か……紫髪の女の子で剣を使っていましたね。背は小さくて、髪には赤いバンダナを巻いていました」
「へぇー。女だったんですかい」
ウサギの正体は女性であり、それを聞いた沖田ら真選組は淡々と反応する。
「そいつは意外だな」
「女の子とは……触らぬように気を付けなくては」
「いや、気にするとこそこかよ」
近藤だけは神経質にも、心配事を浮かべていたが。珍しく繊細さを見える彼に、新八はツッコミを入れていた。
だが一方で、リーファはまったく異なる反応を示している。
「えっ? 本当にその外見だったの?」
「そうですよ。どうかしましたか?」
改めて確認すると、彼女はクラインの元に駆け寄っていく。そして彼に向けて、小言で自身の感じた疑問について交わしていた。
「ねぇ、クラインさん。もしかして、あの子じゃないの?」
「なんだ、なんだ?」
「だからあの子だって。ユウキさんと外見がそっくりじゃないの?」
「あぁ、確かにな。でもあの子はもう……」
「いや、この世界の住人って可能性もあるのよ。だとすると問題は……」
リーファなりの推測を耳にして、クラインも複雑そうな表情を浮かべている。二人が把握したのは、ウサギの正体がこの世界のユウキである可能性だった。あくまでも推測の域に過ぎないが、もし当たっているのならば、とある問題が生じてしまう。
(もしこの世界のユウキさんなら、アスナさんと出会うと……)
アスナの精神的なダメージである。この世界のユウキと同様に、遭遇した際の混乱が目に見えているからだ。あくまでも仮定の話なのだが、リーファはその対面を不安視している。クラインも同様だ。
「珍しいな。お前ら二人で話すなんて」
「一体どうしたんですか?」
真選組や新八からしてみれば、リーファとクラインが積極的に話す様子は珍しいという。この懸念や不安が彼らに伝わるのかは不明だが、ひとまずは感じたことをそのまま伝えてみることにする。
「新八君……この事はアスナさんに言わない方が良いわよ。きっと、驚いちゃうし」
「えっ? なんでですか?」
「それがな……」
と二人がユウキ(SAO)の件を説明しようとした時だった。
「ただいまネ!」
「ちょっと遅くなってごめんね」
タイミングが悪く神楽とアスナ、ユウキが隠れ家に戻ってきている。アスナの声を聴いた瞬間にリーファやクラインは、ドキッと内心驚いてしまう。
「おっ、二人共! ようやく戻って来たか」
「うん! こっちも気が収まったアルよ!」
「って、みんなで何を話していたの?」
「いや、それが……」
気になったアスナから問われたものの、リーファやクラインは適当にはぐらかしていた。
「実はウサギのことについて――」
「うわ! うわわわわ!!」
新八がウサギの件を言おうとした時は、リーファは体を張って場の注意を引かせている。そして至近距離で新八に近づき、小声で厳重に口封じを促していく。
「絶対に言わないで……って! お願い……!!」
「は、はい……なんでそこまで必死に?」
「デリケートなことだからよ!」
彼女は怒りに満ちた表情を滲ませつつ、力強く言い張る。それほどアスナとユウキ(SAO)の絆を重要視しているのだ。あまりの覇気の強さに、新八も気が引けてしまう。
「土方さんに近藤さん。あまり言わない方が良いみたいでさぁ」
「何を必死になってんだ、アイツは」
「うむ……複雑な事情なのか?」
流石の真選組一行も、今回ばかりは空気を読んでいる。
だが一方で、不自然な態度をとるリーファらにアスナや神楽は不自然に感じ取っていた。
「一体なんなのかしら?」
「何か焦っているし怪しいアル」
「まるで数分前の僕みたいだ」
若干怪しむものの、そこまで重要視はしていない。ユウキは先ほどの自分と照らし合わせて、少しばかり共感はしていたが。
そんな波乱が起きた時である。ようやくフィリアがトイレから帰って来ていた。
「おっ、やっとみんな戻って来たね」
「あっ、フィリア! ただいまネ」
「うん。じゃそろそろ、世界樹に向かう作戦を立てようか」
彼女が席に着くや否や、本題である世界樹の侵入へ話題を進めていく。シグルド側と同じく敵の本拠地へ忍び込み、逆転の一手を見つけ出す算段のようである。こうして彼らも事態を本格的に動き出していた。
洗礼を受けながらも、構わずに世界樹まで向かう領主と鬼兵隊一行。
仲間との合流と結晶の行方を不安視するユイ。
マッドネバーに悟られることなく、世界樹内を駆け回る高杉ら混合チーム。
いよいよ敵の乗っ取った本拠地に向かう銀時やキリトら北東エリア組とアスナや神楽ら南西エリア組。
多くの人間や妖精がマッドネバーの野望に巻き込まれる中、ただ一つ共通しているのは、皆がその野望を止めるために動いていること。決戦の地は、マッドネバーが乗っ取った世界樹へと移されていく……。
だが彼らは気づいていなかった。この戦いにさらなる参加者がいることに。その正体は……次回へと続く。
さて……今回は遂にユウキのことを初めて普及しましたね。しかも別世界のユウキまで聞いている始末。タイミング悪! 神楽もアスナの気持ちに共感することが多く、改めて二人の心を打ち明けた場面でもありました! でも……ユウキはアスナの本心を知って、ためらいが出来てしまいましたね。果たしてどうなることやら……
ちなみにいずれアスナは、ミトのことも神楽に話せると思いますね。
キリトと銀時の本音トーク。出会ってしまった高杉とユイ。新八の告白で気を遣うクラインやリーファと、前回に入りきれなかった展開も多く盛り込みました。いよいよ一行は決戦の地とされる世界樹へと向かいますよ!
それと次回についてですが、過去回想を含めて話を進めていきます。振り返るとオベイロン及び須郷のことを万事屋に話している場面が無かったので、取りこぼした分を含めて製作したいと考えています。余裕があれば、次回の話でストーリーも多少進めていきたいです。また内容がマシマシになるのか……では。
次回予告
次回! 剣魂妖国動乱篇!
銀時「なんでそんな屑野郎なんだよ」
アスナ「そういう人間性だからでしょ」
妙「大人しく食えや! 小僧め!!」
ジュン「ブフ……」
ノリ「ジュン!?」
長谷川「俺達も助けに来たぜ」
タルケン「誰ですか、この方は?」
あやめ「ホームレスよ」
テッチ「えっ?」
妖国動乱篇七 秘・蔵・回・想
回想も含めて、青春スイッチオン!!