閃光の軌跡   作:泡泡

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 Q.エリゼがヒロイン候補に!?

 A.さぁ・・・。どうなんでしょうか。


学院生活4月18日

 

 次の日、朝食を取ってから帝都に行く準備をしていた。すると誰かが寮の玄関に設置されているポストを開ける音が聞こえてきた。自室の部屋を開けるとそこにはリィンがいてポストに投函されていた手紙のようなものに目を通していた。

 

 「リィン、どうかしたのか?」

 

 「あぁ、アマデウスか。トワ会長からの頼まれた雑用だよ。二、三あるみたいだ。あと旧校舎の探索も・・・これは学院長からか」

 

 「リィンはお人好しすぎやしないか?少しは自分を大切にしたほうが良いのでは?」

 

 「アハハハ、よく言われるよ。アマデウスは今日の予定は何かあるのか?」

 

 と、言ってきたので自分の予定を告げる。

 

 「帝都に行く事が確定している。どうやら妹が私に会いたいらしい。友人を紹介したいとか何とか言っていたので顔を見せに行くところだ」

 

 「ということはトリスタには終日いないと思ったほうがいいのかな?」

 

 「そうなるかな。だが、予定が早まってトリスタに戻ってきている可能性もある。だから戻ってきていて、手助けが必要になったらいつでも連絡してもらっても構わない。ここに戻ってきていなくても、通信で伝えることで何か分かることがあるかもしれないからね。どちらにせよ連絡をしてくれないとどこで何をしているか分からないという事だよ」

 

 「あぁ、ありがとう。そのときはそうするよ。・・・気をつけてね?」

 

 さりげない気遣いがリィンと言う人物を好評価へと繋げることができるのかもしれない。「行ってくる」と一言伝えてから寮を後にする。

 

 「今日も良い天気だ!!」

 

 帝都に行くのだから晴天であれば良いと思っていたがその願いは通じたようだ。視線を感じるのでその方向を見るとトリスタまで自分を護衛していた戦乙女(ヴァルキリー)部隊の一人がいた。

 

 「アマデウス様。帝都までの列車の座席をお取りしておりますのでお早めにご乗車願います」

 

 「すまない、助かるよ」

 

 ここで付け加えておきたいのだが、ここトリスタは都会とも言えないような街の一つ。そしてアマデウスの直属の部隊は自身で選別した部隊。そして戦乙女部隊という名前から分かる通り、全ての成員が女性で構成されている。一人一人の戦闘スキルもかなり高い上に美人と来たら・・・。

 

 『おっ、おい!!あの男性の横にいる女性はっ!!』

 

 『・・・ねぇ、あなた?何を見ているのかしら。私というものがありながら・・・』

 

 『イテテテテテッ、アタタタタタッごめんなさい。ゆっ、許してーっ・・・。君以外の女性はもう見ないから。あー、そっちに関節は曲がらないって・・・アーッ・・・・・・』

 

 トリスタ駅の出入り口正面に位置する公園内で若夫婦がデートらしきことをしていたが、突如駅構内から現れた美人さんに目を奪われボーッとする。ゴクッと生唾を飲む音も聞こえてきた。だがその行為は今は駄目な部類に入る。何故なら今はデート中でありなおかつ横には愛妻がいることを忘れているのだから・・・。

 

 その後の結末は独身者でも分かる通り。この方向に耳は引っ張られても大丈夫なの?と言わんばかりに引っ張られてどす黒く変色しその後、パシーンとエコーがかかるほどのビンタを喰らい曲がっていはいけない方向に曲げられて意識を失いかけた男性をズルズルと学院の方角へ引きずっていった。

 

 その一部始終を眺めていた街の人たちは、開いた口が塞がらない状態でただただ呆然としていた。そしてその原因の一部を担っていたであろう二人はさっさと駅構内に入ることにした。その場にいても自分たちにすることはないだろうし、アマデウスが選ばなかったら・・・と言うもしもの話になるだろうから・・・。

 

 数分後、帝都に行く列車の清掃が終わったのでいち早く中に入って休むことにした。横には護衛の女性も一緒だ。有事の際、護衛が一人で大丈夫なのかと聞かれたら大丈夫だと言うしかない。アマデウス自身も強いし護衛の女性が所属している部隊は、一人一人がそれぞれサラ教官と同レベルかそれ以上の強さを有しているからだった。

 

 「さて聞こう」

 

 「はい、ご報告します。アマデウス様がおられない時に決定すべき案件が数件存在しましたがどれも緊急度が高いものは存在しておりませんでした。後ほど書類で提出しますのでご確認ください」

