超大企業の社長にして悪の親玉である紳士、天新海は、背の高い丘からデュエルの様子を眺めていた。
デュエルが決着する。自分が放った刺客があえなく倒されて新海は悲しかった。
「ユニバースカードか。ふ、つくづく不快な男だな、終遊黒。やつを見てると俺の内の獣がギャンギャンと吠え立てる。最高にエキサイトな気分だ」
「分かります。こう、たーかーなーる、って感じなのですね?新海様」
「まさしくその通り。ベストマッチ!な表現だ。新人だというのに俺のことをよく分かっている。もしかして以前にも会ったことが?」
「き、気のせいじゃないですかー?」
「そうか。同年代みたいだから学友かなにかだと思ったが、それなら俺が忘れるわけがないからなぁ」
新海は後ろに少女を従えていた。彼女は白銀遊傑。コードネームはシルバー。彼女は最近雇った使用人兼ボディーガードである。新海は彼女を一目見て気に入り、独断で採用。自分の身の回りをさせている。歳は16。短い白い髪、大きな瞳、華奢な体、メイド服を着せてみれば冬の草原に漂う妖精のように、新海の心を震わせた。一言で言えば見た目が好みだった。
新海は話題を変え。
「ところで、あの終遊黒という男なんだが。あぁ、勝った黒いマントの方だぞ。あのいけ好かないな」
「えー、イケメンだと思いますよ。クールで口数も少ないし、とっても素敵じゃありません?」
「君は男を見る目がないなぁ。まぁ顔立ちは良いとしてもだよ。今時あんな裾長いコートをバサバサやるヤツがいるかよ」
「あはは!」
「変わったくしゃみだ」
「笑ったんです。可笑しかったから、つい! ふふっ!」
何が可笑しいというのか。まるで意味が分からんぞ。そうぼやきながら彼女の麗しい視線の行方を見定めてみれば、なるほど、天新海その人も遊黒みたいな裾長コートを着ていた。新海は客観的な眼を持つ紳士だった。だから俗に言う「お前が言うなよ(笑)」状態に自分が陥ってるという事実に気づくことができたのだ。
彼は完全に体勢を立て直し、言葉を紡ぐ。
「わ、笑うのはその辺にしてだなぁ」
「アハハハハ!!」
「き、君なら勝てるか?あの終遊黒に」
「えー、やってみなきゃ分からないんじゃないですかー?まぁたぶん勝ちますけど! 私強いので! ビシィ!」
決め顔とファイティングポーズを決め胸を張る彼女はとても可愛かった。新海は心の氷山が少しだけ崩れていくような気がしないでもなかったんだからね。
「……可愛いな君は」
「は、はひ!?」
「見ているだけで心が晴れる。真に美しいというのはこういうことなんだろうな」
「〜! ま、またまた社長、じょ、冗談ばっかり〜!」
シルバーは照れを隠そうと新海をバンバンと叩く。しかしこれは悪手だった。新海はデュエルの様子を見るために丘の先端ギリギリのところに立っていた。そんな彼がバンバン叩かれたらどうなるか。ならば、答えはひとつ。
新海はゴロゴロと転げ落ちた。
「うわぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
はいっ! みんな大好き聖天斬さんからお送りしておりま〜す! え、お呼びでない?そんなー。
「爆睡タイム。トゥナイト」
遊黒くんはなんだかよく分からないことを言いながらマントを翻す。その背後でシャドウが砂になって消えた、と思ったらその跡にオッサンがポツンといた。なんかキョロキョロしているし、これは経験から言ってさっきまでの記憶は失っているパターンだろう。
悪夢マンはスタスタと足早に去って行こうとするが、そこに遊旗くんが待ったをかける。まぁ、彼からすれば気になることてんこ盛りだろうから是非もない。
「ま、待ってくれ!」
「このチビぃ!!」
「なんでキレてんの!?」
