ハイスクールD×D-魔法漢女に拉致された偽物が歩む道ー 作:マッシュ
異世界生活5年目の冬。
もうすぐ来る受験にピリピリする学生達が目立つ、この季節。
俺は今年も、元気な生徒達を見守りながら生徒会の依頼で生徒会室に設置されているエアコンの修理をしていた。
「貴方を雇って本当に良かった。
私たち新生徒会に機械が得意な人材は居ないので、とても助かります」
「なに、私は給料分働いているに過ぎない。
故に君が気にする必要はどこにもないと思うのだが?」
生徒会長と書かれたプレートが設置された机に座り、眼鏡がよく似合う冷たくて厳しいオーラを放つ美少女。
名前を
今年当選した眼鏡美人な生徒会長に褒められた俺は修理の終わったエアコンを設置しながらも、すっかり身に沁み込んでしまったエミヤロールで返す。
「いえいえ、時々貴方に淹れてもらう紅茶は絶品で、私達の密かな楽しみなのです。
どうです?以前にもお誘いしましたが、当家の執事になってみませんか?
報酬は今の4倍は出しましょう」
本当に何度目になるか分からないお誘いに苦笑する。
ゲーム時代に頑張ってスキルレベルをカンストさせた執事スキルと鍛冶スキルのお陰で用務員として雇われているのにそれ以上の大活躍して、目の前の新生徒会長や紅の髪を持つ女子生徒から熱烈な勧誘を受けている。
まあ、スキルだけで礼儀を知らない、なんちゃって執事の俺は礼儀は出来ていないので毎回お断りしているのだ。
…お、普通に動いているようだしエアコンは完全に治ったようだ。
「悪いが、今回も遠慮させてもらおう。
私はもう執事をするつもりはないのでね」
「そうですか……それは残念です」
本当に残念そうな表情を見せる生徒会長の視線を受けながら、設置したエアコンが上手く稼働している事を確認した俺は、床に散らばっている道具の片づけに入った。
「気が向いたらいつでもお声を掛けてください。
我がシトリー家は何時でも貴方を歓迎いたします」
「やれやれ、私の様な怪しい経歴を持つ男を欲しがるとは……。
君もあの子も、本当に変わり者だな。」
道具をケースに片づけ、立ち上がる。
「さて、これで修理は完了した。
私は他の仕事があるので、退散しよう」
「お忙しいなか、修理を有難うございました。
また、何かあったらお願いするのでよろしくお願いします」
生徒会長にお礼を言われた俺はケースを持ち上げ、生徒会室を退室した。
すると……
「変わり者で悪かったわね」
生徒会室の入り口近くで仁王立ちしている女子生徒がいた。
女子生徒は血の様に紅い髪が特徴的で、この学園のNO1美少女。
その名をリアス・グレモリー。
もうすぐ三年に進級する北欧出身の留学生で、俺を執事に勧誘してくるもう一人のお嬢様だ。
「さ、生徒会室が終わったら今度はオカ研の部室をお願い。
シャワーの調子が悪いのよ。
後、変わり者に変わり者呼ばわりされた私の心を癒す為に紅茶も入れてもらえるかしら?」
「やれやれ……君はもう少し遠慮と言うものを覚えた方がよいのではないのかね?」
「あら?私が日本の文化に慣れていない時に遠慮なく頼ってくれと言ったのは貴方じゃない」
「む…確かに言ったが……」
悪戯っぽく笑う彼女の言葉に言い返せなくなる俺。
確かに俺は、彼女が入学したての頃に困っていた彼女を善意でブラウニーの如く、助けた事がある。
まさか、あの時の言葉がブーメランとなって帰ってこようとは……。
「勿論、タダでとは言わないわ。
部室には
「ほう?」
部室の茶菓子に反応する俺。
オカルト研究部には生徒会と同様に何度も足を運んだ事がある。
その際に出されるオカルト研究部の副部長である
時間も放課後でちょうど小腹も空いている。
シャワーを修理するついでに茶菓子をご馳走になろう。
「いいだろう。では、さっそく部室へ向かうとしよう」
「ふふ、お願いね」
楽しそうに笑う彼女の横を通り過ぎ、俺達は旧校舎にあるオカルト研究部の部室へと向かった。
1
部室にたどり着いた俺は、魔法陣の数々を無視しながら黙々と作業を始め、業者もびっくりな僅かな時間で修理を完了させた。
エアコンの時といい今回のシャワーといい、アイテムの不具合を見つけて修理する事の出来る《修理》の鍛冶スキルには本当に感謝である。
「終わったぞ」
「何時もながら早い仕事ね…」
「ほんと、衛宮さんは一家に一人は欲しいですわね」
道具の片づけに入った俺を感心した表情で見てくる女子二人組。
一人は俺に修理を依頼してきたリアス・グレモリー。
もう一人は副部長の姫島 朱乃。
今時、珍しいポニーテールの彼女は大和撫子と呼ぶにふさわしい所作をして居る魅力的な女子生徒だ。
正直、オカ研メンバーで唯一の男子である
前の世界でイケメンだったら俺も……ねーな。
悲しいけど、ゲームが恋人だわ。
「さて、約束の茶菓子を準備してもらってもいいかね?