 

 構内に入るまでは仲睦まじく初々しいカップルを装っていたが、列車の中に入り腰を掛けるやいなや、仕事モードへと移行した。

 

 「うむ、それで隊員の鍛錬の具合は?」

 

 「はい、そちらも万事抜かりなく進展しております。殲滅、諜報、防衛その他の展開に応じて臨機応変に対応することが出来ます。ただ・・・」

 

 「うん?気になったことはなんでも言ってくれ。秘密にして後で分かった時には一大事のほうがもっと気になるからな」

 

 「戦乙女部隊候補ですが・・・正規隊員との鍛錬の差がすでに出ております。やはりスカウトした彼女らですが魔獣との戦闘は切り抜けられるのですが、対人戦闘は恐れや躊躇が見られ勝利確率は五割を切っている状態です。どうすればよいでしょうか?やはり荒療治でも行なった方が良いでしょうか・・・」

 

 アマデウスと話している女性は戦乙女部隊の隊長を任せられる程の実力を持っているが、書類整理などに難を持ちいわゆる脳筋にやや片寄っている隊員だった。戦闘ではチャクラム4枚を自由自在に操り、敵を殲滅してゆく様は笑う道化などと敵対した人らから揶揄され続けていることに本人は心を痛めている様子だった。

 

 「それは最後の手段として取っておきなさい。候補生も大事に育ててゆかないと正規隊員にまで育つことは無いだろう。実力は少し劣るにしてもどうして対人戦だったら躊躇が見られるのか、面談することでもしかしたら持っているかもしれない恐怖を軽減できるだろう。カウンセリングを実施するのはどうだろう?」

 

 「そ、そうですね。私もそのようにするほうがいいと思います。(ふぅ、残念だわ。あの特訓がまた出来ると思ったのに・・・)」

 

 戦闘以外の場面では彼女が何を考えているかわかりやすかった。

 

 「(あの特訓やりたいとか思っているだろうな・・・)」

 

 アマデウスがいない間の事案を事後承諾という形にはなっているものの全て報告を受けた頃、アナウンスが流れて数分後に帝都に到着することがわかった。

 

 「そろそろ着くみたいですね。私はいつものように見えないところから見守っておりますので・・・。そうそうアルフィン皇女の友人も成長したら美人になること間違いなさそうですよ?」

 

 「・・・君はいつもそうだな。そのことに関してのコメントは差し控えておくぞ。あといつもの仕事に感謝する」

 

 「・・・勿体無いお言葉、ありがとうございます」

 

 列車が到着するや先に彼女が出て、アマデウスはゆっくりと駅構内へと歩を進めた。

 

 「・・・数週間しか経っていないのにもっと過ぎたような気分だ。さてと時間はまだまだあるが女学院へ行くとしますか」

 

 だが自分に歩み寄ってくる気配を感じたので、そちらの方を見ると妹と同じ制服を着た少女がこちらに歩いてきていた。

 

 「失礼ですがアマデウス・レンハイム様でよろしかったでしょうか?」

 

 「ええ、そうです。君は?」

 

 「申し遅れました。私の名前はエリゼ、エリゼ・シュバルツァーと申します」

 

 自己紹介の際、スカートの裾をつまみ片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ背筋を軽く曲げて挨拶してきた。

 

 「君が妹の大事な友人であることは聞いている。兄としてお礼を言わせてもらおう」

 

 「いいえ。私も姫様と一緒になれてとても光栄ですし、嬉しく思っております」

 

 ニッコリと笑みを浮かべる笑顔がとても綺麗で、エリゼの事をひと目で妹の友人と言う存在から妹の信頼できる友人にまで格上げしていた。

 

 「・・・・・・」

 

 「???どうかされましたか?」

 

 「すまない、見惚れていたようだ」

 

 「・・・・・・ふえっ!?」

 

 何を言われたか一瞬分からなかった様子だったが、段々と言われたことの意味を理解して顔を真っ赤に染めた。

 

 「もっ、もぅ・・・。アマデウス様は冗談がお好きな様子。(冗談でなかったら・・・。でも、あれ?姫様から聞いた話によると・・・)」

 

 

 ~回想~

 

 「一つだけ気をつけて欲しいことがあるの」

 

 「それはなんですか、姫様?」

 

 アマデウス様をお迎えに出ようとしていた時、姫様が真剣な表情を浮かべて話しかけてきた。

 

