SAOの世界に降り立ち設定などを自分に合ったものに調整している時、それは起こった。
ゴーン・・・ゴーン・・・ゴーン・・・
鐘の音が響いた直後、視界が光に包まれていき、光が収まるとそこは始まりの街だった。
直後、空は赤い警告ウィンドウで埋め尽くされ、強制的に集められたプレイヤーたちの中央上空にフードを被った男の姿が謎の粘液のようなもので形作られてこう言った。
「プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ。
私は茅場昌彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の存在だ。
プレイヤーの諸君は既に、メインメニューからログアウトボタンが消失していることに気付いているだろう。しかし、これは不具合ではない。繰り返す、これは不具合などではなくソードアート・オンライン本来の仕様である。
諸君らは今後自発的にログアウトすることはできない。また、外部の人間からの強制ログアウトなどもありえない。
もし、それが試みられた場合――――――――諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される。
誠に残念なことに、警告を無視したプレイヤーの家族、友人がナーヴギアの解除を試みようとした例が少なからずあり、その結果、213人のプレイヤーが現実世界から永久退場している。
しかし、十分に留意してもらいたい。今後、このゲームにおける一切の蘇生手段は機能しない。HPが0になった瞬間、諸君らのアバターは永久に消滅し、同時に諸君らの脳はナーヴギアによって破壊される。
諸君らが解放される条件はただ一つ。このゲームをクリアすればよい。諸君らが、現在いるのはアインクラッド最下層。そこから、その層の迷宮区を攻略し、最上階にいるボスを倒せば次の層が解放される。それを繰り返し、アインクラッド第百層にいるボスを倒せば、ゲームクリアである。
では、最後に一つ。諸君らのストレージに私からのプレゼントを入れておいた。確認してくれたまえ。」
茅場がプレゼントという物を使用する前に、事前にストレージに入っていたローブをしっかりと深く装備し、先ほどまでなかった手鏡を使用すると再び光に包まれた。
その光はすぐに収まり、周りに見えないように鏡を覗くとそこには・・・
「諸君らは今、何故と思っているだろう。何故、ソードアート・オンライン及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんな事をしたのか、と。私の目的は既に達せられている。この世界を創り、干渉する為にのみ私はソードアート・オンラインを作った。そして今、私の目的は達成せしめられた。・・・以上で、ソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君、健闘を祈――――――――」
茅場が最後のセリフを言い終える前に、茅場に向かって俺は暗器を投げつけた。
しかし、その暗器は茅場をすり抜け、遠くへ飛んでいくだけだった。
(ホログラム・・・とは違うか。だが、奴の言っていたことは事実だ。実際俺の横にいた男がポリゴン片となって消えていったんだ、受け止めるしかないだろ。とりあえず奴が言ったことをまとめておこう)
死亡条件
・HP0になった瞬間
・外部(現実)からの強制ログアウト
クリア条件
・第100層クリア
まとめてしまえば簡単だった。要は死ぬな、生きろだ。
だがクリア条件が厳しすぎる。
βテストの時はせいぜい10層が限界だったと聞いている。現状じゃ無理ゲーすぎる、たとえβテスターだとしてもノーコンクリアまで何日、いや何年掛かるか分かったものではない。
(一先ずここを離れよう。全員に暗器での攻撃は見られてる、身を落ち着ける場所を探さないと・・・?)