「あのオッサンはシャドウになって日が経っていなかったのだろう。あの様子なら問題なく生活に戻れる。そして俺が今回使った権能についてはノーコメントだ。カッとなってやった。で、何が聞きたい?」
「聞きたいことを全部先回りで言われた! よし、じゃあいいや! 助けてくれてありがとう!」
「どういたしまして。良い夢見ろよ」
対話は為された。遊黒くんは去っていく。これで一件落着に。
「いや、ならねーよ! 忘れるところだったぜ、俺とデュエルしろ終遊黒!」
「断る」
「早い!」
「前も言ったが俺にはデッキがない。無理な話だ」
「いや、今デュエルしてたじゃん」
「悪い夢でも見てたんだろう。遊旗くんは寝起きが悪いからなぁ。あははははははははは」
テキトーにごまかして去り行く遊黒くんを遊旗くんはがっちりと掴む。ホールドユータイト、それは愛憎のラブロマンスの始まりを予感させる画だった。天国の空の接近を僕は感じていた。遊旗くんは断固として告げる。
「俺は寝起きは良い方だ!」
「そうか! 良かったね!」
「ユニバースカードにレッドアイズ、それだけの力があれば全てが変わる。そいつらを賭けて俺と闘え!」
「いやだ」
「なんでだ!?」
「だって、お前ケガしてるだろ」
突然の優しさの風に吹かれて、夢中でバイクに走ったね。と言いたいところだったが、遊旗くんは優しさの風を感じはしてもバイクに走りはしなかった。
「だ、だけど、それでも! 俺には強いカードが必要なんだ!」
「知らん。興味がない。なんで強いカードが必要なんだ?」
「そ、それは、復讐のためだ! 俺には倒さなきゃならない相手がいる」
「くだらん。最低の理由だ。聞いて損した。帰りまーす!」
「ちょ、ちょっと待って! じゃあアンティとか無しでもいいから! ユニバースカードってやつがもう一回見たいんだ!」
「そ、そう言われると、弱いなぁ〜」
「あんなの見たことないぜ! かっこいい! もう最高〜!」
「……ほんとか?ほんとでござるかぁ?」
「見たい見たい!」
「よし、いいだろう!」
い、いいんだ……?とボクは思わざるをえなかった。ふたりが向かい合い、決闘盤を構えたその時。
「うわぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
人が、なんか坂の上の方から転がって来た。ボクの後ろにドシャリと落ちる。その物体は控えめに言ってボロボロだった。ボクは慎重に言葉を選びつつ、心配の念を示す。聖天の家のものは人が転げ落ちて来た時は大体そうするのがしきたりなのだ。
「えっと、生きてます?」
「ほげぇぇぇっっ!! はぁー、酷い目にあった! 俺じゃなかったら威厳が保てなかった局面だな!」
「今でも保ててませんよ。ケガはないですか?」
「ない、いや、ひょっとして足を捻ったかもだ」
「へー。なにかのスポーツ中だったんですか?最近暑いから気をつけてください」
「ありがとう。君は優しいな」
なかなかの距離を転がって来たのだろう。その彼は汚れていた。だから正直触りたくなかったのでボクは彼から一定の距離を保ってこれらの対応を行った。可愛い子には旅をさせろ、という言葉もある。他人を助けるとはただ優しくすればいいというものではないのだ。時には厳格にあらねばなるまいと、ボクは考える。
やがて、汚れは立ち上がり、遊黒くんの方を見やる。
「おっと、デュエルが始まるようだな。せっかくだ、観戦させてもらおうか」
「病院とかに行かなくて大丈夫ですか?ひどい有り様ですよ。ひどい有り様という表現が合ってればですけど」
「ふ、常人ならばひどい有り様かもだが、この俺様だからな。汚れた姿もワイルドだろぉ?」
彼はマグロみたいな顔だった。つまりイキが良いということだが。特に今の彼は穫れたてのマグロだった。新鮮ピチピチのムッチムチだ。汚れに目をつぶってやれば、食卓を彩る魚の王者の威厳に満ち満ちた姿だった。