その間に私はお茶の準備をしよう」
何度も訪れた部室であり、構造を完璧に把握している俺は部室近くの給湯室でお茶を沸かし、茶葉が躍り出す絶妙なタイミングと最高の温度を見極める。
文字にすると簡単な行為のように思えるが、これにはたゆまぬ努力と技術が必要になるらしい。
だが、俺には関係ない。
スキルの効果で感覚に従うだけで寸分狂う事なく、どんな駄茶でも最高の味を出す事が出来るのだ。
ゲームではロールプレイ以外で活躍する事のないゴミスキルであったが、現実ではこのスキルの価値は計り知れない。
なにせ、美少女から熱烈な勧誘やお茶を淹れて欲しいとお願いされるからな。
人生、何が役に立つか分からないものだ。
……逆に、課金してまで上昇させたステータスや戦闘スキルがいらない子になったがな。
投影魔術なんて包丁やカッターナイフぐらいしか使う用途がねーよ。
悲しいけど、これが現実なんだよな。
非現実なんてゲームや漫画の世界だけなんだよ。
俺は異世界であろうとも、変わる事のない
2
自分の淹れたお茶と出された茶菓子を一通りオカ研で楽しんだ俺は、残った仕事を片付けて、夕飯の買い物をしてから自宅へと帰った。
そう、あの変態筋肉から借金して手に入れた衛宮邸にそっくりな我がお城である。
6LDKの訳アリ中古物件で格安で手に入れた鉄骨鉄筋コンクリートの我がお城。
この世界に来てから筋肉との同棲生活に
これであの変態筋肉ともおさらば!!
と、思っていたのにな……。
現実は無常である。
「HAHAHA、待っていたぞ、エミヤ君!」
「大徳寺…またなのかね?」
家の玄関前で待っていた大徳寺の姿に溜息が出る。
「いやー、すまない。
どうも我慢が出来なくてね。
今晩も頼むよ!」
「了解した」
申し訳なさそうに金の入った茶封筒を受け取った俺は大徳寺を自宅へと招いた。
「にゃ~」
玄関を自宅に入って靴を脱いでいると一匹の黒猫がとことことやって来た。
我が家を購入して一年目の時にこの家の住民となったクロで俺の癒しである。
「HAHAHA!お邪魔するよクロ……」
「にゃ!?」
俺が頭をなでて気持ちよさそうに喉をゴロゴロと鳴らしていたクロだったが、大徳寺に声を掛けられると脱兎の如く、逃げ出した。
「HAHAHA…まだ、怒っているようだ」
「それはそうだろう」
クロに逃げられてショックを受けている大徳寺に真顔で返す俺。
あれは本当にひどい事件だった。
一人暮らしを始めて数か月。
クロと言う家族も増えて順風満帆な生活を送っていた我が家にこの男はアニメファンのオフ会の姿のまま…つまり、『ミルたん』の姿でやって来たのだ。
おかげで生物兵器を目の前に自宅へと帰る途中であったサラリーマンはミルたんを目撃して吐しゃ物をまき散らし、買い物帰りの奥さんは悲鳴を上げた。
外で聞こえた悲鳴に飛び出たご近所さんは外に飛び出すと同時に悲鳴を上げ、好奇心で外の様子を見た子供は泣き出した。
視覚だけで相手の精神を攻撃するその姿はまさに生物兵器。
周りの反応を理解できず、キョトンとしていると外の様子を玄関の隙間から窺うように現れたクロの存在を察知。
ミルたんの姿で
そう、抱きしめたのだ。
ムチムチの胸筋と汗と加齢臭に包まれたクロは発狂し、三日ほど抜け殻の様な生活を送った後、ミルたんを毛虫の如く嫌うようになったのだ。
だが、その事件があったおかげで、目の前の筋肉はミルたんとして二度と我が家に来ることはなくなり。
ご近所に生物兵器が現れる事はなくなった。
「夕飯ならすぐに作ってやるから、リビングで待っていたまえ」
「そうさせてもらおう…」
肩を落とし、しょんぼりとした筋肉はトボトボとリビングへと向かった。
やれやれ。
今日はクロの為に魚料理かな。