そう思い行動に移そうと思っていたが、何故か体が、主に足が動かない。
原因を見るために視線を落とすとそこには3歳くらい年下であろう女の子が足にしがみついていた。
おそらく無意識だろう、絶望と恐怖から何かにしがみついているのが精一杯だということが顔を伝う涙でわかる。そうならないほうがおかしい。
俺は女の子が捕まっていない膝を折り、安心させるために抱きしめながら、この後の行動を言うことにした。
「俺はこの後寝床の確保と情報屋を探しに行く。一緒に行くなら立て。お前が落ち着くまでそばにいてやる」
その言葉を聞いて、彼女は顔を上げた。
おそらくこちらの顔は見えていないだろう。だが彼女は少し安堵したような顔で告げた。
「ありがとうございます・・・」
彼女を支えつつ予定していた宿代わりの農家に足を進め、なんとか他のプレイヤーに取られる前に寝床を確保した。
彼女が少しでも気持ちを落ち着かせることができればと思い、風呂に入ってくるように言い俺は部屋に待機しつつ自分のステータスをちゃんと確認していなかったことを思い出したため確認することにした。
――――・――――・――――・――――・――――・――――
Ryuu
レベル:10
称号:βテスター、囚われし者、神に抗う者(神殺しに近い称号)
スキル:なし
主武器:刀
副武器:暗器
防具:ローブ
――――・――――・――――・――――・――――・――――
(今重要なのはこんな感じか・・・神に抗う者ってさっきの茅場に対する攻撃で経験値と一緒に手に入ったのか、ていうか神扱いかよ・・・スキルの無効がよくわからんが――――)
スキルの部分を確認していると、“なし”ではなく“なし(無効)”となっていた。
試しに気配察知スキルを
もう1つ試しに有効化してみようと思い、体術スキルを選択すると有効化できてしまった。
この時俺は理解した。これが女神が言っていたチート能力なんだと。
噂でしか聞いたことがなくて確認できないが、体術スキルの習得にはクエストをクリアしないといけない。それにも関わらず俺は有効化できた、おそらく全てのスキルがこうなっているんだろう。チートである、チーターの誕生である。
しかも、有効化したとたんにスキルはマスター表記になっていた。
(たしかに楽に攻略は可能にはなったが、使い方、使うタイミングを間違えないようにして隠さないといけないんだろうなぁ・・・)
「あ、あの!!お風呂ありがとうございました・・・」
「ん?あ、出た?どうだ、少しは気持ちも落ち着・・・くわけないか。でも少しは気分晴れただろ」
「・・・はい。あの、私シリカって言います」
「俺はリュウ、よろしくなシリカ」
「はい、よろしくお願いしますリュウさん。・・・その、リュウさんはこれからどうするんですか?」
どうするか、それを聞くってことは落ち着いてきたとはいえ、きっと不安なんだろう・・・だから俺の予定を聞いて、それに合わせていきたいんだろう。だが俺の予定は少しの間は決まっている。それを聞いたらシリカはまた1人になることへ不安を覚えるだろう。そうわかっていても、俺はしっかりとシリカの目を見ながらこれからのことを伝えていった。
「そうだな・・・俺はたぶん攻略組と一緒にクリアを目指そうかなぁって思ってる。まだ決定ではないけど遅れてでも最前線には行こうかとは思ってるよ」
「そうなんですか・・・怖くないんですか?」
「いや怖いよ、行かなくていいなら行かない、行きたくないかな。はじまりの街で簡単なクエストを受けて、誰かが攻略してくれるのを待ち続ける。でもそうも言ってられないんだ」
「どうしてですか、嫌なら行かなくても・・・」
「SAOのβテストでの最高クリア階層が10層までなんだ。1人でも多く協力し合わないと100層クリアなんてできない。だから1日だけでもβテストに参加した俺はフィールドに出ようと考えてるよ」
「・・・リュウさんは強いですね、私はさっきリュウさんに声を掛けてもらってなかったら今も広場で泣いてると思います・・・」
「強くなんてないよ、今だって恐怖に押しつぶされそうだから。もし平気そうに見えるならそれはシリカの前だからかな。女の子の前で情けない姿なんて見せられないから」
そう言いながらシリカの頭をやさしく少しでも落ち着ければと撫でてやっていると、部屋の外から扉をココンコンコンと叩く音が聞こえてきた。ここにいることは誰にも教えていなかったはずだ。