そして、ここでボクは気づく。
「あ、もしかしてあなたは天新海!?」
「そうよ俺は天新海」
「わぁー! ボクあなたのファンなんです!」
「ほんとか!? ふふふ、俺も人気が出てきたなぁ!」
「あれ?でもなんで遊黒くんと敵対しているあなたがここに?」
そうだ。遊黒くんは先日、このマグロが経営する施設を崩壊させた。そこは賭けデュエルの敗者たちを強制労働させている、控えめに言ってクソ施設だったわけなのだが、マグロにとっては大事な施設のはず。それを崩壊させた遊黒くんはマグロにとってめちゃくちゃ憎い敵なはずなのだ。なのになぜ。
「ヤツを我が社に迎え入れようと思ってな。ヤツの力は素晴らしい。我が社で使われるべきものだ」
「うーん、その手の話が通用するかなー。ちなみにどんな条件を持ちかけるつもりで?」
「この俺様の元で働けるのだ。これ以上と無い名誉、条件など無用」
「ちょっと待ったー!」
「うん?」
ボクはここで待ったをかける。ここで会ったのも運命、彼の過ちを正してあげたい! そんな純粋な天使が、今! ボクの心に舞い降りる!
「ちょっと、言い方が良くないんじゃないかと思うんです」
「言い方だと?」
「はい。こう、ボクたちの仲間になろうよ!とか、アットホームな職場で一緒に働こう!とか」
「いやぁ、それはそれでうさんくさくないですか?ほら、俺の会社けっこう大企業だし、ちょっと強気な感じの方が良いかなーって」
「たしかに、下手に出過ぎるのも良くない。でも、俺様の元で働けるなんて嬉しいだろ?なんてスタンスは、はっきり言って古ーい!」
「がーん! 今の求人票とCMこのスタンスだけど!」
「全然ダメですね。最近どうです?新規採用の方は」
「ど、どうなんだシルバー!?」
マグロが決死の形相で振り返った先には、いつの間にか可憐な少女が舞い降りていた。銀色の髪の美しい少女だ。うーん、可憐! あ、可憐はさっきも言ったんだった。
ボクが美しさの表現に悩んでいるのをよそに、シルバーちゃんは地獄のお便りをマグロにお届けする。
「はい、ぶっちゃけ誰も来ねーです。CM評判悪すぎです。就職したら就職先が終わったビングしていたの巻〜!」
「そんなバカなぁ!? ど、どど、どうすればいいんだ!?」
「ふふふ!」
「そ、その不敵な笑みは!?」
不敵な笑みingなのは無論ボクである。ボクの灰色の脳みその中にはシャーロックホームズもビックリの作戦があるのだ。あ、いや、少し言いすぎだったか。終遊黒もビックリ!ぐらいの方が差し障りがないか。うーん、でもそれじゃあスゴいんだかスゴくないんだか分からないからなぁ。
「なんだ!?考えがあるなら早くプリーズ!」
「ふふ、ありますよ。すんごい名案がねっ!」
「でかした! で、その内容は?」
「タダじゃ教えられませんね〜。どうです?ボクをスペシャルアドバイザーとして雇ってみるのは?あらゆる悩み事の解決をお約束しますよ。もちろん、報酬は成果に応じてで良いですし、気に入らなければすぐ解雇しても結構」
「よし採用!」
「やったー!」
「え、マジですか」
呆然するシルバーをよそに、ボクとマグロは固い握手を交わす。これが後に伝説となる、そう、あの瞬間である!
「とはいえだ。何の試験も受けずに入社というのは許されない。なぜなら俺は社長だから」
「当然ですね。明日、入社試験があるはずですが」
「ふふふ、さすがに調べが早い。いいだろう、俺の権限で許してやる。明日の入社試験への飛び入り参加をなぁ!」
「やったー!」
うーん、今日はミラクルが多いなぁ。ボクの人徳かな。シルバーちゃんはすごくアタフタしていた。話が急すぎたからだろう。世界はすごい速さで回っていく。乗るしか無い、このスピードに……!
