閃光の軌跡   作:泡泡

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 だいぶ間が空いてしまい申し訳ありません。


オリエンテーリング・後編

 

 「む、そこにいるのは誰か?」

 

 柱の陰に人の気配を感じたのでそちらのほうに声をかけてみる。刺々しい魔獣の気配と違い穏やかな気配なので、そこまでの心配はないものの自分の得物の鉄鞭を構えて警戒はしておく。

 

 「むぅ…見つかっちゃったか。案外鋭いね」

 

 そこにいたのは先程サラ教官によって落とされた時、一緒に落とされないでいた銀髪の少女だった。

 

 「君か。確か教官からフィーと呼ばれていたように思うが、それで合っているか?」

 

 「ん、フィー・クラウゼルだよ。フィーでいい。そっちは?」

 

 「アマデウス・レンハイムと言う。よろしく」

 

 「ん、よろしく」

 

 「「・・・・・・」」

 

 初対面同士なのでどうにかして話そうとしても話しは続かない。

 

 「フィーはこのまま出口まで行くのか?だったら一緒に行かないか?」

 

 「ん、いいよ。あともう少しだし・・・」

 

 またまた無言。だけど彼は少しだけフィーの事を知りたいと思うようになっていた。この気持ちが何なのか今はまだ分からない。

 

 「・・・僕も一緒に行ってもいいか?」

 

 第三者の声がかかったのは少ししてからの事だった。

 

 「構わないさ。フィーも良いか?」

 

 「ん・・・」

 

 「ありがとう。僕の名前はマキアス、マキアス・レーグニッツだ。よろしく」

 

 「うむ・・・」「ん、よろしく」

 

 三人で出口まで歩くことにしたがやはり貴族か平民かのどちらであるかは気になる様子。

 

 「なぁ、君たちはどちらなんだ?その…貴族か平民か。どちらでもいい・・・良くはないか。最初に聞いておいたほうがいいと思ってな・・・」

 

 「私は平民よ。アマデウスは?」

 

 「どちらか・・・と言われれば貴族に相当するだろう。いや、首をかしげたくなるのは無理のないことだろう。私にも事情と言うのが存在していてね。跡取りとして不安なのだよ。貴族と言ってもなるべく普通にしてもらえるとありがたい」

 

 その言葉に『ふむ・・・』や『むぅ・・・』と何やら考える様子の二人。

 

 「分かった。なるべく普通に接する事を努力してみるよ。だが君は他の貴族のように勿体ぶったり、偉そうには振る舞う事はしないんだな。それも他と違うと言うか・・・。本当に貴族か?」

 

 「そう疑問に思うのは無理のない事だろう。だが私の両親には確かに貴族としての血が流れているし、迷いはあるとしても私も誇りをもって行動したいと思っている。両親が築いてきた事を自分の成果とする事無く零から歩む事を誓っている」

 

 「そうか分かった。君の事情は一通り理解したつもりさ。なるべく普通に接することができるよう僕も努力する」

 

 アマデウスが自分の拳をギュッと握りしめそう断言した。マキアスも貴族にも色々あると感じ取ってくれると嬉しいのだが。それからは少し固い雰囲気ではなくまったりとした雰囲気の中、進むことができていた。フィーが表情を強張らせて立ち止まるまでは・・・。

 

 「どうかしたか?・・・っ、何かが激しく衝突する音が聞こえるな!!」

 

 「あなたも気づいた?ん、激しい戦闘の音・・・」

 

 「それが本当なら助けに行かないと!!」

 

 三人はそれぞれの得物を手にして、音がしている方に向かって駆け出した。そこにはすでに他のメンバーが集まっており、魔獣とは思えないどこから見ても石像がそのまま動き出したかのような相手と戦っていた。

 

 「まったく・・・」

 

 「私とマキアスはここから支援する。フィーは場を掻き乱してくれるかい?」

 

 「ん」

 

 「任せてもらおう」

 

 アマデウスはパチンと指を鳴らす。すると無詠唱の雷属性のアーツが飛び出し石像に向かって着弾した。そのアーツの効果は鈍重だ。

 

 「動きを鈍くしました。フィー、頼みます!!」

 

 「・・・んっ」

 

 そこからの動きはまるで訓練され尽くした軍人が強大な敵に恐れもなく向かい、そして打倒したかのような動きだった。10人全員の体が光に包まれ、そして皆の思考が手に取るように分かる・・・そんな雰囲気だった。ともかく、戦闘は終わった。

 

 「それにしても最後のアレは・・・」

 

 「そういえば何かに包まれたような・・・」

 

 エリオットとアリサが呟く。

 

 「皆の動きが手に取るように()えたような気がしたが・・・」

 

 「多分、気のせいじゃないのかも」

 

 「あぁ、もしかしたらさっきのような力が――」

 

 「そうそれがARCUSの真価ってワケ!!」

 

 ラウラ、フィー、リィンの順に言葉をつなげ、そしてその場にいないはずの女性の声がした。その声の方向を向くとサラ教官が外に通じる通路の中間ぐらい、階段を降りてきているところだった。

 

 「これにて入学式の特別オリエンテーリングは全て終了なわけなんだけど・・・」

 