(話す暇もなくシリカを連れて避難してきたんだけどな)
そう思いながら扉を開けると、そこには顔に3本線の髭を描いた女の子?がいた。
「おいおいオレっちの顔を忘れたって言わないよナ、リー坊?」
「忘れてねぇよ、ただお前が女か男かわかんなくなっただけだ、アルゴ」
「本当カ?」
まぁいいカ・・・と若干呆れているアルゴを部屋に招き入れた。
アルゴがわざわざ直接来るってことはよっぽどのことがあったか、あるいは・・・冷やかしか。
「安心しろ、リー坊。最初は冷やかしのつもりだったが、今は純粋に心配してきてんだよ。お前のことも、そこの女の子のこともナ」
「別に何も疑ってねぇよ、冷やかしに来ただけなら叩き出したけどな」
「にゃハハハ、そう言いながら水を出して歓迎してくれるリー坊のこと、オレっちは好きだゾ?」
「ありがとよ。で、本当は情報収集にでも来たのか?」
「いや本当に心配してきたんだよ。リー坊、前線に行くつもりなんだろ。その子はどうするんだヨ」
「すぐには行かない。シリカにある程度の戦闘と護身術を教えてからになるはずだ」
「・・・そうか、安心したよ。オレっちは大量にポーションを買ってから、もう戻ってくるつもりはないんじゃないかって思ってたよ。その子を連れていくリー坊の顔がそんな顔に見えてナ・・・」
そう言うアルゴは心から安心しているようだった。
街にある宿や宿代わりになる場所の情報は俺がβテスト時にアルゴに提供している。
その時の寝床もここだったためここに来て俺を見て、俺の口から聞いて安心したんだろう。
「シリカ、こいつはアルゴ。情報屋で売ってくれる情報はほとんどが確かなものだ、売るときはしっかり金を取ってくるけどな」
「シリカといいます、よろしくお願いしますアルゴさん」
「おう、よろしくなシーちゃん」
「で、アルゴがここに来たのは俺たちの心配をしてきただけなのか?」
「いやリー坊にお客さんだ。早急に会いたいって言われてな、入れていいカ?」
「ああ、大丈夫だ」
入っていいゾ、とアルゴが扉の外に声を掛けに行くと、外から2人入ってきた。
1人は黒髪で年が近そうな少年とフードを深く被った人だった。
「悪いな、リュウ。押しかけるような真似をして」
「アルゴが連れてきたのってキリトだったのか、でそっちは?」
「実はお前に会いたいって言ったのはこいつなんだよ。俺がお前の情報を貰おうとアルゴと話してたら、なんでもお前が知り合いに似ているかもしれないから会ってみたいってな」
そういうことだったのか。アルゴはいくらキリトの連れとはいえリアルの知り合いかもしれないという理由では簡単に情報は売らない。つまり俺の特徴と合致するところがあったということだろう。
「それで俺はお前が探していた知り合いなのか?」
「・・・・・・」
「おいアスナ、どうなんだ?」
「え・・・」
「どうした、リー坊?」
「いや、なんでもない。ただ幼馴染の名前に似てただけだ」
「・・・リュウくん!!」
「「え?」」
その声に俺とキリトが反応して声の方を見ると、それと同時に俺はフードを深く被っていた長い栗色の髪の女の子に抱き着かれていた。
その髪と色を見た瞬間に俺には嫌な予感が頭を駆け巡った。でもまだ他の知り合いなのかもしれないと自分を誤魔化していると抱き着いてきた子がそっと頭を上げて顔を見せてきた。
そして、俺の目に映ったのは紛れもなく小さい頃からずっと一緒にいる結城明日奈本人だった。
「・・・リュウ、くん・・・」
「アスナ、なんで・・・なんでアスナがここに・・・」
「それはこっちが聞きたいよ!なんで、なんでリュウくんがここにいるの!?だってリュウくんは・・・」
俺とアスナがお互いが何故ここSAOにいるのかわからなくて混乱している中、当然のことだがもっと混乱している奴らが部屋にはいた。
「え?え?」
「お、おい、リュウ?何がどうなってるんだ?」
「オレっちもそれが気になってしょうがないぞ。シーちゃんだって混乱してるしナ」
「わ、悪い俺も頭が追い付いてないんだ。とりあえず整理したいからアスナは離れてくれ」
「あ・・・う、うん・・・」
俺とアスナとシリカがベッドに座り、キリトとアルゴが部屋に置いてある椅子に座ったのを確認して状況の整理が始まった。