「し、新海様……ほんとに良いんですか?」
「俺が良いと言えばそれは良いのだ。明日の試験の説明、お前がこの着物にしてやれ」
「か、かしこま!」
シルバーちゃんがボクの元へ駆け寄ってくる。すごい良い匂いだ。アメリカンドリームって感じだ。アメリカンドリームという表現で正しければだが。
「ヤッホー! ボクの名前は聖天斬だよ」
「ホッホー! 私はシルバー。本名は白銀遊傑(しろがね ゆうけつ)、よろしくね!」
「こちらこそよろしく」
「わー、着物すごい綺麗! 近くで見ていいですかー?」
「もちろんだとも。君の服もすごい綺麗だね。でも暑くないの?」
「リバースコーポレーション製を舐めてはいけません! 見て下さい、この通気性!」
「お、おぉ!?」
「生地も、ほ〜ら!」
「ほ、ほえ〜!」
「ほ〜ら、ほ〜らほ〜ら!」
「わぁー、すごい! もっと見せて!」
「良いですとも! ほ〜らほら」
「うぉぉぉぉ! もっと見たい!」
「いや、よそでやれやぁぁぁぁっ!!」
「外野が騒がしいけど気にしない挫けない諦めない! そんな終遊黒の第1ターンは、モンスターを裏守備表示、さらに伏せカードを出しターン終了!」
「へ、それだけかよ。さっきのデュエルでのすげー攻撃はどうしたぁ!?」
「とんだ初心者チストだな。先攻1ターン目は攻撃できない」
「それもそうか。俺は『ミスティック・ソードマン LV2』を召喚!」
おっと、見逃しちゃあいけない。自然な流れで始まった、終遊黒と金色遊旗の世紀の決戦! デュエル初心者の遊黒くんと、発展途上臭プンプンの遊旗くん。成長中の若者たちの熱い闘い、うーん、これはすごいデュエルになりそうだなぁ。
「行くぜ、ソードマンの攻撃! こいつは裏守備モンスターを攻撃した時」
「攻撃対象をダメージ計算を行わず破壊する。ふ、良いモンスターを持っていたものだな」
「し、知ってたのか。なら砕け散れ!」
小さな剣士の剣が守備モンスターに突き刺さる。ミスティックソードマンにかかればリバース効果が発動する前に相手を破壊できる。これは強い。しかし遊旗くんは気づいていない。
「あいにくだが」
その剣が届いたビジョンが幻、いや、遊黒くん風に言えば、儚い夢だということを。
ガラスのようにビジョンは砕け、本当の今が現れる。剣が届く寸前、剣士が踏み込んだ所で。
──カチっ──
なんか色々察せられる嫌な音が響き。
「『万能地雷グレイモヤ』!!」
剣士がぶっ飛ばされる。その様は花火のようだった。そういえば今年は花火してないなぁ。今からでもしちゃおうかしら。どうせならあの、ドカンと打ち上げるタイプのやつがいいな〜。うーん、でもあれは怖いからなぁ
「な、なにー!? 俺のソードマンがぁ!?」
「惜しかったな。罠は常に警戒することだ」
遊黒くんのドヤ顔にイラッと来たが、遊旗くんが少しうかつだったのは事実。次のターン、遊黒くんの攻撃を凌げるか……ん、新海くん?あぁ、なんか自分で作ったソリッドビジョンの出来の良さに感涙してるよ。
「ち、カードを1枚伏せてエンド」
「『スケルエンジェル』反転召喚。その能力によりドロー。さらに『朽ち果てた武将』召喚!」
スケルエンジェルはリバース効果で1枚ドローできる。ソードマンの効果で破壊されるとこの効果が使えなくなってしまうので、それを回避するためにグレイモヤを使ったというわけだ。