 とそこで一旦区切ってからこちら側10人を見渡して。

 

 「もっと喜んでもいいんじゃないのー」

 

 と、不満げに声を出した。

 

 「喜べるわけがないでしょう!!」

 

 「単刀直入に問いましょう。特科クラスは何を目的にしているのだ?」

 

 マキアスが不満をぶつけ、ユーシスが特科クラスを作った目的を教官に問う。

 

 「ふむ、そうね。理由は色々あるんだけど、一番の理由はそのARCUSにあるわ」

 

 そう言われ皆は懐にしまっていた戦術オーブメントを取り出す。

 

 「エブスタインとラインフォルトが共同開発した最新鋭の戦術オーブメント・・・この目で見ることができるとは・・・。そしてアーツや通信のほかにさきほど経験したリンク機能を持ち合わせている。いやはやここまでの代物とは予想以上だったな」

 

 「えっ?あなたは一体何者なのかしら・・・?」

 

 アマデウスが小声で呟いていたのは隣にいたアリサにしか聞こえなかったのだろう、目を見開いてこちらを見てきていた。そして皆に聞こえるように言っているサラ教官も同じようなことを言っていた。

 

 「さっきみんながそれぞれ繋がっていたような感覚・・・」

 

 「戦場ではその効果は絶大よ。お互いの行動を把握でき、最大限の連携できるいわば精鋭部隊と言えるわね。そんな部隊が存在すればあらゆる作戦を効果的に行なうことができる。これまでの常識を覆す“革命”と言えるわ」

 

 「理想的かも・・・」

 

 教官にフィーが同意する。

 

 「だけど、このARCUSには適性があってね。新入生の中で特に高い適性を示したのが君たちだった。それが身分や出身に関わらず選ばれた理由でもある。だからやる気のない人までこちらで面倒見切れないの。特科クラスに参加しなくても貴族だったらⅠ組とⅡ組、平民だったらⅢ~Ⅴ組までに振り分けられるわ。それにカリキュラムも高度な授業になってくる。それを覚悟した上で特科クラスに参加するかどうか聞かせてもらいましょうか?」

 

 と言って皆に決定するだけの時間を与えた。だがアマデウスの答えは既に決まっていた。

 

 「アマデウス・レンハイム。参加します」

 

 一歩前に出てサラ教官に告げる。他のメンバーは驚きを隠せない様子だ。

 

 「おや、一番手はあなたね?理由を聞いてもいいかしら?」

 

 「そうですね・・・。自分の名に意味を持たせるためです。家族には渋々ここに入ることを認めてくれたので恩義を感じています」

 

 「そう・・・。その言葉には更に深い意味がありそうね。いつか聞かせてもらえるかしら」

 

 「ええ、決意が固まったらいつでも・・・」

 

 少し微笑みを浮かべて言う。

 

 「さて、ほかの人たちはどう?」

 

 その声を聞いてアリサとエリオットの間にいた黒髪の男子が一歩前に出た。

 

 「リィン・シュバルツァー。参加します」

 

 「え・・・・・・」

 

 「リ、リィン?」

 

 アリサとエリオットが驚きの声を上げる。

 

 「次は君か。何か事情があるみたいね?」

 

 リィンは首を横に振って否定する。

 

 「いえ、我侭を言って行かせてもらった学院です。自分を高めるのであればどんなクラスでも構わないと思ってます」

 

 「ふむふむ」

 

 そしてまた少しの間静寂が戻りまた一人、そして一人と参加を決めていき全員が特科クラスへの参加を決めた。

 

 「これで10名――全員参加ってことね。この場をもって特科クラス【Ⅶ組】の発足を宣言する。この一年、ビシバシしごいてあげるから楽しみにしていなさい!」

 

 そう言うサラ教官の言葉の端々には喜びがにじみ出ていた。やはり新しい取り組みゆえに参加を断る生徒がいるとでも思っていたのかもしれない。

 

 そして彼らを見守る二人の男性の姿が特科クラスの上の方、入口の付近にいた。

 

 彼らには二人の声など聞こえないが、穏やかな雰囲気で会話しているのだろう。

 

 「ひょっとしたら彼らが“光”となるかもしれません。動乱の足音が聞こえる帝国において対立を乗り越えられる唯一の光に――」

 

 「ふむ、その中には“彼”も含まれているのでしょうね?」

 

 「ハハ、否定はしませんよ。おっと弟がこちらに気づいたか。さて私はそろそろここを去ることにします。どうかよろしくお願いします」

 

 下方に目をやると少しくすんだ色の金髪をした青年が、こちらを見て周りに気づかれないように小さく手を振っているのが見えた。それに頷き返してそこを立ち去っていった。

 

 「弟はこの学院で心身共に成長して自分に意味を持ってくれればいいのだが・・・」

 





 呪いのように悪いことって起きるものですね。自業自得もありますが他にも体調を著しく壊したりしてようやく落ち着くことができました。3月からは少なくとも一ヶ月に一度は更新したいものですね。

 罰の意味を含めて引き継ぎなしでナイトメアやってますが序章でくじけそうです。

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