 「兄様は無自覚で女性を褒めることが多いわ。それが同性であってもその人が性格や人柄などを褒めることをするわ。それも踏まえて覚悟しておいたほうがいいわよ(ニヤニヤ)」

 

 「おっしゃっている意味がわかりかねますが。アマデウス様は褒めるので覚悟する?ようにすればいいのかしら?」

 

 「ええ、概ねその結論で間違っていないわ。ではエリゼいってらっしゃい。私は薔薇園で準備していますね」

 

 とても嬉しそうな、それでいて悪戯が成功しないかどうか伺っている年相応な少女がそこにいた。本当に再会するのが楽しくて仕方がないみたいな雰囲気を浮かべて。それにしても、姫様に言われた『覚悟しておいてね?』と言う言葉の意味が分からなかった。分かるまでそれほど時間はかからなかったけれども・・・。

 

 ~回想終~

 

 「それでエリゼはどうして駅に来たのかな?」

 

 「はい、ご存知かもしれませんが聖アストライア女学院は貴族子女のみの女学院。サンクト地区に来られる方も、大聖堂と女学院に用事のある方だけ。そこに男性であるアマデウス様だけが来られてしまうと・・・」

 

 「あぁ、理解したよ。火のないところには煙は立たぬ。アルフィンと待ち合わせをしているなどと分かった日にはどうなるか・・・。それでエリゼが何かしらの伝言を伝えに来たのかな?」

 

 フムフムと考えてみる。妹に会えるとだけ考えていたが、聖アストライア女学院は基本男禁制の園と言ったほうが分かりやすい。それでなくても女性は恋愛要素が絡むと途端に強くなる。どこから情報が漏れるのか分からないだろう。

 

 「いいえ、私と一緒であればあまり目立ちもしないかと・・・」

 

 「と言うと?」

 

 「はい、こちらの『一時的入場許可書』は当学院の限られた者しか持っておらず、なおかつその限られた者から見て信頼に値する者だけに貸し出す許可書となっています。ですから許可書を持ち私と一緒に歩いている分には目立つこともないと思います。男性がいるだけで異色ですがそれでも・・・」

 

 と、エリゼは一生懸命話してくれる。一目見た時から思っていたことだが真実味が溢れ出ておりとても和やかな雰囲気にさせてくれた。

 

 「エリゼありがとう。・・・っとARCUSが鳴った。ちょっと失礼するね」

 

 「はい、お気になさらずどうぞ」

 

 一言言ってからARCUSに出る。気にもしていなかったが、帝都は通信が繋がるようだった。通信の相手は我が妹からだった。

 

 『もしもし、兄様ですか?アルフィンです。・・・そちらに合流しようとしていたのですが、それは無理なようです。申し訳ありませんが、エリゼと一緒に街を回って貰ってもよろしいでしょうか?』

 

 「・・・それはいいけれどもアル、何かあったの?」

 

 『・・・ええっと、公務に出なくても良いかと思ったのですがどうやら私が出席しないといけないようなので無視するわけにもいかなくなったのです』

 

 通信の向こうから申し訳なさそうな妹の声が聞こえてくる。悪戯好きな妹の事だから冗談を言っているのかとも思ったが、そのような様子も感じることができなかったのでその可能性を零にした。しかし台詞の節々に何か違和感が残っていたので追求することにした。

 

 「妹よ。私に何か隠してはいないだろうか?」

 

 「・・・・・・」

 

 「弁明の余地は一度限りだということと、隠すことはあまり好きじゃないと知っているでしょう?」

 

 「ううっ。公務があることは前々から決まっていました。それでもエリゼに兄様を紹介したかったので公務出席に関して決定を先送りにしたまま当日が来ました。それでもまだ決められずにいましたが、そのツケが回ってきたみたいです。強い口調で出席するようにと言われました。なので兄様が心配するようなことはありません!!」

 

 「ちなみに公務の時間はそれなりにかかりそうなのか?私が出なくても大丈夫なのか?」

 

 「ええ、時間は今日一日潰れてしまう事になりますが、兄様が心配するようなことにはなりませんのでどうぞ安心してください。それと兄様には申し訳ないのですが、エリゼの事をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

 「それはどういう事かな?」

 

 アルフィンがアマデウスにお願いしたことの意味を分かりかねたので聞き返した。

 

 「ここだけの話ですが、エリゼは何か心に抱えているようなんです。兄様がエリゼと一緒に居られるだけでモヤモヤしたものも無くなるか、もしくは軽減されると思います。ですから・・・」