さて、遊黒くんは3体のモンスターでダイレクトアタックをしかけ、おっと、説明が欠けるところだったね。朽ち果てた武将には特殊能力があって、自分を召喚した時に手札から『ゾンビタイガー』を特殊召喚することができるんだ。遊黒くんはその効果でゾンビタイガーを出し、3体のモンスターを揃えた。攻撃力は、武将が1000、ゾンビタイガーが1400、エンジェルが900。
「ち、賑や蟹しやがって……!」
「速攻で片付けられるのはお前のようだな。行け!」
エンジェルと武将の攻撃が通る。そしてそこで、遊旗くんの足下から腕がニョキっと出て。
「え、なに?」
「武将の効果発動。貴様の手札を破壊!」
腕が、遊旗くんの手札から1枚奪い取り、墓場に送ってしまう。そう、これこそが武将の特殊能力。直接攻撃をダメージを与えると手札1枚を墓地送りにしてしまう。破壊するカードはランダムで選ばれるが。
「あ、俺の『団結の力』がぁ! うぅ、この前ボーナスで買ったばっかなのに〜!」
「俺は運が良いぞぉ! だが嘆いてる暇はない、ゾンビタイガーの攻撃!」
「く、これ以上はやべぇ! 『ガード・ブロック』だっ!」
「なに?」
ガードブロックは戦闘ダメージを無効にし、カード1枚をドローできる。なるほど、攻撃力が一番高いゾンビタイガーからのダメージを防ごうと思って温存してたわけだ。でも、う〜ん。
「……手札破壊が嫌なら、武将の攻撃の時に使えばよかったんじゃないか?」
「そうですね。ゾンビタイガーと攻撃力400しか違わないですし」
「たしかに。もしや何か狙いが?」
しかしボクの予想に反して遊旗くんから告げられたのは、衝撃の真実。
「ぶ、武将の効果を知らなくて……う〜! ミスったーっ!」
「ズコー!!」
ボクとシルバーちゃんと新海くんはずっこける。
遊旗くんはジタバタしている。遊黒くんは言葉を探しているようだったが、結局見つからず黙っていた。彼は人と話すのがあんまり得意じゃないからなぁ。つーかぶっちゃけ下手。
「おい、お前なんか今恥ずかしいこと言わなかったか!?」
「言ってないよ♡」
「オェッ!! ♡つけんな気持ち悪い!!」
「さて、これで遊黒くんのターンは終わり。遊旗くんの番だね」
「勝手に終わらせるな! いや、まぁ終わりだけど」
「よし、俺のターンだ! モンスターとカード1枚を伏せてエンド!」
「……」
意外にも遊旗くんのターンは静かに終わった。伏せカード1枚と裏守備モンスター1体。その正体は推理しようがなく、遊黒くんのモンスターの攻撃力はかなり低い。であれば。
「ゾンビタイガーの効果。自信を武将に装備し守備力を2000に上げる。さらに武将が破壊される時、ゾンビタイガーを身代わりにすることができる」
「守りを固めたか。ってことは」
「モンスターを全て守備表示に。カードを1枚伏せて終了」
こうなる。遊黒くんはけっこう慎重派だからね。だけど。
「俺のターン。ここで伏せていたモンスターを反転召喚」
「その正体とは……」
「こいつだ! 『ミスティック・ソードマン LV4』!!」
現れたのは、攻撃力1900守備力1600の屈強な戦士。守備力1600だから遊黒くんのモンスターたちでは勝てなかった。結果的には遊黒くんが攻撃しなかったのは正しかったわけだ。あれ、でもなんであんな攻撃力の高いモンスターをわざわざ一回守備表示で出したんだ?
