「はぁ・・・・・・」
「姫様・・・?」
「・・・・・・」
二、三日前からからずっとこの調子だった。授業中はともかく休み時間になると上の空になって、何かを考え続けていた。私にはそれが何のことなのか分からない。聞いてもはぐらかされるだけだった。今日こそは聞き出したいと思ってます。
・・・えっ、私ですか?あぁ自己紹介がまだでしたね。ここは聖アストライア女学院で、私はここに通うエリゼと申します。エリゼ・シュバルツァーと言ったほうがわかる人がいるかもしれませんね。そう、トールズ士官学院にいるのは私の兄のリィン兄様です。そして私の前でさきほどからずっと上の空なのは姫様こと、アルフィン・ライゼ・アルノールです。
「もうっ、ひ・め・さ・ま!!」
「きゃっ。エ、エリゼじゃないの。驚かさないでちょうだい。どうかしたかしら?」
「私とご一緒なのはお嫌ですか?さきほどからずっと上の空でらっしゃって・・・」
『お嫌・・・』のところで慌てた様子で首を横に激しく振った。
「ううん、そうじゃないの。エリゼ、もぅ悪かったですわ。・・・時にエリゼは口が堅いかしら?私がなんのことで思い悩んでいるか伝えてもいいのだけれども、それはそれは重大な秘密を打ち明けなければいけないの・・・。それでどう?私が今から言うことを時期が来るまで誰にも告げないと言う覚悟はおありかしら?」
「それは・・・誰かに話したらどうなるのでしょうか?」
「監視付きで監禁かしら・・・。冗談とかではなく・・・」
「姫様がここ数日の間ずっと思い悩んでいたのは明らかですし、秘密を共有できる相手が一人いるだけでも違うものと思います。ええ、大丈夫ですわ。私は誰にも伝えたりはしません。
「その言葉信じるわ」
エリゼの真剣な眼差しに口が堅いと思ったアルフィンは親友に打ち明ける。
「私と弟のセドリックは皇位継承者として第何位か知ってますか?」
「それはセドリック殿下が一位、姫様が二位なんじゃないですか?」
「そうね、表向きはと言う言葉が先に続くけれども。実は私とセドリックは一つずつ順位が下がるの。本当の皇位継承第一位が隠されているの」
「えっ!?」
「第一位という事もあって最初は狙われ続けたわ。だから存在自体を隠しておくことにしたの」
「それは分かりましたが、その話と姫様が上の空だというのに何か関係があるのですか?隠され続けているのであれば、命が狙われる心配はないのですし・・・」
「今、
絞り出した声は狭すぎず広すぎない二人しかいないこの空間に響いた。
「それではどこに・・・?」
「トールズ士官学院にいるわ」
「はいっ!?」
もっと遠くで気軽に会うことの出来ないような場所にいるものだと思い込んでいたエリゼは、近場過ぎる場所を聞いて気の抜けた返事を返した。
「トールズ士官学院にいるのよ。エリゼだったら行けるけれど私の立場を考えたらおいそれと行けるものでもないでしょう?それにちょっとお願いして特科クラスの名簿を見せてもらったら綺麗な子ばかり・・・。あぁ兄様が取られてしまう」
まくし立てるように一息で言ったので呆れた返事がもれてしまった。
「はぁ・・・」
「エリゼのお兄さんも誰かに取られてしまうかもしれないわね?」
「だ、駄目です!!・・・はっ!?もぅ姫様・・・」
「ふふふっ、やっと正気に戻ってくれたわね。そうよねぇ、エリゼのお兄さんはエリゼの宝物ですものねぇ」
エリゼがアルフィンの聞き捨てならない言葉で正気になると、そこにはニヤニヤした表情でこちらを覗き込んでいるアルフィンがいた。
「知りません・・・」
「あぁ、うそうそ。ごめんねエリゼ。機嫌を直してちょうだい?」
少し慌てた様子で両手を合わせ軽い感じで謝ってくる。いつもアルフィンがエリゼをからかい、それに対してエリゼが怒ったふりをしてアルフィンが謝る・・・を繰り返しているうちに親友という間柄になりつつあった。
「それで姫様。そのトールズ士官学院に行ったお兄様についてですが、何か目的があってそこ学院に入られたのではないのですか?」
「ベッドで耳を塞いでいたり説明しようとしたりすると逃げていたけれども、それでも目的は上に立つ者として力でねじ伏せるのではなく帝都民と同じ目線にあることで見えてくることもある。とか言っていたかしら。とても反対出来るようないい加減なものではなかったわ」
「なるほど・・・。とてもよく考えているのですね。さすが姫様が敬愛するお兄様ですこと。それに比べて私の・・・」
「エリゼどうかしたかしら?」
「いいえ、何でもありません。でも姫様のお兄様見てみたいですわ」
話題がエリゼの兄のことになる前に変えた話題だったが、これがエリゼやアルフィンの将来を変えていくものだとはこの時予想できるものは誰もいなかった。例えこの場に
「では連絡を取ってみましょうか?多分無理難題でない限り応じて下さるでしょうね」
その夜、アルフィンはアマデウスに連絡を取り明日帝都で会うことにした。
「久しぶりに兄様に会える。ふふっ、楽しみですわ。あぁでも待ち合わせが女学院の門ですからほかの人に見られて噂になってしまわないかしら・・・」
その光景が目に浮かぶようだったが、もう少しで自分の兄を世間に公表しようと思っていたので良い方向に転がるとは思っていても悪い方には向かないと想定していた。このような
「ええっ、明日兄上と会うんですかっ!!」
昼過ぎにアマデウスが女学院に来ることを知ったセドリックは、文字通りではないにしても血の涙を流さんばかりにアルフィンに迫った。
「ええ、明日兄様も休みとの事。セドリックもあえばよろしいんじゃありませんか?」
「む、無理だよぅ。それでなくても女学院に行ったら注目を浴びてしまうでしょ。・・・今回は諦めます。・・・が、次回は抜け駆けしないでくださいねっ!!」
「はいはい、分かりましたよー。それで兄様に伝えることはない?」
「特には・・・。あぁトールズ士官学院の様子とか聞きたいですが、それは定期的に送られてくる手紙に書かれていますし家族が揃った時に聞くことにします。それにしてもいいなぁー・・・」
心底ガッカリした雰囲気を出しつつ、アルフィンの部屋をあとにするセドリックだった。
「・・・・・・(はぁ兄上)」
少しだけ成長したように思えたセドリックだったが、会えるかも知れないと思った瞬間に精神的幼子に戻りつつあるのは仕方のないことだった。セドリックには家庭教師が付き高度な教育を受けており、アルフィンは女学院に行っているので講師以外での話し相手は二人の兄が
「僕も強くなったつもりだったけれども・・・まだまだです。兄上がいないと・・・・・・」
壁に寄りかかって考えてみる。どうやらイレギュラーな出来事に対処するのには時間がかかりそうだ。
もう一つ深いため息を漏らした後、自室に戻っていった。
4月17日の出来事です。アマデウスには別行動を取ってもらいましょう。
会話文がおかしいなぁと思ったら遠慮なく書いてください。作者自身音読しながら書いてますが見落とし等あると思うので・・・。