 

 「ふむ、なるほどな。ではエリゼに帝都を案内してもらうという形でいいのだな?了解した。ではアル。ちゃんと公務を果たすのだぞ?」

 

 「ええ、分かりましたわ。ではエリゼによろしくとお伝えください」

 

 そう言ってからアルフィンから切った。そしてアマデウスは『ふぅ』とため息にも近いひと呼吸を入れてからエリゼの方を向いた。やはり通信の内容は聞こえていないらしく、コテンと首をかしげてこちらを見ていたのが印象的だった。

 

 「すまないね。アルはどうも来られないようだ。出席しなくても大丈夫だとアル自身が考えていたようだったが、そうもいってられない公務が入っていたようでそちらに出席しなければならないようだ。エリゼには二つ選択肢があるのだが・・・?」

 

 「それはどのようなものでしょうか?」

 

 指を一本立てて身振りをしながらエリゼに説明する。と言ってもここで別れるか、それとも今日一日一緒に帝都を案内してもらうかどちらかだが、と言う。エリゼの選択は勿論・・・。

 

 「アマデウス様がお嫌でないのであれば、その・・・ご一緒に帝都を回るのは如何でしょうか?」

 

 自分の方が身長は高いので必然的にエリゼのほうが身長が低いことになる。という事は何かを言おうとして視線を合わせればそれはそれでダメージを受ける結果になる。何が言いたいかと言えばエリゼの上目遣いでアマデウスはノックダウン寸前まで迫られていると言うことだ。

 

 「嫌ではないですよ。こちらの方からお願いしたいぐらいです。私は帝都に住みながらどこに何があるかとか、どこのお店が美味しい食事を出すのかとか知らないのでそこを教えていただけると嬉しいですよ(こっ、これは反則ではないかっ!!)」

 

 アマデウスの心の中で何を考えているかなどとエリゼには分かるはずもなく、エリゼのおすすめの軽食店へ行くことが決まった。数分歩くと男性が一人で入るには気後れするようなカフェが見えてきた。入る人、出て行く人を見ても目に入るのは女性のみ・・・。ここに入るのかと思いつつもとても美味しそうな匂いがしてくるのでエリゼの目的の店がここであると予想を付ける。

 

 「ここ・・・なんですが。男性が入ることはあまりないと思われる場所ですが私も他に行く場所もないんで、ここでよろしいでしょうか?」

 

 「いや、エリゼが思い悩むこともないだろうさ。とても美味しそうな匂いが漂っていて入ってみたい気持ちが湧いてきたよ」

 

 「そ、そうですか!!とても嬉しいです。じゃ、じゃあ入りましょうか」

 

 断られるとでも思っていたのか、答えを聞くと嬉しそうな表情を浮かべながらその店へ先導する。アマデウスもそれに続いて店内へと入る。予想に反してあまり女性の姿が見受けられなかった事には安心感を抱く。内装も女性好みに仕上がっているとは言え、男性が入って嫌、もしくは居心地が良くないと言う感情を持つほどでもない。

 

 エリゼが店のオススメを注文し、アマデウスがその様子を眺めながら他愛もない話をしつつ待っていると数分後には美味しそうな軽食がテーブルの上に並べられた。

 

 エリゼが注文したのはハニートーストに紅茶、アマデウスはシェフオリジナルのコーヒーとサンドイッチ。 どちらもこの店自慢の軽食らしい。アマデウスにとっては初めての経験だったのでエリゼの好物とメニューに大きく書かれていた軽食を注文してみた。

 

 「(これは・・・美味しい。このお店は当たりですね。あとで戦乙女部隊の皆さんにも伝えておきましょうか。それとも、もう知っているだろうか・・・)」

 

 一口食べてみて美味しさが口一杯に広がった。アマデウスの好みにピタリと適合したようだ。そして真正面を見るとハニートーストをほお張るエリゼの姿があり、目と目が合った瞬間に顔を真っ赤にして小さくむせた。

 

 「ど、どうしたのだ?」

 

 「ケホケホ・・・。す、すみません。そのー食べているところを男性の方に見られるのはあまり経験のないことで・・・」

 

 「そうか。それにしてもとても美味しそうに食べるね。この近くでハチミツが採れるところと言ったら・・・クロスベル地方のアルモリカ村かな。あそこの蜂蜜はとても美味しいと聞いたことがある」

 