「こいつは通常召喚する場合は裏守備でしか出せないという制約があるからな。だがその代わり、星4の中じゃ最高級のステータスを持ち、しかもバトルで相手を倒せばターンの終わりにレベルアップできる!」
「なるほど。ふ、なら攻撃してみるがいい」
「……ムムム!」
イケイケドンドンだった遊旗ボーイの勢いが止まる。最初の攻撃で罠を警戒せず、ライフを半分まで削られた、その体験が勇気を削ぐ。遊旗だけに。遊黒くんの場には前のターンで伏せたカードがある。正体は未知数。それに雰囲気的に遊旗くんの手札には新たな壁モンスターも無さそうだ。もしあの伏せカードがまたグレイモヤだったりしたら、次のターン遊旗くんを守るモンスターはなくなり……。
「……ダメだ、攻撃できない……。 ターンエンド」
「俺のターン」
遊黒くんのターン。メインフェイズ、彼は笑い、リバースカードを開く。
「『強欲な瓶』。カードを1枚ドローする」
「な!? モンスター除去カードじゃない!?」
「あぁ。お前をビビらせるためのブラフだ」
これが遊黒くんの闘い方だ。慎重に相手の手持ちのカードを見極め、待ちに待ったところで切り札をきる。それがカードの強さを最も引き出せるやり方だと思っているんだ。今の攻防で遊黒くんは遊旗くんの手札を見極めたつもりになっている。となれば。
「ゾンビタイガーの効果。このカードを特殊召喚。そして、エンジェルと武将をリリース! アドバンス召喚!」
「7星以上の上級モンスター、まさか!?」
「そのまさかだ。来い」
召喚されるのは、もちろんあのカードだ。可能性を宿し紅き眼、遊黒くんのデッキの主力。月に、海に、痛み、何より、あぁ、あなたに会いたい。的な感じで。
「『真紅眼の黒竜』!!」
美しき黒いドラゴン、華麗に降臨だ。クールな遊黒くんも思わず笑顔。
「イヤッホォォォッ! アイムソーハッピー!」
「……攻撃力2400……最強クラスのドラゴン!」
「レッドアイズの攻撃でソードマンを倒し、ゾンビタイガーのダイレクトアタック。それでお前のライフは尽きる。終わりだ」
「ぐ、ぐぅ〜! そ、そこをなんとか!」
「そんなこと言われたって止めてやるものか! レッドアイズの攻撃!」
細身の美しい竜のアギトが開かれ、紅蓮の炎が渦を巻く。そう、それはデュエルを決着させる終局にして究極の一撃。
「遊黒ファイヤーっ!!」
「ダ、ダセー!!」
ボクは思わず叫んでしまった。ボクのかっこいい描写を返せ!って感じだ。これは抗議も辞さない。
まぁそれはさておき、気になるのは遊旗くんの場の伏せカードだ。あのカードは冷静に考えて正体不明。そんな時にレッドアイズなんて大型モンスターを出しちゃって大丈夫なのかなー、ってわけで。
おっと、遊旗くんが不敵に笑い出した。これはどうやら。
「……ふっ!」
「うん?」
「かかったな?行くぜ、トラップ発動!」
「こ、この悪寒、まさか!?」
「そのまさかだ。喰らえっ!」
レッドアイズは空を飛んでいたんだ。だのに、突然地面がカチッとなって、そしたら、うん、お察しである。
「『万能地雷グレイモヤ』っ!!」
爆・散である。レッドアイズのその眼が何か言いたそうだった。よし、今度良い弁護士さんを紹介してあげよう、そう思い、斬は涙を拭くのだった。べ、別に泣いてなんかないんだからね!
あ、遊旗くんが遊黒くんのモノマネを始めた。
「惜しかったな。罠には気をつけることだ。……ぷっ! 」
「おぉー似てるー! 遊黒くんの恥ずかしい台詞超似てるー!」
「だろだろー!」
「……ムカつきすぎて叫びてぇぇっ!! うぉぉぉっ!!」
遊黒くんは全力トーンで叫ぶ。
「オッパァァァァァィッ!!!」
何言ってんだこいつ。その場にいた誰もがそう思ったところで、次回へ続くのであった。