プロローグ
「霊夢!異変だぜ!!」
空が紅い濃霧に覆わろうが、スペルカードルール制定後初の大規模異変が起ころうが、いたって変わらず通常運行な『普通の魔法使い』 霧雨 魔理沙は、今日も今日とて襖を吹っ飛ばしながら登場した。注意しても注意しても全くなおらないその行動を、縁側から眺めていた今代の『博麗の巫女』 博麗 霊夢は──
「せいやっ」
「うぉぉ!? あ、あっぶな」
すぐ近くにあった日本刀を拾い、魔理沙に向かって一閃。
美しく、尚且つ速いその一振りは綺麗な弧を描いて、魔理沙の頭上に一瞬で迫る。が、結果的に魔理沙の頭部でトマトケチャップ色の液体が溢れる事態にはならなかった。魔理沙は日々の鍛錬の賜物である優れた動体視力を最大限活用し、型通りのその一振りを紙一重で避けたいたのだ。
尚 この刹那の攻防は魔理沙が神社に到着してから僅か十数秒の間に行われている。
「今日も仕留められなかったか……。残念」
「出会い頭に斬りにかかるとかお前、辻斬りかよ」
「失礼ね。辻斬りなんてつまんないものやらないわよ。そもそもあれただの通り魔じゃないの」
「……どこかで半人半霊の剣士が泣いてる気がする」
「ついに頭おかしくなった? それなら万々歳だけれど」
「相変わらず失礼な奴だ」
互いに流れるように罵倒を口にしているが、二人の仲は悪いわけではない。寧ろ幼少期から共に過ごしてきた二人は親友といってもいい関係だ。それにも関わらず、嫌味のオンパレード状態となるのは流石の幻想郷クオリティーと言えるだろう。更に言うと、出会い頭に斬りかかっても誰にも咎められないのも幻想郷クオリティーと言える。弱肉強食の幻想郷には「銃砲刀剣類所持等取締法」も無ければ、「殺人未遂罪」も無いのだ。なんせ人里から一歩出れば人間はただの食料と化すという物騒な世界だ。態々、法律を作ってくれる程、妖怪の賢者たちは甘くない。
「まぁそんな事はどうでもいい!! 異変だ、異変!!」
「うるさいわね。聞こえてるから静かに喋りなさいよ」
顔を顰めながら言った言葉は、霊夢にしては珍しくごもっともだった。しかし、興奮している魔理沙は霊夢の言葉を無視して話を続ける。
「私はもう先に行くからな!! 霊夢もさっさと来いよ!!」
「あ、ちょっと待ちな……はぁ」
言い終わるやいなや、魔理沙は右手に持っていた箒に飛び乗り去っていく。止めようとした霊夢だが、こうなった魔理沙は実力行使でなければ止められないことを思い出し諦める。異変解決の前に無駄に疲労するわけにはいかない。
最後に大きなため息を吐き出した霊夢は、立ち上がり出かける準備を始めた。本当は明日の昼にでも行こうと思っていたが魔理沙が突撃してしまったのだから仕方ない。
すっかり異変解決モードに切り替えた霊夢はあっという間に準備を終え、博麗神社の入り口である大きな鳥居の前に立つ。
「……いってきます。先代」
今は亡き先代の墓は博麗神社には無い。神道において死とは穢れであるからだ。
そんなことは分かっているのに、霊夢は言いたくなってしまったのだ。「いってきます」と。
自分が初めての異変を前に少しだけ緊張している事を把握した霊夢は、苦笑しながら飛び立つ。やることは何時もと一緒だ。迷惑な妖怪をぶっ飛ばす。それだけ。何時もより少しばかり相手が手強いだけだ。
霊夢はそう自分に言い聞かせながら、鈍器として扱うのに最適な形状のお祓い棒を、固く握り締めた。
今回はプロローグということで割と真面目です。
唯一のおふざけ要素も霊夢が剣士にジョブチェンジしかけてるところと、霊夢がお祓い棒を鈍器と認識してるところだけですからね!……ちょっと待て。割と駄目じゃん。