 「あっ、アマデウスさんはお詳しいんですね。以前食べた時に聞いたところ、アルモリカ村から仕入れたと聞いたことがあります。(『ひ、一口食べますか』なーんて同性だったら気兼ねすることなく言うことができるのに・・・。そ、それとも『一口どうですか?あーん』って言うのは普通なことなのかしら・・・・・・。いいえ!!断じて違うわ)」

 

 アマデウスはエリゼが食べるのを一時中断したので、表情を眺めているといきなり思考顔になりその後真っ赤になって音が出ているのではなかろうかと思うぐらい、首を横にブンブンと振ったりと忙しそうにしているエリゼを微笑ましく見守っていた。

 

 「フフフッ・・・」

 

 「あぅ、すみません。私ヘンでしたね・・・」

 

 堪えきれずに笑ってしまったアマデウスにやっと気づいたのか、エリゼと目が合いそしてシュンとして床のほうを向く。

 

 「いや、新鮮な・・・自然なエリゼが見られて面白かったよ」

 

 「うぅっ!!」

 

 そして少しの間、静寂が戻り時計の秒針が回る音だけが聞こえていた。するとアマデウスの持っていたARCUSが鳴った。

 

 「おや、またARCUSが鳴ったか。すまないな、少し失礼するよ」

 

 「ええ、大丈夫です(百面相していたところを見られてしまったわ。可笑しな顔をしていなかったかしら・・・)」

 

 店の中には自分たちしかいなかったが、どんな内容の通信が入るか分からなかったので数歩離れてからARCUSに出た。

 

 「はい、アマデウスです。あぁ、リィンか。もしかして何か面倒な事でも起きたかな?」

 

 「っ・・・」

 

 「うんうん、そうか。私は今帝都にいるのだ。旧校舎の探索のメンバーになれないのは少し残念だが、今度誘ってもらって構わないだろうか?私は旧校舎の探索が一度限りで終わるとは思っていないのだよ。これからも数度入る事になると思っているよ。そう言えばリィン、君には・・・・・・あぁ、いや何でもないよ。気をつけて入るのだぞ?」

 

 言いかけたことを言わないでいるのはマナー違反だとは思ったが、それでも自分が言いかけたことを言わなかったのは視界の隅に写った少女の肩が小刻みに揺れているのを見たからだ。それでARCUSを切ったあと、わざとゆっくりめに歩いてエリゼの元に戻った。

 

 あまり歩いてもいないが近くまで来るとエリゼが振り返りニコッと笑いかけてきた。

 

 「ご学友からの通信と思われましたが、何か急用でも出来ましたか?」

 

 「ええ、お人好しなクラスメイトが生徒会長から数件の手伝いを貰ったそうで、その中の一つに学院長からの旧校舎探索と言う要望があったみたいです。それでその探索メンバーにどうか?と言われたのですが、最初から帝都に行くと言いましたがまだ帝都に滞在していることを伝えたんです」

 

 「そ、そうでしたか・・・・・・」

 

 また会話が無くなり静かになる。その静かさを破ったのもエリゼだった。

 

 「聞かないのですか?」

 

 「そうですね。私が妹と話をしていたら羨ましそうな表情を浮かべてこちらを見ていたり、先ほどの通信の相手の名前が出てきた時に動揺していた事でしょうか?いいえ、私は根掘り葉掘り聞こうとしたりしませんよ。妹からはエリゼの力になってくださいとは言われましたが、嫌がることを無理やり聞こうとは紳士の行なう事ではありませんので・・・」

 

 『羨ましそうな・・・』や「動揺していた・・・」などの辺りで『あぅあぅ』と言葉にならない悲鳴のようなものを上げていた様子が可愛いなどというのは胸に秘めておこうと思ったアマデウスだった。

 

 「ごめんなさい・・・」

 

 「謝られるような事は何一つしていないではありませんか?・・・ここを出ましょうか。公園にでも行って気持ちを落ち着けましょう」

 

 じわりとにじみ出た涙を見たアマデウスは店を出ることを提案し、エリゼもそれに同意した。時間的にも他のお客さんが来そうな時間だったからだ。エリゼの様子を考慮した結果、マーテル公園に行くことにした。ちょっとした裏技を使って隣接するクリスタルガーデンを貸し切った。エリゼは俯いたままだったのでそのことには気づいていない様子。

 

 「久しぶりに来たがここは良い所ですねー」

 

 「・・・・・・」

 

 無言なままで会話は無かった。ここまで来る途中でも曖昧な相槌はあったものの、会話らしい会話は一つと言えども無かった。クリスタルガーデンに設置されているベンチに座ったもののどうにかして正気に戻す必要があった。

 

 それには少しの羞恥と勇気が必要だった。

 

 「よしっ!!エリゼ?」

 

 「はい・・・?きゃっ!!」

 

 アマデウスがやったことは単純明快だった。いつも妹の機嫌を損ねるとやっていたことで、お姫様抱っこだ。これを妹以外にやろうと考えたのも実行したのも初めてだった。行なった後で恐る恐るエリゼの顔をまじまじと見た。怒っていたり呆れていたりはしていなかった。ただ・・・。

 

 「・・・・・・(パクパク)」

 

 アマデウスの腕の中で茹でダコな状況で硬直はしていたが・・・。やったあとに少しだけ『やらなければ良かった』と本当に少しだけ思った。それよりも可愛いと言う感情が上回っていたが。

 

 そこから回復するまでに数十分かかった。その間ずっとアマデウスはお姫様抱っこをやめようとはしなかった。

 

 「も、もう大丈夫です。おろして頂けませんか?」

 

 「そうかい。分かった・・・」

 

 アマデウスはかなりの時間腕を酷使していたようだったが疲れを見せることなく、エリゼを軽やかに下ろした。先程までの無表情な顔はどこに行ったのか、今はニコニコした表情をしていた。アマデウスが考えていたような下ろした瞬間にビンタをされるとか、無視されて帝都での休日がいたたまれないもので終わるなどということはなかったので内心ホッとしていた。

 

 「ありがとうございます、アマデウスさん。おかげで私の中で色々と区切りのようなものも付いたと思います。お気づきのことと思いますが、私には兄がおります。その事でモヤモヤした気持ちを抱えていましたが、今回のことでそれも軽減されたように思えます」

 

 「そう。本当に良かった。いきなりあんなことをしたから平手打ちをされるのかと焦っていたからね・・・」

 

 「ええ、もうお別れの時間が来てしまったようです」

 

 クリスタルガーデンから外に出ると太陽は夕日へと姿を変え、一日が終わろうとしていた。それは楽しかった時間に終わりが来たことを暗に伝えているようだった。

 

 「また・・・会えますよね?」

 

 「ああ、君が再会を望みそして私もそれを望むなら・・・」

 

 「子供っぽいと思われるかもしれませんが、指切りをしていただけませんか?」

 

 「勿論」

 

 アマデウスはしゃがんでエリゼと視線を合わせそれから指切りをした。その後するりと解けた指を名残惜しそうな様子で見ていたエリゼの反応に、優しい気持ちになりつつ帰路に着くことにした。エリゼには戦乙女部隊から一人護衛をつけ万全の体制を整えさせた。

 

 アマデウスにとってもこの休日はとても充実したものとなった。明日から再開される学院生活に思いを馳せながら列車に乗り、トリスタに戻っていった。

 

 

 ~寮での一幕~

 

 「おかえり。帝都どうだった?」

 

 「あぁ、リィンか。帝都楽しかったよ」

 

 少し浮ついた様子に気づいたのかリィンがそこを追求してくる。

 

 「行く時と違う顔をしているようだが・・・。帝都で何か良い事あった?」

 

 「妹の友人と一緒に軽食を取りその後、マーテル公園内にあるクリスタルガーデンでその友人と語り合った。・・・あまりしたことのない経験だったから浮ついた顔をしているのかもしれないな」

 

 アマデウスは自分の顔を引っ張ったり軽く抓ったりしたが、触ってみると熱を帯びているのが分かった。風邪をひいたわけではないので理由はすぐに判明した。だが疲れて体調を崩したのかと心配するリィンに本当の事を言うことも出来ずに大丈夫だと言うに留めていた。

 

 「顔、赤いぞ。帝都で遊び疲れて風邪でもひいたのか?明日からの学院生活に支障がでないと良いな」

 

 「ホントに大丈夫だ。原因は判明しているし、遊び疲れたことによるわけでもない。一晩寝たら明日は元気な顔を見せるから・・・。(リィンの妹ってエリゼだよね。今は確執があるみたいだし今日会っていたのがエリゼだとか言いづらい)」

 

 心底心配するリィンを振り切り、自室へと戻る。壁に備え付けられている鏡を見るとニヤけた表情を浮かべている自分の姿が写った。どうにかしてこの顔を普段に戻さないといけないと思ったので、水浴びをしてから横になることに決めたアマデウスだった。





 主人公は表向きは堅い口調ですが心ではそれなりの事を考えていたりします。だって兄さんにオリビエがいるんですもの。
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